彼方の近衛   作:瑠和

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第五話 栞子の場合

―二年前―

 

 

 

中学時代、付き合うようになった瑠和と栞子は下校や昼食などをともにする時間が長くなった。この日も先に授業を終えた栞子は瑠和のことを待っていた。

 

「栞子」

 

「瑠和さん。今日は少し遅かったですね」

 

「先生に仕事手伝わされてな。「彼女のところに早くいきたかったら早く終わらせろ」だってさ」

 

「そうですか。災難でしたね」

 

「ああ」

 

このころの栞子は全く笑わなかった。栞子自身、瑠和と付き合っていたのは瑠和がボロボロで見ていられなかったからっていうのもある。いずれ別れがくるのはわかっていたので必要以上の愛想はふりまこうとはしなかったのだ。

 

「受験勉強の方はいかがですか?」

 

「ん、順調だよ。ただ、やりたいこともよくわからないし、行きたい学校なんてほとんどないから、志望校の絞り込みからなんだよな問題は」

 

「………」

 

栞子はそれを聞き、ふと先日自身の進路のために言った高校説明会で気になる学校があったのを思い出す。

 

「それでしたら……この学校なんかいかがですか?」

 

「ん?」

 

栞子はスマホで学校名を検索し、出てきた学校を瑠和に見せた。学校の名前は虹ヶ咲学園。

 

「虹ヶ咲?お台場の学校か」

 

「かなりの数の学科と同好会、部活があるので在校中に将来のきっかけを見つけることができるかもしれません」

 

「へぇ………お台場…か」

 

瑠和は学校の内容に興味を持ったようだったが、それよりも立地を気にしていた。栞子はすぐにそれに気づく。

 

「なn…」

 

(なにかありましたか)そう聞こうとした。

 

しかし、栞子はそれをためらった。栞子は瑠和が自分を通して誰かを見ていることはわかっていた。自身を通してみている誰かと瑠和の間に何かしらがあったのはわかる。実際、瑠和はこの時、別居していた家族がお台場にいることに対していろいろと危惧していたのだ。

 

しかし、栞子は自分がそれをどうにかできるとは思っていなかった。瑠和をそばでそっと支えてやるのが自らの限界だと思っていたからだ。

 

「まぁ選択肢の一つとして考えておいてください」

 

このように、栞子は無理に深入りしようとはしなかった。深入りし、彼の問題を解決してしまったら、瑠和の依存先になってしまう気がしたからだ。

 

 

 

―現在―

 

 

 

「…………」

 

「栞子どうかした~?」

 

「姉さん」

 

ある日、家の中でぼーっとしていると、目の前に姉が現れた。

 

「ああ………いえ、少し、考え事を」

 

「瑠和君の話?」

 

「………知っていたんですか?」

 

「そりゃ、職員室で記憶喪失になった生徒がーってこないだっから大騒ぎよ。実習生の耳にはいるくらいにはね~。んで?瑠和君の何にそんなに悩んでるわけ?」

 

「悩んでいるわけでは………ただ、私にできることがあるか考えていただけです。一年分の記憶をなくした彼にとってよりどころとなれるのは、妹の璃奈さんと、一年前の彼を知っている私くらいですから」

 

いや、それは嘘かもしれない。以前は「それは自分の役割ではない」と割り切っていた部分があった。その贖罪を考えているのかもしれない。

 

「…………なるほどね。まぁ、あの子もそこまでやわじゃないでしょ」

 

「…そうですね」

 

それはそう、なのだ。瑠和の強さ、優しさは約半年間目の前で見てきた。だがなぜだろう、今の彼には頼もしさというか、そういうものがないように感じた。

 

 

 

ー虹ヶ咲学園ー

 

 

 

「おや?」

 

「ん」

 

昼休み。栞子が仕事のために生徒会室に来ると、そこにたまたま瑠和がやってきた。

 

「瑠和さん。どうかしましたか?」

 

「ああ、これ。同好会の次のミニライブの許可証。俺は知らないんだけど、鞄に入っててさ。高咲とか上原に聞きながら作ったんだ」

 

「………わからないのであれば、侑さんに任せてしまってもよかった気もしますが」

 

「俺もそう思う。でも、このまま記憶が戻らいないなら、仕事覚えるのも大事かなって」

 

「……わかりました。受け取っておきます」

 

栞子は言いたい言葉を飲み込んだ。自分自身も苦しい状況なのに、他人に任せず、甘えず、現状を受け入れようと努力している。だが、その言動の裏にあるものも、栞子は何となく理解していた。

 

「あの」

 

「ん?」

 

「いま、瑠和さんの記憶を取り戻そうとして、みんなでいろいろ行ってますよね」

 

「ああ」

 

「よければ今日、家に来ませんか?」

 

「………」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「おーっす!瑠和~!!」

 

放課後、校門下のバス停付近で待っていてくださいと言われ、待っているとそこにバイクで誰かががやってきた。

 

「…………あなたは?」

 

「あ~やっぱ覚えてないかぁ。見て、なんとなくわからない?」

 

バイクのライダーはヘルメットを外し、赤色が混じった長い髪を解き放つキリッとした目つきと赤みがかった赤い瞳。

 

それはかつて、栞子の家で写真でだけ見たことのある人相だった。

 

「……………栞子のお姉さん?」

 

「正解!三船薫子。改めてよろしくね。栞子がアンタ送ってってさ」

 

「そうですか………じゃあ、よろしくお願いします」

 

瑠和はヘルメットを受け取り、薫子の後ろに座る。

 

「よ~し!しっかり捕まってなさい!!」

 

嵐珠の時とは違い、本格的なバイクで受ける風はそれはそれで心地よく感じた。

 

 

 

―三船家―

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

「…………おう」

 

三船家につき、瑠和を向かえたのは栞子だった。瑠和は栞子に案内されるまま栞子の部屋に向かった。扉を開けるとそこにあったは中学時代、何度か訪れた部屋だ。

 

「おー、久しぶりだな」

 

「………やはり、中学の記憶は残っているのですね」

 

「ああ………でも」

 

瑠和は栞子の机の上を見る。そこには、いままでの活動記録の写真が飾ってあった。

 

「昔とは違うな」

 

「………私が変われたのは、あなたのおかげなんですよ」

 

栞子は微笑みながら同好会で取った写真を見せる。その表情を見て瑠和は驚いた。かつて彼方に相談していたように、瑠和は栞子を笑顔にさせたいと思っていた。

 

だが、それは自分が知らない間に達成されていたのだ。

 

「そっか…………本当に変わったんだな」

 

栞子は瞬時に失敗したと思った。瑠和が今求めているのは現在までの記憶ではなく過去のよりどころだ。自分からよりどころになろうとしておきながら居場所を追い出すような真似をしてしまった。

 

「あ、お茶か何か持ってきますね。少し待っていてください」

 

「ああ………」

 

栞子がいなくなり、瑠和は座りながら部屋を見回す。璃奈や自分の部屋と違い、大きな変化がないのは栞子らしいと言えばらしいと思った。

 

「お待たせしました」

 

「おう………なんだそれ」

 

「これですか」

 

栞子お茶と一緒に持ってきたのは持ってきたのはアルバムだった。

 

「見ての通りアルバムです私の部屋点々というか家の内装的にたくさん飾ったりするのは少し憚られましたので。主に思い出はこちらに保存しているんです」

 

「そういえば中学の時からそうだったな」

 

栞子は写真を撮り、現像して持つのが好きだった。データの思い出もいいが、こうして形に残るのが好きらしい。

 

「はい。私が同好会に入ったのは二学期のスクールアイドルフェスティバルのあとからなので、そこまで多くの写真があるわけではないのですが」

 

栞子はアルバムを開く。アルバム内にはそれなりに多くの写真が入っていた。どれもこれも、一人や二人の写真ではなく、同好会が集まっている時の写真だ。

 

「これは?」

 

「同好会のファーストライブですね」

 

「ふーん………これは?」

 

「合宿の時ですね」

 

「ああ、しずくちゃんの家でやったっていう…こっちは?」

 

「それは病院の屋上で行われたミアさんのライブです。あなたが入院した時に」

 

「なんか聞いたなそんな話。そんな大事故起こしてたことも忘れてるけどな……」

 

これまでの記録を振り返るようにページをめくっていると、途中で瑠和と栞子と薫子がステージで撮った写真が出てきた。

 

「これは?俺がギター持ってるけど…」

 

「それは…」

 

(お前が笑顔になること、それが俺の夢でもあった………だから、栞子も夢を叶えてくれよ。適性って言葉に縛られず………俺はスクールアイドルなんて向いてないと思うし、言うほどやりたいとも思わない…だけど、歌にのせて思いを届けることは、大好きなんだ。何度も届けられてきた。だからこそ誰より知ってる。夢は叶うって。俺が今やってることに………適性なんて、必要か?)

 

その写真は、第二回スクールアイドルフェスティバルの時の写真だ。栞子が自分の檻を壊し、一歩前に踏み込んだ日の。

 

「……………」

 

「栞子?」

 

「あ、はい。それはスクールアイドルフェスティバルの時の写真ですね」

 

「なんで俺がギター持ってんだ?音楽関係の手伝いか?」

 

「………そんなところですね」

 

栞子は無意識にショックを受けていた。あの日、瑠和が自身で歌い、適性の有無がすべてではないことを示し、手を引っ張ってくれたからこそ、栞子は今ここにいる。

 

それがまるでなかったことのように扱われていたことに。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

結局、写真を見ても瑠和は記憶を取り戻せなかった。その日はそれで解散となった。

 

栞子は玄関で瑠和を見送りながら考える。

 

(あの日、背中を押してくれたから、私は今ここにいる………その恩返しくらい、できないものでしょうか…)

ストーリー中に出す次元系の設定(ナタや不思議な石等)って必要だと思いますか?

  • これまで通りでいい
  • 減らしてほしい
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