今日は大阪のヴィラフォンテーヌに来ております。愛さんのライブ会場とか回りました。楽しかったです。めちゃくちゃ疲れましたが。早く完結させてぇなぁ…。
京都
観光地としても有名で、かつては日本の中心であった街。そんな日本の伝統あふれる京都、そして神戸と大阪の三都市でもスクールアイドルグランプリが行われている。
その京都を忙しく走る男が一人。
だれあろう後川現直だ。
「はぁ、はぁ、さすがにグランプリも始まってないタイミングは無謀だったかな……」
今は、前回から少し時間が巻き戻り、グランプリ開始前だ。
スクールアイドルたちが続々と集まってきているが、まだ誰も活発に活動しようとはしていない。そんな中、特定の誰かを見つけようなんて至難の業だ。
「どこにいるんだ…………歩夢さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
ー法観寺 八坂庚申堂ー
「ん?」
「歩夢さん、どうかしましたか?」
京都府内法観寺八坂庚申堂。まだグランプリが始まる前だった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の歩夢、せつ菜、果林、璃奈、ミア、愛の六人はグランプリが始まるまでの時間で京都府内を観光していた。
歩夢とせつ菜は八坂庚申堂でツーショットをとっていたのだが、急に歩夢が何もないところを振り返ったのだ
「なんか………誰かに呼ばれた気がして」
「?」
―八坂通り―
グランプリが開始されるまでの時間、京都に来た同好会メンバーは様々な場所でアピールショットを撮影していた。開始と同時に投稿し、スタートダッシュを決められるようにするためだ。
「皆さん!しずくさんのライブ!見ましたか!」
「すごい話題になってるねー!」
「はい!」
「私たちも負けてられないね!……………よし!じゃあ今度は私が…」
しずくがいきなりライブを行ったということに触発された歩夢がライブを行おうとした時、遠くから声が聞こえてきた。
「歩夢さぁ~ん!!!!」
「えっ!?」
声に反応した歩夢がそちらを見る。だがその時にはもう、声の主の顔が目の前に迫っていた。声の主は当然現直だった。現直は歩夢に思いっきり抱き着く。
今回のグランプリには東雲も参加している。瑠和と同じようにマネージャー枠で関西に来たのだ。
「現直君!」
「やっと見つけました!」
「まさか京都中探し回ってたの!?」
「はい!その方が運命的かと…」
「れ、連絡してくれればよかったのに…」
この広い街の中を駆け巡った現直の姿に、同好会もさすがに苦笑いをするしかなかった。現直はあたりを見渡し、歩夢たちがこれから何をしようとしていたのかを察する。
「ひょっとしてこれからライブを?」
「あ、う、うん。これから…」
「ごめんなさいね、ここからは、私のステージよ」
そこに、虹ヶ咲のメンバーの横を通り抜ける影があった。
あまりに自然。
だが、あまりに存在感のある「それ」に、全員が、いや、あたりにいた観光客全員が目を奪われる。
黒い衣装、蒼く長い美しい髪、スラッとした手足、何より目を引くのは左目しか出さない仮面を着けた顔だ。右目の部分を仮面で隠し、口元をヴェールで覆っている。
そんな見るからに妖艶な少女が、衣装を翻し、天を指差す。
「さぁ、スクールアイドル、L.U.K.Aのデビューステージよ」
「え…」
あたりの空気が、ぶわっと変わる。それは、鐘嵐珠など比較にならないほどの、美しさであり、カリスマ性であり、体型である。あらゆる空気が「格上」なのを同好会をもちろん、現直すら全員が眼で、耳で、肌で、それを感じる。
曲が始まる。
さっきの登場の驚きなど、彼方に消し飛ばすほどの曲
歌声
ダンス
存在感
ライバルであるはずの歩夢たちスクールアイドルですら、その輝きにトキメキを感じ、心を奪われてしまうようだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」」」」」」
ときめいている間に、曲は終わり、僅かな静寂の後にあたりから、耳をつんざくような歓声が響き渡る。こんな歓声、同好会メンバーの誰も受けたことがない。嫉妬、よりも憧れの感情が勝ってしまうほどに。
「なんなの………あれ」
「じゃあね」
魅了された観客が迫るなか、LUKAは狭い路地に入り込み、姿を眩ませた。ぽかんとなって動かなかった同好会メンバーの前で現直は叫んだ。
「あんなものより!歩夢の方が1万倍魅力的だ!歩夢!見せてやれ!」
正確には人格が変わって良久になっていた。
「ええ~!?あんなののあとじゃムリだよぉ~!」
「行け!歩夢!」
「待って待って!服引っ張らないで!」
歩夢と良久がギャーギャー騒いでいるのをやれやれとみていたミアだが、自身の背後に迫った靴音にも気が付いた。
「なるほど。これがスクールアイドルなのね」
「あ?」
「ん?」
その声にギャーギャーやってた歩夢と良久も視線を声のほうに移す。先ほどのL.U.K.Aにまけず劣らずのビジュアルの女性が近づいてきた。
「ね、ねぇさん!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なんで歌わなかったんだよ~」
「さすがにあれの後は無理だよ……」
神戸に移動してきた一行はグループに分かれ、再び観光やアピールショットをするためにいろいろな場所に行っていた。
歩夢と良久は二人だけでお茶をしに喫茶店にきている。そこで良久は歩夢のライブが見れなかったとぶーたれているのだ。
「それよりいいの?マネージャーの仕事」
「ああ、それだったら……………うちからこっちに来てるのは二人だけですし、遥さんは遥さんでやりたいことがあるから、手助けは必要ないと。クリスティーナさんも一人で大丈夫と言ってくださったので」
「じゃあ、大会費用でただ京都に来た人になってない?」
すっと現直に切り替わるが、歩夢は変わらず対応する。一緒にロンドンにまで行ってきた中だ。もう戸惑いもない。
「まぁ皆さんの好意でそうなっていますが……必要であればちゃんと仕事はしますからご安心を」
「そう?………それにしても、ミアちゃん、大丈夫かな」
「………よく思っていない………いや、嫌っているんじゃなくて何か、後ろめたいような、変な感じだったな」
「うん………」
現直は歩夢を見つめる。ミアのことを心配しているのもわかるが、それ以上に歩夢が何か悩んでいる様子なことが気になったのだ。
「歩夢さん………」
ー夜ー
「…」
ミアは悩んでいた。いや、不安を感じていたのだ。突如として目の前に現れた姉の存在、それはミアのトラウマを誘発する可能性があったからだ。
テイラー家の一員でないから歌えるのだ。そこに再び、テイラー家の家の影が生まれたのだ。
ミアは少し考えて電話をかける。
「もしもし」
『もしもし?どうしたんだ急に』
電話をかけたのは瑠和にだった。かつて瑠和はミアの内心を見抜き、素直になるまで親身になってくれた。
だからか、瑠和に、誰かに助けてほしかったのかもしれない。ミアも背伸びはしているがまだ14歳だ。助けてくれる誰かが必要なのだ。
「あ、うん……その、そっちはどうかなって。嵐珠が迷惑かけてない?」
『まぁ、そうだな迷惑はかけられてないが……こんなに俺のことを好きだったのかって実感はしたよ』
「はは、なんせ君に会いにわざわざ海を渡ってきたんだ当然だろう?…………なぁ、覚えているかい?君は、そんな嵐珠に引っ張られてきて、友達もいなかったような僕を気にかけてくれた」
『…』
「友達も別に必要なかったといえばなかったし。無理に人と関わる必要性も感じなかった。でも、きっと心のどこかで寂しかったり、歌えなかったことの未練があったんだと思う。君はそれを見抜いた。自分でも感じてなかったようなことを」
そんな昔話をしながら、ミアは心の中で叫んでいた。「助けて!」「気付いて!」と。顔も、声も笑っているが、心でそう叫んでいた。
『…………なんか、悩みでもあるのか』
「!」
その叫びは、瑠和に届いた。瑠和の反応にミアは眼を見開く。
いつか、瑠和が嵐珠を助け、栞子を助け、自分を助けようとしてくれた時があった。結果、ミアは璃奈に助けられたが、それは瑠和が璃奈に託したからだ。
この男なら、瑠和なら、助けてくれる。そんな確証が持てた。
「…………実は」
ミアは悩みを打ち明けた。無論、悩みを打ち明ける相手は、瑠和である必要はない。だが、いま最も避けるべきことは大切な親友に心配をかけないことだと考えた。
瑠和に心配をかけたいわけでもない。
だが、頼れるのはもう、瑠和しかいなかった。
『…そうか…ミアにとっては、難しい問題だよな。話してくれてありがとう。いますぐにってのは難しいかもしれないけど。できる限りのことはしてみるよ』
そういってもらって、嬉しかった。しかし、ミアはそれ以上のことを求めていたと思い知る。
もし、学校内であればすぐにでも動いてくれただろう。だが、いまは互いに離れすぎている。どうしようもないのだ。
仕方ない。
ミアはそう考えながら電話を切る。
ーSIGPX二日目 沖縄 朝ー
二日目の朝になり、瑠和たちは朝食バイキングにやってきた。瑠和の顔を見るなり、嵐珠と彼方は少し目をそらしてしまう。昨日、二人とも人生で初めて激しく拒絶されてしまったのだ。気持ちはわからないでもない。
だが、そんな空気の中、最初に動いたのは意外にも瑠和だった。瑠和は嵐珠たちの前に出て頭を下げた。
「瑠和……?」
「………すまなかった。俺、覚悟を決めたはずなのに、お前たちを傷つけた」
「え?」
まさか瑠和から謝罪の言葉が出るとは思ってなかった嵐珠たちは驚く。
瑠和も瑠和で覚悟を決めたはずだったのに、耐えきれなくなってしまった。そのことに関して、瑠和が二人に八つ当たりしたことは正しいことではないと、瑠和は言った。
「瑠和君」
「瑠和…」
なぜ瑠和が謝罪をしたのか、時間が経ったからというのももちろんあったのだが、それ以外に理由があった。
それは、前日に遡る。
ー前日 夜ー
しずくは瑠和が部屋を変えた際に後をつけて部屋を訪れた。その際に、瑠和の好意でお茶会をしていた。周りを出し抜いてまで瑠和を愛そうとしたり、辛いときにそばにいてくれた。そんなことがあったから、瑠和にとっては同好会メンバーの中ではしずくが一番好感度が高かったのだ。
「先輩」
「ん?」
「あの、確かに私たちは、自分たちが愛されたい一心で、先輩の気持ちを無下にしていたかもしれません。でも、それは先輩のことが好きだからっていう純粋な気持ちからなんです」
瑠和はしずくの言葉に少し驚く。しずくの発言は、行き過ぎた嵐珠と彼方の行動を庇うものだったからだ。ライバル関係にあるはずの二人を庇ってもしずくに得はない。
「……………」
(そうか………妬む気持ちはあっても彼女たちは、ライバルなのか)
瑠和は改めて彼方たちの関係を知る。少し茶化す言動はあるが、彼女たちはそれぞれ真剣にこの勝負に挑んでいるのだと感じた。
「だから…」
「俺も、覚悟を決めたつもりだった」
しずくが続きを話すよりも先に、瑠和が口をはさんだ。
「え?」
「愛される覚悟、愛する覚悟…………………前の俺にできたなら、今の俺にもできるだろうって思ったんだけど」
「辛くなっちゃったんですね」
瑠和は小さくうなずいた。しずくは席を立ち、ベッドに腰掛ける瑠和の隣に座る。そしてそっと包み込むように抱きしめた。瑠和はそんなしずくのやさしさに甘え、胸を借りる。
「大丈夫です。きっとわかってもらえますから」
「…………ありがとう。そう言ってもらえると、助かる」
「はい。明日の朝にでも、それを伝えてあげてください」
しずくの声に、違和感を感じた。瑠和はそれとなく口を開いた。
「…………しずく、何か、考え事してるか?」
「………わかっちゃいますか」
しずくは瑠和を抱きしめる手を一度離す。瑠和も顔を上げてしずくの方を見つめる。
「今回のグランプリ、同好会は、仲間でライバルですから、順位がつくことは、いいと思ってるんです。でも、それで仲間同士が協力できなくなったり、一緒にいられなくなるのは………今回の瑠和さんのことだって、嵐珠さんに焚きつけられたからっていうのはありますが………本音を言うと、争いたくないって思うんです」
(………なるほどな)
瑠和はしずくから見える色とその行動にずっと違和感を覚えていた。その違和感の正体がようやくわかったのだ。瑠和を手に入れたい恋心と人と衝突したくない気持ちの二律背反でずっと板挟みになっていたのだ。
まわりを出し抜いて瑠和を独り占めしようとしたのも、自分がトップになれば周りは争わなくてすむという気持ちの表れだったのだろう。
さっきの言葉もその逆と考えれば辻褄があう。
「結果はどうなるかわかないけど、俺が全員と恋人になるっていう手もまぁ、なくはないんだろうけど。だけどそれじゃ嵐珠はもちろん、納得いかないのがみんななんだろ。誰かが泣かなきゃいけのは確かだ。その時、全力で挑まなきゃ、きっとしずくには後悔が残る。そうじゃないか」
「…先輩」
瑠和はそっとしずくの顔を撫で、頬に手を添える。しずくもその手に甘えるように両手で抱く。
「俺に見せてくれ。桜坂しずくって女の子が被ってる仮面だけじゃなくて。その本質をさ」
ー現在ー
時間が経って落ち着いたこととしずくの励ましもあり、瑠和は謝罪したのだ。
「うん、私たちこそ、ごめんね」
「瑠和の気持ちを考えてなかったわ。誰を好きになるかは、瑠和次第だものね」
「………ちゃんとお前たちを受け止めて見せるから」
「うん」
和解を済ませた一同はそのままバイキングレストランに入った。
「みんなで食べられるなんて嬉しいわ~!」
さっきまで落ち込んでたのはどこへ行ったのやら、嵐珠めちゃくちゃ元気になっていた。そんな嵐珠の様子に瑠和と彼方も微笑みながら食事を取ろうとしたとき、全員のスマホに連絡が入る。
「あ?」
「グランプリから連絡……現在のランキングだって!」
「うぇー!しず子5位!?」
「嵐珠は17位ね」
「彼方ちゃんは108位か~」
彼方がさらっと口にした順位は他のメンバーに比べ、圧倒的に低い順位に周りが噴き出す。
「か、彼方さん昨日ライブを行っていないとはいえ、そんなに低いんですか!?」
「かすみんも88位ですけど、彼方さんがそんなに低いなんて…」
「ん~彼方ちゃん、瑠和君と付き合ってることが知れてるから。みんながみんな、それを祝福してくれてるわけじゃないからね」
彼方は特に気にしている様子はなかった。今回の順位はあくまでグランプリの順位であって
「そう………そういえば一位は………L.U.K.A……?」
「ルカ!?」
嵐珠の口にした一位のスクールアイドルの存在に瑠和は大きく驚いて身を乗り出す。そんなに反応されるとは思ってなかった嵐珠は少し驚きながらスマホの画面を差し出した。
「え、ええ。ほら」
画面に映し出されたのは、仮面とヴェールで顔を覆った少女。瑠和はそのわずかに出している顔を見るとほっとしたような顔で座った。
「なんだ………そりゃそうだよな」
「?」
ーフロントー
食事も終え、七人は次にどこへ行こうか話し合う。今日は昨日のように行き先が被るメンバーはいなかったので今回はバラバラに移動するということになった。
そこで問題になるのはもちろん瑠和だ。
「瑠和先輩はどうします?」
「今日は、くじ引きにしようかな」
「はいはい。どーぞ」
かすみの差し出したくじを引く。引いた色は紫、彼方の色だ。
「あ、やったぁ!彼方ちゃんとだぜ~」
「ぶー!嵐珠とはまだなの~!」
「まぁまぁ、いつかは一緒になれますから」
ーブルーシール北谷店ー
「彼方さん応援してます!」
「ありがとう~♪」
彼方はブルーシール北谷店で握手会を行っていた。最初はデートの予定だったが、ファンが多くいたので急遽ファンサービスに移行したのだ。
瑠和はそれを動画撮影し、彼方のアカウントでグランプリに投稿している。
「………」
動画の中で、流れていくコメントを目で追う。応援する声。それはとても美しいものだ。しかし、それは時に残酷な刃になりうる。そう、ミアのように。そう考えたとき、誰かの声が脳裏でよみがえった。
(この先、同好会は大きなプレッシャーに晒されるでしょうね。フェスティバルを考案し、成功させたグループとして。なぜラブライブに出ないのか問い詰められ、フェスティバルを行っても「あの」虹ヶ咲学園のスクールアイドルだからと期待され、一定以上の実力を求められる。自分の大好きなんて叫ぶ暇なんて生まれない)
(…………あれ?こんな話、昔誰かがしてたような)
「瑠和君」
「ん」
声をかけられ、振り返るとそこには彼方がいた。ファンとの交流を終え、アイスを買って瑠和のところに来たのだ。
「一緒にたべよう?」
「……はい」
フラッシュバックした記憶のことなど考えても仕方ないと思い、瑠和は彼方との時間を楽しむことにした。
二人は席についてアイスを食べる。寒い季節ではあるが、沖縄の暖かい気候と店の暖房のおかげでおいしく食べられる。彼方はアイスをほおばるたびに笑顔をこぼしていたが、瑠和はどこか遠い目をしながら食べていた。
「………瑠和君」
「はい?」
「あーん」
彼方はスプーンですくったアイスを瑠和に差し出した。瑠和はそのまま促されようとしたが、ふと周りの彼方のファンの姿を見る。
「いや、人目が多いですし」
「あーん!」
瑠和が断ろうとしたが、彼方はお構いなしに差し出してくる。何なら断ろうとしたことに対して不満を抱いている声だ。
「………あ」
「おいしい?」
「うまいですけど………いいんですか?炎上したら…」
「彼方ちゃんが瑠和君と付き合ってるって話は結構知れ渡ってるし。それに、彼方ちゃんは君と一緒にいることのほうが大切なの」
「………」
「だから、いまは彼方ちゃんのことを見てほしいな…………って言っても、聞く君じゃあないよね。特に昔の君は。誰かのこと、考えてるんでしょ?」
「あ…」
彼方は瑠和がミアのことで悩んでいることを見抜いていた。あれだけの時間一緒にいたのだ。当然だ。
「……ミアが、俺を頼ってくれたんです」
「ミアちゃんが?」
意外な人物の名前が出たことに彼方は驚く。
まさか関西にいるメンバーの名前が出るとは思ってなかったのだ。しかも記憶を失った上に遠く離れた土地にいる瑠和に頼るなんてよほど追い詰められていたのだろうと彼方も悟る。
「詳細は言えませんが…………俺もどうにかしてやりたかった。でも、ここにいるんじゃ何もしてやれない。できるだけのことはしてやるなんて偉そうなこといったくせに………今こうして彼方さんの手伝いをするのが精一杯で……………」
「………君は、優しいんだ。自分よりも、誰かのことを考えている。でも、いつも自分がどうにかしなきゃって考えちゃう。感情が見える自分の役割だって。「都合のいい神様」になっちゃうんだ」
「都合のいい神様」そう言われ、瑠和はわずかに反応した。なんと自分にぴったりな言葉、いや皮肉だろうと。
「それってなにか悪いんでしょうか」
だが、瑠和にとってそれは皮肉だろうとなんだろうと、気にするようなものではなかった。困っている人を助けたいと思うのは、瑠和の本質のようなものだからだ。
「…………悪いよ。だって、瑠和君のおせっかいは、君自身の安全や尊厳をどこか軽く考えてる。自分なんてどうなってもいいっていう一種の自己犠牲の上に成り立ってる。そんなの絶対、間違ってる」
いつもの眠そうな言動からは想像もつかないくらいはっきりと、まじめな顔と声で言われた瑠和は少し驚く。何より、瑠和自身が感じていたことをきっぱりと言い当てたことに驚いた。
「……………よくわかってますね」
「だって瑠和君の彼女………未来のお嫁さんだも~ん」
彼方は胸を張る。自信満々な顔ではあるが、その顔にはやや不安の感情があるのを瑠和は見抜いた。瑠和の記憶がなくなり、ライバルがいる状態では自身がなくなって当然だ。
「ははは…………でも、ミアのために何かしてやりたい。それは俺の本心なんです」
「そんなに心配なら、私が関西に行って差し上げましょうか?」
「え?」
瑠和が決断に悩んでいると、誰かが二人の席の隣に立った。
「あ……………アスカちゃん!!!!!」
彼方から見れば、虹ヶ咲学園の最初のライブ以降、姿を消していたメンバーの一人。虹乃アスカが目の前に現れたのだ。店内に響くほどの声で叫んでしまった。
「び、びっくりした」
「アスカちゃぁぁぁん!!!!」
彼方は思い切りアスカに抱き着いた。明日和はややバランスを崩しながらも彼方を支える。
「わっとと」
「し、心配してたんだよぉ~!!ライブ終わったらすぐに消えちゃって、ホントにホントにホントにホントに心配したんだからぁ~~!!!!」
「か、彼方さん………ごめんなさい。私の目的は達成したので。ただの一般学生に戻っていたんですが…………今回また……トラブル起こしてそうなのがいたので」
アスカはちらりと瑠和を見て言う。
「虹乃アスカ、再び見参です♪」
しばらく彼方が落ち着くまでなだめていたが、彼方が落ち着きを取り戻すと、アスカは瑠和の隣に座る。
「さて、話を戻しましょう。瑠和さんはミアさんが心配。でも何もできないのがもやもやしてる。であれば、私が代わりに行ってあげましょうかということです」
「そ、そんなこと………それにアスカちゃんだって…」
彼方はアスカに頼ることに後ろ向きだった。アスカだってスクールアイドルの一人なのだそんなことのためにアピールの時間を減らさせるのは申し訳ないと感じたのだ。
「いいんですよ。もうスクールアイドルに未練はありませんし。お世話になった皆さんの役に立たせてください」
「………」
「いやでも……」
瑠和がアスカを止めようとしたとき、瑠和よりも早くアスカが口を開く。
「自分が対応してあげたい………その気持ちはわかります。でも、瑠和さんはいま、恋人でもない人のために自分の時間を使うわけにはいかない。違いますか?」
あっちにだって、璃奈や果林さんもいる。そのためにこの場を離れるというのもある意味大事かもしれない。だが、離れる理由はその二人のためじゃない。アスカはその意味も含めて瑠和に言った。
しかし、瑠和はどこか納得いかない表情をしていた。それを感じ取ったアスカはため息をついた。
「………安心してください。私は」
アスカは右目を隠している前髪をかきあげた。髪の下には瑠和と同じ色の目があった。
「お前!」
「瑠和君や栞子ちゃんと一緒………しかも片目だけ?」
「はい。なので………瑠和さんの望む完璧な形にはできないかもしれませんが、お役に立てるはずです」
「…………………」
もし、ほかのメンバーや侑が行くと言えば、それであれば自分が行くと瑠和は言っていただろう。せいぜい信用できたのは栞子くらいだ。
しかし、なぜか瑠和はアスカであれば信用してもいいかもしれないかもという感覚があった。確証はない。だが、いまできる最善の選択に思えた。
「わかった………じゃあ頼む」
「はい♪彼方さんのライブが見れないのは少し残念ですが………でもそれ以上に今はみなさんの役に立ちたいんです。では、行ってきます!」
「え、今から!?」
アスカは勢いよく走って行った。
「善は急げです!それでは!」
「………相変わらず破天荒な子だねぇ……さて、じゃあ、ミアちゃんのことはアスカちゃんに任せて、私たちは、デートしよっか!」
「………そうだな」
まだ引っかかりは残るものの、瑠和は彼方からの愛情を受け止めることにした。
ー大阪ー
「お兄ちゃんに会いたい」
「………」
こちらは璃奈、愛、せつ菜のグループ。歩夢たちはデートに、果林は姫乃とお出かけ、ミアは姉に呼ばれて行ってしまい。残された三人でカフェに来たのだ。そんな中、璃奈は机に倒れこみ。一言だけ言った。
「こんな感じの璃奈さんは初めて見ますね」
「もともとお兄ちゃん大好きだからねぇ」
「もう34時間31分12秒も会話してない」
「そんなとこまで数えてるんですか…」
「リナリーは、今回のこと、本気なん?」
愛がずっと気になっていたことを尋ねる。璃奈は体を起こし、急に真剣な眼差しになる。
「本気だよ。私は、血のつながってる兄弟だとしても、お兄ちゃんが好きだから」
「………」
その気持ちに揺るぎはないのだろう。璃奈の目は本気だった。だが、その揺るぎない目の奥に、戸惑いも見えた気がしたが、愛は黙ってそれを見逃した。
ーホテルー
「はぁ……」
ホテルで現直はため息をついていた。理由は簡単で歩夢の顔がずいぶん暗かったからだ。自分とデートをすれば、少しは明るくなってくれるだろうと思っていたが、そう簡単ではなかった。
『一体どうしたんだろうな』
「直接聞いてもあまり意味がないだろうな……聞いて話してくれるなら、とっくに話してくれてるだろう」
ホテルに戻った現直は良久と話しながら歩夢のことについて悩んでいた。
『だろうな………高咲侑に聞いてみるのはどうだ?』
「そうだな………少し、聞いてみよう」
―沖縄 夕方―
その日一日、同好会メンバーは特にライブもせずアピールショットをしただけで終わった。そして今日の成果を伝え合おうとフロントに集まっていた。
「そっかぁ、アスカちゃんが…」
「でも、元気そうでよかったです。そういえば嵐珠さん遅いですね」
「言われてみれば……」
嵐珠がいないことに気づいたとき、奥からガラガラとキャリーバッグを引く音が聞こえてきた。音の方向を見ると、嵐珠が荷物をまとめてホテルを出ていこうとしていた。
「え?」
嵐珠はフロントにいた同好会メンバーを見て少し驚いた顔をしたが何も言おうともせず、すぐ出口の方向に向かう。
「嵐珠ちゃん!?」
心配したエマが立ち上がって名前を呼んだが、嵐珠は前を向いたまま歩き続ける。
「嵐珠は降りるわ」
「はぁ!?」
それだけ伝えて去ろうとした嵐珠を、瑠和が追いかけようとした。しかし、それより先にエマが嵐珠の腕を掴んだ。
「嵐珠ちゃん、ちゃんと事情を聞かせて?………ね?」
「……」
エマに先を越され、嵐珠の腕を掴めなかった瑠和は、無力な自分の手を見つめた。
続く
虹乃アスカ(天王寺明日和)
24年後の未来から来た天王寺瑠和と天王寺彼方(旧姓近江彼方)の娘。虹ヶ咲のファーストライブ後に未来に帰ったはずだが何故か再びこの時代に来ている。ミアを助けるために関西へ向かった。
錦ミズハ
同好会のファンを名乗る少女。悩むしずくの前に現れ、しずくの背中を押すようなアドバイスをした。何故か瑠和にキスをするなど、口調に似合わない過激な行動を行う。
トウカ
璃奈の前に現れたフルフェイスを被った少女。璃奈と同等かそれ以上の技術力を有している。璃奈の内心を読み取り、今回の競い合いに参加させた。
ランカ
沖縄で瑠和の前に現れたいかにもお嬢様な少女。嵐珠を推している?
L.U.K.A
SIGPXで一位を牛耳る謎のスクールアイドル。