今日は元トレーナー一家の仕事も学校も幼稚園もお休みの日。
家族を連れてどこかへ出かけようと前々から言っていた日だ。
「せっかくの休日なんだし、無理しなくてもいいんだよ?」
とは彼の妻の談だ。
「でも子どもたちは遊びたい盛りだろうし、楽しい思い出はできるだけいっぱい作ってあげたいからね」
そう言って彼らの愛しの三姉妹の方を見やる。
「キャンプ行きたいキャンプーー!!」
「たんけんたんけーーん!!」
「楽しけりゃーどこでもいいよーー!!」
本当におてんばというか、元気はつらつな娘たちだ。
…一体誰に似たのだろうか?
「そう言うと思って、すでにグランピングの予約はしてあるよ」
「ぐらんぴんぐーー??」
「なにそれー?」
「きになるー!」
聞いたことのない単語に娘たちは興味津々だ。
「要するに、こっちが専門の道具を何にも持ってなくても、向こうで色々準備をしてくれるキャンプのことだよー」
「べんりー!」
「すごーい!」
「たのしそー!」
とーちゃんの説明に目を輝かせる娘たち。
三人揃ってぴょんぴょんとはしゃいでいる。
「へー、最近はそんなのもあるんだねぇ」
彼の妻ことヒシアマゾンもなにやら感心した様子だ。
「というわけで、用意したものがこちらになります」
旅行用カバンいっぱいに入っているのは雨具やタオル、ウェットティッシュに消毒液や絆創膏。ビニール袋に虫除けスプレー、保険証も念のため。
「他は各自でパジャマとか着替えを持って車に積めば問題無いよ。食材もクーラーボックスに入れればいいし」
「ずいぶんと準備がいいねぇ」
「そりゃあね。せっかくのお休みだし。それにこう言う準備も楽しいもんだよ」
「じゃー、あたしも用意してくるー!!」
「わたしもー!!」
「らすたーもー!」
とてとてと、用意に向かう子どもたちを見守る夫婦二人。
「で、あとどのくらいで出るんだい?」
「まぁ、だいたい三時間後くらいかな?」
「じゃあ、ちょっと早いけどお昼は食べてからの方がいいね」
「そうだね。途中で買い食いしないで済むし」
「そんじゃ、アタシも着替えの準備だけしておくか。色々あんがとな。トレ公」
「いいっていいって。それに」
「それに?」
意味深に言葉を切った夫に妻は首を傾げて問いかける。
「キミとの思い出もこれから増やしていきたいしね」
少し照れ臭そうにそう言う夫を見て、妻はそっぽを向く。
「……バカ」
そう言って真っ赤になったヒシアマゾンは奥の方に引っ込んで行ってしまった。
三時間後
準備も昼食も済ませ、出かける前のトイレも済んだ一家は車に乗り込む。
「しゅっぱーーつ!!」
「たのしみーー!!」
「れっつごーー!!」.
車に揺られて二時間ほど。
途中サービスエリアでの休憩も挟みつつ、特に渋滞に巻き込まれる事も無く順調に車は進む。
娘たちもちょっとした小旅行気分で、窓の外から見える景色の変化を楽しんでいる様子だ。
やがて目的地、紅葉色づく山の駐車場に車を停めて一家は降りる。
事務所のある建物に夫が向かい、チェックインして、キャンプ場へ。今日利用することとなるグランピングテントに案内される。
「わーーー!!」
「ひろーーーい!!」
「かけっこしてきていーい?」
娘たちが目をキラキラさせながらそんなことを聞いてくる。
やはりウマ娘はこう言った広く、駆け回れるところが好きなのだろう。
「おーう。転んだらちゃんと戻って来るんだぞー?バイキンが入ったらタイヘンだからなぁ」
「ころばないもーーん」
「しんぱいしょー!!」
「いってきまーーす!!」
そう言って、あっという間に点になってしまった。
「キミも言って来たら?」
横に立つヒシアマゾンに彼は訊ねる。
「あー、そうだね。娘たちが帰ってきたら一緒に散策でもしようかね」
なんだかんだ面倒見のいい彼女のことだ。自分の娘たちが心配なのだろう。
キャッキャと駆け回る娘たちを見て、そわそわとしているのがそのいい証拠だ。
「そこまで気を張らなくても大丈夫だよ」
「トレ公…」
「キミとの思い出も作りたいって言ったろう?」
しばしの沈黙。
そのあと、すこし呆れたようにため息をついて
「まぁそうだね。少し神経質になり過ぎてたかもね」
「じゃ、あの子達の気が済んで帰ってきたら、一緒にこの辺の散歩でもしようか」
そう言いつつ、微笑ましく娘たちを見守る夫婦なのだった。
実際、向こうで色々準備してくれるのは楽でいいですよね。