ゆりキャンパーは斉藤さんが好きすぎる   作:くもくも@ハーメルン

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1話

 私のバイト先のコンビニでは、天使が働いている。

 

 彼女は近所の本栖高校の一年生らしく、平日は夕方からのシフト、休日はお昼からのシフトに入っているので、少しでも同じ日に勤務できるよう私もこっそりシフトを調整してもらっているのだ。

 

 そして今日もうまくシフトが重なり、彼女のせっせと働く姿をとっくり拝ませていただいた。

 

 特にあの鈴が鳴るように透き通った声と、柔らかい話し方が、私の恋心のツボをガッツリ掴んで離さない。

 いらっしゃいませー、の声がかわいいしかない。

 

「斉藤さーん、夜勤の人が来たから交代だよ。帰ろうか」

 

 それに比べ、私のこの、女らしくない低い声ったら。

 

「はーい。お疲れ様でしたー」

 

 私に比べ、彼女のこの美しい声ったら。

 

 

 斉藤恵那ちゃん。それがマイエンジェルの麗しきお名前。

 心の中ではたまに恵那たんと呼んでいる。

 

 

 ロッカーでその私の心のエンジェル恵那たんと並んで着替えながら、こそこそとそのお着替え姿を目に焼き付けていると、彼女は急にこちらを向いて、そうだ、と柔らかく微笑んだ。

 

「こないだの伊豆旅行のとき、シフト代わってくれてありがとうございました。これ、伊豆のお土産です」

 

 なんて丁寧な子!

 私のような薄汚い女のことなんか気にしないでいいのに!

 

 渡された小包を開けると、伊豆のゆるキャラのキーホルダーが入っていた。

 絶妙にかわいくない。でもこれを選んだ彼女のセンスがかわいすぎる。

 

「うわ、ありがとう! 家宝にするね!」

 

 愛車の鍵に早速取り付け始めると、斉藤さんはクスクスと柔らかい表情で笑った。

 はい好き。私のゆりゆりしたい女の子ナンバーワンに決定。だいぶ前からナンバーワンなのでもう殿堂入り。

 

「ふふ、三条先輩はいつも大げさだなあ」

 

 大げさではない。

 美少女から頂くものは、家宝としか言いようがない。

 このキーホルダーをペロペロさせて頂けば、三日は元気に暮らせるだろう。絵面がひどそうだからやらないけども。

 

 

 いつも夜道を歩いて帰っているらしい斉藤さんを、今日は私の車で家まで送ってあげることにした。

 雨が結構強く降っていたので心配だというのが一番の理由だが、伊豆旅行の話を聞きたいからと言い訳をつけると、普段は遠慮するところを、嬉しそうに助手席に座ってくれた。

 

 助手席にかわいいかわいい女子高生。

 こんなの、私が男性だったら間違いなく、家じゃなくて怪しいネオンのホテルへ直行だ。

 この危機意識の低さ。守ってあげたい。

 

 

「……それで、いつも友達がチェアを私に貸してくれるんですけど、さすがに申し訳ないし、そろそろ自分でも買おうかなーって」

 

 助手席で楽しそうにキャンプの話をする斉藤さんの横顔をチラッと見るだけで、心が浄化されていくようだ。

 

 バイト先の皆さんの中では、私こそが一番この斉藤さんと仲良しな自信がある。

 彼女は友人の影響で最近キャンプを始めたらしいのだが、何を隠そうこの私も、キャンプにはちょっとうるさいのだ。

 

 私がキャンプ場から直接バイトに出たとき、斉藤さんが私を見るなり、焚き火の匂いだ、と気づいたのが、彼女と仲良くなるきっかけだった。

 

 こうして伊豆キャンプの楽しそうな話を聞かせてもらえるのも、キャンプ仲間であるがゆえの特権である。

 

「あー、でもカリブーみたいなお店で売ってるチェアって、めちゃくちゃ高価でしょ? バイト代がふっとぶよね……でも通販サイトなら、その半額以下でも最近は結構いいのが売ってるよ」

 

 私がプレゼントするよ! と言いたいのをここはぐっとこらえる。

 一気に犯罪臭がするし。

 

 

「ですよねー。それで色々調べてるんですけど、昨日わたしが好きな動画配信者さんがアップしてた動画で、それに出てきたチェアがかわいくて気になってて。……あ、この動画なんですけど」

 

 赤信号で車を停めたタイミングで斉藤さんのスマホの画面を見たとき、自分の顔がカッと熱くなるのを感じた。

 

「んん! あーそのタイプかあ。私、じゃなくてその人、たぶん車とか使って運んでるはずだよ。だってそのタイプのチェアってめちゃくちゃ重いからね」

 

 うん、私そのチェアには詳しいんだ。ちょっと諸事情ありましてね。

 

「ですよねー。この人も色々使い分けてるみたいで。チェア使ってないときのワイルドな感じのキャンプも、かっこよくて好きなんですけど」

 

 ほう!? 好き?

 この動画配信者が好きとな!?

 

「へ、へー。ちなみに斉藤さん、その人の動画よく見てるんだ?」

 

 助手席で斉藤さんは、艶々な黒髪のショートヘアをかき分けながら微笑んでいる。

 

「はい。この人も山梨のあたりのキャンプ場をよく使ってるみたいで、少し応援してるんです。女の人なのにかっこよくキャンプしてて、少し憧れちゃってます」

 

 うひひ、そう? かっこいいかな?

 照れますねえ照れますねえ! チャンネル登録とグッドボタンもよろしくねえ!

 思わずハンドルを握る手に汗が滲んでしまう。

 

「……なんで三条先輩がそんなに嬉しそうなんですか? ふふ、変な先輩」

 

 

 恵那たんとの夢のようなドライブは、わずかな時間で終了。

 田んぼと山しかないような景色ばかりだが、斉藤さんの家があると思えば、このど田舎もある意味聖地みたいなものか。

 

 以前にも一度送って帰ったことがあった、彼女が暮らす立派な庭付きの家が見えてくると、とたんに寂しい気持ちになってくる。

 

「あ、もう着いちゃった。ふふ、三条先輩、今日は送ってもらってありがとうございました」

 

 マイエンジェルは本当に丁寧ないい子。

 撫で撫でしてあげたい気持ちでいっぱいだ。

 

「気にしないで。ほとんど通り道みたいなもんだから。次からもシフト被ったら送ってあげるから、またお話聞かせてね」

 

 車を降りて手を振る彼女に、わりと勇気を出してそう言うと、OKかNGかよくわからない、ふわふわした笑顔がかえってきた。

 

 ま、まあいいさ。

 あんまり急に距離を詰めるのも不自然だしね。

 

 優しい斉藤さんは、私をちゃんと見送ろうとしているみたいで、雨に濡れてしまっている。

 名残おしいけれど、車をすぐに発進させてその場を去った。

 

 

 さっさまでの斉藤さんのきれいな笑い声がまだ耳に残っていて、改めて思い出すと胸がきゅんきゅんしてくる。

 

 マナーモードにしていたスマホが振動して、斉藤さんからかもしれない、と思ったらいてもたってもいられなくなる。

 

 私は適当な通りすがりのファミレスの駐車場に車を停め、スマホを取り出した。

 

 やっぱりそうだ。斉藤さんから、メッセージが届いている。

 

『三条先輩、送ってくれてありがとうございました!』

 

 かわいい犬のスタンプ付きで。

 

 

 こんなの、うれしくてどうにかなってしまうじゃんか。

 

 私はもう辛抱たまらず、周りに人がいないことを確認すると、さっきまで斉藤さんが座っていた助手席を見つめ……思いきりその席に顔を埋めた。

 

「あああああ! しゅきしゅきい!! 恵那たん恵那たん! 今日もかわいかったよお! ごめんね! 憧れの動画発信者がこんな変態でごめんねえ! でも我慢できないのお! いい匂い! 恵那たんの匂いがしゅるのお!!」

 

 

 世間の皆様、お見苦しい姿で本当に申し訳ございません。

 

 遅くなりましたが、私は三条つばめと申します。

 

 今年で24歳、いい年こいてコンビニバイトをしているのは、社会とのまともな接点を残すためであり、実は親の遺産の食い潰しと、キャンプ動画の配信で生計を立てております。

 

 この女子高生の匂いをクンクン嗅いでいる変態行為は、決して世間的に許されないことは存じておりますが、仕方ないでしょう、あんな天使が相手では。

 こんなクソ百合女の前に、あんなにかわいすぎる女の子をよこした神様がいけないのですよ。

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