色々カットした部分が多いので急ぎ足になっちゃったかもしれないですが、一期の最終回張りに力作です。
「瑠和、お待たせ!!」
病室に駆け込んできたのはミアだ。果林が来てから少し経った後の出来事だった。
「彼方!君も来ていたのかい?」
「うん。ミアちゃんはどうしたの?」
「僕は瑠和に曲を作ってきたんだ。僕が持てる表現力の全部を使ってとりあえず僕の故郷をイメージした曲を作ってきたんだ。聴いてみてくれ」
「ああ………」
ミアはイヤホンを瑠和の耳につけ、必死に作曲した曲を瑠和に聞かせた。ミアの表情は期待に満ちたようにも、何かから目を背けたいがゆえに別のことに熱中しているようにも見えた。
ミアがそんな表情をしているとも知らず、瑠和は曲を聞く。必死こいて作ったにしても相変わらず魂が籠ってない様に聞こえた。曲自体はとてもいいものなのにいい曲ということ以外に感想が浮かばない。涙も、感情が動いたりもしない。
だが、それを今ミアに伝えてどうなるのであろう。今の瑠和にミアに対してやれることはない。厳しい言葉をかけることもないが、もう手を差し伸べてやることもできない。
「…………いいんじゃないか」
「really!?ありがとう!じゃあまた曲を作って来るよ!」
そう言ってミアは嬉々として病室を出て行った。瑠和の表情は読めないが、ミアに対して言った言葉が本心ではないことを彼方は感じ取っていた。
「瑠和君…………今の…」
「何も言わないでください………もう……………なにも」
食い気味に彼方に行った。すると彼方は申し訳なさそうに笑った。
「………うん。ごめんね?もう、何も言わないよ」
―翌日―
果林が事情を聞いてきた翌日の昼休み、嵐珠、愛、果林は再び西棟屋上に集結した。
「じゃあとりあえず話すけど、絶対にこれ周りには言わないでね?璃奈ちゃんとの約束があるし、何よりかなり厄介な問題だから下手に口外すると面倒が多いわ」
「わかったわ」
「愛さんもお口にチャックするよ!教えてカリン!」
愛は空気が読めるから多少ふざけていても問題ないが、嵐珠はまだ付き合いが短いので若干不安なところもあった。しかし話さないことには何も始まらないので果林は意を決す。
「…………じゃあ、結論から言うわね。瑠和は、視力を失ってはいないわ」
「ええ!?」
「見えてるってこと!?」
「しーっ!声が大きい!」
「あ、ごめん………でも、それ本当なの?」
「ええ。璃奈ちゃんが話してくれたわ。担当医の人には見えてないって言ったらしいけど、璃奈ちゃんにだけは、見えてるって話したみたい」
「…………なんでそんなこと」
「何となくわかる気がするわ。あの目の………いえ?あの感性のせいで瑠和が苦しんできたのだから…」
その感性の最初の犠牲になったのは果林だ。自分の嘘に苦しみ、勘違いから果林に告白してしまった瑠和の行動。それだって瑠和の感性が原因だ。そして、彼方と付き合い始めてからも人助けをするおせっかいな性格とその感性が相まって彼方を傷つけた。
人を助けることもできるが、大切な人を傷つけることも多いその力を瑠和は忌み嫌っていた。
そして今、それを封じることができる合理的な言い訳を手に入れたのだ。
「だからって…………りなりーが可哀そうだよ!そんなこと打ち明けられてどうすればいいのかきっと悩んで………だからあんなに元気がなかったんだ…」
瑠和にとって唯一真実を打ち明けられたのは家族である璃奈だけだった。瑠和も見えているのに見えていないと全員に嘘をつくこと、なにより今回の一件で一番責任を感じそうなミアに嘘をつくことに罪悪感を感じていたのだろう。
だから瑠和は璃奈にだけは真実を話した。それはある意味真実をどうするかはすべて璃奈に託したと言っても過言ではない。みんなに真実を話すのも、話さないのも璃奈次第。璃奈はそういう風に受け止め、思い悩んでいたのだ。
「…………事情は分かったわ。とりあえず嵐珠に少し考えがあるの……………任せてもらっても………いい?」
愛と果林は顔を見合わせる。
「何をするのかだけ教えてもらえる?」
「ええ」
嵐珠は作戦を話した。作戦の内容を聞いた愛は少し考えた。
「じゃあ、愛さんもそれやるよ!何ならみんなでやった方が………」
「ダメよ。こういうのはインパクトが大事。少ない回数で成功しなかったら………瑠和は永遠に真っ暗闇の中。それに、メンバーも絞られてくる」
「………わかったわ。とりあえず準備だけはしておくわ」
嵐珠の言い分に納得した果林は取りあえずの協力を約束した愛も同様だ。
その日はそれで解散になる。放課後、嵐珠は瑠和の様子を見に病院に行った。病室につき、ドアを開けるとそこには彼方と瑠和がいた。
「気持ちいい?瑠和君」
「はい、彼方さんの膝枕も最高です」
「そう?そう言ってもらえて彼方ちゃん嬉しいなぁ」
彼方は瑠和に甲斐甲斐しく膝枕に耳掻きなどをしている。部屋に置かれたイヤホンや本、フルーツの皮などを見ているとそれは目を包帯で覆って何も見えない瑠和ができるようなことではなく、彼方がやってあげたことだというのが何となく伝わってきた。
「晚上好、瑠和、彼方」
「お?嵐珠か」
「嵐珠ちゃん、こんばんは~」
「彼方、スクールアイドルの練習はいいの?」
「ん~?瑠和君もそんなに長く入院するわけじゃないから、退院までの間だけだよ~。それにぃ、まだ見えない生活が慣れない瑠和君には誰かが必要だしね~」
「ありがとうございます。すみません、ご迷惑を」
「気にしないでいいよ~。瑠和君の彼女なんだし~」
「………」
どこか、彼方の態度に違和感を感じた。そういえば今日の昼休み、昨日瑠和と彼方に違和感を感じたと果林が話していたのを思い出す。嵐珠は違和感の正体を探ろうと近くに座って二人を観察する。
しばらくは談笑をするだけで違和感に気づけなかったが、あることをきっかけに嵐珠はその正体に気づく。
「すいません彼方さん、水もらえますか?」
「うん、はいどうぞ」
その瞬間を、嵐珠は見逃さなかった。
彼方がペットボトルを差し出したとき、瑠和は手探りをする様子もなく、そのペットボトルにまっすぐ手を伸ばし、掴んだ。瑠和の目が見えていることは知っていたから瑠和の行動に対して疑問は思わない。よく見れば目のあたりの包帯があまり重ねられてないので、何となく周りの景色はみえているのだろう。
しかし、それ以上に驚いたのはそのことに彼方は何も言わなかったことだ。目が見えない相手の看護にしてはずいぶん阿吽の呼吸で相手任せなところが目立つ看護だった。
それが違和感の正体だった。
ここまで証拠が出揃えば、仮説を立てるのは十分だった。
「………嵐珠ちゃん?どうしたの?」
「…いいえ。何でもないわ」
そのまま嵐珠は居座り続け、面会終了の時間まで一緒にいた。そして、瑠和の病室を出てからしばらく無言のまま病院の階段を下りていく。そして、もうすぐ一階につくというところで嵐珠は足を止める。
「………?どうかしたの?」
急に足を止めた嵐珠を彼方が気にした。
「ねぇ彼方。アナタ、本当は気づいているんじゃない?」
嵐珠の問いに主語はない。しかし、なんのことをいってるかは、何となくわかった。
「…気づいてるって、何が?」
「……………瑠和の目が見えてるってこと」
「………なんのこと?」
少し間を置いてから答えた。その間は、瑠和が視力を失ってないことに気づいている証拠のようなものだった。
「アナタの行動、少し違和感があった。瑠和の目が見えてるのがわかってるって感じの動きだった」
「………仮にそうだったとして、見えないなんて嘘ついて瑠和君がどんな徳があるっていうの?」
「本人が言ってた通り、もう人の顔色を伺わなくて済むってだけで瑠和にとっては徳しかないでしょう?」
「………」
「そしてそのことに気づいていないことにすれば、瑠和は彼方からもう離れないで済む」
「…っ!」
嵐珠のいう通りだった。彼方は瑠和の目が見えていることにとっくに気づいていた。だが、その茶番に付き合えば瑠和はもう他の人間のところにおせっかいに行くことはない。彼方も瑠和のサポートを名乗ればずっとそばにいられる。
ずっと寂しい思いをしてきた。そんな彼方にとって、今の状況は願ったり叶ったりだった。
「本当にあなたはこのままでいいの?」
「………だって…瑠和君がそうしたいなら………彼方ちゃんはその気持ちに応えてあげるしかできないから……っ!」
「…それが本当に瑠和のためになるって思ってるの!?」
「…」
嵐珠の指摘に彼方は顔を逸らす。本当に瑠和のためになるかなんてわからない。だけど、どうするのが本当に瑠和のためになるのかなんてわかるはずない。
「…………もし、このまま何もしないなら、彼方とのことを嵐珠は止めない。だけど、いつか必ず瑠和を奪うわ」
「……」
彼方は俯いている。そんな彼方を横目に、嵐珠は先に下に降りて行こうとした。そして、すれ違いざまに嵐珠は呟く。
「一週間後、ダイバーシティでライブをやるわ。もう一人か二人くらいなら歌える余裕はある。参加するのはあなたの自由。もし来ないなら、瑠和は私が奪っていくことになるわ。忘れないことね」
嵐珠は足早に病院を出て行った。
「………」
―虹ヶ咲学園 学生寮―
嵐珠は病院を出てから学生寮に戻ってきた。しかし、向かったのは自分の部屋ではなくミアの部屋だ。
「ミア、ちょっといいかしら」
インターフォンを押してドアの外から声をかけたが反応はない。
「………ミア?寝てるの?」
そっとドアノブを回してみる。開いたドアの先に広がるのは、散乱した生活ごみと衣服、そして薄暗い部屋の奥でパソコンの明かりに照らされるミアの姿だった。
「ミア!!なによこの部屋!!」
ミアもまだ子供とはいえだらしないわけではない。整理整頓はしっかりできる伊達に飛び級してるわけではないのだが、いまの部屋の有り様は果林をも凌駕するであろう有り様だ。
「…」
「ミアってば!」
ミアはヘッドフォンをしているせいでなにも聞こえてなかったようだが、嵐珠がすぐ横に来るとようやく嵐珠のことに気づいた。
「嵐珠…よく来たね、ほら見てくれ!次に瑠和に聞かせる音楽だ!」
「…」
PCに打ち出された譜面は普段のミアらしからぬ楽曲だった。美しくもない。なにか行き所のない気持ちをぶつけたようなガタガタな譜面だった。
「ミア………」
「これでまた、瑠和を喜ばせられるよ!」
嬉々として報告するミアの顔は疲れ切っていた。半ば壊れているというような感じだ。深夜テンションが行き過ぎてしまったのだろう。
「ミア、こんな曲で本当に瑠和が喜ぶと思うの?」
「…は?はは、瑠和は僕の曲を誉めてくれたんだ!だったらそれは瑠和が満足してるってことじゃないか!」
「それはあなたが瑠和の優しさに甘えてるだけよ!」
かつて、瑠和の優しい嘘に踊らされた嵐珠にとってまるで以前の自分を見ているようだった。現場を見た訳じゃないが、はじめて瑠和の前でライブをしたときの瑠和の表情は、瑠和に与えた衝撃は以前のミアの曲だからこそできたのだ。
いまのミアでは瑠和にあの日以上の衝撃を与えることは不可能だ。
「ついこの間までその優しさに甘えて、踊らせれていたのはどこのどいつだい!?」
流石にミアもカチンときたのか言い返す。
「そうね、確かにそうだった。だけどアタシはそのおかげで気づけた!アタシのあるべき姿を!でも、今瑠和がアナタを甘やかしているのは瑠和自身のため!アナタのためじゃないわ!」
「…っ!」
そんなことだろうと薄々気づいてはいた。だけど、その優しさに甘えでもしないと、ミアは責任感で押し潰されそうだった。
「…ひとつだけ教えておくわ。瑠和は視力を失ってなんかいない」
「…………え?」
嵐珠の言葉にミアは困惑した。
「だけど瑠和は視力のある生活に戻ろうとはしない。それはアナタのせいでも何でもない。瑠和が他の人の顔色を見たくないから。だけど…このままじゃいけないって嵐珠は思う。そして、そんな瑠和を暗闇の世界に留まらせるか、再び光を見せるか、それはあなた次第よ。ミア」
「………」
「アナタも責任感から逃れるためにこんな無茶苦茶な曲作るくらいなら………フェスティバルで歌わなかったこの未完成の曲、もう一度あなたに預けるわ。どうするかは………アナタに任せる」
「…」
嵐珠は玄関に向かった。そして、出ていき際に振り向いた。
「アナタは私のパートナーなんでしょ?だったら、この最高のプレイヤーである鐘嵐珠にふさわしい曲を作りなさい?できなければ………あなたとの契約もそれまで」
「…………」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―一週間後―
瑠和は璃奈にダイバーシティまで連れられてまで来た。まだ瑠和は目を頼らず歩くことには慣れていないので車いすに乗っている。今日ここでなにが行われるかは一切聞いていないが、肌で感じる空気はどこか懐かしくそして緊張感のある空気だった。。
「いったいなんだよこんなとこまで」
「とにかく、ここで待っててほしい」
「…?」
璃奈に言われた通り待っていると突如ステージライトが照射される音が鳴り、それと同時に歓声が沸き上がった。
『很高興見到你!!鐘嵐珠のステージにようこそ!!』
「嵐珠の………ひょっとしてライブか!?」
「そう」
ステージライトに照らされる嵐珠をミアは群衆の中から見つめていた。
(……僕の作った最高傑作だ。瑠和の心を動かせないはずがない!頼んだよ嵐珠、証明してくれ、僕の力を)
ミアはあの日からこの一曲を作ることだけに没頭していた。そしてついに嵐珠の新曲を完成させたのだ。そしてその曲で、瑠和の心を動かせると確信していた。
『嵐珠は今日、ここに集まってくれたみんなのためのステージをするわ!だけど………その前に嵐珠の想いを伝えさせてほしいの!』
「…」
『嵐珠はここにきているある人に伝えたい!世の中は残酷な事ばかりで目を反らしたくなることばっかりよ!だけど………何も世界のすべてを見ないことはない。アタシが教えてもらったみたいに、みんなに支えられることの大切さ!今度は嵐珠が教えてあげる!』
瑠和以外には意味の通じない演説だが、それでも嵐珠はステージの上から伝えたかったのだ。そこが鐘嵐珠の最も輝ける場所だから。
「…嵐珠」
嵐珠の演説が終わると、中華テイストのイントロが流れ始める。
「噂で聞いた?まさに私が that’s right!誰もが憧れちゃうの(Yes, I’m so special)♪」
それは嵐珠のすべてを体現したような歌詞とメロディだった。嵐珠はこの曲にすべてを賭け、全身全霊で「見てほしい」と訴えかける。
「でもまだ足りない、尽きることない野望。是的、我是最好的!!何もかも、あなたの全てを支配してあげる
さあ見ていて頂戴!熱いハートを、これから成す革命を!!♪」
歌詞でも瑠和に対し、全力で見てほしいと直接投げかける。このライブに瑠和の今後がかかっていると言っても過言ではない。だからこそ、嵐珠は自分の持てるすべてをぶつけていく。
「The Golden time!始まる予感 未知なる世界が(Hurry up! Hurry up!)常識なんて拜拜!I make! 切り開くの!手に入れてみせるわ(Hurry up! Hurry up!)指図はNo! 我不会允許!目が離せないでしょ?Come on! Come on!The Golden time!始まる予感 未知なる世界が(Hurry up! Hurry up!)無問題!Welcome to the Queendom!!♪」
嵐珠は瑠和に必死に手を差し伸べる。もっと素晴らしいセカイを見せてあげる。だから、暗闇に閉じ籠らないで、こっちを見て。
そう必死に語り掛ける。
璃奈は瑠和の方を見た。瑠和は俯いている。音楽に集中しているのかと思ったが違う。両手の拳は強く握り、歯も強く食いしばっていた。
「お兄ちゃん…」
葛藤しているのだ。嵐珠のステージが見たい気持ちと、このまま暗闇の世界で生きていたい気持ちが。
「拒まないで 解き放って……求めるがままに 私が奏でる旋律(Sha-lala……)待ってるわ 随时欢迎❤」
ある種の愛の告白にもなりそうな言葉を恥ずかしげもなく投げかける。
「始まる予感!未知なる世界が(Hurry up! Hurry up!)常識なんて拜拜!I make! 切り開くの、手に入れてみせるわ(Hurry up! Hurry up!)指図はNo! 我不会許!目が離せないでしょ?Come on! Come on!The Golden time!始まる予感 未知なる世界が(Hurry up! Hurry up!)無問題!Welcome to the Queendom♪」
曲が終わると同時に嵐珠は全力を出しすぎたのか、少しふらつく。
辺りから発生している歓声すら彼女の耳には届いていない。ただひたすらにひとりの人物を見ようと必死だった。
荒い息を整えながら瑠和の方を見た。瑠和の目に、包帯は巻かれたままだ。その事実に、嵐珠は目を見開いた。悪い夢でも見ているんじゃないかと思うが間違いなくこれは事実だ。
瑠和の心を変えることができなかった。ショックに打ちひしがれ、その場に崩れ落ちそうになった刹那、嵐珠の背後からスモークが発射される音が聞こえた。
「!?」
振り返ると、嵐珠がいた階段の踊り場のステージのその先、さらに上の踊り場にスモークが立ち上っている。スモークが晴れた先にいたのは彼方だった。
「彼方!?」
「なんだ!?なにが起きたんだ!?」
「彼方さんが……嵐珠さんの後ろに………出てきた」
―一週間前―
「侑ちゃん」
その日、彼方は瑠和の見舞いにはいかずに部室に向かおうとしている侑のところに来ていた。
「彼方さん、今日は瑠和君のところ行かないんですか?」
「ねぇ侑ちゃん。いま急ぎで作曲してる曲ってあるかな?」
「え?いえ………趣味で書いてる曲ならありますが…」
「彼方ちゃんの作曲……手伝ってほしいんだ」
「…はい!」
二つ返事でOKを出した。
なぜ、なんて疑問はわかなかった。その彼方の真剣な瞳を見ればどれだけの想いで彼方が作曲をしてるかなんてすぐにわかった。
彼方と侑は二人で曲を書き上げた。この時、彼方は他のメンバーには助けを求めなかった。
嵐珠も周りに助けは求めなかったことは知っていた。だからこそ、フェアな立場で彼方は勝負したかったのだ。瑠和のことももちろんあったが、恋人として、負けられない意地があったのだ。
―現在―
彼方はスモークが完全に晴れ切ると手を瑠和の方に伸ばす。
『伝えるよ。彼方ちゃんの想い』
そういうと曲の伴奏が流れ始めた。
「Break down!立ちあがれるんだ!何度だって!彼方まで広がる…風斬れSilent Blaze!!♪」
かつてない彼方らしからぬ激しい曲調に瑠和を含め、その場にいた全員が圧倒される。以前書いた曲のようなやさしさと不可思議さを合わせたような曲ではだめだと彼方は感じていた。どこまでも瑠和を圧倒する、殴り飛ばすような勢いと励ましの言葉が必要だと思っていた。
「小さな手のひらに、零れ落ちそうな願い……心に咲いた花は誰にも摘み採れない………いくつものトキ、迷い、追い越して………確かな光やっと見つけたよ♪」
それは、彼方のことを歌った歌詞だった。聴いているだけの瑠和も何となく何が言いたいかは分かった。
「逃げることは簡単にできただろう、泣きたくなって悔しくてたまらない!♪」
逃げることは簡単にできた。その通りだ。瑠和の目が見ないことを言い訳に、何もしないでいたらきっと瑠和はもう離れることもない。しかし、それじゃだめだということはわかっていた。わかっていたのに一度でもその考えに走った自分が情けなくて、悔しかった。
「Break down!立ちあがれるんだ!何度だって!彼方まで広がる、秘めた可能性!♪」
例え、この先、人の表情の色を見ることで傷つくことがあったとしても、それだけじゃない多くの可能性がある。
「運命だとか、勇往邁進!その笑顔が宿したんだ……さぁ突き進もうか風斬れSilent Blaze!!♪」
彼方が運命にも恐れず突き進む勇気、それは誰でもない。瑠和にもらった勇気だ。
彼方のパフォーマンスに、歌に圧倒されていた璃奈が真横で大きな音がしたことに驚いて瑠和の方を見る。瑠和が乗っていた車いすは倒れている。それほどの勢いと共に瑠和は立ちあがっていたのだ。
瑠和は血が滲むほどの力で拳を握っていた。
(俺は………何をやってるんだ…………生まれ持った境遇を盾に、妹を、恋人を、仲間を傷つけて……………心配させて……そのうえで逃げて………。嵐珠が、彼方さんがこんなに素晴らしいライブをやってくれてるのに、目を背けて!)
「この世は、変化自在に塗り替えられる物語(ストーリー)、胸(ここ)に灯された情熱の先へ行こう………♪」
瑠和はハッとした。
(塗り替えられる………もし、そうなら……今日までの自分が、許されるなら…。もしこの先傷ついても、彼方さんが世界を塗り替えてくれるのなら………っ!共に歩めるのならっ!!!!)
胸に、灯が灯った気がした。
瑠和は目を覆っていた包帯を掴み、一気に解いた。解かれた包帯が宙を舞い、歯を食いしばり、目をつむっていた瑠和は包帯が外れると同時にステージを見た。
一瞬ぼやけた景色が広がるが、すぐに焦点が定まり、ステージ上の彼方の姿が目に映る。
美しい、そんな言葉しか浮かばない自分が少し情けなくなるほどの姿だった。
彼方と目が会う。ようやく暗闇から抜け出した瑠和の姿を見ると彼方は小さく笑った。
「Break up……もう、大丈夫だね♪」
それは瑠和に向けての言葉だった。
「過去(キミ)にさよなら……信じることできたよ…Oh!yeah!!♪」
過去の弱い自分と瑠和に別れを告げ、今の自分たちを信じた彼方は歌う。誰のためでもない自分たちのために。
曲もそこから一気に盛り上がり、演出の炎さえ感情の昂ぶりが放ったものに思える。
「Break down!立ちあがれるんだ!何度だって!彼方まで広がる、秘めた可能性!運命だとか、勇往邁進!その笑顔が宿したんだ……さぁ突き進もうか、衝動のままに………どんな自分に出会えるかは、挑んだ先に待ってる、走れ!Believe my way!!!!風斬れSilent Blaze!!♪」
この先、どんな自分に出会えるかは勇気を持って進んだ先でしかわからない。だけど、もう瑠和は何も恐れていなかった。彼方と、仲間を信じて自分の道を進むと決めたから。
―ステージ裏―
ステージを終えた彼方が控室に戻ろうとしたとき廊下の奥から駆ける足音が聞こえてきた。
「彼方さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
瑠和は彼方に思いっきり飛びつく。以前もこんなことがあった気がする彼方は瑠和を受け止めるが、男子の体当たりに等しい抱き着きにさすがにバランスを崩す。しかし瑠和は彼方が後ろに倒れる前に自分自身が軸に変わり、彼方を抱きしめながらぐるぐると振り回す。
「あぁぁぁぁぁ!!!うあぁぁぁぁぁ!」
もはや言語になっていない叫びを瑠和は泣きながら全力で発する。
「もう、興奮しすぎだよぉ」
そういう彼方は少し目に涙を溜めていた。事故に遇ってからほぼから元気のような笑顔の瑠和ばかり見てきた。こんなに感情的な瑠和を見たのは久しぶりだった。
「だって、だってぇぇぇ!!」
「うん、うん、大丈夫だよ。彼方ちゃんはそばにいるから」
「俺もです………もう絶対に、絶対に、離しません…愛してます、彼方さん……」
そんな様子を、廊下の影に隠れながら嵐珠は見ていた。
「行かないの?その晴れ着、見てもらうチャンスじゃない?」
そこに果林が来た。今回のライブを知っていたのは同好会の中でも愛と果林、璃奈くらいだった。侑も日程までは聞かされていなかった。
「果林………いいのよ。もう完全に嵐珠の負け。敗者は大人しく影で見守るとするわ」
「……」
「昔から、嵐珠はほとんどのことで負け知らずだったわ。勉強も、遊びも………スクールアイドルとしての輝きだって、誰にも負けてるつもりはなかった……」
「…嵐珠……」
「久しぶりに思い出したわ……………負けるのって…………こんなに悔しいことだったのね…」
顔を背けているが嵐珠の声は震えていた。そしてだんだんと嗚咽がかり、嵐珠は両手で顔を覆って涙を流す。果林はその涙に見覚えがあった。もう手に入らないとわかった時に自然と溢れた、かつて自分も流した失恋の涙。
果林は何も言わず、嵐珠の横で壁に寄りかかって黄昏る。
「うぁぁぁぁぁっ!あぁぁぁぁん!!」
「………」
(悔しいわよねぇ…………選ばれないことって)
廊下の奥から聞こえてくるもう一つの涙の声を彼方は聞き取っていた。もしかしたら今耳元で泣き叫んで着る瑠和にも聞こえてしまうかもしれない。
そう考えた彼方は瑠和を連れて控室に入った。
しばらく瑠和は泣きじゃくっていたが、少しずつ落ち着いていった。
「落ち着いた?」
「はい…………すいません。みっともないところを見せました…入院してからずっと」
「ううん。彼方ちゃんもずっと同じような感じだ………あれ?」
泣き止んだ瑠和の顔を見ると、普段とは何か違うことに気づく。なにが違うのかよくわからずじっと瑠和の顔を見つめる。
「は、恥ずかしいですよ彼方さん…」
瑠和は照れながら涙を拭う。そのしぐさで彼方は違いに気づいた。
「瑠和君……眼の色が違う?」
瑠和の目の色は栞子と同じ赤みがかったオレンジだったが今は璃奈と同じ黄金色だった。
「ああ、視力は失ってなかったんですけど………どうやら、頭打ったせいかもう色が見えないみたいなんです。これはさっき気づいたんですけどね」
以前栞子と少し話したとき、瑠和や栞子の目の仕組みについて話したことを思い出す。
栞子の見解だが、あの感性は人の表情の「形」に特定の色を覚えるのではないかという話だった。今回の事故で頭を打った瑠和は脳にダメージを負い、その感性の機能に支障をきたしたのではないかと瑠和は話す。
「もう、前みたいに気の効いたおせっかいは出来なくなりますけど、だけどそれでよかったのかもしれない」
「え?」
「彼方さんのそばに、今度こそずっと一緒にいられますから」
「………」
瑠和の言葉の意味を、少し経って彼方は理解する。手を口許に当て、瞳を輝かせた。事故に遭ってよろこぶわけにはいかないが、それでも嬉しく思わずにはいられなかった。
ずっと、離さないと言われてもどこか信用しきっていない自分がいた。それは瑠和を疑っているのではなく瑠和の感性を信用できていなかったからだ。それがなくなったと言うことは名実ともに瑠和は彼方の近衛であることを約束したのだ。
「瑠和君」
「はい?」
彼方が瑠和の名前を呼んでから1秒経たずに彼方と瑠和の唇は重なった。彼方のやわらかい唇が瑠和の唇に当たってから彼方の衣装が翻る。
「…」
一瞬驚いたが、瑠和はすぐに彼方を受け入れて抱きしめた。
続く
タイトルにある「ダルセーニョ」は以前のタイトルで使った「セーニョ」に戻って繰り返すという意味がある楽譜記号です。以前の関係に戻ったということを表してみました。二期のことを全く考えてなかった割に良くここまで来たなぁと思います。かなり満足感がありますがまだミアが同好会入りしてないし、合宿やそのほかにも最終回に向けた長編もあるのでまだ続きます。
それからグソ……平安名すみれちゃん!誕生日おめでとう!スパスタでの推しです!!他の推しはレンレンとオニナッツですの~!あと作品違うけど佐城雪美ちゃんもおめでとう!!
P.Sちょっと仕事が忙しいのでまた少し休みます。2週間位で戻ります。それより早く戻るかもしれませんが(笑)
歌詞は下記より引用
Source: https://www.lyrical-nonsense.com/lyrics/lanzhu-zhong/queendom/