ある日のヴィーナスフォート教会広場。虹乃アスカは教会のステージを見つめる。片手に握られているスマホには彼方がステージで歌っている写真が写っている。
「ここが、始まりの場所…………」
アスカはそのまま場所を移動する。次に来たのは東雲のスーパー付近の公園。そこにあるとあるベンチにやってきた。
「………約束………夢……」
ベンチを見つめるアスカに海風が吹く。その風に髪がたなびき、普段は隠れている左目が見えるようになる。長く伸ばした前髪に隠されていたのは、赤みがかかったオレンジ色の、栞子やかつての瑠和と同じ瞳だった。
「私は、何をすればいいんだろう」
風も冷たくなってきたある日、一人の少女のつぶやきが秋の空に溶けた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―同好会部室―
この日の同好会部室では同好会が部になるんじゃないかという話題で持ちきりだった。しかし、今の同好会には目指すべき目標もない。しかし、かつてはラブライブを目指していたことを新入部員たちに話した。
かつては目指した大きな舞台を目前に、同好会は一次崩壊。しかし、瑠和や侑の働きで復活したことを聞いた。
「その時の瑠和先輩ってば本当に情熱的で…」
「だからその話はやめろ…」
しずくが当時の話を熱く語る。危うく墓場まで持って行ってほしいセリフまで言われそうになった。瑠和は顔を真っ赤にしてしずくを抑える。
「瑠和さんが、そんなに同好会を想っていたなんて思いもみませんでした」
「はいはい、いつも変わらず毒舌なこって。まぁ実際。俺は……」
瑠和は一瞬彼方の方を見た。
「なんだかんだ、彼方の歌うところが見たかっただけだよ。大好きを叫ぶ瞬間が」
「…で、実際どうするんですか?私はどちらでも構いませんが」
部へ昇格するのか、しないのかという話だ。部に昇格すれば一度は諦めたラブライブへのエントリーも夢ではない。
「僕も同じ意見だ。歌えればそれでいい」
「私もです。ラブライブだけが、すべてではないと、皆さんに教わりましたから」
皆、今が楽しければそれで良いようだ。本格的にどうするかは今後決めるとして、とにかく今は控えているテストのために学年ごとにテスト勉強をすることとなり、その日は解散となる。
「私は一人で勉強しなきゃできない性質なんで、図書室にいますね」
「え?一緒にやらないの?」
「はい。申し訳ないです」
アスカは一人でやった方がいいと言って一年生たちのグループから抜けてしまった。まぁ本人がそれでないとできないというのであれば無理に引き留める理由もないだろうととりあえず別れた。
一方でこちらは二年生グループ。お手洗いにいっていた歩夢が部屋に戻ろうと歩いていると、先の廊下を誰かが横切るのが見えた。
「………侑ちゃん?」
廊下を歩いて行ったのは高咲侑に見えた気がした。どこかに用事があったのだろうか。そう思いながら部屋に戻ると、そこには侑がいた。
「あ、歩夢おかえり」
「侑ちゃん?さっきあっちの廊下にいなかった?」
「え?私はずっとここにいるけど…?」
疑念を抱いた表情で周りを見るが、嵐珠も愛も瑠和も侑は動いていないはずだという表情で歩夢を見る。
「……見間違いだったのかな」
―図書室―
虹ヶ咲学園の図書室でアスカは椅子を並べてそこに横になっていた。そして、何かを見つめながらため息をつく。
「いつになったら……」
そんな時、誰かが図書室に現れ、横になっているアスカの近くまで来た。
「アスカちゃん♪」
「…?」
声のした方に視線を向ける。そこには高咲侑が立っていた。
「侑さん………?」
「迎えに来たよ♪」
そう、不敵に笑う侑を見て、アスカはぞっとする。見た目はどうみても高咲侑だが、その輝きのない瞳からは侑とは違う何かを感じ、アスカは飛び起きて戦闘態勢を取ってしまう。
「…………誰です…っ?」
やや息を荒くしながら訪ねたその問いに、侑は少し驚いたような顔をしてから再び怪しく笑う。
「へぇ、案外気づけるものなんだね。確かに私は、「高咲侑」じゃないよ」
「じゃあいったい……」
「そうだなぁ。ナタとでも呼んでよ。うん。可愛いなこの名前」
侑のような誰かは自分のことをナタと呼べと言う。いったい何者なのかはわからなかったが、アスカに言った「迎えに来た」という言葉から何となくその正体をアスカは察した。
「……で?いったい何の用です?」
「大した話じゃないよ。あなたを迎えに来たんだ♪アスカちゃん。アスカちゃんがこれ以上ここにいると、大変なことが起きる。わかっているでしょ?」
「………」
やはりかという表情でアスカは気まずそうにする。二人にしかわからない会話が広がる。アスカが目を反らしながら黙ったところ見ると、ナタという人物がいう言葉は正しいらしい。
「確かに、あなたの言うことは正しいです。ですが………私は、まだ全部を見ていない」
「…………既にあちこちおかしくなりつつある。このままじゃ、瑠和君にすべてを背負ってもらうしかなくなる。それかアナタが……」
ナタは憐れむような眼でアスカを見た。
「それでもあなたはここに残ることを選ぶの?」
「…だってこれは、あの人が始めた物語だから………。選ぶ権利はあの人にある」
何かを悟ったような表情でアスカは笑った。その反応を予想だにしてなかったのか、ナタは驚いた表情をした。
「………わかったよ。でももし気が変わったなら、早めに伝えてね」
「ちょっと待ってください!あなたは…」
手を伸ばしたが、そこに既にナタはいなかった。代わりに、ぞろぞろとかすみたちが入ってきた。
「あれ?アス子何してんの?」
「いえ………何でも。どうしました?」
「一通り終わったので探しに来たんです。一緒に帰りましょう」
「クレープでも食いに行こうぜ。また奢ってやるよ」
「…………そうですね」
瑠和の顔を見てアスカは小さく笑った。
同好会は帰り道でクレープ店に寄り、皆で集まって食べた。一見すると楽しそうな放課後の一ページのように見えるが、その空気はどこか重いものがあった。
それは、やはり皆の心のどこかに部への昇格の話があるからだろう。表面上は明るく取り繕っても、いや、取り繕っているからこそ余計にその空気が生まれているのかもしれない。
そんな中一番取り繕えていないのがかすみだった。それをまわりに気にかけられたことでかすみは決意を固める。
「あぁぁ~もぉぉ!皆さん!部の昇格のこと!今ここで決めちゃいませんか!?……とはいっても、かすみんはまだはっきりした答えが出てないんですが……」
「やっぱり、まだ少し考えてみてからの方が…」
「でも!こうやって悩んでる時点で違うかなっておもうんですぅ!!」
そう強く反論するのはかすみ自身がこの同好会を大切にしているからだろう。
「そうかもしれません……」
「私たちはいつも団結しているわけじゃない……」
皆、思い思いの言葉を口にする。それは同好会だからこそいまの同好会がある。よって部ではなく同好会だからこそいいのではないかという意見が多数だった。
「………決まりだn」
「待ってください」
皆の意見を聞き、侑が立ち上がって結論を出そうとした。その声を遮るようにアスカが立ち上がった。
「アスカさん…?」
「まだ、皆さんに私の実力………お見せしてないですよね」
「え……」
「部への昇格の話。私の歌を聞いてからまた考えていただけませんか?」
アスカは全員の前に立ち、人差し指を立てて天を指す。
刹那、その足元が、空気が、音が、その場の全てが彼女のステージに変わった気がした。
「I can see the starlight………♪」
その衝撃を受けるのは今年でもう何度目だろうか。もう色なんか見えなくなったはずの瑠和にも、世界の色が変わったのがよくわかった。
「You can see the starlight……♪」
いままでチャンスがなかったのでアスカの実力というものがなんだかよくわかっていなかったのだが、今目の当たりにさせられてこれまでの妙に自信家のような態度にも納得いく。嵐珠の洗練されたダンス、果林の完璧な音程の歌唱力、愛の激しくも体の魅せ方を理解した動き、彼方の見ている物を何とも言えない感覚に陥らせる態度。
それらをすべて併せ持ったようなパフォーマンスでアスカは歌い、踊る。
「求めれば求めるほどにFly! Fly! Call me!時を舞うstarlight!!♪」
歌い終わると、いつのまにやら周囲に観客が集まっていた。皆、彼女の歌声に、踊りに魅了された者たちばかりだ。
「…………申し訳ありません。盛り上げすぎました。少し場所を変えましょう」
―潮風公園―
「いかがでしたか?私の歌は」
「すごかったよ!!私完全にときめいちゃった!!」
侑は相変わらず感じでテンションを上げていた。
「まさかこんな実力をお持ちだったなんて。早く言ってくださればよかったのに」
「嵐珠も、すこし妬いちゃうくらい上手かったわ」
侑以外も口々に感想を言う。みんなから認められ、褒められている状況だというのにアスカは笑ってはいなかった。
「ありがとうございます。ではさっきの話に戻させていただきますね。正直な話。私と、嵐珠さん、果林さん、彼方さん、愛さん………このあたりの実力があれば、ラブライブの優勝を狙えると思っています。無論、他の皆さんも負けず劣らずの実力はありますが」
「……」
「………同好会だから、好きなことができた。間違いではないでしょう。ですが、あなた方が築いてしまった成果をあなた方自身は理解してますか?」
「え?」
「他の学校のスクールアイドルを巻き込んで行い、大成功したスクールアイドルフェスティバル。そして、二回目に至ってはさらに大規模に成功させてしまった。あなた方は満足でしょうが、この先の未来………特にあなた方がいなくなってから入る新人たちのこと、考えてますか?」
「それって……」
「この先、同好会は大きなプレッシャーに晒されるでしょうね。フェスティバルを考案し、成功させたグループとして。なぜラブライブに出ないのか問い詰められ、フェスティバルを行っても「あの」虹ヶ咲学園のスクールアイドルだからと期待され、一定以上の実力を求められる。自分の大好きなんて叫ぶ暇なんて生まれない」
「そんなこと…」
「あるんですよ!!!!」
せつ菜の言葉を遮るようにアスカが叫んだ。
「そうやって自分の大好きが叫びたいだけの人が苦しむくらいなら!部にして最初からハードルを上げた方がいい!!ラブライブにも出て優勝すれば!気軽に入ろうなんて誰も言わなくなる!せっかく入ったのに練習についていけないって言って夢をあきらめる人もいなくなる!!!」
「アスカさん……」
「………っ!」
まだ何か何か言いたそうな表情をするが、場の空気を察したのかアスカはそれ以上は何も言わずに走り去っていってしまった。
「アスカ!!」
瑠和がすぐに追いける。
しばらくアスカは瑠和の視界に入っていたが、さすがは愛に匹敵する体力の持ち主であるだけあってどんどん距離を離されて行ってしまう。
「んのやろぉ!!」
その時、瑠和の目の前に誰かが現れる。瑠和はすぐにその人物を避けて走ろうとしたが現れた人物の顔を見て止まる。
「!?」
「ダメだよ。少しくらい一人にして泣かせてあげないと。女の子の扱いがなってないよ」
「何言ってんだよ………侑!」
「違うよ。私の名前はナタ。侑ちゃんに似てると思うけど」
瑠和の前に現れたのは先ほどアスカの前にも表れたナタという少女だった。
「………何の用だ?いや、あいつとどういう関係だ?」
「ただの友達だよ。それに、今は彼女を追いかけるよりも、あなたたちなりの結論を出すのが先なんじゃないかな?」
「……………」
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結局その日はどうするかは決まらなかった。アスカの言葉が全員の胸の中で木霊する。
(せっかく入ったのに練習についていけないって言って夢をあきらめる人もいなくなる!!!)
『まぁ、言ってることは正しいよね』
その夜、同好会は通話アプリで今後のことについて話していた。
『確かに、フェスは自分たちの功績でしたから、少し謙虚に見すぎていたところがあるかもしれません』
『未来の後輩のプレッシャーかぁ……』
『だからってハードルを上げるのも、なんか違うって愛さん思うなぁ』
『そうだね。きっとまた前の繰り返しになっちゃうかも…』
『今日言ってた部が崩壊した話?』
『はい……無理にハードルを引き上げていこうとすれば、いずれまた…』
『プレッシャーなんて感じずに、ありのままやって欲しいのがこちらの願いだけど、周りが許してくれないのかもね』
『すまない、遅くなった』
しばらくは瑠和と彼方以外で話していたが、通話に二人が合流した。
『瑠和さん、彼方さん。お疲れ様です』
『アスカちゃんは?』
『家には帰ってなかったよ』
『お家がわかってれば、お家に連絡とれたんだけどね~…』
やや忘れがちになってしまうが一応アスカは家出中の身だ。天王寺家に帰らないでどこでなにをしているのか不明だった。
『…きっと、大丈夫』
璃奈が呟く。
『璃奈?』
『アスカちゃんならきっと大丈夫。だから私たちは今出きることを考えるべきだと思う』
『………そうね。まずはテスト。それが終わったら、アスカが…いえ。みんなが納得できる結論を出しましょう』
とにかく目の前のことに集中しようと決めた。解決にはなっていないが、少なくとも議論が進まない状況をどうにかしたかった。
ー翌日ー
結局アスカは天王寺家には帰らなかったしかし、連絡アプリの既読がつくことから一応元気でやってはいるらしい。
そんな中の昼休み。果林が食堂に向かっていると、道中のベンチで瑠和が眠っているのを見つけた。
「瑠和…」
果林は瑠和の隣にそっと座る。
「………きっと、アスカのこと待ってたり探してたのね。本当に、お人好しなんだから」
「…」
果林は瑠和の髪を撫でる。
「瑠和と……いいえ。みんなと一緒にいられるのも…あと………」
放課後、アスカのことを心配しつつも瑠和と彼方と璃奈はエマの買い物の手伝いをしに行っていた。みんなを元気付けるためのお菓子作りの材料を調達したのだ。
その帰りの電車の中。
「今日の果林ちゃん。少し変だったな」
「……そりゃ、まぁあんなことがあればそうなるでしょう」
「ううん、なんか、同好会のこと気にしてるって言うか…もっと他のこと気にしてるような…」
そんなことを話しているとたまたま駅のホームに果林がいるのが見えた。
「果林ちゃん!?」
「果林さん!」
呼び止めようとしたが果林の耳には届かず、電車のドアが閉まってしまった。
ーお台場海浜公園ー
海の見える通路の上。朝香果林は一人黄昏ていた。
「…」
「果林ちゃ~ん!」
「果林さ~ん!」
「エマ、彼方、瑠和、璃奈ちゃんまで…どうしたの?」
「電車から果林ちゃんが見えて、もしかしたらこの公園にいるかなって…」
「隣の駅から走ってきちゃった」
「大丈夫?」
「へーきへーき」
「ええ。大丈夫です」
少し、沈黙が流れて果林と四人は見つめあう。
「…何?」
「う、ううんなんでも!」
心配して来てみたはいいものの、それはあくまでも推測の域を出ていない。四人は直接聞くことも躊躇われ一緒に海を眺めるしかできなかった。
「………」
しかし、果林が気になり四人は自然と果林を見てしまう。
「もう、なぁに?」
「あははは…」
再び海を見る。しかし気付けば果林に視線をおくってしまう。そんなことを繰り返していれば四人がなぜわざわざここまで来たか、誰でも想像がつく。
「四人とももしかして、私のこと心配してきてくれたの」
「「えっ!?」」
「…ばれましたか」
「璃奈ちゃんボード「ぎくり」」
「もう、お節介なんだから。あなたのそういうところ、三人にうつしたんじゃない?」
果林は笑って言う。瑠和も小さく笑った。
「別に俺がいなくても、この同好会ならみんな来てますよ」
「そうかもね…」
日が暮れ、街灯が灯る時間帯になった。夕焼けの赤い光はどこか寂しさを醸し出し、その空気に耐えれなくなったのか果林は自然と口を開き、悩みを打ち明けた。
「同好会………まだ…始めて半年ちょっとだけど…………想像以上に楽しくて、充実した時間だったわ……。みんなでたくさんのことを叶えて行って………私たちの在り方も、しっかり考えて、明日へ向って、確実に進んでいる………これからもいろんなものが変わっていく中で……ちょっと思っちゃったのよ……三年生の私たちは、最初にここからいなくなるんだなぁって……」
それを聞いた彼方は少しだけ驚いた。気づいていなかったわけじゃない。
わかっていたが見ようとしなかったことを、いま目の前で掘り起こされたのだ。
彼方も果林と似た不安を抱えていた。
「寂しくなっちゃんだね……昨日までの時間が、楽しすぎたから」
「………わかるよぉ。同じ気持ちだから」
「でもね、果林ちゃん。昨日や明日のことで悩んでたら、楽しい今が過ぎちゃうよ」
エマは果林の手を取る。
「…っ!」
「そうだねぇ」
「エマさんの言う通りですよ」
彼方と瑠和も果林の手を取った。
「毎日今を楽しんでいけば、きっと…寂しいだけじゃない未来が来てくれる」
最後に璃奈が果林の手を取った。その言葉に、果林は自然と不安が晴れていく気がした。
「そうかもね。私、スクールアイドル同好会が大好きよ!一人で歌うのも、誰かと歌うのも、全部好き!もし次に何かやるなら…今の私たちを…」
刹那、レインボーブリッジが明るく照らされる。一色だけではない。様々な色で。
「一つの種類じゃなくて、一人一人が違う私たちで…」
(眼を開ければ、見えてくる。新しい未来が。夢を見るたびに、色が増えて行く。広がっていく)
「ねぇ、こんなのどうかしら!」
果林は思いついたことを四人に伝える。
「良いですねぇ!」
「私も、それやってみたい!」
「彼方ちゃんも!!」
果林の思いつきに、全員が同意する。彼方も表面上は明るく振舞うが彼方は自身の鼓動が早くなっていくのを感じる。不安で胸がいっぱいになったのだ。自然と手が震えだす。その原因を彼方はちらりと見た。
彼方が見たのは真横に立っている瑠和だ。間もなく二人は離れ離れになってしまう。瑠和は、いったいつまで自分のそばにいてくれるのだろうかという、漠然とした不安。
彼方はそれに押しつぶされそうになった。
「彼方さん…?」
彼方の震える手に気づいた璃奈がその手を握る。
「大丈夫…?」
「う、うん…」
「………彼方さん。お兄ちゃんは、ずっと彼方さんのそばにいるよ」
「え?」
璃奈は彼方の不安を見抜いていた。だがそれにとどまらず、それを払拭してくれる言葉を言ってくれた。
「あ、ありがとう」
「ただの気休めじゃない…………それを今から証明する」
「それってどういう…」
「果林さん!今のアイデア!今すぐみんなに共有してほしい!アスカちゃんにも!!」
「…ええ!!」
果林のアイデアが全員に共有された。拒否する者も、批判する者も一人もいなかった。全員が同意を表明すべく海浜公園に集まっていった。
「…」
そこにはもちろん、アスカも来ていた。
「本気ですか?ファーストライブをやるって」
「ええ。もちろんよ」
「私たちもその考えに同意したから、今ここにいます!」
「………そうやって、好き勝手やって、また、功績を積むつもりですか!?それが未来の後輩を苦しめるってまだ…」
「違いますよ」
せつ菜がアスカの言葉を遮る。
「確かに私たちは自分勝手かもしれません。ですが……いえ、ですから、皆さんにも好き勝手やっていただきたいと思います」
「…?」
「これは瑠和さんが私に言ってくれた言葉です。「大好きを叫びたい。そこにラブライブってステージじゃなきゃいけない理由なんて、みんな一緒じゃなきゃいけない理由なんてない」んです」
それは瑠和の言葉だった。かつて、せつ菜に伝えた言葉を、アスカに送った。そして璃奈が前に出る。
「私たちは伝えていきたい。この同好会では、誰かに言われたステージじゃなくて、みんなの大好きなステージを自分の思うままにやってほしいって。誰がなんて言おうと関係ないって。私だってアイドルが顔を隠すなんてって言われることもあるけど、それでも私を貫きたいって思ってるから!それの証明のために、ファーストライブをやりたい!」
「……ですが」
「だからアスカちゃんも自分のステージをやってほしい!ほかの人や同好会の功績なんて関係ない!虹乃アスカじゃなく…………天王寺明日和としてのステージを!!」
「っ!!」
璃奈の言葉に、その場にいた全員が驚く。
「璃奈ちゃん…今なんて?」
「天王寺………明日和?ひょっとして璃奈さんの従妹ですか」
「………ううん、違う。この子は天王寺明日和。明日が和むって書いて、明日和」
「それって……」
少しの間明日和は璃奈に対して怒りの籠った瞳を向けていたが、しばらくしてから何か覚悟を決めた表情になる。
「………そうです。私の名前は天王寺明日和。これが証拠です」
明日和は学生証を見せた。そこには確かに「天王寺明日和」と書かれてる。
「…私は、24年後の未来から来ました」
璃奈以外の同好会メンバーは鳩が豆鉄砲を食らったような顔でただただ呆然とすることしかできなかった。
「母は天王寺彼方、旧姓、近江彼方。父は、天王寺瑠和です」
「じゃあ、お前が言ってた家族をないがしろにするおやじって……俺?」
明日和の過去の発言に、瑠和は驚きを隠せなかった。かつて自分が受けたこともある仕打ちを、未来で自分がやっている。それが信じられなかった。
「後輩が受けるプレッシャーっていうのも事実ってこと!?」
「はい……」
その時、明日和は自身の身体が少しずつ透けていくのに気づいた。
「………もう、あんまり時間がないみたい。皆さん、さっき言ったこと。自分の大好きを届けるだけでいいってこと、ちゃんと伝えて行ってくださいね!それから、お父さん!!」
「……」
「こんどはちゃんと、家族のこと大切にしてね」
最後に、涙を浮かべながら、明日和は笑った。その笑顔を最後に、明日和は夜闇の中へと溶けて行った。
続く
明日和はあすかと読みます。あすなではないです。