「順番的に行けば、
次の生徒会長はあなたです。副会長」
「……私は、生徒会長にはなれません。
今日の今日まで会長のやってきたことに対して
何もできずに黙認していました。
私も会長と同罪です。
しかし、私以上に生徒会長にふさわしい人間を
私は知っています」
「それは一体?」
「というわけで!
怪盗団の仕事大成功と、
茜の生徒会長任命を祝って、乾杯!」
『乾杯!』
僕達はジュースのグラスを打ち合った。
屋根裏部屋はちょっとしたパーティー会場だ。
テーブルには出前で取ったピザやらカレーやらで
溢れかえっていた。
「今日はじゃんじゃん食えよー!
なんなら追加注文もしていいぞー!」
「い、いいんですかっ? お金とか……」
「いやいや〜、お前知ってるだろ?
沙城のオタカラ! まさかあれが
ここまでの価値があったとはな!」
「でも、オタカラって歪んだ欲望なんでしょ?
なんで金メダルだったんだろう?
自分のだったら過去の栄光にすがるって感じで
なんとなく理解はできるけど、
なんでお兄さんのだったんだろう?」
「沙城にとってあの金メダルは、
オタカラだった王冠と同等の価値があったでちゅ。
前にも言いまちたが、あれは現実における
歪んだ欲望の原因でちゅ。
これは憶測でちゅが、おそらく今回の場合、
沙城のお兄さんの存在が欲望を歪ませた。
ってことが考えられるでちゅ」
「そう言えば沙城、お兄さんの無念を晴らすために
秀尽を乗っ取ろうとしたんだっけ」
「鴨志田……聞いたことがあるんだ」
そう言って篠崎さんは携帯を見せた。
見せてくれたのは、ある男の写真が載った記事だ。
がっしりとした体格に天然パーマみたいに
もじゃもじゃした髪型の男だ。
「この人、元々オリンピックの
選手だったんだけど、
引退した後は秀尽の体育教師をやってたらしいの。
でも、生徒への体罰が噂されていて、
ある時、一人の女子生徒が性的嫌がらせに遭って
自殺未遂を図ったことをきっかけに
自首したみたい」
「生徒への体罰……確かに沙城の奴も言ってたな。
兄貴がカモにされたって」
「あと、こうも言ってたよね?
学園は一切の責任は取らなかったって……
それだけ聞いてたら、なんかかわいそうだな。
自分の身内が学園のせいで死んで、
尚且つ問題をもみ消しにされるなんて、
復讐したくなる気持ち、わかるかも……」
すると、宗馬さんがはあとため息をついた。
「ま、だからと言ってなんでも好き勝手やっていい
理由にはならないしな。
それこそその体罰をやった教師と同じだ」
「ですよね……」
でも、やっぱり気が引ける。
あの金メダルの中には、折り紙で作られた
偽物も混ざっていた。
あれもオタカラの一つだったということは、
それだけお兄さんのことを
誇りに思っていたのかもしれない。
それを盗んで金にするなんて、
ちょっとかわいそうな気もした。
「まあ、そんな気を落とさなくていいでちゅよ!
動機が何であれやったことはいけないこと。
それを止めた上の報酬と割り切ればいいんでちゅ」
「そう、かな……」
「そうそう! こうしてぱーっと使い切った方が、
後腐れなくていいんだよ!」
「そうだね! 経済回してるって思えば
そんなに悪い気はしないしね」
「何より、沙城の代わりに
茜が生徒会長になれたんだ。
いいきっかけにはなったと思うぜ?」
二人は前向きだ。羨ましい限りだと思う。
「すごいな、二人は。
すぐにそうやって前向きになれて。
僕なんか、時間かかっちゃうな……」
「……なあ、勇気。ちょっと気になったんだが、
お前のその遠慮がちな態度、
何が原因かわかるか?」
「え?」
「お前は頑張りゃできる奴だって
俺は心の底から信じてる。
でもお前はそれを受け入れてないように見える。
何かコンプレックスとかあるのか?」
図星だった。宗馬さんは鋭いな。
「悩みがあるなら言えよ?
俺達はもう怪盗団、いわば仲間さ。
秘密なんてなしだぜ?」
「私も、私で良ければ相談に乗るよ?」
僕はちょっと贅沢かなとも思っている。
こんなに気にかけてくれる人と友達になって、
なんかもったいない気がしたからだ。
「……ありがとう、二人共。
じゃあ、話してもいいかな?」
僕は二人に語った。
転入してきた理由、家族の事情など、
今現在に至るまでの経緯を語った。
「……勇気! お前本当にいい奴だな!
家族のために命を張るとか!」
何故か宗馬さんは涙を浮かべて
出前のピザを一気食いする。
「い、いや、そんな泣くほどっ?」
「泣くよ!」
篠崎さんも半分泣いていた。
「田嶋君は偉いよ! 命をかけて
家族を守ろうとするなんて、
普通は実際なかなかできないもんだよ!
だから、自分は平凡なんて諦める必要ないよ!
田嶋君は田嶋君なんだから!」
「おう……! お前にはお前の良さってのがあんだ!
自信持て! 仮にもリーダーだろっ?」
宗馬さんは口いっぱいに頬張ったピザを
ジュースで流し込む。
「にしても、その兄貴っつーのはひどい奴だな!
気に入らないからって弟を殴るとか最低だぞ!
勇気が不憫すぎる!」
「ああいや! 気にしないでください!
しょうがないことですから!
兄さん、子供の頃から色んな
プレッシャーを抱えていましたから、
それが今爆発しちゃってるんです。
僕に対して当たりが強いのもそれですし」
「でもよ、それって完全に八つ当たりじゃねえか。
迷惑ってやつを知らないんだろうな」
「……見つかるといいね、お兄さん」
「うん」
まあ、無事なら無事で少し怖いが。
「……もしも、もしもだよ?
お兄さんもパレスを持っていたら、
田嶋君は改心させるの?」
僕ははっとなった。
そうだ。確かに兄の様子は明らかに異常だ。
パレスがあってもおかしくはない話だ。
けれどもし改心させることになったとしたら、
それは兄と対峙しないといけなくなる。
僕はそれが怖い。あの日以来、兄に対しては
拭いきれない恐怖を感じるようになったのだ。
逆らったらまた殴られるかもしれない。
そんな恐怖だ。
「……まだ、わからない。
たしかに、兄さんをあのまま野放しにしたら
良くないとはわかってる。
でも……怖いんだ。
また何かされるんじゃないかって思うと、ね……」
「田嶋君……」
「なーに言ってんだ! お前はやればできる奴だ!
お前言ってたじゃねえか。
勇気っつー名前は親父さんが
願いを込めて付けてくれたって。
お前にはちゃんと勇気があるんだ!
うん、俺はそう思うぞ!」
「そうだね! 私もそう思う!」
二人は本当にいい人達だ。
こんなにも僕を信じてくれるんだ。
「……ありがとう。宗馬さん、篠崎さん」
「どういたしまして! あ、あとさ、
もう私のことも茜って呼んでよ。
私達もう友達でしょ?」
「あ、それいいな! 俺もそろそろ“さん”付け止めて
ちゃんと呼び捨てしてくれよ!」
「ええっ? じ、じゃあ……あ、茜……宗馬っ?」
「そうそう! それそれ!」
僕は恥ずかしかったけれど、
本当はすごく嬉しかった。
僕にはちゃんとした友人がいなかった。
別にいじめられているわけでも、
孤立しているわけではない。
話しかけてくれる人はいたし、
助けてくれる人だっていた。
ただ、周囲は皆優秀な兄の方に興味が強かった。
口癖のように言われたのは、
ーお兄さんって素敵よね!
ー勇気の兄ちゃんってすげーな!
ーあんな人がお前の兄貴とか羨ましいぜ!
と、ほとんどが兄に対しての話題だった。
僕には別に不満はなかった。
兄がすごいのは事実だったから。
でも、どこか寂しい気持ちはあった。
ちょっとでいいから僕も見てほしい。
多分、そんな欲もあったからかもしれない。
だから宗馬や茜にこうも頼り頼られると、
すごく嬉しかったんだ。
兄には悪いが僕は今、幸せだ。
そんな光景を、ホップが嬉しそうに見ている。
「うんうん、いいでちゅねえ……
これが青春ってやつでちゅね!」
「……そうだ! ホップに
聞きたいことがあるんだ!」
僕は忘れかけていたあの疑問をぶつける。
「ホップは、イゴールを知ってるっ?」
「はっ!? イイイイゴールでちゅって!?
勇気君、イゴールを知ってるんでちゅか!?
イゴールは無事でちゅか!? モルガナは!?」
ホップは異常なまでに慌てふためいた。
「誰だ? イゴールって?」
「あ、うん……時々夢に出てくるんだ。
イセカイナビをくれたのもその人で……」
「勇気君っ、答えるでちゅ!!
イゴールは無事なんでちゅか!?」
「無事っ? ……どうなんだろう。
足枷みたいなのを付けていたから、
完全に無事ってわけではないみたいけど……」
「そうでちゅか……やっぱり
囚われているんでちゅね……」
ホップはがっくりと肩を落とす。
「……みんなには話さないと
いけないみたいでちゅね。
あたちの知ってることを」
ホップが僕らの前に立ち、話し始めた。
「……結論から言うと、あたちは
ある存在から生まれた記憶の形でちゅ」
「記憶の形っ?」
「そしてもう一つ、パレスは元々
一度は完全に消えた世界なんでちゅ」
「ええっ!?」
「消えた世界って、じゃあ
なんで今あるんだよっ?」
「……かつて、勇気君達と同じように、
ペルソナに目覚め、歪んだ欲望を盗み、
悪しき大人を改心させた者達、
すなわち怪盗団が存在していたんでちゅ」
「怪盗団が!?」
僕らが初めてではない。
まさか先輩がいたことに僕はびっくりした。
「彼らは力を合わせ、
パレスを生み出した元凶を断ち、
世界の歪みを正したんでちゅ」
「でも、パレスはまだあんだろっ?
現に俺達沙城を改心させたし……」
「それが……よくわからないんでちゅ」
「わからないって?」
「何かが原因で再びパレスが生み出され、
認知世界を管理していた
イゴールは囚われたんでちゅ。
イゴールに生み出され、
先代の怪盗団を導いていたモルガナから
あたちは生まれたんでちゅ。
その時モルガナからこう告げられたんでちゅ。
心の怪盗団を見つけてほしい、と……
あたちにあるのは、その二人の存在と
パレスと認知世界の知識、
そしてペルソナの力だけでちゅ。
何故、何があったのかは
よくわからないんでちゅ……
そして右往左往していた時に、
沙城のパレスに囚われてたんでちゅ……」
「そうだったんだ……」
茜が優しくホップを撫でる。
「でもよ、パレスがまた生まれたってなると、
先代の怪盗団も黙ってられないはずだろ?
なんで奴らは動かない?」
「それもわからないんでちゅ……
でも、この前の沙城の件で
一つわかったことがありまちゅ!
沙城にパレスを与えた“あの方”……
きっとそいつが何か知ってるはずでちゅ!」
「あの方……?」
「そういや沙城が言ってたな。
あの方に願ってパレスを得たって」
「つまり、沙城とは別に計画犯がいるってこと?」
「可能性は高いでちゅ!
そいつを炙り出せば、謎は解けるはずでちゅ!
だから勇気君、宗馬君、茜ちゃん!
どうか協力してほしいんでちゅ!」
ホップがぺこりと頭を下げた。
すると、宗馬がホップを撫でた。
「今更何だよ? 水臭ぇな。
困ってる奴を助けない理由なんてないだろ?」
「うん! ホップがいたおかげで
沙城を改心させたし、
すっごく感謝してるんだよ!
協力ならなんだってするよ、ね!」
「宗馬君……茜ちゃん……!!」
「でさ、俺も思うんだ。きっと沙城以外にも
歪んだ欲望を持つ悪い奴らがいて、
それで誰かが苦しめられてるって考えてたら、
俺らなら助けてあげられるかもってな。
な? 勇気もそうは思わねえか?」
「助ける……」
ペルソナを覚醒させた僕なら、
誰かを助けられる。
僕ならできるかもしれない。
そう思うと、なんか力が湧いてきた。
「……そうだね。うん、やろう。
みんなのためにも、あと、ホップのためにも!」
「勇気君……!! みんな、ありがとうでちゅ!!
そうと決まれば、これからビシバシ怪盗のいろはを
叩き込んでやりまちゅから、覚悟するでちゅよ!」
「うん、改めてよろしくね。ホップ」
「よろしくね!」
「でちゅ!」
半分流れに流された感はあるけれど、
もう半分は決意していた。
悪い人から誰かを助ける。
昔何気に憧れていた
“ヒーロー”になれそうな気がした。
いつか兄に立ち向かえるように、
僕は怪盗として生きる。
「……あ! 思いついたでちゅ!
勇気君のコードネーム!」
「ああ、そういや保留になってたな」
「いいのを思いついたでちゅよ!
勇気君はずばり! “エース”でちゅ!」
「エース?」
「トランプのエースから取ったでちゅ!
エースは1。だから数値的には小さいけれど、
いざという時の切り札になるんでちゅ!
同じ切り札となるものでも、
“ジョーカー”が強大でカリスマ性の高い存在なら、
“エース”は小さくてもいざという時は強い
縁の下の力持ちでちゅ!
勇気君にぴったりなコードネームでちゅ!」
エース。リーダーらしいのもそうだし、
何よりしっくり来た。
「エース……うん! いいんじゃないかな!」
「だな! リーダーっぽいし!」
「うん、いいかも……じゃあそれで」
満月が太陽に負けないくらいに輝く、深夜。
ここはとある邸宅だった。
周りは警備隊に囲まれていた。
「い、如何いたしましょうっ!? 大統領!!」
痩身の男が汗を拭きながらその男に問い詰める。
その男とは、とある大統領だった。
大統領はずしんと構えてソファーに座る。
「構える必要はない!
幸いこの部屋は誰にも見つけられん。
私だけでも生き残れば、
また国は建て直すことぐらいはできる!」
「……つまり、ここにいる自分以外の何もかもは
放棄するということか」
「!?」
声のする方を向くと、天井窓に誰かいた。
「何者だ!?」
「民、財産、残すべき何かですらも
犠牲にし逃げることで、
自分を棚上げしようとしたか」
「でも結果、側近以外は
あなた一人になり、姿を露出してしまった。
切羽詰まるとここまでボロを出せるのね」
「ふふっ、慌てふためいて
自分から出てくれるなんて、可愛い大統領!」
「もはや改心の余地もなし。
手短に終わらせるとしよう」
彼らの背後に、巨大な異形が出現する。
「なっ、あ……!?」
「貴様の意義は、既に途絶えた」
異形の一つが放つ光線が、邸宅ごと焼き払った。
邸宅は一瞬にして消え去った。
そして、彼らの景色が変わる。
でかい邸宅はなく、電車が通る公園があった。
「……お疲れ」
「ああ」
「今日もあっという間だったわねえ〜。
本当にこれで大丈夫なの?」
「遅かれ早かれ、じきに報道に出るはずだ。
あとは結果を待つしかない」
「いや、結果は成功だ。ご苦労」
三人組の前に一人の男が立ちはだかる。
三人はすぐに跪く。
「奴の欲望は全てむしり取られている。
俺が確認した。よくやった」
「はっ」
「この調子でやってくれ。
ああ、それと……“怪盗団”なる者が現れたらしい。
計画が少々狂いだしそうだ。
よって今後の活動に、怪盗団の抹殺を命じる。
特にリーダーなる男は逃すな。いいな」
「御意」
心の怪盗団として動きだした者達。
その裏で暗躍する者達。
彼らが交わる時、
世界に何かが起ころうとしていた。