改めて改心を決意した僕達は、
再び雪之丞のパレスに侵入した。
霧矢のおかげで開いた扉がある場所には
誰もおらず、
難なく次へ進むことができた。
「本当によかったの? 霧矢」
「何がだ?」
「何度も言うけど、霧矢はペルソナがないから、
正直僕達より危険な目に遭うよ。
それに、刃物ダメなんでしょ?
またこの前みたいに
雪之丞が脅したりしてきたら……」
「おっとそうだった! じゃあ俺や茜は
なるべく武器をしまってっと…」
「いいよ、別に。隠さなくても
その分ならギリOKだし。
それにこれは俺自身が決めたことだ。
半端な覚悟でここには来ねえよ」
「……古城君、なんだかんだで一ノ瀬さんのこと
大事に思ってたんだね」
「別に……雪之丞に借りを返すだけだ」
しばらく進むと、大きな扉を見つけた。
「あ、普通に開くみたい」
僕は扉を開ける。
そこに広がったのは、劇場だった。
「こ、これは……!!」
劇場の様子を見て僕達は驚いた。
天井には多くの人が磔にされており、
ステージカーテンには頭が飾られている。
「何だよこれ……!?」
「悪趣味なことを……」
耳を澄ますと、たくさんの呻き声が聞こえる。
何と言っているかは判別できないが、
聞いているだけで身震いしそうだ。
「もしかして、この人達って……」
すると、突然ステージに
スポットライトが当てられた。
「ようこそ! 我が劇場が誇る最高の舞台へ!」
ステージには雪之丞が立っていた。
「雪之丞……!」
「どう? この劇場は。
最高の仕上がりでしょう?
私がこれまで葬ってきた人間共を使って
デコレーションしてみましたの!」
「やっぱり……!」
「不倫で慰謝料を抱えた男、
会社の資金横領で家を追われた女、
器物損壊で借金を抱えた新社会人、
みんなみんな金を求めて私にたかってきた
愚かな敗者ばかりですわ!!
たまらないわ……!!
弱い奴がさらに絶望に突き落とされ、
その報酬として金が手に入る……
他人の不幸は蜜の味ってこういうことなのね!!」
「はあっ!? あんたは金持ちのはずなのに、
何故それ以上に金を求めるんだよ!?」
宗馬の言う通りだ。確かに理解できない。
「世の中金ですもの!
金さえあれば私の美しさはさらに輝く!
そう、彼らは美しさを保つためのATMですわ!!」
嬉しそうに顔を歪ませる彼女の様子に、
僕は怒りと恐怖が入り混じって体を震わせる。
「なんっつー事を嬉しそうに言いやがる……!!」
「……でも、そんな私の美しさを
引き立てるどころか
霞ませてしまう者もいるのも事実。
私のために奉仕できるのならまだしも、
それすらもできない連中もいますわ」
そう言って雪之丞は指を鳴らすと、
彼女のすぐそばでスポットライトが当たる。
当てられたのは、みすぼらしい服を着た
大勢の人だった。
その中に、花子さんの認知がいた。
「花子さんっ!?」
よくよく見るとその人達は、
太っている人、ニキビが酷い人、
短足な人、鼻が低い人など、
全員何かしらのコンプレックスを持つ人達だ。
「まさかあの人達、霧矢の言ってた……」
「ああ……一部だが見覚えのある奴もいる。
みんな雪之丞にいじめられた連中だな……」
すると、雪之丞が
側付きのシャドウから剣を渡され、
いじめの被害者達に近寄ってきた。
「ああ、醜い……醜い……!!
醜いは罪よ!! いるだけで罪なのよっ!!」
そう言って雪之丞は被害者の一人の首を
剣で刎ね飛ばした。
「なっ!?」
相手はシャドウのため跡形もなくすぐに消えた。
「世の中金と顔よ!!
顔が良ければ誰からでも信頼を得て、
金があればなんでも手に入れる!!」
憎悪の表情で雪之丞は被害者達の首を刎ねる。
「醜いだけで誰も信じてもらえない!!
金がなければ何もできない!!
なのにこいつらは鼻にもかけない!!
ああムカつくムカつくムカつくムカつく!!」
一心不乱に雪之丞は剣を振り回す。
さすがに耐えられないのか、
霧矢にまた吐き気が襲ってきたようだ。
「霧矢……!」
僕は慌てて霧矢を支えた。
気づけば残りは花子さんだけになった。
花子さんは震えて後退りしている。
「特にあんたはムカついたわ……
存在だけで腹が煮えくり返る思いよ。
私から古城を守った時は殺意を覚えたわ。
醜いくせに正義感はあるってアピールして、
本っ当うざかった!!
殺してやって正解だったわ!!」
怒りに身を任せ、雪之丞は花子さんの首を刎ねた。
「でも放火してやった時のあんたの顔は
最っ高に美しかったわ!!
泣き喚き、慄き、助けを求めて歪ませる顔が!!
だから……死んでくれてありがと」
スッキリしたのか雪之丞は優しく笑みをうかべた。
でも笑い事ではない。むしろ怒るべき事だ。
「さっきから醜い醜いって、
どんだけお前は誰かを見下せば気が済むんだ!!」
「だって事実でしょう!?
醜いのはそれだけで罪よ!!
世の中見た目さえ良ければいいですの!!
醜い奴なんて消えちゃえばいいのよ!!」
「そんなの無茶苦茶だよ!!
人には誰だってコンプレックスがあるもの!!
完璧な人なんていないんだから!!」
「そうでちゅ! 何か欠けているからこそ、
人間は人間らしいと呼べるでちゅ!」
茜とホップが正論を言ってくれた。
今だからこそよくそれが響いた。
「じゃあ聞きますけど、それで
良いことは起きるとでも?」
「それは……」
雪之丞が指を鳴らすと、
シャドウが現れ霧矢を拘束した。
「古城君!!」
「その様子では知っているようね。
そいつの事情も、そいつの顔も」
シャドウは無理矢理霧矢から眼帯を外し、
火傷の痕を見せつけた。
「こんなおぞましい顔を見て
何も思わなかったとでも!?
ちょっとでも感じたでしょう!? 恐ろしいと!!
世の中の全ての人間の心が
完全に寛容なわけないじゃない!!
少なからず悪い気持ちになる!!
あなた達も少なからずそう思ったでしょう!?
そいつはその顔と過去同様に醜いと!!」
その言葉を聞いた途端、
僕の堪忍袋の緒が、たった今切れた。
「霧矢は醜くなんかないっ!!」
僕はありったけの思いを叫ぶ。
「確かに、最初その傷を見た瞬間、
怖いなとは感じた……
初めて印象を聞いた時も、
近寄り難い人かと思ってた……
でも、でも僕は見ていた!
霧矢は花子さんを気にかけていたし、
何より、協力してほしいって頼んだ時、
反対や文句は言ってたけど、
僕達のやってる事を否定はしなかった!
くだらないとかふざけてるとかは
言ってなかった!」
「!」
「あんな過去があったから
ひねくれてしまったけど、
ただそれだけなんだ!
傷痕がなんだ!? 過去がなんだ!?
霧矢は……霧矢は本当は、
誰よりも“綺麗な心”を持ってるんだっ!!」
そうだ。ひねくれているだけで、
それを理由に誰かを傷つけてはいなかった。
心まで醜いのなら、
弱い誰かを傷つけるはずだから。
霧矢はそんなことしない。
彼を見てそう確信した。
だからたとえ、誰かから霧矢を醜いと言われても、
僕はそうは思わない。絶対に。
「田嶋……」
「……寒い」
呆然とした雪之丞がそう呟き、両腕をさすった。
「寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒いぃぃー!!
寒すぎて凍ってしまいそうだわ!!
消してやるっ!! そんな寒すぎる正義ごと
抹殺してやるわっ!!」
僕達の周りにシャドウが湧き出した。
霧矢を解放するのを優先し、
僕らは戦闘態勢に入ろうとした。
「……く、くくくくくっ」
すると、小さく笑う声が聞こえてきた。
声の主は、霧矢だった。
「ははははははっ……」
「き、霧矢っ?」
「あっははははははははは!!
ははははっはははははっ!!」
霧矢は体を震わせて大袈裟に笑っている。
「な、なんだあ?」
「何よあいつ……頭おかしくなったっ?」
雪之丞もドン引きするほどだ。
「いやあ、悪い悪い。耐えきれなくなって。
もう何もかも馬鹿らしく感じてな、
笑いしか起こんなくなっちまったんだ。
ああ、だんだん何もかもがどうでもよくなった。
もう押さえ込むのは止めだ。
押さえ込んだところで惨めになるって
ようやくわかったからな」
なんだか霧矢の様子がおかしい。
不機嫌極まりなかった彼の表情は今、
瞳をギラギラ輝かせて不敵な笑みを浮かべている。
霧矢はシャドウを難なくくぐり抜けた。
「感謝するぜ、雪之丞。
てめえが俺を追い詰めてくれたおかげで
やっと本当の自分を見つけられたからな。
礼を言うぜ、“醜い女王様”?」
「!?」
「……今、何と言いましたの?」
「あ? 聞こえなかったか女王様?
てめえを醜いと言ったんだよ」
思ってはいたけど敢えて言わずにはいた。
だってそれ言ったら暴走どころではないと
なんとなく感じていたからだ。
「今すぐ訂正なさい根暗っ!!
今!! すぐに!!」
雪之丞は般若の様に顔を歪ませ睨んでいる。
ああやっぱり、そうなるよなあと僕は思った。
だから言わなかったんだ。
「だって事実だろ?
本物のブスは自分のことそうは思わないもんだ。
自分は美人だ、ブスなわけないと勘違いするんだ。
それは中身だって同じことが言える。
自分さえ良けりゃどうだっていい。
自分より不幸だと感動する。
まさに今のてめえだ。
中身ブスのテンプレだなあ?」
「ブスブス言うなあっ!!
私は美しい!! 少なくともあの貧乏醜女よりは
絶対に美しいわっ!!」
「あーあ、怖い怖い。
そんなにカリカリしてっとますますブスになるぞ?
せっかくのドレスも似合わなくなる。
ああ、そもそも中身ブスだから
どんなに着飾っても霞むんだっけ?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇっ!!」
雪之丞の怒りの叫びはヒートアップし、
金切り声にも等しい。
「おい霧矢、もうその辺で…」
宗馬が止めようとしたが、すごく睨まれた。
邪魔すんなとでも言いそうだ。
「あ、どうぞ続けてください」
すぐに宗馬は下がった。怖気ついちゃったか。
「そういやてめえの取り巻きから
聞いたことがあんな。
美人を自慢してて実は大して美人じゃないなって」
「なっ!?」
「まあだって世の中てめえ以上の美人さんなんか
いっぱいいるからなあ? 自惚れって言うやつ?
取り巻きに見抜かれたみたいだな?」
「貴様っ……!!」
「事実、俺もてめえより美人だと思う奴はいる。
少なくとも俺の知る限りでは、
てめえみたいなクズとは呼べないからだ。
よかったな女王様? 真実を知れて」
雪之丞は顔を真っ赤にして震えている。
「あーまだまだ言いたいことあるけど、
もうこんな機会ないだろうから
最後にこれだけは言っといてやるよ」
霧矢の目が再び鋭く光った。
「前々から思ってたんだ……
てめえの存在そのものを見てっとよお、
吐き気通り越して吐きたくなるんだよ
このバカデブス野郎が!!」
その叫びの直後だった。
霧矢に別の異変が起きたのは。
「……!?」
鼻で笑ったかと思ったら、
突然霧矢の膝が崩れ落ちた。
「がっ……ああっ、あ!? あああっ……!!」
ーそうそう! なーんだ、わかってんじゃん!
そう、言葉で伝えなきゃわからない連中は
星の数ほどいる……
だが、言葉は時として毒となり、
お前に牙を向けるだろう……
それでもお前は、言葉という呪いで
救えない屑を叩くか?
「……ああ、上等だ……
言い出しっぺのまま終わらねえからなあっ!!」
霧矢の顔に、オレンジ色のゴーグルが現れ出た。
「まさか、“仮面”……!?」
ー……そうこなくっちゃ。
我は汝、汝は我……
さっさと契約して、そこにいる屑に
終わりという名の現実を
教えてやろうぜえっ!!
「うおおおおおおおおっ!!」
本能のままに霧矢は仮面を外すと、
青い炎が激しく吹き出した。
「まさか古城君にも!?」
炎が消え、見えてきたのは、
真っ赤な鎧を見に纏い、
SF映画に出るロボットみたいに
著しくというか滅茶苦茶巨大な拳を持った
ペルソナだった。
霧矢自身も、迷彩柄のツナギに
プロテクターを着けた
ミリタリー衣装を纏っていた。
「な、あっ……!?」
雪之丞は驚愕の表情で霧矢を見る。
「そうだ……その顔が見たかったんだよ。
驚きと恐怖に駆られて慄くその顔。
どの化粧面よりもよっぽど綺麗に見えるぜ、
なあ、醜くて哀れな女王さんよ!!」
眼帯がないため、顔の傷痕が痛々しく見える。
けど霧矢の表情は生き生きとしていた。
「どこまで私を醜いと言えば気が済むの!?
この根暗な犯罪っ子があっ!!」
再びシャドウが湧き出した。
「ちっ、うじゃうじゃ湧いて出て
気持ち悪いんだよ……!!
終わらせろ、“モードレッド”ッ!!」
床石が割れ始め、霧矢のペルソナの周りに集まる。
石の塊はマシンガンの様にシャドウを貫く。
殲滅したかと思いきや、
生き残っていたシャドウが食らいついてきた。
「気をつけるでちゅ! まだ残ってたでちゅ!」
ペルソナが仮面に戻る。
すると、霧矢の太もも部分から
何かが弾き出た。
霧矢はそれをシャドウに向けて投げた。
シャドウの眉間部分に、“ナイフ”が刺さった。
シャドウが倒れると、霧矢は近づいて
ナイフを深く押し込んだ。
「どうだ、痛いだろ? そりゃそうだ。
柄まで通ってんだからな」
シャドウは断末魔を上げて消えた。
「はっ、そのままくたばっちまえ」
「こ、怖ぇ〜……マフィア? サディスト?
口悪いのは知ってたけど
マジでそっち系だったのかっ?」
「ちっ、そっち系とか知らねえよ……
てめえも串刺しになりてえのか」
「すごいでちゅ! 初めてにしてはやるでちゅね!」
「でも、大丈夫なのっ? ていうか“それ”!」
そう。僕も心配していた。
彼の手にはしっかりとナイフが握られている。
「ああ……普通なら持ってる時点で
即アウトなんだがよ、不思議だ……
発作が嘘みてえに起こらねえ……」
確かに霧矢の状態は安定している。
パニック状態は見られない。
「だが今はどうだっていい……
これで思い切り暴れらるからなっ!!」
霧矢は単身でシャドウの群れに突っ込む。
「待って!」
霧矢はナイフで次々とシャドウを切り捨てる。
しかし、油断を突かれてしまったのか、
シャドウの一体が霧矢の背後を狙った。
「ドレーク!!」
宗馬のドレークが攻撃を仕掛け、
間一髪で霧矢を守った。
「助けはいらねえ!! あいつ、
雪之丞の奴は俺一人でやらなきゃ…」
「馬鹿! だからこそだよ!」
「一人じゃできないことも、みんなとなら!」
僕がそう言うと、霧矢は舌打ちをした。
「……わかった」
「行くでちゅよ、エウリュアレ!」
「ジャンヌ・ダルク!」
ホップと茜の連携が上手くはまり、
シャドウを全て殲滅した。
「雪之丞っ!!」
「ちぃっ!!」
危機を察知した雪之丞は
必死になって逃げようとした。
「誰が逃げろって言った!?」
追いかけようとしたが、
張り切りすぎたのか霧矢の力が尽きた。
「くそっ、待ちやがれ……!!」
結局雪之丞は舞台の袖に消えてしまった。
「今ここで倒しても、解決にはならないでちゅ。
オタカラを盗んで改心させるでちゅ」
「ちっ……」
不機嫌そうに舌打ちする霧矢に、
僕と宗馬は肩を貸した。
「大丈夫?」
「その状態じゃ歩けないだろ? ほら、行くぞ」
すると、霧矢は何故か宗馬を振り払い、
僕だけに肩を預けた。
「おっとと……!?」
「一人の方でいい」
「えー……」
なんとか僕達はパレスを抜け、現実の世界に戻った。
とりあえず僕達はホームズに寄ることにした。
「やべー……まだ疲れが抜けてねえ……」
霧矢は客席のソファーに背を預けて
天井を見上げている。
「ペルソナって案外心労激しいもんなんだな」
「そうだね。ホップが言うには
もう一つの自分だから、自ずと精神力使うかも」
僕は霧矢にお冷を出した。
「まさか霧矢までペルソナに目覚めるとはな!」
「うん! あの戦いっぷり、すごかったし!」
「やめろ。そう褒められると逆に恥ずかしい」
褒められ慣れしてないのか、霧矢は頭を掻く。
「あ! 今ならもう大丈夫じゃないか? 刃物!
全然平気に使っていたし!」
そう言うと宗馬はテーブルにあった
お客様用筆記用具入れから小さなハサミを出した。
しかし、霧矢はたじろいだ。
「……悪い。やっぱダメだ」
「あれー? おっかしいな?
まさかペルソナ出してる時限定か?」
「いや、きっと認知の力でちゅね」
ホップがテーブルの上に立つ。
「認知の?」
「霧矢君。確認のため聞きまちゅが、
ペルソナが目覚めた瞬間、
“恐怖”は感じなかったでちゅか?」
「恐怖……いや、なかったかも。
むしろ清々しくて、何も考えてなかったな。
頭の中の余計なもんがなくなって、
何にも縛られてない感覚がした気がする」
「やはりそうでちゅ!
あの時の霧矢君には恐怖がなかった。
じゃあ霧矢君にとって恐怖は何か」
「……ひょっとして、
“刃物が怖くない”って認知が効いた!?」
「その通り! 霧矢君にとっての恐怖は刃物。
でも、ペルソナを目覚めさせた瞬間、
彼は恐怖を忘れていた。
霧矢君が刃物を見て
パニックになる原因もまた恐怖。
つまり、恐怖がなくなったことで
刃物も平気になったんでちゅ!」
「えーと……?」
「てことは、認知世界でなら
トラウマを克服できるってことかな?」
確かに沙城の時も、発砲しないはずのモデルガンが
認知の力で武器になった。
それと同じ道理なら納得だ。
「マジか……認知ってすげえな……
でも、だからって自惚れんのもあれだな。
現にこっちの世界じゃ無理なのは相変わらずだった。
俺も五十嵐みたいに一瞬期待はしてた。
荒療治ってのがあるからもしやって。
だよな……いつまでも
引きずってるようなもんだし、
いつかは少しでも克服しないとな」
ここに来てやっと霧矢の不機嫌な顔が緩んだ。
「乗りかかった舟でもあるし、
まだ雪之丞とは決着が着いてねえ。
てめえらが良いなら、俺も怪盗団に入れてほしい。
色々と利用させてもらうが、いいか?」
「利用させてもらうってお前な……
なんか上から目線なんだけど?」
「トラウマ克服に協力しろって言ってんだ。
それに協力してくれるなら、
俺はなんだってやるさ」
「うん! むしろこっちから
頼みたかったくらいだよ!
改めてよろしくね、古城君!」
「よろしくでちゅ!」
茜の時を思い出すな。あの時も
茜が協力するって言ってくれた時、
心底嬉しかった。
同じくらい霧矢が協力することは嬉しい。
「そうだ! ここで決めとかない?
古城君のコードネーム!」
「コードネーム?」
「俺達怪盗団だろ? 本名で呼び合うのは
怪盗っぽくないって思ってさ!
うーん、そうだな……
シンプルに“ゴーグル”とかどうだっ?」
「え〜? ちょっとシンプルすぎない?
もっとこう、かっこいいのが良いと思うよ?」
「んじゃあそれなら……あ!
めっちゃ毒吐いてたから“毒舌”とか!」
「ああ?」
あ、予想はしてたけどNGワードだったみたいだ。
霧矢は宗馬を睨みつける。
「い、いえ、なんでもないです、はい」
「ゴーグルも毒舌も却下だ。ダサい」
「ん〜……じゃあ、“ミリタリー”はっ?
なんか服装がそれっぽかったし!」
「本当にまんまだな……悪くないけど却下」
「じゃあ、霧矢は何がいいんだよ?」
霧矢はしばし考える。
「……できれば“終わり”を意味するやつがいいな」
「終わり?」
「ペルソナ、モードレッドと約束したんだよ。
救えない屑を言葉で突きつけて終わらせるって。
ならそれに近しいのがいい」
「終わりか……」
「終わりって、普通英語にしたら“エンド”よね?」
「エンド……“エンダー”はどうかな?
終わらせる人って意味を込めて」
「へえ、悪くねえじゃん。じゃあそれで」
「うん、良いかも!」
「じゃ……よろしくね、エンダー」
僕は霧矢に手を差し出す。
霧矢はためらいながらも、その手を取った。
「俺をがっかりさせんなよ、エース」