ゆりキャンパーは斉藤さんが好きすぎる 作:くもくも@ハーメルン
それから二人は、それまでの深刻なムードが嘘だったかのように、大垣さんが告白された日の話だとか、斉藤さんの元カノの話だとか、キャッキャと恋バナを始めてしまった。
……おい、ちょっと待て。
なんだこれ。
斉藤さんが百合っ子だという情報は、非常に素晴らしい話だ。
その点だけは神様に感謝せざるを得ない。
私にもワンチャン……いや、いかんいかん。逮捕されるぞ。下手な欲を出してはいかん。
でもさ、だったらさ、お友達が百合キスしてたからって、そんな衝撃受ける必要あるかね?
ちょっと友達と気まずくなる、なんてことはしょっちゅうあるでしょ?
冷静になると、今の私が非常にみじめになってきた。
私のここまでの気遣いを、いったいなんだと思っているのか。
「ねえ二人とも……っていうか斉藤さん。私は今、怒ってます。分かる? ちょっと怒ってるんだよマジで。ほら注目注目! こっちに注目してよほら!」
ようやく二人はこちらを向いてくれた。
この私の、なんか置いてけぼりにされてるみたいな悲しさ、わかる? わからないよね?
「大垣さんは偉い! きちんとカミングアウトして、勇気あるし、誠実だよ! キャンプ好きな子に悪い子はいないって、よくわかるね! あ、私も千明ちゃんって呼んでいい?」
大垣さん、改め千明ちゃんは、急にプリプリしだした私に唖然とした表情で、慌ててうんうんと頷いた。
「でもね斉藤さん、ちょっとお姉さんびっくりしちゃったなあ! 私、斉藤さんがお友達と元通り仲良しに戻れますようにーって、こっそり一人で久遠寺でお参りまでしてきたんだからね!? 階段300段くらいあったからね、疲れたんだよ本当に! お賽銭1000円も入れちゃった! 大人だからさ!」
斉藤さんは、どこかきょとんとした表情でこちらを見ていたが、私の言葉を聞くにつれて、少しずつひきつった顔になってきた。
「仲良くなれるに決まってんじゃんそんなの! 二人は結局のところ百合仲間ってことでしょ!? むしろ意気投合するよそりゃ! 逆になんで!? なんでさっさとそれを千明ちゃんたちに言ってあげなかったのさ! いやわかるけどさ、タイミング逃すと言いづらいってわかるけど!」
私は大きく息継ぎをして、そして手に持ったままだったウイスキーをがぶ飲みした。
この悔しさ、言葉にせずにはいられない。
「私のここまでの気遣い、意味ないじゃん! 斉藤さんを私のキャンプで元気付けてあげたかったのに、そりゃ勝手に仲直りして勝手に元気になるわ! キャンプいらないじゃんこれ! 意味不明に女子高生をキャンプに誘った変人みたいになってるじゃん私!」
感情が高ぶりすぎて涙目になった私に、斉藤さんはおろおろしながらハンカチを差し出してくる。
くっそおおお! 空回りしたなあ! 恥ずかしいなあ!
「そりゃ私が勝手に早とちりして、一人で空回りしただけですけど! でもさ! なんかかわいそうじゃん私が! もうちょっとシンプルな友情を期待してたんだよ私! これはちょっと複雑すぎじゃん!」
斉藤さんのハンカチは、やっぱり驚くほどいい匂いがする。
悔しいけど、クンクンするしかない。
「うう……悔しいよう……二人とも、食えよ……!
私が作ったプリンも、ちゃんと食えよお!」
しばらくしたあと、焚き火の始末をして寝袋に潜り込んだ私たち。
プリンは半ば強引に食べさせた。二人の反応は微妙だった。
大型テントの中は、あらかじめ灯油ストーブで暖めておいたから寒さに凍えることもなく、まるで室内みたいにぽかぽかだ。
そのテントの隅っこで寝袋から顔だけ出し、私は斉藤さんをじっと見つめていた。
斉藤さんの居心地の悪そうな表情。これだけでご飯三杯は食べられそうだ。
斉藤さんは、さきほど急に騒ぎ出した私に対し、何がなんだかわからない、という感じではあったが、とりあえず謝ってはくれた。
改めて考えてみれば、斉藤さんが私に怒られるべき要素など何一つない。
全て私の勝手な空回りだ。
だけどそんなことは棚に上げておき、美少女を困らせる、というちょっと悪質なこのプレイよ。
その背徳感はけっこう病みつきになりそうなゾクゾクがある。
「罰としてあれだな……斉藤さんは今度から私のこと、つばめちゃんって呼んでね……。同級生みたいにタメ語で話してね。私、友達いないからそういうのに餓えててさ……そのくらいできるよね? ね? できるよね?」
我ながらクズにもほどがある。訳のわからないいちゃもんを付け、自分との友達付き合い?を強要しているわけだ。
ふふ、たまらない。この破滅願望が満たされていく感じがたまらない。絶対嫌われるね私。
「んん、まあいいですけど……でも三条先輩、なんていうかほら、大丈夫なんですか?」
斉藤さんはちょっと恥ずかしそうにしながら、でも全くタメ語にはなっていなかった。
「何が? いや、ていうか私三条先輩じゃないしぃ。つばめちゃんだしぃ。まだ敬語使われちゃってるしぃ。……気持ちはまだ私も女子高生みたいなもんなんだよ……同級生扱いしてよ……」
ああー、この斉藤さんの困った表情ったら! ついでに千明ちゃんのちょっと引いた表情ったら!
ちょっと興奮する! 私ちょっとエムっ気あるしさあ!
「あー……つばめちゃん?」
遠慮がちに、斉藤さんの口から、私の名前が出た。
……これは、すごい。
すごくいい。
好き。めっちゃ好き。
「あの、私さっき言いましたよね? 私は同性愛者だって。今も一緒のテントで寝ようとしてますけど、ほら、なんていうか怖くないんですか? じゃない、怖くないの?」
まだ敬語が続くことはもういい。
もっと呼んで!私をつばめちゃんって呼んでぇ!
……というのはさておき、これは同性愛の先輩である私からしっかり答えてあげておくべきだろう。
斉藤さんは、ちょっと不安そうに私を見つめているけれど、そんなこと気にする必要なんて絶対にないんだ。
「はーん? 怖いわけないしぃ? 斉藤さんと一緒のテントで寝られるなんて、一生の思い出でしょ。全人類、みんなそう思うに決まってるからね、わりとマジで。」
自分の同性愛のことはちょっとガチすぎて言い出せないけど、ノーマルな人たちの悪いイメージにとらわれすぎたら、きっとつらくなってくるからなあ。
「……ていうか、気にしすぎだよそれ。同性愛者だからって、見境なく周りの女の子に発情するわけないし。斉藤さんも私みたいなおばさんに興味もないでしょ?」
せっかくなので、私みたいなのはいかがですか? という下心も込めて、ちょっと探りをいれてみる。
「あ、いやあの、それはほら……」
明らかに目を反らし、寝袋で顔を隠しながら言い淀む斉藤さん。
……ほらな! 女子高生からしたら24歳なんておばさんだもんね! わかってたし! 最初から期待してないし!
でも悔しい悲しい! お世辞くらい言ってほしかったなああくっそおおお!!
斉藤さんと付き合いたい。いちゃいちゃしたい。ペロペロしたい。……もちろん違法だから我慢するけどさ。
でもこれは悔しい悲しい!
「じゃあ実際、恵那はどんな子がタイプなんだ? リンと付き合ってたってのは正直びっくりしたけど、あいつみたいなタイプのやつって他にいないしなあ」
闇に飲まれた私の心を置き去りに、奥で黙っていた千明ちゃんが尋ねる。
あと、恵那って呼び捨てにするの、なんかかわいい。うらやましすぎ。
でもナイス質問だよ。
斉藤さんとチュッチュするためなら私、斉藤さん好みの女になるよ。年齢とかどうにもならないとこはいっぱいあるけどさ。
「うー、それは秘密だよお! また今度色々話そうねあきちゃん!」
寝袋の中でもぞもぞと騒ぐ斉藤さん。
けっこう高級そうなふわふわの寝袋が、いもむしのようにうごめいている。
これではなんの情報も得られない。
だけどいいなあ、仲良しって感じで。
「羨ましい……私も百合トークしたかった……斉藤さんのこと、恵那たんって呼びたかった……」
横から割り込んだ私の低い声に、いもむし寝袋はピタリと動きを止めた。
「いや、好きに呼んでいいですから……もうその感じ、勘弁してください……」
悲壮感溢れるご回答。間違いなくこれで私は嫌われただろうね。
でもありがとうございます! 好きに呼ぶからね、恵那たん恵那たん恵那たん!