ペルソナ5 Dark Revengers   作:海色ベリル

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第18話 To make it the gentle world

中間テストまで一週間を切り、

僕達は本番に向けて猛勉強している。

今日も学校近くの大きな図書館で

勉強会を開いている。

「……あっ、ごめん。僕そろそろ帰らないと。

今日は笹野さんと下ごしらえの準備を

手伝う約束してるんだ」

「ああ、俺も悪い。今日は通院日なんだよ」

「……俺も行くわ。

さっき婆ちゃんから連絡が来て、

爺ちゃん迎えに行ってほしいってさ」

「じゃあ、今日はここまでだね」

「茜はもう少し残る?」

「うん。あと、せっかく図書館来たから、

天出さんについてもちょっと調べようかと思って」

「そっか。じゃあまた明日」

「うん」

 

勇気達と別れ、一人図書館に残った茜は、

天出高雄に関する書籍を探していた。

「え〜っと……天出高雄、天出高雄……

あ、これかな? 名曲ヒストリー集」

茜が一冊棚から取る。

すると、その隙間から何かが見えた。

「ん?」

覗いてみると、茶髪の小柄な女の子が

棚の一番上に向かってつま先立ちしていた。

高台に使っているがそれでも届かないようだ

「!」

茜は周囲を見回す。すると近くに、

木製のはしごがある。

急いで茜ははしごを抱えて女の子の近くに寄る。

「よいしょっと……」

「!」

茜に気づいた女の子はこちらを見上げている。

「どれ?」

「あ……簡単お弁当レシピ!」

「これ?」

茜は優しく本を女の子に渡した。

女の子は嬉しそうに顔を輝かせた。

「ありがとうございます!」

着ている制服がお互い秀尽学園の

中等部と高等部である事を知った二人はその後、

図書館の広間に行き、談話を始めた。

「そっか〜、よくここ来るんだ!」

「はい! 時々ここで見かけるんです!

あ、高等部の先輩だーってね」

「ふふっ……えっと、私は篠崎茜」

「茜先輩。私、神城心菜(ここな)です!」

「心菜ちゃんか〜」

「天国にいるお母さんが、女の子が生まれたら

絶対名前に“心”って漢字を入れるんだって、

願いを込めて付けてくれたんです!」

「うん! すっごく良い名前だよ!

綺麗だし素敵だと思う!」

「ありがとうございます!」

すっかり仲良くなった二人は、

帰りも一緒になった。

「心菜ちゃん、お料理が好きなの?

借りた本もレシピブックが多いし」

「はい! お母さんが料理上手だったから、

生きている間に色々と教わったんです!

おかげでほぼ毎日自炊してます!」

「えらいなあ、心菜ちゃんは」

「心菜!」

そこへ、心菜を呼ぶ男の声がした。

「あ! お兄ちゃん!」

心菜は嬉しそうに駆けだした。

「……!?」

心菜の兄が来たと察した茜は前方を見て硬直した。

名字からしてもしやと思ってはいたが、

今それは確信に変わった。

神城一輝。彼がそこにいた。

「もういいのか?」

「うん」

「そうか。誰かと一緒なの……か」

茜の姿を確認した一輝は冷ややかな視線を送る。

「神城、君……」

「あれ? お兄ちゃん、茜先輩と知り合い?」

「……まあな」

「あ、そっか! 同じ秀尽高校だもんね!」

すると、心菜は一輝の前に立ち、茜に向き直る。

「ふつつかな兄ではありますが、今後とも

よろしくお願いします!」

「お、おい心菜! 止めろ!

行くぞ……今日は誠司さんが早く帰ってくるんだ」

「わかってるって!

じゃ、茜先輩! また!」

心菜は笑顔で手を振って去っていった。

心菜が一輝の妹。

そう思うと茜は心中複雑な思いだった。

茜はしばし一輝と心菜の姿が見えなくなるまで

その場に立ち尽くしていた。

 

神城兄妹の実家は、渋谷の片隅にある

小さな住宅街に位置する

割と古めの二階建てアパートである。

一応1LDKにはなっているが

そんなに広くはなく、

個室と呼ばれる部屋は一つしかないため、

一輝と心菜は二人一部屋で過ごしている。

決して裕福ではないが貧乏でもない、

微妙なラインの上での生活だが、

二人はそれなりに暮らしていた。

兄妹二人には両親がいない。

二人が幼い頃に事故で亡くなったからだ。

それ以降、二人の身は父の兄、

二人にとっては叔父に当たる人物に

引き取られている。

今日はそんな二人の両親の命日だ。

心菜はいつにも増して夕飯に手を込んでいた。

「お? いい感じ。どれどれ……」

心菜はスープを一口味見する。

「……ん! 完璧!」

「ただいま〜」

そこへ、玄関からスーツの男が入ってきた。

兄妹を引き取ってくれた叔父、誠司だ。

「おっかえりぃー! おじさん!」

「おー心菜! こうしてちゃんと会うのは

一週間ぶりだなあ。元気にしてたか?」

「言われなくてもいつも元気です!

おじさんこそ徹夜でクマ出来てるんじゃない?」

「あはは〜、バレた〜?」

「こら! 心菜!」

部屋から一輝が出てきた。

「何度も言ってるだろ!

ちゃんと誠司さんと呼べって!」

「えー? でもおじさんは私達の叔父さんでしょ?

何も間違ってないけど?」

「あのなあ……って、心菜!

コンロの火着けっぱなし!

吹きこぼれるぞ!」

「あっ!! そうだった!!」

慌てて心菜はキッチンに戻った。

「まったく……」

一輝はやれやれと肩を落とした。

「……おかえりなさい、誠司さん」

「ただいま」

誠司がジャケットを脱ぐと一輝は優しく受け取る。

「心菜は元気そうで何よりだ」

「元気すぎるが正しいでしょう?

本当に苦労してますよ」

ネクタイを緩め、誠司は食卓に向かう。

「……お? この匂いは」

今日の夕飯は、卵の中華風スープにポテトサラダ、

そしてメインは神城家名物と呼ばれる、

どんぶりに寄せた白飯に青椒肉絲を乗せた、

その名も“青椒肉絲丼”だ。

「やっぱり。何かあればこれだもんなあ」

誠司がしみじみと思い出に浸っている中、

心菜は近くにあった仏壇に、

青椒肉絲丼を五百円玉サイズの小さな器に盛り、

供えようとしている。

それを見てしまった一輝はぎょっと驚く。

「なっ、ちょっ、心菜!? 何をしてるんだ!?」

「何ってお供えだよ?」

「仏様のご飯にそれを供える奴がいるか!!」

「でも、お父さんもお母さんも

好きだったでしょ? 青椒肉絲丼。

今日は命日だから特別にしようかなーって……」

「まあまあ、今日くらいはいいじゃないか?」

「う……ま、まあ、誠司さんが言うなら」

「お父さん、お母さん!

今日はパプリカ入りの

スペシャルバージョンですよー!」

 

夕食を終え、一輝は一人で

りんを鳴らし手を合わせた。

そばには亡き両親と幼い頃の自分と妹が写った

写真が立てられていた。

「……父さん、母さん。

二人が亡くなってから、もう八年になります。

俺も元気だし、心菜も元気です。

これからも俺達を見守ってください」

近くで誠司がタバコを吸っている。

「もう八年か。時が経つのも早いものだな」

「はい……」

誠司は一輝のそばに座る。

「宏輝……お前の父親は立派な男だったよ。

真面目で正義感が強くて、

まさに今のお前そっくりだった。

自衛隊に入っても決して屈しはしなかったし、

卑怯な事なんて言語道断。

俺の弟のはずなのに、

なんか恥ずかしくなるくらいに

あいつはしっかりしてたよ。

お前を見ていると、弟を見ているようだ」

「……覚えていますよ。

父も母も、立派な人間でした。

人のために働いている二人の姿は、

幼い俺から見ても素晴らしいものでしたし。

一緒に過ごした時間は少なかったけど、

それでも俺や心菜は幸せだった」

「良い子供を持って、宏輝は喜んでいるだろうな」

「……誠司さん。俺、絶対に刑事になります。

刑事になって、弱い人を助ける存在になる。

今のあなたや、かつての両親みたいに」

凛々しい一輝の表情に誠司は頬を緩ませた。

「お前ならなれるよ」

誠司は一輝を撫でた。

優しい叔父の手に、一輝は照れ臭そうだ。

「お兄ちゃーん!」

そこへ、心菜が駆け寄ってきた。

「お兄ちゃん! 冷蔵庫にあるいちごのアイス、

食べてもいーい?」

「お前……さっきもたくさん食べただろう?」

「アイスは別腹なんですー。

それに私、いくら食べても太らないんですー」

「まあいいじゃないか。今日くらい」

「誠司さん……ったく、一個だけだぞ」

「うん!」

変わらない心菜の笑顔。

親のいない自分にとっては唯一の家族。

だからこそ守りたいのだ。

「俺が刑事になりたい理由は、

実はもう一つあるんです」

「うん?」

一輝は徐に立ち上がった。

「……心菜が幸せでいられる、

優しい世界にするためです」

「……そうか」

「……ちょっと出ますね」

「あまり遅くなるなよ?」

一輝は心菜に気づかれないよう、

静かに外に出ていこうとしたが、

すぐ気づかれてしまった。

「あれ? お兄ちゃんまたどこかに行くの?」

「あ……」

「最近よく出るよね? しかもこんな時間に。

夜遅く出かけてちゃダメだって言ったの誰だっけ?」

「……悪いな。俺にも色々あって」

「ふーん?」

「ああでも、勘違いするなよ?

絶対に帰ってくるから。お前を一人にはしないよ。

妹を置き去りにする兄がいるか?」

「いない!」

「だろ?」

心菜に見送られ、一輝は夜の外に出る。

「……そうだ。

俺は心菜のためならなんだってやる。

だからこそ、俺はこの道を選んだ」

一輝はスマホを取り出した。

「俺だ。例の件だが……」

 

中間テスト翌日、結果を知らせる順位表が

学年別に掲示板に貼られていた。

みんな結果を知りたくて集まっている。

僕もどきどきしながら名前を探す。

結果は……学年54位。

「やった……やった! 自己ベスト更新!」

「田嶋君、勉強頑張ってたもんね!」

「茜の教えが良かったからだよ。

教えてもらった所のほとんどが問題に使えたし。

茜だってすごいじゃないか。学年12位!」

「うん! 生徒会長になったからには、

これくらいは頑張らないと!」

「……へえ。てめえらもやるな」

「ええと、霧矢は……」

僕は霧矢の名前を探す。

「古城霧矢、古城霧矢……8位!?」

霧矢の成績に僕達は驚愕する。

「嘘……私より上……!?」

「たまたまだ。今回はそんな難しくはなかったし。

なんならさっきもらった個人結果表、見るか?」

気になった僕達は結果表を見る。

「す、すごい……十教科全部八十点以上、

しかも三教科は満点だ……!!」

「そういえば、勉強会でやったプチテスト、

古城君だけやけに成績良かったっけ……!?」

「だからたまたまだって」

「いや〜! すごいなあ、お前ら!

先輩の俺も鼻が高いぞ〜!」

何故か宗馬が自慢げだ。でも僕達は知っている。

「びりっけつから数えた方が早い奴に褒められても

微塵も嬉しくもねえよ」

「う……」

宗馬の成績は、赤点は免れたものの

決して良い成績とは呼べなかった。

正直言って、ため息ついてしまう点数だ。

「五十嵐君……」

「つ、次は期末テストだよねっ?

その時は頑張ろ! ね?」

「……はい」

すると、人混みの一部からどよめきが走った。

「おい見ろよ! 一年の一位、またあいつだぜ?」

「君島翼、だっけ? しかも満点らしいな!」

確かに一年の方の結果表には、

“一位 君島翼 1000点/1000点”と書いてある。

「一年で全教科満点って、すごいな……」

「おーい、古城!」

そこへ、一人の男性教師がやって来た。

確か日本史の井上先生だ。

「あーいたいた。古城、今ちょっといいか?」

「……何すか?」

「ここじゃあれだから、職員室で」

「悪い。じゃあまた後で」

霧矢は先生に連れられて行った。

「……何かしでかしたのか? あいつ」

「悪いことしてませんように……!」

「二人共……」

 

日本史の井上先生に連れられ、

霧矢は職員室で対面することになった。

井上先生からの話とは、説教とかではなかった。

「潜入調査?」

「あー、まあそんな感じかな。

表向きは家庭教師をしてほしいってやつだけどな」

「家庭教師っすか?」

「ああ。古城、お前さんは性格に難はあるが

成績は非常に良い方だ。

なんなら良い大学を紹介してやりたいくらいだ」

「はあ……そりゃどうも」

「で、だ。お前さんのその頭の良さを見込んで、

ある生徒の勉強を見てほしいんだ」

「まあ、別に構いませんけど……

手ぇつけられないくらい馬鹿な奴とかは

さすがにごめんですよ?」

「いやいや、逆だよ逆。

相手は何せ“教師泣かせ”の名が付くほど

頭の良い生徒だ」

教師を泣かせるほど頭が良い。

霧矢には想像がつかない。

「教師泣かせ、ですか……」

「もう言葉通りだよ。

このまま大学に飛び級で入学しても

おかしくないくらいにな」

「そんなにっすか?」

「いや本当本当! 大袈裟じゃない!

私も一度見ただけだがあれは恐ろしい!」

井上先生は頭を抱えて顔を真っ青にした。

それほどまでに頭が良すぎるのか。

「……大丈夫っすか?」

「ああ、すまんすまん。取り乱したな。

で、ここからが本題なんだが、

古城にはその生徒の頭の良さの

秘密を探ってきてほしいんだよ。

どんな生活をしているのか、

何を食べているのか、

どういう勉強法をやっているのか、

どこかにきっと頭の良さの元があるはずだから、

それを見つけてほしいんだ」

「それ……先生がやった方がいいんじゃ?」

「いやいやいやいや!

あの生徒相手に大人が調査したら

逆に虚しくなる! うん、絶対に!」

また取り乱す事を言ってしまったと

霧矢は少し反省した。

「あー、あれっすか?

同年代くらいの子なら

調査しやすいって事っすか?」

「そうそう! どうだ? やってくれるか?

結果次第じゃお前さんの内申点を

上げれるチャンスにだってなれるぞ!」

「は、はあ……まあ、いいですよ」

「ありがとうー! ああ、これで少しは

頭の良さに対する怯えが減るな!

ああでも、調査することは相手には内緒でな」

「……それで、何ていう名前の生徒ですか?」

「ああ、そうだったな。一年一組の君島翼だ」

 

ということで霧矢は、早速君島翼がいるという

一年一組の教室にやって来た。

(君島翼、か……確か今回のテストで

学年一位取ってた奴か。

一年で満点一位ってすげえな……

名前からして男か女かわからんけど、

まあガリ勉な感じなんだろうな)

男なら七三分けに眼鏡、

女なら三つ編みに眼鏡だろうと

勝手に想像しながら霧矢は教室に入る。

「おい。一年の

君島翼を探してるんだが、いるか?」

突然入ってきた霧矢に、一年生はびっくりした。

「ねえ、あの人って……」

「二年の古城霧矢だ! ほら、

雪之丞のターゲットにされていた……」

「なんでうちのクラスに?」

霧矢は雪之丞の事件で少々有名になったため、

驚くのも無理はなかった。

一年生達がざわめく中、ただ一人、

霧矢に近づく影がいた。

「あ、おい!」

一人制止する生徒がいたが、

その影は躊躇せずに霧矢に近寄った。

「ボクに何か用かい?」

霧矢は目を丸くし息を飲んだ。

彼の前に来たのは、青みがかった長い黒髪に、

まるで全て見抜かれそうなくらいに

深く澄んだ垂れ目をした、

“車椅子”の少女だった。

「……」

少女は穏やかな笑みを浮かべて

霧矢を見据えている。

「あ……き、君島翼って……てめえか?」

「そうだよ。そう言う君は、古城霧矢だよね?」

「あ、ああ……」

霧矢はやや混乱している。

勝手に想像した姿とは百八十度違った姿だ。

しかも年下とは思えないくらいに

大人びた感じが漂っている。

極端に言えば、儚い少女だった。

しばし呆気に取られた霧矢だったが、

不思議そうに様子を伺う生徒を見て我に返った。

「ああ、すまん。ちょっといいか? 話がある」

霧矢は少女、君島翼を連れて

休憩スペースへ行った。

その道中、霧矢は車椅子を操作する翼を気にかけた。

「……手伝おうか?」

「ううん、大丈夫」

人気があまりないことを確認し、

霧矢は話を切り出した。

「あー……先生から頼まれてよ、

てめえの勉強見てやってほしいって」

「!」

勉強見てやるのは表向きで、

本来は彼女の頭の良さの秘密を探るためなので、

霧矢はどう弁解していいかわからない。

「いやその……なんか俺、成績良いらしくってさ、

それ見込んでの教えらしい。

まあ、あんた学年満点一位だし、

勉強見てやらなくてもいいとは思うけど……」

すると、霧矢は再び目を丸くした。

目の前にいる翼が、

憂いを帯びた表情をしていたからだ。

「ああいや、嫌なら強制はしないが……」

「ううん、わかってるよ。

ボクの頭が良い訳を知りたいんでしょ?」

「!?」

会ってまだ十分も経ってないのに、

早速バレてしまった。

井上先生に申し訳ないと霧矢は反省した。

「……なんでわかった?」

「わかるよ。先生から頼まれたって言ってたもん。

先生達はボクに興味を持っているから、

ボクがどんな人か知りたいのは見え見えだし。

それにこの手、初めてじゃないしね」

既に経験済みだからバレバレだった。

それくらい教師達は彼女に強く興味があるのか。

「悪い……気ぃ悪くしたか?」

「なんで謝るの? いいよ、慣れてるし。

それに……」

翼は霧矢をじっと見据える。

「……ボクも気になることがあるんだ。

ちょうどいいや。その勉強を見てあげる件、

承るよ。良かったらボクの家で話さないかい?

そこで色々と話そうじゃないか」

「……? ああ」

 

その日の放課後、

霧矢は翼の実家に赴くことになった。

彼女の家は青い屋根の二階建て一軒家。

言うなれば、普通の家だ。

「ただいま……」

小声で翼が実家に入った、まさにその直後だった。

「翼っ!!」

突然響いた大声に霧矢はびくっとした。

玄関にいたのは、顔を真っ赤にして

こちらを睨みつけている女性だった。

どうやらこの人が翼の母親らしい。

「……何? 叔母さん」

「?」

翼はその女性を叔母さんと確かに呼んだ。

“お母さん”ではないのか。

「何じゃないわよ!!

さっき学校から電話があったわ!!

あなたまたテストで満点取ったそうじゃない!!

何また勝手なことしてるの!?

あれだけ勉強するなって言ってるじゃない!!」

霧矢は黙って叔母さんと呼ばれた

その女性の話を聞いたが、

疑問が山ほど湧いて出てきた。

普通満点を取ったら褒めるべきでは。

勉強するなとは親が子に言う台詞なのか。

翼との関係性も含めて訳がわからなかった。

「勉強は……してないよ。

前にも言われた通り、学校でもしてない」

「勉強してないのに満点を取るですって!?

嫌味な子ね!! 本当は隠れて

勉強してるんじゃないの!?」

「……だからしてないって」

翼は諦めたような表情で淡々と喋っている。

多分このやり取りは日常茶飯事なのだろうと

なんとなく感じた。

「……? そちらの方は?」

ここにきてやっと女性は霧矢に気づいた。

「あ、ええっと……」

「先生から頼まれて、

勉強を見てあげることになって……」

すると、女性の顔がさらに赤くなり、

どすどすと大きな足音を出しながら

どこかへ行ってしまった。

すぐに帰ってきたかと思ったら、

突然女性は霧矢に向かって何かを投げてきた。

「!?」

瞬時に目をつむったので目には入らなかったが、

なんだか口の中にしょっぱさが広がる。

よく見るとそれは、塩だった。

「叔母さん!」

「出てってちょうだい!!

この子に家庭教師なんて必要ないの!!

先生も余計なことしてくれたわね!!」

女性のヒステリックな行動に、

さすがの霧矢も怯んで呆気に取られた。

もし相手が男性でムカつく奴だったら、

真っ先に殴ってやっただろう。

しかし、ここで騒ぎを起こしても

翼に迷惑をかけるだけだ。

とりあえず霧矢は落ち着いて口を開く。

「……今日は勉強はしないっすよ。

こいつから話があるって言うから来ただけで」

「勉強はしないから……」

「……っ!」

ギリギリと歯軋りした後、

女性は翼を睨みつけた。

「翼!! 余計なこと吹き込むんじゃないわよ!!

あなたも、付き合いは

これっきりにしてちょうだい!!」

女性は再び大きな足音を出して去ってしまった。

「……ごめん。大丈夫?」

「ああ……」

とりあえず二人は翼の部屋に入り、

翼はタオルで塩まみれになった霧矢を拭いてあげた。

「水じゃなくてよかった。

水だったら婆ちゃんに心配されるからな」

「ごめんね……叔母さん、いつもああなんだ」

「……叔母さんって言ってたな?

母親じゃねえのか?」

「……うん。ボクの父さんの兄さんの奥さん。

だから叔母さん」

「そうか。両親は?」

「……」

翼の憂い顔に霧矢はなんとなく察した。

「話したくねえならいい」

翼は首を横に振る。

「……これから話すことに

必要なことだし、話すよ」

一呼吸置いて翼は話し始めた。

 

 

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