先日璃奈ちゃんの名前の間違いの指摘を受け、修正が行われました。なぜ間違っていたかの言い訳をさせていただきますと、スマホとPCで編集を行っているのですがスマホでは間違った名前が、PCにはちゃんとした名前が登録されており、それがミスの原因となっていました。今回は気を付けたので問題はないかと思われます。
「瑠和先輩の好きな人はズバリ!せつ菜先輩です!!」
練習の休憩時間に、かすみは愛と璃奈に自信満々で宣言した。愛と璃奈は二人して顔を見合わせ、再びかすみの方を向く。
「どうしてそう思うの?」
「愛先輩とりな子は知らないでしょうけど、部活に戻ろうとしないせつ菜先輩を説得する瑠和先輩の姿はそりゃあもう必死だったわけですよ。なんであそこまで必死に戻ってきてもらおうとしたのか…その理由はもはや明確!」
「あ、愛さんもその話ちょっと聞いた」
「私も」
「でしょ~?それにぃ、呼び方。これ気づいてました?」
「呼び方?」
意外な切り口での証明が始まったことに愛は驚く。
「愛先輩はなんて呼ばれてます?」
「宮下…だね。あゆぴょんもゆうゆも名字呼びだよね」
「でもぉ、瑠和先輩なぜかせつ菜先輩だけせつ菜って名前呼びなんですよぉ」
確かに瑠和は年上に対しては名前にさん付け、年下には名前にちゃん付け、同年代には名字で呼んでいる。しかし、せつ菜に対してだけは「せつ菜」と名前で呼んでいた。
「これはもうほぼ確定なんじゃないかなぁってかすみん思うんですけど~」
「なにが確定だって?」
音もなく背後に瑠和が立っていた。
「どえぇぇぇ!瑠和先輩!」
かすみは手を上下に振りながら驚く。
「もうすぐ休憩終わりだぞ。こんなところでなにやってんだ」
「ん~女子会?」
愛は適当に誤魔化す。
「女子会…まぁなんでもいいが早く戻れよ」
「はーい」
かすみと璃奈は練習場所に戻っていく。しかし愛はその場に留まり、じっと瑠和を見ていた。思い出せる限りせつ菜と瑠和の関係を思い出していた。
「…ん?な、なんだよじろじろと」
愛の視線に気づいた瑠和は少し驚く。
「ん、ああ、ごめんごめん。じゃ、行ってくるね」
(………絶対にそうとは言い切れないけど、ハッパかけてみますかね………)
練習場に向かいながら愛はにんまりと笑っていた。
そしてその日の夜、翌日の準備をしている瑠和の部屋に璃奈が訪ねてきた。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「ん?どうした?」
「これ、クラスメイトにもらったんだけど」
そう言って璃奈は映画のチケットを差し出した。とあるロボットアニメシリーズの劇場版だ。この作品はせつ菜が大好きで前々から見たいと言っていたのを知っていた愛が用意したものだ。
「私、実はもう見ちゃってて。せつ菜さんも見たがってたから、ちょうど二枚あるし二人で行ってきて」
「………せつ菜に渡すならまだしもなんで俺も?」
「あんまりアニメとか見ない人が見ても多分面白くないし、男の子なら事前知識なくてもある程度楽しめると思うから。だから、はい」
「…」
せつ菜は立場上というか家が厳しいのであまりアニメ関係のイベントや映画なんかにも行けないようだ。たまに嘘をついて出かけることはあるらしいがそう何度も使える手ではないと聞いていた。
部員のメンタルケアをするのはマネージャーの仕事だ。瑠和はそう考え、璃奈からチケットを受け取った。
「わかった。誘ってみるよ」
「うん」
翌日、瑠和は練習が終わった後に片づけをしているせつ菜のところに行った。
「せつ菜」
「あ、瑠和さん。どうかしましたか?」
「明日、出かけるぞ」
そう言って瑠和はせつ菜にチケットを渡した。唐突な出来事にせつ菜はあわてふためく。しかしそんなせつ菜を気にもかけずに瑠和は予定を続けて説明する。
「え!?」
「お前の家に迎えに行く。勉強会っていえばお前の親も納得するだろ」
「え、ま、まぁ」
「じゃあ、明日の10時に行くから。適当に準備しといてくれ」
瑠和はそのまま去って行ってしまった
「は、はい………」
かなり無理やり押し切られ、明日映画を見に行くことになってしまった。いままで男友達と映画を見に行ったりすることはあったが、異性との関係に疎かった瑠和にとってはこれが精いっぱいの誘い方だった。
そしてそんな様子を影ながら愛たちが観察していた。
「いやぁなんだか自然とにやけてきてしまいますなぁ」
「もうちょっとマシな誘い方できなんですかね瑠和先輩は」
「案外コミュ障………」
一人残されたせつ菜は驚きながらもチケットを見つめる。急な話だったとはいえ、断る理由もなかった。だからついつい受けてしまったがせつ菜も異性との外出など小学生以来で戸惑っていた。
(あれ!?私もしかしてデートに誘われました!?)
せつ菜は大急ぎで愛を探した。しばらく駆け回り、せつ菜はようやく愛を見つける。
「愛さん!」
「おおう、せっつーどうしたん?」
「あの!デートに来ていく服はどんなのがいいでしょうか!出来れば事情は聞かないでおいて欲しいのですが!」
(意外な方向に話が進んだなぁ)と愛は思った。瑠和の反応を見るはずがせつ菜が予想外の反応を見せた。それはせつ菜が瑠和に好意を寄せているのではなく跳躍した考えをしたであろうことを愛はなんとなくわかった。
ここでそうではないことを伝えることは簡単だがそのことを瞬時に理解できるのは少々不自然故に伝えることは憚られた。
「じゃあ愛さんのスペシャルコーデ試しちゃいますか!」
―翌日 中川家―
「おはようございます」
翌日、中川菜々の家の前には妙にまじめな格好をした瑠和が立っていた。あくまで勉強会という理由で彼女を連れ出すのだからおしゃれ過ぎてもいけない。
「お待たせしました。では、参りましょうか」
菜々もいつもの「中川菜々」の姿で家から現れ、菜々の母に見送られながら二人は目的地に向かった。
しばらく歩いて菜々の母が見えなくなってから菜々は吹き出す。
「…ぷっ………くく………あはははは!なんですかその恰好!」
「な!お前のためだろうが!」
確かにまじめな格好ではあった。しかし、瑠和は髪型をぴったりと七三分けにして眼鏡をかけていた。絵に描いたような優等生といった感じであり、菜々は家を出てからここまで、笑いをこらえるのに必死だった。
「でも、少し緊張していたのですが……多少和らぎました」
「ああそうかい。何よりだよ」
瑠和は伊達眼鏡を外してぴっちり整えられた髪型を元に戻す。
「さぁ、いこうぜ」
「あ、ちょっと待っててください」
菜々は公園の公衆トイレへ向かう。
「…………トイレか?」
しばらくしてトイレから愛と選んだ服に着替えたせつ菜が現れた。
「ど、どうでしょうか!?」
「…似合ってると思うよ。せつ菜は案外こういうおとなし目の服も似合うんだな」
瑠和はせつ菜ににっこりと笑いかけ、服装をほめた。瑠和にというか異性に真正面から褒められることなど初めてで顔を赤くする。ただでさえせつ菜はデートに誘われたと思い込んでいて緊張してるのだ。余計に赤くなっている。
「あ、ありがとうございます…」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!さぁ行きましょう!!」
せつ菜は瑠和の前に出てずんずんと歩いていく。そんな様子を、後ろからマスクとサングラスをかけた璃奈、愛、かすみが尾行していた。
「いい感じだねぇ」
「瑠和先輩って案外天然のたらしなんじゃないんですかね」
「そういう節、あるかも」
三人のゲスが背後にいることも気づかず、二人は映画館へ向かった。チケットを受け取り、ポップコーンを買ってからスクリーンに入る。
「あんまりシリーズを知らなくても楽しめるって聞いたんだが、そうなのか?」
「え!?は、はい!一応、楽しめると思います…」
肩を並べて座るとせつ菜は改めて緊張してきてしまう。二人の真後ろの席にはゲス軍団が座り、せつ菜の反応を見てにやにやしている。そんなこんなで映画が始まった。
映画が始まると映画の内容に引き込まれいつの間にかせつ菜は緊張を忘れてしまっていた。
「いやぁ~!面白かったです!まさかあのかぼちゃの男が冒頭で出番がなくなるなんて思ってませんでした!」
「主役機の登場が結構遅かったがいい演出だったな。それに主題歌が熱かった」
「続編もあるみたいですし!ぜひとも観に行きましょう!」
はしゃぐせつ菜を見て瑠和は少し安堵の表情を浮かべる。その表情が結構表に出ていたのかせつ菜はどうしたのかと思った。
「…どうしました?」
「いや、最初は俺なんかと映画見に来て楽しいんだろうかって不安だったんだが、楽しめてたみたいでよかった。ここに来るまでも口数少なかったし…」
「………」
そのことを聞いてせつ菜は少し考える。
「あの、少し聞きたいことがるんです。時間もちょうどいいですしお昼がてらお店に行きましょう」
「…」
二人はそのまま食事に向かった。
適当な店で食事を始める。当然その店の中にゲス軍団はいた。少し食事をしてからせつ菜は話し始める。
「で?聞きたいことってのは?」
「あの………なんで今日は一緒に映画を観に行こうと…言ってくれたのですか?」
せつ菜はコーヒーのカップで少し顔を隠しながら上目遣いで訪ねた。せつ菜にとって勇気のいる質問だったがこれだけははっきりさせておきたかった。
「……」
(璃奈に誘われたからっていうのは簡単だけど………)
「お前、結構苦労してるだろ。生徒会長も、優等生の娘も、スクールアイドルも。きっと疲れてんじゃねぇかなって思ってよ」
今考えた理由ではあるが、実際に思っていたことだ。正体を隠しての活動は自身が持っている人脈等「中川菜々」の立場を使えなくなる。それはとても大変なことではないかと瑠和は思っていた。要するに他のメンバーに比べて負荷が大きいのではないかと思ったというのを理由にした。
「…それだけですか?」
「ん?」
「本当に、それだけ………なんですか?もし他にもあったら全然言ってくれていいですよ!?その………普段は言いにくいことでも…」
「………まぁ、そうだな。特に深い意味はねぇよ。ただいつも頑張ってるせつ菜に、ちょっとしたご褒美だ」
「…………そうでしたか、ありがとうございます!」
それを聞いたせつ菜は少し驚いた表情をしてからペカッと笑顔になって笑った。もしかしたらの可能性を考えていたせつ菜はそれがなくなったことに少々安堵と寂しさを覚えた。
せつ菜は瑠和に恋、とまでは言わないが好意は寄せていた。自分を同好会に引き戻してくれたきっかけを作ってくれた、全力の言葉をぶつけられた。そんな瑠和に誘われてもしかしたらとも思ったが、関係が変わらなかったことに安堵と、友人でしかいられなくなったことに少しの寂しさがあったのだ。
「あ、ここ期間限定のメニューがありますよ!頼んでみましょう!」
「お、おう」
そしてそんな様子を見ていたゲス軍団。
「なんか、雰囲気変わりましたね」
「お兄ちゃんが特に何もないって言い切ったみたい」
二人が何を話しているか聞こえないと思っていたが璃奈だけはなぜか会話内容を把握している。
「りな子なにそれ…」
「盗聴機」
「えぇ…」
「ていうことは、るなりんの好きな人はせっつーじゃなかったってこと?」
「えー?かすみんの乙女の勘が…」
「あら、何してるのあなたたち」
そこに、たまたまエマと遊びに来ていた果林が現れた。
「カリン!」
「エマ先輩も!」
「みんなで仲良くお出掛け?て言うかなにその格好」
果林は愛たちのサングラスとマスクの格好に疑問を持った。
「ほらぁ、かすみんたちもうだいぶ顔が知れ渡ってますしぃ、ちょっとは気を付けないと」
先日、瑠和の恋愛話にもっとも否定的だった果林に今回の行動を正直に話すわけにもいかず適当に誤魔化す。
「別にそこまで気を付ける必要…」
愛たちと話していた果林だったが、たまたま視界の端に見覚えのある二人が見えてしまった。瑠和とせつ菜がお互いおしゃれをして楽しそうに話している。
「…」
「果林ちゃん?」
背後にいたエマも二人の存在に気づく。エマはすぐに果林の顔を見た。表には出していないが目は明らかに動揺していた。
「………じゃあ楽しんでね。私たち行くから!」
エマは果林の手を取ってその場からすぐさま離れた。今の果林をほおっておくと何をするかわからなかったからだ。
「じゃ、じゃあ」
果林たちは去って行ってしまった。
「…カリン?」
その後、瑠和とせつ菜の二人はアニメグッズのショップなどに行ったりしていたが結局恋人らしい行動に行き着くこともなく夕方には解散した。
「結局なんも起こらなかったねぇ、残念」
「かすみんたちも帰りますか………」
「そうだね…」
ゲス軍団も解散し、璃奈は瑠和に偶然を装って合流しようとした。瑠和は帰り際に夕食の材料を買いに行っていた。スーパーに入っていった瑠和を追いかける。そして、精肉コーナーで肉を選んでいた瑠和に声をかけようとしたとき、璃奈は商品棚に身を隠した。
「あ、あら、偶然ね」
璃奈が姿を隠した理由は一つ、突如として果林が現れたことだ。
「……果林さん」
偶然にしては出来すぎた出会いだった。
続く