彼方の近衛   作:瑠和

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ここから大きく物語を変えていきます。原作通りでもいいんですけど、それじゃちょっと面白みに欠けたので。
好き嫌いあると思いますが割と今回は渾身の作です!


第十話 変奏曲♪心からの言葉

合同開催が決定し、無事開催されたその裏で、とある事件は起こっていた。前夜祭の数日前。ヴィーナスフォートのとあるカフェ。そこに嵐珠と瑠和はやってきていた。特に変哲もないいつも通りの二人のデートのようなものだった。

 

カフェに入り、それに気づいた店員が対応のために駆け寄ってきた。

 

「いらっしゃいま…………」

 

「あラ?」

 

「どうした嵐珠?」

 

急に立ち止まった定員と嵐珠を見て瑠和が嵐珠の後ろから顔を出す。瑠和は店員を見て少し驚く。瑠和たちを対応した店員は彼方だったのだ。

 

「彼方じゃない、こんなところで何しているの?」

 

嵐珠はいつも通りの笑顔で質問する。その質問に彼方は一泊置いてから答えた。

 

「………あはは、彼方ちゃんはアルバイトだよ~」

 

「そうだったの!でも、スクールアイドルフェスティバルの準備は?」

 

「今ここ、急に休みが出ちゃったみたいで……今日だけね~」

 

彼方の顔から、また見たことがない少し怖い色が見えていた。瑠和は店を去ろうかと考えたが、立ち去るためのいい理由も思い浮かばずそのまま席へ通される。

 

「ここお肉が多くて嵐珠好きなの!でも今日はケーキが目的なんだかラ!」

 

今日はこの店にその道では有名なスイーツの料理人が来ており、スイーツフェアを行っていた。嵐珠はそれを瑠和と楽しむために来たのだ。

 

「…………そうだな」

 

「見て見て!レインボーケーキですって!これも食べましょ!?」

 

「…ああ」

 

「どうしたの?瑠和?」

 

「え………あ、すまん。何でもない」

 

瑠和はどこか上の空で嵐珠と会話をしていた。いや、会話というよりただ相槌を返しているだけだ。瑠和は自然と彼方を目で追っていた。もう嵐珠との同棲を初めて間もなく3週間だ。彼方と会わなくなってからそれほどの時間が経てばいくら瑠和でも限界が来る。

 

一方の彼方もそれは同じだった。ずっと離れ離れでいたことへのフラストレーションが溜まっていたのだ。そしてそんな中で瑠和と嵐珠が仲良くしているところを見てよりそのもやもやとした感情が高まっていたのだ。

 

そして嵐珠も、どことなく瑠和から感じる妙な雰囲気をそろそろ感じ取っていた。ただスクールアイドルがやりたくて嵐珠のところに来ただけではない。かといって嵐珠を恋人にしたいわけでもない。どっちとも取れない妙な雰囲気を。

 

 

 

―ダイバーシティ―

 

 

 

スイーツを堪能し、帰路についた二人。夕暮れに染まるお台場を歩いていると背後から声がした。

 

「ん?ねぇ!ちょっと!ひょっとして嵐珠!?」

 

「え?」

 

振り返るとそこには赤い髪の女性が立っていた。嵐珠はその女性を見ると、ぱぁっと明るくなって女性に駆け寄った。

 

「薫子じゃない!久しぶりね!」

 

「おっす~。いやぁ大きくなったわねぇ」

 

「ええ、薫子もとっても綺麗になったわ!」

 

嵐珠の古い知り合いかと思って瑠和は口を出さずに、珍しく子供のような態度の嵐珠を見守っていた。

 

「ありがとう。それからそっちにいるのは、ひょっとして天王寺瑠和君?」

 

「え?」

 

初対面だっと思ったはずなのに薫子という女性に名前を言い当てられ瑠和は戸惑う。

 

「栞子から聞いてない?」

 

そう言われた途端、瑠和は薫子の顔つき、そして目の色に栞子の面影を見た。

 

「ひょっとして栞子のお姉さん!?」

 

「当たり~。栞子の姉の薫子。よろしくね」

 

容姿こそ栞子に似ているものの、その態度というか性格は栞子に全く似ても似つかなかった。とても陽気な性格で栞子とは正反対だ。

 

あいさつをした薫子は瑠和に近づき、ググっと顔を寄せる。

 

「………な、なんですか?」

 

「へぇ、確かにアタシたちと同じ眼の色してるわね。っていうことは、見えるんだ」

 

見えるというのは表情を見ると色が見えるという話だ。栞子と同じ眼の色をしていることから何となく察しはついていたが、薫子は栞子や瑠和と同じ感性を持っているらしい。

 

「ねぇ、なんで薫子が瑠和のこと知ってるの?」

 

嵐珠が当然の疑問を抱いて質問してきた。

 

「ん?なに嵐珠、アンタ知らないの?」

 

「?」

 

嵐珠は首をかしげる。その嵐珠の様子を見てから薫子は完全に何も知らないんだなということを察して少し悪い顔をする。

 

「アタシはこいつの義理の姉になりかけたのよ~」

 

「なにいってんですか!」

 

「嘘は言ってないわよ?そうなる未来だってあったわけだし」

 

「そうかもしれませんが!」

 

「瑠和!你是什么意思!?あなた栞子の家に養子になる予定だったの!?」

 

「なんでそうなる!?」

 

嵐珠は嵐珠で変な勘違いをしていた。

 

 

 

―事情説明―

 

 

 

「そう、じゃあ昔の話なのね」

 

中学生時代に瑠和と栞子が付き合っていたことを話すとわずかに動揺したが、昔の話でありもうほとんど関りもないことを話すと少し安心したような表情をしていた。しかし未だに薫子が瑠和のことを一目で瑠和だとわかったことには疑問が残る。

 

「でもどうして別れちゃったのよ。姉の私が言うのもあれだけど……栞子、結構可愛いじゃない」

 

「俺も、別れたくて別れたわけじゃありません。卒業の時に栞子から別れ話を持ち出されて」

 

「そうだったの。でも瑠和がまさか栞子と知り合ってたなんて、嵐珠驚いちゃったわ」

 

「やり直す気はないの?せっかく同じ学校にいるのに」

 

「あいつ自身、俺とやり直す気はないらしいです。俺も同じこと聞いたんで」

 

以前栞子と再開したばかりのとき、瑠和がなぜ虹ヶ咲に来たかを聞いた。回答は偶然であり瑠和は関係ないと言っていたし、その答えに嘘の色も見えなかった。

 

「ふーん、でも、あの子アンタとの写真大事そうに飾ってたわよ?」

 

「え?」

 

意外な事実を話された。それと同時に薫子が瑠和を知っていた理由にもつながった。おそらく、彼氏がいたことは帰国後に話され、写真で容姿を知られていたのだろう。しかし、そんなことより栞子がなぜ別れた相手との写真を今も飾っているのか、それにどういう意図があるのか気になるところだった。

 

「………ねぇ瑠和君。今彼女は?」

 

薫子がにやにやと笑いながら投げかけた質問に瑠和は硬直する。

 

この質問に、「いない」と答えれば瑠和に好きになってほしい嵐珠からすれば心地良い回答ではない。なにせ同棲を初めて3週間、それまでの嵐珠の努力を否定することになる。だからと言って「いる」と答えれば嵐珠を甘やかす結果になりかねない。

 

瑠和は嵐珠に自分のしていることに気づいてほしくて一緒にいるのだ。甘やかすためではない。

 

「…………彼女は…いません。気になってるヤツならいますけど」

 

正解を答えたと瑠和は思った。好きとも言わなければ嫌いとも言っていない。なおかつ気になってる相手の名前も明言していない。最高にあやふやに応えられたと思った。

 

しかし、それは大きな誤算だったことを瑠和はすぐに思い知らされる。

 

「それ、嘘ね」

 

「!!」

 

(しまっ……)

 

薫子は瑠和や栞子と同じ感性の持ち主であることをすっかり忘れていたのだ。嘘は簡単に見抜かれる。そしてそのことに誰よりも早く反応したのは当然嵐珠だった。

 

「それってどういう意味…?」

 

「ん?嵐珠?どうしたの?」

 

薫子が訪ねるが、嵐珠は薫子の方を見ようともしない。

 

嵐珠は昔から薫子が栞子と同じ感性の持ち主であることはよくわかっていたからこそ、その指摘に対する信頼は強い。

 

「……………」

 

とっさにいい言葉が浮かばない。瑠和は頭をフル回転させてうまい誤魔化し方がないか考えるが何も思いつかない。気まずい空気の中、瑠和から噴き出た冷汗だけが流れる。

 

「…まさか」

 

何も答えない瑠和に対し嵐珠はふと以前のことを思い出す。

 

初めて虹ヶ咲に来た時、嵐珠がライブをしたときに瑠和の真横にいたのは彼方だった。その時はただの偶然かと思ったが、さっきのカフェで瑠和が見せた態度。そして、彼方がいたQU4RTZのライブにかなり熱を持って応援していた姿勢。

 

それらのことから嵐珠は何となく察してしまう。いままでなんてことないと思いながら見てきた風景が、一つの仮定を追加しただけでここまで様変わりするとは嵐珠も思ってなかった。そのギャップが、胸を締め付ける。

 

「……………ごめんなさい。嵐珠、帰るわ」

 

嵐珠は席を立って家の方に向かって歩いていく。

 

「嵐珠!」

 

慌てて瑠和が追いかけようとした。

 

「来ないで!!!!」

 

今までに感じたことのないほどの怒りの色。当然ではあるが瑠和はさすがに怖気づく。瑠和は何も言えずに嵐珠が去っていくのを見ているしかできなかった。嵐珠の姿が見えなくなると瑠和は頭を抱えてその場にうずくまる。

 

「あ………あぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」

 

「…あの、いったいどうしたの?」

 

ただ一人状況を読み込めていない薫子が訪ねる。

 

「なんもかんも台無しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

「えぇぇぇぇぇぇ!!!???」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

瑠和は薫子に事情を話した。

 

「なるほどねぇ。でもそれってなんか遠回りじゃない?」

 

「言うのは簡単です。だけど、それじゃあいつの心は持たない。もう、ボロボロなんですよ。あいつの心。だから、できれば気づかせてやりたかったんです。あいつは弱さと折り合うつもりが一切ない。人としては強いかも知れません。だけど、鐘嵐珠って一人の女の子の心はそれについて行ってない。だから俺がいつか、心から笑わせてやりたかった。とんでもない邪魔が入りましたけどねぇ」

 

瑠和は薫子をにらみつける。

 

「悪かったって………しかしまぁ、そんならさっさと行ってあげなさいよ」

 

「…は?」

 

「別に言い訳するつもりじゃないけどね。いつかは迎えた結末だと思うわ。今の状況。それに、初めてアンタに会った時、疲れの色が見えた」

 

「………」

 

確かに、彼方に会えない期間がそろそろ限界だった。

 

それに嵐珠が弱さと折り合うつもりがない以上、嵐珠は瑠和の求める「気づき」に例え気づいたとしても認めない可能性があった。だからこそ、それをいつか口にするべき時を見計らっていたのだが、その時がなかなか訪れなかった。

 

そんなこんなで3週間を過ごしてしまったのだ。良い時期かもしれない。

 

「こんなんでも教師の卵だからね。生徒の相談にも乗るわよ。もし失敗したらフォローにつくから!ほら、急ぐ!」

 

「……………っ!」

 

瑠和は嵐珠の家に向かって走り出した。その後ろ姿を見ながら薫子は軽く微笑んだ。

 

「青春してるわねぇ」

 

 

 

―鐘嵐珠宅―

 

 

 

「………」

 

嵐珠は部屋に飾られた虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のグッズを眺めた。

 

「……嵐珠」

 

そこに瑠和が現れた。息は絶え絶えでここまで走ってきたのは明らかだった。そんな瑠和を横目で確認した瑠和はすぐに窓の方を向く。

 

「何しに来たの………嵐珠のこと、笑いに来たのかしら?」

 

「んな訳ねぇだろ。俺は」

 

「来ないで!」

 

嵐珠の威嚇に一瞬立ち止まるが、瑠和は意を決して前へ出た。そして嵐珠の肩を掴み、無理やり自分の方へ向かせた。

 

「逃げるな!!」

 

「っ!」

 

嵐珠は目にいっぱいの涙を溜めていた。いや、目が腫れぼったいのと頬に跡が残っているところから見るとおそらくずっと泣いていたのだろう。涙を見られた恥ずかしさからか嵐珠は目線を逸らす。

 

「………なによう…………嵐珠のことなんて放っておけばいいじゃない…」

 

「……悪かったな。もっとうまく落とし込んでから事実を話そうと思っていたんだが………どうあれお前を傷つけた」

 

「いいのよ………こういうの、慣れているから…」

 

そういう嵐珠を見て瑠和は嵐珠の涙を拭ってやる。少し可哀そうかもしれないがここは一気に追い込まねば彼女はこのままだと思い、覚悟を決めた。

 

「お前はほんとに……………なぁ、こんな状況で聞くのは間違いかも知れないが嵐珠。俺と一緒に過ごしたこの3週間。どうだった?」

 

「え?」

 

「もしも、俺の事実をお前が知らなかったとして聞かれたと思ってくれ。楽しかったか?」

 

「…………………それは」

 

嵐珠は答えに詰まった感じだった。好きな人と過ごせて幸せだった。しかし、心のどこかで疑問というかもやもやが溜まっていたのも事実だった。

 

「俺はお前の望む答えを言い続けた。例え、それが自分の意思に反していてもだ。初めてお前の料理食った時なんかがいい例だな」

 

「………やっぱり…………」

 

そのことは嵐珠もうすうす気づいていたようで、納得そうな顔をしていた。しかし納得と同時に瑠和に対する怒りのような感情も込み上げる。

 

「なんでそんなことをしたの?アタシを笑うため?馬鹿にするため?」

 

「そんなわけねぇだろ。気づいてほしかったんだ。お前が俺を求める本当の理由に」

 

「………どういうこと?」

 

嵐珠は瑠和の言っていることはよくわからなかった。瑠和は小さく深呼吸して覚悟を改める。これからいう言葉は彼女を大きく傷つけるかもしれないからだ。だが、言わなければこの先、いつかきっともっと傷つくことは目に見えていた。

 

「…………お前は、俺じゃなく俺の目が欲しかっただけなんじゃねぇか」

 

「……………………え」

 

「俺っていう栞子のようにお前の気持ちを理解して接してくれる相手が欲しかったんじゃないのか?すぐそばに」

 

「………」

 

「栞子とは友達の関係だもんな。どんなに頑張ってもいいとこ親友。ずっと一緒にいてくれるわけじゃない。香港に引っ越して離れ離れになったのが証拠。だが男の俺相手なら恋人、行く行くは旦那としてそばにおける。違うか?」

 

刹那、嵐珠の平手が瑠和の頬に命中した。

 

「ふざけないで!!嵐珠がそんな情けない真似するように見える!?」

 

叩かれ、傾いた角度のまま瑠和は瞳だけ動かして嵐珠を見た。憤怒、緊張、不安の色が見えた。口は悪いが温厚な嵐珠がここまで逆上したのは図星だったからだろうと瑠和は感じた。緊張と不安の色がその証拠だ。

 

「………そうじゃなきゃ、あんな悲しい色は見えないんだよ!!!」

 

「!!」

 

瑠和が逆ギレした。

 

「お前を初めてみてからお前からは孤独の色しか見えないんだよ!!一緒にいた時もそうだ!!ただただ、捨てられたくない、わかってほしいって色しか見えなかった!!そんな奴が、今更強がってんじゃねぇ!!」

 

「ち……違っ!だって……嵐珠はっ!」

 

半分泣き目になりながら必死に反論しようとした嵐珠の胸倉を掴んで顔の真ん前で瑠和は叫ぶ。

 

「何が違う!なぜ違う!?いい加減認めろ!お前は孤高を示してはいるが、胸じゃ誰かとの繋がりを求めているんだ!!違うか!?」

 

嵐珠は完全に瑠和の威圧に負けていた。戦意喪失した目を見て瑠和は掴んでいた手を放す。瑠和に離されると嵐珠はそのまま力なくその場に座り込んだ

 

「……………だって………だって!仕方ないじゃない!……………アタシは、誰とも一緒にいられないの!昔からそうなの…仲良くなりたいって思うのに…どうしてもうまくいかない…………最初は良くても、みんなだんだん遠巻きになって、離れて行った…どうやっても人の気持ちがわからないなら………ずっと一人で居ようって………」

 

嵐珠は胸の内を明かした。それを聞いた瑠和は小さく息を吐いて跪き、嵐珠に手を差し伸べた。

 

「……うまくやれなくてもいいさ。孤高の狼になってひとりでやってくのも生き方の一つだ。だけど、そんなの寂しいだろ?」

 

「え?」

 

「俺もそういう生き方してたから、なんとなくわかる。良い子でいるのは簡単なんだ。相手の顔色伺って、相手の望むことをして愛想をよくして……だけど、そんなことをしてたらいつのまにか俺の心は、痛みを感じないくらいボロボロになって…………そんな中で誰かを傷つけてでも手に入れたい人を見つけた」

 

瑠和は嵐珠の部屋に飾ってある彼方グッズを見た。

 

「いいんだよ。誉められなくても。わがままで、自分勝手で、やりたいことを、ほしいものを、自分の大好きを、吐き出してみろ。お前の生きる道に、きっと繋がる」

 

「だけど………」

 

そんな時、バタバタと走って来る音がした。そして家の扉が勢いよく開かれ、誰かが入ってきた。

 

「嵐珠ちゃんがお腹空きすぎて死んじゃいそうだって聞いたよ!だいじょうぶ!?」

 

「しょうがないからコッペパン作ってきましたよぉ!」

 

「クッキーも」

 

「彼方ちゃんのバイト先のまかないもあるぜぃ!」

 

入ってきたのはエマ、かすみ、璃奈、彼方の四人だった。

 

「え……?」

 

「パフォーマンスに悩んでスランプ起こしてるって聞いたよ!?大丈夫!?」

 

「よかったら相談乗るわよ?」

 

さらに愛と果林も来た。

 

「緊張で調子が悪いと聞きました!大丈夫ですか!?」

 

「リラックスできるお香を持ってきましたよ!」

 

「現直君に頼んでフラワーティー作ってきてもらったよ!

 

「大丈夫!?嵐珠ちゃん!」

 

最後にせつ菜、しずく、歩夢、侑が入ってきた。

 

「なんでみんな………」

 

「俺が適当な理由で呼びつけた」

 

確かに内容としてはくだらないものだった。しかし、同好会のメンバーは嵐珠のことを真剣に心配して駆けつけてくれた。

 

格好を見ると皆作業服のままだし彼方に至ってはバイトの格好のままだ。明日のスクールアイドルフェスティバルの1日目に向けた準備の真っ只中、瑠和が入れた連絡一つでそれぞれ用意できるものをかき集め、ここまで来てくれたのだ。

 

「こんなお人好しどもの塊だ。少なくとも、ここじゃ裏切られはしないだろ。だからさ、ここから一歩前へ出てみようぜ」

 

「…………まだ、間に合うの?」

 

「何かをするのに遅いも早いもねぇさ。友達を作るのにもな」

 

「…………」

 

一瞬嵐珠の手が瑠和の手に伸びかけるが、止まってしまった。それを見て瑠和は自分から手を伸ばして嵐珠の手を掴んだ。

 

「!」

 

「いやか?」

 

「…………一日………一日だけ待って……必ずアタシなりの答えを出す。明日のライブには、必ず出るから……一人で考えさせて?」

 

少し後ろ向きな回答だったが、瑠和はその表情からある色を見た。

 

「……わかった。さ、撤退だみんな。嵐珠はもう大丈夫らしい。手土産おいて、さっさと戻ろうぜ」

 

瑠和は同好会のメンバーを押しのけ、さっさと部屋を出ていく。同好会のメンバーはいったい何が起きているのか理解できず顔を見合わせる。

 

「なんなんですかね?この状況?」

 

「さぁ……」

 

「でも、来た甲斐はあった見たいよ?私は瑠和を信じるわ。少なくとも、あの子は無駄なことはしないから」

 

「そうだねぇ。さて、戻ってステージ作りの続きだぁ!」

 

瑠和のこれまで築いてきた信頼があったからこそ瑠和の言動に対し文句を言う者はいなかった。ただ、それによってもたらされる結果だけを待つことにした。

 

 

 

―翌日 東雲学院―

 

 

 

スクールアイドルフェスティバルの1日目が始まった。ステージは順調に進んでいったが間もなく嵐珠の出番だというのに嵐珠の姿が見えないのだ。

 

「大丈夫かな、嵐珠ちゃん…」

 

もしも来なければ初日からステージが失敗したことになるし何より嵐珠への心配が高まっていく。周りがこないことを前提としてスケジュール調整などを始めようとしていたが、瑠和だけはただ、座して待っていた。

 

「あいつは来るさ」

 

瑠和のその言葉に呼応するように、ヒールの足音が聞こえてきた。

 

「待たせたわね!」

 

「嵐珠ちゃん!!」

 

嵐珠は瑠和の前までやって来る。

 

「ステージが終わったら、答えを伝えるわ。だから、そこで見ていて」

 

「ああ」

 

嵐珠はステージに向かった。

 

そして、最高のパフォーマンスを魅せた。相変わらず嫌味なほど完璧な歌声とダンスをさも当たり前のように披露する。流れ、飛び散る汗すら計算され尽くされたように美しく観客の目に映る。

 

瑠和も思わず口角が上がってしまう。

 

ステージを終え、瑠和は同好会のメンバーを集めて待っていた。そこに嵐珠がやってきた。

 

「相変わらずすげぇステージだったぜ。鐘嵐珠」

 

「谢谢、瑠和。それから、アナタたちも昨日も今日も嵐珠のために、ありがとう」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「それで、お話って?」

 

「あのね…………アタシがここに来たのは……………スクールアイドルっていう自分の大好きを表現できることが素晴らしいって思ったから……でも、それだけじゃなくて………アタシは人の気持ちがわからないから………だけど、人の気持ちがわからなくても認めさせることはできるって思ったから……」

 

「…」

 

嵐珠の話をみんな真剣聞いていた。

 

「だけど、実際に来てみてみんなソロのスクールアイドルたちが、同好会として絆深め合っていることに驚いたわ。互いに信頼しあって、ユニットも、それ以上のこともできる………すごく、素晴らしいわ」

 

「ありがとう。嵐珠ちゃんに褒めてもらえて、私たちもうれしいよ」

 

「………。それでね…もしもそれがスクールアイドルなのであれば私にはできない……そう思ってた。だけど瑠和が教えてくれたわ。必死に嵐珠と向き合って、気づかせてくれた」

 

嵐珠は同好会メンバーの顔を見た。

 

「…」

 

「自分らしく生きるってことに。ねぇアタシもみんなの………仲間になれるかしら?」

 

「もちろん!」

 

「言い方がちょっとキツくなることもあると思うの…」

 

「大丈夫だよ」

 

「瑠和に甘えることもあるかもしれないわよ?」

 

嵐珠は彼方の方を見た。

 

「それはちょっと……でも、いやだったら嫌っていう。それが、仲間でライバルじゃないの?」

 

「………嵐珠の…………友達になってくれる?」

 

最後に嵐珠が遠慮気味に聞いた。それを侑は笑って受け入れた。

 

「うんっ!ようこそ!虹ヶ咲スクールアイドル同好会へ!!」

 

 

 

続く




嵐珠とのこの和解が書きたくて必死こいて頑張った………ここ最近よく投稿してましたけど少し休みます………次回は9月7日か再来週の日曜辺りになるかもしれません……。
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