その日、元トレーナー家は戦場と化していた。
とは言っても、修羅場だとか鉄火場だとか、そんな物騒なものでは無い。
その盛り上がりの正体とは……。
「久しぶりに、料理対決と行こうじゃ〜ないか!!」
「おう。そのための買い出しも終わったしな」
通常の家庭よりも少し広めのキッチンにて、気合の入った様子で髪を結い上げ不敵に笑う割烹着姿のヒシアマゾンが、エプロン姿の己の夫にメラメラと闘志の籠った瞳でそう言う。
それと言うのも、この夫婦は両者とも料理上手であり、更にはレパートリーもかなり豊富。そこに「たとえ相手が旦那であっても厨房ではライバル」と言うヒシアマゾンの負けず嫌いさも相まって時折こうして夫婦で料理対決をすることがある。
審判はもちろん、食卓で今か今かと料理を待つアンデス、バラード、そしてラスター。三人の愛娘達だ。
「たのしみ〜」
「ごはん〜」
「オヤツ〜」
食べ盛りの子ども、それもウマ娘三人に食べてもらう以上、味はもちろんのこと栄養面も考えて作らなければならないため、毎度かなりハイレベルな戦いとなる。
なお、量は子ども達がウマ娘で、なおかつ食べ盛りということもあり、ある程度多く作ったとしても問題はない。
よしんば残ったとしても、その場合は冷蔵庫なりで保存すれば良い。
「ハッハッハ〜!!腕がなるねぇ〜!!」
高らかにそう言うのは妻ヒシアマゾン。
中華鍋を火にかけ、慣れた手つきで次々と具材を入れる。
「そ〜らそらそらぁ〜!!ジュージュー炒めるよ〜!!」
豪快に鍋を振るうその姿はまさに料理の鉄人。
宙を舞う肉に野菜。
そして鼻をくすぐる醬の香り。
そうして出来上がったのは…。
「はいお待ち!!ヒシアマ母さん特製回鍋肉さ!!」
その言葉とほぼ同時に、三本のフォークが伸びる。
「あむあむ…」
「おいひぃ〜」
「しあわせ〜」
その反応にヒシアマゾンはガッツポーズを決める。
「さぁ〜!!今度はアンタの番だよ!!」
ニッと笑い、キッチンを振り返ると、既に彼女の夫は調理を終えていた。
手にはミトンをはめ、オーブンから取り出したのだろうグラタン皿を持っている。
「熱いから近づかないようになぁ〜。あ、ヒシアマ…すまないが皿の下に敷くもの用意してくれ」
「お安いご用さ!!」
そう言って、ヒシアマゾンが敷いた鍋敷きに置かれるのは当のヒシアマゾンには懐かしい品。
立ち込める甘い香りに、ヒシアマゾンは何かを思い出したかのように夫の方を見る。
「アンタ…」
「ハハ…今日、オレとヒシアマゾンが初めて料理対決した日だろう?せっかくだし驚かせたくてなぁ…」
食べやすい大きさに切られたにんじんに、あの日の反省とばかりに彩りと栄養のために入れられた野菜。
何より特筆すべきは、たっぷりのチーズ。
「オレの料理は、チーズたっぷりキャロットグラタン、はちみつがけだ」
そうして、取り分けられたグラタンを食べる娘達は満足そうに微笑み…。
「さぁ!!勝者は…?」
「どっちだ…?」
大げさな物言いだが、これもある意味様式美というものか。
勝負の行く末は…。
「どっちもおいしー♪」
「ひきわけ〜」
「ひきわけひきわけ〜!!」
無邪気にそう言う三姉妹に、すっかり気を抜かれてしまう両親なのだった。
ヒシアマ姐さんのストーリー見返したらやってみたくなりました。はい。