一応使えてるからいいけど。
ある日、瑠和は彼方とお散歩をしていた。その横には遥も一緒だ。天気がよかったので出掛けていた近江姉妹の前にたまたま砂浜で昼寝をしていた瑠和に出会ったのだ。
「それにしてもこんなところでお昼寝なんて、瑠和さんお姉ちゃんみたいですね」
「ん~まぁねぇ」
瑠和は彼方が掛け持ちしているバイト先全てに応募し、時間を全て合わせていた。当然疲れが出ているのだ。
「彼方ちゃんは瑠和君と一緒にいれる時間が増えて嬉しいけど、瑠和君は無理してない?」
「彼方と一緒にいられるならこれくらいの疲労、どってことないさ。それに、彼方の色んな制服姿や、いろんな顔も見れるしな」
そう言って瑠和は意味ありげに彼方の肩を掴む。
「やん、も~遥ちゃんの前だよ?」
「惚気るのは他所でやってくれません?」
そんな調子で砂浜を歩いていると前方から見知った顔が歩いて来るのが見えた。
「ん?」
「あ、瑠和さん、彼方さんに遥さんも」
前から来たのは雫とオフィーリアだった。
「お、しずくちゃん」
「よう、オフィーリア。久しぶりだな」
「どうしたんですか?こんなところで。めずらしい組み合わせで」
「お天気よかったらはるかちゃんとお散歩にねぇ。その道中で瑠和君が落ちてたから拾ったんだよぉ」
「…………そうでしたか。奇遇ですね」
(我ながら不思議な説明したのにこれくらいじゃ驚かなくなったかぁ……)
「……お手、おかわり………バーン!……………相変わらず賢いなお前は」
瑠和はしずくと彼方が話している間に、オフィーリアと遊び始める。一通りの芸は反応してくれる。あの合宿で2回の夜だけでかなり仲良くなっていた。そんな様子を遥が見つめる。
「遥さんも……撫でますか?」
「え?は、はい!」
それから、しずくと遥は波打ち際で遊び始める。そんな様子を瑠和とオフィーリア、彼方は見守っていた。瑠和に関しては彼方の膝枕で寝ているだけなので見守るも何もないのだが。
そんな二人と一匹の様子を遥は見つめる。
「そういえば、瑠和さんとお姉ちゃんってずっとあんな感じですか?」
「あんな感じといいますと?」
「ずっと惚気てるって言うか……いちゃついてるっていうか……」
「あぁ~…………そうですね。最近………特に虹ヶ咲だけのライブを成功させたあたりからより派手にというか、恥じらいがなくなったというか…」
「…アスカさん」
アスカはあの日からずっと行方不明という扱いになっている。一応偽名だったのだし、スクールアイドルをやめてただの学生に戻ったのだろうと瑠和が言ったのだがみんな心配は心配だ。
「……ひょっとして、お互い急にいなくなっちゃうのを怖がってるんじゃ…」
そんなことはない。どちらかというとこの二人の状況は自然とこうなっていったのが正しいし、瑠和が将来のことを考えてより彼方を幸せにしたいと思ったが故の結果だ。だが、周りがそう思ってもおかしくないくらいべったりだ。
「………」
少し考えたしずくは二人を呼ぶ。
「どうしたのしずくちゃん?」
「いえ、せっかくですし、ちょっとパートナーを変えてみようかと」
「パート……」
「ナー?」
瑠和と彼方は互いの顔を見合わせる。しずくは彼方にオフィーリアのリードを託した。
「あぁ、なるほど~」
彼方はまんざらではない表情だ。しずくは遥と遊んでいるし、彼方もオフィーリアとの相性も良かったからだ。しかし、穏やかな空気はそこまでだった。
「……瑠和さん」
「ん?」
「…………ぎゅ」
しずくは瑠和に真横に立って腕を抱き、その肩に頭を預ける。刹那、彼方に電流走る。
「し、しずくちゃん!?いきなり何を!?」
「言ったじゃないですか、「パートナー」を交換するって」
「…………いや、いやいや!それはいくら何でも!」
驚きでしばらく固まってた彼方が瑠和からしずくを引きはがそうとする。まさか瑠和を取られるとは思ってなかった彼方は焦りまくる。完全に遥とオフィーリアだと思ってたからだ。
「あら?彼方さんは遥さんならいいって言うんですか?」
「いや、遥ちゃんと遊ぶしずくちゃんと瑠和君といちゃつくしずくちゃんじゃ全然違うから!!いいから早く離れて!」
「………そうですねぇ……じゃあ、こうしましょう。今から10分間、私は瑠和さんのことを誘惑します。その誘惑に耐えられたら、瑠和さんを返してあげます」
「………いや、いくら何でもそれは」
「私は好きな男性をほかの女性から奪う役の練習ということに。瑠和さんも、マネージャーならかわいい後輩の練習、手伝ってくれますよね?」
瑠和は唾を呑む。しずくの言葉遣いは何とも淫靡で、色気に満ちていた。これが一つ下の後輩だということが信じられない。
「それに、高々10分後輩に弄ばれただけで………心変わりしてしまうほどお二人の関係は脆いものなのですか?」
それを言われると、瑠和も彼方も今の状況を力づくでどうにかするのはナンセンスだと思ってしまう。
「では瑠和さん、一緒に少し歩きましょうか」
「あ、ああ」
二人は浜辺を歩き出す。その後ろを彼方が恨めしそうに歩く。
「それじゃあ瑠和さん、私のいいところ、教えてあげますね」
「…」
「そうですねぇ。私は結構料理得意なんです。おいしいお料理ふるまえますよ?」
「料理なら彼方さんも………」
「それに、私、結構勉強熱心ですよ?だから、瑠和さん好みのわたしになることができます。ファッションも…………夜伽も………」
しずくはより一層身体を密着させてきた。しずくの体はそこまで凹凸があるわけではないが、女性に密着されれば瑠和も多少は緊張する。
「………」
「結構お嬢様なのでお金もあります。瑠和さんが欲しいもの、モノでも…………私の身体でも…………なんだって私が用意立てても………」
上目遣いでしずくが伝える。果たしてその言葉は本当なのだろうか?もしここでしずくに乗り換えると伝えれば本当にこの言葉の通りになるのだろうか。
そんなことをふと考えると、瑠和の脳裏に明日和の顔がよぎった。
「明日和………」
将来生まれてくる娘につらい思いをさせるくらいならいっそ、女優としての才覚のあるしずくと結婚し、子供を作った方が、子供がスクールアイドルを目指すこともなくまだ良い結果になるのではないのか?
そんな想像が生まれる。
「…………」
(だけど………)
瑠和の頭には、果林の泣き顔が浮かんでいた。璃奈の笑顔、嵐珠の涙。
また大切な人を傷つけるのか?もはや家族といっても差し支えない存在を犠牲にするのか?思い出せ。今の自分が立ってる場所は、多くの仲間の好意と良心のおかげで、そして恋心を踏みにじってきて立っている場所だ。
(もうこれ以上の………わがままは許されない。それに…)
瑠和は振り返る。振り返った先には彼方がいた。さっきまで真横のしずくしか見えてなかったからしずくが魅力的に見えていたが、改めて彼方を見ると感じる。瑠和にとって彼方が最高の女性であると。
「しずくちゃん」
「はい」
「しずくちゃんはさ、しずくちゃんが俺に、彼方以上に何かできるって本気で思ってるのか?」
「………」
一言。
たった一言だったが、その言葉にどれほどの重みがあるか、そしてどれほど深い愛か、それは瑠和の声色と表情から簡単に感じ取れた。
まだ時間はたんまりある。始まってまだ3分程度しか経っていないがしずくは瑠和から離れる。
「………オフィーリア、おいで」
「わぅ!」
しずくに呼ばれ、オフィーリアはしずくの方へ走っていく彼方はオフィーリアが向かっていくのを見て自然とリードから手を放す。
「もういいの?」
「ええ、残念ながら彼方さんには敵わなかったみたいです」
「………ふふん、当然だぜ~。瑠和く~ん!」
彼方はオフィーリアをしずくに任せ、彼方はさっきまでしずくがいた場所、瑠和の隣へと駆けていく。彼方は瑠和と腕を組み、歩き始める。
「………」
どこかはかなげな表情でオフィーリアを撫でるしずくを見て遥は思い切って尋ねてみる。
「あの、しずくさん…………ひょっとして、瑠和さんのこと…」
「…………まだ私が入学したてだったころ、一度瑠和さんのお世話になったことがあります。風に飛ばされたリボンを、たまたま瑠和さんがつかんでくれて………ただの偶然かもしれなかった…でも、再会した。同好会を復活させようと奔走してくれて、そんな姿を見てるうちに自然と…私は」
「しずくさん………」
「…でも、もういいんです!なんだか最近の惚気を見てると、軽い気持ちで付き合ってる気がしたので、そうでないってことが分かってよかったです。これでさっぱり気持ちを割り切れました」
「そうですか……私も、なんかお姉ちゃん取られちゃいました」
「まさかご姉妹で…?」
「いえ!そういうのではなく!でも、ずっとそばにいてくれるのが当たり前だったので……お姉ちゃんがお姉ちゃんで自分の居場所を見つけてくれたのは嬉しくもあって……ちょっと寂しかったりもします」
「…………さて、せっかくですから遊びましょう!いくよ!オフィーリア!」
それから四人と一匹は浜辺で遊び倒した。フリスビーをしたり、唐突に鬼ごっこを始めたり、いろんなかわいい写真を撮ったりした。どこかもやもやする気持ちを吹き飛ばすように。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しばらくして休憩している間に、遥は彼方の膝枕で眠ってしまっていた。
「遥さん、寝てしまいましたね」
「遊び疲れちゃったんだねぇ………ふぁ…彼方ちゃんも眠くなっちゃった」
「寝ますか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……すやぴ」
彼方は瑠和の肩を借りて眠り始めた。そんな彼方の寝顔を瑠和は慈愛に満ちた瞳で眺め、少し撫でる。しずくはそんな二人の姿を眺めて笑った。
「どうかした?」
「いえ…本当にお似合いだなぁって」
しずくはそう言った後に小さく、誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「入り込めないなぁ…」
犬であるオフィーリアには聞こえてかもしれないが、飼い主の気持ちを知ってか知らずか片目で飼い主を見つめた後に眠りについた。
それから日の沈むころに四人は解散した。しずくもオフィーリアを連れて帰ろうとしたが最後にもう一度浜辺を歩こうと思った。
浜辺を歩いていると、ふと、こんなくらい中でもなにかが波打ち際で煌めいたのが見えた。
「…?」
近づいてみるとそれはきれいな石だった。だが、ただの石に惹かれることなど早々ない。何か人を惹きつけるような魅力を出す石は、どこかで見かけたことがあった。
「あれ?これ、たしか瑠和さんと璃奈さんがお守りとして持って…」
Another Days ~case of Shiozuku~に続く………
ストーリー中に出す次元系の設定(ナタや不思議な石等)って必要だと思いますか?
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これまで通りでいい
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減らしてほしい