ペルソナ5 Dark Revengers   作:海色ベリル

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Beginning the revenge
第1話 Welcome to new world


世界はあるべき姿に戻った。

歪みによる定めに抗った

八人の“トリックスター”により、

世界の歪みは正された、はずだった……。

今再び世界は歪み始めた。

しかもこれは自然現象による事故ではなく、

とある者の手によって引き起こされた。

その者もとい、この歪みを止めなければ、

世界は再び、いやそれ以上に歪みによって

“破滅”の道へ向かうのも時間の問題である。

いずれ我が居場所も侵されるであろう。

全てが破滅に満ちた時、もはや救いの手は皆無だ。

 

「頼む!! もうお前しかいないんだ!!

今この状況を打破できるのは、お前だけなんだ!!

ワガハイの代わりに導いてほしい!!

世界の歪みを止められるペルソナ使い……

“心の怪盗団”を見つけてくれ!!」

 

生きていれば、何をしても

どうしようもないことは何度かある。

救いようのないものは切り捨てるか諦めるか。

世界はそういうものだ。

僕の家族も、その一つかもしれない。

 

「やっ、やめなよ兄さんっ!

父さんも、母さんも、兄さんのためを思って

言ってくれてるんだよ!

会社のことは仕方なかったけど、

だからって八つ当たりして

いい理由にはならないよ!」

「……オレのため?」

「そ、そうだよ!

兄さんが頑張れば、再就職だってきっと…」

「オレのためっつってんなら……

黙ってオレの言うこと聞けやあっ!!」

 

突然鳴った新幹線の音で僕ははっと目が覚めた。

ああ、またあの夢か。

これで多分五回は見たと思う。

新幹線に揺られながら

僕は少しでも落ち着けるよう、窓の景色を眺める。

テレビで何度も見たスカイツリーが見えた。

 

まずは、オーソドックスに自己紹介。

僕の名前は、田嶋勇気。今年で十七歳。

ちなみに勇気と言う名前の由来は、

父さんが強い子になるようにと願って、

男の子が生まれたら付ける名前だったそうだ。

まあ、実際強いかどうかはわからないけどね。

僕は今、訳あって四軒茶屋に向かっている。

この春からこの渋谷区で

暮らすことになったからだ。

 

僕の家族は今、崩壊の危機に瀕している。

原因は十歳上の兄だ。

兄は子供の頃から頭が良く、

俗に言う神童であった。

父や母はもちろん、

先生や親戚の人、ご近所さんまで

兄のことを期待していた。

僕はどちらかと言えば平凡な人間だったけど、

よくあるえこひいきや差別もあまりなく、

父も母も僕に優しくしてくれたし、

これといって不満はなかった。

その後、兄は有名な私立大学を主席で卒業。

選ばれた人しか入社できない

大手企業からの内定をもらった。

でも、兄は三か月で辞職した。

実はその企業はブラック企業だったらしい。

つまり兄は騙される形で入社してしまったのだ。

それ以来、兄はおかしくなった。

気に入らないことがあると暴力を振るったり、

何かが上手くいかないと

物を壊したりするようになった。

両親はなんとかしようと、

更生施設や精神病院なんかに相談したけど、

兄のあまりの異常さが原因か

どれもほとんど効果はなかった。

暴力は日に日にエスカレートし、

母にいたっては鬱病を発症してしまった。

その日も、父が母を守ろうと

兄からの暴力を必死になって受け止めていた。

僕はそれをただ影から怯えて見るしかなかった。

でもその日は、何かが切れてしまったのか、

とうとう僕は無意識のうちに

父と兄の間に割り入った。

気に入らない兄は僕を殴りに殴りまくって、

僕は全治一か月の大怪我を負った。

これ以上放置したら、

命がいくらあっても足りない。

そう判断した両親は僕を守るため、

四軒茶屋にいる母の友人の家に

下宿することになった。

その間、兄のことはなんとかするらしい。

とは言ったものの不安だ。

まあ、さすがに殺して

何もなかったことにしようなんて

とんでもないことはしないだろうけど、

どんな療法も効かなかったあの兄を

なんとかできるものなのだろうか。

そんな心配が残る中、

僕は自分の命を守るためと思い、上京を決意した。

 

そうこうしている間に、目的地の駅に着いた。

新幹線を降り、駅を出る。

「ここが……渋谷……」

漫画で見た風景とは比べ物にならない。

人々のガヤ、ビルからの音、交通機関の音。

色んな音が混ざって、正直酔いそうだ。

田舎者にこれはきつい。

僕は酔って倒れないようなんとか踏ん張り、

母さんの友人の家に到着した。

その人は喫茶店を営んでおり、

この周辺では割と人気店らしい。

“喫茶ホームズ”と書かれた小さなお店だ。

僕は静かに様子を見ながらドアを開けた。

チリンチリンと鐘が鳴る。

内装はよく見るレトロな雰囲気で、

入っただけで昭和にタイムスリップしたみたいだ。

「はあ〜い、いらっしゃ〜い」

店の奥から、誰かが出てきた。

出てきたのは、ふっくらとした体格の

優しそうな女性だった。

母と変わらないぐらいの歳みたいだ。

「あ、えっと……こんにちは。

今日からお世話になります、田嶋勇気です」

僕は挨拶しながらお辞儀する。

「あら、まあまあまあ! あなたが勇気君ね?

たしかに顔つきが麻子そっくりだわ!」

麻子とは母のことだ。

なんでも中学の時からの友人だと

母から聞いた。

「よく来てくれたわね〜!

一人で大変だったでしょう?

とりあえず座って」

僕は勧められるまま、カウンター席に座った。

その人、笹野裕美(ゆみ)さんは

ジュースを僕に差し入れてくれた。

「話は麻子から聞いたわ。

色々と大変だったそうね?」

「はい、まあ……」

「お兄さん、(つよし)君のことは

前々から聞いてはいたけど、

まさかそこまで追い詰められてるなんてね……

でも安心して。勇気君のことは、

私が守ってあげるから!」

見た目に相応しい優しい人だ。

僕はなんだか安心した。

「はい……ありがとう、ございます」

「そうそう、明日は学校に挨拶に行くからね。

秀尽学園。失礼ないようにね?」

僕は上京に伴い、学校も転入することになった。

学校の名は秀尽学園。

ここからなら電車で行ける範囲にある。

正直ちょっとドキドキしている。

身内にニートがいて

めっちゃ暴力振るってるなんて知られたら、

絶対に距離置かれちゃう。

そうならないためにも頑張らないと。

しばらくして、笹野さんは

僕の部屋に案内してくれた。

部屋は屋根裏部屋になる。

事前に準備してくれたのか、

ベッドと机と棚があり、

部屋の中は割と綺麗だ。

とはいえまだ少し埃っぽい。

「ごめんなさいね?

ちょっと急だったものだから」

「い、いえ! あとは僕がやりますから」

「トイレとお風呂は一階ね。

閉店時間になったら電気消すから、

戸締まりしっかりお願い」

「はい」

笹野さんが下に降りた後、

僕は屋根裏部屋を軽く掃除し、

ベッドに寝っ転がった。

気がつけばもう夜だった。

僕は正直安心した。

とはいえまだ学校に

どんな人がいるかわからないから

まだ少し不安はあるけど、

笹野さんはとても良い人だし、

あとは僕の頑張り次第だ。

 

そして三日後、僕は転入初日を迎えた。

校長先生に挨拶した後、

担任の女性教師、福永先生に連れられ、

所属することになる2-Aの教室に着いた。

「今日からこのクラスに入ることになった、

田嶋勇気だ。田嶋、自己紹介を」

「た、田嶋勇気ですっ。よろしくお願いします」

A組の生徒から拍手が響いた。

よかった、とりあえず受け入れてはくれた。

クラスによる簡単な

オリエンテーションが終わると、

いつの間にかお昼休みになった。

僕は購買で買ったお弁当を開けようとした。

【……ケテ……】

「え?」

突然何かが聞こえた。

辺りを見回したものの、

話しかけてくれた気配がない。

空耳かと流そうとした。

【タスケテ……】

また聞こえた。今度はしっかりと聞こえた。

不思議に思った僕は、声のする方に歩き出した。

助けて、助けてと聞こえる。

気づくと、僕は屋上の扉の前にいた。

声はここからよく聞こえた。

僕は無意識のうちに扉を開けた。

扉の先にいたのは、二人。

寝癖かと見間違うほどに跳ねた

茶色の癖毛の女の子と、

制服を着崩した派手な見た目の男性。

二人は僕に気づいてこちらに振り向いた。

その瞬間だけなんだか時間が

スローモーションのように感じた。

すると、何か話したわけでもないのに、

女の子がにこりと笑って僕に近づいた。

「田嶋君だよね?」

「えっ、あ……はい」

「私、同じクラスの篠崎茜。

ちょうど良かった! 学校案内してほしいって、

先生から頼まれてさ。

どう? 今から時間ある?」

「あ、大丈夫……です、はい」

一方で男性の方は、

屋上の出入り口の屋根上に登っていた。

「へえ、あんた転入生か。ようこそ、秀尽へ」

「ど、どうも」

「五十嵐君も一緒にどう?」

篠崎さんがそう誘ったけど、

五十嵐さんと言う男性は寝転び、

どうやら行かないらしい。

「……行こっか」

「あ、はい」

僕は篠崎さんに連れられるがまま、屋上を出た。

そのまま僕は彼女に学校を案内された。

「図書室は掃除の時間、こことあそこにある

書庫も掃除するから覚えてといてね。

廊下は必要に応じて雑巾掛けして、

二ヶ月に一回はモップ掛けだから」

何故か掃除の話も交えての案内だった。

「……とまあ、これで全部かな?

何かわからないことある?」

「あ、大丈夫です」

「オッケー。わからないことあったら

なんでも言ってね。私、クラス委員長だから!」

「篠崎さーん!」

教室から女子生徒が呼びかけてきた。

「生徒会の子が探してたよー!

書類ちょっと手伝ってほしいって!」

「はーい! 今行く!

ごめんね、それじゃあ!」

篠崎さんは笑顔で手を振ってその場を去った。

すごく良い人だなと僕は嬉しく思った。

 

その日の夜、僕は宿題を終え、

ベッドに寝転びながらスマホを開いた。

「……あれ?」

ふと、見慣れないアプリのアイコンがあった。

目のイラストが描かれた青いアイコンだ。

「何だろ、これ?

こんなアプリ入れてたっけ?」

僕はアプリをタッチする。

けど、アイコンがデカくなっただけで

なんの反応もしない。

何回かタップしても反応はない。

「おかしいな……壊れたかな?」

すると、突然激しい眠気に襲われ、

僕はそのまま眠ってしまった。

 

気がつくと、僕は真っ暗な空間に立っていた。

目の前に光が差している。

僕はその光に向かって歩き出す。

光が歩くたびに強くなっていく。

視界が真っ白になった。

 

ーようこそ、私のベルベットルームへ。

 

視界が正常に戻ると、

僕は見慣れない部屋にいた。

いや、部屋というより、牢獄に近い。

とはいえ僕はさっきまで着ていた

部屋着のままだし、

何かに繋がれたようなことはなかった。

つまり、囚人の扱いではない。

むしろ囚人なのは、目の前にいた人物だろう。

その人物は、異常に長い鼻をした

不思議な顔立ちの男だ。

男の前にはテーブルがあり、

男が座っている椅子の脚には、

巨大な鎖が天井まで繋がれている。

男自身にも足に足枷があった。

しかし服は囚人によく見られる

白黒ボーダーの服ではなく、黒の燕尾服だ。

男はテーブルの上に肘を付き、

こちらをにやりと見据えている。

「……ここは夢と現実、

精神と物質の狭間にある世界。

私は主を務めているイゴールだ。

とはいえ、主と言っても今は名前だけ。

今はこのように囚われの身だ。

しかし、これは驚いた。

一か八かの賭けで呼びかけに応じるとは、

お前にはどうやら“素質”があるらしい

新たなトリックスターのな」

「素質……?」

「……主を解放することのできる素質ですわ」

そこに、シルバーブロンドの長い髪を

三つ編みに結んだ綺麗な女性が現れた。

「あなたは?」

「我が名はメアリー。

この空間にて主の秘書を務めております。

以後お見知りおきを」

メアリーと名乗る女性が丁寧にお辞儀したので、

僕はお辞儀を返す。

「あの……解放する素質というのは?」

「見ての通りですわ。

主は今、自由を奪われた囚人的立ち位置にいます。

この空間もかつては主のもの。

しかし今は監視下にあります」

「監視下? 奪われた?」

僕には何を言ってるのかさっぱりだ。

夢にしてはリアルすぎる気がする。

「ある者が再び、世界に歪みを生み出しています。

このまま放っておけば、

世界はまた一度目、いいえ、それ以上の悲劇を

生み出してしまいます。

それを止めるためには、あなたの意思が必要です」

「意思? あの、あなたは一体…」

すると、また激しい眠気が襲ってきた。

「いずれ、全てを知ることになるだろう。

素質を持つお前なら、きっと……」

 

携帯のアラートの音で僕は目を覚ました。

もう朝だ。

「ゆ、夢……?」

リアルすぎた夢に戸惑いながらも、

僕は制服に着替えた。

部屋を出て階段を降りていくと、

笹野さんが電話しているのが聞こえる。

「ええ、こっちは特に何も……

あ、勇気君! ちょっと待っててね!」

笹野さんは何やら困惑している様子だ。

「おはよう、ございます……」

「おはよう、勇気君。いきなりごめんなさい。

勇気君、お兄さん……剛君から連絡とか来た?」

「いえ……危険だからするなって父から言われて、

アドレスも消したし、知らない電話もないです」

「連絡は来てないみたい……

うん、何かあったらこっちから連絡するわ。

ええ、ええ、わかったわ。それじゃあ」

笹野さんは電話を切った。

この家の電話は今時珍しい黒電話だ。

「あの……兄さんが何か?」

「……お兄さん、剛君が昨日から

行方不明になったそうよ」

「ええっ!?」

突然のことで困惑した僕は、

改めて僕の方から実家に電話をかけた。

電話に出たのは、父だった。

〈そうか……お前も会っていないのか。

あいつのことだからてっきり、

襲いに来たのかと思ったが……〉

「襲いにって……あのさ、兄さんあれから

どうするつもりだったの?」

〈ああ、お前には言ってなかったな。

実はお前が引っ越すちょっと前に

ネットである施設を見つけてな。

なんでもどんな引きこもりやニートでも

絶対に矯正される施設で、

口コミでもかなりの好評価だったから

そこに引き取ってもらうことにしたんだ〉

「兄さんは行ったの?」

〈当然断固拒否したさ。

担当の人が引っ張り出してもテーブルの脚を掴んで

絶対に出ないって意地張ってたんだ〉

目に見えるな。僕はああと声を漏らし納得する。

〈とりあえずなんとか

連れて行かせることは出来たんだが、

昨日の昼間に施設側から連絡が来て、

施設を脱走して見つからないとのことだ〉

「それ、大丈夫なのっ?」

〈お前の所に来るかもしれないと

不安だったから電話したんだ。

でも今のところは何もなくて安心したよ。

とはいえ気をつけてくれ。

こっちもなんとかして見つけるから〉

父はそう言ってくれたけど、

やはり不安は拭えない。

退職して以来、兄は僕に対して

憎悪の感情を向けていた。

推測だけど多分兄は僕に

嫉妬していたからかもしれない。

何せ兄は周りから期待されていたと同時に

プレッシャーを感じていたのだろう。

一方で僕は平凡な人間だから

そういうのは兄と比べてあまりない。

人からのプレッシャーとは無縁だった僕を、

兄は嫉妬していただろう。

それが騙され入社の反動で爆発したんだ。

現に暴言暴力も両親に比べて激しかったし。

何よりあの出来事で兄を完全に敵に回したから、

ただで済むとは思えない。

いつか兄がここに来るかもしれない。

復讐か、いつも通りなら金の無心か。

そんな不安を抱えながら僕は学校に通う。

 

その日はいつもとはちょっと違ってた。

学校に着くと、靴箱周辺に人だかりが出来ていた。

何事かと思い様子を見る。

「おはよう、諸君!!

今日も良い天気だなあ?」

廊下中にデカい声が響いた。

見ると、指や腕にいかにも高そうな

指輪や時計をいくつも身に着けた、

明らかに浮いている男子生徒が、

数人の生徒を連れて堂々と歩いている。

他の生徒は道を開けている。

まるで漫画で見た光景だ。

「何しているのっ?」

僕は近くの生徒に聞いてみる。

「ば、馬鹿! 口を慎め! 生徒会長だぞ!」

「生徒会長っ?」

あんな漫画みたいなことするのかと僕は驚いた。

「ん?」

生徒会長の目が僕と合った。

栗色のマッシュルーム型(失礼)の髪に、

鋭い眼光を放つ灰色の瞳。

厳しそうな印象の顔つきだ。

「貴様、何故頭を垂れない?」

「え?」

生徒会長は鋭く僕を睨む。

何かまずいことしたのか。僕はドキドキした。

「……ああ、お前転入生か。

なら垂れないのも無知の内か。

今日は特別に見逃してやろう。

だが、二度目はないぞ」

生徒会長はふんと鼻を鳴らすと、

颯爽と廊下を歩いていった。

そんな彼についていく人の中には、

見覚えのある人がいた。

浮かない顔をした、篠崎さんだった。

「篠崎さんっ?」

篠崎さんは僕に気づかないまま去っていった。

「……お前なあ、命惜しくないのかっ!?」

生徒会長が見えなくなると、

男子生徒の一人が顔面蒼白で僕に詰め寄る。

「あの人はなあ!!

生徒会長で沙城家の長男坊だぞ!!

目ぇつけられたらお前死ぬぞ!?」

沙城家と聞けば、色んな企業を束ねる

超有名な財閥だ。

あの人お坊ちゃんだったのか。僕は納得する。

でも、死ぬとはどういう意味だろうか。

「いいか!? あの人には逆らうなよ!?

逆らったら無事で生きて帰れないからな!!」

過去に何かあったのだろうか。

僕はちょっと怖かった。

そう言えば、篠崎さんが浮かない顔だったな。

ちょっと心配になった僕は、

一限目の授業を終えてすぐに

篠崎さんの元に行った。

「篠崎さん!」

僕の声に気づいた篠崎さんが振り向く。

「田嶋君? どうしたの?」

「今朝、元気なかったみたいだけどどうかしたの?

生徒会長と一緒だったよね?」

篠崎さんははっとなった。

「あ……もしかして、見えてた?」

「うん、ちょっとだけ」

「……あはは、ごめんね。

私、生徒会だから会長の

付き添いやらないといけなくて。

毎回毎回あんな風だから疲れちゃって……

ダメだなあ、仮にも生徒会なんだから

しっかりしないとね!」

篠崎さんは笑顔を見せる。

きっと苦労しているんだなあと

僕はしみじみ思った。

改めてそう感じたのは、割とすぐだった。

次の授業がそろそろ始まるため

教室に戻っていたら、

突然職員室から大きな声が聞こえた。

「だったら辞めてやるよ、こんな学校!!」

直後、職員室のドアが激しく開き、

男子生徒が飛び出してきた。

「うわっ!?」

僕はとっさに避けた。

男子生徒は無我夢中で走り去る。

一瞬見えた男子生徒の表情は、

悔しそうに泣いていたようだった。

「なんだ……?」

呆気に取られていた僕の耳に、

教師の声が聞こえてきた。

「沙城君っ! いくらなんでもやり過ぎですよ!」

気になった僕はこっそり

そのやり取りを聞いてみることにした。

職員室のドアに隠れて見えたのは、

あの生徒会長だった。

生徒会長の前には、

確か三年担当の男性教師がいた。

男性教師は緊迫した表情だ。

「たしかにアルバイトを

掛け持ちするのは校則違反です!

でも原田君には事情があって、

それは学園にも…」

「学園が許せば認めると?」

生徒会長の顔は、鬼のような形相だ。

「父親がいなくて自分が稼がないと学費を払えない?

そんなのただのわがままではないですか。

家の事情がなんであれ

学園の規則には従わないといけませんのでは?」

「し、しかし!

だからって退学にさせるなんて!」

「はあ……いいですか? 木村先生。

たしかに私は生徒会長であって、

風紀委員長ではありません。

それはわかっています。

しかし、生徒会長はすなわち

学園の全てを担うもの!

学園の問題は私が責任を持って

排除せねばならないのです!

学費を払えないから違反してもいいなど言語道断!

それが後に誰かがやりだしたらどうするのです!

いずれそれを逆手に取った詐欺も出る!

それでは遅いのです!

ああでもしなければ学園は悪くなります!

現に過去、この学園に傷害事件を起こした

人間の転入を許したことで、

隠蔽された悪事悪評が

次々に出たではないですか!」

そう言えばこの学園をネットで調べた時、

噂で聞いたことがある。

五年か四年くらい前、この学園で当時

体育教師を務めていた男性教師が、

生徒への体罰で逮捕されたり、

その年の夏には当時の校長先生が

突然亡くなったりと、

色々とよくないことが起きていたらしい。

そのきっかけはあくまで憶測だけど、

傷害事件を起こしたある少年の

転入を許したことから始まったようだ。

「私は生徒会長として、

この学園をより良くしていきたいのです!!

そのためには問題ある生徒は排除せねば!!

これは私の意思であり、

協力者である我が父の意思!!

いくら先生とてそれを踏みにじることは、

我が沙城家への敵意とみなしますが!?」

男性教師はすっかり萎縮し、

結局何も言えなかった。

しかしながら、生徒会長は

色々と無茶苦茶だなあ。

あの男子生徒の事情はあまりわからないけど、

やむを得ない事情なら仕方がないのに、

退学なんてちょっとやり過ぎだ。

みんなが恐れられている理由が

なんとなくわかった。

あんな無茶苦茶な生徒会長が相手なら、

篠崎さんも苦労してるなあとまたしみじみ思う。

生徒会長の無茶苦茶ぶりは、

下校の時にも見えた。

空がオレンジ色に染まっていた。

僕は何気にスマホを立ち上げる。

あのダウンロードした覚えのないアプリは、

まだスマホの中にある。

「なんなんだろうな、これ……」

不思議に思っていると、

校門から泣き声が聞こえた。

振り向くと、女子生徒が顔を

真っ赤にしながら泣いており、

それを多分友人らしき女子が慰めている。

「美香は悪くないよ!

あの生徒会長が悪いんだよ!」

「わかってる……わかってるけど、

どうしようもなくって……」

生徒会長がまた何かしたのか。

不安になりつつも何も出来ず、

二人はそのまま帰っていってしまった。

「カンニング容疑で停学処分だとよ」

そこに、転校初日に出会った

あの男の人が現れた。

確か、篠崎さんが五十嵐さんと呼んでいた。

「カンニングっ?」

「あの子、職員室に書類

届けに行ってただけなのに、

今度の数学のテストの答えを盗み見たってさ。

あの子はそんなことするような子じゃないのによ」

「はあ……」

「“沙城”の野郎、気に入らない奴は

色んな屁理屈つけて追い詰めようとしてんだよ。

ったく、“学校”はあいつの“城”じゃないっての!」

五十嵐さんはやれやれと肩を落とす。

「お前さんもそうは思わないか?」

「ど、どうなんでしょう……

でも……うん、良い気分ではないです……」

「お? 言ってくれるねえ!」

すると急に五十嵐さんが僕の肩を組みだした。

「ま、現状手を下すことは無理だろうけどさ、

こうやって愚痴を言う分には罪はないよな!

えーっと、何嶋君だっけ?」

「田嶋、です……田嶋勇気」

「そうそう! そうだった!

まあ改めてよろしく頼むわ!

よし、友情結託の記念に飲みに行くか!」

「ええっ!? いやいや、

ダメですよ!! 未成年だし!!」

「形だけだよ、形だけ!

本当に飲むわけねえじゃんか!

ビックバンバーガー! あそこに行こうぜ!」

「……まあ、いいか」

とりあえず、五十嵐さんは

悪い人ではなさそうなので、

ついて行くことにした。

手持ちを確認しようと

ポケットの財布を確認する。

「……あ」

「何だ?」

「財布、学校に忘れてきちゃった……

取りに行かないと」

僕は急いで学園に向かう。

が、振り向いた瞬間、僕は唖然とした。

「……は?」

さっきまで見えていた学園の姿は、

180度変わっていた。

ゲームに出てきそうなでかいお城が

そこに佇んでいた。

「なっ……何だあっ、ありゃ!?」

五十嵐さんも気づいてびっくりしていた。

 

そう、これが僕の最初の事件。

僕の運命を変えた出来事だった。

 

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