君島さんが目覚めさせた巨大なペルソナが、
天出と取り巻きのシャドウを見下ろしている。
あまりの強大さに天出は恐れながらも強がる。
「ちぃっ!! ギャラ泥棒は許さんぞ!!」
シャドウが形を変えてモンスター化した。
すると、君島さんのペルソナの目が光り、
そこからレーザー光線が出た。
シャドウは塵となった。
「おお……マジかよ……!!」
「あんなペルソナ、初めて見たでちゅ……!!」
こんな強力なペルソナがいるのかと思うと、
なんだか鳥肌が立ちそうだ。
「……どこまで行けるかわからないけど、
どこまでも全力でいくから!
力を貸して、“マクスウェル”!!」
「よっしゃあ俺達も行くぜ!!」
僕達は反撃を開始した。
「ドレーク!」
「ジャンヌ・ダルク!」
「行け、モードレッド!」
宗馬、茜、霧矢のペルソナが連携し、
シャドウにアタックをかける。
しかし相変わらずシャドウは強い。
「くそっ、やっぱり手強いな……!」
「気をつけるでちゅ! 特に翼ちゃんは、
ペルソナに目覚めたばかりで戦闘は…」
しかし言ったそばから、
ずんずんと君島さんが進み、
敵に隙を突かれてしまった。
「て言ってるそばから!」
「レスター!」
すかさず僕はレスターを召喚し、
君島さんを襲うシャドウを蹴散らした。
反撃なら今だと僕は君島さんに目配せをする。
「もう自分に嘘つくのやめるって決めたんだ!
行くよ、マクスウェル! 全速前進!」
君島さんのペルソナがパンチを繰り出し、
残ったシャドウを殲滅した。
「くっ……!!」
いつの間にか避難していた天出が
こちらを見下ろす。
君島さんは天出を捉えると敵意を見せた。
「天出ーっ!!」
再びペルソナがパンチをしようとした。
「今ここで倒してもダメでちゅ!!
改心させるには、オタカラを盗まないと!!」
ホップの呼びかけに気づいたのか、
君島さんは攻撃を中止した。
「何をしている!? さっさと始末しろ!!」
そうこうしている間に
またシャドウが湧き出てきた。
「一度撤退しよう! 扉は開かれたんだし!」
「でもシャドウ多いし、
脱出しようにもどうやってっ?」
「脱出口は一つしかないだろう?」
君島さんがペルソナを引き連れてやって来た。
「あっ、天才科学者君島博士! どもっす!」
「ふざけてる場合? 道を開けるからついて来て!」
ペルソナが大量のシャドウを蹴散らす。
かなり無茶苦茶かつド派手に。
「あいつ、すげえな……」
「と、とにかく行こう!」
僕達は急いでパレスを脱出する。
「あくまで抗うか……まあいい。
俺は狙った相手は逃がさない主義なんでな。
俺に楯突いたのが運のツキだと思うがいい」
なんとかパレスを脱出した僕達は、
渋谷のブチ公前に集まることにした。
「本当にごめんなさい!」
開口一番、君島さんが頭を下げて謝罪した。
「ボクの身勝手な行動のせいで
みんなに迷惑をかけてしまって……
本当に申し訳ないよ」
「い、いいよそんな! 頭を上げて!」
「……一応聞く。何故あんなことした?」
「……これ以上叔父さん達に、
迷惑をかけたくなかったから」
君島さんは俯きながら話してくれた。
「叔父さんが言ってたんだ。
天才と呼ばれた兄、ボクの父さんに嫉妬していて、
ボクを馬鹿にすることで
鬱憤晴らしにしてたって……
天才ぶる必要はないって……」
そんなことがあったのか。
にしてもひどいことするなあ。
「……天出の専属ゴーストライターになれば、
負担はボクだけにかかるし、
何より叔父さんや叔母さんに迷惑をかけずに済む。
これ以上ボクの才能のせいで
誰かが傷つくことがないように……でも」
「失敗に終わった、か」
「天才だから断るだったな?
何で天出の奴はそんな理由で
こいつに敵意を見せたんだ?」
「天才と呼ばれた人間に
何か恨みがあるとしか考えにくいな……
まあなんにせよ、これ以上天出を
看過することはできないな」
「だね! 早いとこ改心させなきゃ!」
「……あ」
ふと、僕は忘れていたことを思い出した。
「改心を決めるってことは、
キングスジュエルとの戦いは避けられないよね?」
「ああっ、そうだった! すっかり忘れてた!」
「どっちが先に天出を改心させるかだったね。
まだ新しい連絡は来ていないけど、
挑戦に乗るでいいかな?
一応みんなの意見も聞きたい」
「どっちにしろ避けられない事態だったんだ。
天出を改心させると決めたからには、
覚悟はしておかないとな。
それともなんだ? ここにきて自信ねえとか?」
「まさか! 上等だ!」
「理由は何であれ、欲望奪って
人殺しをしている人達なんかには
負けないんだもん!」
全会一致のようだ。
「……ボクもやるよ」
「君島さんっ?」
「言ったでしょ? もう自分に嘘はつかないって。
ボクは自分の本能を信じていこうと思う。
今のボクは、自分の力がどこまで役に立つか、
どこまで行けるか知りたいんだ。
どうかボクも協力させてもらえないだろうか?」
「うん、君島さんが望むなら!」
協力してもらえるなら大歓迎だ。
彼女ほど心強い人はいないだろう。
僕は君島さんに手を差し出した。
「よろしくね、翼」
「……うん、田嶋先輩」
僕達は互いに握手を交わした。
怪盗団に加わった翼のスキルアップを兼ねて、
僕達はパレスの攻略をしながらも、
彼女をメメントスに連れて行くことにした。
「ここがメメントス……人類の集合無意識……」
「ここでならパレスがなくても
悪い人を改心できるの。
でも結構不気味だから進むのに勇気がいるけどね」
「それにしても……」
僕は翼を観察する。
今の彼女は車椅子なしで自ら立っている。
「認知世界だったら、車椅子がなくても
歩けるようにはなるんだね」
「あくまで推測でちゅが、
自分に嘘をつかないっていう翼ちゃんの認知が
認められたからかもしれないでちゅね」
「まあ俺もこっちだったらナイフを使えるんだ。
車椅子の人間が歩けるようになるってのも
おかしくはねえ話だろうな」
「そうだ! ボクは怪盗団では
どう言う感じで呼ばれているの?
なんか、ニックネームみたいなので
みんな呼び合っていたよね?」
さすが、察しが良い。
「そっか。じゃあここで決めようか!
翼ちゃんのコードネーム!
うーん、何がいいかなー?」
「ふふん、そりゃあもう一つしかないだろ?」
なんだか宗馬が自信あり気だ。
「ロン毛に白衣とゴーグル、
そしてロボットみたいなペルソナ!
この要素からくるコードネームはズバリ!
“博士”だっ!」
うわあ、確かにしっくりくるけど
ちょっとセンスがないかも?
「なんか地味だね。却下」
「……“メカニック”は?」
「ボクはロボット開発しないよ。却下」
「“ドクター”はっ?」
「医療関係ないと思うよ? 却下」
「一応、本人の希望も聞いてみようよ。
翼はどんな名前がいい?」
「……“デルバー”」
「デルバー?」
「探求者って意味。なんとなく思うんだ。
ボクは真実の探求者ってね」
すごく美的だ。僕は胸が熱くなりそうだ。
「うん! いいんじゃない? かっこいいし!」
「じゃあ、改めてよろしくね。デルバー」
「こちらこそ、エース」
というわけで、デルバーを迎えて僕達は
改心へ向けて着実にパレスを攻略していった。
そして幾多のピンチをくぐり抜けて、
ついに天出のオタカラを見つけた。
「あったでちゅ! オタカラでちゅよ!」
見つけた部屋は、大きなホールだった。
「あれがオタカラ? なんか実体がないけど……」
「こっからは予告状を出して、
オタカラを具現化するんだよ」
「……なるほど! 狙われてると認知させるのか!」
相変わらず理解が早い。
天才も伊達ではないようだ。
「でも問題は、どうやって天出先生に
予告状を出すかだよね。
住所はわかってるけどそのまま渡したら
絶対に怪しまれるし……」
「キングスジュエルのこともあるしね。
双方同時に知らせる方法があればいいけど……」
「だったらさ」
翼が自信あり気に提案してきた。
「心の怪盗団を世間に
さらに広めるってのを兼ねるなら、
良い方法があるけど?」
その方法はかなり大胆だった。
それは、渋谷の街にたくさん
予告状を貼るというものだ。
次の日には渋谷中のありとあらゆる場所に
予告状が貼られまくっていた。
「おおー、すごい……」
僕はその様子に息を飲んでいた。
予告状を見つけた人達は
何事かと興味を持っている。
「これだけ公になっていれば、
自ずと天出やライバル達に連絡が行くはずだよ」
「すごい! 翼ちゃん大胆だね!」
「俺と霧矢にも感謝しろよ〜?
バレずに貼るの大変だったんだぜ?」
「まったく、心労尽きねえぜ……」
「よし! これだけあればお膳立ては揃ったでちゅ!
いよいよオタカラを盗むでちゅよ!」
今回のターゲットは言われるがままになったけど、
放ってはおけない。
それに相手が何であれ人殺しなんてさせない。
挑戦相手は得体が知れないけど、
受けたからには全力を尽くすのみだ。
「汚れた栄光にすがる大罪人、天出高雄殿。
作曲家を名乗りながら曲は他人に任せ、
名前だけで売って栄光を得た偽善者。
果てはその栄光を利用し、
未来ある作曲家の卵を踏みにじった
お前の罪は許されることではない。
我々はお前の口から全ての罪を
告白させることに決めた。
その歪んだ欲望を頂戴する。
心の怪盗団、“The Phantom”より……」
勇気達が出した予告状は、
予想通り天出に連絡が届いた。
予告状の文面を聞いた天出は驚く。
「何だそれは!?」
「わっ、わかりません!
渋谷中にこの文面がびっしりと……」
「先生……」
天出はぎりりと歯を食いしばる。
「心の怪盗団だと……!?
そんなふざけた連中に、
私がやられてたまるか!!」
そして僕達は、天出のパレスに乗り込んだ。
こちらを挑発しているのだろうか、
シャドウがあまり寄ってこない。
まもなくオタカラがあるホールに到着した。
扉を開けた、まさにその時だった。
「……ふっふふふふふふ」
ホール中に不気味な笑い声が聞こえてきた。
「よく来たな、心の怪盗団よ」
天出ではないようだ。
「誰だ!?」
すると、ステージにスポットライトが当たった。
そこにいたのは、黒い布を纏った
ピエロマスクの人間だった。
「天出先生、じゃないよね……?」
「何だ……? 奴の認知か……?」
「お初にお目にかかる。我の名前は……
いや、ここで言うのはあれだな。
では呼びやすいよう、ボスと呼んでくれ」
声はノイズとハモリが重なって
声色がよくわからない。
なので男か女か判別がつかない。
いや、それより気になることがある。
「ボス……ってことは!?」
「てめえがキングスジュエルとか言う
連中のボスか」
「そう。そして敢えて言おう。
我こそが、この世界にパレス、すなわち認知世界を
再び甦らせた者そのものだ」
『!?』
こいつがパレスを生み出した張本人。
僕は激しく動揺した。
「あっ、あなたが!?
じゃあモルガナとイゴールを捕らえたのも
あなたがやったんでちゅか!?」
「いかにも。あの二人は
認知の狭間に拘束させてもらった。
猫を捕らえるのには成功したが、
老いぼれは上手くいかなかった。
奴の秘書が余計な真似をしたせいで
完全に捕らえることは出来ず、
泣く泣くベルベットルームごと
監視せねばならなかった」
秘書とはメアリーのことだろうか。
あの人がイゴールを守っていたのか。
「しかも猫までもが余計なことをしてくれたな。
自分と同じ存在を生み出し、
我に抗おうとするなど……まあいい。
何をしようが無駄なこと。
もうすでに我の計画は進み始めている。
“何でも願いが叶う世界”にするための計画がな」
「!!」
再び僕はそれを聞いて鳥肌が立った。
なんだか嫌な感じがする。そんな気がした。
「雪之丞の奴もそう言ってたな……
一体てめえは何がしたいんだ?」
「言葉通りよ。世界を願いで救済する。
億万長者、世界平和、果ては死者の復活!
如何なる望みも叶えられる世界を持って、
この世界を救う。それが我の望みよ」
「願いで世界を……!?」
言葉だけ聞いていればそれはただの夢物語だ。
実現なんて難しい。あっそ、で済まされそうだ。
けれど、僕はそうは思えなかった。
止めないと。何故かそんな衝動に駆られた。
「……僕は」
「ん?」
「僕は、あなたのその望みを認められない!
どんな願いも簡単に叶えられるなんて、
そんなの自分から考えて
動かないようなものじゃないか!
上手く、言葉にはならないけどっ……
ぼ、僕は、あなたの考えは間違ってると思う!」
「おおっ、言うじゃねえか!」
宗馬が僕の頭を撫でる。
「さっすがリーダー!」
「珍しいな。俺も同じこと思ってた」
「そのようだね。みんな同意みたいだ」
「みんな……!」
良かった。みんな同じ考えだ。僕はほっとした。
「……やはりな。
貴様と相容れないとは思っていた。
確かに、貴様はそんな人間だったな」
「え?」
「ならば全力で排除するのみだ。
我が配下、キングスジュエルはいるか!?」
すると、ボスの背後に
三つのスポットライトが当たる。
そこに立っていた、三人の人物。
「ダイヤモンド、ここに」
「ペルラ、ここに」
「エメル、ここに」
『お呼びでございますか? 我らが主よ』
「奴らを阻止せよ。天出高雄の欲望を奪わせるな」
「御意」
ボスは暗闇の中に消えていった。
残された三人を見て僕ははっとなった。
三人の顔には“仮面”がある。
「仮面……やっぱりあの人達も……!」
「我らがボスの悲願のため、
お前達にはここで消えてもらう!」
中央にいるペストマスクの男が名乗り出る。
「ナポレオン!」
彼から現れ出たのは、
大砲を携えたケンタウロスの様なペルソナ。
「カイニス!」
ヴェネチアンマスクの男から現れたのは、
翼を生やした槍兵の様なペルソナ。
「ビリー・ザ・キッド!」
ゴーグルの少女からは、
大量の銃とバズーカーを持った
カウボーイの様なペルソナが現れた。
露になった彼らの顔。
その内の一人に僕は驚愕した。
「……あ!?」
ヴェネチアンマスクの男性。
その素顔は、あの有栖川柚樹さん本人だった。
「有栖川さん!?」
僕に気づいた有栖川さんは笑顔で挨拶を交わす。
「やっほー。あの時はどうも、喫茶店の僕」
「えええっ!? あの人って柚っきー!?」
「柚っきーって、よくテレビとかに出る
オネエのメイクアップアーティストっ!?」
「ふっふっふっ……それはあくまで表の姿。
裏では欲望を狩るハンター、てな感じ?」
「ふざけてる場合? さっさとやるわよ」
ゴーグルの少女エメルが
長いスナイパーライフルを構えた。
それと同時に、彼女のペルソナが発砲しだした。
「おおっと!?」
僕達は慌ててその銃撃を避けた。
「ちっ……やるしかねえな……!」
「レスター!」
すぐに僕達はペルソナを召喚する。
「リーダーは同じリーダー同士やったら?
アタシ達は他の子達を相手するから」
「そうか。任せた!」
リーダーの男ダイヤモンドが
銃を取り出し発砲する。
「くっ!」
僕は銃撃を避け、間合いを詰める。
「はあっ!!」
僕の拳をダイヤモンドが受け止める。
「欲望そのものを奪ったら、
廃人化して死んでしまう!!
何故そんなことを!?」
「これはボスの願いであり、俺達の使命だ。
歪みに歪んだ欲望を狩ることで、
悪そのものを根絶させる。
死を以って償うとはそういうことだ!」
「生きていてこそ
償うことだってできるはずです!!
死んで何もなかったことにするなんて
間違ってる!!
パレスさえ消せば、
悪い人は改心できるんだから!!」
「本当にそう断言できるのか?」
「え……!?」
「どれだけ手を施したとしても、
歪んだ性根が完全に正されるとは限らない!
現に俺達はそれを知っている!」
ダイヤモンドが蹴りを繰り出し、
僕を吹っ飛ばした。
「がっ……!!」
「ナポレオン!」
ペルソナの炎が僕に牙を剥く。
「!!」
「ドレーク!」
宗馬のドレークが助けてくれた。
「大丈夫か、エース!?」
「うん、ありがとう!」
「よそ見してる場合!?」
有栖川さんが鞭を振るう。
「ちぃっ!」
「ジャンヌ・ダルク!」
ジャンヌ・ダルクの雷撃が炸裂する。
「へえ……さすがじゃないの」
一方でエメルの銃撃が霧矢と翼、ホップを襲う。
「遠距離攻撃なら近接で!!」
霧矢が間合いを詰めて蹴りを繰り出す。
しかし間一髪で避けられ、隙を与えてしまった。
ライフルの銃口が霧矢に向けられる。
「しまっ……」
すると、彼女のライフルに
何かが当たって弾かれた。
小さなチャクラムだ。
翼がそれを投げて援護したのだ。
「ちっ……」
「エウリュアレ!」
ホップのエウリュアレが放つ
無数の矢がエメルを襲う。
「……あ!?」
ふと僕は舞台を目にやる。
そこには天出のシャドウがいた。
彼の腕には何かが抱えられている。
もしやあれがオタカラなのか。
僕に気づいた天出は慌てて逃げていく。
「待て!!」
僕は急いで後を追う。
しかし、ダイヤモンドが妨害する。
「ここは通さんぞ」
「エース!?」
「天出があそこに!!」
「何っ!?」
「行かせるか!」
ペルソナが攻撃を仕掛ける。
すると、霧矢がナイフで攻撃を防いでくれた。
「エンダー!」
「天出がいたんなら行け! ここは俺達がやる!」
「そんな! でも……!」
「リーダーなら仲間信じろ!」
僕ははっとなった。
そうだ。霧矢は仲間を信じている。
それは他の三人だって同じはずだ。
彼らがここでやられるとは思えない。
「……わかった!」
「じゃあ、ボクも行く!」
翼が名乗り出た。
「デルバー!」
「彼には聞きたいことがあるしね。
大丈夫、必ず役に立ってみせるから」
「あたちも行くでちゅ!
二人だけでは心配でちゅしね!」
「ありがとう、ホッピー! みんな……ごめん!」
僕は翼とホップと共に天出を追う。
「逃がすとでも思った!?」
エメルがライフルを構えて発砲した。
「ジャンヌ・ダルク!」
銃弾が雷撃によって防がれた。
「行って! エース!」
「ありがとう、ソレイユ!」
彼らをみんなに任せ、僕達は天出を追う。
舞台に上がり、逃げた先を追いかけると、
僕達は音響室の様な場所にたどり着いた。
楽器が山の様に積み上げられている。
「楽器の山……!?」
「エース!」
翼が山の頂上を指差した。
そこには天出が立っていた。
「天出……!」
「くそっ!! 混乱に乗じて
逃げようと思ったのに……!!」
「その腕に抱えているもの……
それがオタカラでちゅね!?」
「こ、これは何が何でも渡さんぞ!!
これがなければ俺は全てを失うんだ!!
天出高雄はもはや音楽業界において
無くてはならない存在なんだ!!
お前達がやろうとしていることは
そういうことだ!!」
「それでも止める! そのための怪盗団だ!」
「……一つ、聞きたいことがある」
翼は冷たい眼差しで淡々と話す。
なんだか様子が変だ。
「デルバー……?」
「あなたは言っていた。
父と仕事をしたことがあると」
「ああ、そうだ! 奴は歴史が専門でな、
音楽に関する歴史のインタビューを…」
「父の専攻は歴史は歴史でも考古学だよ。
音楽と考古学の共通点なんて考えにくい。
それに、一つ思い出したんだ。
小さい頃、父からある仕事を聞いたんだ。
とある呉服屋の歴史を取材してきたって。
明治から続く伝統ある店だったって。
あなたの実家だったんじゃないの?」
「!?」
天出高雄の実家が呉服屋?
翼が単独で行った時に得た情報なのだろうか。
「それともう一つある。
三作品目まで普通に作曲できていたのに、
急に作曲ができなくなったのは何故か」
「そ、それはトラウマが…」
「あのファイルにあった楽譜を見たんだ。
おそらくゴーストライターに
書かせたであろう楽譜。
あの楽譜には多分あなたが書いただろう
修正部分があった。
でもその修正部分の文章は、明らかに雑だった。
もっと高くとか、低くとか。
それに内容もしっちゃかめっちゃか。
音楽用語は全くなかった。
本物の作曲家が全てそうとは限らないけど、
本物ならもっと詳しく書くはずだ。
この情報とさっきの父の仕事から
考えられる可能性がある」
翼はゆっくりと天出を指差した。
「君は……言うなればこうだ。
君は“天出高雄であって天出高雄じゃない”。
そう考えると全ての辻褄が合うんだ」
「え……!?」
天出高雄であって天出高雄じゃない?
何を言っているのだろうか。
「え、えっ? 何を言ってるのっ?
た、確かに今目の前にいるのは
天出のシャドウで…」
「そうじゃないんだ。
ボクが言いたいのは、現実における彼が
本物の天出高雄ではないってことさ
「え……ええっ!?」
そんな馬鹿な。現実にいる天出高雄、
すなわち僕達が出会った彼は
本物の天出高雄ではないということなのか。
「じ、じゃあ、百歩譲って本物じゃないとすれば、
この人は一体誰なの!?」
「彼からは実家の話が出ていたんだ。
あれだけ実家のことを知っているのは、
天出本人か親族ぐらい。
そして、両親は心中したと言っていた。
だとしたら答えは一つだけさ。
だよね? 天出高雄の“兄弟”さん?」
「!!」
そうか。これだけ身内の事情を知っているのは、
本人とその親を除けば、兄弟姉妹だけになる。
ということは、今僕達の目の前にいるのは……。
「……く、くくくくくくっ」
天出……の姿をしたその男は、
肩を揺らして笑いだす。
「あははははははははははははははははっ!!
さすがは天才大学教授の娘っ!!
素晴らしい勘と推理力だっ!!
そうだっ!! 俺は本物の天出高雄じゃない!!
この姿は“あの御方”からくださった姿!!
ただの着ぐるみさ!!」
あの御方、キングスジュエルのボスか。
やはりこの人もあいつに願いと引き換えに
心を歪ませてしまったのか。
「じゃあ、本物の天出先生は……!?」
「殺したよ!! 俺がこの手で!!」
「どうしてそんなことを……!?」
「簡単な話だ!! 俺がこいつの評判を
地の底に叩き落とすためさ!!
あの御方が教えてくれたんだ……
天出高雄を殺せば願いを叶えてやろうと……
そして俺があいつを殺した時、願いを見つけた。
天出高雄になってこいつを……
家族を見殺しにした兄を
悪者にしてやるってなあ!!」
兄。なら今いるのは弟ということか。
「天出先生が家族を見殺しに……!?」
「そして今、俺への、兄への悪評は高まった!!
支持者がゼロになった時、俺は兄を超える!!
俺こそが音楽業界の神なのだああああああっ!!」
すると、男の姿が激しく変化した。
「なっ……!!」
変化した姿に僕は絶句した。
山になっていた楽器が男に集まり、
顔はオルガン、手足はフルートやクラリネット、
胴体は打楽器と、楽器人間と言った方が
ふさわしい姿になっていた。
そして何より、デカい。
「神と豪語する割には、
楽器に対しての認知は歪んでいるんだね?
でもそれが君の本性。
君の音楽に対する憎悪が感じられる。
明らかに矛盾している。
本当に……君って奴は哀れだね。
ボクも一歩遅かったらああなってたのかな……」
「翼……」
「歪んだ欲望に準じる大人と、
そんな大人に振り回されていたボク……
両方まとめて、今日ここで倒す!」
翼はチャクラムを取り出す。
「行こう、エース! ホッピー!
あいつ……やっつける!」
「でちゅ!」
「うん!」
僕は立ち向かう。歪んだ欲望を止めるために。