「まったく、ただの買い出しなんだからエマがついてこなくてもよかったのに…」
「そんなこと言って、果林ちゃんが新しい服にチェック入れてるの知らないとでも思った?」
エマは果林の部屋にあった雑誌にチェックが入っていることは知っていた。果林がチェックを入れたのは昨日で、今朝エマが迎えに来てほんの一瞬部屋に入れただけだったのに知られていた。
「本当によく見てるわね…」
「デートに着るお洋服かな?」
「そ、そんなのじゃないわよ…」
果林が照れているのを見るとそうなんだろうとエマは思い、にっこりと笑った。
二人は服を見に行き、しばらくショッピングを楽しんでから昼食に向かった。向かった先で愛、璃奈、かすみの三人に遭遇し、さらにせつ菜と瑠和が同じ店の中で楽しそうに食事をしている姿を見てしまった。
エマは果林を連れていったん店を離れた。二人は近くの広場にたどり着き、ベンチに座る。
「大丈夫?果林ちゃん」
「…………そうよね…あんなに優しい人だもの、私以外が好きになる可能性なんていくらでも……………やっぱり私に恋愛なんて似合わなかったのね」
「…まだ、間に合うかもしれないよ!果林ちゃん!」
「でも…」
「簡単にあきらめていいの!?」
「…だけど、せつ菜にも悪いかもしれないし」
部室で気まずいのはノーサンキューだといった手前、自身がその原因になるのは避けたいと思っていた。
「大丈夫。決めるのは瑠和君だよ」
エマは案外まっすぐな性格だ。障害があったときそれを体当たりで突き破っていくイメージである。そしてせつ菜と瑠和が別れたタイミングで瑠和は夕飯をどうしようかを悩んでいる瑠和の前に果林は偶然を装い現れたのだ。
「あら、ぐ、偶然ね」
「果林さんも買い物ですか?」
「え、ええ。あなたが作ってくれたごはんがおいしかったから。たまには自炊してみようと思って」
適当な理由だったが急場しのぎにしてはいい言い訳だと果林は思った。
「そうだったんですか………あ、何ならウチ来ますか?璃奈以外はいませんし」
「え」
予想外の提案に果林は顔を赤くして硬直する。この間瑠和が好きなんだということを理解した果林はただでさせ瑠和の存在を意識してしまうのにいきなりこんなイベントが舞い込んでくるとは思ってなかったのだ。
「果林さん?」
「え!ええ!!ぜ、ぜひ………お願いします…」
目がぐるぐると回りそうなくらいの衝撃と照れで普段とは違ったキャラになってしまっている。それを見た瑠和は少し驚く。
「どうしました?顔が赤い気がしますが」
果林が体調不良なのではないかと確認しようとした瑠和が近づく。それに気づいた果林は一気に後退して距離を取る。
「な、何でもないわ!それより!お夕飯!ご馳走になるんだから何か手伝うわよ!?」
「いえ、別にいいですよ。自分のを作るついでですし。あ、でも璃奈に聞いてみないと」
瑠和はスマホを使って璃奈に電話を掛ける。そして遠くで見張っていた璃奈に電話がかかる。璃奈は慌てて商品棚に隠れて電話を取った。そして璃奈の周りにはいつの間にか愛とかすみがいた。璃奈はこの状況を見て大慌てで二人を招集したのだ。
愛はスマホのメモに「スピーカーにして」と書いて璃奈にみせる。璃奈は言われた通りスピーカーモードにして瑠和の声を聞こえるようにする。
『も、もしもし?』
「ああ、璃奈。急に悪いな今大丈夫か?」
『う、うん』
「今日の夕飯に果林さんを誘おうと思ってるんだが、璃奈はいいか?」
『…………………なんで?』
少し間があってから璃奈が口を開くその言葉は疑問だった。
(そうか………考えてみりゃ果林さんの家で色々やってたのは璃奈には話してなかったな………今なら話しても問題はない気がするが電話口じゃちょいと長いな………)
「まぁいろいろあってな。以前成り行きで果林さんに手料理作ったことがあって。その延長みたいなものかな」
愛はそれを聞いた後、何かかすみと相談し、すぐに璃奈にスマホの画面を見せる。そこには「今日帰り遅くなっても大丈夫?」と書かれている。璃奈は小さく頷く。
「璃奈?」
『あ、じ、実は今日帰りが遅くなりそうで………だから、果林さんと先に食べちゃって大丈夫だよ』
「そうか………あんまり遅くなるなよ?気を付けてな」
『うん』
「果林さん。どうやら今日璃奈が帰り遅いみたいで。二人っきりですけど大丈夫ですか?」
「え」
再び果林が停止する。
(晩御飯に誘われただけでも想定外なのに…………ふ、二人っきり!?)
「ごごごごめんなさい………ちょっとお手洗いに…」
「え、はい……」
果林はそそくさとその場を離れ、近くで観察していたエマに泣きつく。
「どうしましょうエマぁ~お夕飯に誘われたし………今日璃奈ちゃんが遅くなるって………」
「チャンスだよ!果林ちゃん!」
「そ、そんなこといわれたって…」
「こんなチャンス滅多に来ないよ!continuate così!!困ったことがあったら連絡して!」
「エマぁ~!」
しばらく経って果林は覚悟を決める。すでにせつ菜と瑠和が付き合っていたとして、それを確認するためにも今回は都合がいい。
「待たせたわね」
覚悟を決めた果林が戻ってきた。
「ああ、果林さん。じゃあ買い物再開しますか。今日の夕飯、リクエストとかあります?」
「そうね…じゃあ…」
そしてそんな様子を影から見ていた愛たちは予想外の展開にワクワクしていた。
「りなりー、さっきの盗聴機まだ使える!?」
璃奈は無言で親指をたてる。
「じゃあ追跡続行ってことで…」
面白くなってきたと愛はワクワクしていた。なにせあの果林が出てきたのだ。仮に瑠和に好意を持っていたとしたらその馴れ初めがかなり気になるところだ。
二人は買い物を済ませ、瑠和の家に入っていった。夕食はヘルシー志向でサラダとイタリアンな味付けの鶏肉の炒め物となった。
「ちゃちゃっと作るんで、適当にくつろいでいてください」
「いいえ、手伝うわ。自炊のために行ったんだし」
「それもそうですね…」
あまり料理に自信はないが手伝うくらいなら大きなミスはしない。意外な形で好きな人の部屋に入れてもらって嬉しいは嬉しいのだが複雑な気持ちでもある。それに、昼にみたせつ菜と瑠和のあの状況は何だったのか。それが気になり、今の状況を楽しむ余裕もない。
「よし、完成!」
二人で作ったのでそこまで時間はかからずに完成した。
「璃奈の分は取りおいて………よし、食べましょう」
「ええ………」
少し談笑を交えながら二人は夕食を楽しんだ。
「相変わらず料理がうまいわね」
「ありがとうございます。大した腕ではないと思いますが、喜んでいただけて何よりです」
「………こんなにおいしい料理作れるなら、彼女とかも簡単に作れたりするのかしら?」
思い切って果林は遠回しにだが尋ねてみた。
「彼女………いませんよ中学の時はいましたけど、卒業と同時に別れました」
「………いまは………………作ろうとは、思わないの?」
好きな人といわれると瑠和の脳裏にある人物がよぎる。この気持ちは恋なのか、憧れなのか瑠和はわからなかった。
「…ええ、別に」
「…」
果林は箸を一旦おいて瑠和を真っ直ぐ見た。瑠和もそれに気づき、どうしたんだろうと思う。
「だったら………………………」
そこで少し言葉が止まる。果林は一度深呼吸をして覚悟を決める。
「私にもチャンスがあるってことでいいのかしら」
「…」
瑠和は手が止まった。瑠和はその特技から果林の目は本気なのがよくわかった。冗談を言ったり茶化すときの態度ではない。
どう返したらいいのかわからない。言葉が選べない。瑠和は必死に考える。
「あの…えっと…」
「…ごめんなさい。変なこと言ったわね」
そういうと果林は再び箸を取り、残っていた食事をすべて平らげて席を立つ。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
「……………お粗末様です」
果林は流しに使った食器を片付け、鞄を持った。
「いまの話は………忘れてちょうだい?ちょっとどうかしていたみたい。ありがとうね」
「…」
瑠和は結局なにも言えなかった。
そして、それを聞いていたゲス軍団。
「………」
璃奈は盗聴器の音声を二人に共有してたが三人とも言葉を失っていた。瑠和の色恋沙汰を追っていたはずが意外な目的地に到達したからだ。正直果林がそういったことに興味を持つ性格とは思っていなかったからだ。
「どうします…?コレ…」
「ちょっと想定外過ぎかなぁ………カリン、あんまり乗り気じゃなかったのはこれが理由かぁ…」
愛はすべてを察した。果林が瑠和の恋について乗り気じゃなかったのは果林自身が瑠和に好意を寄せていたからだということ。そしてさっき瑠和とせつ菜が一緒にいた場面を見たことでこの行動に移ったこと。
「今回るなりんの反応見るためにハッパかけたけど、しばらくは様子見だねぇ。るなりんも返事しなかったことだし、もしるなりんもカリンが好きならそれで終わり、そうじゃないなら…ま、ともかく今日は解散にしよっか」
「そうですね…」
もやもやが残る結果となったが結局今後は様子見、今日のところは解散となった。
ー翌日ー
瑠和は昼休み、校内の芝生に寝っころがっていた。昨日の出来事を考え続けほとんど眠れてなかった。果林は忘れてくれと言ったが忘れられる訳がない。果林が自分に好意を抱いているなんて予想外過ぎた。自分自身果林が好きなのかと聞かれたらはっきり答えられないこともあり、昨日は何も言えなかった。
「はぁ…」
「大丈夫?」
瑠和の視界にエマが入った。瑠和はせつ菜を探していた時を思い出していた。以前も悩んでいるときにエマが相談に乗ってくれたのだ。
「エマさん…」
「疲れてそうだね」
エマは瑠和のとなりに座り込む。
「昨日少し眠れずにいまして…」
「どうしたの?」
「ちょっと悩みがありましてね…」
「悩み?」
「…まぁ詳細言うのは憚られるので相談できないのが残念ですが」
「そっか…じゃあ…」
エマは正座に座り直し、自身の膝をぽんぽんと叩く。
「せめて少し寝たら?膝枕、貸してあげるよ?」
「…いや、同好会の女子ならともかく男の俺が…」
「大丈夫だよ♪ほらほら」
エマは瑠和の頭を掴み、少し強引に自身の膝に乗せた。
「私が乗せたんだから」
「…………エマさんって結構強引ですね」
「そうかなぁ?」
「………………海風が心地いいですね…ふぁ…」
「おやすみなさい」
瑠和は周りに人の目がないことを確認して軽い眠りにつく。心地よさそうに眠る瑠和を見つめながらエマは少しだけ申し訳なさそうな表情をした。
昨日、瑠和の家に向かった果林を見届け、家に帰ったエマは夜遅くに果林の部屋を訪ねた。エマがそこで見たのは布団にくるまってなにやらぶつぶつ言っている果林の姿だった。
「もう………終わったわ………ムードも流れもないあんな状況で告白とか本当にあり得ない………」
「果林ちゃん?」
「………エマ…?」
事情を聴くと勢いで告白まがいのことをしてしまったが、適当に茶化して帰ってしまったのだとか。瑠和は戸惑ったのか知らないがこれといった返答をもらえずそのまま帰ってきたらしい。恋愛経験のなさが露骨に出てしまったことに猛省している様だった。
「とりあえず…………思いを伝えられたってことでいいんじゃないかな…?」
エマは思いつく限り最良の励ましをした。
「よくないわよ!明後日からどんな顔して合えばいいか!それに忘れてなんていっちゃったからもう告白のチャンスがぁぁぁ………」
「それでも少しずつ気持ちを伝えていけばいいんだよ。果林ちゃんは果林ちゃんのままで。瑠和君ならまっすぐにその気持ちを受け止めてくれると私は思うな」
「うう…」
少し強引に行かせすぎたかなとエマは反省していた。せつ菜にも確認を取り、二人は恋仲ではないということが発覚して少しは安心できるがそれでも瑠和にとっては困惑させる事態となったであろう。
「でも、私………果林ちゃんには笑顔でいてほしいから…」
果林は決して悪い人ではない。そこまで長い付き合いなわけでもないがエマはそれを断言できた。ただの親友だから恋を応援しているわけではない。二人はお似合いだと思う自信からも来ていた。
続く