ゆりキャンパーは斉藤さんが好きすぎる 作:くもくも@ハーメルン
台所の棚から、ごっそりとシェラカップのコレクションを取り出す。
シェラカップはマグカップや取り皿として使われるキャンプ道具で、そのまま火にかけてお湯を沸かしたり、食べ物を炒めたり、なんならお米を炊いたりすることもできる万能アイテムだ。
私は趣味でこのシェラカップをたくさん収集している。サイズや材質の違いや、かわいい柄であったり、コレクター心をくすぐる商品が多いのだ。
「さ、恵那ちゃん。ここから3つ、カップを選んでね。恵那ちゃんは何飲みたい? みんなコーヒーでもいいよね?」
恵那ちゃんはそのコレクションの量にちょっとびっくりしながら、いくつかを手に取り始めた。
「ねえ恵那ちゃん。あっちの二人とは、もうちゃんと仲良しに戻れた? この間は恵那ちゃんの家で庭キャンプやったんでしょう?」
恵那ちゃんはシェラカップを眺めながら、柔らかく微笑む。
「はい。たぶん前よりずっと仲良しになれたと思います……思うよ。あきちゃん、他の友達にもきちんと話をして、みんなに祝われてて。あおいちゃんなんて嬉し泣きしてたんだよ。ふふ。……つばめちゃんのおかげです。この前のキャンプ、本当にありがとう」
私は自分用の今のお気に入り、100均で買った飾り気ゼロのシェラカップを手にとり、インスタントコーヒーの粉を適当に瓶から直接入れておいた。
雑に使っても100円だし。そういうところがお気に入り。
「いや……この前のキャンプはほんと私的にはお恥ずかしい限りでさ。まあ、あんまり意味はなかったけど、二人とキャンプできたのはすごく嬉しかったよ」
恵那ちゃんがこちらに渡してきたカップにもインスタントコーヒーの粉を注ぐ。
お、それは軽くて頑丈なチタン製だよ。いいチョイスだね。
「ふふ、でもほんとに嬉しかったんです。わたしのためにつばめちゃんがいっぱい頑張ってくれたのがわかって。なんか、うまく言えないけど、すごく嬉しかったんだよ」
恵那ちゃんは私を見つめて、またふんわりと笑った。
鼻血が出そうなくらいかわいい。
私の部屋で、私のお気に入りのカップを、私の大好きな女の子と選ぶ時間。
恵那ちゃんと出会ってから、いつも私の人生最高の時間が更新されていくみたいだ。
恵那ちゃんが次に選んだのは、雪男の柄のカップ。それは私の故郷の逸品でね。お目が高いねえ。
「つばめちゃんのお部屋って、よく見たらキャンプ道具ばっかりなんだねえ。さっきのお部屋にあった灯油ストーブも、この前のキャンプで使ってたやつでしょう?」
そうなんだよね。家具には全然興味がないけど、キャンプ道具だけは大好きで、家の調理器具も実は全部キャンプ用品だ。
「うち、お父さんが新潟でキャンプ道具関係の会社をやってたんだ。だから昔からキャンプ道具が身近にあってさ。今もキャンプ道具が周りにあると、すごく落ち着くんだよね」
今はその会社は兄が社長となり、ときどき私にもどこかのメーカーのテスト品なんかを送ってくれたりしている。
兄を経由して、動画で企業案件が入ることも何度か。
「つばめちゃんって、新潟の人だったんですね。ふふ、わたし、よく考えたらつばめちゃんのことって、ほとんど何も知らないのに、一緒にテントで寝たり、こうしておうちに呼んでもらったり。なんか不思議だなあ」
私は恵那ちゃんの言葉に、もっともっと自分のことを話したくなってしまうけど、それをぐっと堪えて最後のカップにコーヒーの粉を入れた。
「ええ? じゃあ犬山さんが、あのインスタのイヌイヌさんなの!? すごい! いつも見てます!」
水道水とインスタントコーヒーの粉が入った4つのシェラカップをストーブの上に並べ、私たちはキャッキャウフフとガールズトークに花を咲かせた。
最近気になっていたインスタグラマーのイヌイヌさん。張本人がこの犬山さんだったらしい。
確かにセンス良さそうな子だもんなあ。
「いやあ、ちょっと妙に人気が出てしもうて。自分でもびっくりしとるんですよお」
畑は違えどキャンプを武器に、ネットの世界で戦う私の立派なライバルというわけだ。かっこいいじゃん。
「あ、じゃあもしかしてこの前、自作アルスト作ってた写真も、サークルで作ってたってことかあ! すごいじゃん!」
「へへ、いやあ、あれはあきの思いつきで。なあ、あき? あきがいっつも色々考えてくれるから、うちらも退屈せんのですわあ」
千明ちゃんを見つめる犬山さんの目は、本当にびっくりするほど恋する乙女の瞳だ。
千明ちゃんもまんざらでもなさそうで、すごく素敵な二人だと思う。
「じゃあ恵那ちゃんもアルスト作ったの? みんな器用だねえ」
私が言うと、恵那ちゃんは微妙な表情になる。
それを見て千明ちゃんがイタズラっぽく笑った。
「いや、実は恵那はうちのサークル部員じゃないんすよ。何回も誘ってるのにさあ。部員を四人揃えたら、我が野外活動サークルも正式に部に昇格できるのに、恵那がどうしても頑固で」
なんでまた。
と思うけど、なんかその気持ち、分からなくもない。誰かと仲良くすることと、何かの集団に所属することはちょっと違うから。
でも、きっと千明ちゃんたちときちんと仲間になることは、恵那ちゃんにとってもいい経験になると思うけどなあ。
……よし、ひらめいた。
「よし恵那ちゃん。もし千明ちゃんのサークルに入ってくれたら、お姉さんが特別に、素敵なものをあげるよ」
私は千明ちゃんたちにあげるはずだった棚ではない、思い出のグッズコーナーから、ちょっと薄汚い、調理用の小さな底が深い鍋を取り出す。
「ええ? ……いや、なんでつばめちゃんがそんなことまで?」
恵那ちゃんは言いながらも、ちょっと嬉しそうに、私から容器を受けとる。
もしかしたら恵那ちゃん、最近は二人のサークルに入りたくなってるんじゃないの?
今さら言い出しにくかったんでしょ。
「恵那ちゃん、そのポットの蓋を開けてみて」
恵那ちゃんは、その調理用のポットの蓋を開けて、中身を取り出していく。
すっぽりと中に収まっていたその道具は、ソロストーブという特殊な焚火台の仲間だ。
キャンプ場で拾える小枝や、松ぼっくりなんかの小さなものをエネルギーにして、強い火を生み出す、小さな素敵な焚火台。
恵那ちゃんはその使い込まれた金属の鈍い輝きに、目を輝かせてくれた。
「ほら、恵那ちゃんが前に言ってた動画配信者さんも、動画でそのソロストーブ結構使ってたみたいだよ。奇遇にも私も前に使っててさ。今は同じタイプでさらにコンパクトになるやつを使ってるから、それ、あげるよ」
そう、だってそのYouTuberは私だからね。
恵那ちゃんはその道具を灯油ストーブの前で組立て、ふんわりと笑った。
「……すごい。……わたし、ずっとこれ気になってて。でもいいの? すごく高価だよねこれ」
千明ちゃんもその道具を見て、なぜか鼻血を抑えるみたいなポーズをしている。
「大丈夫。もう使い込んでるから売るに売れないし。お気に入りだったから捨てるのもできなくて。恵那ちゃんが使ってくれたら、そいつも喜ぶよ」
恵那ちゃんは、もうその薄汚れたソロストーブに頬擦りをせんばかりに、食い入って見つめてくれている。
「ただし! 恵那ちゃんは千明ちゃんたちのサークルに入部すること! ……ね、きっといい経験になると思うよ。でしょ? 部長の千明ちゃん?」
千明ちゃんはそれを聞き、ドンと胸を張ると、ちょっと照れたように笑う。
「もっちろんだぜ恵那! 臨時部員から正式に部員に昇格すれば、胸踊る体験が盛りだくさんだ! ……へへ、なんかすいません三条さん。この前からお膳立てしてもらってばっかりで」
犬山さんは微笑ましそうに二人を見つめながら、沸いたコーヒーをテーブルに並べていく。
恵那ちゃんは照れくさそうに、でもきっとそのソロストーブを言い訳にするみたいに、千明ちゃんにうんうんと頷いた。