ゆりキャンパーは斉藤さんが好きすぎる 作:くもくも@ハーメルン
動画の編集作業はなかなか気を使う。
私は自分の顔を隠して動画を作っているので、顔がうつりこんでしまった食事シーンなんかの編集が特に大変だ。
私が一応ギリギリ美少女と言われていたのも、もう何年も前のこと。
今となってはもういい歳だし、かえって顔を隠しておくくらいがミステリアスでファンも増えるのでは、と思っている。
今日の編集作業は正直、なかなかてきぱきと進められた気がしている。
なにせあのマイエンジェル斉藤恵那たんが、この私の動画を楽しみにしてくれているというのだから、気持ちが高ぶって仕方がない。
なんなら、ちょっと私の顔をちらっと映してアピールしてみても……なんて魔が差しそうになる。
こんな感じでテンションが上がりすぎた状態で編集したので、きっと荒すぎる仕上がりになってしまっているはずだ。少し頭を冷やしてから細かく手直ししよう。
丁寧に丁寧に。目指せ100万回再生。目指せチャンネル登録100万人。
女性キャンプ動画配信者、まきまき。それが私のもうひとつの顔だ。
いや、顔はみせていないけども。マフラー的なものをまきまきして隠しているからね。
ソファーに横になり、最近気になっている女子高生キャンパー、イヌイヌさんのインスタに目を通す。
美味しそうなアヒージョの写真。
次は手作りと思われる誕生日ケーキの写真。
量から見て、お友達だとか、彼氏だとか、大勢でキャンプしたときの写真だろう。
このリア充感漂う写真の数々。憧れるやら、妬ましいやら。
斉藤さんもきっと、こんな感じでお友達とキャンプしたりしてるんだろうな。
かわいいし、まつげ長いし、いい匂いするし、性格いいし、たぶん彼氏とかもいるんだろうな。
ちょっと憂鬱になってきた。
斉藤さんがかわいすぎるからいけないんだ。
そもそも、私はもう24歳。
女子高生に手を出せば、一発で刑務所送りだ。
ていうか女同士だし。
ワンチャンいける可能性なんて、はじめからほぼゼロだし。
斉藤さんがあんなにかわいいせいで、ガチ恋モードになっちゃっているけど、ゆりゆりな展開を期待するのはちょっと不可能に近い。
観賞できるだけで幸せ。
そう自分に言い聞かせておかないと、この百合心がどうにも私を鬱な気分にさせてくる。
気分転換に、一度外にドライブに行くことにした。
ど田舎の道を身延あたりまでぶっ飛ばしてストレス解消……といきたいところだが、あくまで制限速度の範囲内で。
ついでに近所を散歩してみることにする。身延駅近の無料駐車場に車を停め、川沿いまで降りてみた。
今日は一日中パソコンにかじりついていて、肩がこってしまった。
のんびり夕方のお散歩でもして、川の音で心を癒そう。
辺りには、同じように散歩をしている人の姿もちらほら見えた。
犬を連れている人も……って、あのチワワ、どこかで見たことある気が……。
「あれ? 三条先輩、こんなところで奇遇ですねえ。先輩もお散歩ですか?」
奇跡!
天使の降臨だ!
「斉藤さん、こないだぶりだねえ。そっちは犬のお散歩か。そうだ、偉い子にはこのコンポタをあげるよ」
今日も今日とて斉藤さんはかわいい。
奇跡の出会いに感謝を捧げるため、たまたま駅前の自販機で買ってポケットに入れておいたコーンポタージュを貢いでみる。
「あはは……ありがとうございます」
斉藤さんはしかし、その綺麗な瞳を私からすぐに反らすと、うつむきがちにペットのチワワへ目をうつした。
なんだか、少し元気がなさそうに見える。
いつもこそこそ斉藤さんを観察している私が言うのだから間違いない。
「斉藤さん、なんかあった? ちょっと元気ないっぽいっていうか……あ、もしかして私が気持ち悪かった!? ストーカーじゃないよ? たまたま、たまたま出くわしただけだからね!?」
嫌な可能性に気付き、私があわてていると、斉藤さんはようやく少し笑ってくれた。
「あはは……その、学校で今日、ちょっと色々あって……。そうだ三条先輩、ちょっとこのまま一緒にお散歩して、お話聞いてもらえませんか?」
素晴らしいお誘いだが、チワワが私の周りをくるくる回って、犬がちょっと苦手な私はびくんとしていた。
「……で、二人がサークルの部室にいる気配はあったから、脅かしてやろうと思ってこっそり覗いたら……二人が、その、チューしてるのが見えたんです。わたしが逃げてくところ、たぶん二人にも見られたかも」
あー……。
「……一応聞くけど、その子たちは女の子同士で、ってことだよね? で、ちょっとガチな感じのキスシーンだったと……」
川沿いを私と並んで歩きながら、斉藤さんは困ったように頷く。
なんでも、最近特に仲良くしている、キャンプ仲間でもある友達二人が、濃厚な百合キスに励んでいるところをばったり目撃してしまったらしい。
百合は尊いから素敵でしょ! 私たちも試しに一回チューしてみようよ! なんて言えたら楽なんだけどな。
「それで斉藤さんはどう思った? ……もうその子たちとお友達でいるのは嫌?」
私も一人のレズビアンとして、自分のことのように勇気を出して聞いた。
百合に対する女性の反応で、一番多いのは、残念だけどやっぱり嫌悪の感情だろう。
そうでなくとも、異常なものだ、という感覚が、実際のところは多くの人の考えに根付いてしまっているから。
斉藤さんは私の言葉に、びっくりしたようにこちらを見る。
「そんな! そんなこと、ないです……。二人とも、大事で大好きな友達なんです。二人も、わたしたちに言いづらかったのは理解できるし。ただ、この前私とその子たちの三人でキャンプしたときなんかも、もしかしたらわたしってお邪魔だったのかな、みたいなことも考えちゃって」
またうつむいて歩く彼女の言葉からは、本当にその二人のことを思いやる気持ちが溢れている。
天使って、本当に心まで天使なんだな。
「……邪魔だったら、最初から誘われてないよ、きっと。斉藤さんが二人を大切に思ってるみたいに、二人もきっと、斉藤さんのことも大切に思ってるんじゃないかな」
「……そう、かなー。えへへ、そうだったら……嬉しいんですけどね。……あーあ、明日から二人とどう接したらいいんだろう。こういうのって、からかったりするのも、さすがにまずい気はするし」
顔を隠すように、少し歩調を早める斉藤さん。たぶん、少し泣いている気がする。
斉藤さんは大きく息を吸って、そしてその場にうずくまった。
「素直に……素直に、その場で祝ってあげられなかったわたしが嫌いです。二人は何にも悪くない。女の子同士だって、全然悪いことじゃない! 私だっていっぱい、二人に話してないこともあるよ! なのにその場から逃げたわたしが嫌い! 絶対今頃、二人ともわたしのせいで傷ついてるはずなんです!」
涙声で叫ぶ言葉まで、本当に優しい。
聖人かよ。天使かよ。
私に、何かできることはないか。
この天使を元気づけてあげないと。
私にだって、何かできることは……あ、あるじゃん、一つだけある。
「ねえ斉藤さん、今週金曜、放課後はバイト無いよね? 用事……はあるかもだけど、できればあけて欲しい」
斉藤さんは、うずくまった姿勢のまま、その涙で濡れた目をこちらに向けてくれた。
「こんなときこそ、キャンプだよ! 放課後、着替えたらすぐ出発! 私がお手製のグランピングってやつを、斉藤さんにあじあわせてあげるから!」
なんて強引でお馬鹿なご提案。
だけど彼女はその言葉に、ふわりと笑って、涙を拭いてくれた。
見せてあげるよ、ベテランキャンパーの全力ってやつをね!