これにてミア編も終了。あとは合宿含めた最終章へ!!ちなみに前々回辺りから出てる女医さんや現直の母はとあるキャラ達をイメージしてます。わかるかな?
少し短いですが今回もお楽しみください。
彼方が歌い終わると、さっきよりも大きな歓声が辺りを埋め尽くす。自分の作った曲と、それを歌った嵐珠に向けたものではない。初心者に毛が生えた程度の作曲者と、プロに指導を受けたわけでないアマチュアのアイドルが行ったライブに向けられたものだった。
しかし、そんな陰で絶望に打ちひしがれる人物がいた。
誰あろうミア・テイラーだ。
歓声の中で目に涙を浮かべながら抱き合う兄妹を見つめ、ミアは逃げるようにその場を立ち去る。
―ミア・テイラーの部屋―
叩きつけられるように扉が閉められる。衣服やごみで散らかった部屋をかき分けるように進み、ベッドに置かれた枕を掴んでベッドを思いっきり殴る。
「shit!!What does it mean!?can't understand!!!!」
喉を壊す勢いで叫びながらベッドに八つ当たりする。叩きつけられる枕が衝撃に耐えきれず中の羽毛を宙を舞わせた。
羽毛が舞い降りる中、息を切らしながらミアはぺったんこになった枕を壁に投げた。
「嵐珠は最高のプレイヤーだ………さっきだって今まで見てきた中で最高のパフォーマンスだった。僕だってこの一週間、全力で作曲した。僕のすべてを賭けたんだ………なのに………なんで」
テイラー家の人間として、音楽で結果を出せなかった。その瞬間、かつての記憶がフラッシュバックした。ミアは口を手で押さえ、トイレに駆け込む。
「うえぇぇ………はぁ…はぁ…」
幸い胃袋の中身をトイレにぶちまけることはなかったがひどく気分が悪い。この気分をどうにかするにはどうするべきか少し考える。
「そうだ………曲を作ろう。全員に認めさせられるだけの曲を………」
ふらふらと部屋に戻り、PCの前に座る。何かにとりつかれたように、ミアは作曲を始めた。
「音楽で………結果を出さなきゃ…」
―週明け―
週が明け、瑠和も間もなく退院できる運びとなった。女医に実は目が見えていたことを話すとそのことには気づいてたらしい。
「気づいててなんで何も言わなかったんですか?下手したらあなたの評価にもつながるかもしれないのに…」
「どう感じるかは患者さん次第でしょ?目で見てわかることなら指摘するけど、感性の問題なら本人の意見を尊重するし………なにより」
「なにより?」
「アナタは愛されてるって思ったから」
同じ部活っていうだけであんな遅くまで手術が終わるのを待っていてくれた友人たちを見て、きっと仲間に支えられ、一番いい方向に行ってくれるだろうと思ったらしい。
「………ありがとうございます。優しいですね」
「は、はぁ!?何それ、イミワカンナイ!」
というようなやり取りがあったことを瑠和は笑いながら璃奈に話した。
「そうだったんだ、いいお医者さんでよかったね」
璃奈の声がいつもよりワンオクターブくらい高い。理由はずっと璃奈ちゃんボードを顔の前に置いているからだ。今日は来てからずっとこんな調子だ。璃奈がそうしているのは何か理由があるのだと瑠和でなくてもわかる。
「………璃奈、何かあったか?」
「……何もないよ、璃奈ちゃんボード「にっこりん」」
「………俺はもう人助けの役には立てないかもしれないが、話を聞くくらいならしてやれる。もしよかったら話してくれないか?」
「………」
璃奈は少し考えてから璃奈ちゃんボードを降ろす。少しだけ表情が暗い。
「この間のライブから、ミアちゃんが休んでるって侑さんから聞いた。心配だけど……私じゃきっとなにもできないし、お兄ちゃんにもう迷惑かけたくない…」
瑠和はそれを聞くとクスリと笑って璃奈の頭を撫でた。
「何言ってんだよ。大切な妹のために出来ることならなんでさせてくれ。それにな、璃奈は優しい性格だから、何もできないなんてことない」
璃奈のくしゃくしゃになった髪を軽く直しながら瑠和は少し真面目な顔をする。
「人を助けるのに理由が必要か?璃奈のいいところは、人の気持ちに寄り添えるところだ。俺はもう人の顔色が見えない。誰彼構わず問題に首を突っ込んでみんなに迷惑をかけることはないが、もう助けてやることもできない」
「………人に…?」
「ああ、以前ミアの顔色見た時、嘘の色が見えた。せつ菜が嘘ついたときにすごく似ている嘘の色。きっとミアはなにか、本当にやりたいことがあるんだ。でも俺はもうそれが何なのか暴くことはできない。だから、人に寄り添える優しい璃奈が、ミアのこと助けてやってくれ…」
スクールアイドルフェスティバルのときも璃奈がミアを誘っていたことは知っていた。ずっと一人だった璃奈は一人で作曲するミアの気持ちを理解できたからだと瑠和は思った。だから璃奈がミアの事情を聞くのが最適だと思ったのだ。
瑠和は鞄から割れた石を取り出して璃奈に渡す。第一回目のスクールアイドルフェスティバルからずっと預かりっぱなしだったものだ。
「お兄ちゃん…」
「役に立てないけど、勇気を分けるくらいはできる。璃奈が俺にしてくれたように」
「………わかった。頑張ってみる」
璃奈は石を握って病室を後にした。
―翌日―
翌日の放課後、璃奈は意を決してミアの部屋を訪れる。インターフォンを鳴らしても何も反応がない。
「………」
再度インターフォンを鳴らしてみるが反応はない。しかし、少ししてから部屋の中からずるずると何か引きずるような音がし、扉がゆっくり開かれた。
「なんだよ………僕は作曲で忙しいんだ」
「ミアちゃん……?」
部屋から現れたミアは目の下にひどいクマがあり、髪はぼさぼさだった。とても健全な14歳には見えない姿に璃奈も驚愕する。
「大丈夫!?」
「だから、何の用だよ。用事がないなら帰ってくれ。それとも僕を笑いに来たのかい?笑えばいいだろ?瑠和に光を取り戻させようと必死に作った曲は瑠和の心に届かなかったんだからな!!」
「笑わない…この間から学校に来てないって聞いた………心配だから、来た」
「…………関係ないだろ。放っておいてくれ」
冷たく言い放し、部屋に戻ろうとしたミアの腕を璃奈は掴んだ。
「放っておけない!ミアちゃんは一緒にフェスティバルを盛り上げた仲間だから!」
「うっざいなぁ!!!放っておいてくれって言っただろ!!!」
ミアは璃奈の手を勢いよく振り払った。怒鳴られ、腕を振り払われた璃奈の驚いた表情を見て、ミアはさすがに少し申し訳なさそうな顔をした。
「………」
「すごいクマ……髪もぼさぼさだし、ちゃんと休んでる?」
「………ごめん、熱くなった」
「誰にだってそんなときはある。とりあえずベッドで休もう」
璃奈にいわれ、ミアは部屋の中へ行く。ベッドに散乱する衣服やごみを適当に退かしてミアはベッドに入り込んだ。
「…………ダメだ…作曲をどうするかってことでばっかり頭がいっぱいで、全然眠れないんだ」
「……じゃあ、子守歌歌ってあげる。伴奏がついてなければ、きっと音楽のこと忘れられると思う」
「そんな、子供じゃないんだし…」
ミアは嫌そうな顔をしたが璃奈はお構いなく歌い始める。少し強引にでもミアに近づく姿勢が大事なのだ。
「………青空がある限り、風は、とき運ぶよ……♪」
「その歌………」
ミアは少し前の記憶を辿る。そうだ、鐘嵐珠に声をかけられ、曲をつくってほしいと言われたときのことだ。前回のスクールアイドルフェスティバルの動画を見せられた。その画面には天王寺瑠和がいて、璃奈が今歌っている曲を歌っていた。
ミアが両親の知り合いの歌手に比べれば全然下手とまでは言わないが正しくアマチュアというような歌声。だけど、その歌には信念というか大切な人を想う気持ちが乗っていた。その時から瑠和という男を一目見て見たいと思っていた。
そして、あの日一人でいた時現れた瑠和。初めて会った時からずっと気をつかわれていたことは何となく感じていた。瑠和が顔色が見えるが故だった。
あの日からずっとミアの中にあった一つの想い。
それを思い出しながらミアはいつの間にか寝息を立てていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ん………」
しばらく眠っていたミアは自然と目を覚ます。まだ少し眠い気もするがミアは身体を起こした。起きたミアが最初に目にしたのは散らかりっぱなしだったのに綺麗に整理整頓された部屋だった。
「what happened?」
「あ、起きた?」
ミアが驚いているとそこにちょうど外出していた璃奈が帰って来る。
「璃奈……君が片づけてくれたのかい?」
「うん。それから、これ買ってきた」
璃奈はハンバーガーの入った袋を差し出す。
「そんな、部屋の片付けまでしてもらって、受け取れない!」
しかし、ミアのおなかは言葉とは裏腹に音を鳴らして空腹を訴える。
「あ………」
「一緒に食べよう」
ミアは顔を赤くしながらハンバーガーを受け取り、一緒に食事を始める。もう何日もまともな食事をしてないミアにとって、好物でもあるハンバーガーは五臓六腑に染み渡るおいしさだった。
「そういえば、これもずいぶん食べてなかった…」
「……食事は大事」
「………」
璃奈と一緒に食事をしていると、瑠和と一緒に昼飯を食べていた時期を思い出す。しばらくしずかに食事を続け、食べ終えてから少し経ってミアは自分のことを話し始めた。
「あの曲に、すべてを賭けていたんだ。瑠和の心を動かせれば、それは瑠和だけにとどまらず多くの人々の心に刻まれる、そうすれば、やっと結果が出せるって思ったのに」
あの時の瑠和は完全に参っていた。そんな瑠和すら元気にできたのなら、普通の人はもっと感動する筈、しかしそれは簡単に越されてしまった。
「どうしてそんなに結果が欲しいの?今のミアちゃんはとっても苦しそう。苦しんでまで、結果が必要?」
「必要だよ!だって僕は、ミア・テイラーなんだから!音楽で認められなきゃ、僕に価値はない…」
「ミアちゃんはミアちゃんだよ、価値がないなんてこと、ない」
「ダメなんだよ!もう僕には、曲を作るしかないんだから!テイラー家の娘として、せめてそれくらいは果たさなきゃいけなんだ………」
ミアは自身の過去について語り始める。幼いころは歌うのが好きでいつも歌っていた。ある時、家族と共にステージに立つことになったがその時、ミアは初めてテイラー家の名前の大きさを知ったのだ。何千もの目が、「テイラー家の娘」である新しい歌手に向ける期待の眼差しを、彼女は恐れた。テイラー家の名で歌う意味を知ったミアは、せめてテイラー家の娘として恥じぬように作曲を努力してきたそうだ。
「歌えないテイラー家の娘に、価値はない。だからせめて、自分にできることでこの世界に居場所を作ろうとしたんだ………嵐珠を、何なら瑠和まで利用して、ようやく手が届くと思ったのに」
肩を落とすミアの手に、璃奈はそっと自分の手を重ねる。
「でも、ミアちゃんは今、ここにいるよね?ここは、ミアちゃんの居場所にならない?私、ミアちゃんの歌、聞きたい」
「…ダメだよ!だって…」
「ミア・テイラーじゃなくて、ミアちゃんの歌が聴きたいな。テイラー家がどんなものか私は知らない。でも、歌が好きならその気持ちをなかったことにしないでほしい」
璃奈は立ちあがり、ミアの前に立って手を差し伸べた。
「ミアちゃんにもっと、楽しんでほしい。ここなら、きっとミアちゃんの望むものを叶えられる!」
「ボクが望むもの………」
ミアは動画の中の瑠和を思い出す。たとえうまくなくても、大切な人に想いを届けたい一心で歌う姿。何者にもとらわれず、縛られずに歌う姿を見て、ミアは天王寺瑠和をずっと、とてもうらやましく想っていた。
ミアはそのことを思い出しながら璃奈に手を伸ばす。
「歌いたい………歌いたいんだ!」
心の中でずっとあった願い。それは気づけば心の隅に追いやられ、それがあるのに気づきながらも目を背け続けていた。その願いを、ようやくミアは口にした。
「うん。夢を叶えるのが、スクールアイドルだよ」
ミアの手を取り、璃奈は引っ張った。
「そう………だね…ここが、僕のたどり着きたかった場所なのかな……」
ミアは天に手を伸ばす。
―二週間後―
あのライブから二週間が経った。瑠和はこの日、退院できるはずだったのだが、学校終わりの璃奈に目隠しをされながら病院の屋上まで連れてこられた。
「ついた。目隠し外すよ」
「ああ」
目隠しが外され、屋上の全貌が目に入る。屋上にはミア・テイラーと同好会の面々が揃っていた。
「ミア………」
「瑠和。今日ここにキミを呼んだ理由は他でもない。曲を聞いてもらいたいからだ」
「……」
瑠和は一瞬ミアを訝しみ、璃奈を見た。璃奈は何も言わずに頷く。そして、同好会の面々を見て瑠和はミアの言葉の真意を汲み取る。
「そうか」
「安心してくれ。もうあんな未完成の曲は聞かせやしない…………初めて会った時から君には感謝しかない」
「俺がなにした?」
「本当の僕を引き出そうとしてくれてたろ?だけど僕は自分に自信が持てなくて君の手を何度も振り払った。だけど、君が事故に遇って、ライブで侑の曲に負けて、自分の弱さを実感した。本当にしたいことに目を逸らしながらいい曲なんて作れるわけなかったんだ。弱さを認めて初めて僕は強くなれた。これから聞かせるのは僕の本当の気持ちだ。受けとってくれ」
ミアが指を天に掲げる。その瞬間、辺りが輝き、別世界に連れていかれたような気がした。
ミアは歌う。使命感や瑠和への礼の気持ちなんてものではない。ただ純粋な歌いたいという気持ちのまま。
ミアの曲は全編英語だった。瑠和は頭が悪いわけではないが初めて聞く英語の曲をネイティブな発音含めて完全に訳せるほど優秀ではない。歌詞の半分の意味も分からなかった。しかし、そんなことは瑠和にとって重要でもない。
ミアが自分の大好きをさらけ出した。それだけで満足だった。
歌い終わり、ミアが期待を持った眼差しでこちらに歩み寄ってきた。
「どう………だった?」
「それがお前の本当にしたかったことか?」
「…………ああ!」
力強い返事だった。瑠和は笑ってミアの頭を撫でる。
ようやくすべてが終わった気がした。ミアに笑顔が戻り、同好会のメンバーの中も円満だ。瑠和がもう気にすることも心配なこともなくなった。このメンバーでスクールアイドルを続けられるのはもう半年もない。精一杯彼方と思い出を作ろう。
瑠和はそう誓った。
続く
今回はほぼ本編通りって感じでしたが本編だと璃奈がミアに入れ込む理由が薄く感じたので追加しました。嵐珠ももう入っちゃってるしミアも入部する理由が必要だからね。
そういやZOZOのコラボもうすぐ終わります。皆さん予約しました?私はしました。出費がえらいことに……