咲-Saki- 人と星が交わる時   作:saitou1

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一話改訂して話の流れを変えたので、改訂前だけ見た人は訳が分からないと思います。
改訂した一話を先に見る事を強く推奨いたします。


邂逅、二

 

東三局0本場 七巡目 ドラ:{南}(ドラ表示牌:{東})

 

 

「立直!」

 

先制したのは御影の方だった。

淡の絶対安全圏が消えたとはいえ、御影の異能(オカルト)は他者や自身の手牌を操作する類の能力ではない以上、卓は平場といってもいい状態にあった。そんな中、淡の様な絶対的運と異能(オカルト)を持っていない御影にとって、七順目立直というのは比較的悪くない聴牌速度である。

黙聴ではなくわざわざ立直をかけてきたという事は、ツモりやすい両面待ち以上か、それとも出和了りしやすい字牌待ちか、或いは打点を上げるためなのか……。卓上の面子はそう思い、捨て牌を見る。

 

御影捨て牌:{⑨東5五南二横4}

 

比較的中張牌が多く、一見全帯(チャンタ)の様にも見える捨て牌。オタ風でありドラでもある{南}を最後の方まで温存している辺り、恐らく字牌単騎で待っているという事はないかもしれない。そこまでは淡にも分かるものの、それ以上の事は分かりえなかった。未だ淡の直感は完全ではなく、危険牌がどれであると言う様な具体的な事は何一つとして分からない。だがしかし、それは淡が諦める理由にはなりえなかった。

 

(……とりあえず、危険そうな所以外は全部通す)

 

分からない時はある程度絞って全ツッパ。元より防御が得意でなく、全て直感に頼り切っていた淡にとって、それは自らの知りえる最低限度の防衛方法だった。捨て牌読みなど凡人のする事と侮蔑していた事を密かに後悔しつつ、淡はツモった牌を手牌に入れる。

 

{五六③③④⑥⑦4588白白} ツモ{④}

 

塔子過剰(ターツオーバー)であるものの、{白}を落として断幺九へ向かうのは少し拙い。まだ場に{白}が一枚も出ていない以上、{白}の後付けの可能性が残っているからだ。そしてそれ故に、例え他家が{白}をツモったとしても{白}は出ないだろう。かと言ってこの手で七対子など論外だ。と、すれば―――。

 

―――打、{5}

 

取りあえずの塔子から中抜きしての現物打ち。ほんの数分前の淡であれば激昂していてもおかしくはない打ち筋である。格下である相手に対し、安牌を打たされるなど屈辱の極み―――しかし、そんな傲岸不遜さは今の淡には存在しない。自分に伍するかもしれない存在であり、宿敵であると認識した御影である。その位させて(・・・)くれなければ面白くない。

 

無論現物なので和了の声が上がる筈もなく、ツモ番は淡の下家に移る。悩む下家が打った牌は{6}。これもまた和了の声はなし。このまま何事もなく回ってくれ……卓上の思いが一つとなる。―――けれども、その祈りは届かない。

御影のツモ番、可視出来る程の力の奔流が御影を中心に吹き荒れる。尋常ならざる気配に、淡の肌が粟立った。これは―――デカいのが、来る。

 

「―――ツモ、立直一発三色平和。………裏乗らず。3000・6000」

 

淡の予感に違えず、御影は和了の声を上げた。先制立直からの一発ツモ……文句なしの跳満である。

淡の背筋にぞわりと寒気が走る。一刻一刻その嵩を増していく御影の力は、もはや嵐に荒れ狂う濁流のソレに近い。生半な者であれば激流に浮かぶ藁の如く飲み込まれて溺死するしかないだろう。しかし、そんな御影に勝った時にこそ、大星淡という存在は真に完成する。その想いが、淡の気持ちを昂らせる。

しかし、そこいらの雑魚と違って容易にねじ伏せられない以上、御影を倒すのにはそれ相応の努力を重ねるしかない。その為に、御影はどんな和了をしたのかと手牌を覗き―――淡は、その和了のどこかに違和感を覚えた。

 

 

御影が晒した手牌はこうである。

 

{二二七八九⑦⑧⑨34578}ツモ{9}

 

そしてその捨て牌がこう。

 

{⑨東5五南二横4}

 

一見、何の変哲もない上の三色である。しかし、何かがおかしい。そう思い考える事数瞬、淡は違和感の原因に気が付いた。それは二つ。親である淡の下家の{6}見逃し、そして立直直前の{二}のツモ切りである。

 

親の{6}で和了していれば、幾ら安目だろうと立直一発平和で30符3翻の3900はあったのだ。それを敢えて見逃しての高目一発{9}ツモ。明らかに通常の打牌ではない。

まだ早い巡目であるし、{9}をツモれば3翻上がる。が、裏ドラのあるこの麻雀で役に拘る理由は殆どないと言っていい。ここで和了らないのは非合理的に過ぎるというものだろう。

 

そしてそれと同じ位{二}ツモ切りにも違和感が残る。

 

ここで御影の手牌を立直一巡前に戻してみる。{二}の次に切った牌が{4}。となれば恐らく御影の手牌は―――

 

{二二七八九⑦⑧⑨44578}ツモ{二}

 

そしてここから{二}ツモ切りの後、{3}を引いたので{4}を打ったのであろう。でなくばあの和了形で{4}を温存しておく理由がない。しかし、ここにこそ違和感の原因が存在する。そう、この手牌で{二}ツモ切りは()()()()()

何故ならばこの手牌、{5}切りで聴牌するのだから。

無論、面子の中に暗刻がある以上、平和はつかない。高めを引いても立直三色で40符3翻の手である。しかし、両面である程度{36}を引く確率が高いとはいえ、所詮は平和が追加されるだけの事。点は殆ど変わらず、聴牌を蹴ってまでやる事ではない。

それなのに敢えて聴牌を蹴ったという事は、{3 6}を引く自信があったのか、それとも―――――。

 

その時、コペルニクスも真っ青な転回が淡の脳裏を駆け巡る。

 

―――実はこの時、既に御影は聴牌していたのではないか?

 

つまり、立直一巡前の御影の手牌は

 

{二二七八九⑦⑧⑨34578 }ツモ{二}

 

であり、ここから{二}をツモ切り、次巡ツモってきた{4}を二回連続ツモ切りでは聴牌していた事が露見すると思い、何気ない顔で手牌の{4}と入れ替え立直を掛けたのではないか。

淡がそう考えた理由は、立直の掛け時にある。所詮平和を入れた所で、御影の手は立直平和の30符2翻、高目をツモってようやく満貫になる程度の手である。それが跳満にまで飛び上がったのは、一発ツモという役が付いたからに他ならない。

だからこそ淡はこう考えたのだ。外城御影は一発ツモを狙うため()()()()()()()()()()()()のではないか、と。

 

余りにも馬鹿げた思考。平和を付ける為に聴牌から一向聴に戻したという先の思考の方がまだしも現実味がある。けれども何故か、淡はその考えを捨て切る事が出来なかった。いや、むしろ半ばその考えが正しいと確信していた。

過程をすっ飛ばして正しい答えを掴むもの、それが勘である。その存在を淡は信じていたし、自らのソレが他者よりも格別に優れていると知っていた。その勘が囁くのである。これこそが答えに他ならない(・・・・・・・・・・・・・)、と。

 

となれば、だ。

先局の和了の仕方も勘案すれば、御影の異能(オカルト)も少しは絞れてくる。暗雲を引き裂く一条の月光の如く、淡の中で寄りあった思考の糸がすっきりと晴れる。前局の妙な和了、今局のツモ切り、そこから導き出される結論は―――。

 

「―――ミカゲって、凄いね」

 

その言葉に、御影は思わずたじろいだ。

淡のその言葉に籠められていた感情は、紛れもない畏敬(・・)の念。

自らにないものを持った者に対する、敬意の表れであった。

 

「―――何、を」

 

始めて受ける理解不能な感情に、ただ戸惑うしかない御影。異能者は須らく醜悪な弱者である、という思いを持つ御影にとって、自分が尊敬されるというのはありえてはいけない事であった。

異能(オカルト)持ちはその人本人の意思とは無関係な所で異能(オカルト)に闘牌を左右される。例え腰の据わった打ち方をしたいと思った所で、持った異能(オカルト)が鳴きに関係するものならば、人は鳴かずにはいられない。異能(オカルト)持ちの闘牌は人が異能(オカルト)で勝つのではない。|異能(オカルト)|が人で勝つのである。使うべき能力に使われる者が醜くなくて、何を醜いというのだろうか。そして、その能力に使われている醜き者の筆頭は―――間違いなく、御影自身なのだ。

勝ちへの執念を理由に異能(オカルト)を使い、止める事が出来ない自らを、御影は誰よりも軽蔑していた。そして自らを醜女であると自認しているが故に、他者の増長が殊更許せない。自分より弱い覚悟である癖に、ただ産まれもった異能(オカルト)が強大であるからというだけで増長する有象無象。それを何故許しておけるだろうか。我は醜い。けれど汝もまた醜い。その信念を持つが故に、御影は淡の言葉に含まれる感情が理解出来ない。いや、したくない。

だが、そんな御影を真っ向から見据えて、淡は続ける。

 

「上手く言えないけど、貴女は私にはない物を持ってるんだと思う。それは多分今の私には理解不能で……だからこそ、そんな貴女を凄いと思う」

 

御影の異能(オカルト)………それを淡は、自家、或いは他家の必要牌が()()()()()()()()()()能力であると予想した。

もし淡の想像が正しければ、御影の異能(オカルト)は強力無比な事この上ない。無論、恐らくそれには何らかの制限は存在するだろう。使用回数の制限、巡目の制限、人数の制限、向聴数の制限、或いはその全ての制限があるのかもしれない。だがその異能(オカルト)によって齎される利点はそれらの欠点を補ってなお余りある。

しかし、淡が御影に対して敬意を抱いたのはその異能(オカルト)そのものではなかった(・・・・・・)

むしろその逆、その異能(オカルト)を操る御影の精神性にこそ、淡は重きを置いたのだ。

確かに御影の異能(オカルト)は強力だ。必勝のパターンに持ち込めば格上にだって勝てるかもしれない。しかし、御影の異能(オカルト)は力で全てを押し込めるタイプの能力ではない。完全な方程式を積み上げたとしても、最後の最後、理不尽な気まぐれによって勝利への道は閉ざされる。勝てる筈だった闘い、負ける筈のない相手。そんな連中に、能力を使いながらも勝てなかった時の御影の気持ちを、誰が忖度出来るだろう。

異能(オカルト)があるが故に頼り、しかしその不確実さによって敗北する。そして自覚するのだ。己は能力に頼ったとしても勝てない、醜い弱者であると。

けれども彼女はその劣等感を乗り越えここにいる。その原動力が何であるのか、それは淡には分からない。愛、執念、友情、絆。もしくは淡には理解不可能な何がしかの感情であるかもしれない。だがそれらのどれであっても、今まで御影が辿ってきた道程は本物だ。例えそれがどれ程歪で捻じ曲がり、傷付き汚れた物であっても、御影の想いは淡の目を惹きつける。自分でも不思議な位胸の底から湧き上がってくる感情を、淡は自然に受け入れた。艱難辛苦を前にして、挫けずめげず立ち上がる。ああ、どうしてそれを言祝がずにいられようか!

 

「―――けど、だからこそ。私は、私の凄いと思う人に、私も凄いと思って欲しい!そのために、今の私の全霊を見て欲しい!」

 

その時、淡の中心に光が宿る。仄かに揺らめくそれはまだ淡く小さいものではあったものの、確かに淡の心中を照らし出す。ああ、そうか、と淡は唐突に悟った。『絶対安全圏』など、元よりただの副産物にすぎなかったのだ。そう、今この胸に灯る燈火こそが、淡に宿る本来(・・)の力。数多の星々を照らす小さな火。星々の終極と開闢を表す無窮の光に他ならない。

淡はただその温かさに身を委ね――――――また一歩、麻雀という深淵に近付いた。

 

 

「………」

 

 

御影の中に異能(オカルト)が分かったという淡の言葉に対する驚きはない。麻雀の真理に至った真なる化生ならば、一局打っただけで全ての力量を察するだろう。今の淡は流石にそこまでの領域にはいないだろうが、それでもその三歩手前にはいる。そしてそれは、御影から見れば何歩も先の位置である。であれば、高々二局打っただけとはいえ、淡が御影の異能(オカルト)を見破ったとしても不思議ではない。故に思うのはあくまで別の事。そう、淡が御影にぶつけてくる、理解し難い感情についてであった。その事について考えようとする御影の内には、何とも言えない不快感が痼りの様にこびり付いて離れない。座り心地の悪いというか、居心地の悪いというか。お前に何が分かる、という 気持ちや、知った様な事を、という気持ちも勿論ある。だがしかし、胸に湧き上がる気持ちは、それだけではなかった。

何かよく分からない、けれどどこか懐かしい不可思議な感情。長く荒んでいた胸の端に、それはひっそりと根付いた。何故だかそれは苦痛ではなく……。だが、そんな感情の残滓を、御影は頭を振りかぶって追い払う。雑念を交えて勝てる程、目の前の敵は甘くない。ただ勝つ。そのために自分は自ら望んでこう(・・)在るのだから。

 

 

東四局0本場 ドラ:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤}) 親番:御影

 

 

決意を胸に新たな山から牌を摸打する御影を横目に、淡は晴れやかな顔をしていた。

それは、ある種の境地に到達した者しか成しえない、子供の様に無垢な笑み。私は新たな領域に至る事が出来たのだと、その笑みが如実に語っていた。どうして今までこんな事が出来なかったのか?一度自転車の乗り方を覚えた者が補助輪を付けていた時期を思い出せない様に、今の淡には“この能力”に目覚めていなかった時期を思い出す事が出来ない。これがなくば、まさに手足を縛られた様なものであるのに。

そんな事を考えるともなく牌を取り―――――――新たなる怪物が今、ここに覚醒の咆哮を上げる。

 

淡の胸に灯った燈火が一瞬にして縮んでいく。強風に煽られた火種の様に、それはあっという間に目に見えない程小さくなり――――次の瞬間、光が世界に広がった。

その様はまさに、人を、街を、星を、世界を覆い尽くさんとする光の奔流。地に在りて天をも照らす超越者、大いなる星々の女王。大星淡とはかくたる存在であると、声に出さずともそう主張している。

東二局での御影の気迫をダイナマイトの爆発に例えるとするならば、これはさながら原爆だ。質量の桁が違いすぎて比較の対象にする事さえおこがましい。場は一瞬にして淡の気配に塗り潰される。闘う術も、隠れる場所も、最早どこにもありはしない。これこそが魔物の所業。人の身では到底なし得ない、天の領域に立つ者の御業である。

感受性が強く気の弱い者であれば気絶しかねない程の気迫。しかし、それ程の気を放射しながらもまだ、淡の顔には余裕があった。これはまだ序章ですらないのだぞと、そう告げるかの如く。

そして淡は、かつてない程に昂る心を躍らせて、自らの新たな力を解放した。

 

 

「―――立直ッ!!」

 

 

―――二重立直(ダブルリーチ)。一巡目に立直をかける事により通常の立直に一翻足すその役は、通常見かける事は殆どない役である。その真骨頂は翻数の高さではなく、むしろその待ちの読み辛さにある。現物以外に安牌が存在しないというある種どうしようもない状況において、待ちを読む事はほぼ不可能に近い。けれど弱点もある。早い立直は愚形が多い。それも一巡目となれば、嵌張辺張である可能性は十分にある。それ故、例え二重立直(ダブルリーチ)を掛けられるとしても、愚形で立直を掛けるよりは多面張になるのを待ってから立直を掛ける者もいる位である。だがしかし、それはあくまでも人間(・・)世界での常識。今の淡にその常識が通用するとは、とてもじゃないが思えない。三面張どころか六面張でも不思議ではないだろう。それに―――と、そこまで考えてから、御影は対面を目に移す。そこには、今や現人神とさえ呼べる程圧倒的神気を纏う淡の姿があった。その姿に、御影は確信を新たにする。今の大星淡がこの程度(・・・・)で終わる訳がない。

持たざる者の嫉妬が御影を焦がす。追い詰められて、ピンチになって、新しい能力に覚醒する?何という陳腐な王道(テンプレート)。何という御都合主義(デウスエクスマキナ)。まるで少年漫画の主人公の様に、立ち塞がる障害を踏み越え、断崖の涯を飛翔し、現実さえも超越して、別次元の領域へと踏み込む―――。そんな誰もが憧れる状況を、この女は軽々とやってのけた。それを嫉妬しないでいれる者は、そもそも強さにかける思いが雑魚なのだろう。麻雀だから、遊戯だから、負けた所で仕方ない。そんな風に賢しらぶって、自分の心を慰める。高々お遊び如きに真剣になってみっともないと………ああ、何だそれは。

確かに現実は理不尽だ。人生は不平等で、持たざる者は持てる者より多くの苦難が待っている。この世は何故かくも理不尽きわまりないのかと、そう嘆かずにはいられない。けれども、悟った様な事を言って、起こった事から目を逸らし、現実との戦いから逃げる事だけはしたくない。圧倒的に不利だとしても。勝ち目など万に一つであったとしても。誰にだって、抗う事は出来るのだから。

だから御影は、淡の力を羨みながらも……決して屈する事はない。奇跡の一つも起こして見せろというのなら、ああ、いいさ。起こして見せよう。そして淡に告げるのだ。何が魔物だ、何が超越者だ。この程度の事など奇跡でも何でもない、ありふれた出来事に過ぎないのだと―――。

 

 

 

 

東四局0本場 四巡目 ドラ:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤}) 親番:御影

 

 

「―――カン」

 

 

立直後三巡目。天上より降り注いだかの様な、軽やかな声が響く。しかしそれは同時に、終局を告げる破滅の福音でもあった。

通常、立直中ツモった牌が当たり牌でない場合は捨てなければならない。しかし、何事にも例外はある。立直中暗刻で揃っていた牌をツモった場合、その牌は槓する事が出来るのだ。そしてその牌は―――。

 

「…………{⑥}(ドラ)、だと?」

 

ドラの暗槓。つまりこれで淡は最低でも二重立直ドラ4……新ドラである發こそ乗らなかったものの、跳満確定である。現時点でもこの化物は一体どれだけ桁外れの領域にいるのかと仰ぎ見て――――御影は、自らの行いを後悔する。視線の向こうに存在する淡は………ただ、静かに笑っていた。しかし、ただそれだけの事で、御影は痛感した。この力はまだ始まったばかりなのだ(・・・・・・・・・・・・)、と。

超重力による恒星圧縮。そしてそれによる原子崩壊と、それによって引き起こされる途方もないエネルギーの輻射―――人はそれを、超新星爆発(スーパーノヴァ)という。今の淡は、まさにそれだった。他を飲み込まんと顎を開いた眩き光。一瞬毎にその質量を増していくそれは、見る者全てに等しく絶望を植え付ける。

 

しかし、しかし、しかしだ!

やはりそれは、御影が諦める理由には少し足りない。地を這い、辛酸を嘗め続けてきた御影にとって、相手が自分より格上である事など日常茶飯事。今回は、それが些かというのは余りにも力量がかけ離れているという、ただそれだけの事に過ぎないのだ。だから御影は、決して諦めない。どれだけ彼我に差があろうとも、麻雀に絶対はない。ただその信念だけを胸に秘め、毅然と前を向き、淡を見据える。

 

「―――ああ、確信出来た。今日は、最高の日」

 

対面のその様子を見て、怪物(あわい)は笑う。自らの宿敵(とも)が、まだ諦めないでいてくれる事に。

ああ、本当に素晴らしい―――最高だ!歓喜の念が淡を包む。余人には理解し難い想いに、淡は身を震わせた。彼女とならば、私はまだまだ先へ行ける。そんな妄想にも近い考えを、淡はこの時本当に、心の底から信じていた。限度なんて知らない、関係ない。この身が崩れようと構うものか。私は今、この世の絶頂にいるのだ!

 

「ああ、祝わせて!今、御影とこうして戦う事が出来た、紛れもない奇跡を!そして誇らせて!こうして御影と戦う事の出来た、自分自身を!」

 

今この一瞬一瞬が楽しくて仕方ない。そんな風に猛る淡は、見る間にその存在感を高めていく。熱に浮かされた様にぼやけていく瞳は、一体何を見つめているのだろうか。この世ならざる物でも見つめているのだろうか。しかし、だとしても最早何の不思議もない。神域を訪れようとしている者に、凡夫の理解など及ぶものか。大星淡は今、条理を越えた存在なのだ。

 

「好き勝手な事を……」

 

対する御影も、気概だけなら負けてはいない。

神域?化物?何を馬鹿な。見当違いも甚だしい。成る程確かに淡は強い。そりゃあ大した物だろう。そんじょそこらの者になら、負ける道理がどこにもない。自分が神域に潜む魔物であると、そう驕り高ぶるのも理解出来ない訳じゃない。―――けれども。それでもこの世に魔物はいない。いや、居てはならない。いいや、私がこの世に居させない。幻想の怪物を謳うのであれば、幻想のまま消えるがいい!

 

「驕り高ぶる愚か者、自らの姿を顧みよ!そしてその醜さを知るがいい!この世に魔物は必要ない!」

 

今この一瞬一瞬が耐え難いものである。そんな風に憤る御影は、見る間にその存在を高めていく。悪寒に苛まれた様に震えるその手先は、一体何を掴むというのか。或いは何も掴めないのだろうか。しかし、だとしてもそれならそれでいいと御影は思う。勝てばそれでいい。他には何も必要ない。そして自らの信念を証明するのだ。麻雀に絶対はないのだと。この世に魔物は必要ないのだと。

 

 

 

互いに呼応しあう二人の気迫に、誰一人として口を挟む事が出来なかった。今明らかにこの場は二人の独壇場。世界は二人を中心に回っている、そう言われても納得出来る程に場は過熱していた。

そんな中、誰にも気取られぬまま、一つの影が雀荘へと迷い込んだ。その影はきょろきょろと雀荘中を見回し………そして、白熱した二人の闘牌に目が向けられた。影はその瞳を微かに見開き………その闘いを目に焼き付ける。それはまさに偶然に偶然が重なった結果の出来事ではあったものの、後から振り返って見てみれば、運命だったのだろう。

ここに、未だ見知らぬ第三者を交えつつ、運命の輪は巡る。

行き着く涯ては何処になるのか、それは誰も知り得ない。ただこの場に集う三人の誰もが予感していた。この闘いが、自分にとっての大きな転換点になるであろうという事を―――。

 




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