彼方の近衛   作:瑠和

75 / 75
愛さんの誕生日に出したかったけど仕事のせいで無理だったーーーー!!
8thがもうすぐですね。大阪は行きませんが東京に参加します。
この物語の序盤、愛さんを推していた故、出番がやたらあったのを覚えておりますでしょうか。今後の物語でそんな旧設定を引っ張り出していきたいと思います。

そして、新たなAnotherdaysを投稿します。また、「嵐珠のために鐘は鳴る」が現在つまりに詰まっておりますので、一時削除し、再度投稿しなおします。お楽しみに。

感想、お待ちしてます。


第四話 交わる

ーA&Wー

 

 

 

「なるほどな。あの人が…」

 

嵐珠が大会を辞退しようとしたことを受け、瑠和たちは嵐珠に事情を聴いた。嵐珠も以前と違って同好会に、素直に助けを求められるようになっていた。

 

嵐珠は自身の母が大会運営にいることを知り、あまつさえスイートルームを用意しようとした。そのことから、嵐珠母は自分に贔屓をする可能性があると嵐珠は考えたのだ。

 

「まさか瑠和に会ってたとはね。何か、変なこと言われなかった?」

 

「別に……でも正直、あんまり悪い人には見えなかったけどな」

 

変なことを言われたかどうかで言えばいわれはした。しかし、今の話とは関係ない。

 

「初対面だからよ。いいえ、私が嫌悪感を抱いているのは、家族だからかもしれないわね」

 

「………かもしれないな」

 

例え、どんなに冷徹な人間であろうと、外面がよくなければ上に上り詰めることはできない。瑠和の両親であれ、瑠和の両親であれ。そしてその本当の顔を一番知っているのは家族だ。

 

「ともかく、おかしなことが起こる前に、嵐珠は抜けた方がいいの。瑠和のコトだけじゃなくて、今回のグランプリは私の力だけでどうにかしたかったの。瑠和のコトだけじゃない。スクールアイドルとして、本気でぶつかりたかった。私を受け入れてくれたみんなと…」

 

「嵐珠さんは本当にそれでいいんですか?」

 

真っ先に反応したのはしずくだ。今回のグランプリは正真正銘最後のチャンス。おまけにこの勝負を持ちかけてきたのは嵐珠なのでその反応は当然だ。

 

「もちろんいやよ。瑠和を手に入れる最後のチャンスなのに…こんな終わり方…でも、こうする以外……」

 

(いまのあなたじゃ正確な判断ができるかわからないもの。であればグランプリのランキングは明確な判断基準になる)

 

昨日の嵐珠の母の言葉が瑠和の胸に刺さる。自分が不甲斐ないばかりに嵐珠につらい選択を迫ってしまている。これは瑠和を奪い合うだけの試合じゃない。嵐珠をはじめとして彼方、璃奈、しずく、果林、全員がスクールアイドルとしての輝きを見せる場として意識してる。

 

「とにかく一回落ち着いて、またお母さんとお話してみようよ」

 

「ママのいるホテルには戻りたくない」

 

「ほかに泊まれるところ、あったかなぁ…………あ」

 

 

 

―夜 瑠和の部屋―

 

 

 

嵐珠は昨日お世話になった赤嶺天のいる「はいさい」の民宿を利用することになった。一方の瑠和はこの先のことを考え、少し気が滅入っていた。

 

「はぁ……」

 

ため息をついたところで部屋のインターフォンがなる。誰だろうと思い見てみるとドアの前にいたのは栞子だ。瑠和は扉を開ける。

 

「栞子、どうした」

 

「少し、お散歩でもしませんか?」

 

意外な提案だったが、瑠和は了承して外に出た。

 

栞子は瑠和と共に、ホテル近くの浜辺まで来る。

 

月に照らされる海は昼間とは違った美しさと少しの怖さを醸し出していた。浜辺を歩きながら栞子は、ふと瑠和の顔を見る。瑠和は景色など見ないでずっと足元を見て歩いていた。

 

「責任、感じてますか?」

 

そんな瑠和を見かねて栞子は呼び出した本当の目的を話し始めた。瑠和は一瞬栞子の顔を見てから小さなため息をつく。

 

「………俺が、下手に世話を焼くせいなんだろうな。あいつらの心を、動かしちまった」

 

彼方というパートナーがありながら、他の女性メンバーに気をかけたことでこの現状が生まれてしまったのだと考えた。

 

「………それがあなたの魅力だと思います。どこまでも手を伸ばして、誰一人見捨てようとしない。それに、今回のことは周りが勝手にはやし立てただけですから」

 

瑠和に責任はない。あくまでも嵐珠たちが勝手に始めた物語だ。栞子はそれを伝えたかった。しかし、瑠和の見解は違う。

 

「だとしても、もう始まっちまった。俺もあいつらを愛すと覚悟を決めた………でも、思うんだ。俺にそんな資格、本当にあるのか?って」

 

「というと?」

 

瑠和は己の手を見つめる。あの時、嵐珠の腕を掴むことができなかった情けない手だ。

 

「今回…ミアも、嵐珠も、俺は手を掴めなかった。以前の俺は、せつ菜、璃奈、彼方さん、果林さん、嵐珠、栞子お前たちを救ってやったって聞いた。でも、今の俺はどうだ。助けを求めてるやつの手を掴めないどころか、目の前にしたとき、どうしたらいいかすらわからない…」

 

無力だった己の手を見て、瑠和はぐっと手を握る。栞子はそんな瑠和を見かねて小さなため息をついた。

 

「………なぜあなたがそうしなければいけないんですか?」

 

「………え?」

 

栞子は波打ち際に座り込み、水面に映る自分の顔を見つめた。他人の感情を共感覚を通して感じ取ることができるレッドオレンジの瞳が水面に移り、月の光を反射して紅く輝いているように見える。

 

「この目をもって生まれてきた私たちは、誰かの役に立たなければならないのでしょうか」

 

「………」

 

「確かに私は、この目で適性を見抜いています。でも、同じ眼を持っている姉さんはそんなことしていません。自由に生きています」

 

その言葉で瑠和は栞子の言いたいことをなんとなく理解した。

 

「…違うよ。俺は、過去の自分に縛られているんじゃない。助けたいんだ。俺が」

 

「………」

 

栞子は、そこで今の瑠和と記憶を失う前の違いを実感した。他の何人かも気付いていることだが、栞子は改めて実感したのだ。

 

(あなたのその言葉の裏にあるのは…)

 

「では、できることを、やってみてはいかがでしょう」

 

「できることって?」

 

「それはわかりません。ですが、きっとあると思います。あなたにしかできないこと。そうですね、例えば、あなたを愛してくれる人のそばを離れない…とかでしょうか」

 

「…そうだな」

 

栞子は今のままではいけないことは何となくわかっていた。しかし、いまの瑠和に何を伝えるのが正解なのか、栞子はまだわからなかった。

 

だから、最低限瑠和が前を向けるような言葉を選んで伝えた。せめて瑠和がこの時間を楽しめるように。

 

冷たい海風が栞子の髪を揺らす。もう夜も更けてくる頃だ。

 

「戻りますか?」

 

「いや、俺はもう少しここにいるよ」

 

「………わかりました」

 

栞子は先にホテルに戻り、瑠和はその場に残った。波打ち際で海を眺めながら黄昏る。自分が今、何をするのが正解なんだろう。そんなことを考えていると、真横から声がした。

 

「お悩み事?」

 

声がした。この方向を見ると、岩の上に誰かが立っているのが見えた。

 

「だ、誰だ!?」

 

「……」

 

逆光のせいで顔がよく見えない。シルエットだけ見ると、何やら動物系の耳が着いたヘルメットをしているように見える。

 

瑠和がその独特な見た目に驚愕していると、ヘルメットに眼が点灯した。その見た目は、璃奈ちゃんボードによく似ている気がした。

 

「璃奈…?」

 

「違うよ」

 

少女は岩から飛び降り、浜辺に着地した。月明かりに照らされ、その姿が明らかになる。フルフェイスでキツネの面を模したヘルメットを被り、全身をサイバーパンクな感じの服で身を包んだ少女だった。

 

「君………は…?」

 

恐る恐る名前を尋ねる。

 

「トウカ」

 

「トウカ…?」

 

「色々悩んでるんだね」

 

「いや、その前にキミ誰…?」

 

「私は、ミズハやランカの友達」

 

「あの二人の……?」

 

瑠和はその二人の名前を出され、ふと思い出す。二人には妙な既視感を感じていたことを。そんな共通点を持つ二人の友人と名乗る人物は、既視感こそ感じないものの、璃奈によく似た格好をしている。

 

「………君たちは、いったい何なんだ?」

 

「……………ただの虹ヶ咲スクールアイドル同好会のファンだよ。そんなことより、聞きたいことがあるの」

 

瑠和が少し恐怖を感じながら尋ねるが、トウカははっきり答えようとしなかった。それどころかトウカの方が尋ねてきた。

 

「聞きたいこと?」

 

「あなたは、人を愛するときにどんな基準で愛しているの?」

 

「え?」

 

そう聞かれ、瑠和は少し考える。人を愛する、その時に何を考え、相手のどんなところに魅力を感じるのか。一口に言ってしまえば性癖ともいえることだが、瑠和は見た目を気にしない。

 

「………俺を思ってくれる人。俺を受け止めてくれる人…………いや、純粋な人だ。一緒にいて、気分を害さない純粋な人……」

 

この時の、即ち一年前の瑠和はそうだった。純粋な人間が一番好きだった。つまり、相手の顔色を見ないでも済む相手がいたら一番居心地がいいと考えて答えた。

 

「………………それが血の繋がった妹でも?」

 

「っ!……なんでそれを」

 

瑠和は驚いて目を見開いた。そんな情報、どこにも漏れてないはずだからだ。トウカは気にせずそのまま距離を詰める。

 

「私はいろいろ知ってるの。ちょっと伝手があってね。で、どうなの?」

 

「………俺は、みんなの愛情を受け止めるって決めたんだ。それが妹だろうと関係ない」

 

瑠和は少し考えたがすぐに答えを出す。今朝それを決めたのだ。瑠和もそう簡単にまげることはしない。

 

「へぇ………ご立派。じゃあ、あなたはそのあとを考えてる?」

 

「その………あと?」

 

「今はノリで競い合って、仮に天王寺璃奈が勝ったとする。それであなたは本気で天王寺璃奈との結婚を考えるの?」

 

「結婚なんて…………まだわからないだろ。いつか恋が冷めることだって」

 

「ないよ」

 

瑠和の言葉を遮るようにトウカが言った。あまりに自信に満ちた言い方。そして何より言葉から伝わる説得力のような謎の威圧感。それに瑠和は恐怖さえ覚える。

 

「そんなことは絶対にない」

 

「…」

 

トウカは手を伸ばし、瑠和の胸を指で突く。

 

「そして、あなたの決断は「いま」だけで終わる話じゃない。そのあとの話、しっかり考えなきゃいけない」

 

「俺…は……………」

 

「…………それだけは、忘れないで」

 

トウカはそれだけ伝えると、そのまま去っていこうとした。そんなトウカの後ろ姿を見ながら、瑠和はぐっと手を握る。

 

「じゃあ、どうしろってんだよ!!!」

 

 

 

ーSIGPX三日目 大阪ー

 

 

 

翌日の朝、夜にくたびれた様子で帰ってきたミアを元気づけるために虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会+現直で大阪の観光に行くことになった。昨日の時点で、かすみのランキングが上がっていることもあって、ライブや美しい、かわいいアピールショットだけが決め手なわけでもないことが明るみになった。

 

無理にライブを行う理由もなくなったのだ。

 

微妙な顔をするミアの説得も終わり、出発しようとしたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あ!いた!みなさ~ん!!!」

 

「え?」

 

「あれって…」

 

この方向を見た同好会メンバーは目を疑う。声の主は瑠和に相談され、大急ぎで沖縄から関西に来たアスカだった。

 

「あすたん!?」

 

「どうも、お久しb」

 

アスカが挨拶し終わる前に、愛がアスカに思いっきり抱き着いた。

 

「もーーーーーーー!!!!!心配したんだよ!?ライブ中に急にいなくなって!!!」

 

「申し訳ありません。いろいろ事情がありまして………」

 

「アスカさん!!私も心配したんですよ!!」

 

「私も」

 

愛に続いてせつ菜、璃奈とぞろぞろ続いてきた。抱き着いてる愛をなだめながら、アスカはミアのほうを見る。

 

「実は、ミアさんが元気がないとお聞きしまして、虹乃アスカ、ここに見参です♪」

 

「………どこからそんなこと…まさか!?」

 

そこまで行ったところでミアはハッと気づく。唯一ミアの現状を知る相手。瑠和から伝わったのかと。それに気づいたのだろうなと察したアスカはウィンクをする。

 

「ともかく!皆さんで大阪観光!行きましょう!!」

 

 

 

ー天王寺動物園ー

 

 

 

神社へ訪問し、たこ焼きを食べた次に来た場所は「天王寺動物園」。ここで明日和は積極的にミアの手を引っ張っていった。それにより、最初は固まっていた同好会メンバーも徐々に個々に分かれていった。

 

「見てくださいミアさん!とってもかわいいですよ!」

 

アスカは笑顔でいつも通りにするが、ミアは何となくアスカの目論見に気づいていた。あたりを見回し、ほかに同好会メンバーがいないことを確認するとミアはため息ついて言った。

 

「…アスカ、キミ瑠和に言われて来たの?」

 

アスカは直前まで浮かべていた作り笑顔をやめ、急に冷静な顔つきになった。

 

「……………はい。そして、ミアさんの悩みはわかりますよ」

 

「…は、マインドスキャンでもできるって?」

 

「ええ…」

 

風が吹く。アスカの髪が風に吹かれ両目があらわになる。その眼の色を見てミアはすべてを察し、観念したようにため息をついた。

 

「その悩みを周りに伝えないまま、この先歌えると?」

 

「そんなのやってみなきゃわからないだろ………」

 

「やめておいたほうがいいですよ。どうせあなたは歌えませんから」

 

その言葉にミアはきっとしてアスカの方を見る。

 

「なんでそんなこと!」

 

「わかりますよ」

 

「………」

 

アスカの顔は、驚くほど冷静だった。そこに感情などないような、冷徹ともいえるような表情にミアは驚く。アスカはミアの胸に手を置く。

 

「あなたの胸に刺さった記憶のカケラは、あなたが思っている数倍深く、鋭く刺さっている。歌えないのは、テイラー家の名前のせい。でも、そんなこと大切な家族には言えない。歌えるようになったのはスクールアイドルのミア・テイラーだから。そしていま、またお姉さん…家族の前で歌うことになって、あのときと同じことになるのが怖い…………でしょう?」

 

「…っ!知った口聞くなよ!僕がどんな思いで…」

 

「…あなたに必要なのは、覚悟…です。テイラー家の期待なんて関係ない。自分は自分だと切り離す………覚悟」

 

それを言われ、ミアは少し顔をそらす。

 

「…………そんな簡単にできたら誰も悩んでないさ」

 

「じゃあ、どうしますか」

 

「…」

 

「再編入してスクールアイドルでいる時間を伸ばすのも手でしょう。でもいつかは終わります。終わったあと、どうするんですか?」

 

「…」

 

「またいつか乗りきらなきゃいけない壁が、いま来てるんですよ」

 

そんなのこと、ミアが百も承知のことだった。ミアが歌えていたのは、テイラー家の人間であることに目をそらしていたからだ。

 

「そんなのわかってる!なんなんだよ君は!一体僕の何がわかるって……」

 

「全部全部、知ってるから言っているんです」

 

感情だけでなく、事情まですべて見透かしたような言い分。実際アスカの言っていることはすべて的を得ている。ミアはこれ以上言っても正論で返されるだけだと考え、明日和の前から離れようと考えた。

 

「…………もういい…。放っておいてくれよ」

 

「………」

 

ミアはうんざりした顔で去って行ってしまった。その後ろ姿にアスカは小さくため息をつく。

 

「まぁ、追い込みはこんなところですかね。ここまで追い込めば、そうそう別の未来にはいかないと思いますけど。下手にお父さんが」

 

そんなアスカのところに一人の女性がやってきた。

 

「あら」

 

女性はアスカを見た瞬間目を輝かせる。逆にアスカは少し嫌な顔をした。

 

「あ」

 

「アスカちゃ~ん!!!こっちに来てくれたの~!?」

 

「ぐえ」

 

女性はアスカの顔を見た瞬間アスカに飛びついた。

 

「リn………じゃなかった!ルカさん苦しいです………っていうか何考えてるんですか!?グランプリに参加するなんて!」

 

「あら、いけなかった?」

 

ルカと呼ばれた少女。彼女は先日歩夢たちの前でライブを行った、登録ネーム「L.U.K.A」の少女だった。

 

「アナタだって似たようなことしてるじゃない」

 

「規模が違うって言っているんですよ!」

 

「………同好会の中でやりあうだけじゃ、あの人は本気になってくれないと思って」

 

「…」

 

「あ、アスカちゃん………と」

 

そこに現直と一緒に行動していた歩夢が合流した。アスカに絡みつく少女を見て歩夢は首をかしげる。その少女に、どこか見覚えがあった気がしたのだ。

 

どこかで見たような…と思っている間にルカは歩夢の前に歩いてきた。

 

「こんにちは、上原歩夢さん」

 

「あ、えと、こんにちは」

 

こちらの名前を知っている見知らぬ美少女。その少女の瞳を見て、現直は先日のL.U.K.Aのライブが蘇る。顔の3/4が隠されている中で、美しく輝いていた瞳と、目の前の少女の瞳のカガヤキが重なる。

 

「アナタひょっとして、先日ライブをしていたL.U.K.Aさんですか!?」

 

歩夢とルカの間に現直が入り込んだ。

 

「ふふ、せーかい。よくわかったわね」

 

「伊達にスクールアイドルは見てきてませんから。動きの所作と………その瞳のカガヤキでわかります」

 

現直の言葉に歩夢は背後で驚いていた。そんな歩夢の表情を見て、ルカは妖しく笑った。

 

「あらあら、よく見られてるわね。ひょっとして一目ぼれちゃったかしら?」

 

「一目ぼれ………そうですね。相違ないかもしれません。一人のスクールアイドルに関わるものとしてその実力に敬意を表します」

 

現直は握手を求めて手を出しだす。

 

現直は気づいていないが、その後ろで歩夢が目に見てわかるくらい困惑していた。それを見たルカはにんまりと笑って現直の手を取り、一気に自分のほうへ引き寄せる。

 

「え」

 

「よろしくね、かわいいマネージャーさん♪」

 

ルカは思いっきり現直を抱きしめ、歩夢のほうを見て意地悪そうに舌を出した。

 

「な、ななな!ちょっとぉ!!!」

 

「うおぉ!?」

 

歩夢は現直をひったくり、現直の頭を思いっきり胸に押し付け、抱きしめながらルカを睨む。ルカは少し驚いた顔をしつつもクスクスと笑う。

 

現直は歩夢の胸の中で窒息しそうになりながらもがく。

 

「あ、歩夢さ…………苦し…」

 

「あらあら♪怖いカオ♪どうなっちゃうと思ったのかしら」

 

「…………っ!!!!!」

 

歩夢は自身の嫉妬に満ちた行動に気づき、顔を真っ赤にしてぷるぷると震え始める。その様子を見てルカはさらに口角を上げる。

 

「ぷっ………ウフフ………本当にかわいいわねぇ。とられたくなかったら、しっかり繋ぎ止めなさい?」

 

ルカは笑い過ぎてあふれ出た涙をぬぐいながら、歩夢の頬をつついてその場から去っていった。

 

「あ、あの……いったいどうし」

 

唯一状況が呑み込めていない現直が歩夢の胸の中で尋ねると、歩夢は現直の肩を掴んで自身から引き離し、

 

思いっきり手を振りかぶる。

 

直後、動物園内で鳴り響いた音は、それを見ていたアスカがつい目をつぶってしまうほどの音だった。

 

「もう知らない!!」

 

「あ………え?歩夢さん!?」

 

歩夢は現直をひっぱたいてからすぐに振り返ってその場を去って行ってしまう。現直はそれを慌てて追いかけていく。その様子をアスカははやれやれというような顔で眺める。

 

 

 

―集合場所―

 

 

 

「なに頬腫らしてるのアナタ」

 

「………アンタにゃ関係ねぇだろ」

 

出口で合流し、頬を腫らしている現直を見て果林は物珍しそうに尋ねた。だがいつの間にやら人格は良久に変わり果林を無視して先に歩いて行ってしまった。

 

代わりに現直と行動していたアスカが説明する。

 

「痴話喧嘩ですよ。主に無神経な現直さんが悪くて、歩夢さんが嫉妬深過ぎるって感じですかね」

 

「あーなるほどねぇ………歩夢も現直が別の女になびくことないだろうに……」

 

詳細を聞いた果林はやれやれという感じで笑っていた。アスカも一緒に苦笑いを浮かべながらも小さくつぶやく。

 

「…………人の心なんて、わかりませんよ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

色々連れまわされたあと、ミアは歌う決心をできたようで、翌日にライブをすることになった。明日和はホテルでそれを瑠和に連絡する。

 

『そうか………とりあえずミアの悩みは解決したみたいでよかった』

 

「はい。私に任せて正解だったでしょう?」

 

とは言ったものの、明日和からすればこれは知っている通りの未来にたどり着いたに過ぎない。だが、下手に未来が変わらないよう、ミアを追い詰めてライブをやらせるように仕向けたのだ。

 

(下手にミアさんがお父さんを頼れば、ミアさんとお父さんがくっつく未来すら生まれる可能性がある………ミアさんには悪いけど………)

 

「おと………瑠和さんの方はどう?」

 

『ああ………実は彼方さんのライブステージ作ることになってな。自信ないけど、頑張るよ』

 

「………そう、頑張ってね」

 

その報告に、明日和は笑顔になった。彼方以外のメンバーとくっつきそうな空気があって少し不安に思ってはいたものの、彼方に尽くそうとするその姿に、かつての天王寺瑠和を見たのだ。

 

『ああ、アスカちゃんもありがとう』

 

「ううん、じゃあステージ作り頑張ってね」

 

少し安心した気持ちで電話を切る。小さくため息をつくと、それとほぼ同時に明日和が泊まっているホテルのシャワールームから誰かが出てきた。

 

「やっぱりここはそういう世界よねぇ」

 

シャワールームから出てきたのはルカだった。

 

「不満ですか?」

 

「いいえ?私は別に。無論望んだ未来にたどり着ければそれに越したことはないけど」

 

「………そう……ですよね」

 

 

 

―ヴィラフォンテーヌ―

 

 

 

「終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終」

 

「あの……」

 

「終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった」

 

「これはどうしたのですか…?」

 

ホテルに帰ってきて、明日の予定の確認のために現直の部屋を訪れた遥とクリスティーナが見たのは、部屋の隅で負のオーラ全開で落ち込む現直の姿だった。

 

「歩夢さんと色々あったとは先ほどカラオケ大会で聞いたんですが……」

 

「あー」

 

「終わった終わった終わ…………悪いな。現直は今まともに喋れねぇよ」

 

もう駄目になっている現直に変わり、良久が表に出てきた。

 

「ああ、良久さん。助かります」

 

「スケジュールくらいは把握してる。軽くミーティングするか」

 

「はい。お願いします」

 

一通り明日の予定を確認し、ミーティングを終えるとクリスティーナが買ってきたお菓子でお茶会が始まる。

 

「それにしても、歩夢さんにきらわれるなんて…」

 

「まぁ、現直がモテる顔してるくせに、女と距離が近いのが悪い。あいつ距離感考えないから相手を勘違いさせるし、歩夢を嫉妬させるんだよ」

 

「そうですねぇ。わたくしたちもなにかお手伝いできればよろしいのですか」

 

「……まぁこれは俺……っていうか現直と歩夢の問題だからよ。二人は気にしないでグランプリを楽しんでほしい」

 

「……」

 

 

 

―歩夢の部屋―

 

 

 

ここは歩夢の部屋。正確には歩夢と果林の部屋だ。虹ヶ咲組は歩夢果林、ミア璃奈、愛せつ菜のグループに分かれている。歩夢は先ほど動物園に行くまで取った現直とのツーショット写真を眺めていた。

 

そしてその様子を見ていた果林はため息をつく。

 

「後悔するくらいなら、謝ればいいじゃない」

 

「…………それは……そうなんですけど」

 

歩夢としても、現直をちゃんと愛しているのだ。喧嘩したとはいえ、無視したりするのは歩夢としてもつらいのだ。だが、ある一つの要因が歩夢に現直と仲直りさせることを阻んでいたのだ。

 

「何をそんなに気にしてるの?」

 

「……………それは」

 

果林もそれになんとなく気づいていた。だから試しに尋ねてみるも、歩夢は顔を曇らせるばかりだ。

 

「まぁ、私はあんまり追求しないでおくわ。きっと、私が追及することじゃないだろうから」

 

「え?」

 

「何でもないわ。少し出かけてくるわね」

 

意味深なことを言い、果林はいったん部屋を出て近くのコンビニに向かう。特に用事はないのだが、歩夢を見ていられなかったのだ。

 

 

続く




虹乃アスカ(天王寺明日和)
24年後の未来から来た天王寺瑠和と天王寺彼方(旧姓近江彼方)の娘。虹ヶ咲のファーストライブ後に未来に帰ったはずだが何故か再びこの時代に来ている。ミアを助けるために関西へ向かったが、あまり助けようとしている素振りが見えない。何かしら目的があるようだ。

錦ミズハ
同好会のファンを名乗る少女。悩むしずくの前に現れ、しずくの背中を押すようなアドバイスをした。何故か瑠和にキスをするなど、口調に似合わない過激な行動を行う。

トウカ
璃奈の前に現れたフルフェイスを被った少女。璃奈と同等かそれ以上の技術力を有している。璃奈の内心を読み取り、今回の競い合いに参加させた。瑠和の前に現れ、璃奈を愛することの重要性を説いた。

ランカ
沖縄で瑠和の前に現れたいかにもお嬢様な少女。嵐珠を推している?

L.U.K.A(ルカ)
SIGPXで一位を牛耳る謎のスクールアイドル。ルカが本名ではないらしい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。