彼方の近衛   作:瑠和

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さて、ストックがあと僅かになりましたが今後の展開をどうするかお悩み中です。

展開の参考にもなるので、感想待ってます。


第六話 偽る果林

愛との話を終えた瑠和は教室には戻らず、校舎裏で昼食の続きを食べていた。頭の中でさっきの愛の言葉とこの間の果林の言葉が何度も響く。

 

(あなたに強く進められたからてっきりいるものだと思ったんじゃない?感謝云々じゃなく璃奈ちゃんはあなたとやりたいんじゃないのかしら、スクールアイドル活動)

 

(そうやって逃げるの?)

 

これらの言葉は事実であり、瑠和はそれに気づいていた。逃げている自覚もある。しかし、瑠和には勇気を出すことができなかった。璃奈に関わることだってかなりの勇気が必要だったのだ。それ以上は難しいと思っていたし、最初に同好会がなくなった経験が彼に自信を無くさせていた。

 

「暗い顔してるのだーれだ」

 

「!」

 

背後から誰かにくっつかれた。その声のトーンは聞き覚えがあった。

 

「彼方さん………どうかしましたか?」

 

「ん~?彼方ちゃんはいつも通りお昼寝に来ただけだよ~」

 

「そうですか」

 

彼方は枕持参で来ていた。まだ昼休みはたっぷりある。早めに昼食を済ませた彼方は昼寝に来たのだろう。

 

「じゃあおやすみ~」

 

「…」

 

隣のベンチに枕を置くと彼方はそのまま横になった。瞳を閉じると、少し間をおいてから独り言のようにつぶやく。

 

「今彼方ちゃんは寝ております。悩み事とか話されても覚えてないだろうなぁ」

 

「…悩みなんてないです」

 

「話すだけでも楽になることもあるのだよ~。すやぴ」

 

それからかなり間があり、彼方が寝たかどうかわからないタイミングで瑠和は口を開く。

 

「……………………俺は小さいころ、両親が忙しくていつも一人でした。それは璃奈も同じなのに………俺はそんな親が嫌いで、よく外で遊んでました。家に一人、璃奈を残して…。そんなときに、引っ越しの話が出ました。親の仕事の都合です。友達と離れるのが嫌で、俺は引越しに猛反発しました。親も俺らを置いて家を出ていたことを申し訳ないと思ったんでしょうね。俺は地元の中学を卒業するまで親戚の家で暮らすことになりました。璃奈は両親についていきました。中学3年になって、たまたま両親が引っ越した家の近くにあるこの学校に受験して、俺は受かったことと中学を卒業したことで両親のところに帰りました。でも両親との仲は良くなくて…そんなこんなで1年経って、璃奈の卒業式に出ました。その時見たんです。たった一人で、無表情で過ごす璃奈を。俺がいれば…もっとそばで話してやれば、遊んでいれば………あの子があんなになることはなかった…いや、本当にそうなったかはわかりません。でも、友達くらい…できていたはずだと思います。なのに、俺は妹を放っておいて自己中に友達と遊んで…」

 

瑠和は話していくうちに声が嗚咽がかかり、涙を流して初めていた。心に溜まっていたこの悩みを吐き出したのは初めてだった。言葉にすることで改めてあふれ出る責任感に押しつぶされ、涙をこらえきれなかったのだ。

 

「…そっかぁ、そんなことがあったのかぁ」

 

止まらない涙を必死に抑えようとする瑠和をいつの間にか彼方が優しく抱きしめ、頭を撫でてていた。

 

「……ぐっ…ううぅ…寝てたんじゃなかったんですか…」

 

「泣いてる子供を見て放っておくことはできないなぁ。彼方ちゃんお姉ちゃんだし」

 

「うぅ……だから俺は………璃奈を幸せにしたくて………」

 

「ちゃんと自分の悪いところを理解してるんだもん。えらいと思うよ」

 

これまで瑠和は頼るものなんて何もなかった。こんな悩みを伝えることはなかった。初めて心の中を打ち明かしたのだ。

 

「璃奈や………同好会のみんなには言わないでください…」

 

「………うーん…彼方ちゃんはちゃんとみんなに話してあげた方がいいと思うけどなぁ。まぁ君がそういうなら、一応黙ってはおくよ」

 

「ありがとうございます……」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

それからしばらく経ったある日、瑠和は果林の部屋の掃除をしていた。この行為が本当に璃奈のためになるのかと悩みながらも、そんな心の声は押さえつけながらも果林を手伝っていた。

 

「………はぁ…」

 

「さっきからため息ばっかりね」

 

「…俺………このままでいいんでしょうか」

 

ずっと果林を手伝っているだけだった。最初はこれが妙案だと思ったがずっと続けていくとこれが本当に璃奈のためになっているのが疑問に思うことも出てきたのだ。もっと璃奈のためにできることはないのかと思う様になっていた。

 

「どうでしょうね、とりあえずいい方法が見つからない限りどうしようもないとは思うけれど…このままじゃいけないっていうのはわかるわ」

 

「…」

 

その時、果林の部屋のチャイムが鳴る。エマが来たのだ。

 

「果林ちゃーん。居るー?」

 

「あ、エ、エマ?ちょっと待って!」

 

果林は慌てて瑠和を掴み、小声で迫る。

 

「今すぐ出てって!部屋に男連れ込んでるなんてエマに思われたくないの!」

 

「事情話せばいいでしょ!」

 

「あなたが同好会には話すなって言ったんでしょ!?」

 

瑠和はそうだったと頭を抱える。

 

「でもどうやって!?」

 

「ベランダから飛び降りればいいでしょ!」

 

「ここ三階ですよ!無茶言わないでください!」

 

「果林ちゃーん?バタバタしてるみたいだけどどうしたの?」

 

エマは果林に待っていてと言われたのにも関わらず中に入ってきてしまう。

 

「あ、またお部屋散らかってるんでしょ?大丈夫だよ、また片づけて…」

 

エマが部屋に入るとそこには果林がベッドに座っているだけだった。瑠和は大慌てでベッドの下に隠れこんだのだ。とりあえずここでやり過ごすしかなかったのだ。

 

「果林ちゃん…?」

 

「どうしたの?エマ?」

 

「なんかバタバタしてるみたいだったけど…」

 

「いいえ?」

 

「そう………?あ、今日はありがとうね?あ、あの後の写真見る?」

 

「今はいいわ」

 

ベッドの下の瑠和は状況はわからずとも二人の会話に耳を傾けていた。

 

「…っ!果林ちゃん!」

 

「?」

 

「もしかして興味ある?」

 

「あ…」

 

「だったら入ろう!?同好会!すっごく楽しいよ!みんな本気でスクールアイドルやってて、あ、そうだ!一緒に同好会復活させた果林ちゃんも入ったらきっと瑠和君も…」

 

「ないわよ、興味なんて全然」

 

「え?」

 

「その雑誌はエマのためになるかと思っただけ」

 

「でも…」

 

「私、読者モデルの仕事もあるし、スクールアイドルなんてやってる暇ないの。知ってるでしょ?」

 

「そっか…いつも手伝ってくれてたから、もしかしたら一緒にできるのかもって…」

 

「頑張ってるエマを応援したいと思っただけよ。そんな風に思われるなら、もうやめておくわ」

 

「果林ちゃん…?」

 

「それ、持って行っていいわよ?衣装の参考にでもして?それと、もう誘わないで」

 

「…」

 

それから少ししてエマは黙ったまま去って行ってしまった。エマが出ていくのを確認した瑠和はベッドから出てくる。

 

「今の言い方はないんじゃないですか?」

 

「あなたにどうこう言われる筋合いはないわ。今の話聞いてたでしょ?私もう同好会の手伝いいかないから。あなたも私を手伝わなくていいわよ。いいえ、手伝う意味がなくなったというべきかしら?」

 

果林が手伝わないということは瑠和が果林を手伝ってもそれはもう璃奈のためにはならない。

 

「…果林さん、あなたはそれでいいんですか?あなただって同好会が楽しいって」

 

「どうこういわれる筋合いはないって言ったでしょ?いいから出てって」

 

「…」

 

瑠和は果林がなにを考えているのか、わからなかった。だが、少なくとも本心を言っているのではないことだけが分かった。顔を見るにあれは、嘘をついている顔だった。しかし、それがわかったらと言ってどう声をかけていいのかもわからず、瑠和は果林の部屋を去った。薄暗くなった夜の道を瑠和はとぼとぼと歩く。これからどうすればいいか考えていた。しばらく歩いていると、エマがベンチに座っているのが見えた。

 

「エマさん…」

 

さっきの話を聞いていた瑠和は先日の彼方に言われたことを思い出す。

 

(話すだけでも楽になることもあるのだよ~。すやぴ)

 

瑠和は近くで飲み物を買ってエマの横に座った。

 

「…………瑠和君?」

 

「どうぞ」

 

瑠和はエマに飲み物を渡した。いきなり現れた瑠和に急にそんなことをされ、エマは驚いた。だが一応飲み物は受け取っておく。

 

「ありがと…」

 

「……何かあったんですか」

 

「ううん!何でもないよ?」

 

エマは笑顔で取り繕う。こういうタイプの人だったかと瑠和は思った。せめて同好会のために何かしたかった瑠和は思いきって切り出した。

 

「………果林さんと、何かあったんですか?」

 

「え!?どうしてわかったの!?」

 

流石に少々強引だったかと瑠和は思う。

 

「あ、あー……エマさんは…いつもニコニコしてて…どんなことがあっても………その、すごく素敵です。そんなあなたが暗い顔をしてるなんて………ご家族は海外ですし、親友の果林さんと………何かあったのかなって…」

 

「そっかぁ、すごいね瑠和君は。よく見てるね」

 

普段だったら発揮できない推理力だが、真実を話すわけにもいかず、とりあえずそういうことにした。

 

「大したもんじゃないです………果林さんと何があったんですか?」

 

事情はすべて知っているが、知っている理由を話せないため一から話を聞いた。瑠和は適当に相槌をうちながらエマと果林のいざこざを聞く。

 

一通り話を聞き終える。エマ視点から今回の話を聞けばなにかわかるかと思ったがそうでもなかった。

 

「どうしてそんな急に態度が悪くなったんですかね?これまでそんなことありました?」

 

「ううん、全然。初めて会った時もとっても優しくしてくれて」

 

「そうでしたか………でもなんか、子供っぽいところありますよね。果林さん」

 

「え?」

 

「いつもカッコつけてるくせして、成績悪いですし、結構ガサツなところありますし。今回みたいに急にこっちが分からない理由で不機嫌になって、その割に理由を話そうとしないで。子供っぽいところ………ありません?」

 

瑠和が少し愚痴気味に言うとエマは自然と笑顔になって頷いた。

 

「そう、そうなの。果林ちゃんすごく大人っぽいけど、案外そういうところがあるのが可愛いんだ」

 

エマが笑顔になったことに少し瑠和は安心した。正直どこまで力になれるかわからないが、困ったときは頼ってもらいたいと伝え、その場を後にした。

 

(………そうだ、できることは少ないけれど、同好会にどんどん貢献していこう。それでいいんだ、最初からこれでよかったんだ…)

 

そう思っていたが、しばらくして瑠和は果林がスクールアイドル同好会に入ったことを耳にした。それは瑠和の手助けしたいという願いが潰えたのと同義だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

果林さんが同好会に入った。子供っぽい一面もあるが基本的に面倒見のいいし、何より人の言いにくいことをズバッと言ってくれる果林さんのことだ、同好会で問題が起きても果林さんが…いや、きっとみんなで何とかできるだろう。

 

では俺はこれからどうしようか。きっと、同好会で何か問題が起きても俺の入る余地はない。同好会のためになることは璃奈のためになると思っていたが、同好会にできることはもうない。次は…何をすればいいんだろう。

 

家に帰って自分の机を見ると、そこには果林に勉強を教えるためと将来的に自分のためになるだろうと買っておいた教材がある。勉強でもするか、将来璃奈の受験なんかをサポートできればいい。そう思いペンを取る。しかし、少しペンを動かしてから手が止まる。

 

「………おかしいな」

 

集中ができない。いや、やる気がない。勉強が嫌いなわけではない。むしろ果林さんのために勉強してた時はどれだけやっても疲れなんて感じなかった。

 

翌日、学校に行く。授業を受けて昼飯を食べて、放課後に西棟の屋上から海を眺める。

 

何をやってもやる気が起きない。心にぽっかりと穴が開いた様な感覚だった。

 

「俺は何がしたいんだ……璃奈への贖罪をすると決めていたなのに、なんだ今の俺は…」

 

 

 

続く

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