次回更新は4月末を予定してます!
あとがきにオリジナル登場キャラの解説を置いておくので(こいつ誰だっけ…)ってなったら見てください。
それでは完結編、スタートです!!
第一楽章 始まる
「ほら先輩!こっちです!」
「あ、ああ」
しずくが瑠和を引っ張ってきたのはとあるホテル内にあるプール施設。冬場だが温水プールなので使えるのだ。そこまで瑠和を連れてきたしずくは、瑠和の手を離すとプールに飛び込んだ。
少ししてから水面に上がったしずくは笑顔で瑠和に再び手を差し伸べる。
「一緒に入りましょう」
「………しずく」
ここは沖縄。
このプールはスクールアイドルグランプリ運営がスクールアイドル向けに用意したホテルの中の設備だ。なぜこのホテルに瑠和としずくの二人きりなのか?それは少し前に話を遡る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―那覇空港―
「つきました!沖縄!」
彼方、嵐珠、しずく、エマ、かすみ、栞子、瑠和の七人は沖縄に到着し、これから始まるスクールアイドルGPXに向けた準備を行おうとしているところだった。
「まずはどうしようか」
「とりあえずホテル行って荷物おきましょう」
「そうだねぇ」
「ホテル行のバス、こちらだそうです」
しずくが先導してバス停に彼方たちを誘導した。
「しず子詳しいの?」
「以前家族で来たことがあるの。さぁ、乗ってください」
かすみを先頭に五人がぞろぞろとバスに乗っていく。最後にみんなの荷物を抱えた瑠和が乗り込もうとする。しかし、その瑠和の手をしずくが掴んだ。
「ん」
「こちらです先輩」
「え?」
瑠和がバスに乗れなかったタイミングで、バスのドアが閉まる。
「あれ?瑠和君としずくちゃんは……」
二人がいないことに気付いた彼方がちらりと窓の外を見たとき、バスの外でしずくが瑠和と上を組み、手をひらひらと振っているのが見えた。
「え」
「まさか!!」
二人が気づくとほぼ同時に、バスは発車する。もう止めることはできない。
「「やられたーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」」
彼方と嵐珠は叫んだ。
―現在―
「気持ちがいいですねぇ………」
しずくと瑠和は同じフロートの上に乗りながらぷかぷかと室内プールを満喫していた。瑠和もそれなりにリラックスしているが、いまいち落ち着かない様子だ。
「そうだな………でもよかったのかなぁ………」
「いいんです。これは勝負だって最初に皆さんに同意を得てますから。だから出し抜くのもOKです♪」
「そうなんだ………」
しずくはちらりと時計を見る。そして、それと同時に瑠和のほうを見た。
「先輩は、この間私を魅力的だって言ってくれましたよね」
少し前、記憶を失ったばかりのときに瑠和はしずくに魅力的かどうか訪ねられ、魅力的だと答えたのを思い出す。
「ああ………そんなことも言ったっけ」
「あれ、お世辞でもとっても嬉しかったんですよ?私たちスクールアイドルが一番魅力を伝えられるのは、ステージの上だと思うんです」
「………」
「実際先輩が彼方さんに惚れた要因の一つは、ステージでした…だから」
しずくはフロートからプールに飛び込み、水中を泳いでプールサイドに上がる。頭を振って水を払い、近くに置てあったスマホをとる。
そして、スマホを開いてスクールアイドルグランプリのアプリを起動した。
「先輩!見ていてください!!」
E N T R Y
OUSAKA SHIZUKU
時計の長針が12時を指したと同時に、しずくはライブを開始させた。これまでしずくが歌ってきた曲とは一味違い、アップテンポで元気な曲だった。
「応援、よろしくお願いします~」
ライブを終えると、しずくは画面の前の視聴者に手を振り、アピールをする。一通りアピールを終えたしずくはアプリを停止させ、再度プールの中に入った。
そして、瑠和の乗っているフロートに近づく。
「えーい!」
「うおわぁぁぁぁ!」
しずくはフロートを下から持ち上げ、瑠和を水中に落とした。水中に沈んだ瑠和はすぐに浮かび上がり、水面に顔を出した。
「ぶはっ!しずく、なにす」
「先輩」
しずくは浮かび上がってきた瑠和の頬に手を置き、顔を目の前に近づけた。
「少なくとも、いまライブを行った私は、現状トップ、そうは思いませんか?」
「え…えっと」
「ということで、先輩を独占させてもらいますね」
詭弁すれすれというか、ただの詭弁でしずくは出し抜いたうえで瑠和を独り占めしようとした。一年生のわりに凹凸がある身体が目の前に迫り、瑠和は唾をのむ。
「しずく…」
二人の唇が重なろうというとき、プールの扉が勢い良く開かれる。
「「見つけたー!!!」」
プール内に轟いた声に驚いた二人が入り口のほうを見る。そこには息を切らし、水着を着た彼方と嵐珠がいた。水着を着てはいるものの、慌てて準備をしてきたことがよくわかるほど髪や水着が乱れている。
「もうここまでたどり着いたんですか」
「慣れない土地で迷ったけどねぇ……プールでライブ配信したのは、居場所教えているようなものだよ……」
「ちょっとまってくださいよぉ~」
「待って~」
「あ、二人ともいました!」
そこにさらに少し遅れて栞子とかすみ、エマがやってきた。
「ですが、たどり着いたからなんですか?少なくとも、私よりも順位は低いでしょう?であれば瑠和さんを頂けるのは私……でしょう?」
「そうとも」
「限らないわよ?」
彼方と嵐珠は顔を見合わせて怪しい笑みを見せる。
「え…?」
まさかしずくと同じように開始と同時に何かしらアピールをしたのかと思い、しずくは慌ててアプリを開く。
「三人も協力しなさい」
「え」
「え゛」
「えぇぇ~!?」
「どおぅりぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
しずくが瑠和から手を離した隙に彼方と嵐珠はかすみと栞子とエマの手をつかんでプールに走り出す。そして、思いっきりプールに飛び込んだ。
5人同時にプールに飛び込み、それで起きた水しぶきと波でしずくを動揺させ、その間に彼方と嵐珠は瑠和を奪還する。
「ぷはっ!ああ!図りましたね!!」
「これでおあいこよ!」
「そう簡単に渡さないぜ~」
「ま、まぁまぁ、まだ始まったばっかなんだから………落ち着いて」
スクールアイドルグランプリ、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が、おそらく最後に挑むイベント。激動の幕開けになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ー数ヵ月前ー
「第一回!!」
「スクールアイドルグランプリ、開催場所分け!」
「アーンド!!瑠和がどっちに行くか!」
「「「決定勝負!!!」」」
「………はい?」
スクールアイドルグランプリが行われると全員の間で共有がされた後のある日の同好会。しずく、彼方、嵐珠の三人が唐突に何かを始めた。唐突すぎて普段こういうことをやるかすみですら微妙な顔をしている。
「つまり、次のグランプリの振り分けを決める………と?」
「その通りです!」
「どうやって?」
「それはもちろん!あみだくじよぉぉぉぉぉ!!!」
嵐珠は13本線が引かれた紙を差し出す。騒々しさとは裏腹に地味な選び方で全員コケかける。
「瑠和を含めて、関西、沖縄に行くメンバーを選出するわけです!」
「というわけで、瑠和、あなたが下のところ決めなさい」
「ここまでやっておいて俺に振るのか」
だが、嵐珠たちの選択もあながち間違いという感じでもない。瑠和に行為を抱いているのは、今回勝負に出ている彼方、嵐珠、しずく、果林、璃奈の5人だけとも限らないからだ。
瑠和は線の下に関西と大阪を六つずつ書き込み、見えないように折りたたむ。
「とりあえずこんなもんで」
「じゃあ、これの下を隠して、みんなで1本ずつ線引いていきましょ」
線を引き終わり、一部メンバーのみ息を飲みながらあみだくじを行う。結果は…
「ありえない……」
「負けたわ…」
彼方、しずく、嵐珠、栞子、エマ、かすみ、が沖縄組、果林、璃奈、愛、ミア、歩夢、せつ菜が関西組となった。
「やったわ!一緒の個室にしましょ!」
「いやそういうわけには…」
「そうだよ!瑠和君と一緒にお泊りするのは彼方ちゃんだよ!」
「私です!」
「落ち着いてくださいよ!そもそも用意されてる部屋決まってますから!」
というような感じでメンバーが決まり、開催日である今日になったわけである。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
沖縄組のメンバーは少しの間プールで過ごした後、街へ繰り出す。
「さて………いきなりしずくちゃんに出し抜かれたわけだけど、とにかく、次のステージを探さなきゃね」
「あたしは賑やかなところがいいわ」
「沖縄でいうと、国際通りですかね。かすみんもいきたいです~」
「私は植物園に行きたいと思っています」
「あ、私も!」
嵐珠、かすみ、栞子、エマの行き先が決まる中、しずくは瑠和の腕に抱きつく。
「せ~んぱい♪私と一緒に二人きりになれる場所で、ゆっくり過ごしませんか?」
それを見た彼方はすぐ逆側の瑠和の腕に抱きつく。
「さっきしずくちゃんと二人きりだったんだから次は彼方ちゃんと一緒に来るべきだよねぇ~?」
「あら、嵐珠と一緒に来るんでしょ?」
また、三人の間でバチバチと火花が散る。それを見かねたかすみが前にでる。
「あーもう!喧嘩ばっかりしないでください!それもこんなドロドロした!スクールアイドルの喧嘩じゃないですよぅ!はいこれ!!」
かすみはくじ引きを出した。
「こんなのいつの間に」
「さっきしず子が出し抜いた時からこんなことになると思ってバスの中で作っておきました!この中から先輩が選んだ色の人のところに行くっていうのはどうですか!」
彼方としずくは微妙な顔をしながら顔を見合わせる。
「………まぁ」
「しょうがないですね」
「じゃあ引くぜ」
「お願いします」
ーウミカジテラスー
「ここも人がいっぱいだねぇ」
「スクールアイドルって俺あんま知りませんでしたけど、人気なんですねぇ」
瑠和が引いた色は緑。つまりエマの場所に行くことに決まったのだ。エマと栞子は最初に軽く食事でもしようとここを訪れていた。
「うん、私もスクールアイドルになりたくて、日本に来たんだから」
「そうでしたか………そういえば、栞子はともかく、エマさんとはあまり話してませんでしたね」
「う~ん、私はたくさんお話しているはずなんだけどねぇ~」
エマは少し残念そうな顔をする。瑠和はそれを見て申し訳なく思った。長年顔色を見て過ごしてきた瑠和にとって、ここまで純粋な心の持ち主はそうそう見たことがなかったからだ。
「………すいません。俺、少しあっち、見てきますね。どこかいいステージがあるかもしれないんで!」
「あ、瑠和君!」
瑠和は逃げるようにその場を離れる。あからさまなその行動に、栞子とエマは顔を見合わせる。二人はとりあえず当初の目的通り、食事をとることにする。
「やっぱり、まだ赤の他人っていうイメージが強いのかなぁ」
「そうでなくても瑠和さんは人との距離に壁を作るタイプでしたから。特に同好会の皆さんに会う前は。あまり気になさらなくてもいいと思いますよ」
「うん、でも…………」
「気になりますか?」
「そうだね………」
ー会場付近ー
「はぁ………何やってんだ俺」
せっかく気にかけてくれた先輩の行為を無下にしてしまった。そしてそれに耐えられず逃げてしまった。
(初めての感覚だ………同好会にいる人間はかなり、純粋な人間が多い。果林さん、エマさん、彼方さん、栞子、宮下…)
「慣れねぇなぁ………」
ため息をつきながらこの後どうしようかとしていると、足音が近づいてきていることに気づく。
「天王寺瑠和さん、ですよね?」
「え?」
振り返ると同時に、ふわりと良い香りが漂う。別に鼻が良いわけではないが、その上品かつ強すぎない香りから良い香水だというのはなんとなくわかった。
そんな香水の香りを漂わせる人物は、香りにばっちりと合う見た目の少女。
「はじめまして、わたくし、ランカと申します」
ランカと名乗る、白いワンピースに白い大きな帽子をかぶった少女がいた。同い年くらいだろうか、しかし瑠和には見覚えがない。というか初めましてと言っている通り、二人は初対面なのだということがわかる。
「あ………えっと、君は?俺、実は記憶喪失で」
「ええ、存じております。それにわたくしたち初対面ですから」
ランカは慎ましく笑う。その仕草、一挙手一投足に至るまで、上品さが伝わってくるようだ。相当育ちの良いお嬢様に見える。
「そうか………それで、何か用?俺はスクールアイドルじゃないけど……」
「そうですね………でも、あなたも出てもいいんじゃないですか?」
「今の俺は無理だよ。記憶なくす前の俺なら出てたかもしれないけど」
「一度お目にかかりたかったんです。近江彼方の恋人が、どんな男性なのか」
ランカは近くの柵に手を置き、海から吹く風に髪をたなびかせる。なぜだろう、しゃべり方も、仕草も初めて見るタイプの子なのに、瑠和はどうにも既視感を感じてしょうがなかった。
「そっか、でもそれは今の俺じゃないから。ごめんな」
「そうですね。そういえば、聞きましたよ。今度は同好会の皆さんであなたを取り合ってるとか」
妙に内部事情に詳しいなと感じながらも瑠和は話を続ける。
「………正直あんまりいい気はしないけどね」
「わたくし、同好会の方々には詳しいんですの。だからこそ言わせていただきますね。鐘嵐珠。彼女が一番いいと、わたくしは思います」
「え………」
「では、これくらいで失礼させてもらいますね。記憶、戻るといいですね」
最後まで礼儀正しく、慎ましい態度で瑠和の前から去っていった。どうにもずっと感じる既視感にもやもやしながらも瑠和はそろそろ歩夢たちのところに戻ろうとした。
「あなた、天王寺瑠和ね?」
また声を掛けられる。なんだと思いふりかえると、そこにはスーツを着た女性が立っていた。今度は思ったより迫力のある相手の登場に、瑠和も少し怖気づく。
「あの………どちら様で?」
「私は。このスクールアイドルグランプリのスポンサーで、あなたたちの止まるホテルの経営側の人間で、鐘嵐珠の母親よ♪」
「ええ…」
一方、食事を終えたエマたちは瑠和を探しに歩いていた。すると、栞子のスマホにメッセージが来た。
「瑠和さんから連絡です」
「なんだって?」
エマも栞子のスマホをのぞき込む。しかし、そこに書かれた瑠和からのメッセージの内容に栞子は眉をひそめてエマに伝える。
「…………ナンパされたからしばらく合流できない…と」
「ええ………?」
ー嵐珠母移動用社内ー
「で、嵐珠のお母さんがなんの用で」
瑠和は嵐珠の母が乗ってきた高級車に乗せられ、特にどこを目的とするでもなく、ドライブする形となっていた。瑠和は嵐珠母に何が目的か一応聞いてみる。
「そうねぇ……嵐珠のお婿さんの顔を見ておきたかった………とでも言っておこうかしら」
なんだかさっきのランカと同じようなことを言っているが、瑠和は気にはしなかった。
(記憶喪失だってのは聞いてないのか?何なら俺と付き合ってないってのを聞いてないのか………)
疑問はあるが、大体瑠和の考えていた通りだった。
「あの時は驚いたわ。嵐珠が一目ぼれしたなんて言って、急に出て行っちゃうんだもの。一度はその相手を見てみ見たいって思わない?」
「そうかもしれませんね」
「それでどうなの?嵐珠との関係は」
「………あの、何も聞いてないんですか?」
「なにが?」
瑠和は小さなため息を一つついて、瑠和も知らない過去の話を始める。周りから聞いた自分の過去の立ち回りと、自分の現状を。少なくとも、過去の自分も今の自分も嵐珠を恋人にしてもいいとは一口には言えないのは事実だ。下手に嘘をつくのもよくないと思い、瑠和はすべて真実を告げる。
「なるほどね………だからあの子、何も言ってこなかったのね。おまけに記憶喪失………ね」
「はい。なので、あなたが望む天王寺瑠和はお見せできないかと」
「そうでもないと思うわ。あなたの目、いい目をしているもの。記憶を失っても、あなたはあなた。違くて?」
(昔、あなたに同じことを頼んだのよ。そして、帰ってきた時、同じ会話をした。それから同じ料理、同じ気付い。アナタはアナタよ。瑠和。無理して記憶をなくす前のあなたになる必要はないと思う)
以前、果林に悩みを相談したとき、果林がそう言ってくれた。嵐珠母が言ってくれた言葉は果林尾言葉によく似ていた。瑠和のことは知らないが、嵐珠母からはそれを補って余りある「カリスマ性」を感じられた。
(鋭いな…。ろくに話してもないのに果林さんと同じ結論を…)
「かもしれませんね」
「……まぁいいわ。それで、いまどんな感じなの?あの子とは」
「……そうですね。魅力的だと思いますよ。娘さんは」
「さっきこのグランプリを最後の勝負にするって言ってたけど、あなたの中で、誰を選ぶつもり?」
「!」
誰を選ぶつもりか?それを聞かれた瞬間、瑠和は手を止める。
そしてその瞬間自分の気持ちを理解した。
今、瑠和は誰も愛していないのだということに。
(………俺は)
「……まだ人としてもスクールアイドルとしても全部をみれた訳じゃないので。これまでの関わりで一番恋人として選ぶなら…せつ菜か、エマさんでしょうか」
必死に頭を回転させて無難な二名を上げる。嵐珠母の手前ということもあり、下手なことも言えない。
「あら、さっき名前が上がった5人の中からじゃないのねどうして?」
「……底抜けにお人好しで、なにより純粋だから…でしょうか。そういう意味では嵐珠もそうですけど、でも俺はきっと、いまの俺は嵐珠の愛を受け止め切れない」
「なるほどね……人を信じてないのね」
「え」
意外すぎる言葉を貰い、瑠和は面食らう。そして、嵐珠の母はその顔をするのをわかっていたかのように微笑み、言葉を続ける。
「私が同じ立場なら、少なくとも過去の自分を信じてそのときの恋人を選ぶと思う。あなたがそのせつ菜ちゃん?やエマちゃんを選ぶのはきっと、自分も周りの人間も信じていないから。要するに恋人として選んだんじゃなくて、無難な選択をしただけじゃない?」
瑠和は完全にフリーズしていた。エマやせつ菜を選んだとき、感じた違和感。それを完全に言い当てられたからだ。瑠和本人すらも気付かなかった深層心理を完全に読み取ったのだ。
先程の果林と同じ意見にたどり着いたことといい、嵐珠の母のカリスマ性に瑠和は驚き、少し恐れすらも感じていた。
「まぁ……猜疑心が強いのは悪いことではないと思うわ。でないと、簡単に騙される。嵐珠も含めて、同好会のみんながあなたに伝えた言葉がすべて真実とも限らないかもしれないしね」
瑠和はそんなことはないと思っていたが、事実である。実際しずくは関係性を深めるために小さな嘘をついている。無論そんなことは瑠和は当然、嵐珠の母が知るよしもないのだが。
「でもお陰でわかったわ。このグランプリ、嵐珠たちにとってとても大切なものになる」
「どういうことです?」
「確かにあなたはアナタだけど、いまのあなたじゃ正確な判断ができるかわからないもの。であればグランプリのランキングは明確な判断基準になる」
「…」
「グランプリのランキングに任せるか、自分で決めるかは…君の自由だけどね」
ー植物園ー
「ここも素敵だね~」
こちらは植物園。エマと栞子はウミカジテラスを出た後植物園に来ていた。しばらくステージになりそうな場所を探しながら歩いていると、前方から瑠和が歩いてきていることに気付く。
「瑠和君!」
「あ、エマさん…栞子…」
「いったいどうしたの!?ナンパって…」
「あー、それなんだけど」
瑠和が説明しようとしたとき、どこからともなく楽器の音が聞こえてきた。
「ん?」
「あれ?」
「この音って………」
三人は音を頼りに植物園の奥まで進んでいく。しばらく歩いていると、植物園の中の小休憩スペースのような場所で、おとなしそうな少女が一人、見慣れぬ楽器を弾いていた。形状から見て沖縄の民謡楽器だろうか。
三人はその曲にいつの間にか心を奪われ、近くで聞きいっていた。
しばらくして演奏が終わり、三人はつい拍手をしてしまう。
「あ…」
「きれいな音だね」
「あ、ありがとうございます」
「初めて見たよ~沖縄の楽器?」
「はい、三線って言います」
「弦楽器か………独特な音だな」
瑠和もギターをやっているので、似た形状でありながら独特の音を奏でる楽器に興味を持った。
「観光で来られたんですか?」
三線を弾いていた少女は三振をバッグにしまいながら訪ねてきた。エマが外国人なこともあってか、観光客と思われたようだ。
「ううん、スクールアイドルグランプリに参加するために来たんだよ」
「えっ」
エマの言葉に、少女は手を止め、驚いた顔をした。その顔は、驚きと、どこか憧れと嫉妬の混じったようなよくわからない「色」をしているなと瑠和は思った。
しかし、瑠和にとっては他人だし、まだその真意もわからない。瑠和は口をつぐんだ。
「私、スクールアイドルしてるんだ。エマ・ヴェルデだよよろしくね」
「三船栞子です」
「天王寺瑠和………一応俺はスクールアイドルじゃないぜ」
「赤嶺天…といいます……高1です」
天は自己紹介をする。瑠和は珍しい名前だと感じると同時に、さっき感じた天の表情の違和感を確認する。
「君も、スクールアイドルなのか?」
「え…あ、はい………実は」
「そうだったんだぁ!」
「じゃあ、もうグランプリには参加しているのですか?」
「あ、いや、エントリーはしてなくて………」
「そうなの?」
「そ、それじゃあ」
天は何か聞かれたくないことを聞かれたのか、慌ててその場から離れた。
「………なんか訳ありっぽいですね」
「え?」
「エマさんたちがスクールアイドルだってわかってから、あからさまに態度が変わってましたよ。あの子。スクールアイドルにあえてうれしい気持ち、それと同時に、嫉妬?羨望?そんな気持ちも交じってましたから」
「…………どうしたんだろう」
「同じ学校ならともかく、こんな離れた場所の、今知り合った相手です。下手に部外者が口を出すことでも………」
その時、植物園内の放送が流れ始める。
『ただいまをもって、スクールアイドルグランプリ、一日目を終了します』
「…………終わりですね」
瑠和にとって激動の一日目が終わった。いや、始まったのだ。すべてを決めなければならない時が。
続く
虹乃アスカ(天王寺明日和)
24年後の未来から来た天王寺瑠和と天王寺彼方(旧姓近江彼方)の娘。虹ヶ咲のファーストライブ後に未来に帰ったはずだが何故か再びこの時代に来ている。
錦ミズハ
同好会のファンを名乗る少女。悩むしずくの前に現れ、しずくの背中を押すようなアドバイスをした。
トウカ
璃奈の前に現れたフルフェイスを被った少女。璃奈と同等かそれ以上の技術力を有している。璃奈の内心を読み取り、今回の競い合いに参加させた。
ランカ
沖縄で瑠和の前に現れたいかにもお嬢様な少女。嵐珠を推している?
皆さんは誰が好きとかありますか?