ゆりキャンパーは斉藤さんが好きすぎる   作:くもくも@ハーメルン

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3話

 その金曜日。幸い天気は快晴。

 

 私はチェックイン可能時間早々に、身延からまあまあ近い、早川町オートキャンプ場に来ていた。

 愛車の荷台に、昨晩まで選びに選び抜いたキャンプ道具と食材をぎっちり詰め込み、まだ寒さの残る夜の対策グッズも万全。

 

 さあ、ここをキャンプ地、いや、グランピング地としよう!

 

 

 せっかくなので今日は、サイトの周りにありったけのカメラを並べ、このグランピング会場設営の姿を動画におさめてみる。

 

 片付けや設営にかかる時間にも配慮した、完璧な道具のチョイス……のはず。

 きっと彼女たちも喜んでくれる……はず。

 

 私は動画撮影時のいつものスタイルとして、薄い生地の長いマフラーを目の下までぐるぐるに巻き、ずれないようにグリップで後ろ髪に固定した。

 

 このマフラーまきまきスタイルは、顔を隠すための配慮でもあるけれど、気合いを入れるためのハチマキみたいな意味もある。

 

 普段は変態百合女だし、ちょっとかわいげもなくなってきた年齢だし、コミュ障気味だし、あんまりいいところのない私だけど、この姿のときだけは……無敵の動画配信者、まきまき、になれるのだ。

 

 

 はい、設営完了。

 

 設営時間はわずか30分ちょっと。これがベテランキャンパーの技というものだ。我ながら素晴らしい。

 

 グランピング……としては少々、いやかなりショボい感じもするが、まあ仕方ない。だって普段は私、ソロキャンプ専門だし、道具もソロ寄りだからなあ。

 

 設営はけっこう大変だったが、動画的にもなかなか見所のあるドタバタだったはずだ。いずれ5分くらいに編集して配信してみよう。

 特に、自分が張ったロープにつまずいて軽く転倒したところも良かった。これは再生数伸びる。いや伸びろ。

 

 私は撮影機材を専用のバッグにしまいこみ、息苦しいマフラーを外すと、それらを車の荷台のすみに押し込んだ。

 

 斉藤さんたちを迎えに行くまでにはまだまだ時間の余裕がある。

 私は並べたチェアの一つに腰かけて、ふうっと息を吐いた。

 

 もう季節はすっかり春が近づいていて、だいぶ昼の日差しは暖かい。

 

 

 で、斉藤さん『たち』と言っている通り、今日は斉藤さんの他にもう一人、先日濃厚な百合キスをかましていたという張本人の一人も参加してくれるらしい。

 

 正直、斉藤さんと私の二人では間がもつか心配でもあったので、助かる部分もある。

 が、同時に、お邪魔虫め! という気持ちも多少はある。人間だもの。

 

 なんでもその子は、斉藤さんが変な女、つまり私と急にキャンプに行くと聞いてとても心配し、どうしても行きたいなら、自分がついていく。なんなら横のサイトを予約して一人でキャンプして見張る、とまで言い出したらしい。

 それで、その子も一緒にご招待、となったわけだ。

 

 やっぱり斉藤さん、みんなに愛されてるねえ。

 その百合っ子のお友達も、優しい良い子じゃないか。

 

 斉藤さんは結局、その友達とはまだ、例の百合キス事件についてお話はできていないみたいだけど、今日このキャンプ中に、腹を割って話そうという考えらしい。

 

 同じ同性愛者として、その百合っ子のお友達を応援してあげたい気持ちもあるし、何より斉藤さんがまた気兼ねなくのびのびと、その子たちとつるんでいられるようなお手伝いができたらいいな、と思っている。

 

 キャンプはきっとそういうわだかまりみたいなものを、全部きれいに取り払ってくれると、私は信じているのだ。

 

 私は大きなワンポールテント内の最終チェックと、タープの張り綱の微調整を行い、背伸びをした。

 

 

 

「うわ、すげえ! 本当にグランピングみたいじゃないっすか!」

 

 この男っぽいしゃべり方のご友人は、本栖高校野外活動サークルとやらの部長、大垣千明さん。

 

 しゃべり方と、高いテンションはさておいて、車で迎えにいったときからかなり礼儀正しく、知らない人である私にも色々話しかけてくれて、気遣いのできるいい子であることは感じていた。

 

 眼鏡が少しやぼったい印象を受けるが、顔だちは綺麗で充分美少女と呼べる感じ。長く伸びた髪を雑に纏めている感じも、けっこう雰囲気があって悪くない。

 

 マイエンジェル斉藤さんには劣る……かもしれないが、確かに一部の百合っ子にはたまらない感じの逸材だ。

 サークルの部長というのも、ちょっとポイント高いよね。

 

「三条先輩、これ一人で準備してくれたんですか? 大変だったでしょう?」

 

 斉藤さんは後部座席から、自分と大垣さんの寝袋を取り出しつつ、私に気を使ってくれる。

 

「いやあ、本当は設営もキャンプの楽しみの一つだし、その楽しみを奪って申し訳ないくらいだけど、今日は放課後キャンプってことで、時間の節約が大事だからね。あ、でもご飯はこれからみんなで作ろうね!」

 

 私が言うと、興味津々といった感じでサイト内のギアを眺めていた大垣さんも、こちらに駆け寄ってきた。

 

 

 

 夜の闇を払うように、過剰気味に5つも配置したランタンの明かりの中で、美少女たちがこしらえた料理が並んでいく。

 私も横で食後のプリンを作ってみたが、料理の腕は正直、二人に負けているかもしれない。

 

 並んで作りながら調理用の道具の話などしていると、大垣さんからは特にキャンプへの熱い想いがひしひしと伝わってくる。

 キャンプ好きな女の子に悪い子なんていない。

 どうか私の恵那たんを、今後ともよろしくお願いしますね。

 

 

「それじゃ、いただきまっす!」

「三条先輩、今日はありがとうございます。いただきまーす」

 

 美少女たちがオイルランタンの揺らめく明かりの中で、嬉しそうに食事を始める。

 考えてみれば、人と一緒に食事をすることすら久しぶりだったぼっちマスターの私が、今回はよくもまあ、こんな大胆なイベントを思いついたものだ。

 

「うわあ、大垣さんが作ったパスタ、めちゃくちゃ美味しいじゃん。作ってるときも思ったけど、キャンプ料理慣れしてるよねえ」

 

「お、いい感じっすかね。でもパスタは初めて作ったんすよ。ほうとうだけは最近、家でもよく作るんですけどね。山梨専用パスタだから」

 

 大垣さんが照れながら笑うのを見て、斉藤さんもどこか嬉しそうに笑っている。

 尊い友情。

 

「なでしこちゃんとあおいちゃんがお料理上手だからあんまり普段は目立たないけど、あきちゃんと私も、なんだかんだけっこう上達してきたよねえ」

 

「ああ、伊豆で恵那とリンと三人で作った濃すぎるエビソースだけは、正直失敗だったと思うけど、毎回ちゃんと食べられるレベルで作れてるよなあ」

 

 二人は笑いながら、少し冷めてきた料理をのんびりと食べ進めていく。

 私は立ち上がり、少し離して始めておいた焚き火の薪を1本継ぎ足しておいた。

 

 正直、美少女たちのキャッキャウフフを間近で見られるだけで、胸いっぱいお腹いっぱいなのだ。

 私的にはエロ動画よりエロいよこんなの。

 

 あと、斉藤さんがいつ例の百合キスの話を切り出すかと思うと、こちらまで胃がキリキリして、とてもじゃないがご飯に集中していられない。

 もともと私はあまり量を食べない方だし、食事は引き続き二人に頑張ってもらおう。

 

「そういえば大垣さんは、いつ頃からキャンプ始めたの? サークルの部長なんでしょ?」

 

 私が焚き火の近くから尋ねると、大垣さんは持っていたフォークを高く掲げて笑った。

 

「こないだの冬からっす。高校に入ってわりとすぐにサークルは立ち上げたんですけど、しばらくは雑誌読んだりしながらだらだらしてただけで。恵那たちと仲良くなってからは、けっこう頻繁にやり始めたんすけどね」

 

 あら、斉藤さんとそんなにキャリアは変わらない感じなんだね。

 とはいえ、自分でキャンプのサークルを立ち上げようとするその行動力は尊敬するなあ。

 

「来週はうちの庭でデイキャンプするんですよ。あきちゃんの伸びた髪、わたしが切ってあげるんです」

 

 斉藤さんは手でチョキチョキとしながら、大垣さんの髪をいじりはじめる。

 仲良きことは美しきかな。たぶんこの二人なら、すぐにでも元通り仲良くなれそうだと思うけどね。

 

 夕食はどうやら、二人でほとんど食べ尽くしてくれたみたいだった。若い子の食欲は、見ているだけで気持ちがいい。

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