ある冬の日。この日、朝から彼方はおしゃれをして有明ガーデンに来ていた。黒いセーターにブラウン系のチェック柄のスカート。紫色のマフラーと髪型もいつもと違う。
「彼方」
そこに同じく格好を整えた瑠和がやってきた。今日は12月16日。瑠和の愛する彼方の誕生日だ。今日は瑠和が彼方を祝うべくデートに誘ったのだった。
「じゃあ行こうか」
「そうだね」
二人は冬の街に繰り出した。この日は休日で少し混み合っていたが二人には関係ない。瑠和は彼方に行きたい場所を尋ねた。
「ん~?瑠和君にはプランないの~?」
「あるけど、もしあれば、と思って」
「じゃあ~」
―観覧車―
二人は早速観覧車に乗った。
「いきなり?」
デートで観覧車なんて話しはよく聞く。しかし、それは大抵クライマックスにというのが定番だ。
「だってこの間明日和ちゃんと二人で乗ったんでしょ~?負けてられないからねぇ」
彼方はそう言って瑠和の肩に頭を預ける。
「…まぁ、彼方がそれで良いなら俺はなんでもいいよ」
そういうと彼方は満足げに瑠和の腕を抱き寄せた。明日和とははっきり言って何もない。何なら何かあったらとてもまずいのだが、それは口に出すわけにはいかない。だから今は彼方の機嫌を損ねないのが一番だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうだ。
彼方が良ければ俺は何でもいい。君が笑ってくれるなら、俺は何でもする。
「どうかなぁ?似合う?」
「めっちゃ似合う」
ずっと俺の目には色が見えるから、自分にとって都合のいい色が見える人が好きなんだと思ってた時期もあった。
「次あれ乗ろう!」
「いや、絶叫系はもう……」
だけど違った。俺は、色とか、自分の都合とかそんなの全部関係なくて、彼方さんが好きなんだ。
「はい、あーん」
「あの………人目は気にしないんですか?」
「気にしないの~」
俺は将来この人と結婚する。きっと絶対に幸せにするとかありきたりな言葉でプロポーズするんだろう。でもきっと彼方はどんな形でも受け入れてくれる。
「綺麗だねぇ」
「もうすぐクリスマスだからね………こんなイルミネーションも、いままで見ても特に何も感じなかった。だけど、それが今は幸せに感じる。彼方のおかげだよ」
そんなこの人に俺は将来つらい思いをさせる。明日和が「お母さんはお父さんに甘い」って言葉からきっと彼方は俺の行動に理解を示して何も言わないのだろう。だからせめて、今だけは、必ず幸せにする。他のことを考えさせる時間なんて与えるものか。
俺がこの人を幸せにする。
「これ、プレゼント」
「これって……」
俺が彼方に渡したのはネックレスだった。ここ数か月必死にバイトして溜めた金で買った小さな宝石と装飾品同好会で学んだ技術で作ったたった一つのネックレスだ。
「綺麗……」
「ちょっと形は歪かもしれないけど……」
「ううん、すっごくうれしい!!ありがとぅ~」
「よろこんでもらってよかった」
「瑠和君からのこの世にひとつだけのプレゼントだもん嬉しくないわけないよ~♪これは瑠和君の誕生日は気合い入れないとねぇ」
瑠和の誕生日は実は彼方の誕生日から近く、12月21日であった。5日後に迫った誕生日は大いに盛り上げなければと彼方は考えていた。
「別にいいですよ、俺は」
「そんなわけにはいかないって」
「………そんな好きじゃないんです。誕生日ってイベント自体。家族に祝ってもらったことの方が少ないですし、親戚の家にいた時や学校の友達にはクリスマスと一緒にされること多くて、あんまいい思い出がないんです」
「………そっか」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
彼方の誕生日から5日が経過した12月21日。この日はいつも通りの平日で瑠和もいつも通り登校し、冬休み前なので短縮された日課を終えて同好会部室に向かおうとしていた。教室を出ようとしたところで、歩夢と嵐珠が瑠和を呼び留める。
「瑠和君」
「瑠和」
「ん」
「ちょっと手伝ってほしいことあるの。いいかしら?」
「どうかしたか?」
「もうすぐラブライブとクリスマスでしょ?東雲の子やほかのスクールアイドルのラブライブが終わった後、みんなでパーティーでもしたいって現直君が。だから、その準備をね?」
事情を聞いた瑠和は笑って了承した。
「そうか、じゃあみんなにも伝えて…」
「あーあー!ほら、他のみんなにはラブライブの応援の準備もあるし!私たちだけでね!!」
「事情は話してあるから無問題ラ!!」
「………そうなのか?」
二人は強く頷く。妙に必死に引き留められたので瑠和は変に感じながらも一応了承した。そして三人で東雲の方面に出かけ、パーティーの準備を手伝った。
―2時間後―
スーパー等を回って集めたパーティーの飾りつけや食材を持って瑠和たちは一旦虹ヶ咲へ帰ってきた。
「肉買いすぎじゃねぇか?」
「なによう、これくらいあった方がみんなも喜ぶわよ!」
「まぁ結構な人数になるだろうしな………」
そんな話をしながら歩いていると、虹ヶ咲学園の正門につく。あとは部室に行くだけとなったが、歩夢が急にお腹を押さえてその場にうずくまった。
「う………」
「……歩夢?どうした?」
「お、お腹が急に……」
「大丈夫か!?」
「こ、これはちょっと辛いなぁ、嵐珠ちゃん、保健室に連れて行ってくれないかなぁ」
「ええ任せて!」
「じゃあ俺も一緒に……」
「瑠和!とりあえず生ものあるからあなたは荷物持って買ったもの部室の冷蔵庫に入れておいて頂戴!」
瑠和も付き添おうとしたが、嵐珠に止められる。しかし、そんな理由だけで目の前で苦しんでいる人を放っておける瑠和でもない。
「だが………」
「「いいから早く!」」
「お、おう…」
二人にハモられながら言われ、瑠和は圧に負けて二人の持っていた荷物も持って歩いて行った。二人分の荷物が増え、へとへとになりながらもなんとか部室にたどり着く。
荷物を一旦部屋の前に置いて部室のドアを開いた刹那、大きな音が鳴り響いた。
「「「「お誕生日おめでとう~!!!!!」」」」
「……………………は?」
鳴り響いたのはクラッカーの音。クラッカーから飛んできたリボンが瑠和の頭にどんどんかかって来るが瑠和は目を丸くしたままその場に立ち尽くしていた。
部室はパーティー模様に飾られ、みんなお祝いムードだ。おまけにさっき保健室に行ったはずの歩夢と嵐珠までいる。放課後になった瞬間から歩夢と嵐珠の言動が少しおかしいと思っていたが、ようやく合点がいった。
「そういうことか………」
「お兄ちゃん」
メンバーの中から璃奈がトテトテと出てきて箱を渡した。
「これ、プレゼント」
「………ありがとう」
「お兄ちゃん、私のそばにいてくれてありがとう。お兄ちゃんがいたから、私はここまで頑張れた」
「…………璃奈」
「これからも一緒にいてほしい。学校でも、家でも、お兄ちゃんの誕生日でも」
誕生日にいい思い出ないと言った瑠和の言葉から、きっと彼方がこれを企画し、皆賛同してくれたのだろう。お人好しの集まりなのだから。悲しい記憶があるのなら、楽しい記憶で上書きしてしまえばいい。そんなことを誰かが言ったに違いない。
「…………ありがとう。みんな」
「りなりーばっかりずるーい!るなりんほら!愛さんからもプレゼントだよ!」
「………愛」
「どうぞ、受け取ってください」
「ほら」
愛に続いて栞子、果林とプレゼントを渡してくる。その後ろには全員が何かしら持っているのが見えている。瑠和はさすがに慌てた。
「おいおい、俺はそんなに受け取るなんて……」
「受け取りなさい?」
「え?」
「ここにいるみんなは、アナタに何かしら恩義を感じてる。ここにあまりいない私でもそう感じる。みんなお礼したいのよ。だから…受けとることに罪はないわ」
璃奈の言葉に瑠和はハッとする。また、突き放そうとしていたことに気づいたのだ。人の好意を受け入れることもまた、必要なことだと嵐珠や璃奈は言いたいのだ。
「………そうか、なら、思いっきり楽しませてもらおうかな」
「ああ、楽しんでくれ!僕らで用意した最高のパーティーを!」
こんなに人から祝われたのはいつぶりだろうと瑠和は思う。そんなことを思いながら皆からのプレゼントを受けとる。
「はい、瑠和君」
彼方がプレゼントを渡す。渡されたのは紫色のマフラーだ。
「これは…」
「彼方ちゃんとお揃いだよ~。手編みのマフラー!」
彼方がマフラーを取り出して見せる。先日の彼方の誕生日で彼方がしていたマフラーとお揃いのようだ。
「遥ちゃんと徹夜で作ったんだ~」
「ありがとうございます……」
「でも、なんか長くないですか?」
歩夢が気になったことを訪ねる。瑠和も気にしていた部分だ。
「ふふ~ん、それはね~」
彼方は一旦瑠和からマフラーを受け取り、瑠和に巻いてやる。
「ぐるぐるにすればぽかぽかだし~ちょっとほどいて…」
瑠和に巻かれたマフラーを半分くらいほどいてその半分を彼方は自らに巻く。
「こうやって二人で巻くことが出来る優れものだぜ~」
彼方は解説しながら瑠和にくっつく。瑠和は少し顔を赤くした。
「見せつけてくれるわねぇ」
「これで冬場にお外で二人すやぴしてても寒くないぜ~」
瑠和は照れながらも笑顔を浮かべている。なんやかんや嬉しいらしい。
「お兄ちゃん、あと、これも」
璃奈はさらにプレゼントとタブレットを渡す。
「これは?」
「………お父さんと、お母さんから。タブレットに映像が入ってるからって」
「…」
瑠和は少し驚いた顔をした。そっと璃奈から渡されたタブレットを見つめ、少し申し訳なさそうな顔で同好会のみんなを見た。
言葉にしなくてもわかる
「すいません、私、ちょっと用事思い出したので少し出ますね」
「愛さんも」
「奇遇ですね、私もです」
察した同好会メンバーはぞろぞろと部室を出ていく。最後に部屋を出て行った侑が小さく「ごゆっくり」といった。部屋に残されたのは璃奈と瑠和だけだった。
「…………ありがとう」
瑠和はそう呟き、タブレットで動画を再生する。
『瑠和、久しぶりだね』
『せっかくの誕生日なのに一緒にいれなくてごめんなさい……』
「…父さん……母さん………」
瑠和は動画を見終えると小さく笑う。そして隣で一緒に見ていた璃奈の頭を撫でた。
「俺は、幸せ者だな…………あんだけ冷たくした家族に、こんなに愛してもらえるなんて」
「うん。璃奈ちゃんボード「ほっこりん」」
あれだけ嫌っていた家族の言葉ですら心が温まる。家族の大切さ、一緒にいられることの大切さ。この思いを届けたいと思った。自分の未来の家族へ。
瑠和の誕生日から三日後、ラブライブ当日。同好会は東雲、藤黄等のラブライブ参加校のスクールアイドルを応援する企画を実行した。
結果は後日報告されるらしいが、ともかくその日は皆ノーサイドということでパーティーで盛り上がった。そしてそんなパーティーも終わった夜、瑠和は彼方に泊まっていかないかと誘われた。
どうやら遥は部のみんなとお泊まり会らしく、彼方の母も夜勤でさびしいとのことだった。断る理由もなく、せっかくのクリスマスだということもあり、瑠和は了承して彼方の家に行った。
そして、瑠和は彼方が風呂をあがるのを待っていたときのことだ。
「あとは年末のライブだけか…」
そんなことを呟きながら今後のスケジュールを確認していると、部屋の扉が開く音がした。
「彼方、上がったの…っ!?」
一瞬扉の方を向いた瑠和だが、すぐに別方向を見る。理由は簡単だ。風呂から上がった彼方はタオル一枚だったからだ。
「なっ!なっ!なっ!なんて格好を!?」
「………せっかく豪華なプレゼントもらったのに、彼方ちゃんだけ手作りのマフラーなんて、不平等かなって」
「あれで十分ですよ!気持ちは伝わりましたし、物の値段だけで想いを伝えようとした俺なんかより素晴らしいですから!」
「でも、せっかくのクリスマスだしなぁ…」
彼方は瑠和に背中から抱きつく。
「それともぉ…瑠和君は彼方ちゃんに恥かかせるつもりなのかなぁ?」
「………っ!」
心臓が高鳴る。暖まって火照った肌と濡れた髪は彼方の身体をより妖艶にみせた。いつか、疲れた瑠和を見かねた彼方が温泉に誘った日と同じだ。
二人の間に存在した唯一の壁は、もはや倒壊寸前だった。
瑠和は過呼吸になりながらも不思議と思考は明晰だった。
その壁を越えること自体は案外簡単だ。明日和が生まれる未来へたどり着くならいつかは越えなければならない壁。だが、それがいまになるとは思いもしなかった。それゆえの過呼吸。
あるいは、近いうちにこうなることを知っていたのかもしれない。最近の彼方のアピールは少し過剰だったことを考えれば当然と言えば当然だ。
だからこそ思考は冷静なのかもしれない。
色々考えたところで逃げる選択肢はない。向き合わなければならない。果林の気持ちを踏みにじり、嵐珠に無駄な期待をさせ、未来で生まれる娘を傷つけると知っても、彼方を愛すことを選んだのだから。
しばらく考え、意を決した瑠和はそっと抱きついてきている彼方の手首を掴み、振り向きながらキスをする。そして、キスをしながら瑠和と彼方はベッドへ倒れこんだ。
最初に掴んだ手を手首から手のひら同士を重ね、指を絡める。
「彼方」
「瑠和君」
不思議と二人は笑顔だった。その夜、二人は欲望に溺れていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
時間が目まぐるしく過ぎていった。ライブに向け明日へ、明日へと誰もが準備のために奔走する。ライブを行う同好会メンバーのためだけに。
あと二日ほどでライブ当日となる瑠和はこの日、かなり遅くまで学校に残っていた。ほとんど準備は終わってる。あとは皆の努力次第だ。
帰路に着こうとしたとき、前に明日和が現れた。
「明日和」
「……すこし、いいですか」
ーカスケード広場ー
「ほら」
「ありがとうございます」
瑠和はココアを買って明日和に渡した。明日和はそれを受け取り、一口飲む。
「で、話ってなんだ」
「…………私、本当によろしいんでしょうか。こんな素敵な曲をもらって」
明日和はバッグから作詞ノートを取り出す。それを見つめ、なにやら深刻そうな表情で話す。
「歌えばいいだろ」
「………この間のゲリラライブ。あの時歌った歌は………私の全力です。みんなが、求めるであろう私を体現した曲です。だから絶対に、間違いじゃない」
「…」
「だけどこの曲は……そうじゃない。これは…」
この間ミアたちと作った明日和の曲は、先日彼女がやったライブの曲とはかなりイメージが違う。ゲリラライブで明日和を応援したいと思った人にとっては求められているものではないかもしれないという話だ。
「俺や、みんなのことが信じられないならそれでいい」
「そんなことでは…」
「やってみろって。あーだこーだ理屈だなんざ並べる前にまず動けよ。この先で見えた景色が望んだものじゃなきゃ、そんときゃお前は好きにやればいい。いまは小さいことなんて気にすんな。失敗したらフォローする。だからさ」
瑠和は明日和の頭に手を置いた。
「歌えよ。そうやって溜め込むの、お前の悪い癖だ。だから吐き出せよ。スクールアイドルなら、想いを歌で届けてみせろ」
「…」
ー虹ヶ咲学園スクールアイドル1stライブ当日ー
「いよいよか…」
年末、有明ガーデンの一角で瑠和は朝風に吹かれていた。今日、ここで新たな伝説が始まる。そう思うと不思議と広角が上がる。
「お兄ちゃん」
「瑠和君」
背後から声がした。振りかえるとそこには最愛の恋人と妹が並んでいた。
「お兄ちゃん。これ」
璃奈は瑠和に近づき、何かを差し出した。瑠和はそれを受け取ると、さらに強く、にっと笑った。
それからしばらく経って間もなくライブが開幕しようというとき、ステージ裏に衣装を纏ったメンバーが集まる。円陣を組もうとしているのだが、まだ開始はされない。12人は既にそろっているがまだ全員ではない。
「お待たせしました………」
「うわぁー!すっごい!あすたん似合ってるー!」
制服に近いデザインの衣装を着せられた明日和がやってきた。明日和がゲリラライブで行った曲ではクール系の衣装が似合うと思われたが、今回はどちらかというと可愛い系だ。本人も割とクール系キャラでやっているのでこういう格好は照れくさいようだ。
「似合ってると明日和ちゃん♪」
「うう………」
「さて、アス子も来たし………はじめますよ、皆さん。虹ヶ咲学園ファーストライブ、WithYou!ここからが新しいスタートです。私たちや支えてくれた皆さんへのありがとうを込めて、今できる全部を出しきりましょう!」
「行こう!」
「「「「私たちの虹を咲かせに!!!!」」」」
一番手から初見の客も乗せていくためにカリスマ性に溢れる鐘嵐珠をぶつけていく。客の視線は嵐珠がすべて奪っていく。それでいい。大事なのは最初だ。
そこからかすみへ選手交代が行われ、嵐珠とは違った形で観客を巻き込んでいく。ステージの上方ではさらに次の出番の彼方が準備をしていた。
「大丈夫か?彼方」
「うん、大丈夫。できれば瑠和君には全部見て欲しいけどなぁ」
「悪いな。全部終わってから埋め合わせさせてくれ」
『ありがとうございました~!』
下から声がした。かすみが終わったようだ。
「あ、かすみちゃんが終わったみたい。じゃあ行ってくるね」
「ああ、頑張ってこい」
瑠和は彼方にキスをして離れる。彼方はステージギミックで月型のオブジェクトで下に降りていった。それを見送ると瑠和はすぐに控え室に向かった。
「璃奈!愛!デバイスの調子はどうだ!?」
「ん~ダメっぽい」
「もう少し粘ってみる…」
「そうか…なんとか出番までに間に合えばいいが…」
しかし、そう都合よくことが運ぶこともなく、璃奈は結局素顔でステージにでることになった。だが、それを見た観客がその場で協力し、ペンライトの光で璃奈ちゃんボードを作り出したのだ。
『みんなー!ありがとー!』
璃奈が歌い終わり、ステージ袖に戻ってくると、かすみと瑠和が飛び付いてきた。
「わっ」
「璃奈ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「りな子ずごいよ!がんばっだじゃん!!」
仲間想いのかすみと、人前にでる勇気も持てず友人もいなかった妹がこんなに大勢に協力をしてもらえるほどになった妹の成長を目の当たりにした兄の号泣で璃奈は迎えられた。
「璃奈!璃奈!璃奈ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「お兄ちゃん、いたい…」
「璃奈ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
一通り号泣した瑠和は機材を運びながら忙しく廊下を歩く。そんなとき、ふと別の控え室にいた明日和が目に写る。
「明日和」
明日和はテレビで中継されている彼方のライブを見ている。
「これが…虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のライブですか?」
「…」
「結局、彼女たちは己の功績に甘えたわがままなステージしかしてません。一人じゃどうしようもできないから、スクールアイドルフェスティバルっていう他校との協力で大きな土台を作った。その土台があるからいまの彼女たちは好き勝手なステージができるんですよ…っ!」
やはりまだ自分のステージを、大好きを表現するだけのステージに猜疑心を抱いているようだった。
「ほんとうにそう思うか?」
「え?」
「ま、それなら次のステージがちょうどいい」
瑠和がテレビ画面を指差した。中継には朝香果林が写っている。
『あなたの胸に…飛び込めない……無邪気に笑い会えたなら…♪』
歌った曲は普段のアップテンポでありながらもクールな曲ではない。恋愛感情を歌詞にしたバラードだった。
「果林さんがこんな歌を歌うなんて…」
「果林さんは、ずっとクールさやカッコつけた姿…いわゆる、みんなが望む朝香果林の姿を売りにしてきた。それでいまこの曲を歌ってこの盛り上がりだ。それは本当に功績だけって言えるのか?」
「…」
「まぁ。すぐに証明は出来るさ」
「…え?」
「プレッシャーも、功績も関係ない。本当に好きなステージをすることが。この学校のスクールアイドルなんだってこと」
そして、そのまま栞子やせつ菜、しずく、歩夢のステージが終わり、一通りの同好会の曲が終わった。幕間の映像にはいるタイミングで急にステージが薄暗いライトで照らされる。
歩夢まで終わったことで油断していた観客もステージに目をやる。
バサッという、布を翻す音がステージ袖で響いたかと思うと、高い靴音が響いてきた。暗闇からステージを照らすライトの下にきたのは瑠和だった。その身には黒い生地に紫色のラインが入った革ジャンを纏っている。
「行くぜ」
会場全体が呆気にとられている間に瑠和はマイクを掴みおもいっきり息を吸った。その呆気にとられている客の中に、彼方が無理やり引っ張ってきた明日和もいた。
(見てろ、明日和)
『君が抱き締めているのはあの日の約束ひとつ……♪』
それは、瑠和が侑に作曲を依頼した曲だ。彼方との出会いと、明日和との出会い。二つを重ね、未来を想った曲だ。
『流れる時の波に飲まれて諦めそうな夜にも…積み上げては壊しながら僕はここにいる今も……♪』
これまで積み上げてきたものはたくさんある。しかし、それを壊す覚悟や、実際に壊したものもあるなかで瑠和はそこにいた。
『大地を手に入れ、空をなくした…もげた翼の痛み生きる証小さな雲!君と出会ったこの街の中で、迷い!傷つけあった!愛したからこそ!忘られぬメロディー……まだ見ぬ景色で響け!♪』
彼方と出会った街の中で主に瑠和の言動が彼方を傷つけたこともある。しかし、それは瑠和が彼方を愛したからこそだ。さらに彼方の初ライブの曲は瑠和にとって忘れられないものだ。その曲がまだ見ぬ未来まで響いて欲しいという願いをこめ、瑠和は歌う
『明日を踏みつけ!目指すあの場所で…』
『大地を手に入れ、空をなくした。未来と過去はどれ程の重さが違うだろう!僕の過ちを!許し抱き締めた強く!♪』
クォーツ結成前の合宿中に彼方は瑠和の過ちを許し、抱き締めた。その記憶がよみがえる。
『青い季節の罪深き夜に!忘られぬメロディー……まだ見ぬ景色で響け!燃えて消え行く…美しき星よ…君と出会ったこの街の中で、迷い、明日がほしくて目指すあの場所で!君が教えてくれたのは青空の欠片…♪』
瑠和が歌い終わると、少し間があってから大きな拍手が飛んできた。
「瑠和君!かっこよかったよぉ!」
「サンキュ」
ステージ袖で汗だくの瑠和がタオルとドリンクを持った彼方に迎えられる。慣れないことをして疲れた瑠和はどかっと椅子に座る。
「これが、功績もプレッシャーも関係ないステージだ。わかるか?」
「…」
瑠和に功績はほぼないも同義だ。おまけに、正規のスクールアイドルでもないプレッシャーすら押し退け瑠和はやりきった。その事を伝えるため、そして彼方への感謝もこめたステージだった。
「次はお前だ」
「…」
「行ってこいよ!虹乃アスカ!」
瑠和に背中を押され、明日和は一歩前へ出る。そして、そのまま一歩一歩と歩を進めてステージに出た。
「自分の…大好き……功績も、プレッシャーも関係ない…っ!」
イントロが流れ、明日和は歌い出した。ミアや彼方、瑠和と作った歌を。
『いつだってぼんやり、ちっぽけだとか存在、思ったりして勝手に鈍感なフリ装ってみても………その身はしっかり突然セレブな展開運命の到来待ち続けていたり、ねぇちゃんと確かめて当たり前だと浪費する愛やその絆それこそ……が…奇跡的!!君の手のひら僕と繋いで僕は次の誰かと繋ぐ笑い合う様に支え合う様にずっとずっと時の果てまで、続きますようにJust feel the Circle of life 世界が変わりだす!♪』
『もしも一人きりだって感じた時は、閉じてるだけかもYour Heart!』
明日和はちらりと瑠和と彼方をみる。
『きっと僕らは全部覚えてようひとつひとつ出会えた奇跡会えなくなっても遠く離れても心だけは繋がってるって輝ける日々にUH……♪』
『君の手のひら僕と繋いで僕は次の誰かと繋ぐ笑い合う様に支え合う様にずっとずっと時の果てまで、続きますようにJust feel the Circle of life 世界が変わりだす!♪』
大きな歓声と拍手が明日和を包む。今まで見たことがない景色と自分の中に生まれた気持ちに明日和は目を丸くする。
「これが……………自分の大好きを歌うステージ…………………これが…「トキメキ」……彼方さんの言っていた意味……ようやくわかった…」
明日和の出番が終わり、最後の曲へ移行する準備が始まった。
「ええ!?あすたん怪我してんの!?」
「すいません。さっきのステージで足を捻って………最後の曲は皆さんでどうぞ」
「でも……」
「私には来年がありますから、気になさらないでください」
結局最後の曲はもともとのメンツで歌うこととなった。最後のステージを瑠和と明日和で見つめる。明日和は瑠和の肩に頭を預けた。
「………あなたの言葉の意味、ようやく分かりました」
「そうか」
「………自分の大好きを歌うステージ……こんなに素晴らしかったんですね………私は、これをこの先の新入生たちに届けたい」
「………ああ、そうだな」
「アナタのことも、許します。天王寺瑠和さん」
「そりゃどうも」
「……………ありがとう……またね」
少しすると、瑠和の肩が軽くなった。それと同時にさっきまでそこにいたはずの明日和は姿を消していた。そのことを気にせず、瑠和は小さくつぶやく。
「ああ…………また、24年後にな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はっ!はっ!はっ!」
少女は走る。父の務める会社に。顔パスで会社の中に入ると父の姿を探す。一通り会社内を見た後、最後にたどり着いたのは屋上だった。そこに求めていた背中があった。
「お父さん!!!」
「………明日和」
少女の名前は天王寺明日和。その父は、天王寺瑠和。明日和は瑠和を見つけるなりすぐに飛びついた。そして泣きながら訴えた。
「馬鹿!どうして言ってくれなかったの!?いっぱいのこと!どうして教えてくれなかったの!?」
過去の世界で瑠和のことをすべて知った。明日和は瑠和が、あの経験をさせるために遠回しに過去へ行くためのきっかけとして明日和に冷たくしていたことをようやく理解したのだ。
「ごめんな………寂しい思いさせたよな……、でも、求められるだけの姿を見せるお前は見ていられなかったんだ………こんな俺を許してくれるか……明日和……」
瑠和は声を震わせながらアスカを抱きしめた。
「許さない!絶対に許さない!!!だから…………だから、これからはそばにいてよ……お父さん…」
「…………当たり前だ」
二人の親子は抱き合った。強く強く、お互いを離さない様に。
―24年前 カスケード広場―
雪の降るカスケード広場では二人の虹ヶ咲学園学生がマフラーを二人で巻いて空を見上げていた。
「明日和ちゃんはどこに行っちゃったんだろうねぇ……」
ライブが終わってから、行方不明になった明日和をみんなで探し回ったのだ。当然いないことを知っている瑠和もだ。これもすべて、未来のために。
「さぁ………でも、きっといつか会えますよ」
「………本当に?」
「ええ、俺らが信じる限り………彼方の明日で」
Fin?
はい。祝ってきました。彼方さんの誕生日。疲れた…。お夕飯は近江米を使った高級どんぶり店yorimichiさんでいただきました。そして、ヴィラフォンテーヌのコラボルーム、クォーツ部屋で持てる限りのグッズを並べて祝いました。詳細はTwitterにて…。
さて、最終回を迎えました彼方の近衛。いかがでしたでしょうか?楽しんでいただけたなら幸いです。最後の方は投稿日に間に合わせようと頑張ってほぼダイジェスト的になってしまったのでいつか加筆したいですね。
さて、今後ですがにじよんあにめーしょんとovaがあるので一応最終回にはなりましたが今後も不定期で続きます。最後までお付き合いいただけると幸いです。そして、今後の自分の執筆作品ですが、AnotherDaysシリーズの短編、せつ菜編を来年3月末に投稿します。そして、現行抱えているラブライブ以外の作品を進め次第、AnotherDaysのエマ編、そしてTwitterやこちらのメッセージにて要望があったのでしずく編を考案中です。私の虹ヶ咲の輝きはまだ終わりません!彼方とのラブストーリーだって終わりません!
ストーリー中に出す次元系の設定(ナタや不思議な石等)って必要だと思いますか?
-
これまで通りでいい
-
減らしてほしい