ペルソナ5 Dark Revengers   作:海色ベリル

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第21話 This is myself of the truth

土曜日。今日はまた天出先生に会う約束の日だ。

君島さんからの連絡で、

渋谷のブチ公前で待ってほしいとあったので、

僕達は言われた場所で待つことにした。

「……遅ぇ」

霧矢が不機嫌そうに呟いた。

「君島さん、遅いね?」

「もう三十分は経つぜ〜?

車椅子とはいえちょっと遅くねえか〜?」

宗馬は暇そうだ。

「メッセージも既読すらついてないな……」

「一回君島さん家に行ってみる?」

ということで僕達は君島さんの家に向かった。

前に霧矢から聞いた話じゃ、

君島さんを引き取った叔母さんは

かなりヒステリックな人らしいので、

何されるかわからない。

とりあえず霧矢は警戒されてしまったので、

霧矢には近くの別の場所で待機してもらった。

ドキドキしながら僕はインターホンを押す。

「はいはいどなたー……?」

出迎えてくれたのは女の人。

どうやらこの人が叔母さんのようだ。

「あの、僕達君島翼さんと知り合いで、

今日彼女と待ち合わせしてたんですが、

まだ来ていなくて……」

「……あの子なら朝早くから出たわよ」

「え!?」

「どこに行ったんですかっ?」

「知らないわよ。私が起きた時にはいなかったし」

淡々と話す叔母さんの様子に、

なんだか僕は違和感を覚えた。

「携帯も連絡が着かなくてっ、

何か心当たりのある所とかありますかっ?」

「だから知らないって言ってるでしょ!

探したきゃ探せば!? 私は知らないから!」

バタンと激しくドアが閉じられた。

「あーあ、門前払いか……」

「でもどうしよう!?

君島さん、一体どこに行ったんだろう!?」

「一足早く天出先生の家に行ったのかな?

でもそれなら連絡ぐらい着くだろうし……え?」

「どうかしたか?」

まさかとは思うが僕はある事案を思いついた。

「まさか……ホップが言ってた地下室、

君島さん一人で開けようとしてるんじゃ……!?」

「ええっ!?」

「なっ、なんでちゅって!?」

ホップが驚きのあまり鞄から飛び出した。

「危険でちゅ!! たった一人で行くなんて

死に行くようなもんでちゅ!!

翼ちゃんが危ないでちゅよ!!」

「おい!!」

そこに、霧矢が突然駆け出してきた。

「霧矢っ? どうしたのっ?」

「……俺宛てに君島から連絡が来た」

霧矢は僕達に携帯を見せてくれた。

“ごめんなさい。騙すようなことして。

これ以上迷惑をかけたくないから、

なんとかして片付けます。”

 

一方その頃、天出の邸宅にて

翼は天出と面会していた。

天出はにこにこと出迎えてくれた。

「いやあ、驚いたよ。

まさか君があの君島悟教授の娘だったとはね。

懐かしいなあ〜、お父さんは元気?」

「いえ……四年前に事故で……」

「ああ、そうなのか……それは気の毒に。

君のお父さんは研究熱心な人でね、

私とインタビューをしていた際も

事細かにメモに書き残してたし、

家の様子を見て感動していたりと、

まるで子供の様な感じがしたよ」

楽しく談話しながらも、

翼は内心ドキドキしていた。

なんとか隙を突いて地下室に行かなければ。

翼はその時を待っていた。

「失礼します、旦那様」

そこへ、メイドの一人が出てきた。

メイドは天出に耳打ちをする。

「……何? わかった、すぐに向かう。

すまないね君島君。

ちょっと急用ができてしまって。

一度抜けさせてもらうよ」

「ええ、構いませんよ」

天出はそそくさと部屋を出た。

何か違和感を感じた翼は天出に気づかれないよう

後をつけることにした。

メイドと別れ、天出は暗い廊下を渡る。

もしかして地下室に向かうのだろうか。

なら今こそ好都合だ。

翼は天出が扉を開けた瞬間、すぐさま侵入した。

「あ……」

しかし困ったことに階段があった。

車椅子では降りるのは難しい。

手すりはあるがスロープがない。

「……」

悩んだ翼は覚悟を決めて、

自分の足で降りることにした。

気づかれないよう天出から距離を取って進む。

万が一すぐにでも逃げられるよう、

車椅子も片手で引くことにした。

地に足を着けるのは実に四、五年ぶりだ。

翼はドキドキしながら手すりを持って一歩を出す。

階段が木製だったら危なかったが、

コンクリート製なため崩れることはないだろう。

「よし……」

一歩ずつ、一歩ずつ、ゆっくりと降りる。

しかしこれでは時間がかかる。

地下室もどこまでが階段なのかもわからない。

すぐそこなのか、もっと奥深くなのか。

だんだん不安になった、その時だった。

うっかり翼は足を踏み外してしまった。

「あっ!!」

車椅子と共に派手に転げ落ちていく。

「うわあああっ!?」

激しく落下し、階段の終わりに着いた。

幸い尻もちで着地したため、

大事には至らなかった。

車椅子はガシャーンと大きく音を立てて倒れたが、

頑丈に出来ていたのが幸いだったのか

破壊することはなかった。

「いったたた……」

翼はお尻をさすって周りを見る。

周りは暗くてよく見えない。

すると、近くでガチャッと音がした。

「き、君島君っ!?」

目の前にいたのは、天出だった。

天出からは光が差し込んでいる。

まさかと思った翼は急いで車椅子に乗り、

その光に向かっていく。

「あ、ちょっと!」

天出の制止も聞かずに翼は部屋に入った。

「……!?」

翼の目の前で見えたのは、

痩せ細った男性二人が

楽器とパソコンと向かい合う、

異様で殺風景な光景だった。

「楽器とパソコン……それに」

近くには大量のファイルが

収められている棚がある。

翼はファイルの一つを取り出した。

ファイルに入っていたのは、楽譜だ。

「……ゴーストライターの噂は

本当だったってことですかっ? 天出先生!」

部屋の入り口で立ち尽くす天出に翼は向き直る。

「……」

観念したのか、天出はため息を吐いた。

「見られてしまったからには仕方ない。

君には話さなければいけないな。

……実は、私は今スランプに陥っている。

曲が全く書けない状態なんだ。

楽譜と向かい合うと震えが止まらず、

動悸が激しくなってしまう。

かれこれこんな状態が四年ぐらい続いている。

原因はただ一つ……家族が死んだからだ」

「家族が……?」

「……私はね、夢のために家族を捨てた身なんだ。

実家は明治から続いた

由緒正しい呉服屋だったんだが、

時代の流れにはついていけなくてね、

衰退の一途を辿っていた。

そんな時、取引先の一人でもある父方の祖父母が

ある提案を出してくれた。

私が彼らの婿養子となってくれれば

支援を考えなくもないと。

けど、私はそれを断った。

作曲家になるという夢を諦めきれなかったからだ。

それに祖父母は夢を馬鹿にしていた。

呉服屋の跡継ぎしか将来性のない男が

何の未来も切り拓けるわけがないとな。

私には耐えきれなかった。

だから私は実家を捨てたんだ。

そして四年前、家族が一家揃って

心中したと連絡が来た。

あの後実家の呉服屋は廃業され、

住処も失い、水一杯も飲めないくらいに

貧困な生活を強いられたらしい。

そんな中で私は作曲家としての夢を叶え、

成功を収めていた。

私の幸せは家族から奪って出来たものと言っても

過言ではないんだ。

そう思うと私は自分が愚かでならない……!」

天出は拳を強く握りしめた。

「だが、そんな状況でも待ってくれないのが

芸能界というものだ。

私の新作を待ち侘びている者だっている。

しかしある時、どんな手を使ってでも良いから

曲を一曲作ってくれと頼まれた。

私はどうしたものかと困り果てた。

そんな時だった。私の事情を知っている者が、

代わりに作曲をすることを自ら名乗り出てくれた。

作ってくれた曲は素晴らしいものだった。

以降、私はやむなく

ゴーストライターを雇うことになった。

作曲家志望の若者を指導するという条件付きで、

彼らに曲を作ってもらう。

でないと私はやっていけない。

それくらい芸能界は私を求めているのだよ……」

暗い表情の天出に翼は困惑した。

「で、でもだからって、こんなことやって

良い理由にはなりませんよ!」

「わかっている! でも無理なのだよ……

私には借金がある。悪徳金融に騙されてね、

私が曲を作って売り出さないと成り立たない。

もちろん、借金を返済したらこのことは

きちんと公表するつもりだ!

頼む君島君……このことは黙っていてくれ!

どうか、この通りだっ!」

天出は頭を深く下げた。

「……う、嘘だっ!!」

すると、曲を作っていた男性が弱々しく叫んだ。

「公表するなんて全くの嘘だ!!

借金なんて本当はないんだろ!?」

「え……!?」

「そいつは曲なんて作れない……いや、

作曲のセンスなんてまるでないから

ゴーストライターを雇っているんだ!!

悪徳金融と手を組んでいるのも、

借金返済じゃなくて金をもらっているからだ!!

用済みとなった俺達を売るつもりで!!」

「俺達は騙されたんだよ……!!

作曲を指導してくれると甘い言葉に乗られて、

気づけば奴隷になっていた……!!

でも仕方ないんだよ……!!

こうじゃなきゃ俺達には道がねえ……

この人に逆らったら生きていけないんだ……!!」

男性二人の心からの叫びに翼は胸を痛めた。

そして、かねてよりの目的を発するには

ここだと決意したのだ。

「……なら、ボクが代わりになります」

「え?」

「天出先生、ボクを専属の

ゴーストライターにしてください。

その代わり、この人達を解放してください」

「な、何を言ってるんだいっ?

君島君、君には作曲の経験があるのかい?」

「いいえ。でも教えていただければできます。

だってボクはそういう人間だから……

“天才”と呼ばれているから……」

「!」

天出ははっとなった。

「ボクが天出先生の苦悩全てを肩代わりします。

犠牲は僕一人で十分です。

だからもう、誰かを傷つけないでください!

天出先生は素晴らしい作曲家です!

たとえ曲が作れないとしても、

あなたが公表した楽曲は色んな人達に

多大な影響を与えてくれました。

あなたという存在がいたからこそ、

音楽界は大きくなったんです。

そんなあなたが誰かを犠牲にするなんて

ボクは見たくありません……! だから…」

その時、パァンと弾けたような音がし、

その後翼の頬に熱が帯びた。

「え……?」

「失望したよ、君島君」

天出の目が冷たく翼を見据える。

「いい機会だ。君に教えてやろう。

私がこの世で一番嫌いなのはね……天才なんだよ。

私は心底嫌なのだよ。生まれ持った才能で

人々に貢献しながらも、その中にはまったく

鼻にもかけない偽善者がいる。

そしてその中でもいやらしいのは、

自分よりも他人を優先する人間だ。

全員とは言わないが天才は皆そうだ。

君も、君のお父さんもそうだ。

天才の肩書きを気にしないばかりか、

その才能を自分のために使う。

そんなところを見ると寒気がする。吐き気がする」

ゆらりと歩く姿は人間には感じない。

翼はぞっと恐怖を感じた。

「そんな君にこんなこと知られたら厄介だ。

悪いが君には消えてもらおう」

そう言いながら天出は

部屋にあった金属バットを手に

ゆっくりと翼に近寄ってきた。

「あ……あ……!?」

恐怖に駆られた翼は慌てて部屋から出た。

だが行き先は二つ。

階段を登って脱出するか、

もう一つの部屋に入ってやり過ごすかだ。

もう一つの部屋は何があるかはわからない。

しかし階段を登る力がない翼は、

覚悟を決めて部屋に入ることを選んだ。

金属ドアは重く開けにくいが、

なんとか開けて部屋に入った。

部屋の中は洞窟のようだ。

「洞窟……?」

困惑している暇はない。

すぐにでも天出がやって来る。

翼は急いで車椅子を回す。

「あっ!」

すると突然、翼は何かにぶつかった。

「……あ?」

目の前にいたのは、強面な顔の男三人組だ。

「あんた誰だ? 何故うちの隠れ家にいる?」

「隠れ家……!?」

「あ、兄貴! もしかして

新しい金蔓じゃないっすか?

しかも女の子っすよ!

体で売るには良いかと!」

「ほお……天出の大先生もやるな……?」

男の一人が翼に近寄り、顎に触れる。

「……悪くねえ。見せもんにはちょうどいいな。

軽く五百万は越えそうだな」

翼はぞっとなった。

間違いない、悪徳金融の連中だ。

翼は本能のまま男に頭突きをした。

「痛っ……!!」

怯んだ隙を狙って翼は逃げた。

「野郎!!」

翼は洞窟の柱に隠れた。最悪の事態だ。

天出からもヤクザ紛いの男からも狙われている。

「どうしよう……どうしよう……

こんなはずじゃなかったのに……!!」

天出のあの様子では

自分の話を聞いてはくれないだろう。

何故自分に敵意を向けてきたのかはわからないが、

あれではゴーストライターに

してくれないのは確かだ。

どうすればいいかと翼は模索する。

すると、翼のスマホが震えた。

「……?」

誰かから連絡が来たのかと思い、

スマホを取り出した。

見ると、ホーム画面に見慣れないアプリがあった。

目のイラストが描かれた青いアプリ。

「これ……!」

翼には心当たりがあった。

勇気が使っていたアプリだ。

「田嶋勇気はこれを使ってパレスに入ってた……

確か、名前と場所とパレスのイメージを言ってた。

天出高雄、渋谷、パレスのイメージは、えっと、

そうだ。オペラハウスだっけ?」

すると、周りの景色が変わった。

「あ……!?」

周りは金ピカに光るミュージアムになっていた。

「パレスに入れた……?」

「来たか、この偽善者め」

翼の前に現れたのは、天出のシャドウだった。

天出は冷たく翼を見下ろす。

 

君島さんを探すため、

僕達は急いでパレスに侵入した。

推測が正しければ、君島さんが

現実で地下への扉を開けて、

パレスの開かない扉が開いているはずだ。

「……あ!」

行ってみると、鉄製の扉がなくなっている。

「扉がなくなってる!」

「じゃあ、君島さんが現実で

地下への扉を開くことが

できたってことかな?」

「どっちにせよ早く翼ちゃんを見つけるでちゅ!」

急いで僕達は扉の先へ向かう。

すると、目の前に人影がいた。

天出先生のシャドウと君島さんだ。

「君島さんっ!」

僕の声に気づいた君島さんが振り向いた。

「みんな……どうして……!?」

「賊共も来たか。ちょうどいい。

この娘もろとも始末してやろう」

天出先生が指を鳴らすと、警備服姿のシャドウが

僕達を取り囲んだ。

「……馬鹿っ!! なんで来たんだよ!!」

突然君島さんが叫んだ。

「みんなは何もしなくて良かったのに!!

天出先生のことはボクがなんとかする!!

だから早く逃げてよ!!」

「何言ってんだよ!! こんな状況で

お前を置いていけるかっての!!」

「いいの!! ボクが、全部背負うから……!!

ボクがこの人の専属のゴーストライターになる……

それで全部丸く収まるはずだから……!!」

「え……!?」

まさかそれが、一人で向かった本当の理由なのか。

ゴーストライターにされた人達の

代わりになるために。

「まさか君島さん、自分を犠牲に

他の人達を助けようと……!?」

「残念だが、その話は承れん。

何故ならお前は“天才”だからだ。

天才を招き入れるなど俺にとっては

不愉快極まりないからな」

「!!」

天才だから受け入れない?

一体どういう理屈だろうか。

「それに、専属など私には必要ない。

複数いればこそ事足りるからだ。

たった一人を専属にしてしまえば、

入る金の量が減ってしまう。

複数いれば金はその分入る。

用済みになった連中は、その身を持って

私の資金になってもらう。

そう! 私の周りにいる人間は、

私の筆でありATMなのだよ!!」

渋谷の人が万年筆やATMに見えていたのは

そういう認知からだったのか。

「酷いことを……!!」

僕は拳をぎゅっと握りしめた。

「あなた作曲家なんでしょう!?

他人に任せて名前だけ売り出すなんて、

恥ずかしくないと思わないの!?」

「まだわからんか? 音楽業界は俺を欲している。

名前さえ出れば手段などいらんのだ!!

天出高雄と言う名がある限り、

曲は永遠に作られ続けるのだよ!!」

「……自分は名前だけ売って

あとは全部他人任せかよ。

しかも金のための犠牲前提で……」

「最低……!」

「だが一つ解せねぇことがある。

金と名誉目当てで

ゴーストライターを雇ってんなら、

雇う人間の才能なんて知ったこっちゃねぇはずだ。

何故君島を天才だからという理由で拒否する?」

霧矢の言う通りだ。

音楽の才能は問わないにしても、

むしろ天才なら雇うには良い人材のはずだ。

「天才に属する人間の中にはな、

自らの才能を誰かに振る舞おうとする者もいる。

自分を犠牲にしてでもな。

そこの娘も、父親もそうだ!

まさに今その娘は自分を犠牲にしようとしている!

俺はそれが嫌で嫌でしょうがない!!

見ているだけで腸が煮えくり返る!!

天才なんぞ自分を見ない傲慢な人間だ!!」

言ってる意味がわからない。

けど、君島さんが自分を

犠牲にしようというのはわかる。

君島さんほどの才能なら作曲だって簡単だろう。

彼女もそう思った上で行動したと思う。

でもそれは、天出先生の悪さを君島さん一人で

全て肩代わりしなければならないみたいなものだ。

「何で……何でっ……!!」

君島さんは頭を抱えた。

「みんないつもそうだ……!!

ボクが天才だから、天才だからって……

ボクは好きでそうなったんじゃないのに……!!

ボクはただ、“普通”でいたいだけなのに……!!」

「!」

君島さんの目から涙が出てくる。

「普通でいなきゃいけないのに……

でもボクの本能がそれを許してくれない……

だったらここで、いっそ消えちゃえばいいって、

だからこうしたのに……!!」

「君島さん……!」

彼女の様子には見覚えがあった。

そうか、彼女も“同じ”だったんだ。

なら僕にできることは、ただ一つ。

「……わかるよ」

「え……?」

「君島さんの気持ち、すごくわかる!

君は今の自分が好きじゃないんだね?」

君島さんははっとなった。

「……そう、だよ。嫌い、大嫌い……!」

「うん、だよね。僕もそうだった。

僕も、兄さんのことがうらやましくて、

僕も兄さんの弟なら対等であるべきだって

思ったこともあった……

でも、兄さんには敵わなかった……

どんなに努力しても兄さんには勝てなかった……

何で僕は兄さんには勝てないんだろうって、

一時は自分で自分に嫉妬してた……

現実はそうなんだって諦めてた……

でも今はそうは思わない!

これが“僕”なんだって思える!」

僕は思ったことを君島さんにぶつける。

「ぼ、僕はっ、宗馬みたいに頼りがいはないし、

茜みたいに世話焼くの苦手だし、

霧矢みたいにズバズバ言えないし、

当然君島さんみたいに天才じゃない!

でもそれで良いと思う!

この先どうなりたいかはまだわからないけど、

今はこんな自分で良いんだって思う!

“平凡な自分”が今の僕の

“本当の自分”なんだって!」

「!!」

「君島さんにとっての本当の自分は、

普通の自分なの? 君のお父さんやお母さんは、

学ぶことが悪いことだって言ったの?」

「あ……!」

 

ー翼、これだけは知ってほしい。

学ぶことは大事だが学びすぎは良くない。

何故なら知りすぎたことで後悔することがある。

学ぶということは、知識を得ると同時に

受け入れないといけない。

色んなことを学びたいのなら、

その覚悟を持って学びなさい。

 

「……違う。父さんは学びすぎることは

良くないとは言ってたけど、

ボクが学ぶことを否定はしなかった!」

「じゃあ、お父さんは君が

自分の才能を封じることを望んでる?」

「ない……絶対にない!

もう本心は聞けないけど、

父さんならそんなことしない!

胸を張っていいって言うはずだ!」

「黙れ!! 天才は傲慢だ!!

誰にも迷惑をかけず、波風立たぬように生きてこそ

一人の人間なのだよ!!」

「てめえがそれを言うかよ! つーか黙ってろ!」

霧矢が天出先生を鋭く睨む。

「そうだ……何で今までこんな

簡単なことに気づかなかったんだ……

いや、本当は気づいていたんだ……

気づいてて気づかないふりをしてた……

ボクは普通じゃないって。

でも周りの言うことに踊らされて、

勝手に自己嫌悪してたんだ……

自分で自分を押し殺していたんだ……」

君島さんは拳を強く握りしめた。

「歪んでいたのはボクの心じゃなかった……

ボクを普通にさせようとした、世界なんだっ!!」

やっと顔を上げたその時だ。

「……!?」

 

ー覚悟は決まりましたか?

これは君自身の選択です。

進むのも戻るのも、君次第です。

 

「……いいよ。来て!!」

その瞬間、君島さんが苦しみだし、

車椅子から転げ落ちた。

「う、ううっ、あああっ、ああ!?」

 

ー……意思を確認。これで契約は完了です。

我は汝、汝は我……

英知は開かれました。

君が持つ知識が力となるでしょう。

さあ、今こそ解き明かす時。

方程式の答えを出すのです。

 

「……答えならもう、とっくに決まってる!!」

君島さんの顔に現れたのは、

ガラスで出来たゴーグル。

まさにそれは、“仮面”だ。

 

ーいい答えです。素晴らしい。

今日は、嘘で支配された

自分からの解放記念日です。

どうかこれからも

本当の自分を見失わないでください。

 

すると、自力で立てないはずの君島さんが、

自らの力でゆっくりと立ち始めたのだ。

「ううううっ、うう〜、うわああああああっ!!」

本能のままに君島さんは仮面を外すと、

青い炎が湧き出た。

「な、なんだっ!?」

突然の事態に天出先生は慄く。

炎から現れ出たのは、鋼の様な材質で出来た、

巨大なペルソナだった。

「ペルソナ……!?」

いや、それはペルソナと言うよりは……

「いやあれ……どっちかって言うと、

“ロボット”じゃね!?」

明らかに大きさが桁違いだった。

そのペルソナの片手に、

白衣を纏った君島さんが乗っていた。

「……そうだ、わかる。これが本当のボク!!」

 

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