隣のクラスの真鍋千里さんが死んだ。
朝早く、女子トイレで首を吊っているところを
教師が発見したことで事件が発覚した。
救急車が来た時には、もう息はなかった。
翌日、学校では緊急の朝礼が開かれ、
真鍋さんの死を報せた。
その日、篠崎さんは来ていなかった。
宗馬さんが言うには、篠崎さんと真鍋さんは
幼なじみで親友だったそうだ。
心配した僕らは、篠崎さんの家に向かった。
出迎えくれたのは、篠崎さんのお母さんだ。
「あら! 五十嵐君!」
「お久しぶりです、おばさん」
「もしかして、茜のために?」
「はい」
「嬉しいわ! どうぞ上がって!
あ、お友達? どうぞどうぞ!」
篠崎さんのお母さんは初対面の僕を歓迎し、
リビングまで案内してくれた。
「茜、どうしてます?」
「昨日から部屋に篭っているわ。無理もないわ。
千里ちゃんがあんなことになったもの。
二人は本当仲良しだったから……」
「幼なじみ、なんですよね?」
「ええ。茜と五十嵐君と千里ちゃん。
三人は幼稚園の頃からの仲なの。
千里ちゃんが隣町に引っ越してからも
仲は変わらなかったわ」
「懐かしいなあ……
隣町の千里の家へはバスで三十分、
徒歩で十分かけて行ったもんだ。
夏はくそ暑いし、冬は凍え死にそうだったわ。
その度に千里はドリンクを準備してくれたな」
宗馬さんはしみじみと懐かしむ。
「……まさか、あいつが自殺なんてな」
「宗馬さん……」
「……茜の所に行っても?」
「ええ、構わないわ。ただ、
あまり干渉はしないであげて」
僕は宗馬さんについて行き、
二階にある篠崎さんの部屋の扉の前に立つ。
宗馬さんは扉をノックする。
「茜? いるか? 俺だ」
篠崎さんの返答はない。
「……千里のこと、俺も悲しいよ。
あんな前向きな奴が自殺なんて考えられねえ。
まあ、もしかしたら俺らが
気づかなかっただけかもしれなかったってのも
あるけど……ああ、悪い!
お前を責めてるつもりはなかったんだ」
「……篠崎さん、僕だよ。田嶋勇気。
事情はあまり知らないけど、その……
元気、出してね?」
それだけ伝えて僕らはその場を後にした。
そしてそれから二日後、
僕と宗馬さんが登校していると、
靴箱近くに篠崎さんの姿が見えた。
「篠崎さんっ!?」
僕の声に気づいた篠崎さんが
こちらに振り返った。
「あ、二人共おはよう!」
篠崎さんは笑顔を見せた。
だけど彼女の目には微かなクマがあり、
何よりどれくらい泣いていたのか、
周りが真っ赤に腫れていた。
「大丈夫かよっ? 無理しなくても良いんだぞっ?」
「ううん、心配してくれてありがとう。
でも大丈夫! いつまでも
クヨクヨしてられないもん!
それに、これ以上休んだら
会長がうるさくなるしね。
会長がうるさくなったら大変だし!」
篠崎さんは本当に強い。
生徒会長になるという志が
モチベーションになっているを抜きにしても、
ここまで前向きだと逆に心配だ。
生徒会長も今くらい多目に見て
休んであげてもいいのに。
なんか僕は悔しくてたまらなかった。
「まあ、無理はすんなよ?
もしそいつが無理させてたら止めてやっから」
「うん、ありがとう」
すると、近くにいた女子生徒達の声が
何気に僕達の耳に入ってきた。
「ねえねえ聞いた? 真鍋さんの自殺の件!」
「え? 何何っ?」
「噂は知ってる? ほら、陸上部廃部の!」
「ああ、聞いたことあるかも!
部費の無駄遣いとか部員のサボりとか…」
「違う違う! あの生徒会長よ!
部費が一番高いからって理由で
廃部にしようとしてたらしいのよ!
それで、廃部を撤回してほしかったら
自殺しろって真鍋さんに脅迫してたらしいの!」
「うっそ!? マジ!?」
「陸上部の子が言ってたのを偶然聞いてたの!」
「じゃあ、廃部は?」
「わかんない……でも用件通りなら
廃部は撤回されたんじゃないのかな?」
僕らは背筋が凍った。
それが本当ならとんでもないことだ。
いや、それより目についたのは、
怖い表情を浮かべた篠崎さんだった。
篠崎さんは僕らに何も言わぬまま、
生徒会室まで走った。
ノックもせず開けると、タイミングよく
生徒会長がそこにいた。
「なんだ、やかましい。
ノックもせずに開けるとは世間知らずめ」
生徒会長はどうやら今不機嫌そうだ。
そんなことは気にせず篠崎さんは詰め寄る。
「ちさちゃん……真鍋さんを
自殺に追い込んだのは、会長なんですか?」
「はあ?」
「聞きました。陸上部廃部の話。
真鍋さんが自殺すれば撤回する話。
本当なんですか?」
「はっ、つくづくお前は頭が悪いとは思ってたが
ここまでひどいとは…」
「答えてください!!」
篠崎さんは机をバンと叩いた。
影から見ていた僕と宗馬さんは驚く。
あんなに優しい彼女がここまで
激昂するのは初めて見た。
「真鍋さんを自殺に追い込んだのは
本当なんですか!?
はいかいいえで答えてください!!」
険しい表情の篠崎さんを相手に、
生徒会長はふてぶてしく笑った。
「はいと答えたら怒るか?
いいえと答えたら許すか?」
「なっ……」
「世の中全てはいかいいえで
答えられるなどと思ったら大間違いだぞ。
世の中にはグレーゾーンなるものもあるからな。
まあ、でも一つ教えてやってもいい。
陸上部廃部の件だが、あれ自体は本当だ」
「え!?」
「実力を名乗り上げることは罪ではない。
だが、調子に乗れば話は別だ。
何、廃部させて消すわけではない。
新しく作り変えるだけだ。
部費のかからない最適な部にしようと
しただけのことだ」
理由は最もらしい。
それだけ聞いていれば納得はいく。
でも今はそんなのは屁理屈に聞こえてしまう。
「あとのことは黙秘させてもらう。
まあどのみち、俺がやったという
証拠なぞないのだからな」
「それは……」
生徒会長が篠崎さんに近寄る。
「お前は俺の言うことだけを聞けば良い。
わかったら二度と口答えするなよ、“馬鹿犬”」
「っ!!」
僕ははっとなった。
馬鹿犬。そのワードはパレスでも言っていた。
つまり、沙城浩一にとって篠崎さんは
そういう印象なんだ。
篠崎さんは何も言えぬまま、
しばらくその場に立ち尽くしていた。
結局何も出来なかった僕と宗馬さんは、
学園内の休憩所に向かい、愚痴をこぼす。
「今の見たか!? 本当に
救いようのない奴だな!!」
宗馬さんが悔しそうに叫ぶ。
「あんなの反則だろ!!
証拠がないから犯罪にはならないって
言ってるようなもんだ!!」
「……生徒会長、篠崎さんのこと、
馬鹿犬って言ってた。
パレスの中の生徒会長も、同じこと言ってた……」
あれじゃああの態度なのも納得する。
このまま放置すれば、篠崎さんがかわいそうだ。
「……やりましょう、改心。篠崎さんのためにも」
「当然だ……!!」
改めて決心した僕らは、
再びパレスに潜入することになった。
「昨日はとんだ邪魔が入りまちたが、
今日こそは大丈夫でちゅ!
もう下手はしないでちゅよ!」
僕の鞄からホップが意気揚々と胸を張る。
「オタカラへの潜入ルートを探るんだったな?」
「でちゅ! ペルソナ使いも一人増えまちたし、
怖いもの知らずでちゅ!」
「じゃ、行くよ……」
僕らがパレスへ潜入しようとしている中、
一人、それを見ている人がいた。
「二人共……?」
なんとか敵の目を掻い潜り、
僕達はオタカラのある部屋にたどり着いた。
その部屋はまるで漫画に出そうな
金銀財宝がたくさんある部屋だった。
その中心に、もやもやと波打つ
小さな光が浮遊していた。
「これが、オタカラ……?」
「正確には、形のないオタカラでちゅ。
盗むには実体化しないといけないんでちゅ」
「実体化?」
「それはまた後で教えるでちゅ」
「そうだ。ホップに聞きたいことがあるんだ。
一番気になっていることなんだけど、
パレスを消したら最悪殺すことになるかもって
ホップ言ってたよね?
それって結局どういうこと?」
「いいでちゅか? パレスは歪んだ欲望そのもの。
パレスが消えれば、歪んだ欲望は消えるでちゅ
でも、欲望そのものは生きる上で大切でちゅ。
寝たい、食べたい、あれしたい。
そういったものは非常に大切でちゅ」
「確かに、欲そのものに罪はないもんな?」
「もし、パレスを消した時に
歪んだ欲望だけでなく、
欲望そのものが消えてしまったら、
どうなるかはわかりまちゅか?」
「欲望がなくなるってことは、
心がなくなってしまうよな?
つまり、廃人になっちまうってことか?」
「そっか。廃人になったら
保護でもしない限り、死ぬことになる。
ホップはそれを言いたかったんだね」
すると突然、警報が鳴り出した。
「な、なんだあっ!? また見つかったか!?」
「ルートは確保したでちゅ!
今日のところは逃げるでちゅよ!」
急いで僕達は出口となる城の入り口に向かう。
しかし、すでに出口は
護衛の甲冑達に封鎖されていた。
気づけば周囲は囲まれている。
「くそっ、囲まれたか……!」
「ふん! 何度も懲りない連中だな」
背後から生徒会長、いや、
もう沙城と呼ばせてもらう。
彼が階段からこちらを見下ろしている。
「こそこそと我が聖域を汚す賊には
すぐにでも殺してやりたいところだが、
まあここまでしぶとく逃げるお前達には
一つ慈悲をかけてやろうか」
「慈悲?」
「今後一切我がやり方に手を出さないと約束しろ。
そうすればお前達の命だけは見逃してやろう。
無論、その関係者に危害は加えん」
「はあっ!? 今更そんなの聞いて
はいすみませんでしたなんて言えるかよ!!」
「ほお? なら“こいつ”がどうなってもいいのか?」
沙城が指を鳴らすと、
階段の踊り場から何かが出てきた。
現れ出たのは、四肢を拘束された篠崎さんだった。
今度はあのコスプレ姿ではなく、制服を着ている。
「篠崎さんっ!?」
「コスプレ姿、じゃないよなっ?
てことは本物か!?」
「ま、まさか!! イセカイナビを使った時に
近くにいたのでちゅか!?」
沙城は不敵な笑みを浮かべながら
篠崎さんに近寄る。
どうやら篠崎さんは気を失っているようだ。
「お前達が我が提案を拒否すると言うのなら、
こいつはどうなってもいいんだな?
お前達のせいで関係のない人間が
犠牲になってしまうんだぞ?」
側にいた甲冑達が篠崎さんの首に剣を交える。
「やめろ!! 茜は関係ねえっ!!」
「そんなことしてまで、
あなたは何がしたいんだ!?」
「何を? 決まっているだろう!
秀尽を我が手中に収めることさ!」
「何、だって……!?」
「俺はもうじき卒業する身でな、
俺に反発する奴は早く卒業してほしいらしい。
が、卒業して終わりなわけなかろう!!
卒業後は俺が学園の理事会を乗っ取り、
秀尽学園を手に入れる!!
それが俺の最終目的だ!!」
ただでさえ彼のやり方や方針は無茶苦茶なのに、
それが学園全体に行き渡ったりしたら
もはや絶望そのものだ。
そんなことになったらおしまいだ。
「それがてめえの企みか!!」
「生徒会長の座はあくまで予行練習に過ぎない。
ここで土台を作り、築き上げていく。
そのための生徒会だ!!」
あまりにも傲慢すぎる。
僕は静かに怒りを燃やす。
すると、気を失っていた篠崎さんが目を覚ました。
「ん……んっ? あれ!? ここどこ!?
何ここ、何かのセット!?
ていうか私、捕まってる!?」
「気がついたか」
「えっ、ええ!? 会長!?
会長ですか!? ですよね!?
なんですかその格好!?」
困惑する篠崎さんをさらに困惑させたのは、
タイミングよく現れ出た篠崎さんのシャドウだ。
「え!? 私っ!?」
「ほう、しかしなかなか出来た偽者だな?」
「もお〜、会長ぉ〜!
あんな偽者なんかより、
私をいじめてくださいよぉ〜!」
沙城に甘える自身のシャドウに
篠崎さんが引いている。
「そうだな。こっちの馬鹿犬はあっちより
素直で融通が効くからな」
「ば、馬鹿犬っ!?」
「そうで〜す! 私は〜、会長にいじめられる
頭ボッカーンな馬鹿犬でーす!」
「よしよし、よく言ったな。
お前はそれがお似合いだ」
「……あれが生徒会長の本心なら、
会長は篠崎さんをああいう風に
見ていたってことだよね?」
「でちゅ! 勝手にこじつけた妄想でちゅ!」
篠崎さんは馬鹿じゃないのに。
僕は腹ただしく感じた。
「……貴様は心底気に入らなかった。
生徒会に入った時からな」
「え……!?」
「みんなしてお前のような馬鹿のことを、
明るくて真面目で覚えがいいと可愛がっていた。
俺がどんなに決めても皆お前ひいき。
腹ただしくて仕方がなかった!!
だからお前の全てを拒絶すると決めた!!
存在以外の全てをな!!」
「……私を認めなかったのは、
単なる実力不足じゃなかったんですか……?」
「何が教えがいのある可愛い後輩だ!!
そんな奴、しつけ無しの
馬鹿犬の方がまだマシだ!!
いや貴様はもはや俺にとって犬以下だ!!」
篠崎さんがショックを受けている。
あんなに真面目な彼女をそこまで愚弄するなんて。
僕は今すぐにでも殴りたくなる。
「ああ、あといいこと教えてやろうか?
あの女、えーっと名前忘れたけどあいつ。
あいつが死んだの半分は貴様のせいだぞ?」
「!?」
間違いない。真鍋さんのことだ。
「あいつに言ってやったのさ。
陸上部を廃部にしてほしくなかったら、
責任を負って自殺しろとな。
でなきゃお前の友人にそれを担わせると
さらに付け加えればまあ面白い!
恐怖に震えて実行の意を見せた!
ある意味お前も命拾いしたなあ!?」
「そんな……!!」
篠崎さんはショックのあまり震えていた。
「外道が……!!」
「なんてひどいことを……!!」
「残念だったな? 大事な親友を助けられなくて。
お前のような馬鹿に生徒会長は愚か
生徒会は務まらないんだなあ?」
沙城はにたにたと嘲笑う。
「篠崎さん!!」
「……ねえ、これって罰なのかな?
会長にも認められなくて、
ちさちゃんも救えなくて……
結局なんにもできない私への、罰なのかなっ?」
篠崎さんの目から涙が溢れた。
「茜……!!」
「ちさちゃん……ごめん……!!」
「……それでいいの?」
僕はためらわず問いかける。
「こんな最低な奴の言いなりになって、
諦めるつもりなの?
君はそんな人じゃないはずだ!!
君は何のために、生徒会長になりたいの!?」
「!」
篠崎さんははっとなった。
「……私はっ、学園祭で見た生徒会長が、
凛々しくてかっこよくて、
ううん、それだけじゃない。
学園で迷子になった私を保護してくれて、
大丈夫だよ。きっと見つかるよって、
ずっと優しく励ましてくれた……
だから憧れたんだ……あんな人になりたい。
あんな風に優しくて強い人になって、
学校を明るくしていきたいって……
なのに、その生徒会長が、今目の前にいる会長が、
こんなにもわがままで
自分勝手な人だったなんて……
認められないわけだ……
こんな人にみんなが苦しめられるくらいなら、
私がなってやる!! 私が生徒会長に!!」
その時、篠崎さんに“異変”が起きた。
「っ!?」
「はっ!? ま、まさか!?」
ホップが驚く。
「あ、ああっ、あああっ!?」
ーそれがあなたの覚悟なのですね?
自らを犠牲にしてでも
救いたい誰かがいる……
なら、あなたは誓えますか?
誰かのために、その命を賭けることを。
「……いいよ、賭けるよ。
みんなのためなら、命だって賭けるっ!!」
篠崎さんの顔に、金色に縁取られた
白い“仮面”が現れ出た。
ー……しかと聞き取りました。
我は汝、汝は我……
結びましょう、契約を。
そして、進みなさい。
己が信じる道を!
篠崎さんを拘束していた鎖が壊された。
解放された篠崎さんは現れ出た仮面を
本能のままに剥がした。
「うああああああーっ!!」
青い炎が吹き出し、篠崎さんを包む。
「すごい……すごいでちゅ!」
「おお……!」
「茜にもペルソナが!?」
炎が収まると、篠崎さんの背後には、
巨大な旗を掲げ、銀の甲冑と
藍色のマントを羽織った
女性らしいペルソナがいた。
篠崎さん自身も、藍色の騎士服を身に纏っていた。
ペルソナが仮面に戻ると、篠崎さんは身を翻し
甲冑から剣を奪った。
「やあっ!」
ためらわず篠崎さんは
自身のシャドウを断ち切った。
シャドウは塵となって消え去った。
篠崎さんの変貌ぶりに沙城は唖然とする。
「……私の知ってる生徒会長は、
強く、優しくて、一人一人に耳を傾ける、
そんな凛々しい人なの!」
「き、貴様あ……!!」
「自分勝手な理由で生徒を苦しめた挙句、
ちさちゃんの命まで弄んだ!!
そんなあなたを生徒会長だなんて認めない!!
あなたから全部奪ってやる!!」
篠崎さんの激に感化され、僕らも再び立ち向かう。
「やれるものなら、やってみろ!!」
甲冑達が魔獣に変身した。
「もうあなたの言うことなんて、
金輪際従わないんだから!!」
仮面がペルソナへと姿を変える。
「行って、“ジャンヌ・ダルク”!!」
ペルソナが上空から雷を放つ。
魔獣の一匹がもろに受け、黒こげになった。
「もう一丁!!」
宗馬さんのドレークがさらに追撃した。
鹿の姿を模した魔獣が風を起こした。
「レスター!!」
僕はレスターを召喚し、
吹き飛ばされそうな仲間を庇った。
風が敵に逆方向に向かって攻撃する。
「行こう、みんな!」
「でちゅ!」
「やっつけちゃおう!」
ドカバキドカバキドカッ!!
ー華麗に決まったね!
【Yes! I can do it!】
一斉攻撃によって魔獣は全滅した。
「やった! あとは……あ、あれ?
会長、沙城は!?」
気づけば沙城の姿が見当たらない。
どさくさに紛れて逃げたのだろう。
「逃げられたみたいだな」
「……って、ええっ!?
何このコスプレ姿!?」
今頃になって篠崎さんは
自分の変わりように驚いた。
「というか今気づいたけど、
もしかして田嶋君と五十嵐君!?
人のこと言えないけどどうしたのその格好!?」
「説明は後でちゅ!
すぐに追手が来るでちゅよ!」
「うん、一旦逃げよう!」
僕達は逃げようとした。
「あ……?」
篠崎さんが膝から崩れ落ちた。
どうやら張り切りすぎて疲れたようだ。
「大丈夫か? ほら、掴まれよ。勇気」
「はい」
僕達二人は篠崎さんの腕を持って
一緒にパレスを脱出した。
ひと段落して、僕達は渋谷の街で
休憩することになった。
「ほらよ」
宗馬さんがジュースを買ってきてくれた。
「ありがとう」
「ほい、勇気も」
「ありがとうございます」
すると、僕の鞄からホップが出てきた。
「あたちのは?」
「いやいや、ぬいぐるみにジュースとか
色々まずいって……」
「ふふふっ、ぬいぐるみが喋ってるなんて、
なんか不思議な感じだね」
やっと見えた篠崎さんの素の笑顔に、
僕は胸を撫で下ろした。
で、篠崎さんは僕らも最近気づいたことを話す。
「姿が見えるのって、私達だけなんだね?」
「そうでちゅ。パレスに
行ったことがない人間には、
あたちの姿は見えないでちゅ」
「……話はわかったよ。私もやらせて!
沙城の改心ってやつに」
「いいの? でも、もし失敗したら……」
「大丈夫。沙城は死なせないよ。
生きて罪を償ってもらわないと。
それが、私がちさちゃんに出来る
弔いみたいなものだから……」
「……わかった。一緒に頑張ろう!」
篠崎さんがいれば正直心強い。
何よりペルソナ使いがまた増えたんだ。
これ以上頼もしいことはないだろう。
「頼りにしてるぜ、茜!」
「よろしくでちゅ、茜ちゃん!」
「うん、よろしくね!」
「……なんか、ホップが言ってた通り、
だんだん賊、怪盗っぽくはなってきたね」
「まさにそうでちゅ!
あたち達は悪しき欲望を奪う怪盗団でちゅから!」
「怪盗団か……それも悪くねえな!」
「うん!」
なんだかワクワクしてきた。
こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか。
「そうだホップ。オタカラを実体化させないと
盗めないって言ってたよね?
どうやって実体化させるの?」
「ふっふっふっ……怪盗と来たら、
“あれ”があるでちゅよ、あ・れ!」
そして翌日、秀尽の掲示板が
あるもので埋め尽くされていた。
ー予告状、心の怪盗団より。