ほお、覚醒したか……しかし何よりだ。
これでようやく反撃の時を作れる。
時に、私が送った“イセカイナビ改”は
気に入ってもらえただろうか。
きっと役に立ってみせるだろう。
期待しているぞ、新たなトリックスターよ……
生徒会長を改心させると決めた翌日、
僕は五十嵐さんとホップと共に、
学校で作戦会議をすることになった。
人目につかないよう、体育館裏で作戦を立てる。
何より今のホップはぬいぐるみだ。
もしぬいぐるみが動いて喋ってるなんて知れたら
パニックどころの騒ぎじゃない。
「で、パレスを消すイコール改心っつーのは
大体わかったけど、具体的にはどうすんだ?」
「パレスの中心、核となっているもの、
“オタカラ”を盗むんでちゅ。
オタカラを現実の世界まで盗めば、
パレスは消えて沙城浩一は改心するはずでちゅ」
「それだけ? 盗むだけで改心できるの?」
「いいでちゅか? 何度も言いまちゅが、
パレスが消えることは改心すること。
でも、歪んだ欲望が消えても
それによって犯した罪は消えないでちゅ。
だから改心させればその重さに耐えられなくなり、
沙城浩一自身からその罪を自白するはずでちゅ!」
「おお……!」
「しかも、パレスが消えれば
そこで起きたことは忘れるから、
あたち達のやったことも当然忘れる。
証拠を残さず沙城浩一を追い詰められるでちゅ!」
「マジか! まさに一石二鳥じゃねえか!
そうと決まれば、今日の放課後にでも突入だ!
勇気! 行き方わかるだろ?」
「行き方……」
僕は一瞬思い出した。
あのイゴールとか言う奴が
夢の中で言っていたことだ。
「多分、これで行けると思う」
僕は五十嵐さんにあのアプリを見せた。
「何だ? それ」
「……イセカイナビ改、って言うらしいです」
試しに僕はアプリを開く。
すると、検索候補に一個出ていた。
“沙城 秀尽学園 城”。
「履歴が出てる!」
「イセカイナビ! 勇気君持ってたんでちゅか!?」
「知ってんのか?」
「イセカイナビは便利でちゅ!
パレスを攻略するには必要不可欠でちゅ!」
「じゃあとりあえず放課後、
このアプリからパレスに入ろう。
上手くいくかはわからないけど」
そしてその場は一旦お開きにした。
僕と五十嵐さんは教室に戻る。
「しかし、お前ってすげえよなあ?
ペルソナも使えて異世界にも入れて、
お前本当人間なのか?」
「いやいや、人間ですよっ!
ただの男子校生です! ……あれ?」
ふと、生徒会室の扉から見覚えのある人が見えた。
篠崎さんと生徒会長だ。
「篠崎さん?」
「茜がどうかしたか?」
とりあえず僕らは気づかれないよう、
聞き耳を立てた。
「……没だ」
「えっ?」
「これでは利益が少ないかつ伝導率が悪い。
やはり俺のやり方でいく。以上だ」
「まっ、待ってください!
会長のやり方でいったら、条件を満たさない
生徒にとっては無茶ぶりになります!
せめて、もう少し条件を緩和するとか…」
「変更はない。以上だ」
生徒会長の目は冷たく、鳥肌が立ちそうだ。
篠崎さんは何も言えず立ち尽くしている。
「お言葉ですが会長!」
そこに、眼鏡を掛けた黒髪の綺麗な女子が
会話に割って入った。
「ありゃ副会長だな」
五十嵐さんの呟きに僕は納得する。
だっていかにもな感じな人だったし。
「篠崎さんが申した通り、
会長のやり方ではリスクが高過ぎます!
最悪、怒りを買われる
可能性だってあるのですよ!」
「その時は俺が収めるだけのことだ。
俺の言うことを聞けないのなら
実力を行使するだけだ」
「いや、しかし!」
「葉月。これ以上そこの下っ端に
肩入れするつもりか?
常々俺に対してのその態度。
本来なら貴様を退学処分してやりたいところだが、
貴様はバレー部の栄光には必要だからな。
ありがたく思え、葉月。
わかったら俺の気が悪くなる前に消えろ。
この件に関しては以上だ」
「くっ……!」
副会長さんは悔しそうに篠崎さんを連れて
生徒会室を出た。
「……ごめんなさい、篠崎さん。
本当はあなたの案が最適なのに……」
「いえ! 気にしないでください、副会長!
私がまだまだ未熟なだけですから!」
「……私も愚かね。バレー部の
エースだからという、
たったそれだけ理由で生徒会にいることを
許可されているなんて。
本当なら今すぐにでもあの男を
ぶん殴りたいところだけど……」
「出来ないですよ……そんなことしたら、
沙城家に喧嘩を売るようなものですから」
「わかってるわよ!
だけどこのままじゃ、あそこだって……
いえ、ごめんなさい。
ちょっと頭を冷やしてくるわ」
副会長さんが静かにその場を後にした。
「……よっ、苦労してるみたいだな」
五十嵐さんが篠崎さんに話しかける。
「五十嵐君、田嶋君も……」
僕達は初めて会った屋上へ向かった。
今日も空は快晴日和だ。
「ごめんね……ちょっと聞こえちゃって……」
「ううん、いいの。大したことないし」
「大変だね?」
「まあね。でも挫けたくないもん!
もっともっと頑張らないと!」
篠崎さんはすごいと思う。
あんな傍若無人な人を相手にしたら
少なからず疲れてしまうのに、
全然そんな風には見えない。
その強さはどこから来てるんだろう。
「さすがは生徒会長希望者だな」
「え?」
「ち、ちょっと!」
「こいつ、生徒会長になるために
秀尽に入ったんだよ」
それを言った途端、篠崎さんの顔が赤くなった。
「昔秀尽の学園祭に行っててよ、
当時の生徒会長がカッコ良かったらしくて、
それから秀尽に入るために猛勉強。
それだけでも十分すごいのに、
今は生徒会長になるために頑張ってるもんな」
「へえ〜、詳しいんですね」
「実は……私達、幼なじみなんだ。
ちょっと歳は離れてるけど」
「そうだったんだ。
それにしても、篠崎さんはすごいよ!
生徒会長になるために秀尽に入って、
今は夢を叶えるために頑張って、
今の生徒会長相手に弱みも見せないで、
本当に羨ましいよ!
僕だったら多分無理かも」
「え、えー? そう、かなっ?
そんなこと言われたの、初めてだな……」
照れる篠崎さんはなんだか可愛く見える。
「沙城の奴からは全く褒められないもんな!
最近褒められ慣れしてないんじゃねえか?」
「そ、そんなことないもん!」
「本当かあ?」
五十嵐さんと篠崎さんのやりとりに、
僕はなんだか心温まる。
なんか僕がいるのが邪魔くさいくらいに。
「……ありがと、五十嵐君。田嶋君も。
なんか元気になった!」
「そりゃ良かった」
「うん。また何かあったら言ってよ。
できる事なら協力したいし」
「うん!」
さっきまでちょっと
落ち込んでいた篠崎さんの顔が、
明るく優しい笑顔に戻った。
篠崎さんと別れ、僕は五十嵐さんに話す。
「……篠崎さんのためにも、やりましょう。改心」
「だな」
そして放課後、学校近くの路地裏に
僕と五十嵐さん、ホップが集まった。
イセカイナビは準備済みだ。
「準備はいいでちゅか?」
「うん」
「ああ、上等だ」
「じゃあ、アプリを起動するよ……」
僕はイセカイナビを起動する。
すると、景色が変わり始め、
学校が再び城に変化した。
「うおお……本当に行けた……!」
「……あ!」
しかし前回と違うのは、
僕の服が制服ではなく変身した姿だった。
「服が変わってる?」
「言い忘れていまちたが、
ここは現実世界ではなく、
認知世界と呼ばれるもう一つの世界でちゅ」
足元には、あの時僕らを助けた姿のホップがいた。
「認知世界?」
「心が形となり、
全てが決定づけられる場所でちゅ。
この世界でこうと思えば、
ここでそうなる場所なんでちゅ。
パレスも認知世界があるからこそ
生まれるんでちゅ」
「わかるような、わからんような……」
「今勇気君がその姿になっているのは、
パレスの中の沙城が賊だと認知したから
その姿になったんでちゅ」
「賊っ? まあ、確かに今から
オタカラを盗むわけだから、賊にはなるか……」
「さて、今日はオタカラへの侵入ルートを
確保しに行くでちゅ!
とはいえ危険はつきもの。
ペルソナ使いじゃない宗馬君は、
あたちか勇気君のそばを離れないように!」
「おう、了解だ」
「じゃあ突撃でちゅ!」
僕は固唾を飲みながらパレスに突入した。
一方、勇気達と別れた茜はというと、
ある人物と会話をしていた。
その人物こそ、彼女の親友、
真鍋千里だった。
「ごめんね、茜。話に付き合ってもらって」
「ううん、気にしないでちさちゃん!
陸上部の練習大変なの知ってるもん。
スタメン出場が決まって、
練習がハードになってるんだっけ?」
「まあね。でも、監督は厳しいけど優しいし、
先輩も励ましてくれるし、
モチベーションは良いよ」
「よかった!」
「……茜はどう? 生徒会」
茜は一瞬落ち込み、苦笑いを浮かべる。
「また、却下されちゃった。
自信あったんだけどね……」
「うわ、マジか……これで三連敗だよね?
生徒会長頑固過ぎない?」
「しょうがないよ。反論したらどうなるか
目に見えてるし、私もまだまだ未熟だし」
「でもさ、私思うんだ。
茜が生徒会長になったら、
きっと今より良くなるかもって。
茜はしっかりしてるし、リーダー向きだし」
「そ、そんな! 大袈裟だって!」
「だって生徒会長になりたいから
秀尽に入ったんでしょ? 覚えてる? あの日。
私があの探偵王子の講演会目当てで、
秀尽の学園祭に茜を誘った時。
茜言ってたよ。講演会の司会してた生徒会長さん、
すごくかっこよくてしっかりしてたって。
私もあんな風になりたいって。
そのために秀尽に入りたいって」
「あはは、そうだったね」
「だから、今すぐには無理だけど、
いつか見てみたい! 茜が生徒会長になった姿!」
「……うん、頑張る!」
「……あ、もうこんな時間。
そろそろ練習に行かなきゃ」
真鍋がその場を離れた。
「頑張ってね! 試合、観に行くから!」
茜は笑顔で見送った。
僕と五十嵐さんはホップの案内に従い、
敵の目を掻い潜りながら
パレスの中を散策していた。
「なあ、このパレスは沙城の欲望が形になって
生まれた場所なんだよな?」
「そうでちゅ。このパレスはいわば、
沙城が心の目で見ている景色でちゅ。
パレスでの出来事は現実世界の沙城本人は
気づいていないでちゅが、
心の奥底では繋がっているでちゅ。
だから、パレスに異変が起これば少なからず
現実の沙城に影響が出るでちゅ。
もちろん逆のパターンもあるでちゅ」
「そっか。だからパレスが消えることが
改心に繋がるってわけなんだね」
「その通りでちゅ!」
散策していると、警備も何もない
閑散とした廊下が見えてきた。
「シャドウもいないでちゅね……
ここは一気に駆けるでちゅ!」
「お、おい待てよ! なんかちょっと怪し…」
五十嵐さんが止めようとしても遅かった。
ホップの足元に赤いレーザー光線が当たる。
警報が鳴り響き、甲冑達が追いかけてきた。
「はわわ!? 罠でちたか!?」
「に、逃げよう!」
僕達は必死に逃げたが結局追い込まれた。
「うわっ!」
甲冑の勢いで僕達は尻餅をつく。
たどり着いたのは、最初に来た大広間だ。
甲冑に囲まれていると、
どこからかくくくと笑う声が聞こえた。
「その声は!」
階段を見上げると、
あのコスプレ姿の生徒会長がいた。
「沙城……!!」
生徒会長はニヤニヤとこちらを見ている。
「あの生徒会長は本物じゃないんだよね?
生徒会長の欲望が形になった本心なんだよね?」
「でちゅ!」
「ふん、つくづく目障りな連中だな。
パッと見冴えない転校生と
校則違反常連の不良ごときが、
俺に立ち向かうとはいい度胸だ」
「当然だ! これ以上お前の好き勝手させて
たまるかってんだ!
学校に来れなくなった奴らのためにも、
今ここで止める! だろ? 勇気!」
「えっと……確かに、
あなたの目的はわかりません。
でもあなたのやり方は良くないです!」
「貴様らごときが俺を否定するなど、
万に一つもありゃしない!!」
甲冑達が僕とホップを踏みにじる。
「勇気! ホップ!」
五十嵐さんが助けようとする。
しかし次の瞬間、突然五十嵐さんが
胸を押さえて苦しみ始めた。
「くそっ……発作がこんな時に……っ」
「五十嵐さんっ?」
「知ってるぞ? 貴様心臓に爆弾抱えてるんだろう?
しかもいつ死んでもおかしくないほどの
重い症例だそうだな?」
「え!?」
そんなの初耳だった。
病気とは無縁そうな五十嵐さんが、
まさか病を抱えていたなんて
想像もしてなかったからだ。
「ぐっ、ゲホッ! ゲホッ!」
五十嵐さんが口を押さえて咳き込む。
見ると、口から血を吐いていた。
「大丈夫でちゅか!? 宗馬君!!」
五十嵐さんは激しく崩れ落ち、苦しく息をする。
「哀れとはまさにこのことだなあ!
その派手な格好も病弱なのを悟られぬための
カモフラージュだったな?
まあ効果はあったみたいだが、俺は気づいてたぞ?
お前は見た目だけの存在だなってなあ!!」
「ぐっ……!!」
五十嵐さんの表情からして、
言ってることはおそらく当たっていた。
「だが、いくら見た目で繕っても
病弱なのは変えられない。
お前は弱い。哀れなくらいにな!!」
でも、僕は反論した。
「違う!!」
「あ?」
「……五十嵐さんは、僕のことを信じてくれた。
お前ならできるって励ましてくれた。
僕が改心を決めたのも、五十嵐さんが
背中を押してくれたからだ。
でなきゃこんなとこ、怖くて行けなかった。
五十嵐さんは恐怖に駆られることはなかった。
自分より他人のことを優先して、
危険を顧みず挑んだ。
本当に弱いならそんなこと出来ないはずだ。
カモフラージュがなんだ……
そんなの関係ないじゃないか……!!
僕は信じてる!! 五十嵐さんが強いことを!!
だから、五十嵐さんも信じてください!!
僕が信じる、強いあなたを!!」
「勇気……!!」
苦しそうに五十嵐さんは僕を見つめる。
「おお、寒っ!!
なんと寒い矜恃なんだ!!
そんなの口だけならいくらでも言えるわ!!」
「……そうかよ」
五十嵐さんがゆっくりと立ち上がった。
「五十嵐さん……!!」
「ありがとよ、勇気……目が覚めたぜ……
だよな……俺があんたをけしかけたのに、
自分を鼓舞できないでどうする……
なあ、沙城よ……あんたに教えても
無駄だろうが教えてやるよ……
強さってのはなあ、実力や名声だけじゃねえ……」
五十嵐さんは自分の胸を叩いた。
「心だって強くなきゃ意味ねえんだよ!!」
その時だった。
「……!?」
五十嵐さんの目が見開いた。
「あ、あっああ、あああ……!?」
「宗馬君、まだ発作が……」
「いや、違う……さっきの苦しさとは違う……」
あの様子は心当たりがあった。
「あれは……僕がペルソナに
目覚めた時と同じだ……!!」
ーなるほど……ずいぶんと
でかい口叩いてくれるな?
貴様の状態と矛盾してるのに、
強がりにも無理がある……だが、
その死を恐れぬ強情さ、嫌いではない。
ならば抗え。矛盾も構わぬ。
それもまた人生だ……そうと決まれば契約だ。
我は汝、汝は我……
さあ、這い上がってみせろ……
地獄からの復活を!!
五十嵐さんの顔に現れたのは、
片方が上に突き出た
黒と紫のアシンメトリー型の“仮面”。
「おおおおおおああああっ!!」
勢いよく仮面を剥がすと、
五十嵐さんから青い炎が湧き出た。
炎が消えると、五十嵐さんの背後には
大量の武器を携えた頭が燃えている存在がいた。
そして、五十嵐さん自身も
紫のロングコートに
破れ加工されたジーンズを着た、
まるで世紀末を彷彿とさせる姿に変わっていた。
「五十嵐さんが、ペルソナに目覚めた……!?」
「……ははっ、すげえな!
これが俺のペルソナ……力が漲ってきたぜ!!」
さっきまでの姿が嘘みたいに、
五十嵐さんは生き生きとしていた。
「て、転校生に続いてお前まで……!!
やれ、お前らっ!!」
生徒会長が命令すると、甲冑達の姿が変わる。
魔物の姿へと変貌した。
「行くぜ……“ドレーク”!!」
五十嵐さんのペルソナが、
携えていたガトリングを撃ち始めた。
ガトリングの攻撃がヒットし、
僕とホップを踏みにじっていた甲冑達が消えた。
「助かったでちゅ!」
「フォローします! 五十嵐さん!」
僕は急いでレスターを召喚した。
魔物の一匹が攻撃するがレスターには効かず、
彼が放つ白い風が魔物を倒す。
「いくでちゅよ! エウリュアレ!」
ホップのペルソナも応戦する。
魔物が全て弱ってきた。
「隙が見えたでちゅ! 武器を構えるでちゅ!」
ホップが杖を構える。
僕はグローブを握り、五十嵐さんは大剣を構える。
「一斉攻撃でちゅー!!」
ドカバキドカバキドカッ!!
ーよし!
【IT'S MY VICTORY】
魔物を全員退け、残るは生徒会長のみになった。
「さあ、次はあんただぜ! 沙城!」
「くっ……賊のくせに生意気な……!!」
少々怖気づく生徒会長。
こいつを倒せばあとはオタカラを盗むだけ。
一気に畳み掛けようとした、その時だった。
「かーいちょ〜!」
突然どこか聞き覚えのある声が聞こえた。
現れたのは、意外すぎる人物だ。
犬の着ぐるみを着た、篠崎さんだった。
「うええっ!? し、篠崎さんっ!?」
「茜!? 何やってんだ、あいつ!?
てか、あいつもコスプレ姿!?」
「ちっ、何だ馬鹿犬。何の用だ?」
「もお〜! 最近ずっと構ってくれないからあ、
茜ぷんぷん怒ってるんですぅ!
久々にいつものあれ、やってくださいよ〜!」
「貴様、少しは空気を読まんか!!
こんな状況で出来るわけないだろ!!」
「お〜ね〜が〜い〜で〜す〜!!」
大袈裟な仕草をする篠崎さん。
「……勇気」
「はい……」
考えてることは同じだ。
『……可愛い』
「ちょ、ちょっとちょっと!!
何見惚れてるんでちゅか!?
あれも偽者でちゅよ!!」
「わ、わかってるよっ!
わかってるけど、その……」
「……ふう、仕方あるまい。ちょっとだけだぞ?」
「わーい!」
そう言って生徒会長が出したのは、長い鞭だ。
篠崎さんのシャドウが馬乗りになると、
生徒会長はとんでもないことを始めた。
篠崎さんを踏んで鞭で叩き始めたのだ。
「あーん!」
「馬鹿犬め! のろま! 脳内花畑!」
「もっと! もっとお!」
篠崎さんの顔がすごく嬉しそうだ。
「あわわわ!! なんとハレンチな!!」
あまりの出来事にホップがショックを受けている。
僕と五十嵐さんも言葉を失っていた。
だが、すぐに僕は我に返った。
「い、一旦引こうっ!」
「そうでちゅ! 色んな意味でここにいたら
危ないしまずいでちゅ!」
「ほら五十嵐さんも!」
呆然とする五十嵐さんを引っ張って
僕達はなんとかパレスを脱出した。
気づけば学校近くのビルの裏にいた。
「よかった……なんとか脱出できたね」
「ああ……色んな意味で危なかったな……」
とにかく落ち着いて現状を整理するため、
僕と五十嵐さんはビックバンバーガーと言う
ハンバーガーショップに立ち寄った。
「……聞いて、いいですか?」
「何?」
「……病気のこと」
「ああ、あいつの言ってたことか。
ま、今更隠しきれないよな」
五十嵐さんがジュースを飲むと、話始めた。
「……俺はガキの頃から体が弱くってよ、
色々と病気とか怪我もしたんだ。
で、小学生の時に心臓に爆弾が出来た。
いつ爆発してもおかしくない状態だった。
その時言われたのは、保って三、四年だって」
「そんな……あれ? でも、
小学生の時に言われたって……」
「ああ、医者もびっくりしてな。
宣告された年より五年以上も延びた。
まあ、病状は相変わらずだがな。
いわゆる停戦状態ってとこだ。
とはいえ、さっきみたいに発作は出るし、
ひどい時は三日も意識がなくなる。
本当、いつ死ぬかわからないのに、
なんで普通に生きれてるのか」
五十嵐さんはふてぶてしく笑う。
「……死ぬのは、怖くないんですか?」
「……怖いよ。家族や茜にも迷惑かけるし、
やりたいことだっていっぱいある。
だから、少しでも恐怖が和らぐように、
命をかけて死に場所を見つける。
それで誰かが救えるなら、
ちょっとはいいもんかなって」
だからあの時、意気揚々とパレスに挑んだんだ。
ペルソナが使えなくても、力になれなくても、
誰かのために命を張る。
「……やっぱり、五十嵐さんは強いです」
「そうか? なんか照れるな」
「……あの、これから五十嵐さんのこと、
宗馬さんって呼んでいいですか?
尊敬と親睦の意を込めて」
「全然いいぜ! むしろしてくれ!
かしこまった接し方は俺苦手だし!」
ちょっとだけ距離が縮まったような気がした。
その頃、僕達の知らない所で、
あの生徒会長の魔の手が忍び寄っていた。
そしてそれが、悲劇の始まりだったんだ。
その日、学校の様子がおかしかった。
いつものように学校に向かうと、
校舎に何故か救急車が停まっていた。
人だかりも出来ている。
「なんだ?」
「おはよう、田嶋君!」
篠崎さんの明るい声が聞こえた。
「あ、おはよう……」
「あれ? 何かあったの?」
「さあ……」
すると、近くで女子生徒二人が
泣いているのが見えた。
「あれ……陸上部の人だ!」
何かを察した篠崎さんが、二人に走り寄る。
「どうしたのっ?」
「……篠崎さんっ」
篠崎さんを見た途端、女子生徒がさらに泣きだす。
「何があったの!?」
「……真鍋さんが、真鍋さんがっ……!!」