彼方の近衛   作:瑠和

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さてさて、少し早いですが次の話です。
アンケートにご協力いただきありがとうございました。結果としてはラブライブらしく行くこととします。
ちょっと説明的な回ですが次回を2~3日以内に上げるのでお楽しみに!


第八話 デクレッシェンド♪裏返りのブルース

躊躇わないで、まっすぐに

 

大好きを、届けに行こう

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

突如として現れた自らをシノノメ リクと名乗る後川現直によく似た青年は歩夢を連れ去ろうとした。せつ菜が止めに入るがリクの姿勢はすさまじいもので、止められるものではなかった。

 

「まぁいいや。また一緒にいれば思い出すだろ」

 

シノノメ リクとは現直がかつて歩夢と遊ぶときに名乗っていた偽名だ。一体どういうことなのかと歩夢が困惑しているうちに現直は歩夢の腕を引っ張って部室を出ていく。

 

「歩夢ちゃん!」

 

「わ、私は大丈夫です、追いましょう!」

 

せつ菜自力で立ち上がり、二人を追っていく。現直ずんずんと進み、部室棟から出た食堂兼カフェの前にまで来ていた。そこにたまたま部室へ向おうとしていた侑が現れる。

 

「侑ちゃん!」

 

「歩夢?それに現直君。遊びに来てたんだ」

 

何も知らない侑はいつも通り現直の前にまで行く。

 

「…………高咲侑」

 

「侑ちゃん!逃げて!」

 

「え?うわっ!!」

 

歩夢の警告も虚しく、現直は侑の肩を掴んで真横にあった噴水の中に投げこまれた。一瞬何が起きたのかわからず侑は目を丸くしている。

 

「侑ちゃん!!」

 

「………」

 

侑が呆然としている間に現直も噴水の中に入り、侑の胸倉を掴んだ。

 

「お前が邪魔だ。高咲侑」

 

「え………?」

 

「これ以上痛い思いしたくなかったら俺と歩夢の前から………」

 

その時、歩夢が無理やり現直の腕を侑から引き離して自分の方を向かせる。そして、現直の頬を歩夢の平手打ちが襲う。

 

「もう…やめてよ!!何があったのかわからないのに………あなたのこんなところ見たくない!!!」

 

「………」

 

「いました!あの人です!」

 

そこに、虹ヶ咲学園生徒会の面々駆け付ける。生徒からの連絡を受けて無断で校内に入った現直を探しに来ていたのだ。

 

「………チッ。つまんねぇな」

 

現直はそう吐き捨て、噴水から出て近場の階段を駆け上がり、その途中で噴水を見下ろす。

 

「歩夢!また遊ぼうぜ!!」

 

そう伝えると現直は逃げるように去って行ってしまった。現直が見えなくなってから歩夢は侑に肩を貸す。

 

「……侑ちゃん、大丈夫?」

 

「うん……そんなに痛くはなかったけど、びしょびしょだ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「本当に申し訳ございません!」

 

「そんな、遥ちゃんが悪いわけじゃないよ!」

 

情報はすぐに同好会内で共有され、現直が来てからの一連の流れを東雲に説明すると謝罪がしたいということで遥たち東雲学院スクールアイドル部の代表が詫びの品を持ってやってきた。幸い乱暴なふるまいはされたがけが人が出たわけではなかったので虹ヶ咲も大事にしようというつもりはない。

 

「でも、たった2日かそれくらいの時間であれほど変わるものなんでしょうか……」

 

「一昨日変わったことはなかったの?歩夢」

 

「うーん……これと言って変わったことはなかったような気もするけど…」

 

「あの………お話ししようかと迷っていたことがあるんですが…」

 

申し訳なさそうにせつ菜は手を挙げる。

 

「どうしたの?せつ菜ちゃん」

 

「実は、現直さんと二人きりになった時に……少し話したんですが」

 

せつ菜は、現直が話してくれた悩みを共有した。歩夢と出会うこと自体が現直にとってのゴールでそれ以上は望んでいないが、それだと自分の存在意義がわからないという悩みだ。

 

「そんなこと、話してたんだ」

 

「でも、それが直接の原因とは思えないよねぇ。キャラを変えて存在意義を証明しようとした………っていうにはちょっと無理がある気がするし」

 

「そうですね……とにかく、私たちは一旦現直さんのお宅へ伺おうと思います。もしかしたら何かわかるかもしれません」

 

「あ、私も行くよ!」

 

遥と歩夢は現直の安否報告と言動の原因を探るべく現直の家をたずねに行った。残された同好会のメンバーは次のスクールアイドルフェスティバルに向けての準備に取り掛かることにした。

 

 

 

―夢の大橋 公衆トイレ―

 

 

 

「ぶはっ!」

 

生徒会の追っ手を振り切った現直は近場のトイレに駆け込み、手洗い場の前で壁に寄りかかる。そして、鏡に映った自分を睨みつけた。

 

「お前は………誰だ」

 

はたから見れば完全に独り言だ。しかし、現直には鏡の中の自分が不敵に笑っているように見えた。そして鏡の中の現直は笑いながら問いに答える。

 

『誰ってシノノメ リクだよ。お前だって、よく知ってるだろ』

 

「知らない………僕はお前なんか知らない!僕の中から消えろぉぉ!!」

 

そう叫び、現直は鏡の中の自分を、リクを力の限り殴りつけた。鏡にひびが入るが当然リクに当たる訳はない。

 

『そう言うなって。お前のほしいもん全部手に入れてやるからよ。俺に委ねろ。とはいえ、もうお前が意識を取り戻すこともねぇだろうけどなぁ』

 

リクが鏡の中から迫って来る気がした。現直は再び激しい頭痛と共に意識を失い、水道にもたれかかる。

 

「はぁ~あ、たくっめんどくせぇな」

 

 

 

―後川家―

 

 

 

「そうか、現直のガールフレンドだったか。現直も話してくれれば良いものを」

 

現直の家に着くと、現直の母が温かく遥と歩夢を迎え入れてくれた。現直の義母は長髪で左目の下ほくろがあるに綺麗な人だった。少し目つきが鋭く怖い雰囲気はあるが声は優しそうな人だった。

 

「ありがとうございます」

 

「あの………現直さんは」

 

「まだ帰ってない。だけど………無事だったんだろう?わざわざありがとう」

 

「いえ…………それで、その、現直さんのことなんですが………その前に確認しておきたいんですが、現直さんの本当のお母さんではないんですよね…?」

 

「ああ、私は現直の本当の母親じゃない。だが一応あの子の遠い親戚ではある」

 

「そうだったんですか………でも、やっぱり現直さんの昔のこととかは…」

 

「知らないな。あの子がウチに来たのはほんの2、3年前だしな」

 

「………そうですか」

 

無駄足に終わったかと歩夢が少し肩を落とす。

 

「だが、君たちから聞いた性格が急に変わったという話なら思い当たる節がある」

 

「え!?」

 

現直の義母は現直を預かった時に渡された資料を漁る。

 

「実はあの子を預かるときにかかりつけの医者に色々言われてな。ああ、あった。こういう病を患っていると。だが、現直が来てから過ごした時間の中で、そういうのはなかったから心配はないと………思っていたんだが」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

翌日、歩夢たちは現直の母から得られた情報を同好会に持ってきた。

 

「乖離性同一症?」

 

「いわゆる、多重人格と呼ばれる疾患ですね。発症の原因は色々あると言われていますが、虐待なんかを受けていた人が発症しやすいというデータはあるみたいなんです」

 

現直が患っていたというものは乖離性同一性症、多重人格といわれるものだった。つまり、昨日歩夢たちの前に現れたのは現直ではあるが人格が違うということだ。

 

「遥さん、いままで別人格が出てきたようなことってありました?」

 

「いえ………私が知る限りでは、現直さんは暴力的な態度を取られたことはなくて。礼儀正しい優しい方でした。だから、出てきたことはないかと」

 

「とりあえず、今出てきてるのが現直君の別人格で、それでいて名前はシノノメ リクって名乗ってるんだよね」

 

「うん………それで、お医者さんのところにも行って話を聞いて来たんだけど、意外なことが分かったんだ」

 

歩夢は現直が保護された当時の資料を取り出した。現直が父から虐待を受けていたのは浅く同好会全体で共有されていたことだが、その資料に乗っていたのは聞いていた話とだいぶ違った話だった。

 

以前現直から聞かされていたのは自身が虐待を受けていて、歩夢と一緒にいるために決死の覚悟で父へ反発したときに保護されたとのことだった。

 

しかし、そこに書いてあったのは、当時現直が父親に対して暴力を行い、それが原因となり保護施設へ移されたとのことだった。虐待があったのも事実のようだが少なくともその日だけは、現直が父に重傷を負わせたらしい。

 

そして、事情を聞いたとき自分はシノノメ リクと名乗ったり後川現直と名乗ったりすることから医者に掛かり、乖離性同一性症であることが発覚したとのことだった。

 

「あくまで推測の域を出ないですが、そのお父さんへの攻撃はリクさんが行ったことで、現直さんはそんなこと記憶になく、父親に必死に抗ったから保護されたと思い込んでいた………ということでしょうか」

 

「事情を聞いたときの記録を見る限りでも、そういう感じみたいだね」

 

「でも、なんで急にリク君が出てきたのかな……」

 

「やっぱりこの間のことが原因なんでしょうか」

 

考えてはみるがそう簡単にわかる問題でもない。

 

「……………とにかく、ここで悩んでてもしょうがないし、話してみるしかないんじゃないかな。リク君と」

 

最初に切り出したのは侑だ。

 

「話してみる?」

 

「うん、だって、今まで出てこなかったのに急に出てきたんなら絶対理由があるはずだと思うし!」

 

「でも、リク君の居場所は…?」

 

「それは………わからないけど」

 

同好会一同肩透かしをくらい、コケかける。しかし、そんな中で歩夢はふと昨日リクが去り際に放った言葉を思い出す。

 

(また遊ぼうぜ!)

 

その言葉からふと、過去のことと現直と初めてあったときのことを思い出す。

 

「それなら、心当たりがあるの!」

 

 

 

―東雲水辺公園―

 

 

 

東雲水辺公園には普段現直が着ないような上下真っ黒の服を着たリクが黄昏ていた。そしてリクは背後から近づいてくる人物の気配に気づき、ゆっくりと振り向く。

 

「よぉ、よくわかったなぁ」

 

「うん、初めて私が現直君と出会った場所だから。昨日また遊ぼうって言ったのはここにいるってことなのかなって」

 

来たのは歩夢だ。この公園はかつて、歩夢と現直が出会い、よく遊んだ公園であった。歩夢の背後の建物の影では2人の行方を同好会メンバーが見守っていた。

 

「ああ。ご名答。で、一緒に来てくれる気になったか?」

 

「昨日も言ってたけど、どこに?」

 

「俺とお前以外、誰もいないところだよ」

 

ずいぶんふわっとした回答だが、主張は一貫している。歩夢はまず理由を聞いた。

 

「どうして?」

 

「どうしても何も、俺はお前が欲しいからだ。お前以外、何もいらねぇんだよ、この街だって大嫌いなんだ俺は。お前がいたから、お前と一緒にいたかったから俺はあのクソ親父をボコしてやったんだ。もともと存在意義を生まれた時から否定されてた俺………いや、現直の腰抜けがいたから、俺はお前を手に入れることで存在証明をする。お前を手に入れた事実だけが!俺の存在意義となる!」

 

その言葉で歩夢はリクの存在の意味を理解した。元々父から暴力を受け、母から無視されていた経緯から現直は自己肯定感が低かったのだ。しかし、歩夢という出会いがあり、歩夢と一緒にいたいという気持ちから歩夢を手に入れられれば自己の存在の証明になると思った。しかし現直は下手に弱腰でそれは叶わなかった。特に父親の前では縮こまってしまう。

 

そんな中で自己肯定と自己の存在証明ができる強い性格のリクという新たな人格が形成されたのだ。

 

「………じゃあ、最近現直君が自分の存在に疑問を持っていたから……あなたは目を覚ましたってこと?」

 

「ああ。あいつがどうなろうと知ったことじゃないが、自殺でもされたら俺も死んじまうからな。だから、俺が来た」

 

「そっか…………ねぇ、本当に私だけじゃないとだめなのかな!?みんなも一緒にいられたらきっと楽しいと思うんだけど…」

 

「周りの人間なんて信用できない。昔だってそうだった!俺の身なりだけで他の連中は一緒に遊んでくれなかった!お前だけだ!!俺に声をかけてくれたのは…」

 

「………じゃあ、仕方ないね…」

 

歩夢は急に振り返って走り出した。

 

「あ!?」

 

「だったら私も一緒に行かない!連れていたいなら捕まえてみて!」

 

「………めんどくせぇ…………まぁその方が分かりやすいか」

 

歩夢を追おうとした瞬間、リクの左腕が急に重くなった。何事かと左腕を見るとせつ菜が腕にしがみついていた。

 

「…………誰?」

 

さらに今度は右腕が重くなる。

 

「!?」

 

右手には璃奈がしがみついていた。

 

「うぉぉ!?なんなんだテメェら!!」

 

「かすみさん!お願いします!」

 

「かすみんタックル~!」

 

追加で背中にかすみがしがみつき、リクは身動きを取れなくさせられる。

 

「くそ!重てぇんだよ!離れろ!」

 

「む、乙女に重いなんて失礼ですよ!」

 

「知るかぁ!」

 

「ほらぁ、早く追いかけないと歩夢先輩行っちゃいますよ」

 

「くそがぁ!!」

 

 

 

―十数分前―

 

 

 

同好会ではとりあえずリクに話を聞くにしろその後どうするかを話し合っていた。

 

「どうあれ、リクさんの要求は受け入れがたいものです。だから、とりあえず話し合いができる状況を用意しましょう!」

 

「どうやって?」

 

「簡単です。リクさんの行動を物理的に封じてあげればいいんです!」

 

どんな作戦が出てくるのかと思いきや、せつ菜の提案は脳筋のアイデアだった。

 

「でも、侑先輩もせつ菜先輩も無理やりどかされたんですよね?危険じゃないですか?」

 

「その点なんですが………リクさんは結構優しい方だと思うんです。私を投げた時もソファを狙ってくれましたし、侑先輩も水に入れられはしましたが、あの場で一番危険じゃない場所を選んでくれました。ですから、その線で行ってみましょう!」

 

その方法がこれだ。もしもなりふり構わず暴力を振るタイプであれば小柄な三人はすぐに吹き飛ばされるだろう。その場合は多少の暴力もいとわないつもりだった。しかし、その心配はなさそうだった。

 

リクは三人を連れたまま無理やり進もうとした。ほとんど前に進めていない。しばらくは何とか進もうと足掻いていたが途中で息が切れて立ち止まる。立ち止まったリクの前に歩夢が戻ってきた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「あのね、実はリク君にお願いがあって、一緒に来てほしいんだ」

 

「は?おいおい、わかってんのか?誘ってんのは俺だぜ?」

 

「もうすぐスクールアイドルフェスティバルっていうお祭りがあるの。それが終わるまで私はここを離れられないから………一緒に手伝ってほしいの」

 

「はぁ?なんだそりゃ………俺はお前が欲しいって言ってんだろ!お前がスクールアイドルとして俺以外の誰かをみてるのは気に食わねぇ。誰が手伝うか……そんなもん、ぶち壊してやるよ!」

 

「じゃあ、私を捕まえないとだね」

 

リクは歩夢に飛び掛かろうとするが三人のおもりが邪魔になって結局前に進めなかった。

 

「……………………わかったよ」

 

少しもがいた後でリクが小さくつぶやくと、せつ菜、かすみ、璃奈は離れた。その瞬間を隙と見たリクは歩夢に手を伸ばしかけるがその手を彼方が捕まえた。

 

「はい、だめだよ~」

 

「……っ!」

 

「次は愛さんたちを連れて歩く~?」

 

さらに、愛、果林、エマと同好会メンバーがぞろぞろと出てくる。最後にリクの前に侑が現れた。

 

「そんな、歩夢以外いらないなんて決めつけるのは早いんじゃないかな?」

 

「なに?」

 

「一緒にやってみようよ」

 

侑は笑顔で手を差し出す。

 

「俺には………歩夢しかいないんだ!!」

 

リクは侑の手をはたいた。

 

「……こんな俺を受け入れてくれたのは歩夢しかいなかった…歩夢しか………信じられないんだ。そんな歩夢が、お前がいると俺の方を見てくれなくなる!!」

 

リクはものすごい剣幕で侑に掴みかかる。しかし、侑は表情一つ変えずにリクに笑いかけた。

 

「本当にそう思う?」

 

「…」

 

「もし歩夢が現直君を……リク君を見てないんなら、ここには来てないと思うけどな」

 

侑の言葉に、リクは横目で歩夢を見る。

 

「ごめんね………わたし、あなたのやさしさに甘えてたのかもしれない!」

 

「それにさ歩夢だけなんてこと、ないと思うけどな。それに、リク君は他にいらないっていうかもしれないけどリク君の周りはそうじゃないんじゃないかな?」

 

「………」

 

リクは周りを見る。周りにいる同好会のメンバーは誰もリクを敵視してはいない。向けられたことのない視線から少しうろたえたリクに対し、愛が接近して肩を叩く。

 

「今度愛さんと一緒に遊ぼうよ!きっと楽しいよ!!」

 

「さ、触るな!」

 

愛の手を振り払うが、その勢いでリクはバランスを崩して後ろに倒れかけた。しかし、それを背後にいたエマが受け止める。それどころかリクの頭を撫で始めた。

 

「よしよし、寂しかったんだねぇ」

 

「やめろ!!」

 

エマの手を無理やり引きはがし、近場の木にもたれかかる。その様子を見て果林が諭す。

 

「そろそろ観念した方がいいわよ?この子たち諦め悪いから」

 

「…」

 

「舞台に出る役に一つとして意味がない役なんてないように、存在意義がない人なんて誰一人いないんですよ」

 

「一緒にやってみませんか?」

 

しずくとせつ菜がリクの前にやってきてに手を伸ばす。そして、歩夢も前に出て手を差し出した

 

「みんなを………信じてみてほしい」

 

周りを観察し、不利だと判断したリクは大きくため息をつく。

 

「はぁぁぁ………わかった!わかったよ!!俺の負けだ!!…………好きにしろ」

 

観念してリクは木の根っこに座り込んだ。

 

「よかった♪」

 

リクが観念すると同時に遥がやって来る。

 

「現直さん…………いえ、リクさん………でよろしいんでしょうか」

 

「近江…遥か。言っとくが俺は、現直のようにうまくお前らをサポートできない。東雲には戻らねぇぞ」

 

「良いんです。それで」

 

「………あ?」

 

「よく考えたら、現直さんが思い悩んでしまったのは、私たちが現直さんに頼りすぎていたことがあると思うんです………最近すごく忙しそうなのもわかってました………だけど、ラブライブが近いからって……現直さんに甘えてました…………だから、少し休んでください。私たちは、私たちで成長しなきゃいけないと思うんです!」

 

「……………勝手にしろ」

 

リクはちゃんと家に帰り、学校にも行くこと、そして学校が終わり次第虹ヶ咲で学園祭の作業を手伝う約束をさせられた。

 

 

 

―翌日―

 

 

 

約束通り、リクは放課後の学園祭準備時間にやってきた。とりあえず同好会の部室にたどり着くと部室内には歩夢と歩夢を連れ去ることを防ぐための抑止力として愛が一緒にいた。

 

「来てくれたんだ」

 

「まぁ、約束は約束だしな。で?何するんだ?」

 

「リク君は裁縫とかってできる?」

 

「できるように見えるか?」

 

「ん~じゃあ……とりあえずこれを一緒に運んでもらえる?」

 

歩夢は部屋に置いてあった段ボールを指さして言った。リクは指示を聞くと特に文句も言わず段ボールを持つ。それを見た歩夢と愛は微笑んで一緒に段ボールを持った。

 

「じゃあ一緒に行こっかリックン♪」

 

「は?」

 

唐突に妙な呼ばれ方をしたリクは眉間にしわを寄せる。

 

「愛さんが今考えたあだ名!」

 

「かわいいねリックン」

 

「茶化すな。さっさと行くぞ」

 

段ボールを運んで行った先の現場では、前夜祭で使うステージの作成が行われていた。運んできた荷物はステージを作るための道具と塗料だった。歩夢は塗料を塗るためのハケを取り出してリクに渡す。

 

「一緒に作ろう?」

 

「………ああ」

 

リクは言われた通りに塗装を始める。思ったより素直に行動するリクに歩夢も同好会のメンバーも驚いていた。

 

その後もしばらく、リクは何の問題も起こさず一緒に学園祭の準備に勤しんでいた。

 

そして、とある休みの日の準備中、リクは歩夢たちに誘われ昼食を一緒に食べることとなった。これは歩夢としずくとせつ菜がよりリクとの間を深めるための作戦だった。

 

「どうぞ!お弁当作ってきました!!」

 

いっしょに食事しようと言っただけだったが、せつ菜はなぜかリクの分のお弁当を作ってきていた。そして差し出された弁当は紫色だった。

 

歩夢は慌ててしずくに耳打ちをする。

 

「なんでせつ菜ちゃんお弁当作ってきてるの!?頼んでないよね!?」

 

「気合い、入っちゃったんですかね………」

 

二人が話している間にリクは差し出されたお弁当の料理を一つ手に取り、口に放り込む。

 

「「あ!」」

 

「…………………どうでしょう」

 

しばらく口の中で咀嚼してから飲み込み、リクはせつ菜を見る。

 

「…うまい」

 

「よかったです!」

 

二人は顔を見合わせて苦笑いをする。リクが味音痴なのか、せつ菜の料理が見た目に反しておいしかったのか知らないがどのみち結果オーライだった。

 

「では私たちもお邪魔します」

 

四人との食事をリクは口数は少ないものの楽しんでいる様子だった。食事を終えてからもしばらく四人で談笑を続けた。

 

「そういえばリクさんは……」

 

話題を振ろうとリクの方を見てみると、リクはいつの間にか眠っていた。それをみた三人は少し笑ってブランケットをかけてやる。

 

「ここ数日のリクさんの言動を見ていて思ったんですが、リクさんはひょっとするとまだ子供なのかもしれません」

 

少し離れたところでしずくは歩夢たちにリクを見ていて感じたことを話す。

 

「子供?」

 

「リクさんの人格がしばらく表に出てなかったとするとリクさんは子供の時に出現してからずっと眠っていたことになります。現直さんの記憶は持っていても経験が伴っていないんだとしたら……」

 

「そういえば、私を連れて行くって言っても場所がはっきりしてなかったりしたもんね。今後私たちだけでどうするかとかもあんまり考えてなかったのかも…」

 

「確かに、作業もずっと指示待ちだったり、隠れるように歩夢さんの後をついて行ったり………乱暴な態度も子供ならでは……ということなんでしょうか」

 

ちらりと眠っているリクを見た。そう考えるとこれまでの言動がすべて可愛く見えてきた歩夢はそっとリクの頭を撫でた。

 

「いつかきっと、リク君とも笑い合える日が来るのかな」

 

「ええ、いつかきっと」

 

そう笑いかけた時、せつ菜のスマホに電話がかかってきた。

 

 

 

続く




ちなみにラブライブらしくしたのはリクと歩夢の話し合いのシーンです。シリアス目にした場合ナイフまで出てくる話になってましたw
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