またショックが起きてる。絶対に負けない。
アンケートを取っているのでよろしければご意見ください。
次回更新はアンケートの結果次第になるので、少し先になります。
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―帰路―
瑠和は彼方と共に電車に乗る。方角が一緒なのはあの面子で瑠和と彼方だけなので自然と帰り道は同じとなる。しかし、恋人同士とは思えないほど、重い空気が二人の間に流れていた。
「………」
「………」
『次は、虹ヶ咲学園前、虹ヶ咲学園前』
不安と悲しみの間で悩んでいた彼方の耳に届いたアナウンス。何故か彼方はそのアナウンスに導かれているような予感を感じた。
「……………ねぇ、下りない?」
感じるままに、彼方は思いついたことを口にした。その提案に瑠和は怖気づきながらも応じる。
「え?ああ…………はい」
二人は虹ヶ咲学園で降り、学校へ向かう。少し遅い時間ではあるもののまだ活動をしている部もあり、校舎には賑わいがあった。
彼方が来たのは校舎端のベンチ。
そう、瑠和と彼方が出会い、第一回スクールアイドルフェスティバルの時に告白をした場所。ここに来たら、なにか進展する気がして。
「…………ここ、君と私が初めて会った場所。覚えてる?」
「…………すいません。何も」
「……座ろっか」
「はい」
二人は同じベンチに座る。彼方は瑠和に頭を預ける。いつもなら肩を抱いたり、頭を撫でてくれる手は動かない。
「彼方ちゃんがお昼寝してたところにあなたが来て、それが出会いだった。璃奈ちゃんを人見知りにしてしまった責任を取りたいから、特技を生かしながら誰かと関われる、それも璃奈ちゃんを受け入れてくれる優しい人がいる環境を探してた」
「はい、璃奈に聞きましたし、俺もそれを望んでました」
「それからさ、いろんなことがあったんだよ。君にも、彼方ちゃんにも」
「…………記憶を失って、病院から帰った後、スマホを見ました。壁紙はあなたとの写真。同好会の一員として活動してきたいろんな写真や、今後のことを考えたスケジュールのメモがあって………本当に「スクールアイドル同好会」の一員だったんだなって」
そう言って瑠和は慣れない手つきで彼方の肩を抱く。
「あなたの恋人だったんだなって思いました………」
「瑠和君…」
「でも、だけど……」
彼方の肩を抱く手の握力がぐっと強くなった。
「いま、こんなに悲しそうにしているあなたに、どうしてあげていいのかわからない…………」
崖から、落ちるような感覚だった。
記憶を失っても、彼は彼のままだ。そう思うことで希望を持とうとしていた。
いや、ある意味瑠和は瑠和のままであったが、それは去年の出会う前の瑠和であった。
「ずっとそばにいるから」
彼方はその一言を言ってほしかったことに今気づいたのだ。その言葉が出てこなかったことで、瑠和の記憶は、昨日まで一緒にいたはずの恋人は消えてしまったことも同時にわかった。
ほんのわずかに、残っていた希望という名の崖の端。それがいま崩れ、谷底に落ちていく。
もしかしたら最初からそんな希望なかったのかもしれない。あると思っていた足場は、蜃気楼だったのかもしれない。
ただ、真実から目を背けたくて、あると思い込んでいただけだったのかもしれない。
混乱や不安でいっぱいだった彼方の思考はいつの間にか、驚くほど冷えていた。
一番不安で怖いのは彼だ。だから自分が、どうにかしてあげなければいけない。
「…………大丈夫!」
彼方は思いっきり瑠和を抱きしめた。
「焦らなくていいんだよぉ。大丈夫。私のコト無理して心配しなくて大丈夫…………大丈夫だから」
「…………」
「だから……………」
言葉に一瞬詰まる。
だが言わなければならない。それがお互いのためだ。
「だから、無理に彼方ちゃんの恋人じゃなくてもいいんだよ。君は君の生活を楽しんで」
それは、励ましの言葉であると同時に、別れの言葉でもあった。記憶が戻ればきっと瑠和は戻ってくれるが、記憶が戻らない瑠和を縛り付ける権利は、彼方にはない。
これを言うのに、彼方はかなりの決意が必要だった。
記憶が戻らないことを前提したとき、前の記憶がないまま自分のそばにいてくれるのは本当に自分の好きな瑠和なのか?
いっそ、嵐珠やしずくに託したほうが……
そんな思いや悩みや不安が渦巻く中で、彼方が言えた言葉はこれだけだった。
「…………あなたに抱きしめられてると、なんだかとても、安心する」
「―――――っ!」
その言葉を聞いた瞬間、彼方は下唇を噛んだ。今にも出そうになった声を、必死に抑えた。
「じゃ、じゃあ、伝えたいことはそれだけだから!彼方ちゃん、学校に忘れ物しちゃったから取りに行ってから帰るね!」
彼方は瑠和を離し、足早にその場を離れた。
「か、彼方さん!!!」
急いで離れた理由は簡単だ。さっき抑えようとしていた涙があふれてきてしまったからだ。
(記憶はなくなっても、身体は覚えててくれるんだ………でも、それが分かるからこそ、思い出しくれないことが…………………っ!!!)
想いを振り切るように走っていた彼方は、いつの間にか駅前まで来ていた。瑠和が追ってくる気配はない。
「……………」
前の瑠和なら追ってきてくれたのだろうか。
そんなことばかり、考えてしまう。
まだ未練がましい証拠だ。
切り替えなければ。
これでいい。
何も、無理に付き合う必要はないのだ。
「………………」
壁に寄りかかり、そのままずるずると力なく座りこんでしまう。
「う……………うぅ……うぁぁ………あぁぁぁぁぁっ!」
無理に付き合う必要はないなどと………認められるわけがなかった。
自分の心に嘘などつけなかった。誤魔化しきれなかった。
それほどまでに、愛しているのだから。
抑えなど、効くはずがない。人前だというのに彼方は声を上げて涙を流す。まわりの人間がその声に気付き、心配して近づこうとしていた。
「あ、大丈夫です。私の連れなので」
誰かが彼方に近づこうとしていた一般人をさえぎり、彼方の前に立つ。彼方が顔を上げると前には見覚えのある顔があった。
「遥………ちゃん」
「お姉ちゃん………」
遥はそっと彼方を抱きしめた。
―近江家―
遥は彼方が落ち着くまで傍にいてあげた。少し落ち着いたところで彼方を連れて家に帰ってきていた。
「ごめんね、あんな場所で情けなく泣いちゃって………お姉ちゃん失格だ」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんだって泣きたくなる時くらい、あるもんね」
不思議と、心はすっきりしている。思いっきり泣いたおかげか、変わらず接してくれる妹のおかげか、あるいは両方か。
「ココアのむ?」
「うん………」
遥はココアを入れながら気になっていたことを尋ねる。
「………瑠和さんと別れたの?」
彼方があれだけ泣いていたのだ。考えられる事態は一つしかない。今朝のままの彼方には聞きにくかったが、効かないことには何も始まらないと思い、思い切って聞いてみたのだ。
「そのつもりはないよ………でも、瑠和君もつらい時期に無理に私の彼氏にならなくていいよって伝えたんだ……………あ…」
「お姉ちゃん?」
別れてはいないが、一度手放したというべきだろうか。だが彼方はそこではじめて気づく。心がすっきりしているのは、手放したからだということに。
「彼方ちゃん、どうするのが正解だったんだろ………」
「…………少なくとも、瑠和さんは少し、気が和らいだと思うよ。記憶がないのに、恋人のことも心配しないとなんて………私だったら不安で潰れちゃう」
「そう…………だよね。彼方ちゃん、正しかったよね」
彼方はソファの手すりに寄りかかりながら自分の行動を肯定するように言った。
そして、スマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
『明日は待ち合わせ気にしなくていいよ。おやすみ』
文章を入力し、送信しようとしたがその指が止まった。だけど、自分という重荷を背負わせたまま瑠和に生活させるのはきっと、彼を苦しめるとになる。
二律背反の中で迷いつかれた彼方は、勢いに任せてメッセージを送信した。
―学生寮―
時を同じくして、学生寮の嵐珠の部屋には果林とエマが訪れていた。
「エマから聞いたわよ。どういうつもり?」
「どういうつもりもなにも、果林も知ってるでしょ?ランジュは瑠和が好き。だからアピールしてるの」
「こんなタイミングでやること!?」
嵐珠らしからぬ態度に、果林は苛立ちをあらわにした。しかし、嵐珠の眼は依然として冷静さを醸し出すようなまなざしをしている。
「こんなタイミングだからよ。彼方にも言ったけど、同じスタートラインに立てるのは今しかない」
「あなたの立場じゃないわ。彼方の気持も考えろって話よ。あの子が今どんな気持ちでいるか……」
「考えてるわ。瑠和のことも、同好会のことも、彼方のことも。だから今、なの」
「………どういうこと?」
嵐珠の言っている意味が分からなかった。嵐珠の行動は、タイミングも彼方のことも考えた行動とは思えなかったからだ。
嵐珠は小さくため息をついて話を始める。
「………もし私が彼方と同じ立場だったら、嵐珠は全力で瑠和をサポートする。記憶が戻らなくても何度だって嵐珠に夢中にさせて見せる」
「嵐珠ちゃん……」
「記憶を失ったからってショックで立ち上がれず、あれこれ言い訳並べて、手放すような人が生涯のパートナーと呼べる?」
「………」
果林はようやく嵐珠の意図が分かった。
嵐珠はがっかりしたのだ。彼方の態度に。ショックで立ち直れず、瑠和を支えられていなかったことが。無論当事者ではないからそのショックの大きさは計り知れないが、そこで自分優先になっている彼方に嵐珠は失望したのだ。
「こんな情けない相手に自分は負けたのか」と。
「それに…………あそこまで煽れば、彼方であればきっと、やる気を取り戻してくれると思った」
「嵐珠………アナタひょっとして彼方を心配して…?」
「少なくとも今は………瑠和を支えられるのは彼方だけでしょう?それに、あんな傷心した彼方と勝負したところで、意味はない。勝ったところで何もうれしくないもの」
つまり嵐珠は、今の彼方を見て、以前負けたことに納得がいかなくなったのだ。だからこそもう一度勝負がしたかったが、彼方は傷心状態。まともに勝負ができないと考え、無理やりにでも立ち直らせようとしたのだ。
「……ま、あなたらしいといえばそうなのかもね。でも、彼方から反応はなかったんでしょう?これからどうするつもり?」
「彼方が勝負に乗ってこいないなら、それまで。最後に選ぶのは瑠和だけど、嵐珠は瑠和をもらっていく。そうさせて見せる」
「………」
(同好会の空気を悪くしてまで、すること?)
果林はそう言いたかった。
だが、嵐珠の気持ちもわかるのだ。かつては自分も同じ立場にいたから。果林はとりあえずその日はそこまでにした。嵐珠も覚悟のうえでやっていることだとわかった。
論理の隙をついて考え直させることはできないと察したのだ。
―翌日―
「…………気を、使わせたかな」
昨日送られてきた彼方からのメッセージを見て瑠和は悩んでいた。
「彼方さんなりのやさしさ…だよ。そこまで気にしなくていいと思う」
「………はやく、思い出さないとな」
気持ちを切り替えて徒歩で学校に向かっていると、夢の大橋に差し掛かったところで見覚えのある人影が見えた。
「あれは…」
「瑠和!おはよう!!」
「先輩!おはようございます!」
「嵐珠、しずく」
「一緒に学校にいきましょ!」
「あ……うん」
(しずくちゃん、普段新橋の方から来て学校前駅で降りてるのに、わざわざこっちまで来たんだ)
嵐珠はともかく、しずくまでいるのは本来おかしいコトなのだが、瑠和はそんなことに気付かず、親切な同級生と後輩に感謝していた。璃奈はそのことに気付いていたが、あえて口には出さずに一緒に学校へ向かった。
「………」
そしてさらにその後ろで、果林は四人を見ていた。
「果林ちゃんどうかしたの?あ、瑠和君たちだ!おー」
「待ってエマ。少し、様子を見させて」
「え………うん…」
果林は歩いていく四人の中のしずくの言動を注意深く見ていた。
(嵐珠の言い分はわかったけど………わからないのは、しずくちゃん………か)
―放課後―
今日の放課後は練習はなしだったが、果林、ミア、栞子、かすみはアイラを連れて原宿に向かった。瑠和はどうしようか悩んでいたが、とりあえず帰ることにした。
下校しようと教室を出たところで嵐珠に話しかけられる。
「瑠和!今日は暇かしら!」
「………ああ……」
「じゃあ嵐珠とお出かけしましょ!」
「………まぁ……いいけど」
記憶をなくしてから、バイトの数の多さにビビったが、今日はどうやら休みらしい。あまり人に関わりたくない気分だったが、記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないと思ったのだ。
―虹ヶ咲学園学生寮―
瑠和は嵐珠と共に寮に向かった。嵐珠に寮前の道で待っているように言われ、瑠和は言われた通り待っていた。
「…」
寮の建物を見ていると、何故か妙に懐かしさを感じる気がした。二年の時の記憶はないが、少なくとも一年の時は寮に来たことはない。なのに、今まで暮らしてたような変な既視感がある。
「妙だな……」
「お待たせ!」
嵐珠の声が、エンジン音と共に聞こえてきた。音の方を見ると、嵐珠が原付バイクに乗ってきていた。
「原付…?」
「ええ!最近免許を取ったばかりだけど………これでお台場を回りましょ!」
嵐珠が投げたヘルメットを受け取る。確かに、アイラを案内したときに観れたのはたった一部分だけだったのでもう少し広く見たいとは思っていた。
「そうだな………」
「じゃあ行きましょ!!」
「ああ」
瑠和はヘルメットを被り嵐珠の後ろに乗り込む。
「しっかり嵐珠につかまってなさい!」
「あ………いいのか?」
「嵐珠はあなたのこと好きだから大丈夫よ!それに怪我でもされた困るからしっかりね!」
「じゃあ」
バイクの後ろに乗ることなど初めてなので瑠和は結構しっかり嵐珠の腰につかまる。その感触に、嵐珠は少し頬が緩くなりながらもバイクを走らせ始めた。
原付なので大した速度は出ないが、それでも風を切る感覚は感じられた。
「いい風ね!瑠和!」
「ああ、そうだな」
夕暮れが空を茜色に染める中を瑠和と嵐珠は走る。嵐珠にとってこれ以上幸せなことはなかった。正しく青春の一ページという感じだからだ。かつて瑠和を欲しがった時、青春時代の甘酸っぱい思い出作りのためじゃないとは言ったものの、やはりこういうのは嬉しかったのだ。
「さぁ、まずはここよ!」
到着したのは、レインボーブリッジ前の広場。
「…………ここは…?」
「………これ」
嵐珠は瑠和にスマホを見せた。そこに映っていたのは瑠和自身だった。
『ウォォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!』
マイクに向かってできる限り叫ぶ姿。ステージの上で叫んでいたのは汗だくで、なぜか擦り傷までありながらも必死に客を繋ぎとめようとしている姿。
『突然大声ですみません!初めまして!虹ヶ咲学園普通科二年!スクールアイドル同好会マネージャー天王寺瑠和です!わかる方も多いかもしれませんが、虹ヶ咲スクールアイドル同好会の天王寺璃奈の兄です!スクールアイドルのライブを見に来た皆様には申し訳ありませんが、俺に少しだけ時間をください……』
映像に映っているのは自分のはずなのに、まるで他人を見ているようだった。これまでの人生、こんな風に必死になったことはあっただろうか。
(この時は、俺はどんな気持ちで、ここで叫んでたんだろう)
『………少し前に、ヴィーナスフォートで近江彼方さんのライブが行われました。それまで何度かスクールアイドルのライブは見てきましたが、彼方さんのライブを見て…………世界の色が変わったのを感じました。大好きを叫んでいる姿が、素晴らしかった…………それから…もっと、スクールアイドルだけじゃなく、みんなが大好きを叫んでいる素晴らしい景色を見たいって思いました………俺はみんなに伝えたい。大好きを叫ぶのに、遠慮なんていらないんです。例え誰かの大好きを傷つける形になったとしても、信じる仲間が助けてくれるって俺は信じてる』
「……」
『まだ彼方さんは戻れる状況じゃありませんが、せめてもの声援になると信じて……………歌います。皆さんも一緒に彼方さんを応援してください!』
映像の中の瑠和はギターを弾いて歌を歌っていた。あんな大勢の前で歌うことなんか、今の自分にはできない。たった半年でここまで変われるのかと瑠和は驚いていた。
それと同時に、そんなことになるほど、過去の、いや未来の自分は彼方を愛しているのだと感じた。
『俺はいままで同好会で起きた問題を解決してきた!それはマネージャーだからといえばそれまでだ!だけど今は、今だけは違う!俺は俺の心のままに!心の声に正直にここにいる!スクールアイドルマネージャーとしてじゃない!一人の人間として、男として近江彼方のライブを見るためにここにいる!スクールアイドルの本懐は大好きを叫ぶことだ!俺はただのマネージャーだが俺も叫ぶ!俺はあの日の彼方さんのライブからスクールアイドルの………近江彼方の魅力に気づいたんだ!これが俺の大好きだ!!彼方さんのライブは絶対に後悔させない!だからもう少し待ってください!』
そこで映像が終わる。嵐珠はスマホをしまい、あの時ステージがあった方を見つめる。
「…………嵐珠が最初に瑠和を見たのはこの時。瑠和のこの姿勢を見て、あなたに惚れた……。今のあなたを見てるとこの時のあなたがどれだけ必死だったか、どれだけ彼方を思っていたかよくわかる」
「……そうだな」
「なにか思い出せた?」
「………残念ながら」
「そう。焦る必要はないわ。そうだ!クレープ食べましょ!」
「あ………おう」
瑠和たちはそのままアクアシティに向かい、そこで買ったクレープを浜辺に座って食べ始めた。もうかなり日が暮れ、あたりにいる人も少なくなっていた。
少し風が冷たかったが、二人で寄り添うだけでとても暖かった。
「おいしいわ!」
「そうだな………」
「瑠和は何を頼んだの!?」
「あ?ああ、イチゴチョコだけど」
「嵐珠は白桃よ!ねぇ、一口くれない!?」
「ん………ほい」
瑠和が差し出すと嵐珠は笑顔でかぶりつく。
「おいしいわ!瑠和も食べなさい!!」
差し出されたクレープを戸惑い気味に一口食べる。こんなに不安で毎日がつらく感じても、甘みというのは心に平穏をもたらすものなのだと実感する。
自分を思ってくれる友人と、心置きなく楽しめる時間が、今の瑠和にとっては幸せだった。
ふと隣を見ると、嵐珠の頬にクリームがついているに気が付いた。
「嵐珠……クリームついてる」
嵐珠の顔を見ながら、そっと頬についたクリームをぬぐう。
「あら、瑠和もついてるじゃない」
そういって嵐珠も瑠和の頬についたクリームをぬぐう。そこで気づく。
向かい合った男女が、互いの頬に手を置いている子の状況、まるでキスをする直前の様だと。お互いほぼ同時に気付いたのでそこで少しフリーズした。
「あ、あはは、変な感じになっちゃったな」
瑠和が笑ってごまかそうとしたとき嵐珠は勢いよく瑠和の頭を支え、顔を急接近させた。
「………」
互いの唇が重なり、一秒、二秒、三秒が経った。嵐珠は顔を離してすぐに俯く。
「ごめんなさい」
「……………なぁ、嵐珠………なんでここまで…」
「好きだからよ。アナタは嵐珠の間違いを指摘してくれた。正しく進む道を示してくれた…………それだけじゃないわね。あなたの声を聞くと安心する。あなたの笑顔が好き。私の人生にはあなたが必要だと思った」
「………」
彼方に対する裏切りだって言うのは頭では理解している。だが、瑠和にとって家族よりも自分を心配してくれる存在は、とても魅力的に見えてしょうがなかった。
「なぁ、なんでさっき、あそこに行ったんだ?俺がどれだけ彼方さんを愛しているか思い出させたら、お前にとって不利になるんじゃないか?」
「…………フェアじゃないと思ったから」
「………だれと?」
嵐珠は口をつぐんだ。彼方が全力じゃないからとは言えなかった。ここで彼方が全力を出せてないことを伝えるのは、彼方のプライドを傷つける気がしたのだ。
「秘密よ」
「そっか………………なぁ、嵐珠。俺は、すぐに君の想いに応えられる気はしない」
「………わかってる…でも」
嵐珠は立ち上がり、海に向かう。そして、波打ち際で、思いっきり叫んだ。
「いつか絶対!!嵐珠の物にして見せるんだからーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
自分の思いのたけを、全力で叫んだ。叫び終わった嵐珠は俯いていた時の暗い表情から打って変わってすっきりとした表情に見えた。
「ごめんなさい、大声出して」
「いや、気にしないで」
「さ、クレープを食べたら今度は新橋の方へ行ってみましょ!」
その日は結局お台場を超え、港区全般を嵐珠に振り回された。バイクの後ろに乗せられてた瑠和は嵐珠の身体に捕まりながらずっと考えていた。
どうするのが正解か、彼女の想いに応えるべきなのかと。
続く
ストーリー中に出す次元系の設定(ナタや不思議な石等)って必要だと思いますか?
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これまで通りでいい
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減らしてほしい