サンシャインとか、蓮の話も検討中だけど。Case of AIを書いてみたいな。
そういえばアンケートの結果から当初予定してたより、少しオカルト系の話は減らしました。ご協力ありがとうございました。
感想等お待ちしてます。
「「はぁ~~」」
ここは、美ら海水族館。沖縄の中でも屈指の有名スポットで大きなため息をついて暗い空気になっているのは彼方としずくの二人だった。くじの結果瑠和と一緒にこれなかったことを残念に感じているのだ
「せっかく先輩とラブラブ水族館デートの予定だったのに…」
「彼方ちゃんだって………ちょっとお手洗い行ってくるね…」
「はい………」
ため息をつきながらもしずくは顔を上げて水族館の写真を撮る。
いつまでも落ち込んでいても何にもならないと思い、楽しむ方向にシフトしようとしたとき、前から見覚えのある人物が歩いてくるのが見えた。
「あなたは…」
「お久しぶりです♪しずくさん」
「ミズハちゃん!!」
いつか、しずくの前に現れ、しずくが本気で仲間たちとぶつかるべきかどうか悩んでいた時に、相談に乗ってくれた少女だ。あれ以来会うこともなく、どうしたんだろうと思っていたのだ。
「沖縄に来てたんだ!」
「ええもちろん。大好きなしずくさんのステージですから、ね。ライブ、見させていただきました」
「ありがとう。あ、よかったら一緒に水族館回る?」
「いえ、いちファンとして距離感は理解してますから、私はここで」
瑠和もいなくなってしまったし、ライバルである彼方と二人きりいうのも、少し気まずい空気があるのでぜっかくなら三人で回れないかと思ったのだがミズハは一緒に行動することを断った。
「そっかぁ………私は別にいいと思うけどなぁ」
「ああ、そうそう。一つ伝えたいことが」
「?」
「独占も悪くないと思いますが、虹ヶ咲は「仲間でライバル」………です、よ」
「え」
しずくは少し驚く。確かにその言葉は同好会でよく使われる言葉だ。だが、今回のことで意識したことはなかった。ミズハはしずくの手を取り、自身の額としずくの額を当てる。
そして、しずくの目と鼻の先で優しくささやく。
「しずくさんはとっても優しい方。でも、そのやさしさが深層心理で暴走することもある。もう一度よく周りを見てみるといいと思います、よ」
「…………はい…」
(なんだろう、この感覚………懐かしいような)
しずくはミズハから感じられた既視感のような、不思議な感覚をうまく言葉にできないまま感じていた。
「それでは、頑張ってくださいね。応援してますから」
言葉の意味はよくわからなかったが、何となく的確に言い当てあられたような気がした。ミズハは会話を終えると笑顔で手を振って去って行ってしまった。そこにちょうど彼方が戻ってくる。
「しずくちゃんどうかした?」
「あ、いえ。行きましょうか」
二人は水族館へ歩を進めた。
しばらく水族館の中の展示を見て回ってはいたが、どうにも、しずくはさっきのミズハの言葉が引っかかってしょうがなかった。
(周りを見てみろ………か。でも見たってなにも)
ふと、真横にある彼方の顔が目についた。ずっと隣にいたから、その表情の機微に気付かなかったかったが、時折その表情を曇らせていた。それに気づいたとき、しずくはミズハの言葉の意味を理解する。
「彼方さん」
「ん?どうしたの?しずくちゃん」
「少し、座りましょうか」
しずくは彼方と一緒に水族館の中のベンチに座る。ベンチからは大きめの水槽が見え、その中を魚が泳いでいる様子が、穏やかな気持ちにさせてくれる気がした。しずくが急にこんなところへ誘ってきたことから、彼方も何となくその意図が読み取れたのか、さっきまでの笑顔はない。
「何か用?」
「…………つらい…ですか?」
「…何の話かな?」
彼方が話しやすいようになるべく言葉を選んだつもりだ。しかし、彼方はごまかした。案外うまくいかないものだ。彼方は誰かのことばかり気にして自分のことは後回しにする性格だ。それをわかっていたから話しやすいように聞いたのだが、いなされてしまった。
であればしずくも正面から行くしかないと感じた。
「強がらないでください。私たちはライバルですけど、仲間なんですから」
「……………」
少しの間彼方は黙っていたが、しばらくすると観念したのか大きく息を吸って上を向いた。
「果林ちゃんに背中を押されて、しずくちゃんや嵐珠ちゃんと競い合う力は出た。でも、やっぱりそれは一時的で、これまでの半年間を失ったっていうショックからは、たぶん立ち直れてないのかな」
「………そうですよね。私も。それは感じてました。私はそこまで大きくないですけど。私ですらショックを受けてるんですから、彼方さんならもっと………ですよね」
「………何があっても瑠和君は瑠和君だよ。それはわかってる。でも、やっぱり一番好きなのは……」
彼方は瞳を閉じる。もう半年ほど前の記憶を蘇らせる。それなりに過去の記憶なのに、映像は、今でも鮮明に映し出される。
(彼方さんのそばに、今度こそずっと一緒にいられますから)
瑠和が事故を起こし彼方と嵐珠のライブで視力を取り戻したときに言われた言葉を思い出す。そうだ。天王寺瑠和の本質はどこでも、いつの時代も変わらないだろう。だがやはり、失われた思い出は、信頼は、深く、大きい。
「私も一緒です…………彼方さん。たまには、甘えてもいいんですよ」
「しずくちゃん」
「さっきもいいました。私たちは仲間でライバルなんですから」
そう言うしずくの顔を見て彼方は少し考えてほほ笑む。しずくの顔から、何かを感じ取ったからだ。
「そっかぁ………仲間で、ライバルかぁ……。じゃあ今日はしずくちゃんに甘えちゃおうかな。いま、瑠和君に甘えるわけにはいかないからねぇ」
「はい、存分に甘えてください」
そんな、二人の様子を、物陰からミズハは見ていた。そしてその隣には、なぜか明日和がいた。
「意外ね。あなたがこんなことするなんて」
「………あのままじゃ、たぶんしずくさんは幸せになれないから。あの人、基本的に人とぶつかること嫌うもの。今は競い合っている気持ちが勝って、気分をごまかせてるかもしれないけどすべてが終わったとき、きっと後悔が勝る」
「そう、優しいんだね」
明日和がそう言うと、ミズハはにんまりと怪しげに、だが楽しそうに笑いながら振り返る。その表情は、いつか明日和が同好会の前で披露した表情によく似ている気がした。
「そうでもないわよ?」
彼方としずくは気を取り直して水族館を堪能していた。いろいろな水槽を見ながらその幻想的な雰囲気にひかれていく。
「実はここ、彼方さんのライブ会場にちょうどいいと思って」
「彼方ちゃんの?」
「はい。私の勝手な想像ですけど。どうでしょうか」
「うーん………」
彼方はこの美ら海水族館で一番大きな水槽を優雅に泳ぐジンベエザメに手を伸ばし、自分の中でイメージを膨らませる。
水の中を泳ぐ魚たちの自由な空気、浮遊感、そして、彼方をここまで連れてきた記憶を合わせる。水槽の中から世界が広がる。水槽から放たれた世界が彼方を包んだ。
その時、イメージだけで生まれた体の浮遊感。そこから彼方のステージのイメージがぶわっと膨らんだ。
「……………ありがとう。しずくちゃん。イメージは受け取っておくね」
「………というと?」
「彼方ちゃんは、瑠和君の前で歌うよ」
彼方は瞳を輝かせてそれを伝えた。彼方の自信満々な表情。どうやら少しは元気を取り戻せたらしい。
「彼方さんらしいですね」
ーホテルー
「瑠和君ただいまぁ~」
ホテルのテラスで瑠和、エマ、歩夢、嵐珠、かすみがそろっている中、最後に彼方としずくが戻ってきた。元気になった彼方は帰って早々瑠和の膝に飛び込んできた。
「わっと、どうしたんですか彼方さん」
「んふ~寂しかったから甘えてるんだよ~」
「………はぁ。まぁいいですけど」
彼方が膝枕で横になったので瑠和はその髪を優しく撫でてやる。
「あ、彼方ずるいわよ!」
「私も撫でてください!」
またくだらない戦いが始まりそうになり、かすみがどうしようかかんがえていた時、遠くから声が聞こえてきた。
「ニジガクのみんな~」
声の方を見ると、他校のスクールアイドルがこちらへ来ていた。
「かさねちゃ~ん」
「美咲ちゃんにジェニファーちゃんも!」
これまでスクールアイドルフェスティバルで一緒にイベントをやってきた。だが、東雲のかさね以外にもYJ国際のジェニファー、東黄の美咲以外にもしらないスクールアイドルがいる。
「みんなも来てたんだぁ~。後ろの二人は?」
「うん、さっきそこで会って仲良くなってね。また同じイベントで一緒になれてうれしいよ。これから、みんなで街に行こうって話してたんだけど、どう?」
「今すぐ行きましょ!」
とんとん拍子で話しは進み、スクールアイドルたちは夜の街に繰り出した。
ー沖縄 街中ー
夜の街にくり出したスクールアイドルたちはそれぞれの目的ごとに別れ、観光を堪能することになった。そして、またグループごとに別れるということは、また同じことが起きるわけだ。
「はい、くじ引きです」
「むぅ…」
「まぁ、仕方ないですね」
瑠和の行き先の話になるのだが、瑠和は少し考えてからみんなの方を見る。
「ごめん、最初は、ちょっとだけ一人にしてくれないか?」
「え?」
「……まぁ瑠和君がそれを望むっていうなら…」
瑠和の意向とあれば無下にはできず、彼方、嵐珠、しずくの三人は引き下がるしかなかった。
瑠和はあまり人がこなさそうな場所へ移動する。瑠和が一人になりたいと思った理由は簡単で、昼間に会った嵐珠母の言葉を気にしていたからだ。
(いまのあなたじゃ正確な判断ができるかわからないもの。であればグランプリのランキングは明確な判断基準になる。グランプリのランキングに任せるか、自分で決めるかは…君の自由だけどね)
そう言われた。瑠和的には勝手に周りが盛り上がってる感じで、一人だけ蚊帳の外な感じになっていたのだが、そういわれて初めて考える。
ランキングに頼るのか、自分で決めるのか。
「……ぬぁぁぁ!」
瑠和は髪をワシャワシャとしながら悩む。
考えてみればかなり大きな決断になるのは確かだ。だが、同意のうえでの競争とはいえ、少なくとも四人を悲しませる結果になる。
だからこそ慎重にならなくてはならない。瑠和抜きで決まった勝負ゆえにその自覚を持つ時間がなかった。しかし嵐珠母のお陰でようやく自覚する。
しばらく悩んでいるとスマホに電話がかかってきた。なんだと思いながらも出てみると、電話先の人間は男だった。
『こんばんは。瑠和さん』
「お前は…確か…」
『後川現直です』
「ああ、そうそう。後川。アイラちゃんのライブの時には世話になったらしいな。改めて例を言っておくよ」
アイラのライブの時に瑠和の代わりに色々やって貰ったと聞いてはいたが、記憶を失ってから会うのは初めてだった。瑠和は感謝と挨拶をした。
『いえ、歩夢さんのためですから』
「それにしても、急になんだ?」
なぜ急に瑠和に電話をかけてきたのか、それが気になって訪ねてみる。
『ああ、いまそちら一緒に行動していると聞いたので、かさねさんはどうしてるかなと思い』
「ウチや他校のスクールアイドルと一緒に遊んでるけど、まぁ大丈夫じゃないか。ライブも滞りなくやれたらしいし」
『そうでしたか』
電話だから、相手の顔は見えない。しかし、声色や話の内容から相手の言いたいことや考えていることは察することはできた。
「…………それだけか?」
『まぁ、いまのは正直建前ですね……………同じマネージャーとして、瑠和さんが少し心配で』
一応それなりに信頼は気付いてきた中だ。現直も心配してくれているらしい。
『記憶をなくして、気付いたら恋人がいて、おまけに今度は自分を取り合って勝負!ってなれば、誰だって悩むと思いますけどね』
現直は笑いながら言う。まったく笑い事ではないのだが、張本人の瑠和ですら笑ってしまいたくなるような事態だ。
「………お前だったらどうする?」
『ん~僕はよくモテますし、わりと日常茶飯事ですねぇ』
「自分で言うか」
『ええ。でも僕は、歩夢さんしか愛していないので。同じ状況でも歩夢さんを選ぶと思います』
「記憶をなくしてるのにか?」
瑠和は瑠和にはできなかったことを平然と「できる」と言い切った現直に尋ねた。
『俺は俺を信じるからな』
急に声色が変わった。変わったのは声色だけではない、一人称も変わっている。瑠和はハッとする。そういえば現直には「東雲良久」という人格があり、二重人格であると。
「良久…なのか?」
『ああ。初めまして。迷える子羊さん』
「急に出てきたから驚いたぜ」
にわかに信じがたいが、同好会メンバーや恋人である歩夢に話を聞く限り真実らしい。瑠和は一応信じて話を合わせる。
『ああ。俺は現直であって現直じゃない。あいつの足りない部分を俺が補ってる。だからいま、俺が出てきたのさ』
「…?」
言ってる意味がよくわからなかった。良久がこのタイミングで出てくることが正しいと言ってはいるが、話の流れ的にその理由に納得できる部分がなかったのだ。
『ま、この意味をよく考えな。現直のこともよく知った上でな。じゃー俺は歩夢とデートしてくるから』
「あ、ちょ」
良久はそう言い残して電話を切ってしまった。
「…どういう意味だったんだ?」
結局、瑠和は良久の言葉の意味を理解できずに首をかしげるばかりだった。
瑠和が良久に言われた言葉を考えながら歩いていると、目の前から誰かが歩いてくるのが見えた。
「ん?」
「こんばんは、天王寺瑠和さん」
こんな風に挨拶されるのは今日でもう三人目だ。いちいち記憶喪失のことを説明するのもそろそろ飽きてくる。
「こんばんは。君は?俺は記憶喪失で…」
「私は錦ミズハ。しずくさんのファンで………あなたのファンでもあります」
瑠和は自分が行ったライブを見てくれたファンなのだろうと思った。しかし、今の瑠和にとってはそんなものノイズでしかない。
「…サインでもしようか?」
「いいえ?そんなものいりません」
ミズハはゆっくり瑠和に近づいてくる。どこにでもいる女子高生。そんな雰囲気なのになぜだろう。昼間にあったランカと同じでどこか既視感がある。
(なんだ?この奇妙な感覚………)
瑠和が既視感に戸惑っている間にミズハは瑠和の目の前まで迫ってきていた。そして、笑顔で瑠和の頬に手を置く。
「あなたの遺伝子を頂ければ」
「え」
瑠和が反応するよりも早く、ミズハは瑠和の唇を奪う。
「ーーーーーっ!!!」
「ん……」
おまけにソフトキスではない。驚いて硬直している瑠和の口にミズハの舌が侵入し、その口の中を蹂躙していく。その技術、勢いに圧倒され、瑠和の腰は抜けてしまう。
「ぷはっ………おや、キスだけで腰が抜けちゃいました、か?」
「な………な……」
瑠和は顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。
完全に油断していたのだ。ミズハからは情欲の色が全く見えなかった。瑠和ほど敏感に人の感情に反応する人間であっても見抜けないほどのポーカーフェイス。それに衝撃を受け、動けなかった。
今の瑠和の記憶にはないが、嵐珠が転校してきた日、瑠和にキスをした。その時、瑠和が拒まなかったのは嵐珠の顔色が見えていたからだ。
「安心してください。ちゃぁんと私がリードしますから」
このままでは既成事実が作られる。本能がそれを理解してはいるのだが、体が動かない。
そんなとき、背後から声が聞こえた。
「你到底對我老公做了什麼ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
叫び声と同時に嵐珠のドロップキックが飛んできた。ミズハはいったん瑠和を離し、嵐珠のドロップキックを躱した後に倒れかけた瑠和を再びつかんで自身のところへ引き寄せる。
ドロップキックを外した嵐珠はすぐに向きを変えながら地面を滑り、すぐ構えなおす。
「你丈夫?他什麼時候成為你丈夫的?」
突如現れた嵐珠に、ミズハはあきれた顔で尋ねる。
「アナタ、中国の人間?」
「あら、ごめんなさい。それしかしゃべれないと思いまして、ね」
明らかな煽りだ。嵐珠は額に血管を浮かべながらも冷静に尋ねる。
「アナタ誰?虹ヶ咲の生徒?」
「さぁ?そうかもしれませんし、違うかも?」
「嵐珠ちゃん!!」
そこに彼方も駆けつけてきた。嵐珠の叫びを聞いてきたのだ。
「いったいどうし………瑠和君!?その子は…?」
「さっき瑠和にキスしてたわ……それも、大人な感じの」
「ええっ!?」
「………な~んか面倒な感じになってきましたねぇ。まぁ、いつでも狙えるし………今日はいっか」
彼方まで来て話がややこしくなってきたと感じたのか、ミズハは瑠和を彼方たちに投げ渡す。彼方と嵐珠は慌てて瑠和を支える。
「今日はこの辺にしておいてあげます、ね。取り合いか何かしてるみたいだけど、油断してたら、私が頂いちゃいます、ね」
ミズハはクスクス笑いながら夜のアメリカンヴィレッジに消えていった。残された三人は一泊おいて大きなため息をつくと同時に、嵐珠と彼方は瑠和を問い詰める。
「瑠和君!!さっきの子誰!?」
「い、いや、俺もよく…」
「なんでキスなんかしてたわけ!?」
「いやいきなりやられて…」
「一人でいたいって言ったのはあの子と逢引するため!?」
「そんなわけ…」
瑠和の言い訳を聞く耳も持たず二人に問い詰められる。
そんな中で、瑠和の中で何かが切れた。
「もう………………いい加減にしてくれよ!!!!!!!」
瑠和の声が響いた。
「なんなんだよ!俺だって意味わかんねぇんだよ!!記憶失って!知らねぇ奴らばっかの環境に放り込まれて!!!スクールアイドルだかなんだか知らねぇけど景品みたいな扱いされて!それ以外の女と一緒にいたらだめなのか!?俺はお前たちとしか付き合っちゃダメなのかよ!!!!俺には選ぶ権利はねぇのかよ!!!!!!」
「瑠和……」
「瑠和君…」
「もう………放っておいてくれ!!!!」
瑠和は二人の手を振りほどき、その場から離れていった。瑠和の激高に驚き、二人は言葉を失っていた。そこに、嵐珠の叫びと瑠和の声を聴いて、しずくが駆け付けた。
「お二人とも!さっき瑠和先輩の声が聞こえましたけど………どうしたんですか?」
「………実は」
ー浜辺ー
ここは、アメリカンビレッジのはずれにある北谷サンセットビーチ。瑠和はそこで一人で黄昏れていた。そこにしずくがやってくる。
「先輩」
「………」
瑠和は一瞬振り向いてしずくであることを確認したが、そのまま黙ってまた前を向いてしまった。普段通りなら「しずくか」ということくらい言いそうだが、それすらない。
「あらら、ご機嫌斜めですね」
「……………」
「どうぞ」
しずくは瑠和の隣に座り、飲み物を差し出す。
「………ありがとう」
「…………ごめんなさい。私たち、瑠和さんの気持ちを考えていなかったのかもしれません。愛されたい……ただ、その一心で……」
「……………なんで君たちは、そんなに俺のことが好きなんだ?俺はそんなに男として魅力的か?」
瑠和は疑問を口に出した。
「うーん、どうしてって言われると難しいですね。先輩は誰かを好きになった経験はありませんか?」
「…………ない」
瑠和にとって、他人とは顔色を見る存在でしかない。純粋な恋愛感情をもって誰かを好きになったことなどないのだ。
「そうですか…………人の感情が分かればいい………そんな風に思ったことがあります。でも、意図的に読めるのでなければ、かえって煩わしいものなんですね」
「………」
そうだ。それを煩わしく思ったことなど数えきれない。そんなものがなければ、もっと正面から人付き合いができたはずなのだ。
「でも私は、いつも内面を見てくれる先輩が好きです」
「………」
「本当につらいときに、それに気づいて、ちゃんと私たちを見てくれる先輩が好きです」
「…しずく」
「人のつながりをちゃんと見ているから、誰に誰が必要なのかわかっている。そんな優しいあなたが好きなんです」
「…………」
しずくは、瑠和の顔を見つめて言った。瑠和は、そんなこと真正面から言われたのは初めてだった。ずっと瑠和と一緒にいた仲間だからこそそれを知ってる。そして、こんな時だからしずくもそれを正面から伝えられたのだ。
しずくはゆっくりと顔を近づける。瑠和もそれに気づいたが抵抗しようとはしない。二人の顔が静かに近づく。
「………」
月明かりに照らされた二人の影が重なる。
その様子を遠くからミズハと明日和が見ていた。ミズハの行動から、しずくが選ばれる可能性が一気に高くなったことから明日和は微妙な顔をして尋ねる。
「この展開、狙ってたわけ?」
「ちょっと想定外だったけど、結果オーライ………ううん。むしろ、もっといい結果になったかも、ね。あなたもこのままでいいの?」
「………」
明日和は、瑠和を見つめて考える。
ー沖縄料理店 兼 民宿「はいさい」ー
瑠和たちは美咲がおすすめだと聞いた沖縄料理が有名な店に来ていた。しかし、嵐珠と彼方のテンションはがた落ちだった。
「………」
「………」
「あの、嵐珠さんと彼方さん、なにかあった?」
「さ、さぁ、なんでしょうね~」
あからさまに二人のテンションが落ちている状況にかさねがしずくに耳打ちするが、説明しようにもしずらい問題だ。しずくは適当にごまかしながら肩をすくめることしかできない。
それぞれが席に着くと店員がコップをもって現れた。
「めんそーれー」
「あ、天ちゃん」
料理を運んできたのは、今日瑠和、栞子、エマが植物園で出会った少女、赤嶺天だった。
「バイトしてるの?」
「あ、ここ、私の家なんです」
注文をし、料理が運ばれてくる。沖縄料理の代表的なものが多いが、おすすめされるほどだ。味も絶品である。
「うまいな」
「そうですね。とってもおいしいです!」
「………」
「……彼方さん、あーん」
いまいち食が進んでいない彼方を見かねて、しずくが彼方に食事を差し出す。
「しずくちゃん………あ…」
彼方もそれに甘えた。
いま、瑠和がメンタルケアすることはできない。しずくやエマがやるのが一番だろう。瑠和もあんなことを言ってしまった手前、声をかけることがはばかられる。
「それにしても、記憶喪失なんて本当にあるんだねぇ」
かさねと美咲が物珍し気に瑠和を見る。
「全部ってわけじゃないです。今年一年分だけ………だから、上原とか高咲とか栞子のことは覚えてます」
「でも、大変じゃない?」
「…………そうですね。璃奈もなんだか遠くに行ってしまったみたいで…」
「何があっても、璃奈さんは璃奈さん、先輩の妹です。それは変わりませんよ」
「しずく」
璃奈を思い不安そうな顔をする瑠和に、彼方のお世話をしながらしずくが言った。ある意味しずくの図太さみたいなところが、いまの同好会には必要なのかもしれない。
「先輩もあーん」
「やめろ恥ずかしい」
嵐珠や彼方の周りの空気が重かったが、少しずつ明るさを取り戻し、楽しい食事会に変わっていった。
ーホテルー
「ところでさ、俺の部屋は?」
「ここよ?」
「は?」
ここはベッドが三つの七人部屋。何なら風呂がのぞけるシステムまである。この状態だと瑠和は女子二人と寝ることになる。
「おいおい冗談だろ…いくら何でも血縁でもない相手と寝る気なんて起きないって…」
「でももうそれで手続きしちゃいましたし…」
「じゃあ俺の金で追加で部屋をとるよ。幸い金はあるし」
彼方も嵐珠も引き止めたかったが、さっきのことがあって、なかなか瑠和に声をかけづらかった。瑠和が部屋を出て、フロントに向かっていると前から嵐珠母が歩いてきた。
「あら、天王寺君。どうかしたの?」
「どうもこうも、俺も含めた七人部屋なんていわれたから。いくら元彼女がいるとはいえ女子六人と同室ってのもよくないでしょう」
「あらそうだったの。確かに、あなたみたいに異性のマネージャーが来るっていうのは想定してなかったわね。じゃあこっちで追加の部屋をとらせてもらうわ」
「いいんですか?」
「ええ。この大会を盛り上げるためですもの。君も、頑張ってね」
「?」
瑠和に対するエールの意味はわからなかったが、余計な金を使わずに済むのは大きい。瑠和は嵐珠母の好意に甘えることにした。
ー瑠和の部屋ー
「さて、アイツらには悪いけど、広々と使わせてもらうとするか…」
荷物を置き、瑠和はベッドにダイブする。植物園で終わったと思っていた一日目。だが結局その後の方が疲れた気がした。一番気がかりなのはあのミズハという子だ。
なぜ瑠和を狙ったのか?そこが謎である。
「…それに、ミズハもランカも……な~んかどっかで見たことある気がするんだよなぁ…」
既視感の正体を何とか思い出そうと頭をひねっていると、部屋のインターフォンが鳴った。
「あ?」
この部屋の場所は誰にも教えてないはずだ。もしかして嵐珠母か?そう思いながらのぞき穴を見るとドアの前にはしずくが立っていた。
「………」
瑠和は渋々ドアを開ける。
「なんだ」
「えーせっかく後輩が訪ねてきたのに冷たくないですか?」
「なんで場所知ってんだよ」
「え?えーっと………なんででしょう?」
「さてはつけてきたな」
「ギクッ」
しずくのあからさまな態度に瑠和は大きくため息をつく。
「まぁ、入れよ。お茶くらいは出すから」
「いいんですか?」
「じゃあ、何しにきたのさ」
「お、お邪魔します!」
建前的にはしずくのわがままを聞き入れた形だが、実際は違う。瑠和も頭を使うのが疲れただけなのだ。しずくを招き入れ、楽しいお茶会が始まる。
ー嵐珠母の部屋ー
一日目が終了し、その結果を秘書が嵐珠母に持ってきた。
「こちら、一日目の集計結果になります」
「はい、ご苦労様。嵐珠は今日ライブはやらなかったみたいだけど、一体何位に…」
明日公開予定のランキングを見てみる。娘の順位が気になるのは当然だがそれ以上に、気になることがあった。
「嵐珠は17位……1位は……あら?」
一位に輝いているのは仮面を着けた少女。エントリーネームは『L.U.K.A』。
「L.U.K.A……まさかあの世界的スターの「斑鳩ルカ」じゃないでしょうね…」
「それはありません。スターの方のルカさんは今日はライブです」
「…そうよね」
続く
虹乃アスカ(天王寺明日和)
24年後の未来から来た天王寺瑠和と天王寺彼方(旧姓近江彼方)の娘。虹ヶ咲のファーストライブ後に未来に帰ったはずだが何故か再びこの時代に来ている。
錦ミズハ
同好会のファンを名乗る少女。悩むしずくの前に現れ、しずくの背中を押すようなアドバイスをした。
トウカ
璃奈の前に現れたフルフェイスを被った少女。璃奈と同等かそれ以上の技術力を有している。璃奈の内心を読み取り、今回の競い合いに参加させた。
ランカ
沖縄で瑠和の前に現れたいかにもお嬢様な少女。嵐珠を推している?