彼が彼女を彼女か彼を愛していることはわかっている。だけどなぜ?どうして?
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「ん…」
カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされ、アスカは自然と目を覚ます。目には入るのは天井。久しぶりに天井のあるところで眠れた。
ここは天王寺璃奈の部屋。アスカはそこを使うことを許された。パジャマは最初璃奈のモノを借りたが色々とサイズが合わず結局彼方のモノを借りた。起きたあと最初に目に入ったのは第一回スクールアイドルフェスティバルのときの集合写真。
「………近江彼方、朝香果林、エマ・ヴェルデ、ミア・テイラー…………そして、鐘嵐珠、三船栞子……」
―瑠和の部屋―
カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされ、瑠和は自然と目を覚ます。目を開けた先にいたのは彼方だ。瑠和は彼方の寝顔を見て笑う。
付き合ってからの学校のすやぴ時間、合宿のとき、そして、彼方と同棲をはじめてからの日々。起きて彼方の寝顔を眺めるのが瑠和にとって一番幸せな時間だった。
「彼方さん…」
彼方の頬をそっと撫で、瑠和は彼方を起こさない様にベッドを出た。冬の寒さが本格的になってきた。ベッドを出るのに少し勇気がいるが三人分の朝食を用意しなければならない。
「ふぁ……ん?」
部屋を出て居間に向かおうとしたが、璃奈の部屋が開いているのが見えた。
急遽増えた居候、虹乃アスカには璃奈の部屋を貸すことにしていた。瑠和が開いているドアの隙間から部屋をのぞいてみると、中でアスカが何かを見つめているのが見えた。
「……」
「何見てんだあいつ……」
眼を凝らすとみているものは数か月前の第一回スクールアイドルフェスティバルを終えた後の集合写真だった。
「…」
ファンであれば見つめる理由もわからなくはない。瑠和はアスカを放って朝食の準備を始めた。
―数十分後―
「朝ごはんできましたよ」
「ありがとうございます」
「ありがと~」
今朝はトーストに目玉焼き、サラダ、ヨーグルトの一般的な朝ごはんだ。しかし、テーブルの中心においてあるジャムは瑠和の手作りだ。彼方にも璃奈にも同好会のみんなにも評判はいい。それを説明するとアスカはまた不満げな表情をしていた。
「はぁやだやだ。男のモテ自慢ほど聞く気になれない話はありません」
「まぁ食べてみなって」
嫌悪感をしめすアスカの口に彼方がジャムを塗ったトーストを突っ込む。
「………市販品とかわりませんね」
「そう?彼方ちゃんは美味しいと思うけどなぁ」
相変わらずなぜか瑠和には冷たい。しかし瑠和も少しは慣れてきたので特に気にはしなかった。
―横浜―
本日はかすみの提案したお泊り会の日だ。瑠和たちは電車に乗って横浜まで向かう。
「なんで俺がお前の旅費片持ちしなきゃならんのだ」
「だって私お金持ってませんし。一番お金持ちな瑠和さんに払っていただくのが合理的かと。そ・れ・にィ、アナタは私を拾ったんですから、責任取ってくださいね」
「面倒なもん拾っちまった…」
瑠和は大きくため息をつく。電車賃だけならまだしもここから先のしばらくの食費を瑠和が見なければならない。見捨てられないと言ってしまった以上面倒を見ないわけにもいかない。
「ちゃんと面倒見れてえらいねぇ瑠和君」
彼方が瑠和の頭を撫でて慰める。そんな姿アスカは悲しそうな表情で眺めていた。そんなアスカから何かを感じたのか、璃奈がアスカの顔を覗き込む。
「どうかしたの?」
「え?いいえ!何でもありません。お泊り会、楽しみですね!」
「うん」
かすみが提案したお泊り会。それは横浜、鎌倉を2日間にわたって堪能するという新人の交流会を含めた宿泊会だった。まずはショッピングに赤レンガ倉庫まで来た。
「さっそくレッツゴー!!」
つくや否や愛がさっそくショッピングしに突っ込んでいく。
「え?ちょ、ちょっと待ってくださぁい!!」
「ほら、かすみんもいこうぜ!!」
瑠和と彼方がかすみの腕を引っ張って行った。残されたメンバーもばらばらとショッピングに向かう。そんな中、一緒に歩くエマと果林の背後にアスカが近づく。
「あ・さ・かさァ~ん♪」
「あら、アスカちゃん」
「よかったら一緒にショッピングしませんか?エマさんも」
「うん、いいよ!果林ちゃんもいいよね?」
「ええ、もちろんよ」
「よかったです!私、おすすめの場所があるので案内しますね!」
エマ、果林、アスカは一緒にショッピングを始めた。三人で色々と歩いて回っている間、アスカは少し本屋によることを提案する。本屋に入った三人は目当ての本がある場所に行くべく、本屋の中で自然と別れて行動する。そんな中、一人になった果林の背後にアスカが忍び寄った。
「何か用?」
背後にいるはずのアスカの気配に気づき、果林は背後を見ずにアスカに聞いた。
「あら?バレちゃいました?」
「ずっと違和感みたいなのを感じるのよ。私は瑠和や栞子みたいな感性はないけど、アナタの言動が気になってはいる」
振り返ってアスカを見て見ると彼女は怪しげに笑っていた。
「ウフフ、鋭いですねぇ。でも、所詮それはアナタが勝手に言ってるだけ」
「ええ。だからどうこうはしないけど、私は今の同好会が気に入ってるわ。もしあなたがそれを崩す気でいるなら……」
そこまで言ってアスカが急に俯いた。
「アハ、あはははは!相変わらずなんですねェ!朝香さん♪」
「なにか、おかしかったかしら?」
「いいえ?ちょっと不快にさせちゃいましたねェ。申し訳ありません。安心してください。私は知りたいことがあるだけ。同好会に何かするわけじゃないです」
「じゃあ?なに?」
「朝香さんは以前瑠和さんと付き合っていたって聞きましたけど、本当ですか?本当なら………それはなぜですか?」
意外な質問であった。果林は少し考え、目を逸らす。
「…場所を、変えましょうか」
――
「アナタの質問に答える前に聞かせてほしんだけど、アナタはそれを聞いてどうするの?」
「…………私は知っています。同好会の人間がどういう人間が集まっているのかを。好みや、考え、それぞれがやりたいステージ。だけど、天王寺瑠和と、それぞれが思っている感情や色恋沙汰までは知らない。ただそれだけ」
「本当に?」
「はい、私は知りたいんです。皆さんのことを、もっと、もっと」
「瑠和のことも?」
「もちろん♪」
果林は少し考える。知りたいのはわかるが目的が見えないからだ。知ってどうするのか、そこが怪しいところだ。この少女はまだ謎が多すぎる。
「あなた…………一体何者?」
「知りたい?」
急にゾッとするような笑みを浮かべてきた。それに少しビビりながらも果林はあくまで余裕を見せながら対応する。
「ええ、是非とも」
「でもまだだーめ。貴方が私のことを知る機会は必ず訪れる。だから、まだ秘密…です♪」
アスカの態度はすぐにいつも通りに戻った。一瞬見えた気迫のようなもの。一体それはなんだったんだろうかと思いながら果林は一旦落ち着く。
「…そう。じゃあもう一つだけ質問するわね?」
「なんでしょう?」
「あなたのスクールアイドルへの想い。それは本物なの?」
「はい♪私はスクールアイドルが大好きです。果林さんに負けないくらい」
さっきの気迫溢れる表情と違い、今度は本心から話しているように見えた。さっきも同好会に何かするわけではないと言っていたし、果林はとりあえずアスカを信用することにした。
「そう………じゃあ、何から話しましょうかね」
「果林さんは、瑠和さんのどんなところを好きになったんですか?」
「瑠和の?そうねぇ…」
果林は目を閉じて少し考える。これまでのことを思い出しながら思い出に耽る。
(お前は大好きを叫びたくて始めたんだろ!?だったらそれを貫けよ!ラブライブなんて関係ない!!!!ラブライブに出られないことがお前を苦しめるんなら!それが衝突を生むなら!!ラブライブなんて出なくていい!!!)
(違う…っ!違うんだ璃奈!!俺のせいなんだよ…お前がそんな風になったのは全部……全部俺のせいだ!)
「……まっすぐで、お人好しで、だけど自分のことになると不器用で…。そんな彼が愛しかった。唯一心を許せた存在。だけど、守りたいとも思った。そんなあの子のこと、いつの間にか好きになってた」
果林は笑った。その笑顔は普段大人っぽい果林とはかけはなれ、ただの一人の少女の様だった。
「…」
アスカは驚いていた。なぜ驚いたかは彼女にしかわからない。しかし、ただ一つ言えることは、果林の表情はアスカにとって珍しかったということだ。
「最初に告白したのはどっちなんですか?」
「え?うん…まぁ一応瑠和ね。だけど、告白って言えるかどうかわからないけど。そもそも付き合ってたかどうかも、よくわからない」
「どういうことですか?」
「さっきも言ったでしょう?あの子、自分のことになると不器用になるって。特に瑠和は感情に敏感だったから。自分が彼方を好きなんだって気持ちを理解できなくて、一緒にいると居心地がいい私を最初に選んだの」
「…」
「だから私が瑠和の背中を押してあげた。私を彼方の代わりにするなってね。それだけよ。私と瑠和の関係は」
「…そうですか。だいたいわかりました。あとは、エマさんと楽しんできてください」
アスカはそう言ってその場を後にした。アスカが何を考えているかはわからない。しかし、また面倒ごとに巻き込まれそうなのは見てとれた。
「…瑠和も苦労するわねぇ」
ー集合場所ー
アスカは果林と離れた後、一足先に集合場所に来て少し難しそうな顔をしていた。
「…」
「あら、アスカ」
そこに嵐珠が現れた。
「嵐珠さん!まだ時間がありますよ?」
「あ、うん…そうなんだけど……」
嵐珠は少し目をそらす。なにやら訳アリっぽいのでアスカはそれ以上なにも訊ねなかった。しかし、少しだけ前髪をずらし、普段隠れている左目を露にして嵐珠を見た。
「………よかったらみなさんが来るまで一緒にお話でもしませんか?」
「え?ええ!そうね」
嵐珠はアスカの隣に座る。
「嵐珠さんに会えて光栄です」
アスカは他のスクールアイドルよりも物珍しげに嵐珠のことを見た。
「そう?ありがとう」
「嵐珠さんはなぜ日本に来てスクールアイドルを?」
「スクールアイドルフェスティバルを見たからよ。そこでみんなの輝きと、瑠和を見つけたから来たの!」
嬉々として経緯を語る。そこに再び瑠和の名前が出てきたことにアスカは眉をひそめる。
「なんでまた瑠和さんなんですか?」
「一目惚れしたの。一目惚れしたし、瑠和が人の顔色を読み取ることができるってわかったから」
「…瑠和さんだったら、裏切らない、そう言うことですか?」
「ええ。嵐珠……その、友達ってあんまりいなかったから………」
嵐珠はそのまま日本に来てからなにがあったかを事細かに話した。告白したこと、同棲していたこと、同棲は瑠和の思いやりでその時点で既に瑠和と彼方は付き合っていたこと、彼方とライブで勝負したこと。
「…嵐珠はスクールアイドルとしての実力だけは誰にも負けてないつもりだった。でも、あの日の彼方には負けたわ」
「だから…もう諦めたんですか?」
「ええ。これ以上は瑠和に嫌われちゃうもの。まだ付き合いの短い嵐珠でもあの二人の恋仲の深さはよくわかったから。瑠和はきっと何をしても彼方から離れない。それは彼方も一緒。それが………わかっちゃった」
「そうですか…」
それから、とりあえず全員が集合したあとはスポーツで連帯感をアップと言う名目でなにやらバレーが始まった。
歩夢からのトス、しずくのレシーブ(?)と続き、愛がかすみ目掛けて最高威力のアタックを放つ。かすみが返せる速度出ないことは目に見えていた。
しかし、かすみとボールの間にアスカが割り込み、愛の強力なアタックをトスした。
「!!」
上空にボールが跳ねる。驚いているかすみに対してアスカはすかさず指示を飛ばす。
「かすみん部長!エマさんにレシーブ!」
「え、は、はい!」
落ちてきたボールをかすみがエマにレシーブする。
「エマさんアタック!!」
「うん!」
おっとりしていて目立つことは少ないが、エマは結構体格がいいし背も高い。つまりはバレーをするには恵まれた体格なのだ。アスカの指令に驚いていた愛たちはエマのアタックを防ぎきれなかった。
「すごいねアスたん!今の動きヤバかったよ!」
「ウフフ、お褒めに預かり光栄です。私、スポーツは得意でしてよ?剣道、弓道、野球、サッカー、バスケ、バレー、なんでもござれです♪」
「愛ちゃんみたいだね~」
「愛さんもこんなに機敏に動く人久々に見ちゃってびっくりしちゃった!これは、ちょっと本気出しますかね!」
「望むところです!」
みんなでスポーツをして連帯感をアップという話しはどこへやら、いつのまにか愛とアスカの勝負になってしまった。
「運動神経抜群な愛と互角…しかも司令塔としても機能する頭のキレの良さ…ただ者じゃないな」
「その格好で言ってもカッコつかないわよ?」
瑠和は彼方の膝枕で寛ぎながらアスカを観察していた。そんな瑠和の姿を見ながら嵐珠がツっこんだ。
「まぁまぁ、カッコなんて気にしないで気楽にね」
そう言って彼方は嵐珠の膝に横になった。
「彼方!?」
「すやぴ」
待機組がマイペースな空気になっていたとき、試合組になにやら変化が起きた。それは、アスカチーム(元かすみんチーム)の司令塔となっていたアスカが急にぐっと胸を押さえた。
「…っ!」
視界がぐらぁっと歪み、目に見える景色がすべて青空に変わる。それは即ち、アスカが仰向けで倒れたことを意味していた。
「アスたん!?」
「アスカちゃん!」
アスカが急に倒れた。待機組のメンバー含め同好会全員がアスカに駆け寄る。
「おいっ!大丈夫か!?」
「………ふふ、ごめんなさい。ちょっと気合い入れすぎちゃった」
「大丈夫?貧血?それとも熱中症か脱水?」
「ごめんなさい。秘密にしていたんですが、私長く激しく動いていると急に胸が苦しくなっちゃうんです」
「そんな…大丈夫なの?」
「………医者によると、原因はよくわからないみたいで。身体は健康な筈で、中学くらいまでは普通にスポーツもできたのに。こんな持病持ちじゃ、スクールアイドルは向いてませんよね」
「……自分でそう思うのに、なんでここに…?」
「知りたかったから………スクールアイドルを、虹ヶ咲学園のスクールアイドルを…皆さんを」
ほんの一瞬、アスカの表情が和らいだ。今まで笑顔も嫌な顔も、すべてどことなく演技臭かった彼女から初めて垣間見えた本心な気がした。
「アスカ…」
「休めば大丈夫です。すいません、みなさんの楽しいお時間を…」
「…休めばいいんだろ?だったら俺らと交代だ。復活したらまた楽しめばいいさ」
アスカの体調不良を誰も責めることはない。そのまま待機組と入れ替わった。
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それからバレーは待機組と変わり、最終的には全員の試合が行われた。アスカを中心としたチームと瑠和を中心としたチームでの試合が行われ、白熱した戦いになったがアスカのチームの勝利となった。
バレーが終わったあと、同好会は横浜から鎌倉へ電車で移動する。
「さぁ!どっちですか!?」
アスカは一年生組と共にトランプをしている。バレーの試合後に再び倒れたがすっかり元気になった。
みなそれぞれ簡単な遊びなどで移動中の時間を潰しているなか、相変わらず彼方と瑠和は二人でいちゃついている。
「仲睦まじいところ大変申し訳ないのだけど、少しいいかしら?」
「果林さん」
果林が現れ、椅子を回転させて二人の前に座る。
「なぁに?瑠和君はあげないよ?」
彼方は瑠和を抱き寄せる。
「そう言うのじゃないわ。あの子、アスカのことよ」
「アスカちゃん?」
「ええ。率直に聞くけど、あなたたちはどう思う?アスカのこと」
「…」
彼方と瑠和は顔を見合わせる。
「なんというか、不思議な子だよね」
「そうですね」
「………あまり話していい話しでもないと思うけど、横浜であの子と話してたの。内容は瑠和との恋沙汰」
「…なんでそんなことを?」
「さぁね。他にも瑠和と関わりが深かった部員に話を聞いてるみたい」
「…」
「あの子は知りたいだけって言ってたけど、その理由にも違和感がある」
普通のファンがアイドルのことを知りたいと思うのは普通だ。しかし、アスカの場合知りたいことがアイドルとしてよりも個人としての情報を求めているような気がしている。
「アスカが本当に知りたいのはいったい、誰のなんなのかしらね」
続く