さっきまでそこにあった秀尽の校舎は、
要塞の様な巨大な城に変貌していた。
「何が、え……!?」
突然の事態に僕は動揺を隠せない。
「……あれっ?」
異変はそれだけではなかった。
周囲に僕と五十嵐さん以外の人間がいない。
空も赤く禍々しい色になっていた。
「なあ、俺達さっきまで学校にいたよなっ?」
「は、はい……」
「瞬間移動、なわけねえよな……」
五十嵐さんがスマホを開き、
地図を確認しようとした。
しかし、よく見ると電波が届いていない。
「圏外!? おいおい、どうなってんだよ!?」
五十嵐さんが慌てふためいていると、
【タスケテ……】
またあの声が頭の中に響いた。
「え……」
【タスケテ……タスケテ……】
「何だ……!? ここから、聞こえる……!?」
僕は声が聞こえてくる方に向かい、
学校だった場所に足を踏み込む。
「お、おい! あんた!」
五十嵐さんが心配そうについて行く。
城の中は、今の空模様と同じくらいの
禍々しさを放っていた。
でかいシャンデリアにレッドカーペットが敷かれた
大きな階段が目に入る。
まるで西洋のお城そのものだ。
「中まで変わってやがる……
セットにしちゃリアルすぎんだろ……!?」
「ですよね……こんな短時間で
仕上げるなんて考えにくいし……」
階段の両端には、甲冑のマネキンが置かれていた。
「こんなのも演劇部にはなかったしな……」
五十嵐さんがコンコンと叩いた。
すると、突然カタカタと甲冑が震えだした。
「えっ、あ!?」
震えだしたと思ったら、
急に甲冑が足元にあった剣を取り
襲いかかってきた。
「うおおあっ!?」
間一髪で五十嵐さんは避けた。
「大丈夫ですか!?」
すると、次々と甲冑のマネキンが湧き出てきた。
気づけば僕らの周囲を取り囲んだ。
「おいおい……俺達、悪い夢でも見てんのかっ?」
僕は返答できず、立ち尽くすので精一杯だ。
なす術もないまま、僕らは地下に連れられ、
牢獄の中に放り込まれてしまった。
「おいっ!」
甲冑のマネキンが鍵を閉めると、
そのまま帰ってしまった。
牢獄の中は洞窟みたいで冷たく、
ベッドだけがある。
「くそっ、どうなってやがる!」
五十嵐さんがドカッとあぐらを掻く。
僕はとりあえず正座する。
「夢だ、夢なんだな?
だとしたら叩いても痛くないはず」
五十嵐さんは自分の頬を叩いた。
「痛ちち……夢じゃねえのかよ……」
すると、どこからかすすり泣く声が聞こえてきた。
「何だ?」
「誰かいるっ?」
人がいると気づいた五十嵐さんは、
急いで外に向かって大声を出す。
「おーい!! 誰かいるのか!?」
「いろい……いろいよ……」
声の感じからして女性のようだ。
しかし、なんか喋り方が変だ。
「……あ!?」
「どうしましたっ?」
僕は外の様子を見に行く。
鉄格子越しに見えたのは、
女の子が僕達と同じように牢獄に入られていた。
その女の子は秀尽の制服を着ていた。
泣き声は彼女からのようだ。
「いろいよ……いろしゅぎりゅ……」
やっぱり喋り方が変だ。
しかしよくその女の子を見ると、
耳に何かを付けていた。
「あれって、補聴器?」
だとしたら合点がいった。
あの女の子は耳が聞こえない。
道理で喋り方に違和感があるはずだ。
「原田か!?」
「知ってるんですかっ?」
「うちのクラスメイトだった子だ。
あの子、耳がほとんど聞こえなくってよ。
ほら、耳に何か付いているだろ? 補聴器だ。
でも生徒会長の奴にイヤホンだって
イチャモンつけられて、
そのまま転校させられてしまったんだよ……」
「そんな!」
すると今度は、突然ガンッと
激しく何かがぶつかる音がした。
見ると、僕達の隣の牢獄に、
同じ秀尽の制服を着た男子がいた。
「糞鯖が!! オレはただ
仲裁してただけなのに!!」
「あいつは、錦か!?」
「あの人も知り合いでっ?」
「不良の喧嘩を止めてたんだが、
喧嘩を吹っかけたって濡れ衣着せられて
退学させられちまった生徒だ……
おいおい、よく見れば牢獄にいる奴ら、
みんな生徒会長のせいで
秀尽に来れなくなった連中ばかりじゃないか!」
だんだん牢獄の中で色んな声が聞こえてきた。
泣き喚く声、怒号、何かを壊す音。
正直うるさすぎて耳を塞ぎたくなる。
「騒がしいぞ!! 罪人共っ!!」
そんなノイズよりさらにうるさい声が響いた。
甲冑の音を鳴らしながら現れたのは、
あの生徒会長だった。
しかし、今の彼の姿は何か違った。
ギラギラとチラつくスパンコールの服に、
指には高そうな宝石がたくさん着けられ、
黄金色の王冠をかぶった、コスプレ姿だった。
「沙城……!?
おまっ、何だその格好は!?」
「……ふん、侵入者が入ってきたと聞いてみれば、
まさか貴様だったとはな。五十嵐」
「まさかこれ、全部お前の仕業か!?」
「俺が何をしようが勝手だろう!
それより、我が聖域に土足で踏み入れ、
決して漏らしてはならぬ秘密を知ったからには、
それなりの罰を与えてやらねばな!」
「罰、だとっ?」
「解錠せよ!! これより処刑を開始する!!」
甲冑達が牢獄の鍵を開けた。
ぞろぞろと甲冑達が入ってくる。
「お、おい、処刑って何だよっ!?
俺達が何をしたってんだ!?」
甲冑の一人が五十嵐さんを殴った。
「がはっ!?」
「五十嵐さんっ!」
僕は慌てて五十嵐さんに寄り添う。
「田嶋、お前だけでも逃げろっ……!!」
「で、でも!」
甲冑達が五十嵐さんを拘束した。
五十嵐さんが羽交い締めにされると、
生徒会長はニヤニヤと見つめる。
「前々から貴様のことは狙っていた。
校則違反のオンパレードなその格好に、
度々授業をサボる悪態ぶり。
なのにそれに似合わぬ正義感。
つくづく癪に触る奴だ」
すると、生徒会長は五十嵐さんの腹を
躊躇なく踏み蹴りした。
「がっ……!!」
「痛いか? 痛いだろう? ならこれはどうだ?」
今度はギリギリと腹を踏みにじる。
「ぐっ、あ……やめ……ろ……!!」
「いい、いいぞ、ああ、その顔だ!!
男なのは惜しいとこだがまあいい!!」
僕は何とかしないと思った。
「や、やめろ……!」
しかし、甲冑達が邪魔するせいで、
僕はその場に立ち尽くすことしかできない。
怖い。早く逃げたい。
でも彼を見殺しにはできない。
だけど足が動かない。
何をやりたいんだ!? 僕は!!
そんなジレンマに悩む僕を、
生徒会長は鼻で笑う。
「そこで見てろ、転校生。
何もできやしないこいつの末路を」
すると、甲冑の一人が五十嵐さんの顔を掴んだ。
ギリギリと金属音を鳴らし、
五十嵐さんの顔を握りつぶそうとしている。
「あ、ああああっ……!!」
心臓がバクバクと鳴る。
どうすれば良い?
どうすれば良いんだ?
悩んでいた、その時だ。
ーどうした?
頭の中に声が響いた。
僕によく似たその声が、静かに話す。
ー見て見ぬふりをするつもりか?
このままでは本当にあいつは死ぬぞ。
わかっている。でも、足が動かない。
ー勇気。お前のその名前の由来は何だ?
父親が願いを込めて付けた名だろう?
ここで逃げたら名前だけと言うことになる。
何より、“あれ”は間違いだったのか?
「……違う。もしあの時、僕が入らなかったら、
父さんも母さんもきっと、
もっとひどい目に遭っていた……
僕は、正しいことをした……!」
ー良いだろう、ならば力を貸してやろう。
これは契約だ。
その直後、僕から風が吹いた。
「何だっ?」
「!!」
そして、僕に異変が起きた。
「あ、あああっ、ああああああっ!?」
僕の中で何かが弾けそうになる。
ここから出せ。解放しろ。
そう言っているような感じがした。
でも解放したら後には戻れない感じもした。
やめてくれとも感じた。体が熱い。
今にも爆発しそうだ。
「押さえろ!!」
甲冑達が僕を取り押さえた。
「……!? 貴様、何だ“それ”は!?」
生徒会長の言う“それ”。
それは突然現れた、僕の“仮面”。
黒い布を後ろで結んで作られた仮面。
煩わしい。早く脱ぎたい。
僕は仮面に手を掛けた。
「う、ううっ、うわあああああああああーっ!!」
ブチィと仮面が顔から剥がれ、
僕の目の周りは血塗れになった。
その直後、足元から青い炎が湧き出た。
ー我は汝、汝は我……
遍く命を冒涜する愚かな屑共に、
今こそ見せてやれ、お前自身の、
真の正義を我が名と共に!
「来い!! “レスター”ッ!!」
現れ出たのは、白のテンガロンハットが目立ち、
両手に大量の刃を拵えた、巨大な異形の存在。
そして僕の姿も、黒のジャケットとスキニー、
足には防具が着けられた、
端から見れば“カッコいい”姿になっていた。
その圧倒的な雰囲気に、
五十嵐さんはもちろん生徒会長も驚く。
「あんた……!?」
ーそう、我が名はレスター。
お前の中に眠る反逆の魂。
お前が望むのであれば、
窮地を脱する力を与えよう。
「ああ……力を貸してくれ!!」
衝撃波が飛び、甲冑達を一網打尽にした。
「うわあっ!?」
生徒会長が尻餅をつく。
その衝撃で生徒会長の懐から鍵が落ちた。
一瞬を見逃さなかった五十嵐さんが、
生徒会長にタックルした。
「鍵は貰うぜ!! 田嶋、逃げるぞ!!」
「あっ、はい!」
僕達は牢獄を抜け、五十嵐さんは鍵をかけた。
「き、貴様あっ!!」
閉じ込められた生徒会長が鉄格子越しに叫ぶ。
慌てて逃げる僕達を、甲冑達が追いかける。
重装備に似合わず足が早い。
「くそ!! 追いつかれちまう!!」
甲冑の一人が五十嵐さんに食らいつこうとした、
まさにその一瞬だった。
剣が何かに弾かれた。
五十嵐さんの足元には、
金色の弓矢が刺さっていた。
「弓矢っ?」
「一体どこからっ?」
「間に合ったようでちゅね!」
こんな禍々しい空気をぶち壊すような
可愛らしい声がした。
振り向くと、そこにいたのは
フリフリのリボンの服を着た
白いウサギのマスコットだった。
そのマスコットの背後には、
ローブを着た女性の様な異形の存在が
弓を構えていた。
「ぬ、ぬいぐるみっ!?」
「が、喋ってる!?
しかも、あれってさっき田嶋が出してたやつ!?」
「いくでちゅ! エウリュアレ!」
エウリュアレと呼ばれた異形の存在が矢を放った。
弓矢が甲冑達を次々と射抜いていく。
「さあ早く! こっちでちゅ!」
僕達はそのマスコットに導かれる。
そして、いつの間にか景色が変わった。
「……あれっ?」
気づけば景色は、元に戻っていた。
空はオレンジ色に戻り、学校も元の姿になり、
僕自身も制服姿に戻っていた。
「逃げ切った、のか……!?」
「みたい……」
僕らは安心してへなへなと座り込んだ。
「よかったでちゅ〜!
なんとか守れたでちゅね!」
「へ?」
さっきの声が聞こえる。
「今の声、俺達を助けたあの……」
「ここでちゅ、ここでちゅよ!」
僕は周りをキョロキョロと見渡す。
すると、僕の足元にいつの間にか、
テディベアサイズのピンク色のウサギの
ぬいぐるみがあった。
「ぬいぐるみっ?」
僕はぬいぐるみを抱き上げる。
「はい! あたちでちゅ!」
ぬいぐるみが突然動いて喋った。
僕と五十嵐さんの悲鳴が、
夕焼け空に響いた。
日が沈んで間もない頃、
僕はやっとホームズに帰宅した。
「あら勇気君、お帰りなさい。遅かったわね」
笹野さんが笑顔で迎える。
「すみません、遅くなりました。
あの、ちょっとお客さんが……」
そう言って僕は五十嵐さんを店に入れる。
「どうも」
「まあ、いらっしゃい!
その制服は秀尽ね? どうぞどうぞ!」
よかった。とりあえず歓迎してくれた。
「あ、僕ら部屋で宿題しますから、
ご飯は部屋に持ってきてくれますか?」
「ええ、わかったわ。どうぞごゆっくり」
僕らはとりあえず屋根裏部屋に入った。
「……もういいよなっ?」
「はい……多分……」
僕は慎重に抱えていたカバンを開けた。
「ごめんよ、もう出ていいよ」
「ふう〜、狭かったでちゅ〜」
ぬいぐるみがカバンから飛び出した。
そう。あの後とりあえず事態を確認するため、
僕は周りの人や笹野さんにびっくりさせないよう、
内心ビクビクしながらこのぬいぐるみを
部屋に持ってきたのだ。
「まあ、色々と聞きたいことはあるが……
まずは礼を言わないとだな。
助けてくれてサンキュな」
「当然でちゅ! 困ってる人が助けるのが
あたちの役目でちゅ!」
「名前、まだだったよね?僕は勇気。
この人は五十嵐さん」
「どうも、五十嵐宗馬だ」
「あたちはホップでちゅ!
それより、君達は何故パレスに?
で、勇気君も見た感じ
ペルソナが使えそうでちゅけど?」
「“パレス”? “ペルソナ”?」
「パレスってさっきの変な場所のこと?」
「そうでちゅ! 察しがいいでちゅね〜!」
「なるほど! で、ペルソナっつーのは?」
するとホップは、僕の学習机の上に乗り、
えっへんと威張りながら語る。
「心の中にある“反逆の魂”でちゅ!
そして同時に、もう一人の自分自身でちゅ!」
「はあ……」
五十嵐さんは理解が追いつかないのか
呆然としている。
それは僕も同じだけど、少し心当たりがある。
僕がレスターと呼んだあの異形の存在。
そしてホップが似た奴を召喚していた。
あれがおそらくペルソナだろう。
「勇気君が着けていた仮面!
あれこそペルソナ使いたる証拠でちゅ!
ペルソナとは心の仮面が形となって
現れ出た存在なのでちゅ!」
「あれかっ? 田嶋の背後にいた、
なんかでっかい奴のことかっ?」
「あれが、僕のペルソナ……」
ペルソナがもう一人の自分自身なら、
あの苦しさにも理由がつけられる。
きっとあれでもう一人の
自分自身が解放されたんだ。
言われてみればあの後から、
なんか吹っ切れたような清々しさを感じる。
多分自分自身を解放したからだろう。
「そうとわかれば心強いでちゅ!
勇気君、君に頼みがあるんでちゅ!」
「頼み?」
「あたちと君とで、あのパレスを
消してほしいんでちゅ!」
「パレスを、消すっ?」
また訳のわからない言葉が出た。
「正確にはあのパレスの主、
沙城浩一を改心させるんでちゅ!」
「生徒会長を改心させる!?」
「できるのか!?」
あの無茶苦茶な人が改心したら、
そりゃあ今よりマシにはなるかもしれないけど、
本当にそんなことが可能なのか。
「たしかに奴は救いようのないくらい
無茶苦茶な奴だけどよ、
だからって改心させるなんて
無謀な策だと思うが?」
「そうはいかないんでちゅ!
というか、早くなんとかしないと
大変なことになるかもしれないんでちゅ!」
「大変なことって?」
「パレスとは、欲望が歪んで出来た空間でちゅ。
今で言うなら、あの空間は沙城浩一の
歪んだ欲望なのでちゅ。
パレスの中にいた君達なら、
もう見たんじゃないでちゅか?
沙城浩一の歪んだ欲望の全貌を」
もしや、牢獄にいた人達のことだろうか。
「そう言えば、牢獄みたいな場所に
僕達が通う学校の生徒が結構いたよ。
たしか、五十嵐さんの話じゃ
みんな学校に来れなくなった人達だって」
「ああ。みんな生徒会長の自分勝手な理由で
学校に来れなくなった。
そういや、あいつらはどこから来たんだ?
ていうかみんな無事なのかっ?」
「安心するでちゅ。
パレスの中にいる人間は、
主の妄想から生まれた幻。
本物の人間ではないでちゅ。
いわば影、シャドウと呼ばれるものでちゅ。
それはもちろん、君達を襲った
沙城浩一もシャドウでちゅ」
「つまり、本物の生徒会長じゃないってこと?」
言われてみれば、あんなコスプレ姿
現実でするなんて考えにくい。
まあ、事実だとしても考えたくないけど。
「あれは沙城浩一の奥にある
ドス黒い心が形となって現れた姿でちゅ。
本性と言っても過言じゃないでちゅ」
「マジか……あれが沙城の本性なのかよ……
まさかのコスプレ好きだとは」
「いや、多分そこじゃないかと……」
「これはあくまで憶測に過ぎないのでちゅが、
このままあいつのパレスを放置しておけば、
被害者が増えてしまうかもしれないでちゅ!
いつか取り返しのつかない事態だって
起きるかもなんでちゅ!
そうなってしまう前に、
パレスを消さないといけないんでちゅ!
でも、それにはリスクも伴うんでちゅ……」
「リスク?」
「最悪、沙城浩一の命を奪うことに
なるかもしれないんでちゅ」
「命をっ!?」
人殺しになるかもしれない。
急に僕は怖くなった。
「だから勇気君。無理にとは言わないでちゅ。
しっかりと考えてから…」
「よーし、わかった!
沙城の改心作戦に乗る!」
いの一番に五十嵐さんが賛同した。
「へ?」
「だってあの沙城を改心させるんだろっ?
これはまたとないチャンスじゃねえか!
これ以上あいつの好き勝手にはさせねえしな!」
「ち、ちょっと待って五十嵐さん!
そんな二つ返事で返すなんて!
だって、ホップが言ってたじゃないですか!
最悪人殺しになるかもしれないんですよ!?」
「でもよ、このままあいつをほっとけば、
もっとひどいことになるかもしれないんだろ?
偽者とはいえあれが
あいつの本性ならやりかねない。
だったら止めるしかねえ!
それによ、もし万が一殺しちまったとしても、
それで誰かを救えるなら後悔しないさ」
「だからって……!」
「ダメでちゅよ!
宗馬君はペルソナ使いではないでちゅ!
正直言って危険過ぎでちゅ!」
「……危険は承知の上さ。むしろ上等だ」
何故こんなにも堂々としていられるんだろう。
まるで死ぬのが怖くないかのようだ。
「でも田嶋! お前がいれば百人力だ!
一緒に来てくれるよなっ? な?」
すでに僕も同行前提になっている。
「で、でも……!」
五十嵐さんが真剣な眼差しを僕に向ける。
「あの時のお前、マジでカッコ良かった!
最初は気弱そうな奴と思ってたけどよ、
前言撤回する!
お前はやればできるんだ!
やれるんだよ、田嶋! いや、勇気!」
「!!」
僕ははっとなった。
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだ。
僕は両親から嫌われてはいなかったけど、
愛情はどちらかと言えば
優秀な兄さんの方に深く注いでいた。
両親が僕に口癖のように言ってたのは、
ーお前はお前らしくいればいい。
あまり僕を鼓舞するようなことは
言ってくれなかった。
まあ何かに挑む時には
頑張ってとかぐらいは言ってくれるけど、
五十嵐さんみたいにここまで
熱く言ってくれたことはなかった。
五十嵐さんが僕を信頼してくれてる。
そう気づいた時、さっきまでの怖さが
少しだけ薄れた気がした。
「……ホップ」
「うん?」
「生徒会長を改心させることができるのは、
ペルソナが使える僕と君だけなんだよね?」
「そうでちゅ! 心の底にある、反逆の魂だけが、
凶暴化したシャドウを止められるでちゅ!」
「……だったら、やるよ。
僕にできることなら!」
僕は覚悟を決めた。
これが僕の、怪盗としての初仕事となった。