ペルソナ5 Dark Revengers   作:海色ベリル

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第14話 People don't look

新たに霧矢を迎え、僕達心の怪盗団は

雪之丞パレスの攻略に精を出す。

道中の罠をくぐり抜け、僕達はオタカラへの

侵入ルートを見つけた。

「よっしゃ! あとは予告状だな!

また俺がかっこいいやつ書くぜ!」

「うーん、ここはエンダーに任せたら?

エンダーは言葉選び得意そうだし!」

「なんだよそれ」

「僕も賛成。勘だけどエンダーって

ズバッと言うから、インパクト付けるには

もってこいかと思うよ?」

「……そこまで言うなら」

何故か霧矢は照れ臭そうに言った。

「……なあなあ茜。お前気づいてるか?」

「え? 何が?」

「怪盗団に入って以来、なんか霧矢って

勇気贔屓してね?」

「ええっ?」

「俺からの施しは嫌がるくせに、

勇気に同じことさせたらそうでもないんだよ。

意見とかも基本勇気に肯定してるし」

「そ、そうかな? あ、でも確か二人って

ご近所さん同士って言ってたから、

その縁があるんじゃない?」

「そうなのかなあ? それにしちゃあ

勇気と話してる時のあいつ、

まんざらでもなさそうな顔してるんだぜ?

俺の時なんかは不機嫌極まりなかったし」

「何か怒らせるようなことしたんじゃない?」

「それが心当たりねえんだよ。

覚えてたらとっくに謝ってるし。

だってあいつのことだからすぐ謝んなかったら

殺されるかもしれねえんだぜ……?」

「そんな大袈裟な……まあどっちにしても、

古城君が誰かと仲良かったらそれで良いよ」

 

その日の夜、雪之丞綾子は自室にて

自身の髪を鼻歌交じりでとかしていた。

〈花子の奴、ざまあみろですね!

今頃盗みの罪で地獄行きじゃないですかねえ?〉

携帯電話から取り巻きの声が聞こえる。

「元々醜いことがあの子の罪じゃない。

生まれた時から地獄行きは確定だもの」

〈ですよねですよね!

あ、じゃあ次のターゲットは

古城霧矢に戻します?

そもそも花子をいじめてたのも、

あいつが古城を庇ってたからですし〉

「そうね。まだ候補はいくつかいるし、

少し考えてみるわ。じゃあね」

雪之丞は電話を切った。

すると、部屋のドアからノック音がした。

「どうぞ」

「し、失礼しますお嬢様!

旦那様と奥様からリビングに来いと!」

「リビング?」

「早急なことだそうです!」

手伝いの慌てた声色に疑問を覚えながらも、

雪之丞はリビングに向かった。

リビングのソファーには彼女の両親が座っていた。

両親は深刻そうな顔を浮かべていた。

「お父様、お母様。どうかなされました?」

「ああ、来たか。いいからまずは座りなさい」

雪之丞はソファーに座った。

「実は、綾子ちゃん宛てにこんなのが……」

母親は懐から何かを取り出し、雪之丞に手渡した。

「手紙?」

見るとそれは青い手紙だった。

雪之丞は文面を読み上げる。

「偽りの美に溺れる大罪人、雪之丞綾子殿。

名家の名を盾に弱者を踏みにじり、

自己満足のために金をむしり取るばかりか、

醜いという理由で一人の娘の未来を奪った

お前の罪は重い。

我々はお前の口から全ての罪を

告白させることを決めた。

お前のその歪んだ欲望を頂戴する。

心の怪盗団、“The Phantom”より……?」

「心の怪盗団ってあれだよな?

前生徒会長の件で名前が上がってた……」

「綾子ちゃん。何か悪いことを?」

雪之丞はふるふると体を震わせる。

「……がう」

「え?」

「違う、違うわ違うわっ!!

私は何もしていない!!」

雪之丞の目から涙が溢れる。

「私は何も悪いことなんてしてませんわ!!

学校にお金を寄付してるってだけなのに、

こんなのおかしいですわ!!」

「あ、ああそうだな。そうだ! お前は悪くない!」

「大丈夫よ、綾子ちゃん!

私達が守ってあげるから!」

両親は雪之丞を抱きしめる。

「こうしちゃおれん! おい!

すぐに警察を手配しろ!

今から二十四時間、警備させるよう伝えておけ!」

「はっ、はいっ!」

両親はすぐさま行動に走った。

「……ふ、ふふふふっ」

一人になった雪之丞は手紙を持って笑った。

「何なのこれ? 罪を告白させるですって?

ふざけてんじゃないわよっ!!」

雪之丞は手紙をぐしゃぐしゃに丸め投げ捨てる。

その様子を外からホップが覗いていた。

 

『上等じゃないの!!

見つけだして殺してやるわっ!!』

 

夜の公園で待ち合わせていた僕達は、

予告状を届けに行ったホップを待っていた。

しばらくして、ホップが戻ってきた。

「どうだった?」

「ばっちりでちゅ!

これでオタカラが出たはずでちゅ!」

「古城君の予告状、かっこよく出来てたしね!

でも気になったんだけど、ザ・ファントムって?」

「あたちが霧矢君に頼んだんでちゅ!

みんな形態はどうあれ、

先代から引き継がれた心の怪盗団!

だから怪盗団の名前も受け継ぐのがいいでちゅ!」

「先代はザ・ファントムって名乗ってたんだ。

確かになんかしっくりくるね」

「よーし、準備も出来たし、早速乗り込むぞ!」

「オッケー!」

 

僕達の作戦はこうだ。

オタカラのある場所には、

雪之丞本人と警備の目があり、

さらにその周辺には

彼女のファンが取り囲んでいる。

一筋縄では盗めない。

そこで、ファンを欺かせる役と

警備の目を欺かせる役の

二手に分かれることにした。

茜と宗馬がファンを欺かせる役。

僕とホップと霧矢が警備の目を欺かせる役だ。

まずオタカラを盗むには、

天井から盗むしか隙がない。

そこで、体重の軽いホップをロープに括りつけ、

そのロープを引き下げることで手に入れることに。

茜と宗馬が何とかしてファンを惹きつけ、

どちらかが警備室を占拠。

オタカラのある部屋の照明を落とす。

警備が薄くなったところを

僕と霧矢でホッピーを降下させ、

オタカラを盗みだすというものだ。

問題は、どうやってファンを散らすかだった。

せめてファンを惹きつける何かがあれば良い。

「それに関しては任せてよ! 良い考えがあるの!」

茜がそう名乗り出たので、

とりあえず彼女に任せることに。

 

「なあ、大丈夫かソレイユ?

良い考えがあるって言ってたけど?」

「ふっふっふっ……

こればっかりは自信あるんだ。じゃ、いくよ」

大勢のファンから身を隠し、

茜は作戦を開始した。

「みんな大変だよー!!

あの美月シオンちゃんが来てるみたいだよー!!」

茜の大声に、ファンが反応した。

「えっ!? 美月シオンって、あの!?」

「嘘!? 私ファンなの!!」

「シオンちゃんだって!? 来てんの!?」

集まっていたファンがバラバラに散り始めた。

「シオンちゃんは南に行ったよー!!」

「南だ!! 南へ急げー!!」

ファンは一斉に南へ向かって走った。

ファンが見張っていた場所はもぬけの殻になった。

二人は急いで警備室へ向かう。

「ひえ〜、マジで効いたぜ。

美月シオンってよく知らんがすごいんだな?」

「だって好感度ナンバーワンの

国民的アイドルなんだよ!

ファンじゃない人がどこにいるのか

わかんないくらい大人気なんだから!」

警備室には案の定、警備員のシャドウがいた。

「ここは俺に任せろ!」

「えっ、ちょっと!」

宗馬が単身警備室に侵入した。

「し、侵入者!! 侵入者だ!!」

引っかかったシャドウは宗馬を追い、

警備室から出た。

「もう、ちゃんと逃げてよっ?」

警備室に入った茜は、急いで照明ボタンを押した。

「頼むよ……!」

 

オタカラのある場所が突然真っ暗になった。

宗馬か茜がやってくれたようだ。

「な、何っ!?」

「今でちゅよ!」

僕はホップを落とす。

「何をしているの!?

早く明かりを点けなさい!!」

ホップがオタカラらしきものにたどり着いた。

やがて、部屋が明るくなった。

成功だ。無事にオタカラを盗めた。

「ああ!? 雪之丞様、秘宝が!!」

「劇場を全て封鎖なさい!! 賊共を逃すなっ!!」

宗馬と茜とも無事に合流し、

なんとか僕達は劇場の外へ脱出した。

「やった! うまくいった!」

「オタカラ〜! オタカラでちゅ〜!」

さっそくホップはかけられていた布を外した。

「……え?」

「あ、あれ?」

僕達は呆気に取られた。

ホップの手にあったのは、

裸の男の人が表紙に描かれていた

いかにもいやらしい雑誌だった。

何故か顔面蒼白になった宗馬は

無言で茜の目を手で隠した。

「えっ、何? 何で隠すのっ?」

「見るな茜……お前は見ちゃダメだ……」

確かにこれは女の子が見てはいけないやつだ。

「こ、これがオタカラっ!?」

「んなわけねえだろ……ちっ、偽物か!」

「その通り!!」

そこに現れたのは、側付きの

シャドウを連れた雪之丞だった。

「馬鹿な連中ね! あんな堂々と我が秘宝を

さらけ出すものですか! 本物はこっちよ!」

シャドウの一人が布のかかった何かを持っている。

あれが本物のオタカラだろうか。

「寄越せ。でないと殺す」

いきなり霧矢がナイフを突き出して要求してきた。

「どストレートだな!?

気持ちはわかるがまだ早いって!」

「あと殺しちゃダメだから!」

「ふん! 力を得て調子こいているのも今の内よ!

あなた方のような雑魚に

私が敵うわけがないもの!

そう、何故なら私は美しいから!

美しい人間が凡人より劣るなんてありえない!

あなた方は私の美しさに平伏すのよ!」

「はっ! ずいぶんと余裕だな?

こっちは四人と一匹いるんだ。

仮にシャドウをかき集めてかかったって

俺達の敵じゃねえ。実質てめえは一人だ。

数じゃこっちが優先だが?」

「数なんて関係ありませんわ!

敗因という敗因はありませんもの!

そう! 私が美しい! それが勝因ですわ!」

言ってることが滅茶苦茶だ。

美しいってだけで勝つなんてわけがわからない。

多分どれだけ正論を言っても、

この人は美しいを理由に押し通すだろう。

それだけ心が歪んでいる証拠だ。

「滅茶苦茶だなおい……

もう怒りを通り越して呆れるな」

「それだけ狂ってるってわけでちゅ!」

「だね! 早くオタカラを盗んで、

改心させないと!」

「渡すものですか!

この秘宝は命以上に大事なもの!

私が美しくあるための神器ですわ!

奪うなど大罪に等しい!」

「怪盗は奪うのが仕事だ。大罪上等ってやつだ」

うわあ、霧矢が言うと重く感じる。

確かに理由はなんであれ、盗みは罪だ。

プレッシャーは覚悟しないといけない。

「大罪犯してでもやるんだよ。

でなきゃ被害が拡大するだけだ」

「花子さんの無念も、ここで晴らします!」

「無念? あんな醜女に同情でもっ?

ああ寒い!! 寒すぎるわ!!

美しい私の前で醜い話をしないで頂戴!!」

雪之丞の周りに瘴気が集まる。

「気をつけるでちゅ! 来るでちゅよ!」

「そう!! 私は美しい!!

世界で一番美しいのは、私だけよおおおおっ!!」

雪之丞の体がメキメキと不気味な音を立てて

姿を変え始めた。

「なっ……!?」

僕達の前に現れたのは、

フリフリのドレスと王冠を着けた、

巨大なガマガエルだった。

「あっはははははは!! どう!? この姿!!

最も美しい私の本当の姿!!

あまりの美しさに驚いているようね!!」

誰がどう見ても、あれは美しいとは思えない。

「……そうだな、驚いたよ。

てめえはその姿が一番お似合いだよ!!」

声を荒げて霧矢が攻撃を仕掛ける。

「やれ!! モードレッド!!」

モードレッドが雪之丞の顔面を殴る。

「ぐほおっ!!」

「射抜くでちゅ、エウリュアレ!」

エウリュアレが放つ無数の矢が

雪之丞の体を傷つける。

「ぐっ、うう……」

すると突然、雪之丞の後ろに何かが落ちてきた。

それは巨大な鏡だった。

「鏡っ?」

雪之丞が振り返ると、映っていたのは

変化する前の彼女の姿だ。

「ああ……美しい……!!

さっきの攻撃で、より美しく……!!」

雪之丞がうっとりと鏡を見つめていると、

霧矢とホップから受けた傷が

消えていくではないか。

「何っ!?」

「ダメージが消えた!?」

「来い、ドレーク!」

ドレークのガトリングが雪之丞を蜂の巣にした。

「ぐああああっ!?」

雪之丞の体に無数の穴が開いた。

「よしっ、こんだけ受ければ!」

しかし鏡は以前として綺麗な雪之丞を映している。

「ああ……もっと、もっと美しく!!」

宗馬から受けた傷も癒えてしまった。

「あの鏡が厄介でちゅね!

なんとかしないと埒が明かないでちゅ!」

「じゃあ、あの鏡を破壊すれば!」

僕は鏡を壊そうと走りだす。

「邪魔するなあっ!!」

雪之丞が張り手を繰り出した。

「わあっ!?」

吹き飛ばされた僕を宗馬が受け止める。

「今度はこちらの番よ!!」

雪之丞の口からどす黒い液体が吐き出された。

「きゃあ!!」

その内の一つが茜に当たってしまった。

「ソレイユ!!」

液体は粘り気が強く、

茜は身動きが取れなくなった。

「だ、駄目……動けないっ……!!」

必死に起き上がろうとするが難しいようだ。

僕と宗馬とホップが茜の手を取って引っ張る。

「んぬぬぬ〜っ!!」

「なんつー粘り気だっ!!」

そうこうしている内に、また液体が吐き出された。

「しまった!!」

「うわっ!?」

「でちゅーっ!?」

茜を助けるのに必死だったせいで

液体に当たってしまい、

僕達も身動きが取れなくなってしまった。

「てめえら!!」

残ったのは霧矢だけになってしまった。

「さあ!! 残りはあんただけよ、根暗!!」

連続で吐き出される黒い液体を、

霧矢は必死で避け続ける。

なんとか物陰に隠れて攻撃をしのぐ。

「エンダー……!!」

僕はなんとかしないとと思い必死に争う。

しかし起き上がれないばかりか、

何故かだんだん力が抜けてくる。

「ち、力が……」

「!!」

「あっははは!! 惨めね!!

醜い人間はそうやって

這いつくばるのがお似合いよ!!」

霧矢は物陰から動けずにいた。

「エンダー……お願いっ、

あなただけでも逃げて……!!」

「!?」

「俺達のことはいい……!!

お前までやられたら一巻の終わりだ……!!」

「てめえら……」

そうだ。霧矢だけでも逃がせば、

チャンスはいくらだってある。

それに、逃げると言われても

彼は見捨てたりはしないはずだ。

きっと必ず助けてくれる。

僕はそう信じた。

「そうよ? あなたは逃げていいのよ、古城?

どうせあなたには何もできない!!

結局あなたは自分の護身のために

仲間を見捨てるしかないのよ!!

さあお帰りなさい!!

あなたは命だけは助かるんだから!!」

「エンダー……早く……!!」

霧矢は歯を激しく食いしばった。

「う……う……うおおおおおおっ!!」

叫びながら霧矢はナイフを捨て、

雪之丞に向かって捨て身で走りだした。

「愚か!!」

雪之丞は黒い液体を吐き出した。

液体が霧矢に的中した。

『エンダー!!』

「ぐっ!!」

霧矢は這いつくばり、身動きが取れなくなった。

「せっかく見逃してあげる

チャンスを与えてやったのに、最後は捨て身?

醜いにも程があるわ!!

とはいえこれでもう決着がついたのは同然!!

あなた方はもう終わりよ!!」

「ああ……そうだな……

終わるのはてめえだよ、女王さんよ!!」

僕は気づいた。

霧矢の仮面が“ない”ことに。

「ぶちかませっ!! モードレッドッ!!」

まさかと思い、僕は鏡の方を見た。

鏡の下に霧矢の仮面が落ちてあり、

そこからモードレッドが現れ出た。

モードレッドは鏡を拳で破壊した。

「しまった!!」

見えないところで仮面を外し投げ、

捨て身と欺かせるよう武器を捨ててダッシュ。

自分を囮にして注意を向けたのだ。

霧矢の狙いはそこだったのか。

鏡の破片が床に飛び散り、

その一部に映っていたのは、

今の変わり果てた雪之丞だった。

それを見て雪之丞は悲嘆した。

「う、嘘……!? 何よこれえっ!?

何で私がこんな、こんな!?」

激しく動揺する雪之丞。

すると、僕達を捕らえていた

黒い液体が弾けて消えた。

「やった!」

「でかしたぞエンダー!」

霧矢はふてぶてしく笑う。

「……仲間ってもんは互いを信じるもんなんだろ?

だったら、俺にもてめえらを信じる

権利くらいあるだろ?

それとも何だ? 俺は仲間じゃなかったのか?」

「!」

霧矢が僕達を仲間と信じてくれた。

あの行動も僕達を信じての行動だったのか。

そう思うと僕は、すごく嬉しかった。

「霧矢……!」

「いやああああっ!!

私は美しいのよ!? 何でっ、何で!?」

雪之丞は顔を押さえて狼狽えている。

「今でちゅ!! エンダーが作ってくれたチャンスを

無駄にはしないでちゅよ!!」

「ドレーク!!」

「ジャンヌ・ダルク!!」

「エウリュアレ!!」

三体のペルソナが雪之丞を襲う。

「ぐああああっ!?」

鏡が破壊されたため、回復は起こらない。

雪之丞はそのままひっくり返った。

「何故っ!? どうして!?

どうして私がこんなっ、醜い賊なんかに!?」

そんな雪之丞の目の前に、

ペルソナを従えて銃を向ける、僕と霧矢。

『これで“終わり”だ!』

レスターとモードレッドの攻撃が

激しく炸裂した。

「ぎゃああああああああっ!!」

噴煙を上げて激しく爆発した。

「ゆ、雪之丞様ーっ!!」

オタカラを警備していたシャドウが慌てふためく。

しかし、逃さまいと立ち塞がる三名。

 

ドカバキドカバキドカッ!!

ー大勝利! でちゅ

【FINAllY LOVE WINS】

 

残ったシャドウも倒し、オタカラは無事に

僕達の手に渡った。

「これが本物のオタカラだね?」

「間違いないでちゅ!」

布を外すと、それは小さな手鏡だった。

「これは、手鏡ってやつ?」

「ずいぶんと使い古したっぽいね?」

「オタカラって、現実でその人を歪ませる

きっかけになった物がベースなんだよな?

……興味はねえけど一応聞くか。

こいつがどんなもんか」

僕達は雪之丞が倒れた場所に向き直る。

未だそこから煙が上がっている。

その中に座り込む人影がいた。

「……許さない……許さないっ、

許さない許さない許さない許さない許さないっ!!

余計なことしてくれて!!」

煙が晴れてきた。

しかし、その一瞬に僕達は目を疑った。

そこにいたのは、

黒いおかっぱ髪をした

ぽっちゃり体型の女の子だった。

顔はお世辞にも綺麗とは言えず、

どちらかと言えば花子さんにも似た顔だ。

「……へ?」

雪之丞じゃないと確認した僕は

呆気に取られた。

「絶対に殺してやるっ!!

あんた達の顔を人生ごと滅茶苦茶にしてやる!!」

女の子の叫び声は、雪之丞そっくりだ。

「えっと……君は誰?」

「はあっ!? 何ふざけてんの!?

私は雪之丞綾子!!

雪之丞家長女にして跡取り娘よ!!」

声は確かに雪之丞だ。

彼女と僕達以外、誰も見当たらない。

ということは……

『ええええええええええーっ!?』

僕達は驚くしかなかった。

何故雪之丞がこんな姿なのか、

訳がわからず若干パニックになる。

「何驚いてんのよ?」

「いいいや、だだだだだって!!」

「何よっ? 何か付いてるの?」

もしや、気づいていないのか。

「おい、オタカラ! それ!」

「あ、そっか!」

僕はオタカラの手鏡を雪之丞に見せた。

「……え、嘘……嘘でしょっ?

何で、何で“元に戻ってる”の!?」

元に戻ってる?

ますます訳がわからなくなった。

「ああっそんな……!!

もう二度と見れなくて済んだのに……!!」

雪之丞は涙を流して悲嘆している。

すると、ホップが雪之丞に近寄った。

「もしかして、

それがあなたの本当の姿でちゅか?」

「そうよ!! “あの方”が

私の願いを叶えてくれた!!

綺麗な顔と愛してくれる家族が欲しいって!!」

「あの方……!?」

もしや、あの時沙城の願いを叶えた人物だろうか。

沙城も同じことを言っていた。

「私はこの顔のせいで惨めな人生を送ってた……

親にも疎まれ、学校ではいじめられ、

周囲の人からは蔑まれて……

誰一人私の味方に

なってくれる人はいなかった……!!

そればかりか、私は泥棒の濡れ衣を着せられ、

住処も、居場所すらも失った……!!

醜いってだけで誰も助けてくれない……

お金がないから何もできない……!!

でも、でも“あの方”は違ったの!!」

雪之丞の顔が恍惚に歪む。

「あの方は私を認めてくれた……

あの方は私を救ってくれた……

あの方は私の全てを受け入れてくれた……

嬉しかった、楽しかった、たまらなかった!!

あの方こそ“神様”なのよっ!!」

「神様……!?」

「私は気づいたの……

世の中は見た目で判断してしまうくらい

腐りきってしまっている……

だったらそれを改善しなきゃ……

見た目が良ければなんでも許せるような

そんな素晴らしい世界を、

あの方に作ってもらいたい!!

そうすればあの方の望む、

“なんでも願いが叶う平和な世界”に

なるのだから!!」

「なっ……!?」

なんでも願いが叶う平和な世界、だって?

何故かわからないけど僕はそれを聞いて

ひどく鳥肌が立ち、恐怖を感じた。

「それが、そいつが再び世界にパレスを

生み出した動機でちゅか!?

どういう理屈かはわからないでちゅが、

そんなの滅茶苦茶でちゅよ!!」

「滅茶苦茶じゃないわ!!

あの方は素晴らしいの!!

不可能を可能にしちゃうんだから!!

私はそのために精を尽くした!!

醜い人間を否定し、美しい人間を肯定する!!

だって世の中顔だから!!」

霧矢が怒りを込めて舌打ちした。

霧矢は雪之丞の胸ぐらを掴む。

「そんなくだらねえ理由で、

てめえはたくさん屠ったのか!?

醜い見た目だけでっ!!」

「だってそうじゃない!!

顔が良ければみんな信じ、

顔が悪ければみんな蔑む!!

中身なんて知ったこっちゃないわ!!」

「……!!」

霧矢はナイフを掴み、雪之丞の喉元まで近づく。

「ひいっ!?」

「……一ノ瀬は、俺が秀尽に入学して初めて、

自分から話しかけてくれた奴だった。

最初はただ話しかけられただけの

関係で終わると思ってた。

でも、俺をてめえから庇ってくれた時、

あいつは俺に言ってくれた。

いじめられる気持ちは良くわかるからと。

そこに哀れから来る要らねえ同情は感じなかった。

心から助けてやりたいって同情だった。

そしたら、安心しちまったのかな。

自ずと自分の過去を話してしまったんだ。

だけど一ノ瀬は笑ってくれた。

辛かったねって慰めてくれた。

ああ、こいつ馬鹿みたいに純粋なんだなって、

不甲斐なく感じたよ。

正直、泥棒の濡れ衣を着せられたって知った時、

退学になってでもいいから

助けてやりたかった……!!」

霧矢のナイフを握る手が震えている。

本当に花さんのことを大切に思ってたんだ。

「古城君……」

「それをてめえは……てめえは!!」

ナイフが喉元を刺そうとした。

「霧矢!」

僕は慌ててその手を掴む。

「……オタカラは手に入った。

もう、この人に勝ち目は……」

「……ちっ!」

霧矢は雪之丞を解放した。

「み、見逃してくれるのっ?」

「……現実の自分に戻って、

罪を告白してください」

「はあっ!? そんなことしたら、

今までの私が積み上げたものが…」

「約束してください!!」

僕だって本当は殴ってやりたい。

霧矢の気持ちは痛いほどわかる。

けれど、あくまでも目的は改心。

復讐とか人殺しとかではないから。

「……あなたに追い詰められた人達のためにも、

どうか約束してください。お願いします……」

「……だそうだ。

それでも食い下がるっつーなら…」

「わ、わかったわよ!!

戻る!! 戻るから!! それでいいでしょ!?」

そう宣言してくれた直後だった。

パレスが振動を始めた。

「崩壊が始まったでちゅ! 急いで逃げるでちゅよ!」

「エース! エンダー!」

「うん!」

「ね、ねえ古城!」

雪之丞が霧矢を引き止める。

「あなたあの醜女のこと気にかけてたんでしょ?

だったら私のことはっ?

私も醜女よ? 同情の欠片ぐらい、

ちょっとはあるんじゃないの? ねえ!」

「……」

霧矢は雪之丞を睨みつける。

「本当のブスは自分のことを

ブスとは言わない奴だ。

けど今のてめえは……中身も腐ってんぞ」

そう言い残して霧矢は去っていった。

雪之丞のパレスであった劇場は、

激しく崩れ落ちていった。

 

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