ゆりキャンパーは斉藤さんが好きすぎる 作:くもくも@ハーメルン
金曜日の夕方。
私はキャンプ道具の入った段ボールを車に積んで、本栖高校の駐車場へ突撃した。
もちろん千明ちゃん経由で許可はとってある。顧問の先生の了承のもと、先日みんなが選んでくれた道具を運んであげることになったのだ。
ここがマイエンジェル恵那たんが通う、聖地本栖高校かあ。
なんだか、まあ、普通だね!
車のドアを開けると、ちょうど千明ちゃんと、先生らしき綺麗な女性がこちらに近づいてきた。学校の先生に会うって、なんか久しぶりだ。ちょっと緊張するな。
「は、はじめまして。さ、三条と申します。怪しいものではなく、その、千明ちゃんたちの、あの」
「はは、どうしたんすか三条さん。大丈夫っすよ事前に説明してますから。ね、鳥羽先生」
千明ちゃんが私のコミュ障ぶりを笑うと、それをたしなめるように彼女を軽く睨みつつ、その先生が私に頭を下げてくる。
「お話は伺っています、三条さん。私は顧問の鳥羽と申します。この度はキャンプ道具をお譲り頂けるとのことで、本当にありがとうございます」
鳥羽先生は、かなり若そう、というか私と同い年くらいの感じだが、すごくしっかりした印象の方だ。
しかもかなりお綺麗。黒髪の和風美女だ。
こんな先生、たぶん男子にめちゃくちゃ人気だろうなあ。
「は、はい、荷物は後ろのトランクに。さあ千明ちゃんや、運ぶの手伝っておくれ」
「あいあいさー! へへ、でも今日も何から何まですいません。今日は我が野クル部員たちから、コーヒーをご馳走しますよ! ほらあっち!」
校庭を見ると、奥のほうで誰かが三人、こちらに手を振っている。
私は目があんまり良くはないけど、でもはっきりとわかる。マイエンジェルがあそこにいるな。
先生と、ジャージ姿の千明ちゃんの協力の元、千明ちゃんが持ってきてくれた台車へ荷物を下ろす。
さらば我が道具たち。新しい主人たちのところでも頑張ってくれよ。
ジャージ姿の恵那ちゃんを見て、私のテンションは一気に最高潮となった。
正直、全然ジャージが似合っていない。それがかえって、最高にかわいい。
「つばめちゃーん! コーヒーできてるよー!」
楽しそうに私を呼ぶ天使の声。
好き。大好き。
「皆さまごきげんよう。お待ちかねの道具、お持ちしましてよ、ウフフ」
どうも見たことが無い女の子も混じっていたので、私はちょっとからかってみようかと、お嬢様言葉で微笑んでみた。
「なんやあそれ~。ふふ、三条さんそんなキャラちゃうでしょ~」
イヌイヌさん、いや犬山さんの見事な突っ込み。嬉しい、このレスポンスの良さ。
「へへ、犬山さん、恵那ちゃん、今日はお招き頂きありがとう。コーヒーぜひ頂くよ。今日はなんか結構寒いし」
私が言うと、初見の女の子がピシッと敬礼をして、コーヒーの入ったカップを手渡してくれる。
「はじめまして、つばめちゃんさん! 各務原なでしこです! 恵那ちゃんからいっぱいお話聞いて、お会いできるの楽しみにしてました! 今日は道具も、本当にありがとうございます!」
いかにも活発で、元気そうな女の子。しかもめちゃくちゃかわいい。
きちんと頭も下げて、礼儀もバッチリ。恵那ちゃんの周りは、ほんといい子ばっかりじゃん。
「なでしこちゃんは、うちらの料理番長なんですよお。多分もらった料理道具も、うまく使ってくれるやろうと思います~」
犬山さんからの紹介に、かわいらしく、控えめな胸を張るなでしこ氏。
……あれ、ていうかこれ、結構やばいんじゃ?
サークルの部員は、新入りの恵那ちゃんを含めて四人。うち千明ちゃんと犬山さんがカップルということは、必然的に、恵那ちゃんのご興味はこのなでしこ氏に向かうのでは……?
という邪な不安も、私においでおいでして自分の横に招いてくれた恵那ちゃんの天使っぷりに、ふわっとかき消されてしまった。
「三条さん、今日は本当にありがとうございます。しかし、こんなにたくさん頂いてしまい、かなりご負担だったのでは?」
焚き火の周りで中古の道具を囲みワイワイしているみんなを眺めながら、少し離れて鳥羽先生とお話する。
ジャージ姿のマイエンジェルと、そして犬山さんのバストからどうしても目を話せないので、今真面目な話は少し厳しいのだが……。
「いや、あの鳥羽先生。みんなには秘密にしてるんですが、私、キャンプ動画を配信しているYouTuberでして。企業から提供頂いた道具やら、動画のネタにするための道具やらが、どうしても結構だぶついてしまうんです。処分に困る道具も多いですし、こちらとしても今回は助かったんですよ」
元気っ子のなでしこちゃんが、折り畳み式の調理用ナイフを手に、カッコよくポーズを取っている。
写真を撮る恵那ちゃんもすごく楽しそう。
ね、サークル入って良かったでしょ? ちょっと私、強引すぎただろうけどさ。
「私、恵那ちゃんたちがうらやましいです。私が高校生のときは、女の子がキャンプって珍しくて。同じ趣味の友達なんていませんでしたよ」
鳥羽先生もコーヒーに口を付けながら、うんうんと頷いた。
「ええ。私も父の影響で、家族でよくキャンプをしていたんですが、高校生にもなると、周りの同級生にはあんまりそういう子もいなかったですよね」
ですよねえ。時代は変わったなあ。まあ、私もささやかながら、若い世代にキャンプを布教している一人ではあるんだけどね。
鳥羽先生と軽く盛り上がっていると、向こうで恵那ちゃんがこちらをじーっと見つめているのが見えた。
どうしたのマイエンジェル?
手を振りつつ、せっかくなので勇気を出して投げキッスしてみると、なんだかみんながキャアキャアと騒いでいる。
その様子に鳥羽先生はちょっと困ったように小さく笑った。
「最近、斉藤さんはとても変わりました。大垣さんたちとの付き合いも、きっと彼女にいい影響を与えていたと思いますが。多分、三条さんとの出逢いが、彼女を変えてくれたんでしょうね」
鳥羽先生は恵那ちゃんたちを優しい目で見つめている。
「斉藤さんは最初、少しつかみどころがない生徒だったんです。周りへの気遣いや人付き合いのようなものは素晴らしく上手な子なのですが、自分の意思のようなものをあまり表に出さない印象があって。……今はそのあたりが、すごく良い方向に変わっています」
マイエンジェルのこと、よくわかってるねえこの先生。
綺麗なだけじゃなく、しっかり生徒のことを見てるんだ。
「確かに、恵那ちゃんはすごく天使みたいに優しい子ですし、バイト先でもコミュニケーションが上手ですけど、周りに遠慮したり気をつかったりしすぎるんでしょうね。そういうところも、すごくかわいいし天使……じゃなくて、あの、いいところの一つだとは思いますけどね」
思わず出た私の不審な発言は無視して、鳥羽先生は頷いている。
「斉藤さんはクラスの男子にもすごく人気みたいですよ。お付き合いしている相手はいないようですけどね」
そりゃあね。だって百合っ子だもんね。ふふ、残念だったな男子諸君!
「ふふ、そう言ってきっと鳥羽先生もすごく人気あるでしょう? こんな綺麗な先生、なかなかいないですよ」
私の言葉に先生は顔を赤らめ、いやいや、と否定してくる。
遠くからまた恵那ちゃんが、こちらを見つめて……というか、睨んでいるのが見えた。なんかあったの?
「ほな三条さん、またラインで連絡しますけど。……あの、失礼ですけど三条さん。もしかしたら三条さんって、うちらと同じ、レズビアンだったりします~?」
他のみんなが部室に荷物を運ぶ中、焚き火の始末を担当していた犬山さんが、聞きにくいことをズバッと聞いてきた。
表情は、明らかに自分の発言に自信を持っている。
やばい、バレてるぞこれ。
「うわ、あ、いや、うん、いや、ほら、うん……なんで!? なんでわかったの? いや、内緒に! どうかご内密に!」
私の反応に、犬山さんはニヤニヤと笑う。
「あは、やっぱり。だってうちのおっぱい、めちゃ見とるやないですか~。男子と同じ目線を感じましたわ~。それ以外も、いろいろなんか、わかりやすいんとちゃいます?」
し、しまったあ!
わかるよねそりゃ。だっておっぱいガン見だったもん!
「で、そんなことはええんですけど。……恵那ちゃんのこと、どう思ってます?」
犬山さんの言葉に、私は血の気が引いた。
逮捕。
その言葉が頭にちらつく。
「あ、ああ……違うの犬山さん。確かに、確かに私は恵那ちゃんが大好きだけど、それはほら、あれじゃん。違うんだよ。ほら……あの、どうか、どうか通報は勘弁してください。……まだ、まだ何も不純なことはしてないんですぅ……」
私の悲壮感溢れる言葉に、犬山さんはあわてて立ち上がった。
「いや、ちゃうんですよ、そういうことやなくて! ……ふふ、でも良かった~。あの、三条さん? 良かったら今度、恵那ちゃんと二人でキャンプ誘ってあげてもらえませんか? 多分、すごく喜ぶと思うんです」
犬山さんはどうやら私の通報はまだ考えていないようで。
とにかく逆らえそうにはないが、恵那ちゃんと二人でキャンプ?
簡単そうに言うけど、私にそんな勇気があるとでも?
さらに続けて犬山さんは、ニヤリと笑った。
「あと、三条さんって、YouTuberのまきまきさんでしょう? この前おうちで撮影機材とか見えてましたよ~?」
まじかこの子。
まじか。全部バレてるじゃん……。