彼方の近衛   作:瑠和

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次回いよいよ最終回。


第十七話 歩みゆく夢

スクールアイドルフェスティバルの開催が近くなり、打ち合わせや会場準備の回数も増えてきた。慌ただしい毎日だったが、誰もが充実していた。そんなある日、侑はカスケード広場に来ていた。今日は他校との打ち合わせがあったのだが、同席していた現直が去り際に侑に話があると言ってここに連れてきていた。

 

「緊急の相談って何だったの?」

 

「ええ。少し………侑さんに尋ねたいことがありまして」

 

「尋ねたいこと?」

 

「音楽を始めたと聞きました。ピアノでしたっけ」

 

突然の質問に侑は少し驚く。驚いたのはその内容だ。歩夢とせつ菜以外に話した相手はいないからだ。だが、秘密にしてほしいと言ったわけでもないのせつ菜あたりから伝わったんだろうと考えて特に追及はしなかった。

 

「………うん、そうなんだ。私の新しい夢…………だったんだけどな」

 

「だった?」

 

「一番応援してほしい人に……歩夢に応援してもらえなくて………私、どうしたらいいんだろうって」

 

「…………そうですか…」

 

現直には瑠和のように他人の顔色が見える人間ではない。だが、大体わかった。歩夢にとって、侑にとって、一番大切なものが何なのか。

 

「同じ道を、一緒に歩くのはただの仲間です」

 

「え?…うん」

 

「別々の道を共に立って行けるのが、友達なんです。だから、伝えてあげてください」

 

「伝えるってなにを……?」

 

「自分の心のままに………自分の想いを。あなたの夢だけじゃない。侑さんは今、歩夢さんをどう思っているかを」

 

「伝える………か…そうだね!そうだよね!」

 

現直は笑顔で侑を送り出した。

 

「………」

 

一人残された現直は手帳に挟んでいた歩夢の写真を取り出す。そして、広場に吹く風に任せて写真を空へ飛ばした。飛ばされた写真は少し宙を舞い、川へ落ちていった。

 

「歩夢さんが幸せであれば、それでいい」

 

現直はその足で虹ヶ咲へ向かった。現直はしばらく虹ヶ咲学園を歩き回り、歩夢を見つける。

 

「歩夢さ…」

 

声をかけようとしたとき、歩夢は更衣室へ入ってしまう。現直はそこで少し立ち止まり、少し経ってから更衣室の扉を叩いた。

 

「…歩夢さん。居ますよね」

 

「現直君!?いま、私着替えているんだけど…」

 

「そのままでいいです。僕の話を少しだけ聞いてもらえますか」

 

「………うん」

 

「昨日聞いた限りじゃ侑さんとの関係に悩んでいるみたいですが………きっと、大丈夫です。消えませんよ。どんなに関係が変わろうと。今まで築いてきたあなたと侑さんの想いがゼロになることなんて、ないんです。僕が歩夢さんに励まされ、一度は離れてももう一度巡り会えたように」

 

「…」

 

「応援の花を置いていきます………それでは、さようなら」

 

歩夢はさっと着替え、すぐに更衣室を出るがそこには現直の姿はなく、黄色い菊が置いてあるだけだった。

 

「これは…」

 

更衣室から離れた現直はそのまま東雲に戻ろうとしたが、道中何やら頭を抱えている虹ヶ咲の生徒たちがいた。今は夏休み。ここで制服姿で何かを悩んでいる生徒はきっとスクールアイドルフェスティバルの協力者なのではないかと思った。

 

「どうしたんだい、君たち」

 

現直は持ち前のイケメン力を使って話しかける。

 

「え………あの…」

 

三人の少女は少し顔を赤くしながら他校の制服を来た現直を見つめる。その少女たちが顔を上げた隙に机に乗っている紙に書かれたものを見る。

 

「これはライブの計画書かな?僕は後川現直。東雲のスクールアイドルマネージャーだよ。よかったら協力させて?」

 

「実は私たち、歩夢さんのライブステージ作りをやってるんですけど………イベントはともかくステージをどんなにしようか迷ってて…」

 

計画書には大きなハートで作られたステージと、そのまままっすぐに続くピンク色の道が絵が描かれていた。

 

「もう完成しているように見えるけど?」

 

「はい、でもこれじゃ予算的に難しいみたいで。だから、このイメージを保ちつつ予算内に収めるにはどうすればいいんだろうって…」

 

「……………じゃあ、花なんてどうかな?」

 

「お花………ですか?」

 

「ああ」

 

現直は紙とペンを取り出し、図案を描く。

 

「こう、ハートの芯を一つ用意して、それをフェイクグリーンで囲えば、一から作るよりかなり予算も労力も抑えられると思うんだ。そこにお花か造花で彩ればきっと素敵なステージになると思う」

 

「わぁ!確かに!」

 

「いい案ですね!」

 

「花っていうのは色や形、香りが人間の本能に合うんだ。だから、こんなに技術が進歩して、いろんな娯楽がある今でもたくさんの人に愛されるんだ」

 

「あの、花は何がいいでしょうか!?」

 

「それは君たちが決めると良い。僕が決めてもいいけど、それじゃ君たちが作ったステージとは呼べない………」

 

現直は近くの芝生に生えていたハコベの花をそっと撫でる。

 

「一つアドバイスするなら、花言葉で選ぶと良いと思う。ハコベの花言葉は「愛らしい」………こんな雑草のハコベにすら花言葉がある。だから探してみると良い。きっとぴったりの花が見つかるよ」

 

それを告げ現直は立ちあがって東雲学園へ向って行った。できることはすべてやった。そう思いながら、思い込みながら東雲学院のスクールアイドル部の部室に着く。

 

「さて………うちのスクールアイドルの予定を完成させないと………ん?」

 

現直が作業を始めようとしたときスケジュール表の下に隠れた紙を見つける。その紙を現直は少し眺めて破り捨てた。

 

「未練と執着は心を鈍らせる…」

 

そして、現直は作業を始める。しかし、ここ最近朝から夜まで作業を続けていたからか現直の瞼が徐々に重くなり、いつの間にか机に伏せていた。そこに遥が現れる。

 

「現直さーん、衣装のことについて相談が…」

 

眠っている現直をみて、遥は少し微笑んでブランケットをかけてやった。その時、現直の足元に置いてあるゴミ箱に入っている破り棄てられた紙を見つける。ただのごみであれば気にも止めないのだが、そこに書かれていた文字に興味を抱いたのだ。

 

「これは…?」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「花火でも打ち上げます?」

 

この日は果林のステージの話し合いがされていた。

 

「悪くはないけど花火の近くっていうのはさすがに………しかも打ち上げだと色々危険じゃない?」

 

「サビに行くときの一瞬、そこに何か演出が入るとより盛り上がると思うんですけど…」

 

「だったら大きめのクラッカーなんてどうでしょう!花火より安全で尚且つタイミングがつかみやすいと思います!」

 

果林、瑠和、そして果林のファン、様々な人間の様々な意見が横行し、これはこれで楽しいひと時だった。瑠和も果林といられて幸せだった。

 

「では、とりあえず案としてはこんなもんでしょうかね」

 

「そうですね。ここから他のステージと摺り合わせて調整していきましょう」

 

舞台の相談を終えた果林は練習に、瑠和は部室に向かって行く。その道中、果林は瑠和の腕を抱き寄せ、頭を瑠和の肩に預けた。

 

「果林さん…」

 

「いいでしょ?付き合ってるんだから」

 

「…はい」

 

拒む理由はなかった。果林を愛している。その気持ちに嘘はない。練習場と部室へのちょうど分かれ道になるまで二人はそうして歩いた。

 

その様子を、偶然にも彼方が目撃していた。

 

「……」

 

彼方は無意識に自分の胸に手を当てる。

 

「お姉ちゃん!」

 

「遥ちゃん!」

 

そこに遥が現れた。今日は特に打ち合わせの予定などは入っていないのに虹ヶ咲に現れた妹に彼方は驚く。

 

「どうしたの~?お姉ちゃんに会いたくなっちゃった~?」

 

「うーん、そうだったらよかったんだけど………こんなの見つけて」

 

「ん~?」

 

遥が鞄からジップロックを取り出した。中に入っているのはバラバラに破られた紙。

 

「これは?何か書いてある…」

 

紙片を一枚手に取ってみてみるとそこには「希望」と書かれていた。さらに2、3枚手に取ってみるとそこには「結ぶんだ」、「諦め」、等々普段使わないような単語が書かれている。

 

「これって……もしかして歌詞か何かかな」

 

「多分………現直さんが捨てたものだと思うんだけど」

 

この日部室を訪れていたのは現直と遥だけのはずだった。前日に一度ゴミを捨てているので現直以外が入れたと考えにくいし、筆跡も似ていると遥は考えた。

 

「それで?」

 

「以前、かさねさんに聞いたんです。現直さんが作詞してるって……………それに、最近少し現直さんの笑顔が、怖いんだ。全部吹っ切れたような……生気を感じないっていうか…それから……これ」

 

遥は紙片の一枚を取り出して彼方に見せた。一見何も書いてないように見えたが、よく見ると何かが一度書かれて消された後がある。

 

「………ああ、そういうことかぁ」

 

 

 

―同好会部室―

 

 

 

瑠和は部室に到着すると、各メンバーから集めたライブの企画書に目を通しながらステージのスケジュール表の作成を開始した。どのステージからどこへ移動させるのがいいか、イベント企画と他校の曲とのすり合わせ等を開始した。

 

「さてと、みんなのやるステージ案は大体集まってきたが上原はまだか………あんまり時間かかるとまずいが大丈夫か?」

 

「こんにちは~」

 

そこに彼方が現れた。

 

「彼方さん。こんにちは」

 

「瑠和君。なにしてたの?」

 

「スケジュールを立ててようかと。まだまだみんなのステージ案が仮予定なんで、あんまりちゃんとしたスケジュールは出来ませんが」

 

「そっかぁ。がんばってるねぇ」

 

そう言いながら彼方が取り出したのはさっき遥が持ってきた紙片だった。そして部室に置いてあるセロテープを取り出す。

 

「………これは?」

 

「現直君の作った歌詞だって。最近現直君の様子がおかしいって遥ちゃんが言うから。作り直してお話聞きたいんだって。でも遥ちゃんは忙しいから、お姉ちゃんの彼方ちゃんが手助けしてあげるのです!」

 

彼方は力こぶを作って見せるポーズを取って見せる。しかし瑠和の心情はそれどころじゃなかった。現直が作った歌詞が誰のための歌詞かなんてすぐに想像がつく。仮に瑠和の想像通りでなかったとしても、こんなことをするなんてメンタルに異常をきたしているのは間違いなかった。

 

「…俺も手伝います」

 

「え?」

 

「さっき言った通りスケジュールは仮組にしかなりませんからそこまで重要じゃないんです。それに、俺も後川が心配です」

 

「ありがとうねぇ」

 

二人はバラバラになった紙を切り口や、文字の並びから推測してセロテープで繋ぎ合わせる。紙片はかなりバラバラで繋ぎ合わせるのにはそれなりに時間がかかりそうだった。

 

二人で黙々と作業を続ける。

 

「……素敵な歌詞だねぇ」

 

「…………」

 

彼方の言葉は瑠和には届いていなかった。現直に何があったのか、それを考えながらセロテープへ手を伸ばすと、たまたま彼方とタイミングが重なり二人の指が触れ合う。

 

「あ………」

 

「…」

 

ずっと現直のことが気がかりで気にしていなかったが、瑠和は今彼方と一緒に作業をしている。そのことを意識した瞬間、瑠和は急に気分が悪くなる。

 

「ぅ………」

 

「どうしたの?」

 

瑠和が急に顔に手を当てて俯いたことに彼方が気にする。少し我慢すれば収まるかと思ったがそうならなかった。

 

「すいません…俺は………この辺で」

 

「えぇ!?」

 

彼方を置いて瑠和は席を立って部室を出ていく。部室を出てすぐの階段を下り、外に飛び出して大きく深呼吸をする。

 

「まただ、あの日以来の気分の悪さ……いや、何ならあの日よりも悪い………色が……乱れる」

 

(彼方さんになにか後ろめたさでも感じてるってのか?なんなんだよ………これは)

 

そして、瑠和が出て行った部室の前には侑がいた。部室の前まで来たとき、瑠和が突然部室から飛び出してきたため侑は驚いて硬直していた。そして侑がそっと部室の扉を開けると、そこには呆然と立ち尽くす彼方がいた。

 

「彼方さん…」

 

「侑ちゃん……」

 

「なにか、あったんですか?」

 

「うーん………彼方ちゃんはよくわからないけど、もしかして彼方ちゃん嫌われちゃったのかなぁ」

 

侑は事情を聞く。特に何かしていたわけじゃないが、二人きりでいただけだったのに瑠和は急に席を立ってしまったという。しかも合宿の夜と合わせて二回目だ。

 

「………そっか、瑠和君がそんな…………私、ちょっと話してきます」

 

「うん、彼方ちゃんだときっと聞けないから……お願い」

 

侑は瑠和を追いかけて部室を飛び出す。階段を下りて外に出ると、普段みんなでお昼を食べたりしている広場に瑠和が横になっていた。

 

「瑠和君」

 

侑が声をかけると瑠和は横になったまま返事をした。

 

「………高咲か」

 

「どうかしたの?」

 

「お前こそどうしたんだよ」

 

「うん、ちょっとね」

 

瑠和はちらりと侑の顔を見る。すぐに侑の色が乱れているのがわかった。瑠和は小さくため息をついてからそっぽを向く。

 

「………お前こそ何かあったんじゃないか」

 

「え?」

 

「色が乱れてる。動揺と、緊張の色だ。俺以外のことで何かあったんだろ。他人の心配してる場合かよ」

 

一応歩夢とのことは顔に出さないつもりだったが、簡単に見抜かれた。侑は仕方ないと思って開き直る。

 

「そうだね…………でも、放っておけないよ」

 

「それに俺の心配してる暇があったら現直の心配してろ。あいつ、様子がおかしいらしい」

 

「もちろん現直君のことも心配してるよ。だけど、それと同じくらい瑠和君のことも心配なんだよ」

 

「テメェの問題も解決できない奴が他人の心配なんてすんじゃねぇ!!!!」

 

「…っ!」

 

久しぶりに見た、瑠和の激昂だ。侑は驚いて少したじろぐ。その様子を見て瑠和はすぐに申し訳なさそうな表情をした。

 

「あ………悪い……こんなつもりじゃ………俺自身、璃奈との問題を解決できなかったくせに………せつ菜の問題に首突っ込んだんだ…人のことなんて言えやしないのに…」

 

「………………………ずっと、様子がおかしいよ。どうしちゃったの?同好会を復活させた時も、璃奈ちゃんのライブをやった時も、瑠和君はそんな顔してなかった…ひょっとして、スクールアイドルフェスティバル…嫌だった?」

 

「そんなんじゃない……………また璃奈が、彼方さんや果林さんの、みんなのライブが見られると思うとワクワクする………そうじゃないんだ…………嫌いなんだよ。心配されるの。他人を心配するときの、同情とか他人を心配する自分に自惚れる色が見えるから…」

 

瑠和や、瑠和と同じ感性を持つ人間にしかわからない悩みだった。

 

「今の私もそう見えるのかな…そんなつもりはないんだけど………」

 

「お前はそれ以上に動揺の色が強い。だからわからないけど、心配されるのは好きじゃないんだ…………俺がいなくてもライブは完成する。だから、俺以外の奴にそのお人好しを向けてやれよ」

 

瑠和は立ちあがってどこかへ向ってしまう。追いかけようとしたが、侑を誰かが呼び止める。

 

「あの…ちょっといいですか?」

 

「え?」

 

侑を呼び止めたのは歩夢のステージ案を考察していたグループの三人だった。ステージ案を現直からもらったのはいいが、どんな花で飾り付けるのがいいかを侑に相談したいとのことだった。侑は瑠和を追いかけたかったが、設営係の子のことも無視できなかった。なので比較的簡単にことが済みそうな設営の相談に乗ることにした。

 

「いくつか案は絞ったんですが、どれも捨てがたくて…」

 

「だから歩夢さんと親友の侑さんの意見も聞きたくて!」

 

「そうだなぁ………どれも歩夢に合うと思うけど」

 

候補の中に気になる花があった。その花の花言葉を見て侑はこれだと確信する。今の歩夢に伝えるべき言葉に添えるべき花だと。

 

「ねぇ、これを…」

 

「失礼します」

 

そこに偶然焼き菓子同好会を連れた璃奈が現れた。

 

「璃奈ちゃん!」

 

「これ、みんなのデザインしたクッキー。作ったから配ってる」

 

そう言って璃奈は侑に侑をディフォルメデザインしたクッキーを渡した。

 

「わぁありがとう!私の分まで作ってくれて」

 

「皆さんも良かったらどうぞ」

 

「いいんですか!?」

 

焼き菓子同好会の生徒が歩夢のステージ設営係の生徒にクッキーを配る。とりあえず用事はそれだけだったので璃奈は次の同好会メンバーのところへ向おうとした。

 

「じゃあ、私たちはこれで…」

 

「あ、待って!璃奈ちゃん!」

 

「?」

 

「このあとちょっと相談があるんだけどいいかな?」

 

「…うん?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

侑はこれにしたらいいんじゃないかと思った花を設営係に伝え、飾りつけの方法やデザインを一通り出したところで璃奈に会いに行った。

 

「お兄ちゃんの様子が、変?」

 

「うん、ずっと気になってたんだ………それで、家とかでなにか変わった様子なかったかなぁって」

 

「…」

 

璃奈はこのあと瑠和に渡す予定のクッキーを見た。その中にはディフォルメされたデザインの瑠和のクッキーがある。璃奈は少し考え、ずっと思っていたことを侑に打ち明かす決意をした。本当はこのライブを終えてから愛や侑に相談しようと思っていたがもう見ていられなかった。

 

「お兄ちゃんは昔から、人の顔色を伺うのが得意だったんです。色が見えるって」

 

「うん、私にも話してくれた」

 

「だけど、お兄ちゃんにとってそれは当たり前で、そればっかり見てきたから………多分もう、自分で物事を決められないんだと思います」

 

「自分で……?」

 

不思議なことをいうと侑は思った。別に瑠和が他人に流されている様子は見えないからだ。

 

「何か考えるより先に相手の顔色が見えちゃうから……それに合わせて行動しちゃって、それが正しいって思い込むしかなくて……だから、正直に自分の気持ちに向き合うことができないんだと…思う………」

 

瑠和は自分で考えて行動しているというより他人の色を見て、不機嫌にさせないように、その人らしくいられるように最善の手を見つけてるというような感じなのだと璃奈は説明した。実際せつ菜の時も、彼方の時もそうだった。

 

「…瑠和君は、自分の色は見えてないのかな。だってあんなに嘘とかに敏感なんだから、自分の気持ちに嘘ついてたらすぐわかるんじゃないかな…」

 

「お兄ちゃんは自分の色はよく見えないって……見えないのか、見ないようにしてるのかはわからない……でも…」

 

璃奈はポケットからお守りの石を取り出す。

 

「きっと、自分のやりたいことじゃなくても、人に合わせてやってきたから………もう自分の色に嘘が見えてもわからないのかも…」

 

「………そっか。それが瑠和君を苦しめてるんだ…」

 

侑は最近の瑠和に対する違和感の正体が何となくつかめた。何らかの理由があって色を見るのがうまくいかなくなるか何かして、うまく行動できてないのだと。侑の色を見抜いたことからそれはないにしても、彼の感性故に何か苦しんでいるのだと。いってみれば今まであって当然の身体の一部がなくなるようなものだ。

 

「同好会を立ち上げてもらった…みんなを助けてもらった…だから、今度は私が助けるよ」

 

(瑠和君には申し訳ないけど、今は歩夢のことをどうにかしないと……でも、絶対に見捨てない。待ってて)

 

 

 

―虹ヶ咲学園校門前―

 

 

 

「お待たせ」

 

「はい。じゃあ帰りましょう」

 

ほぼ同時刻、瑠和は校門前で待ち合わせしていた果林と合流した。

 

「せっかくだからどこかに寄っていく?」

 

「そうですね………俺あれ食ってみたいです。そこの駅の駅そば」

 

「彼女を連れて行くのになんでそのチョイスなのかしら…?」

 

「ジュークです。とりあえずお台場行きましょう」

 

二人きりの時の果林は完全にただの少女だった。普段見せないような可愛らしい笑顔、無邪気な表情。瑠和はそんな果林の魅せる色が全部が大好きだった。カフェやショッピングなどに行き、最後にゲーセンに行って果林の好きなパンダのぬいぐるみをゲットする。

 

「ありがとう。大切にするわ」

 

「俺だと思ってかわいがってください」

 

「そうさせてもらうわ」

 

 

 

―東雲学園―

 

 

 

東雲学園で現直は一人ステージ設営のための道具を一人で倉庫から出していた。東雲のステージも大体固まってきたので現直にできることはこれくらいしか思いつかなかった。

 

「ふぅ………」

 

多くの人々の想いが交差する。みんなが同じ空を見つめていた。

 

そして、スクールアイドルフェスティバルの開催まで間もなくとなった。

 

 

 

―夢の広場―

 

 

 

夢の広場には上原歩夢専用のステージが完成していた。美しく彩られたフェイクグリーンと自然の木や植木で作られたステージ。そこに上原歩夢は来ていた。

 

皆で作ったフラワーロード。そのビジュアルは、現直が提案したステージの形ほぼそのままだった。侑と設営係の子が選んだ花は黄色のガーベラ。花言葉は「愛」。全員の歩夢への想いだった。

 

「私も、作ってみたんだ」

 

そう言って侑は花を一輪差し出す。

 

「綺麗………花言葉は?」

 

「変わらぬ想い。それだけはかわらないってこと」

 

そういわれた時、歩夢はハッと思い出す。

 

(消えませんよ。どんなに関係が変わろうと。今まで気づいてきたあなたと侑さんの想いがゼロになることなんて、ないんです。僕が歩夢さんに励まされ、一度は離れてももう一度巡り会えたように)

 

あの日、現直が言っていた言葉の意味がようやく理解できた気がした。そして、ようやく侑の夢を受け取る覚悟ができた気がした。

 

「現直さんに感謝だね!」

 

「今度お礼しないと!」

 

「現直君が………?」

 

設営係の子が口走った言葉に歩夢は反応した。

 

「実は、このステージ案は現直さんがアドバイスしてくれたから完成したんです」

 

「歩夢、これ………」

 

さらに侑は歩夢に紙を渡した。セロテープでべたべたに修繕された紙。歩夢はそれを受け取る。

 

「これは?」

 

「現直君が書いた歌詞だって………上の方、見てみて」

 

「…」

 

上の方にはメッセージが書かれていた。一度消された文章だったが、侑と彼方が頑張って解読し、再び書き直したものだ。

 

(上原歩夢さんへ。僕の人生はあなたに救われました。再びあなたに会えたことは嬉しく思っています。僕にできることなんて何もありませんが、頑張って作詞をしてみました。あなたへの思いを綴ったものです。もし気に入られたらこの曲を歌ってください。僕のためじゃなくてもいい。あなたが輝くために)

 

歌詞の書かれた紙にはそう綴られていた。

 

「……現直君」

 

歩夢はバッグから一輪の花を取り出す。あの日、更衣室の前に置かれていた菊の花だ。歩夢はそれを全員にみせる。

 

「ねぇ、これの花言葉って…」

 

「確か黄色い菊は……」

 

「破れた恋………」

 

「…」

 

 

 

―十数分後―

 

 

 

現直は一人で小道具の入った段ボールを抱えながら作業をしていた。今準備をしているのは歩夢のステージだった。あたりに誰もいないので黙々と作業をしていると背後から声がした。

 

「………現直君…っ!」

 

「歩夢さん………どうかしましたか?」

 

息を切らして自分を見つめてくる歩夢に、いつもと変わらぬ笑顔で現直は対応する。

 

「現直君は、私のこと、好きって言ったよね………」

 

「言ったじゃないですか。それはあなたの悩みを聞くための嘘です」

 

「嘘だよ!嘘だったら、どうして菊を置いていったの?」

 

花言葉を知ったのかと現直は思った。もしくは最初から知っていたか。どちらにせよ、少し安易な行動だったかなと現直は考える。

 

「あなたが僕を諦められるようにですよ。ほら、僕って顔がいいし、歩夢さんが告白嬉しかったっていってたので、念のためです」

 

そんなことをさらりと笑顔でいう。現直の気持ちを知っている人間から見れば明らかに壊れている。遥が様子がおかしいというのもわからなくない。

 

「………私ね!侑ちゃんが一番だった。一番大切だった………だけど、今はファンのみんなもおなじくらい大切で……………きっとそれはいつまでも変わらなくて、だから私は!ううん!私は全部手に入れる!だから、あなたも自分に素直になって!」

 

「………なってますよ。僕は、あなたなんか…」

 

「私や侑ちゃんに気を使わないで!……………あなたの想いを聞かせて!始まったなら!貫くのみなんだよ!もう止まれないんだ!」

 

歩夢は強気な表情で拳を突き出した。刹那、歩夢の立っている方向から強風が吹き荒れ、現直の持っている段ボールから演出用の花吹雪が吹き飛ばされた。二人の周りに赤い花びらが舞う。

 

歩夢のために歩夢を諦めた。そのはずだったのに現直は我慢ができなくなった。これ以上自分に嘘をつけなかった。例え期待している答えが帰ってこなかったとしても、この心の叫びを声に出さずにはいられなくなった。

 

「あなたを愛していないわけがない…………」

 

「え?」

 

「あなたは僕を救ってくれた人だ!!僕は………たとえ侑さんが一番でも、僕があなたが好きって思いは変わりません。そんなあなたを、愛してます!この気持ちだけは!いつだって変わらない………変わってたまるものか!僕を救ってくれたあなたの、歩夢さんの側にいたい!あなたを愛している!!!!」

 

「………」

 

歩夢は走って現直が準備していたステージに昇る。

 

「あなたの想いが聴けて良かった………」

 

そう言って歩夢が侑に渡された花を髪に飾った瞬間、ステージがライトアップされ、曲が流れ始めた。

 

「この胸に撒いた、小さな種を温めて、気づけば夢中で追いかけたこの温もりを、感じて♪」

 

歩夢が歌い出す。あたりに舞う花びらとライト、そしてその美しい歌声が相まってさながら本番のライブのようだった。制服の姿のはずなのに現直には歩夢が美しい衣装をまとっているように見えた。しかしそれ以上に驚いていたのは、捨てたはずの曲を歩夢が歌っていること。

 

「この歌詞………」

 

「ねぇおんなじ空、眺めて遠い夢見てた。あれから巡った季節今、二人をここへ運んできたね♪」

 

例え場所は違えど眺める空は同じだった。二人はお互いにいつかまた会いたいと願っていた。歩夢の優しさから始まった二人の出会いは巡り巡って現在に、この場所に二人を連れてきた。

 

「昨日とは違う、風が心を締めつけるけど(ずっと)思いは繋がってるから♪」

 

現直はちらりと舞台袖を見た。そこには以前現直がアドバイスをした設営係の子と侑が微笑んでいた。

 

「明日へ続く並木の道希望の花が咲いていくの。あなたが私にくれた勇気を抱いて♪」

 

歩夢が現直に渡したやさしさという勇気。それが現直を新たなステージへ進ませた。そしてそれは歩夢も同様だった。現直のやさしさで一度歩夢のそばから離れたことで歩夢は進む決意を固めた。

 

「ほら笑顔でね交わす約束、そう鮮やかに、咲かせていくの(I promise)きっときっとね(to you)強くなるからね♪」

 

それは現直の想いであり、歩夢の想いでもあった。弱い自分から変わって強くなるという決意。

 

「伝えようたくさんのありがとう…………私らしく進もう、描いた未来。いつかいつか、叶えよう…♪」

 

舞い上がった花びらの最後の一枚が地面に落ちると同時に曲が終わる。ライトアップと曲を流していた張本人の侑と設営係の三人は何も言わず席を外した。

 

「……………これ」

 

歌い終えた歩夢はステージを下り、一輪の花を現直に差し出す。それは現直が置いていった菊だった。しかし、色が違う。赤色だった。侑が造花を作った時のインクで歩夢が染めたのだ。

 

「赤い………菊」

 

「赤い菊の花言葉は…」

 

「あなたを………愛します」

 

現直はそっと歩夢を抱きしめた。

 

「………愛してます。歩夢さん」

 

「……ありがとう。あ、そうだ!写真を取ろう?」

 

「え?」

 

「ほら」

 

歩夢はスマホを取り出してインカメを起動させ、上に掲げる。

 

「侑ちゃんともこうやってよく写真撮ってるんだ。だから」

 

シャッターが切られる。歩夢の二人の写真が記録され、歩夢はそれを近くのコンビニですぐに現像して写真を半分に切った。

 

「はい、私が写って方を現直君が、もう片方を私が持っておくね」

 

「………どうして、こんな風に?」

 

「オリジナルはちゃんと手元にあるもん。それに、瑠和君と璃奈ちゃんが石で同じようにしてたから、素敵だなって思ったの」

 

「……………ありがとうございます」

 

現直は歩夢の写真を手帳に挟む。片思いの自分の一方的な愛情を向けるためではなく、歩夢の真実の愛情の形として。

 

 

 

続く

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