「わ、私が生徒会長ですかっ!?」
「ええ、みんな異論はないどころか、
全会一致であなたを指名していたわ。
もちろん私もね」
「でっ、でもでも、良いんですかっ?
私はどちらかと言えば副会長の方が
次の生徒会長にふさわしいと思いますよ?
私は副会長とは違って、
そんなに頭は良くないし、
どちらかといえば運動音痴だし、
難しいこともあんまり理解できないし……」
「……私は生徒会長には相応しくないわ。
今日の今日まで彼、沙城の横暴さに対して
何も出来なかった。
私がもっと早く無理矢理にでも
沙城を止められていたら、真鍋さんだって……」
「そんな! 副会長は…」
「でも、あなたには素質があると思うわ。
今まで沙城が却下してきたあなたのアイディアは、
本当にしっかりとしたいいものだった。
ちゃんと生徒のことを考えていたわ」
「でも……」
「……それにね、気づいてないと思うけど、
生徒会のみんなはもう知ってるのよ?
あなたが誰よりも生徒会長になりたいこと」
「えっ!? じゃあ……」
「もちろん私も、沙城も気づいてたわ」
ーお前のような馬鹿に生徒会長は愚か
生徒会は務まらないんだなあ?
「……だからあんなこと言ってたんだ」
「沙城によって荒らされた
この学園を修復できるのは、あなたしかいないわ。
どうかなってくれないかしら?
新しい学園の代表者として!」
沙城が退学してから間もなく、
茜が新しい生徒会長に任命された。
あの打ち上げを挙げた日、
朝礼にてほぼサプライズの感じで発表された。
たしかに茜なら学園を盛り上げてくれるだろう。
それはそれで嬉しいのだけど……
「今日も遅くなるの?」
「ああ。ほら、沙城の奴が生徒会長を辞めて
色々と騒がしくなったろ?
新しい会長を決めるのも急だったから、
今後の方針とかを調整するってさ」
「そっか……」
そう。生徒会の仕事が増えて
会える時間が少なくなったのだ。
「そう気ぃ落とすなって。
次の怪盗仕事が入ったらどんなに忙しくても
必ず来るからって言ってたし」
「でも気をつけるでちゅよ!」
鞄からホップが顔を出す。
「怪盗と学生の二重生活は危険でちゅ!
どっちかで秘密がバレたら終わりでちゅからね!」
「そりゃあそうかもしれないけど、
茜なら心配はいらないんじゃないかな?
そんな秘密をベラベラとは喋らないだろうし、
自分からボロを出すようには見えないし」
「いや、そうでもないぞ?
あいつしっかりしているようで
結構おっちょこちょいだからなあ。
ボロを出す可能性はある……」
「そ、その時は僕らでフォローしよう! ね?
あ、なら次誰を改心させる?
茜がいない分、僕達で怪盗仕事を見つけようよ」
僕は怪盗お願いチャンネルを開いた。
「ねえホップ、次は誰がいいと思う?
メメントスの攻略には
僕達の活動が不可欠なんだよね?」
「でちゅ。できればみんなの認知が高まるような、
そんな仕事をすれば良いでちゅ」
「認知が高まる……みんなが
注目するような活躍をすればいいってことかな?」
「ならよ、名の知れた悪い奴を
改心させるってのはどうだ?
改心させれば広く知られると思うぜ?」
とりあえず僕は悪い噂がある有名人を
手当たり次第に探してみる。
「どうだ?」
「うーん、色々ありすぎて誰がいいか……」
すると僕はふと思い出した。
メメントスで出会った夏目奈津子が言っていた。
「……雪之丞」
「え?」
「メメントスで夏目さんが言ってたんだ。
悪いのは雪之丞だって。
雪之丞って何か有名な人だったりする?」
「雪之丞と言えば、沙城家にも匹敵する
超有名なお金持ちの家だな。
確か、うちの学園にもいたな。
雪之丞綾子っつー奴が」
僕は念のため掲示板で雪之丞に関する噂を探す。
「……これは!」
その後、勇気や宗馬よりも
かなり遅く帰ることになった茜。
夕陽が渋谷の街を赤く染めている。
「ずいぶん遅くなっちゃったな。
早く帰らないと」
早歩きで渋谷の街を通る茜。
「なあ、いいだろ別に?」
すると、路地裏から声が聞こえた。
ふと茜は足を止める。
路地裏を見ると、秀尽の制服を着た男子達がいた。
いかにも柄の悪そうな彼らに囲まれて、
黒髪の青年が立ち尽くしている。
「一万円札一枚だけでいいっつーの!
もしくはありったけ全部!
それでチャラにしてやるよ」
明らかにあれはカツアゲだ。茜は様子を伺う。
「それとも何だ?
あ、ならあれ見せてやるか?」
一人の大柄の男子が懐から何かを取り出す。
小さなフルーツナイフだった。
すると、囲まれた青年が肩を震わせた。
「古城はナイフ好きだよなあ?
俺ら知ってるんだぜえ?
ゲロ吐くほど大好きなんだってなあ?」
男達はニヤニヤと笑う。
青年は前髪が長いせいで表情は見えないが、
明らかに震えていた。
「おいおい! だからってここで吐くのはなしだぞ!
調理実習での大惨事を再現させんなよー?」
まずいと感じた茜は、ついに行動に出た。
「お巡りさーん!! こっち、こっちですー!!」
大声で茜は周囲に呼びかける。
「悪い人がいますー!! 早く早くー!!」
気づいた男達がギョッとした。
「げっ!? 気づかれた!?」
「逃げろ!!」
男達は青年を置いて逃げていった。
「……行った? 行ったよね?」
茜は周囲を見渡し、青年の元に近寄った。
「大丈夫?」
茜が青年に手を差し伸べる。
すると、青年はその手を払った。
「へ……?」
青年の目が鋭く茜を睨む。
「……余計なことすんじゃねえよ」
小声でそう告げると、青年は去っていった。
〈……てなことがあったの〉
そう言う茜の声はどこか落ち込んでいた。
電話越しからでもよくわかる。
〈私、何か気に障るようなことしたかなあ?〉
「そんなことないと思うよ?
茜がやったことは正しいと思うし」
〈うん……私も間違ってはないと思うんだけど〉
「その人、秀尽の制服着てたんだよね?」
〈そうなの。あの男の子を脅してた人達も、
確か秀尽で問題児扱いされてた人達だよ。
沙城は規律には厳しかったんだけど、
ああいう人達に対しては何故か見逃してたんだ〉
「ああいう人達って、俗に言う不良の人?」
〈うん。多分原因は一つ。
風紀委員長が海外留学行ってるからかも〉
「風紀委員長が?」
そう言われれば少し疑問に思った。
あれだけ傍若無人な彼を前にして、
風紀委員とかは何も言わなかったように感じる。
もちろん、相手は権力があったから
何もできなかったかもしれないが。
「なんで海外留学?」
〈将来警察を目指してるみたいでさ、
海外の治安事情とかを勉強したいからって
聞いたことあるんだ。ただ、ね……〉
「ただ?」
〈……すっごい厳しいんだ、今の風紀委員長。
どんな理由があっても校則を違反したら即処罰。
沙城ほどめちゃくちゃではないんだけどね?
でも、結構厳しくて、それが原因で
秀尽辞めちゃった子もいるんだ……〉
沙城の時もかなりあれだったけど、
同じくらい手厳しいのか。ちょっと怖い。
〈だから、その人が留学行ったのに味をしめて、
問題児って呼ばれてる生徒は好き放題。
沙城もああだったから尚更ね……〉
それは大変だ。茜の苦労が電話越しに伝わる。
もし会ったら慎重に付き合うと
僕は静かに決心する。
〈……でね、話は変わるけど、
その脅されていた男の子も見覚えあるんだ。
えっと、確か名前は……〉
「“古城霧矢”、だったな?」
宗馬がそう答えた。
翌日、僕らは屋上で戯れていた。
昨日茜が話していたことも宗馬に話していた。
「宗馬も知ってるの?」
「一応な。二年二組、勇気の隣のクラスだったな?」
「うん。生徒会にある
生徒プロフィール帳にあった。
二年二組の24番、古城霧矢君」
「おっ、もう全校生徒の情報覚えたか。
さすがは新生徒会長」
「私、人の顔と名前は
覚えるようにしてるからね!」
茜はえっへんと威張った。
「その古城って奴、二年二組の中じゃ
ちょっと浮いてるように見えんだよ。
いつも一人でいるし、席も決まって窓際の端っこ。
昼飯は決まって菓子パンか唐揚げ単品。
部活も帰宅部で速攻で帰るしな」
「く、詳しいねっ?」
「ま、俺人間観察好きだし?
茜も生徒会だから調べやすいってな!」
二人共意味不明なドヤ顔をしている。
この二人の仲ってどんなのなのかなあと思った。
仲良しなのはわかるけど。
「で、一度だけそいつを助けたことあるんだよ。
この前の茜と全く同じ状況でな。
そしたらあいつ何て言ったと思う?
出しゃばんの生意気なんだよってな!
あん時はさすがにカチンときたよ!」
「助けてくれるの、嫌だったのかな?」
「でも、私が助けた時は
明らかにまずい状況だったよ!
刃物持って脅迫してたし、
古城君の顔は青ざめてたし……」
「そうなんだよ! 俺の時も全く一緒!
くう〜! 感謝くらいしろっての!」
何か訳ありなのか、もしくは
ただ気に入らないのか。
後者だったらちょっと怖いと感じた。
すると、屋上の扉が開く音がした。
「ここで何をしている?」
振り向くと、扉の前には整った顔立ちの
いかにも真面目そうな男子が立っていた。
「神城!?」
「神城君っ!?」
宗馬と茜は立ち上がって驚く。
「知り合いっ?」
僕は茜に小声で尋ねる。
「昨日話してた風紀委員長だよ!」
「えっ?」
この人が噂の怖い風紀委員長か。
確かに失礼だけど目つきがちょっと怖い。
「お前、海外留学に行ってたんじゃ?」
「昨日まではな。今日の明朝に帰国した。
登校は昼からになったがな」
神城さんは鋭く僕らを見据える。
「……相変わらずだな、五十嵐。
その派手な格好は止めろと言ったはずだ」
「はいはい、悪かったよ……」
「あのっ、神城君! 五十嵐君は…」
「篠崎、お前生徒会長になったそうだな?
お前のようなお気楽者がどうやってあの沙城から
生徒会長の座を奪ったんだ?」
「そ、それは……」
「お前がいない間、沙城がどんなに
ひどかったか知らないくせに、
茜をとやかく言う資格はねえ!」
神城さんはふんと鼻を鳴らす。
「校則違反常習犯のお前に言われても
一ミリも何も感じないな」
「なっ……!!」
僕は慌てて無言で宗馬を宥める。
「……お前が話に聞いた転校生か」
神城さんが僕に近寄る。
「風紀委員長の神城一輝だ」
「た、田嶋……勇気です……」
「知らないとは思うが、ここはかつて
問題を山のように抱えていた。
これ以上学園の風評被害を増やさないためにも、
問題行動は慎むように」
「あ、はい……わかって、ます……」
「……ああそれと、この時間の屋上の立ち入りは
禁止になる予定だ。頭に入れとけ」
「はい……」
僕らは渋々屋上から出ることにした。
「……確かに、ちょっと怖かった」
「ごめんね、田嶋君。でも、
悪い人じゃないから……」
すると、鞄からホップが話しかけてきた。
「気をつけるでちゅよ……
あの子、かなり頭が切れてるでちゅ……」
茜の言ってた神城さんの行動は、
確かに厳しいものだった。
喫煙していた生徒をつるし出したり、
派手な化粧をしている生徒に説教する。
ここまでなら普通に生徒指導と
なんら変わりない。
ただ、ちょっと問題なことがある。
「だから地毛だっつってんだろ!?」
放課後、僕はたまたま神城さんを目撃した。
神城さんは茶髪の男子生徒と対面している。
「教師への許可書はないと聞いているが?」
「そ、それは明日にでも…」
「なら今すぐ出せ。もしくはこの場に両親を」
「いやそれは…」
すると、神城さんは生徒を勢いよく
背負い投げした。
僕は驚いて声を上げそうになった。
神城さんは生徒の顔を廊下に
これでもかと言うくらい
強く押さえつけている。
「そんな見えすいた嘘は効かないぞ。
沙城がいたせいで調子乗っていたようだが、
仇になったな。
明日までに黒く染めろ。
でなければ、次は殺すつもりだ」
「ず、ずみばぜんでじだあ……」
この様子を他の生徒が見ていた。
「うわ、あの鬼の風紀委員長がいやがる……」
「沙城がいなくなってほっとしてたのに、
これじゃあ逆戻りだよ……」
実力行使。理由がはっきりしてるから、
沙城ほど滅茶苦茶ではない。
だが、ちょっと怖い。
なるべく怒らせないようにしようと
僕は密かに心に誓った。
ひっそりと僕はその場を後にすると、
近くで女子の話し声が聞こえた。
「や、やめてっ!」
一人の女子の悲鳴が漏れた。
見ると、黒髪を三つ編みで結んだ少女が、
複数の女子生徒達に囲まれている。
その内の一人がなんと、生きたミミズを箸で掴んで
少女の顔に近づけていた。
「なっ……!?」
「ほらほら食いなよ〜?
あんた食えるんじゃないの?
だってゲジゲジよりブスだし!」
「いっ、嫌っ……!」
「あははっ、変な顔〜!」
さすがに嫌がらせにしては悪質だ。
怖いけど、ほっとけない。
僕は心の怪盗団のリーダーだ。
ちょっとくらいは名前に恥じないところを
出さなければ。
僕は勇気を出して一歩を踏み出そうとした。
その時、突然後ろから誰かが僕の肩を引いた。
「あっ……!?」
目にしたのは、青みがかった黒い髪を後ろで結び、
右目が前髪で隠れていた、青年だった。
肌は少し白く卵型で、一瞬女の子に
見間違えそうになるくらい美人だった。
僕は不覚にも胸が鳴ったが、
それは十数秒くらい後に消えた。
その青年は女子達に近寄ると、
手にしていたミネラルウォーターを
勢いよくぶっかけてきたのだ。
「きゃあ!?」
女子の数名は濡れてしまった。
「ちょっと何すん……って、あんた……!!」
「やっだあ!! ファンデ崩れたー!!」
「ちょっと!! 髪崩れたじゃない!!
せっかく朝早くからセットしたのに!!」
女子が怒る中、青年が静かに睨んだ。
「……自分に対してはそうなるくせに、
他人に対してそれはどうなんだよ」
男だから当然なのだが、
あの風貌からはあまり想像がつかない
ドスの効いた低音ボイスが響く。
しかも声色からしてかなりキレている。
「てか、それ脅迫だよな?
加えてミミズ食わせるとか下手したら殺人だぞ?
それくらい覚悟してんのか?」
「う、うるさいわね!!
こんな超絶ブス死んだところで
誰も悲しまないっつーの!!」
「へえ? じゃあ聞いてみたらどうだ?
てめえらのボスに殺人犯になってもいいか」
女子達の顔が強張る。
「……ふ、ふん! 命拾いしたわねっ、花子!
あんたもっ、今はこいつがいるからって
調子乗ってるだろうけど、
綾子様の手にかかればいつだって
ぶっ殺せるんだからね!!」
女子達は焦りながら逃げていった。
廊下には青年と花子と呼ばれた女子だけが残った。
「……ごめんね、古城君。
また、助けてもらっちゃって」
古城と聞こえた途端、僕はえっとなった。
あの人が茜が言っていた、古城霧矢なのか。
古城さんは不機嫌そうに頭を掻く。
「あいつらがムカついたからやった。
別にお前のためなんかじゃねえ」
「……な、なんか、本当にごめんね?
古城君を助けたつもりなのに、
逆に古城君に助けられるなんて……
こんなブス、いてもいなくても
変わらないのに……」
花子さんは泣きそうな表情だ。
すると、古城さんはため息をつく。
「……本当のブスは
自分のことをそうは言わねえよ。
むしろそう言えば言うほど本当になるもんだ」
なんだか少女漫画のような展開だ。
明らかに僕は場違いだろう。
「……あんたも大丈夫か?」
「ひゃっ!? ひゃいっ!?」
不意に僕に話しかけられ、
僕は思わず変な声が出た。
古城さんは僕に近づく。
「……あんまり出しゃばってっと、
痛い目遭うから気をつけろよ」
通り過ぎた際の呟き声からは、
どことなく優しさが感じた。
「……あ、ありがとうっ、古城君!」
花子さんからの感謝に、
古城さんは振り返らないまま手を振る。
宗馬や茜の話だけでは厳しくて怖いしか
感じなかったけど、
いざ本人に会ったらそうでもなかった。
不器用なだけなのだろうか。
どうも僕は憎めなかった。
古城さんがいなくなったため、
とりあえず僕は花子さんに話しかける。
「あの……大丈夫?」
「う、うん」
「さすがにちょっとまずいよ?
先生に相談したらいいと思う」
「無理だよ……相談したって聞いてくれないし」
「何でっ?」
「だって、相手は雪之丞さんだから……」
「雪之丞……!?」
その名には聞き覚えがある。
そして僕は思い出す。
怪盗お願いチャンネルで見つけた噂を。
「カツアゲ!?」
茜が声を上げて驚く。
放課後屋上が使えなくなったため、
僕らは渋谷駅で集まることになった。
「うん……これ、怪チャンのやつなんだけど」
僕と宗馬は怪チャンに載っていた
雪之丞にまつわる噂を見せた。
茜は掲示板を読み上げる。
「雪之丞家の令嬢を名乗る女子高生が、
お金に困っている人の弱みを握らせ、
現金を巻き上げているらしい。
その方法は、小額からの融資を持ち込み、
ターゲットから多少の現金を受け取った後、
脅迫されて金を求められていると
逆に自身が被害者面し、
慰謝料と題してターゲットから
多額の金を手にしている。
雪之丞の名は確かな信頼があるため、
それを利用していると見られる……ってこれ、
カツアゲというより詐欺じゃない!?」
「ああ。前々から臭いとは感じてたけど、
まさかこんな噂が流れていたとはな」
「雪之丞さんが……」
そういえば、花子さんを
いじめていた人の話を聞けば、
綾子様がなんとかかんとかって言ってたな。
雪之丞綾子。宗馬からも聞いている。
「有名なの? その、雪之丞さんって」
「まあな。あいつも第二の沙城って呼ばれるくらい
無茶苦茶な生徒なんだがな。
実際沙城とも仲良かったらしいし。
学校に寄付金やってるから逆らうNG。
教師も何されるかわからないから見て見ぬふり。
びっくりだよな?
秀尽にはこんな奴二人いるんだぜ?」
確かにそんな二人を受け入れた秀尽も
ちょっとどうかと思う。
「ただ、沙城と違う点が一つ。
彼女はただただいじめるだけ。
その内の一人で有名なのが、
一ノ瀬花子っつー生徒だ」
「花子さんっ?」
「知ってるの?」
「今日、いじめられているのを見てて……
その時たまたま前話してた、
古城さんに会って……」
「古城にも会ったのかっ!?」
宗馬と茜は驚いて顔を見合わせる。
「えっ、何?」
「……実はね、一ノ瀬さんがいじめられているの、
雪之丞さんから古城君を庇ったからなの。
古城君、雪之丞さんの取り巻きから
常に嫌がらせを受けていて、
ある日一ノ瀬さんが古城君を助けて、
それから……」
「そうだったんだ……」
パッと見全然そんな雰囲気なかったから、
正直意外すぎた。
「沙城が会長だった頃から、雪之丞さん、
いじめっ子として問題児扱いされてて、
だけど沙城は見て見ぬふりで、
私からも注意したけど効果なくて」
「それは、ちょっと臭うでちゅね……!」
鞄からホップが出てきた。
「詐欺にいじめ、しかも諭しても効果なし。
この状況、パレスがあっても
おかしくないでちゅ!」
「確かに! 怪チャンの噂がマジなら、
こいつは沙城以上に大物だぜ、これ!
次のターゲットにはうってつけだ!」
「でも気をつけるでちゅ!
認知世界での怪盗仕事はリスクがつきもの。
失敗は許されないでちゅよ!」
「そうだよね……命、関わってるしね」
「とりあえず、パレスがあるかどうかだけでも
見てみたらどうだ? 出なかったらメメントスでも」
「うん、やってみるよ」
僕はイセカイナビ改を起動し、
雪之丞綾子の名前を入力した。
〈候補が見つかりました〉
「あったみたい」
「よっしゃ! じゃあ早速潜入…」
「待って。まだこれだけじゃ潜入はできないかも」
「何で?」
「沙城の時、検索履歴にあったでしょ?
沙城・秀尽学園・城って。
考えたんだけど、ひょっとしてパレスに入るには、
幾つかキーワードを出す
必要があるんじゃないかな?」
「その通りでちゅ! 勇気君冴えてまちゅね!
パレスに潜入するには、
パレスを持っている主の名前、
どこをパレスと勘違いしているのか、
それはどのように見えているか。
この三つのキーワードが重要でちゅ!」
「つまり、さっきの沙城の話で例えるなら、
沙城は学校をお城と勘違いしていたってこと?」
「そういうことでちゅ!」
なるほどと僕は納得した。
「じゃあ雪之丞のパレスに潜入するには、
あと二つはキーワードが必要ってことか……
雪之丞のパレスがどんな風になっていて、
どこでそう見えているかだよな?
むう〜……ダメだ、さっぱりわからん!」
「雪之丞さんって、取り巻きがいるんだよね?
てことはある意味支持受けてるってことかな?」
「うん。でも沙城が言ってたんだけど、
金持ちの取り巻きは大概が金か後ろ盾目当てだから
あまり信用ならないって」
言いたいことはなんとなくわかる。
よく漫画とかで見る手のひら返しとかは
そういう動機が多い印象だし。
「雪之丞家は名家……取り巻きが多い……
扱いが沙城に似ている……
お城? いや、沙城ほど好き勝手じゃないし、
同じ風景のパレスとは考えにくい……
アイドルみたいな感じだから、ライブハウス?
いや、だったら支持者は多いはず……」
不思議と僕の頭の中で、
キーワードが整理されていく。
そして、意外にも早く結論付いた。
「……“劇場”?」
〈ヒットしました〉
「おおっ、出たぞ!」
「すごい! よくわかったね!」
「いやその、その雪之丞さんって、
一部の人からは支持されているんでしょ?
あとは、有名な人で沙城に似ているから、
パレスも豪華な感じかなあって思って。
そしたら、有名な人が通るイメージが来て、
それがレッドカーペットになって、
そこから、劇場って思い着いたんだ」
『おおー……!』
宗馬と茜は目を輝かせて僕を見る。
「よし! パレスの風景はわかった!
あとはパレスをどこと勘違いしてるかだな!」
「……一つだけ心当たりがあるんだ」
というわけで、僕らは一度学園に戻った。
「まさか、今回も!?」
「うん。雪之丞綾子・秀尽学園・劇場。
これが正しいルート、だと思う」
すると、空間が歪みだした。
どうやら正解のようだ。
学園は一瞬にして、
ハリウッドさながらのシアター街に変わった。