ペルソナ5 Dark Revengers   作:海色ベリル

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第5話 Take your Heart

その日、朝から秀尽の掲示板には

人だかりが出来ていた。

みんな“あれ”に興味を示しているようだ。

「ねえ、これってマジかな?」

「いたずらならまずいって!

いくら会長がああだからって……」

「あれも関係してるのかな?

ほら、真鍋さんの件でさ……」

ひそひそ声を流しつつ、

人混みの外で僕らは集まっていた。

「……傲慢なる男、沙城浩一殿。

家の名と生徒会長という地位を盾に

学園で好き放題やり、

何の罪もない生徒を追い詰めた挙句、

一人の生徒の命をも奪った

お前の罪は最早救いようがない。

よって明日、お前の歪んだ欲望を盗み、

その罪を白状させてもらう。

心の怪盗団より……」

篠崎さんの手にあるのは、

裏面にドクロマークが描かれた

青いポストカードだった。

掲示板に貼られているのはまさにこれだ。

「どうよ? 夜鍋して書いたんだぜ?」

宗馬さんが鼻高々と自慢している。

「あはは……ちょっとパッとしないかな?」

「え? マジかっ?」

「なんか、インパクトが足りないって言うか…」

「なっ、あ……!? これは何だ!?」

校舎内にでかい叫びが轟く。

振り返って見てみると、そこには沙城がいた。

「お、来たか……」

沙城は怒りでわなわなと震えている。

「……貴様か!?」

「ち、違います!!」

「なら貴様か!?」

「やってませんやってませんっ!!」

「会長?」

そこへ、あの副会長がやって来た。

「どうかされたんですか?」

「葉月、見ろ!!」

副会長が掲示板を覗く。

その内容に副会長ははっと驚く。

「すぐに全部剥がせ!!

一ミリ足りとも残すなよ!!」

「は、はい! 誰か! 生徒会の人を!」

副会長に任せると、沙城の目が僕らと合った。

沙城は憎しみの目を向けた。

「貴様か……」

「な、何ですかっ?」

僕は怖気そうになるが、なんとか踏ん張る。

「何だよ、俺達を疑ってんのか?」

そうだ。ここはやり過ごそう。

バレたら何が起こるかわからない。

「……まさか!!」

沙城の目が篠崎さんに向けられた。

「貴様……!!」

覇気と憎しみが込められたその目に、

篠崎さんは怯えながら目を逸らす。

「……ふん、まあいいだろう。

たとえ無罪だったとしてももう遅い。

じきに貴様らは退学だ!」

すると、突然景色が変わった。

沙城の姿が、パレスでの姿になった。

『盗めるものならやってみろ!!

返り討ちにしてくれるわ!!』

すぐに景色が戻る。

沙城は憎しみの目を向けたまま

その場を去っていった。

 

夕方、僕らはホップに呼ばれて

屋上にやってきた。

「これでいいんだよな?」

「でちゅ! あの反応は間違いなく

パレスに何かがあったでちゅ!

オタカラは“狙われている”と認識することで

初めて実体化するでちゅ。

だからああして予告状を出すんでちゅ。

あなたの心を盗むってね!」

「オタカラを盗めば、沙城は改心するんだよね?」

「でも、予告の衝撃は一瞬だけでちゅ。

予告状を出してせいぜい一日。

つまり明日の朝までしかないでちゅ」

「マジか! じゃあ早速パレスに行かないとだな!」

「まあまあ落ち着くでちゅ。

本腰を入れるのは相手も同じ。

しっかりと準備を整えるでちゅよ!」

「なら、決行は今夜。それまでに準備をしよう」

ということで、僕達はパレス侵入までの間、

それぞれ準備を整えることにした。

そして、夜の九時。僕達は校門前に集まった。

「お待たせー!」

待ち合わせしていた場所で、

宗馬さんと篠崎さんと合流した。

「準備は出来たでちゅか?」

「準備になるかわからんが、

それなりのものは用意出来たぜ!」

そう言って宗馬さんが出したのは、

三丁のモデルガンだった。

宗馬さんはそれぞれ一人一丁配る。

「す、すごい……」

「玩具屋で安売りしてたから買った!

まあ脅しぐらいには使えるだろ?

で、あとは……」

宗馬さんから僕に渡されたのは、

金属バットだった。

「何で金属バットなんですか?」

「いやいやあ、攻撃性のあるやつっつったら

これくらいかなあって」

「篠崎さんは?」

「私は怪我したらあれだから、

救急箱持ってきたよ」

「優しいでちゅねえ、茜ちゃんは!

では全員揃ったので早速行くでちゅ!」

イセカイナビを起動させ、

沙城のパレスに乗り込んだ。

空気がなんだかピリピリしているのは

気のせいだろうか。

「感じるでちゅ……

明らかに警戒が強くなってるでちゅね」

「けど、だからって

逃げるわけにはいかないだろ?」

「うん、覚悟は出来てる!」

「じゃ……行こう!」

僕らは見張りを抜けつつ、

オタカラのある部屋へ向かう。

今回からはホップの提案により、

僕達はコードネームで呼び合うことにした。

まあ怪盗が本名で呼び合ってたら

色々とまずいし。

「じゃあまずは俺から!

俺にはどんなのがいいと思う?」

「なんか海賊っぽいし、キャプテンは?」

「キャプテンは勇気だろ? 一応リーダーだし」

「ええっ!? いつの間に僕

リーダーになってるの!?」

「そりゃそうだろ。お前がいなきゃ

怪盗団は生まれなかったしな」

急なリーダー任命に僕は戸惑う。

「うーん……五十嵐君のペルソナって

なんか王様って感じがするし、

“キング”ってのはどうかな?」

「お、いいねえ! じゃあそれで! 次は茜だな」

「篠崎さんは女性だし、綺麗な名前がいいよね?」

「そうだなあ……茜は明るくて前向きで、

なんか太陽って感じがすんな!」

すると、篠崎さんが何かを思いつく。

「じゃあ“ソレイユ”! 太陽って意味だし、

なんか良いネーミングだし!」

「……うん、良いんじゃないかな?」

「おうおう! なんかぽいしな!」

「あたちはっ? あたちには何かありまちゅか?」

「いやいや、あんたはホップで十分だろ?」

「ひどいでちゅ!! あたちだけ仲間外れなんて!!」

「あ、じゃあじゃあ!

名前がホップだから、

“ホッピー”ってのはどうかなっ?

なんか可愛いし!」

「茜ちゃ〜ん!」

ホップは嬉しそうに篠崎さんに抱きつく。

「最後は勇気君でちゅね」

「リーダーだからな。それなりの

名前を付けてやった方がいいな」

「うーん、それこそキャプテンってのは?」

「確かに格好もなんかそれっぽいしな?

ヒーロー物のキャプテンっぽいし。

勇気は何か要望とかあるか?」

「特にはないかな」

「むむっ、とりあえず勇気君は保留でちゅ!

オタカラの部屋を見つけたでちゅよ!」

僕達は目の前の扉を開いた。

「おお……!」

「これが、オタカラ……?」

最初の時は光しかなかった場所に、

宝石で飾られた金色の王冠が浮遊していた。

たしかにいかにもオタカラって感じだ。

しかし……

「つーかデカくね!?」

サイズが明らかに桁外れにデカい。

「こんな大きいの盗めるのかな……?」

「と、とりあえず三人がかりで運ぼうか?」

「やったでちゅー! オタカラー!」

ホップの目がキラキラと輝き、

一目散にオタカラに向かって走る。

「……!! ホッピー、前!!」

篠崎さんが叫んだ時だった。

突然オタカラを横切る影がホッピーを

激しく吹き飛ばした。

「ホッピー!!」

「ふゆゆゆ〜……」

篠崎さんがホッピーを助ける。

「お前は!!」

僕達の目の前に現れたのは、沙城だった。

沙城は巨大な王冠を抱えてこちらを睨む。

「沙城……!!」

「この王冠は我が王の証であり、この城のコア!!

誰にも渡されてなるものか!!」

彼の近くには、ソレイユもとい

篠崎さんのシャドウがいた。

「そうだそうだー! 王様には王冠が必要なのー!

誰にも渡さないよーだ!」

「はん、わかってるじゃないか馬鹿犬。

今日は気分が良いからまたやってやろう」

「わーい!」

篠崎さんのシャドウが馬乗りになると、

いつかのように沙城は鞭で叩き始めた。

「いや〜ん! もっともっとお〜!」

「クソが!! 跪け!! 喘げ!!」

「なっ……!?」

本物の篠崎さんが絶句する。

「あれがあいつの本心さ……

あいつはあんたをああ見ていたってわけだ」

「でちゅ……勝手に自分の都合でこじつけた、

歪んだ認知でちゅ!」

篠崎さんは怒りに震えていた。

そりゃそうだ。自分がああ見られているなんて、

本人からすれば屈辱以外何て言えるか。

「……私のことをそう思っているならいい。

でも、だからってなんでも

思い通りにいくと思ったら大間違いだよ!!

あなたに至っては特に!!」

「大間違いだと? それは貴様達の方だぞ」

「どういうことだっ?」

「この俺を見誤っているということだ。

何故わからん? 俺は学園を良きものにしようと

日夜奮闘しているのだぞ?

貴様達のやってることはその妨害に過ぎん」

「良きもの、だと……!?

自分勝手に生徒を追い詰めた挙句、

一人の命を奪ったことのどこが良きものだ!!

あんたのやってることはただの独裁だ!!」

「そうだ!! それでいいのだ!!

独裁こそ正義だ!! ただし、それは

秀尽に限っての話になるがなあ!!」

言ってることが不明だ。

秀尽に限ってとはどういうことだ。

「……あんた、秀尽を乗っ取るって言ってたな?

何の動機があって乗っ取るつもりだ?」

「いいだろう。特別に教えてやろう。

俺がこの秀尽に入った一番の理由……

それは復讐だ!! 秀尽をぶっ壊すために

学園に入ったのだ!!」

「秀尽を、ぶっ壊す……!?」

「秀尽を乗っ取り、我がものにすることで

俺の復讐は為し果たされる!!

学園関係者達に思い知らせてやるのさ……

お前達は愚かだとな!!

そうだ……そのために俺は全てを懸けてきた……

あの男を野放しにしていた学園を壊すためなら、

なんだってするってなあ!!」

沙城の様子がおかしい。

彼の周囲に禍々しいオーラが巡ってきた。

「なあ、なんかヤバいんじゃねえかっ?」

「憎い……憎い……

俺達家族から何もかも奪った

あの男も、秀尽も、世間も憎い!!

あいつが逮捕されてもそれは消えない!!

だから俺は秀尽を手に入れ、

奴を擁護した学園関係者に

思い知らせてやるんだ!!

お前達のやったことは間違いだったと!!

俺はそのためなら、

人ですらやめても惜しくはないっ!!」

沙城の姿がむくむくと膨らみ、

人の形からどんどん遠ざかっていく。

「そうでちゅね……少なくとももう、

あなたはまともな人間じゃないでちゅ!」

僕も思ったことを口に出す。

「歪んだ欲望に取り憑かれた、“悪魔”だ……!!」

気づけば沙城の姿は、

悪魔そのものに変わっていた。

四本の腕にタコの様な無数の足、

巨大な翼と角を生やした化け物だ。

「俺の悲願はもうすぐ達成される!!

誰にも邪魔はさせんぞおおおおーっ!!」

四本の腕にはそれぞれ、

剣・槍・トロフィー・鉄球があり、

沙城は鉄球を投げつけた。

「きゃあ!?」

当たりはしなかったが凄まじい勢いだ。

「おいおい……これって

最悪の状況じゃねえのかっ?

明らかに太刀打ち出来ないぞっ?」

「それでもやるんでちゅ!

ほら、オタカラは奴の頭の上でちゅよ!」

見れば確かに、オタカラである王冠が

沙城の頭の上にある。

「目的はあくまでオタカラ!

あれさえ取れば勝ったも同然でちゅ!」

「でも、どうやって取ればいいのっ?」

「とにかくまずはあいつを無力化するでちゅ!」

そう言ってホップはエウリュアレを召喚する。

エウリュアレの放つ無数の矢が沙城を傷つける。

「ぐうう……まだまだあ!!」

すると、沙城は持っていたトロフィーを出す。

トロフィーの中に入っていたのは、

牢獄で見た生徒達だ。

沙城はその内の一人をなんと食べてしまった。

「なっ……!!」

「生徒を食いもんにするってかよ……!!」

「回復だ!!」

再び沙城は鉄球を投げつける。

どうやらコントロールは全くないが

威力が強すぎる。

「あのトロフィーが厄介でちゅね……

そうでちゅ! 勇気君、モデルガンを出すでちゅ!」

「えっ? でも、発砲とかできないんじゃ……」

「いいから撃つでちゅ!」

僕は言われるがまま、宗馬さんからもらった

モデルガンを構えて引き金を引いた。

すると驚いたことに、

モデルガンから銃弾が発砲され、

トロフィーを撃ち抜いた。

「ええーっ!? 嘘っ!?」

トロフィーは瞬く間に粉々になった。

「き、貴様あっ!!

これは数学コンテスト優勝のトロフィーだぞ!!」

「言ったでちゅ。ここは認知の世界。

この世界で武器と認められれば、

偽物の武器でも……」

「“本物”になる……!」

「おい!! また来るぞ!!」

「こうなれば奥の手だ……!!」

すると今度は、沙城のデカい口から

光が集まってきた。明らかに何か来る。

「おいおい冗談だろ……!?」

「消え失せろ!!」

巨大なビームが放たれた。

「うわああああっ!!」

まともに食らってしまった僕らは、

床に倒れ伏した。

「く、くそっ……!!」

「俺の邪魔をする奴は容赦せん。

貴様達はここで終わりだ!!」

ここで終わるのか。何も出来ずに、

ただ平伏すしかできないのか。

こんな最低な奴の馬鹿げた野望のために……

 

「オレのためっつってんなら……

黙ってオレの言うこと聞けやあっ!!」

 

……違う。誰かのために黙って言うことを聞く。

それは場合によっては正しいのかもしれない。

でも、誰かのためだからこそ、

反逆せねばならない。

それでたとえ、敵に回したとしても。

僕はあの時、父さんと母さんを守るために、

そして何より兄さんのために、決心した。

だから……

 

「これで終わりだ!! 雑魚共があああー!!」

再びビームが放たれようとしていた。

「茜っ!!」

宗馬さんが篠崎さんを庇う。

「ペルソナアアアアー!!」

僕の叫びと共にレスターが現れ出た。

レスターがビームを防いだ。

「何っ!?」

「……僕は諦めない!!

あなたを改心させるために!!」

「勇気……!」

「よく言ったでちゅ! 勇気君!」

「くそ!! このひ弱が……!!」

再び沙城は鉄球を投げようとする。

「……あ!?」

突然篠崎さんが声を上げる。

「どうした!?」

「田嶋君、バット!!

キングからもらったやつ貸して!!」

「ええっ!? 急にどうしたの!?」

「オタカラ、なんとかできるかもしれない!!

いいから早く!!」

僕は慌てて金属バットを篠崎さんに投げ渡す。

「これでも食らえ!!」

鉄球がこちらに向かってくる。

「一か八か……!!」

篠崎さんはバットを構えた。

「いっけええええー!!」

篠崎さんがバットで鉄球を受け止め、

勢いよく打った。

すると鉄球は綺麗に真っ直ぐ飛び、

オタカラに直撃した。

オタカラは沙城の頭から離れて、

ゴロゴロと床に転がり落ちた。

「ああっ!? お、俺の王冠が!!」

隙が出来た。好機だ。

「今でちゅ!!」

僕達はペルソナを召喚し、

沙城に総攻撃を繰り出す。

 

ドカバキドカバキドカッ!!

 

「ば、馬鹿な……この俺が、そんな……!!」

爆発と同時に化け物と化した沙城が小さくなり、

元の姿に戻った。

ホップは転がり落ちたオタカラを拾う。

「オタカラはあたち達の手に渡ったでちゅ!

もうあなたの負けでちゅよ!」

「ま、まだだあ……まだ負けてない……!!

おい、馬鹿犬!! 早く俺を助けろ!!」

沙城が篠崎さんのシャドウを

呼び出すが姿を現さない。

「もうあなたはパレスにおける

全ての権限を失っているでちゅ。

シャドウももういないでちゅよ」

「ぐっ、ううっ……!!」

沙城は慌ててその場から逃げだした。

「あっ、おい!! 逃がすかよ!!」

沙城が逃げた先は、バルコニーだった。

逃げ切るには飛び降りるしかない。

まさに四面楚歌状態だ。

「……今あんたは、あんたが

人生を狂わせた奴らと同じ景色を見ている。

追い詰められ、逃げ場もなく、

誰にも助けを求められない。

あんたはそうやって色んな人から

幸せを奪ったんだよ!!」

すると、篠崎さんがジャンヌ・ダルクを出し、

沙城に雷を落とす。

「ひ、ひいっ!?」

「選んで!! ここで死ぬか、飛び降りるか!!」

沙城は恐怖と怒りで震えている。

「……でも、ここであなたを殺したら、

罪の証明ができなくなる。

あなたには生きて、罪を償ってもらいたい。

それが、今できることだから……」

篠崎さんは拳をぐっと握りしめ、

怒りを静かに抑えている。

何せ相手は親友を死に追いやったんだ。

僕が同じ立場なら今すぐにでも殺してやりたい。

きっと篠崎さんはそれを抑えているんだ。

「……お前達は、余計な真似をしたんだぞ……!!

お前達のせいで!! 俺は全てを失うんだぞ!!」

「知ったことかよ!! 自業自得ってやつだ!!」

「俺は悪くないっ!!

悪いのはあいつ……鴨志田と秀尽だ!!

あいつらがいたせいで何もかも失ったんだ!!」

沙城は一人、独白を語りだした。

「……俺の家は元々、貧乏の類に入る家族だった。

父親の会社が倒産したことを機に、

我が家計は常に火の車。

唯一の希望は、バレー選手として

期待されていた俺の兄だった。

兄がプロになってスポンサーが付けば、

我が家はきっと貧乏から抜け出せる。

兄自身もそれを願って日々努力していた。

だが!! それが気に入らないあいつ、鴨志田は

徹底的に兄を否定し、体罰を繰り返し、

鬱憤晴らしのカモにされた!!

精神を壊された兄は自殺した……!!

だが学園はそれの一切の責任を背負わなかった!!

俺は怒りに狂った!!

鴨志田が逮捕されてもそれは消えなかった!!

だが、もはや希望は潰えた……

このまま飢え死にを待つかと諦めていた。

そんな時に“あの方”が現れた。

歪んだ心を持つ覚悟があるなら、

どんな願いも叶えてやろうと……」

「あ、あの方……!?

まさかそいつがイゴールを、モルガナを……!?」

ホップがうろたえる。

しかし驚いたのは、

ホッピーがイゴールを知っていることだ。

すぐにでも聞きたいところだが、

今は沙城の言い分を聞かないとならない。

「俺はあの方に願った……

秀尽に復讐できるほどの財力が欲しいと!!

秀尽を乗っ取れる権力が欲しいと!!

そして俺は得たのだ……

俺が卒業し、学園の理事長になれば

その復讐は完了するはずだった……

お前達はそれを台無しにしたんだぞ!!

それを、それを……!!」

沙城はわなわなと震えている。

「……だからって、人の命を奪って

良い理由には絶対ならねえぞ!!」

「それが何だ!? 世は弱肉強食だっ!!

強い奴が弱い奴を喰らうのが世の常だっ!!

そうだ!! 俺は強いっ!!

俺以上に強い奴などいないんだっ!!」

ここまで狂ってしまう人間がいるのか。

何を話しても自分を擁護する発言ばかりだ。

「こいつ……!!」

宗馬さんが殴りかかろうとした。

しかし、すぐに僕が制止させる。

「勇気っ?」

僕は無言で窘める。

そしてすぐに沙城に向き直る。

「……僕は、あなたの事情は知りません。

どんな想いであんなことをしたかなんて、

僕にはわかりません。

でも、一つだけわかることがあります。

……あなたは、哀れだ。

ただただ復讐のために今まで生きてきたと思うと、

哀れ以外の言葉が思い浮かべません。

だけど、だからと言って同情はしません。

あなたのやったことは、紛うごとなき罪ですから」

沙城ははっとなると静かに膝から崩れ落ちた。

「俺はっ……俺は、どうしたらいいっ?

これからどうすればいいっ?」

「さっきソレイユが言いました。

生きて、罪を償ってください。

それがあなたにできる最良のことです」

沙城からすすり泣く声が聞こえる。

「……俺は、現実の俺に戻る。

そして、いつか必ず……!!」

すると沙城の体から光が溢れ、

やがて彼の姿が静かに消え去った。

その直後、突然地震が起きた。

「な、何だっ? 地震か?」

「オタカラを手にしたことで

パレスが崩壊を始めたんでちゅ!

急いで脱出するでちゅよ!」

「わかった!」

僕達は急いで脱出する。

篠崎さんは立ち尽くしているままだ。

「……ソレイユ!」

「……うん! わかってる!」

僕達が入り口を抜けた頃には、

城はガラガラと崩れ落ちた。

そして、僕達は現実世界に戻った。

「みんな、無事かっ?」

「なんとか……でも、これでいいのかなっ?」

「大丈夫でちゅ!」

すると、ホップが懐から何かを取り出した。

それは幾つかの金メダルだった。

中には金の折り紙で作られた

可愛らしいものも含まれていた。

「何だこれ? メダル?」

宗馬さんが一枚手に取った。

「何何……絵画コンクール

小学生部門特賞、沙城孝宏殿?」

「こっちは小学生バレー地区大会優勝ってある!」

「沙城孝宏って誰だ? 生徒会長は浩一だよな?」

僕には心当たりがあった。

「もしかして、話にあったお兄さんっ?」

「ああ! バレーの選手だって言ってたね!」

「じゃあこれって、沙城の兄貴のもんかっ?」

「これがオタカラの正体。

すなわち歪んだ欲望の原因でちゅ。

これが手元にあるということは、

オタカラを盗んだってことでちゅ!」

「じゃあ、これで沙城は

改心されたってことかな?」

「でも、上手くいかなかったら

廃人化するかもしれないんだろ?

大丈夫なんだろうな?」

「それはわからないでちゅ。

あとは結果を直接見るしかないでちゅ……」

僕は不安になった。

本当に上手くいったのだろうか。

最悪人殺しになるかもしれない。

そんな不安を抱えながら、

僕達は結果を待つしかなかった。

 

オタカラを盗んでから翌日、

沙城は学園に姿を見せなくなった。

それから三日が経ち、

学園では朝礼が始まっていた。

校長先生は此度の自殺や予告状に危惧しながらも、

怯まず立ち上がっていくことを宣言した。

そして次は、生徒会からの朝礼が始まる。

「次は、生徒会からのお知らせです」

「えー……本日も生徒会長は不在のため、

代理として私、副会長が担当を…」

すると、何やらザワザワと教壇の裾が騒がしい。

見るとそこにいたのは、沙城本人だった。

「か、会長っ!?」

「葉月。俺にやらせろ」

突然の沙城本人の登場に、

清聴していた生徒達はざわつく。

沙城は副会長からマイクを奪い、

生徒達に向き直る。

沙城の顔はやつれていて、

目には遠目からでもわかるくらい

はっきりとしたクマが出来ていた。

「……皆さん、急な発言を許してください。

本日はこの場をお借りして、

皆さんに謝罪せねばなりません。

私は、人間として大変愚かなことをしました。

自分勝手な理由による生徒への暴言。

会長権限の乱用。そして……

一人の女子生徒への脅迫」

最後の一言で周囲がざわめく。

「そう……真鍋千里さんを自殺に追いやったのは、

他の誰でもないこの私です!

部費の高騰化という、ちゃんと考えれば

改善できたかもしれない事態を、

私は自分の傲慢さによって

脅迫の材料にしたのです!

自分もただの冗談で言ったつもりが、

まさかここまでくるとは

思いもよらなかった……!!

そんな私に、生徒会長は愚か、

ここにいる資格などありません!!」

沙城はその場で土下座をした。

「私によって退学、休学に追い込まれた人、

そして私に翻弄されたことのある生徒の皆さん!!

今まで本当にすみませんでした!!

本日を以て学園を退学し、警察に自首します!!」

沙城が自首する。

その宣言に動揺が止まらない。

「か、会長……」

「葉月、そしてお前達。

今まで本当にすまなかった。

今日付けで俺は生徒会長の任を解く。

後のことは任せる」

ずっとざわつく生徒達に、

教師達も慌てふためいている。

「ち、朝礼は以上です!」

校長先生がお開きを宣言するも、

ざわめきはしばらく続いた。

 

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