ボクは十一歳の頃、両親を事故で亡くした。
相手の居眠り運転が原因だった。
ボクも当時事故の現場にいて、
車とぶつかった際にボクはケガだけで済んだが、
両親は即死だったそうだ。
事故現場で動かなくなった両親を
何度も呼んでいたのは今でも覚えている。
父は、そこそこ名の知れた大学教授だった。
母はそんな父とボクを支えるため、
OLとして毎日夜遅くまで働いていたらしい。
共働きだったけれど、両親は
ボクに目一杯の愛情を注いでくれた。
特に父はボクに“学ぶこと”がいかに大切かを
きっちりと教えてくれた記憶がある。
「知識はどんなであれ、お前の力になる。
だから翼。知りたいことはとことん学びなさい。
役に立たない知識なぞないのだから」
父がいつも口癖のように言っていたことだ。
幼い頃からボクは父の書斎が大好きだった。
内容はわからないけど
面白そうな本がいっぱいあって、
暇な時はいつもそこに来ていた。
父もそんなボクを邪険にせず、
本を読むボクを微笑ましく見ていたのを
なんとなく覚えている。
ボクは学ぶことが好きになった。
寝食も忘れてしまうくらいに。
だから、両親が死んだ後、
叔父夫婦の元で始まった暮らしには
戸惑う他なかった。
本を読めば人形遊びに無理矢理させられ、
自由研究で表彰されれば叱られる。
そう。何故かこの叔父夫婦は
ボクが勉学で良い成績を残すと、
とことん叱ってくるのだ。
特に叔母さん、父の兄の奥さんは
ヒステリックになるくらいにその辺りは厳しい。
高校受験の時だって、
本当は進学校に行きたかった。
志望校の中には、あの明智吾郎が通っていた
名門高校も入っていた。
でも叔父夫婦は進学すら許してくれず、
中学卒業したら働けと言われた。
しかし、ボクはあの事故で
両親を亡くしただけでなく、
足の自由も奪われたのだ。
車椅子の人の進路なんて、
施設に入るか障害者枠での就職しかない。
それに中卒での就職なんて制限が多い。
本当ならこの足は、リハビリを続ければ
また歩けるようになる見込みがあるのに、
何故か叔父夫婦は許してくれない。
それでもボクは高校だけは行きたいと懇願し、
結果、底辺高校なら許すという条件で
秀尽に入ることを許された。
底辺なら勉学で秀でた才を出さずに済む。
そう納得した上だった。
「でも、ボクの頭は
ますます右肩上がりなんだ……
勉強もしていないし、秀尽に入ってからは
なるべく表彰されないようにしているけど、
全然ダメ……絶対に何かしら褒められてしまう……
なんでだろうね? ボク全然勉強してないのに」
話す度に涙目になる翼。
そんな彼女に、霧矢は悩みながらも口を開いた。
「……傷ついたなら後で謝る。
てめえ……元より頭が良いからじゃねえか?」
「そんなこと……!」
「テレビで言ってたな。ギフテッド……だっけ?
いるらしいんだよ、そういう奴。
てめえもそうなんじゃねえのか?」
「それは……」
翼はスカートをぎゅっと握りしめる。
「……だから、頼みたいんだ。
君に、いや、君達に」
「は?」
「……君、心の怪盗団なんでしょ?」
一瞬ドキッとした。
だが勇気達に秘密を話さないと約束した以上、
ボロを出すわけにはいかない。
なんとか霧矢は冷静になる。
「……何のことだ?」
「安心してよ。誰かに話す趣味はないよ」
「そうじゃねえ。
なんで俺が怪盗団って思うんだ?」
「わかるよ。なんとなくだけど。
田嶋勇気、五十嵐宗馬、篠崎茜、そして君。
君達は雪之丞の事件以降、一緒にいるじゃないか。
それ以前に、君以外の三人は
沙城の事件の後から一緒だ。
怪盗団じゃなければどういう繋がりなんだい?」
何もかも見透かされているようだ。
鎌かけにしては堂々としている。
「……本気でそう思ってんのか?」
「君が証拠でもあるんだよ。
あれだけ不良に絡まれて大人しくしていた君が、
最近じゃ口を開けば皮肉と毒舌混じり。
どういう変化があったのか、気になってね。
考えられるとすれば一つ。
君が怪盗団に入ったからだ。どう? 違う?」
無意識ではあったが何となくそうは感じた。
この女にはもう何もかもお見通しのようだ。
「……」
観念した霧矢はあぐらをかいた。
「頼みたいことって何だよ?」
「……ボクを改心させてほしいんだ」
「つーわけで、バレた。悪い」
突然の霧矢からの衝撃発言に、
僕達はぽかんとなった。
しかも近くには、君島翼さんがいる。
「……いやいやいやいやいやいや!!
バレた。悪い。じゃねーって!!
何あっさりバラしてんだよ!?」
「バラしたんじゃなくてバレたんだよ。
こいつ、何もかもお見通しみたいでさ、
嘘ついても無駄だと思ったんだ。
恨むならせめてこいつを恨め」
恨めと言われても、相手は女の子だし、
あの表情からして悪気はないのだろう。
恨む理屈がどこにもない。
「あー、えーっと……すまん!
誰にも話さないって約束できるなら協力するから!
頼む! この通りっ!」
宗馬が全力で土下座する。
茜は無言だったが
懇願の表情を浮かべて訴えていた。
バラさないで! って言ってるのかな。
「大丈夫だよ。秘密はバラさない。約束する」
「そ、そうか……なら、いい。うん」
良かった。話聞いてくれたみたいだ。
「えっと、君島翼さん、だよね?
自分を改心させてほしいってどういうことかな?」
「言葉通りだよ。君達には
誰かを改心させる力があるんだろう?
その力でボクを改心させてほしい」
「改心って……君、何か悪いことしてるの?」
パッと見では悪いことをするような
人には見えない。
秘密もバラさないと約束してくれたし。
「……してるさ。叔母さんや叔父さんを、
いつも怒らせてばかりだ。ボクが頭が良いから」
「え? 頭が良いからって……どういうこと?」
「こいつを引き取った叔父夫婦、
何故かこいつが勉学で良い成績を収めると
非常に怒るらしい。
あくまで俺の推測だが、
こいつをバカに育てたいからだな。
足のリハビリをさせないのも、
その一環みたいなもんだろう」
「バカに育てたいって、そんなこと……」
「昨日こいつの叔母に会ったんだがよ、
ありゃあ相当イカれた。塩撒かれたし。
そう考えてもおかしくないだろうな」
子供を馬鹿にさせる教育なんて、
一体どんな動機があってそうなるのか。
僕には理解できない。
「何でバカにさせようとすんだよ?
おかしくねえか? そんな教育する親なんて
聞いたことないぞ?」
「わからない……勉強さえしなければ
叔父さんも叔母さんも優しいし、
愛情がないからとは思えないけど……」
「……二人に迷惑をかけている。
だから改心させてほしいってこと?」
君島さんは静かに頷いた。
「きっとボクが勉強しなくても頭が良いのは、
ボクの心が歪んでいるからだ。
改心できれば、ボクは普通になれると思う。
普通になれば、叔父さん達を怒らせずに済む。
だから、お願いします」
ぺこりと頭を下げる君島さんに、
僕は何と言っていいかわからない。
今まで改心させた二人は、
こんな風に自分から改心させてほしいとは
言ってはいなかった。
自分の悪事を認識していなかったからだろう。
なのにこうも頼まれては、
何と返していいのだろうか。
「あー……と、とりあえず、さ。
こいつにパレスがあるかどうかだけでも
調べてみたらどうだ?」
「う、うん。だね」
「パレス?」
君島さんはきょとんとした。
「ああ、そっか! 知らないんだね?」
茜は簡潔に認知世界についての説明をした。
「……なるほど。認知を変える、
イコール改心ってことか!
そうか、認知を変えれば拷問とかしなくても
自白は可能って訳か……」
さすがは天才。理解が早い。
「じゃあ、ボクにパレスがあれば、
ボクの心が歪んでいる証拠って訳だね?」
「うん。仮にパレスが無くても、
メメントスに反応があれば改心はできる」
「とにかく、調べてみないことには始まらねえ」
僕はイセカイナビ改を起動させ、
君島翼と入力してみた。
〈候補は見つかりませんでした〉
「あ……パレスはないみたい。
少なくとも著しく歪んでるって
訳じゃなさそうだね」
「んじゃ次はメメントスだな。
メメントス、君島翼っと……」
〈候補は見つかりませんでした〉
「ありゃ、なかったみたいだ」
「あれ? じゃあ、ということは……」
パレスもない。メメントスの反応もない。
つまり答えは一つ。
「君島さんの心は歪んでないってことになる……」
その事実を知ると、君島さんは酷く驚く。
「嘘だっ!! そんなわけない!!
だっておかしいでしょ!?
勉強していないのに頭が良くなるなんて!!
絶対ボクに原因がある!!
ボクは歪んでいるんだ!! 絶対にっ!!」
「君島さん、落ち着いて!」
茜が慌てて君島さんを落ち着かせる。
「……一応確認させてくれ。
てめえがその頭の良さで迷惑をかけているのは、
その叔父夫婦だけか?」
「うん……今のところは」
「他の誰かに自慢したり、
見下したりしているってのは?」
「してない。したら叔母さんに
嫌味な子だって叱られるのがオチだし……」
「……見た感じ、他人に対する認知は
歪んでなさそうだな。
雪之丞の時、奴は醜い容姿の奴らに対して
酷い見方をしていたからな。
あとはやっぱり、こいつが誰かを
踏みにじるような人間とは思えないからかもな。
何より自分から悪いことしてるって自覚してるし」
「そっか……今までのターゲットは、
自分の悪事を自覚していなかったしね」
「根っからの悪じゃないってわけか……」
結果を知らされて、君島さんは酷く落ち込んだ。
「そんな……絶対におかしいよ……」
「霧矢が話に言ってた、ギフなんちゃらだっけ?
やっぱその可能性があるんじゃねえか?」
「うん。ギフテッドだよね。
調べてみたら、
君島さんにはその傾向が強いみたい。
自分のこととか調べたことない?」
「ないよ。一回してみたいって
叔母さんに言ったら、
必要ないって怒られたし……」
「うーむ……なかなか難しいなあ〜!」
宗馬はベンチに座って考え込む。
「でも、ちょっとは安心したかな。
君島さんは今のところ、現実に影響を及ぼすほどの
悪いことはしていないって確信できたし」
「うん。そこは幸いだったね」
「けど肝心の悩みはまだ解決できてないしなあ」
「……だとしたら怪しいのは、その叔父夫婦だな。
理由が何であれ、義理の娘に自分達の価値観を
無理矢理押し付けているんだ。
現に過去改心させた二人も
似たようなもんだったし。
調べてみる価値はあると思うぞ」
「待って。まだ天出先生のこともあるし、
調べるのはその後からでも遅くはないよ」
「あー、だよな。いつキングスジュエルの連中が
欲望を盗むのかわかんねえし、
まずはそっちを優先だな」
「え? 何か別の仕事が?」
「ああ、うん。実は……」
僕は事の一部始終を君島さんに説明する。
「まさか……あの有名作曲家にそんな噂が……」
「まだ確信はねえ。まあパレスがある時点で
心が著しく歪んでいるのは確かだな。
問題は、奴のシャドウがいるであろう
パレスの中心にどうやって行けるかだ。
せめて現実の本人に会えればだが……」
「本人に会えれば、道は開けるのかい?」
「できたらだけどね……
だって相手、超有名人だし……」
「……」
すると、君島さんはスマホを操作しだした。
「会えるかもだよ?」
『ええっ!?』
運良く僕達の声がハモった。
「これ」
君島さんが見せてきたのは、
音楽レーベル会社、
クイーンレコードのホームページだ。
「天出先生が所属している会社だよ。
このサイトからメールを送ってみるんだ。
天出先生向けに」
「で、できるの!?」
「作曲家は人に依頼されてなんぼだよ。
口実さえあれば会うことはできると思う。
だからこの場合、天出先生に会いたいって
メールを送ればいい。
理由はそうだな……天出先生に
インタビューしたいってのはどうかな?
ほら、うちの学校新聞部があるでしょ?
そこを利用してインタビューを頼む。どうかな?」
もう、すごいなんてもんじゃない。
ここまで理路整然した提案は初めてだ。
僕達はぐうの音も出ない。
「何? どうしたんだい?」
「あ、ああ! 良いアイディアだな!
全然思いつかなかったよ〜、なあ!?」
「へっ!? あ、うん……」
「そうか……その手があったな……
賭けにはなるが、可能性がゼロとは言い難い。
一か八かやってみる価値はあるな」
「じゃあ、早速送信するね」
君島さんはインタビューの許可をメールで送った。
「送信っと……これで三日以内には
返事は来るようだよ」
「おおー、あっけなくできちまったな?」
「ありがとう君島さん!
これで一歩進めそうだよ!」
「大したことないよ。これくらい……あ?」
突然君島さんは目を丸くした。
「……そうだ」
「どうかした?」
君島さんは意を決したように
僕に向き直った。
「君、怪盗団のリーダーなんだよね!?」
「う、うん。そのつもりだけど……」
「頼みがあるんだ!
僕を怪盗団の情報屋として雇ってほしいんだ!」
「や……雇う!?
いや、うちは職場とかではないし、
お金とかも払え……なくはないけど……」
僕達は怪チャンを通して、
メメントスでの改心に多少だが
報酬が入ってくるようになっていた。
本当に微々たる金額なのだけどね。
「わかったんだ!
ボクにパレスがない理由はきっと、
怪盗団も知らない何かがあるはずなんだって!
だから、ボクが怪盗団に協力すれば、
一緒にいるうちその何かがわかるかもしれない!
ボク、自慢じゃないけど何かを調べることには
結構自信があるんだ! 力にはなれると思う!
頼む! お願い!」
ぺこぺこと頭を下げ続ける君島さんに、
僕達はオロオロと狼狽えるばかりだ。
「……どうする? 田嶋」
「じ……じゃあ、わかってると思うけど、
秘密を誰かに話さないって条件を飲むなら……」
「え? それだけで良いのかい?」
「うん。秘密さえバレなければ
大丈夫……だと思うから」
「わかった! なら大丈夫!」
とりあえず条件を飲んでくれたようだ。
まあ、彼女は悪い人ではないし、
信用しても大丈夫だろう。
そして、それから翌日のことだ。
君島さんが送ったメールに返信が来た。
会ってくれるそうだ。
というわけで僕達は指定された日時に、
天出先生の自宅に向かうことになった。
「こ……これは……!!」
たどり着いた途端、僕達は絶句しかけた。
目の前に広がっているのは、
西洋のお城かと見間違えてしまうような
大豪邸だったのだ。
「ここが、天出先生の自宅……」
「すげー……漫画みたいだな……!?」
「渋谷の住宅街にこんな家があったとはな……
パレスの場所が渋谷全体なのも納得だな」
「どどどどうしようっ!?
なんかメロンとか高級なフルーツとか
持って来た方が良かったかなっ!?」
「ああ、それなら問題ないよ」
そう言いながら君島さんは、
小洒落た紙袋を掲げた。
「それは?」
「新聞部の部長から預かったんだ。
良いネタを提供する代わりに
手土産何が良いか相談したら、
真っ先にこれ渡すよう頼まれてて」
僕は袋の開け口を覗いた。
見ると、入っていた箱には
“輝きの恵み”と書かれており、
その文字の横には
リンゴのイラストが描かれていた。
「……リンゴ?」
「輝きの恵みって言う高級リンゴだよ。
一個千円でこれは十個入り」
「つまり……一万円相当!?」
「天出大先生に会うからには
失礼のないようにって言われてさ。
これ彼の自腹だって」
「おー、マジか……! あの部長やるな……」
本当に心の怪盗団に尽くしてくれていると思うが、
正体知ってるんじゃないかというヒヤヒヤのせいで
正直複雑な気持ちだ。
「じゃ、押すよ……」
僕は恐る恐るインターホンを押した。
〈はい〉
「あ、どうも! インタビューを依頼した
秀尽学園の者なんですが」
すると、入口の門が開かれ、
僕達は邸宅に招かれた。
「いらっしゃいませ」
邸宅に入ってすぐにメイドさんが迎えてくれた。
「こちらのお部屋でお待ちを。
旦那様をお呼びいたしますので」
そう言われて僕達は客室で待たされた。
客室内部も煌びやかで、
壁の至るところに賞状や写真が飾られている。
「あの賞状、みんな天出先生が取ったやつかな?」
「有線リクエスト大賞グランプリに、
キッズミュージックアワード大賞、
音楽業界の代表者からによる表彰状……
みんな栄誉ある賞ばかりだな」
「写真も有名な人でいっぱいだあ……!
あ、ほら! シオンちゃんもいる!」
「失礼いたします。旦那様をお連れしました」
部屋に入ってきたのは、
紛うごとなき天出先生だった。
霧矢が見せてくれた宣材写真通りの
優しそうな男性だ。
君島さん以外の僕達は慌てて立ち上がった。
「こ、こんにちはっ!」
「はじめまして。君達が秀尽の生徒だね?」
「はい。この度はインタビューの件を
承っていただき、ありがとうございます」
君島さんは丁寧にお辞儀した。
「いやいや、むしろ嬉しいよ。
未来を担う若者が、私のような老いぼれなんかと
対談するなんて、滅多にないからね」
「老いぼれなんてとんでもない!」
茜が徐に立ち上がった。
「先生が手がけた作品は、
音楽業界に多大な功績を挙げてます!
私も美月シオンちゃんに提供してくれた、
Glorias Nightはお気に入りの一曲ですし!」
「ああ、シオンさんね。
彼女は実に素晴らしい歌手だよ。
私も曲提供ができて誇らしいしね」
すると、僕達の前にお茶が出された。
「どうぞ。少し苦いですが、体に良いお茶です」
「ありがとうございます」
僕達は同時に一口飲んだ。
「……ゔ!?」
そのお茶は少しどころか、滅茶苦茶苦かった。
(と、とてもじゃないけどこれは……!!)
その気持ちは他のみんなも一緒なようだ。
(げ……激苦だよ〜!!)
(苦……というか渋い……)
(だが大先生の前で本音を言うのは…)
「うげっ、まっず」
言っちゃいけないのに霧矢が言ってしまった。
「だあああっ!! お前って奴は!!
すんません!! こいつ口が悪いもんで!!」
慌てて宗馬が霧矢の頭を無理矢理下げさせた。
「いえいえ、構いませんよ。
元々客受けがあまり良くないお茶らしいので」
「だったら最初から出…」
これ以上言うなと宗馬は霧矢の口を押さえた。
「こほん……では、インタビューを
始めさせていただきますね」
君島さんはボイスレコーダーとメモ帳を取り出し、
インタビューを始めた。
彼女の質問内容はいたってシンプルだ。
作曲家になったきっかけとは。
苦労した作品は。それはどう苦労したのか。
自分がすごいと思う作曲家は。
君島さんは要所を事細かにメモしている。
「一緒に仕事した相手で
一番印象的な方は誰ですか?」
「やっぱり美月シオンさんかな。
彼女とは提案の段階からの付き合いなんだけど、
デモテープを慎重に聞き分け、
メロディを徹底的に調整する姿は
まさにプロの歌手そのものだよ。
私に対しても真摯に対応していたし、
仕事中でも良い気分だったなあ」
確かに初めて生で彼女を見た時、
ファンを大切にしているように思えた。
きっとそれは仕事仲間にも
同じことをしているだろう。
茜曰く、彼女が仕事仲間から
恨まれることはほとんどないくらい、
仕事に対して真剣らしい。
恨みがあったとしても、
ほとんどは嫉妬から来るものだそうだ。
天出先生も同じことを思っているのだろう。
しかしここまで来て、
天出先生が悪い人とは考えにくい。
けど現にこの人にはパレスがある。
僕達の見えない部分で悪事をやっているのか。
ゴーストライターを雇うという悪事を。
「……では、最後の質問です」
そうこうしているうちに、
インタビューは終盤に差し掛かった。
「あなたにとって、作曲とは何ですか?」
「そうですね……あくまで私の見解ですが、
その人の心を表現するもの、でしょうか」
僕はおお〜と感心させられた。
「明るい曲はその人の心が楽しいから。
出来事を主とした曲はその人が経験、
耳にしたから。
寂しい曲はその人はその当時落ち込んでいたから。
だからこそ印象深い曲は人の心に響く。
私達作曲家は、私達の心を見て聞いてほしい。
そのためにあるんじゃないでしょうか」
すごい。そんな風に感じるとは、
天才の名は伊達ではないようだ。
僕はその答えを聞いて胸に響いた。
インタビューはあっという間に終わり、
僕達は天出先生の邸宅を後にした。
「すごい価値観のある人だったね……!」
「やっぱ天才となるとああも違うんだな……」
「苦い茶出すのはその分
浮世離れしてるからじゃね?」
「言わないの!」
「お前は少しオブラートにできねえのかよ……」
「……さて、これで天出先生本人とは会えたよ?
君達には次にやることがあるんじゃない?」
ああ、そうだった。
天出先生とコンタクトできたから、
パレスに変化があるかもしれない。
「あ、そっか! ホップ……あれっ?」
「どうした?」
鞄に入っているはずのホップがいなかった。
「ホップがいない!」