彼方の近衛   作:瑠和

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お久しぶりです。Another days-case of Karin-を読んでくださった方にはそうでもないかもしれませんが。2期も無事フィナーレを迎えたことで、私もこうして続編をあげられるようになりました。ほんとうによかった。ありがとうアニガサキ。
さて、一話です。今後の展望はあまり考えてません。ご意見等あればよろしくお願いいたします。


SEASONS2
第一話 威風堂々♪ニューカマー


その少女の感情の写らない瞳は、どこか妹に似ていた。

 

そのせいか、自然と惹かれていった。告白し、承諾され、付き合う様になってその少女も俺と同じで人の表情から色が見えるという感覚の持ち主だということがわかった。

 

同じ感性の持ち主同士、話も合い。よりその少女に惹かれていった。

 

それから、一年ほど付き合って卒業の時。俺は高校に行くためにずっと遠ざけていた実家に帰ることになった。でも俺は彼女から離れたくなかった。

 

卒業式の後、俺は彼女と少し話した。

 

「なぁ、俺はお前と一緒にいたい………こんなに誰かと一緒にいたいって思ったの初めてなんだ……」

 

想いを伝えた。伝えたところでどうにもできないとわかっていながら、伝えずにはいられなかった。

 

「……私が思うに、あなたに必要なのは私じゃなく妹さんなんだと思います。それをまだ持ってるのがその証拠じゃないんですか…?」

 

彼女は俺の鞄を指さした。そこには妹と分けたお守りの石が入っていた。

 

「きっとあなたは………私を通して妹さんを見ているんじゃないんですか?」

 

「そんな…俺は!」

 

「いいんです。私もあなたが好きです。初めて会った時のあなたはどこか魂の抜けた感じでした。でも、私と一緒にいたことであなたはずいぶん明るくなりました。あなたのためになれたのならよかった。さようなら」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「待っ………!」

 

「ぐえ」

 

瑠和は天井に向かって手を伸ばして目を覚ます。そしてその手は膝枕をしてくれていた彼方の頬に当たった。

 

「あ………す、すいません!大丈夫ですか!?」

 

「うん。うなされてたみたいだけど大丈夫?」

 

幸い彼方に怪我はない。瑠和は夢を見ていたようだ。懐かしい過去の記憶の夢。今日も同好会のサポートに徹した瑠和は疲れ、彼方の膝枕でうたた寝をしていたのだ。

 

「いえ、ちょっと昔の夢を観ましてね。昔の彼女の…」

 

「む、彼方ちゃんちょっと妬けちゃうなぁ」

 

現行の彼女である自分以外の女性の話をされることに彼方は嫉妬心を覚えた。その彼方の表情に瑠和は少し驚きながらも優しく笑う。

 

「安心してください。俺は…」

 

瑠和はサッと起き上がり、彼方の肩に手を回して顔を近づけた。

 

「彼方さんにゾッコンです。これまでも、これからも」

 

「お?決めてるねぇ」

 

「しずくちゃんの指導の賜物です。でも、嘘はないですよ」

 

「あのぉ、そういうこと家でやってもらえません?」

 

軽いコント染みたイチャつきを目の前で見させられているかすみがうんざりした顔で言った。現在部室にいるのは瑠和と彼方、そして愛、璃奈、かすみの元ゲス軍団の面々であった。他のメンバーは現在作成中の次回スクールアイドルフェスティバルの告知映像の撮影に行っている。

 

「そういうなよかすみん。遠慮しなくても俺はまだまだ足りない、語りあいたいんだよ。心動かす惚気話をだな…」

 

「遠慮じゃなくて!なんていうか、普通にイラっとくるときがあるんですよぉ!その見せつけている感じ!」

 

「え~?彼方ちゃんたち的には」

 

「普通ですよ」

 

「「ね~」」

 

二人は息を合わせていう。その行動がまたかすみを逆上させる。

 

「それ!そういうところですよ!!」

 

「まぁまぁ、仲睦まじいのはいいことじゃん」

 

「こんなに幸せそうなお兄ちゃん、初めて見た」

 

「そりゃ昔に比べればいいですけどぉ…だからって毎日毎日毎日毎日イチャイチャさせられるところ見せられる側の気持ちにもなってくださいよぉ!」

 

かすみの激情を愛と璃奈が宥めている間に彼方は話を戻した。瑠和は以前の彼女がどんな女の子でなぜ惹かれたのかを話した。

 

「璃奈ちゃんにどこか似てたんだ」

 

「今思うとそこまででもないんですけど、当時はそう思ってました。今何してるかなんて知りませんが今思うとあいつもあいつで結構大変だったんじゃないかなって…………そう思えるのもきっと、俺自身が色々経験したからだとは思うんですが」

 

夢にみたのは、いまだからこそ昔の彼女がなにかに悩んでいることがわかってそれが気にかかっているからではないかというのが瑠和の考えだった。

 

「そっかぁ。でも、どこにいるかとかはわからないんでしょ?」

 

「ええ………気にするだけ無駄だってのはわかるんですけど…もしまた会えたなら悩みを聞いてやることくらいはできるかもしれない…そう…思うんです」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「本当にこれ俺が出る必要あるのかぁ?」

 

不満げな瑠和はスーツ姿でハット帽子とコートを着させられ、夢の大橋に立たされていた。

 

「侑先輩だって出るんですから、文句はなしですよ瑠和先輩」

 

ぼやく瑠和に対し、普段の仕返しと言わんばかりの悪い顔をしながら撮影準備を進めるかすみがいう。

 

現在スクールアイドル同好会は第二回スクールアイドルフェスティバル開催のためのPVを撮影していた。本来であれば裏方である瑠和は出る必要はないと言ったのだが監督を務めるしずくが作りたい作品に瑠和の存在が欠かせないと懇願したのだ。

 

彼方も一緒に出たいと言い、そこで彼方に言われたら瑠和に断る選択肢はない。

 

「大体裏方の人間の紹介なんていらんだろうに」

 

「侑先輩はともかく瑠和先輩は半分デビューしてるようなものじゃないですか」

 

そう言ってかすみはスマホを取り出す。その画面には前回のスクールアイドルフェスティバルの記事が書かれた学校新聞が写っている。

 

そこには『飛び込み参戦!稀なる男性スクールアイドルなるか!?天王寺瑠和』と小見出しに書かれている。

 

「そりゃそうだが…」

 

「大丈夫。お兄ちゃんカッコイイ」

 

いまいち乗り気でない瑠和に対して璃奈が親指を立てておだてる。

 

「いやそういう問題じゃ…………はぁ、わかったよ。出番は一瞬なんだろ?さっさと終わらせよう」

 

瑠和は諦め、撮影に協力する。人前に出る行為に乗り気じゃない瑠和を見ながらかすみはちいさく呟く。

 

「素質あるとは思うんですけどねぇ」

 

なんのかんのあってから撮影を終えた瑠和は生徒会長モードの菜々と一緒に会議室に向かった。瑠和はまもなく開催される虹ヶ咲学園の学園祭実行委員を担っていたからだ。

 

二人は会議の時間より早くに会議室につき、少し駄弁っていた。

 

「しかし、生徒会長も大変だよなぁ。よくやってられんな」

 

生徒会長とスクールアイドル、二つをきっちり両立している菜々に瑠和は感心する。

 

「好きでやっていることですから。それに、色々なことに首を突っ込む瑠和さんに言われたくありません」

 

好きで面倒に首を突っ込む瑠和も同類だと菜々は笑いながら言った。

 

「もう昔の話だ。同好会のみんなは俺がどうこういわなくても大丈夫だろ?俺はみんなの輝きを後ろで見守るだけでいいのさ」

 

「まぁ、瑠和さんの好きになさるといいと思いますが……少なくとも学校の敷地内で度を過ぎたイチャつきは控えてくださいね?」

 

菜々は笑顔で威圧する。彼方と瑠和が仲睦まじいことは結構だが、時折度を過ぎることがあるのを菜々は何度か注意したことがある。

 

「…へい。気を付けます」

 

そんなくだらない話をしているうちに時間になり、実行委員会のメンバーが来たのか部屋にノックの音が響いた。

 

「あ、どうぞ」

 

菜々はすぐに生徒会長モードへ切り替わり、瑠和も席に座って切り替えようとした。

 

「失礼します」

 

落ち着いた声で会議室に誰かが入ってきた。瑠和は自然と部屋に入ってくる人物に視線を向けてしまう。その人物の姿を見た時、瑠和は大きく目を見開いた。

 

「この度、虹ヶ咲学園オープンキャンパス一年生実行委員になりました三船栞子です。よろしくお願いします」

 

「はい、よろしくお願いします。一年生の席はこちらですので、他の皆さんが来るまでくつろいでいてください…」

 

「………」

 

部屋に入ってきた栞子と名乗る少女と他一年生数名が席に座る。瑠和はそれを唖然としながら眺めていた。

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「瑠和君が変?」

 

会議を終えた翌日、せつ菜は告知映像を撮影しながら気になったことを彼方に話した。

 

「はい。昨日、オープンキャンパスの会議中、ずっと落ち着かない雰囲気で……」

 

彼女である彼方であれば何か知っているのではないかと尋ねてみたのだ。彼方は少し思い出してみる。

 

「ん~そう言えば少し前に昔の彼女の夢を見たって言ってたねぇ」

 

「昔の………ですか?」

 

そこでせつ菜はふと思い出す。

 

「そういえば」

 

「どうかした?」

 

「私の記憶違いでなければ、昨日会議に来ていた一年生の三船栞子さんと瑠和さん………同じ中学の出身だったような……」

 

全校生徒の名前と学科を覚えている菜々はそれらを覚える作業中に別の情報が目に入ることもある。今回たまたま瑠和の出身校と栞子の出身校を覚えていたのだ。

 

「………おやおや」

 

撮影を終えた二人はデータを編集班に渡し、瑠和を探す。

 

瑠和は実行委員会用に用意された部屋で資料を整理していた。そこにせつ菜と彼方の二人が現れる。

 

「瑠和君…」

 

「彼方さん……せつ菜……」

 

二人は瑠和を連れ出し、西棟屋上まで来た。そこで栞子との関係を尋ねてみると瑠和は案外あっさり首を縦に振った。

 

「では……やはり栞子さんは」

 

「ああ、俺の元カノだ。まさか虹ヶ咲に入学してるなんて知らなくてな。昨日は戸惑っちまった。心配かけたな」

 

「………本当にそれだけ?」

 

「…」

 

適当なところで話を切ろうとした瑠和に対して彼方が反応した。

 

「瑠和君言ってたじゃん。もしまた会えたら悩みを聞きたいって…」

 

「俺が悩みを聞いてやれるのも、限りがあります。同好会のメンバーでもないあいつの悩みを聞く義理はない…都合のいい神様になるなっていったのは彼方さんでしょう?」

 

「都合のいい神様と、顔馴染みのおせっかいは別物だよ」

 

「…だとしても、今さら元カレにつきまとわれるのも嫌でしょうし、別にいいですよ。あいつも俺に無反応でしたからね。じゃあ俺資料の整理残ってるんで。そんなわけで」

 

瑠和は半分ごまかしつつその場を去った。実際過去の話であり、瑠和にとって同好会が中心となっている。昔の話にはそこまで触れたくないのも本音だった。

 

「……」

 

 

 

―オープンキャンパス当日―

 

 

 

オープンキャンパス当日となり、実行委員である瑠和は忙しなく動いていた。しかし、午後になれば休憩になるのでその間に彼方と色々見て歩こうと約束していたのでそれまで気合いを入れていた。

 

「ふぅ、さすがでかいだけあってかなり数が来るな」

 

瑠和は来校者にビラを配る仕事をしながら改めてこの学校の規模の大きさを実感していた。もうすぐ昼になるというところでビラ配り交代の要員が瑠和を訪ねてきた。

 

「お疲れ様です。ビラ配り、変わりますよ」

 

「ああサンキュ…」

 

振り向くとそこには三船栞子がいた。

 

「栞子…」

 

「………いただきますね」

 

栞子は瑠和の顔を少し見てからビラを受け取る。瑠和はすぐに交代しようとはせず、なにを話したものかと少し考えるが何も思いつかない。

 

「…?もう交代していいですよ?お疲れさまでした」

 

瑠和に対して特に反応を見せることなく栞子はビラ配りを始める。いかにも業務上の付き合いという感じの態度だった。

 

「なんで………虹ヶ咲に来たんだ?」

 

「……私には、ここでやっていく適性があると感じたからです。念のため言っておきますが、あなたは関係ないですよ」

 

「……そうか」

 

「………いまは、スクールアイドル同好会にいると聞きました。妹さんも同じ部活ですが、上手くいっているのですか?」

 

「…………ああ、おかげさまでな」

 

瑠和は唯一気になっていたことを聞き、その場を後にした。今更彼女に関わる必要はない。そう言い聞かせ、それ以上何かを聞くことはしなかった。そんなことより彼方と一緒にどこへ行こうかと考えながら同好会のブースに向かう。

 

そんな瑠和の背後から大きな足音が聞こえてきた。誰かが走ってきたのかと思い、ちらりとそちらへ視線を向けたと同時に瑠和の身体を大きな衝撃が襲った。

 

「廊下は走らないでください!」

 

「見つけた!会いたかったわぁ!!!」

 

見知らぬ少女が瑠和に思いっきり飛びついてきた。瑠和は瞬時に身体に力を入れて押し倒されない様に踏ん張った。

 

「!?」

 

「………」

 

飛びついてきた少女は瑠和に抱き着いた状態から少し離れて瑠和の目を見る。その少女の表情を見た瑠和は少し驚く。

 

「やっと会えた…」

 

「え?」

 

少女の小さなつぶやきの後、急に満面の笑みになる。

 

「スクールアイドルをやるために香港から虹ヶ咲学園に短期留学してきた鐘嵐珠よ!よろしくね!」

 

「はぁ……」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「それじゃあ、スクールアイドルをやるために香港から?」

 

「私と同じだ~♪」

 

鐘嵐珠と名乗った少女は栞子の幼馴染であり、同好会メンバーに会いたいと言った。瑠和と栞子は嵐珠を連れ、取り合ず同好会のブースまで連れてきた。

 

「鐘嵐珠よ」

 

嵐珠という少女の登場に皆が驚いているとき、瑠和はちらりと彼方を見た。

 

「…?」

 

瑠和の視線に気づいた彼方が首をかしげるが、瑠和は目を逸らす。彼方がいるのに思いっきり見知らぬ留学生に抱き着かれたことに多少なりとも後ろめたさのようなものを感じていたのだ。

 

そんな後ろめたさの原因を作った張本人をちらりと見て瑠和はさっきのことを思い出す。

 

(それにしても、さっきの言葉……そして、あの「色」……何だったんだ?)

 

「ほかにスクールアイドルが有名な学校はいくらでもあるのに………どうして虹ヶ咲へ?」

 

「スクールアイドルフェスティバルの動画を見たからよ。すっごく、ときめいたわ」

 

自分たちの開催したフェスティバルを真正面から認められ、同好会のメンバーは嬉しそうな表情をした。

 

「それぞれが、自分のやりたいことを表現していて、輝いていて、私もあのステージに立ってみたいって思った………それに…」

 

嵐珠は一瞬瑠和を見た。

 

「…」

 

「高校生の今しかできないから…だから!ここへ来たの!」

 

(言ってることに嘘はないんだろうが………)

 

瑠和は嵐珠の行動に疑問を持ちつつもとりあえず東棟の次回スクールアイドルフェスティバルの告知映像を見ることとなった。嵐珠は侑たちとチラシ配りに同行し、瑠和と彼方は休憩に入って二人でオープンキャンパスを見回る。

 

「いやぁ予想外のメンバー増加だねぇ」

 

「そうですね…」

 

「………何かお悩みかな?」

 

瑠和の表情を見て彼方が訪ねる。彼方と楽しい時間を過ごすはずが、瑠和の頭には嵐珠と栞子のことばかりだった。

 

「すいません………せっかく彼方さんと二人きりなのに…」

 

「まぁ、そういうところが瑠和君らしいっていえば瑠和君らしいんだけど。せっかく彼方ちゃんといっしょなんだから~」

 

彼方は瑠和の腕をつかみ、抱き込んだ。

 

「!」

 

「彼方ちゃんだけを見ててほしいな♪」

 

「心配しなくても……俺はあなたしか見ませんよ」

 

二人はそのまま様々な同好会の出し物を楽しんだ。流しそうめん同好会では上流に立った彼方に奪われ、それを分け合ったり駄菓子同好会で運試しをして共に笑いあった。そうしていると、まだ付き合っていないころに一緒に遊んだ日を思い出す。それが楽しかった。

 

最後に二人は射的同好会で採った景品のパンダのぬいぐるみキーホルダーをお揃いで持ち、次回のフェスの告知映像が流れる時間となる。二人は大スクリーンが見える場所まで行く道中、瑠和が急に立ち止まる。

 

彼方がどうしたのかと瑠和の視線の先を見るとそこにはオープンキャンパスに来てる中学生らしき学生がいた。

 

「こっちかな?」

 

「えーどうだろう?」

 

「…」

 

「瑠和君?」

 

「え?は、はい」

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもないです!行きましょう!」

 

明らかになにかをごまかす態度で瑠和は彼方に追い付く。なんとなく瑠和の事情を冊子ながらも彼方は何も言わなかった

 

「……」

 

二人はスクリーン前にたどり着き、告知映像が流れるのを待った。

 

「これ見たらお仕事戻っちゃうんだよねぇ」

 

「ええ。もっと一緒にいたかったですけど一応実行委員なんで」

 

そんな話をしていると上映が開始される。しかし、そこに移ったのは告知映像ではなく、それを撮影したときのNGシーンだった。

 

「……あ?」

 

「おやおや」

 

瑠和が何やってんだかと呆れていると瑠和の衣装合わせのシーンに切り替わる。最終的にスーツの上にハット帽子とコートという衣装で収まったが最初はかなり奇抜な衣装を半ば無理やり着させられていた。

 

『瑠和せんぱーい!かっこいいですよぉ!』

 

『こんな格好で写れってのか!?できるかぁ!!』

 

「な…な…」

 

そしてそこから果林が寝ぼけているシーンに変わる。

 

『もう少し寝かせて?エマぁ~』

 

「「今すぐ」」

 

「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

果林と瑠和の魂の叫びが会場に響き渡る。

 

「おお、ハモった」

 

すぐに映像は止まったが、スクールアイドルフェスティバルの告知映像が流れていないことは問題だった。かすみたちがすぐに映像を取りに戻ったことは見えていたがすぐに再開というわけにはいかないだろう。このままではせっかくの告知の舞台が台無しになってしまう。どうしたらいいかと瑠和が悩んでいるとき、スクリーンに嵐珠の顔が映し出された。

 

「嵐珠!?」

 

「おやぁ…」

 

「スクールアイドル、鐘嵐珠のデビューステージよ!伝説の始まりを……」

 

ランジュは制服の上着を脱ぎ捨てる。その瞬間、瑠和には確かに見えた。嵐珠が衣装を纏いステージに立っている姿を。

 

「心に刻みなさい!!!」

 

嵐珠は指を前に指す。

 

その指の先には、瑠和がいた。

 

「露一手给你们看看」

 

音楽が流れ始め、嵐珠が踊り、歌い出す。

 

『Hey………It’s me……準備好沒?』

 

瑠和は人生で三度目になる衝撃をその身に実感していた。一度目は数か月前、ヴィーナスフォートの彼方のライブで受けた衝撃、二度目はスクールアイドルフェスティバルの「夢がここからはじまるよ」で受けた衝撃。

 

うまく言葉で表現できないが瑠和はそういった圧倒的なパフォーマンスや想いの籠ったパフォーマンスを見ると、世界の色が変わって見えた。そして今回が三度目だ。

 

彼方のライブが神々しさや不可思議さに特化しているとすれば、嵐珠のライブの洗礼されたダンスと歌。それらは正しく圧倒するという表現がぴったりだった。

 

瑠和は涙こそ流さなかったものの、その場に崩れ落ちかけた。それに気づいた彼方が瑠和を支える。

 

「瑠和君?」

 

「こいつは………驚いた。彼方さん以外に、ここまで世界を塗り替える人がいたなんて…」

 

 

 

―広告放送後―

 

 

 

嵐珠のおかげで広告動画を取ってくるまでの時間を稼げた。尚且つその場にいた人を魅了し、そこに留まらせた。栞子に反省文を提出するように叱られはしたものの、嵐珠の功績は大きかった。そのことを同好会が感謝する。

 

「助かったよ、鐘嵐珠。ライブ、すごかった」

 

そこに瑠和も合流し、嵐珠に礼を言う。

 

「ええ。あなたのやり方を参考にしたのよ。天王寺瑠和」

 

「え?」

 

「スクールアイドルフェスティバルで、彼方が歌えなくなった時にあなたがステージに出て目立ったことで彼方のための客を残したんでしょう?同じやり方よ」

 

そう言って嵐珠は瑠和が歌った時の動画を出した。一見プライドが高そうに見えた嵐珠だが、周りのいいところはどんどん吸収するタイプの天才だと瑠和は思った。

 

「まぁ、何はともあれ助かったよ。これからもよろしくな」

 

「残念だけど、入部は遠慮しておくわ」

 

「え?」

 

予想外の反応に瑠和も同好会のメンバーも困惑する。

 

「あなたたちとは考え方が違うみたいだから」

 

「どういうこと?」

 

「アタシは誰よりもみんなを夢中にさせるスクールアイドルになりたい。アイドルがファンに夢を与えるのは素晴らしいことよ。でも、与えるだけでいい。誰かに支えられなきゃパフォーマンスもできないアイドルなんて、情けないわ」

 

「ちょっと!」

 

棘のある言葉に、かすみが反応した。瑠和も一瞬カチンと来かけたが何も言わなかった。

 

「スクールアイドルフェスティバルには鐘嵐珠個人として申し込んでおく。この同好会では私の夢は叶いそうもない。だから、一人でやって見せる………もう一度聞くわ、侑。あなたはどうして同好会にいるの?」

 

先ほど侑と嵐珠が二人きりになった時があった。その時に、なぜ同好会にいるのかと聞いたらしい。

 

「アタシはスクールアイドルにトキメキを感じたからここまで来た。でも、あなたの夢はスクールアイドルではないのよね?だったら、同好会を離れてその夢を真剣に追い求めるべきよ」

 

「確かに、嵐珠ちゃんはすごいよ。ライブでも言葉でもあんなに堂々と自分を表現でき。でも、やりたいことをやりたいって気持ちなら、私だって負けないつもり!」

 

瑠和は驚く。最初は何か考えさせられたような表情を見せたが、すぐに言葉を返したことに感心したのだ。

 

「今はまだ、全然だけどね。でも、私だって私のやり方で夢を叶えたいって思ってる」

 

「それは私たちも一緒だよ」

 

「みんな、自分がやりたいことをやるために、ここにいる」

 

侑の言葉に同意する同好会に臆することなく嵐珠は返す。

 

「アタシはアタシの正しさを、スクールアイドルフェスティバルまでに証明してみせるわ。スクールアイドルフェスティバルで一番注目を集めて………そして」

 

嵐珠は瑠和の前に立ち、瑠和の顎に手を添えた。

 

「アナタをアタシのモノにする」

 

「…………え?」

 

その言葉に困惑したのは瑠和だけでない。同好会全体は当然のこと、特に彼方は目を丸くしている。

 

「ねぇ瑠和。あなた、アタシのモノにならない?」

 

「………なぜ?」

 

色々と聞きたいことはあるが、とりあえず瑠和は単純な疑問を訪ねた。

 

「アナタに才能を感じたから。まだ粗削りだけど、アナタは磨けば輝くダイヤの原石だって私はあの動画を見て確信した。瑠和、ランジュのところで腕を磨いてアナタもスクールアイドルにならない?」

 

「………本当にそれだけか?」

 

瑠和は理由がそれではないことは何となく出会いの瞬間から感じていた。それを口にすると嵐珠の瞳はより一層輝く。まるでサプライズで好物を目の前に出された時の子供のように。

 

「きゃあ!アナタ本当に嵐珠が見込んだ通りの人ね!」

 

嵐珠は瑠和に思いっきりハグする。これで本日二度目だ。それを見て彼方は唖然としている。

 

「アナタに才能を感じると同時に、アナタに一目惚れしたから………だから、アナタが欲しいの」

 

嵐珠は瑠和にキスをした。

 

「!!!!???」

 

彼方はすぐに瑠和から嵐珠をひきはなそうとしたがそれより早く瑠和が彼方に手の動きで制止させた。彼方は瑠和の想定外の行動に動揺する。

 

「!?」

 

「……………どうかしら?」

 

しばらくすると嵐珠は瑠和から離れる。

 

「まぁ、考えてみる」

 

「煮えきらない反応ね。まぁいいわ前向きに考えておいて?バイバイ」

 

 

続く




果林先輩、誕生日おめでとうございます!
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