彼方の近衛   作:瑠和

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エマさんのお誕生日なので投稿…のはずがこの話エマさん出てねぇ…。エマさんも推しなんですよ。ていうかみんな推しですよ。


第十三話 息抜く瑠和

近江彼方と遥のライブは大成功に終わった。姉妹の仲も回復したようでもう心配することは何もないだろう。しかし、一つの成功によってもたらした光が新たな影を生み出した。

 

「やっほーりなりー」

 

「りな子~」

 

学校の芝生でくつろいでいる璃奈のところに愛とかすみがやってきた。璃奈が呼んだのだ。

 

「急にどうしたん?」

 

「…………二人に話しておきたいことがあって」

 

璃奈は彼方がライブで来た衣装を以前デザインした段階で見たことがあることを伝えた。それはまだ入学して間もないころで、それは瑠和が拾ったという手帳に書かれていたとのことだ。そしてそれから瑠和の口からスクールアイドルという単語が出始めたことも伝えた。

 

「じゃあ、瑠和先輩がスクールアイドルに興味を持ち始めたのって」

 

「どういう経緯か知らないけど、彼方さんと出会ったから……だと思う」

 

「それに、あのカナちゃんのライブのときの反応………これはもう確定かなぁ…」

 

つまり瑠和の好きな人物が誰か確定したというということだ。これまで反応や果林に告白されてもすぐに返事をしなかったことから鑑みるに、恐らくそうなのだろうということは容易に想像できた。

 

「でも、わからないのはどうしてそれを誰にも言わないかってこと」

 

「りな子にも言わないっていうのはちょっとわからないよねぇ」

 

兄弟である璃奈が訪ねても答えなかったことは不明だった。普段の瑠和は璃奈に隠し事をするようには思えなかった。

 

「やっぱりデリカシーな問題だからかなぁ」

 

「お兄ちゃんは嘘とか付けない性格だから、それはないと思う」

 

「馬鹿正直でまっすぐだもんね~。………ってことはもしかして、自分の気持ちに気づいてない…とか?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

彼方のライブが終わった翌日の練習。その片づけを瑠和としずくが行っていた。

 

「この間の彼方さんのライブ大成功でしたね♪」

 

「ああ………よかった」

 

「それにしても、瑠和さんって頼りがいがありますね」

 

彼方を救うにはどうすればいいか、その答えを的確に導き、人を動かした手腕にしずくは感心していた。

 

「そうか?俺は別に…」

 

「………頼りない胸かもしれませんが涙を隠すために貸すことくらいはできます!彼方さん、俺みたいな情けねぇ男じゃ頼りにならないかもしれませんが……もっと俺らに頼ってください!俺以外にも同好会のメンバーにもいます。世界を救うみたいなでかいことはできませんが、あなた一人の荷物を、せめて一緒に持つことくらいはできます。そばにいることくらいはできます…。だから、我が儘くらい、言ってください!」

 

謙虚な態度を見せる瑠和を見てしずくは瑠和が言ったセリフを一字一句記憶しており、それを体を大きく動かして大げさに演技してみせる。

 

「なっ!」

 

「こんなこと言えるなら十分頼りがいあると思いますよ?」

 

しずくはくすくすと笑いながら言う。瑠和は顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「流石にキザすぎたと思ってるよ。でも、彼方さんを立ち直らせたくて………以前、俺が励ましてもらったこともあるし…」

 

「そうなんですか?」

 

意外な事実にしずくは驚く。

 

「まぁ、璃奈のことで色々あった時にな………それにしても大した記憶力だ。確か演劇部も兼部してるんだっけ?」

 

「はい。せつ菜さんに言ったセリフもまだ何とか覚えてますよ?言ってみせましょうか?」

 

「結構だ。墓場まで持って行ってくれ」

 

「わかりました」

 

二人は軽く笑いながら片付けの作業を続けた。その様子を遠くから果林は眺めていた。果林はゲス軍団と同じく、わかってしまったのだ。瑠和の心情を。ライブが終わってから一切声をかけられずにいた。そんな自分が情けないが、どう話せばいいか全くわからないでいる。

 

諦めたわけではないが自分から強く行こうという気にもなれなかったのだ。果林はどうすればいいかわからず、とりあえずその場から去った。

 

片付けを終えた瑠和は帰り支度をするために部室に戻ろうとするが、ふと見えたしずくの横顔が、なんだか暗く見えた。

 

「…妙に暗いな」

 

「え?」

 

「自慢じゃないが人の顔色を伺うのが得意でね。もし悩みとかあるんなら…」

 

「………」

 

頼りがいがあると言われ、少し調子に乗ってしまったところもあったが瑠和は無視できなかった。少し間があり、しずくが口を開く。

 

「じゃあ、さっきの言葉を秘密にする代わりに私の荷物も、少しだけ持ってもらえますか?」

 

「………もちろん」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

瑠和は青海南ふ頭公園で黄昏ていた。

 

しずくから話されたのは予定されていた舞台の主役を降ろされてしまったという話だった。それを聞き、瑠和はどうにか手伝えないかと思ったがしずくは断った。最初は相談したい気持ちが会ったのだろうが、話したことで少し楽になったのだろう。それ以上は瑠和に頼ることはしなかった。

 

しずくのことを考え、力になれる方法がないかと考えていたがいい案が浮かばない。

 

瑠和的にはこうやって相談されるのはやぶさかでなかった。しかし、瑠和はどうも桜坂しずくという少女が苦手だった。この感覚は会ったばかりの頃の果林と似ていたが少し違う。言葉や表情に嘘はないがそこに芯がないという感じだ。

 

桜坂しずくの仮面と話しているというような感覚だった。

 

「黄昏てるね」

 

海を眺める瑠和に声をかけていた人物がいる。振り返るとそこには侑が立っていた。普段であれば上原歩夢と一緒にショッピングでもしている時間帯だが今日は一人だ。

 

「高咲…一人とは珍しいな」

 

「歩夢のこと言ってる?」

 

「他に誰がいる?親愛なる隣人か?」

 

「歩夢は今日は家の用事だって。私は暇つぶしに散歩ってところかな」

 

軽口をたたいた後で侑は横に立つ。

 

「なんか悩んでる?」

 

「いいや、後輩一人の悩みも解決できない自分が情けないだけさ」

 

「………またなにかあったの?」

 

「ああ。今度はしずくちゃんだ。相談されたが俺じゃどうすりゃいいのか正解が分からなかったから………悩んでる」

 

今回の出来事を端的にまとめて説明した。

 

「そっか……………瑠和君はすごいね」

 

「ん?」

 

「そうやってみんなから頼りにされて………それに家事に炊事に掃除、動画編集や書類整理までできちゃうなんて…私の立つ瀬がないなぁって」

 

いままで雑用含め書類整理等は同好会内で分担していたが、瑠和が来たことでそれらはすべて瑠和が引き受けることになった。正しくはやらせてほしいと瑠和が言ったのだが。

 

「やろうと思えば誰でもできる。家事全般はエマさんが、炊事は彼方さん、動画編集は璃奈、書類整理はせつ菜も得意だろ?」

 

「でも、それを瑠和君がやってくれてるからみんな練習に集中できてる訳だし」

 

「お前だって手伝ってくれてるから俺も楽ができる。それにな、高咲。気づいてるか知らないが、お前しかできないことだってある」

 

「え?」

 

「基本的に日本人っていうのはけなし上手の誉め下手なんだ。俺もその代表みたいなもの。だけどお前は、人のいいところを見つけるのが得意だ。それを誉めるのも」

 

「そんな…大したことじゃないよ」

 

「誰にでもできることじゃない。誇れよ。それがみんなを引っ張る大きな力になる」

 

「………ありがとう」

 

真正面から褒められて侑は少し赤くなる。

 

「………………人を見ると、その人になんというか………色が見える。その色を頼りに人の顔を伺って生きてきた」

 

「共感覚っていうんだっけ、そういうの」

 

「ちょいと違うかもしれないが似たようなものだ。俺が親に反発できたのは、親が俺らに対して持っていた罪悪感の色が見えたから。そうやって俺は人の悪いところばっかり見える…だから高咲、お前は褒めてみんなを導いてほしい。重荷を背負うような役割は俺が…」

 

「そんなに硬くならないでいいんじゃない?」

 

侑が放った意外な言葉に瑠和は驚く。

 

「私はただ素敵だなって思ってることを口にしてるだけだよ。瑠和君もそうしたらいいんじゃない?悩みなんてみんなで解決すればいいんだよ」

 

人には頼れと言っている割に瑠和は結構自分一人で解決しようと頑張っていた。この間の彼方のときも、瑠和は同好会のみんながと現直がいてくれなければ衣装づくりやヴィーナスフォートへの交渉も一人で行っていただろう。それは運命の巡り合わせと立場がそうさせていた。

 

一人で背負わなくていいという言葉は瑠和にとって正に目から鱗だった。

 

「…お前ってやつは………本当に……くくっ!」

 

一周回って瑠和はおかしくなってきて笑っていた。急に笑い出した瑠和を見て侑は慌てた。

 

「え?な、なんで笑うの!?私そんなおかしいこと言った!?」

 

「いや、ありがとう、少し楽になったよ」

 

(誰かを信じる心………人間なんて誰もかれも汚いって思ってたけど………違うのかもな。汚い人が多いからこそ、必死こいて真面目に生きる人が光って見えるのかもしれない……)

 

 

 

ー翌日ー

 

 

 

翌日、璃奈と二人で帰り道を歩いていると、背後から二人を呼び止める声が聞こえた。

 

「瑠和先輩!りな子!」

 

「んぁ」

 

「かすみちゃん」

 

呼び止めたのはかすみだった。

 

「あの…実は相談が…」

 

「「…」」

 

天王寺兄妹は顔を見合わせた。

 

三人はヴィーナスフォートのカフェに移動する。瑠和が果林の手伝いをできなくなってから同好会に入るまで入り浸っていた場所だ。

 

「で?相談って?」

 

「しず子の様子が少し変で…なんかいつものしず子よりしゅーんって感じがしてて……」

 

うってつけの相談だった。瑠和は璃奈をちらりと見る。

 

「…璃奈はどう思う?」

 

「そうだったような………そうじゃなかったような…」

 

「………実はまぁ、俺もしずくちゃんに違和感を感じてたんだ。妙に暗いような気がしてな。それで聞いてみたんだがどうやら例の演劇の主役を降ろされたらしい」

 

「ええ!?瑠和先輩知ってたんですか!?」

 

「二人きりだとつい気になっちまってな………だが、再オーディションに絶対に勝ち取るから心配しないでほしいって言われちまってな」

 

「そうですか……」

 

「まぁ俺の場合は状況が悪かったし、何より裏方の人間にこれ以上苦労を掛けたくないって思ったのかもしれん。けど………友達ならどうだろうな」

 

遠回しにかすみへしずくを助けてやってほしいと伝えた。言った通りただの裏方の先輩よりも適任だと思われた。実際彼女の仮面をすべて剥がすのには真正面からの力まかせなアプローチだけでは不可能だと瑠和は考えていた。

 

「瑠和先輩………………かすみん、自信はないですけど…やってみます!りな子!手伝って!」

 

「もちろん!璃奈ちゃんボード「にっこりん」♪」

 

「…………じゃあ、任せたぞ」

 

瑠和はかすみと璃奈の肩を叩いて店を出た。誰かにすべてを任せるのなんて初めての経験で若干不安は残ったが信じることも大切だと思い、それ以上は関わらないことにした。

 

翌日、瑠和はかすみたちにすべてを託してあまりしずくのことは考えずに学校に来ていた。しかし、気になってしまう自分がいて、ずっと落ち着かずにいる。昼休みに瑠和は彼方と初めて会った場所に来ていた。

 

「あーあ………」

 

「またお悩みごと?」

 

そこに彼方が現れた。

 

「悩みというよりか、反省中です」

 

相談するつもりもなんならあうつもりもなかったが、彼方にどうやら見抜かれたらしい。瑠和は彼方に今回のことを伝えた。

 

「人のことなんて言えやしない。せつ菜に自分の夢も追えないやつが人の夢を応援する資格はないなんて思ってながら、誰かに頼ることができないのに頼ってほしいなんて…」

 

「…この間彼方ちゃんも体験したけどね~。心配するのは簡単だけど、信頼するのは勇気がいるからねぇ………」

 

「そんなもんですかね…」

 

ある意味では同じ立場の二人だった。誰かを助けたいと思う気持ちはあるのに誰かに助けてもらおうなんて思ってもない。

 

しかし気持ちに、彼方は救われた。瑠和の行為は正しくはないが間違ってないのが難しいところだ。

 

「………ねぇ瑠和君、放課後空いてる?」

 

「え?まぁ。はい」

 

「じゃあ彼方ちゃんとお出掛けしようよ。気晴らしに」

 

「…え?」

 

 

 

―放課後―

 

 

 

「おまたせ~」

 

「またどこかで寝てるかと思ってました」

 

「寝ちゃいそうだったけど頑張ったよ~」

 

「そうですか…」

 

彼方の急な誘いに瑠和は応じた。特に用事はないのは確かだし、璃奈もいない。要するに暇だったからだ。

 

「で、どこに行くんですか?」

 

「ん~?どこか」

 

彼方はそう言って進みだしてしまった。呆然としている瑠和がその場に取り残された。

 

「………えぇ」

 

瑠和がはため息をつきながらも彼方を追いかける。

 

瑠和はその日、丸一日彼方に引っ張り回された。ゲーセン、服屋、ショッピング、アクアシティやジョイポリスを数時間で回った。普段はおっとりしている彼方がめずらしくパワフルにはしゃぎ回り、瑠和は振り回されながらも不思議とそんな彼方に元気をもらっていた。

 

「次はこっちだよ~」

 

「はぁ、はぁ、元気ッスね彼方さん………で、ここは…」

 

ヘロヘロになりながらも彼方に追い付いた瑠和が顔を上げるとそこは、大江戸温泉物語と書いてある施設だった。

 

「え」

 

「こここのあいだ遥ちゃんがつれてきてくれてね~。とっても癒されたんだ~」

 

「え?」

 

年頃の男女が、二人で、温泉施設に行く。状況が飲み込めず瑠和は再び頭の中で整理したがわからない。わからないわけではないが受け入れられてない。そりゃ中に多少のレジャーはあるので温泉だけと言うわけではないがだとしても大本命の温泉に大問題がある。それを彼方は理解しているのだろうかという視線を瑠和は向ける。

 

「?」

 

「いや、え?」

 

「え?」

 

瑠和はいつのまにか温泉に浸かっていた。

 

まさか二人で出掛けてこんなところにくるとは思っていなかったのだ。さすがにマズイのではと彼方に伝えたが、押しきられてしまい現在に至る。

 

瑠和は彼方に振り回されていてあまり何かを深く考える暇もなかったが温泉に浸かって少し落ち着く。そこで考えが少しまとまる。

 

「…………これってもしかして…デート…?」

 

そう考えた瞬間、瑠和の顔が真っ赤になる。混乱した瑠和は目の前にあった岩に頭を叩きつける。

 

(落ち着け!何考えてんだ俺ぁ!単に彼方さんが心配してくれたってだけの話!焦る必要なんて………)

 

ここでふと、この間のせつ菜との外出を思い出す。あの時は特になんとも思わなかったが今回はこんなに焦ってしまう自分を不思議に思った。

 

「…俺は」

 

瑠和は先に温泉から上がり、飲食店が乱立するフードコートの席で彼方を待っていた。

 

「お、いたいた」

 

そこに彼方が現れる。片手には施設内の駄菓子屋で買ったであろう串カツのボトルが抱えられていた。しかし、それ以上に瑠和は風呂上がりの彼方の姿に見惚れていた。

 

髪が若干濡れており、温泉で火照った身体は実に妖艶で煽情的だった。

 

「…?どうかした?」

 

「いえ………似合ってます…」

 

「お世辞でもうれしいよ」

 

彼方は瑠和の隣に座る。

 

「どう?たまには肩の荷物を降ろすのもいいんじゃない?」

 

「え?」

 

彼方は串カツを瑠和に一本手渡す。

 

「瑠和君はさ、璃奈ちゃんのことや同好会のことがあったから、人に頼ることが苦手になっちゃったんだと思うんだ。でも今は良くてもきっといつか困ることになると思う。みんな勝手な望みを言う。それを黙って全部引き受ける都合のいい神様になっちゃうかもしれない。だけどそれは瑠和君のためにならないんだ、望みをいう人のためにもならないんだよ」

 

「………都合のいい…神様」

 

「私も一緒。遥ちゃんのためってずっと一人で抱えてたけど、それは彼方ちゃんのためにも遥ちゃんのためにもなってなかった」

 

瑠和は任せるとは言ってもかすみたちのことを心配し続けていた。そんな瑠和を見かねて彼方はそれを忘れさせるために行動した。今回、彼方が瑠和を連れ出した目的は完全に単なる息抜きだった。

 

「一緒に頑張ろうよ。頑張り過ぎちゃう者同士。私たちにも心配してくれる人がいるんだってことを忘れないために」

 

「…」

 

「そばにいてくれるんでしょ?」

 

彼方は微笑む。確かに瑠和はそばにいることくらいはできると言った。

 

「…そうですね」

 

瑠和は軽く笑いながら串カツをかじった。それから二人は大江戸温泉物語を満喫し、日が沈むころ解散した。

 

数日後、かすみたちの行動はうまくいったらしくしずくは無事主役の座に返り咲いた。しずくが主演を務める演劇を全員で観に行ったが、その劇の椅子で唯一、浮かない表情の果林に気づく者はあまりいなかった。

 

 

 

続く

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