チカチカと光るネオンの光。
軽快なジャズの音楽。
そして何より目立つのは、
校舎だった場所がド派手な劇場と化していた。
沙城のパレスとは違い、
校舎の面影はまるでない。
「ほ、本当に劇場だ……」
宗馬は唖然としてパレスを見上げる。
「まるでハリウッドさながらだね……」
「パレスは歪んだ欲望から見える妄想から
姿形が決まるんでちゅ。
言うなればここは、雪之丞綾子にとっての
本当の学校の姿なんでちゅ」
「とりあえず、あのパレスの中に入ってみようか」
僕達はシャドウの目をかい潜り、
パレスの侵入に成功した。
中もテレビで見るような豪華な内装だ。
少し進むと、僕達は絵が飾ってある廊下に着いた。
「これって、展示コーナー?」
絵は人が描かれている。肖像画らしい。
「……ああっ!?」
「どうしたっ?」
「これ!」
茜が指差す方を見ると、
見覚えのある人の絵があった。
「こいつ、どこかで……?」
「あの人だよ! ほら、メメントスで会った!」
「……夏目奈津子さんっ?」
絵の下には、作品名が書かれている。
〈夏目奈津子。35歳〉
「間違いないでちゅ……夏目奈津子でちゅ!」
よくよく見れば、ここに展示されている絵には、
作品名の代わりに名前と年齢が書かれている。
「まさか、この絵に描かれている人は、
みんな……」
「噂が確かなら、全員被害者ってことだな……
なるほど、だからか……」
「だからって?」
宗馬はある絵を軽く叩いた。
見るとその絵は、あの花子さんが描かれていた。
「花子さん!?」
「雪之丞はいじめっ子で有名だからな。
これがみんな被害者の絵ってことは、
あいつにいじめられている人も
描かれているってわけだ」
「詐欺の噂が本当なら、夏目さん以外の被害者も
ここに描かれているってこと?」
「可能性だがな。でもこれで少なくとも、
あいつの歪んだ欲望の片鱗くらいは
見れたってことだよな!
あとはあいつの本心を知れば…」
すると突然、パレス中に溢れんばかりの
歓声が上がってきた。
「な、何だあ!?」
「あっちの方からだ!」
僕達は声のする方へ向かう。
廊下を抜けると、バルコニーに出た。
「おい! あれ!」
宗馬が下を指差す。
バルコニーから見えたのは、
大勢の人がカメラを構えて
フラッシュで撮影している光景だ。
撮影されているのは、
真っ黒なパーティードレスを身に纏った
金髪の少女だった。
少女はSPらしき人に守られながら
レッドカーペットを颯爽と歩いている。
「雪之丞さんだ!」
「あの人がっ?」
歓声がここからはっきり聞こえる。
「雪之丞様ー!!」
「きゃあああ素敵ー!! こっち見てー!!」
レッドカーペットの端には多くの野次馬がいて、
よく見たらその中には
花子さんをいじめていた生徒もいた。
雪之丞さんは笑顔で手を振っている。
「すごい人気だね……」
「本当に学校がこんな風に見えてんのか……?」
すると、雪之丞さんが通る道に
誰かが倒れてきた。
ボロボロの服を着た女の子だ。
雪之丞さんは気づかず歩き続けている。
女の子と雪之丞の目が合った。
すると突然、雪之丞さんの目が冷たくなった。
「邪魔よゴミクズ!!」
雪之丞さんは女の子を踏みつけ、
そのまま歩き出した。
靴はめちゃくちゃ細いピンヒールだから痛そうだ。
「おいおい!」
「ひどい……」
すると今度は、野次馬の様子も変わった。
「ちょっとあんた!!
雪之丞様の道を邪魔するとか
何考えてんのよ!?」
「雪之丞様の道を汚すんじゃないわよ!!」
野次馬の顔が般若の様に歪み、
女の子に向かってゴミを投げている。
「ちょっ、これってないよ! 助けないと!」
茜がバルコニーから飛び降りようとする。
「あああ茜っ!? 危ないって!!」
僕と宗馬は慌てて茜を捕まえる。
「落ち着けって!
ここにいる連中は偽物。
助けても何の得にもならねえよ」
「でも!」
「宗馬君の言う通りでちゅ。
ここで助けても根本的な解決にはならないでちゅ。
まずはオタカラを見つけないと!」
「う……」
「気持ちはわかるよ、茜。
でも無闇に動いたら現実の雪之丞さんが、
僕らを警戒してマークするかもしれないし。
とにかくまずはオタカラを見つけよう」
茜はしゅんと反省して飛び降りるのを止めた。
「……!? おい! あれ見てみろよ!」
「どうしたの?」
バルコニーの下を見ると、
さっきの女の子がいつの間にか
時計塔の時計の針に磔にされているではないか。
「皆さーん、注目注目ー!」
パレス中に雪之丞さんの声が聞こえてきた。
「突然ですがこれより、
我が聖域に土足で踏み込んだ
汚れたネズミの処刑ショーを行いまーす!」
わあっと歓声が沸いた。
「処刑っ!?」
「ただいま午後六時二十八分。
あと二分で処刑開始です!
どんなショーになるかは、お分かりですね?」
たしかに時計の長い方の針は
5と6の間を指している。
そして女の子が磔にされているのは、
6を指す短い方の針だ。
「二十八分であと二分って、
六時半になるってこと?」
すると、長い針がガタンと音を鳴らして
少しだけ動いた。
長い針と短い針との間は狭い。
その瞬間、僕は恐ろしい事に気づいた。
「まさか!?」
「さあ、まもなくショーの開幕です!
皆さん準備はいいですかー?」
おおーっと歓声が響く。
そして同時に、嫌なワードが出た。
『処刑! 処刑! 処刑!』
野次馬の人達は嬉しそうに
そのワードを連呼していた。
そうこうしていると、長い針が動いた。
「見るなっ!!」
宗馬が僕と茜を伏せてくれた。
時計塔から鐘の音が鳴り響く。
「あ……ああっ……」
「くっ……!」
どこの誰かは知らないけれど、
助けてあげられなくてごめんなさい。
僕は心の中で謝罪した。
「いやはや、素晴らしいですよ綾子さん!」
「ゲリラによるショーを開催されるなんて、
さすがは雪之丞家の令嬢ですね!」
雪之丞さんの側付きのシャドウの声が、
バルコニーにいる僕らからでも聞こえてくる。
「お世辞でも嬉しいわ。
だってここで行われるショーは、
私のためだけのショーなんですから。
それを見ている皆さんのハートに刺さったのなら
恐悦至極です」
歓声がますます上がる。
僕はバルコニーから下をそっと覗く。
「ですから、それを邪魔する人間に、
私の道を阻むことは断じて許しません!
私の道は私だけが歩いていいのだから!」
とりあえず僕達は一旦引き下がり、
パレスの入り口に戻った。
「前々から臭うとは思っていたが、
ここまでとはな……」
「でも、あれが雪之丞さんの本心なら
放ってはおけないよ!
だって現にこうしてパレスがあるんだもん!」
「うーん……」
どうも僕は腑に落ちない。
「本当に雪之丞さんって、悪い人なのかなっ?」
「あ?」
「いや、まだ僕見たことないから。
現実の雪之丞さん本人を。
茜達の話を聞く分では、名家のお嬢様で
みんなからチヤホヤされてるって、
それって特に悪いことなのかな?」
「あー……」
「一理は、あるな……」
「なら今日はここでお開きでちゅ!
勇気君は明日、現実世界の雪之丞を
直接見るといいでちゅ!」
「うん、そうしてみる」
次の日、僕は学校で茜に付き添われながら、
本来の雪之丞さんの姿を見ることになった。
「ほら、あの人だよ」
茜が窓の下を指差す。覗き込むと、
中庭のベンチに人だかりが出来ている。
その中心に、まるで少女漫画に出てきそうな
可愛らしいブロンドヘアーの女子生徒がいた。
「あの人が雪之丞さん?」
「そう。当然だけどパレスで見た姿と同じでしょ?」
確かにパレスにいた彼女も同じくらい美人だ。
よく見れば取り巻きの人達も、
パレスにいた野次馬達そっくりだ。
取り巻き達はきゃっきゃきゃっきゃと
雪之丞さんを中心に
ガールズトークしているのがわかる。
すると、雪之丞さんの目が僕と合った。
「あっ、こっち見たっ?」
あのパレスでの振る舞いのせいで
ちょっと怖くなっていた僕は慌てて隠れた。
「……あれ?」
「何?」
「雪之丞さん、なんか誘ってるみたい?」
「ええっ?」
とりあえず僕達二人は中庭に向かう。
中庭に入ってすぐに雪之丞さんが出迎えてくれた。
「雪之丞さん、呼んだっ?」
「すみません篠崎さん。お時間よろしくて?」
「私は全然だけど……」
雪之丞さんは優しい笑顔でこちらを見ている。
「少し気になって……そちら、転校生でしょう?」
「あ、どうも……」
僕は思わず頭をぺこりと下げた。
「挨拶がまだだったでしたね。
雪之丞綾子と申します。ご機嫌よう」
お姫様のような立ち振る舞いに、
僕はきょとんとした。
「あっ、ええと僕は…」
「田嶋勇気さん、でしょう?
篠崎さんから話は聞いてますから」
ふと茜を見ると、茜が無言で手を合わせて
謝っている仕草をしていた。
きっと話してしまったんだろう。
僕は気にしてないよとわかるよう
軽く首を縦に振る。
「まだ転校して一か月弱でしょう?
何かわからないことがあれば、
なんでも聞いてくださいね」
「あ、はい……」
「綾子様、そろそろ」
「あら、もうそんな時間? 失礼、ご機嫌よう」
雪之丞さんはご丁寧にお辞儀をし、
取り巻き達と共に去っていった。
「……あれ? 本当にあれが現実の雪之丞さん?
なんか、パレスにいた時とは違うけど?」
「今はね……でもいじめる時は
パレスで見た彼女そのものだったから」
あんなに優しそうな雰囲気の彼女からは
あまり想像できないけれど。
すると、携帯のバイブが鳴った。
「……あ、宗馬からだ」
ロック画面に映っていたのは、
放課後至急駅に集まるべし!
とメッセージが出ていた。
そんなわけで、僕らは駅に集合。
宗馬からの報告を受けた。
「あれからホップが単独で
雪之丞のパレスを探索してたらしいんだけどよ、
どうも行き止まりを見つけたみたいなんだ」
「行き止まり?」
「ほら、昼休みに俺らのスマホに
パレスの地図が送ってきただろ?」
確かに昼休み中、ホップという名前の人物から
僕達のスマホに地図の絵が送られてきた。
どうやら僕達が学校に行っている間、
ホップはパレス内を探索していたようだ。
しかしホップは携帯を持っていないはず。
どうやってこのデータを送ってきたのだろうか。
謎だらけの不思議生物(?)あるあるなのか。
「で、ホップがオタカラがあると
睨んだ場所がここで、行き止まりがこの辺りだ」
行き止まりはオタカラのある場所の
割とすぐ近くだ。
「何か仕掛けとかないの?
開ける用のスイッチとか鍵とか」
「それがよ、ホップからその行き止まりの写真を
俺宛てに送られてきたんだが……」
そう言って宗馬は僕と茜に画像を見せる。
合金で出来たでかい扉だ。
「まず鍵穴らしいものがないし、
ホップが調べた限りではスイッチもなかった。
多分開けるには、これが必要かと」
宗馬が画像を拡大する。
扉のすぐ近くに、
キーボードのような機械が見える。
「一瞬パスワードが必要かと思ったが、
どうやらこれ、顔認証システムらしい」
「顔認証ってことは、扉を開けれる
誰かを連れて来ないと
その扉は開けられないってことか……」
「ホップもそうだって言ってた。
けど問題は、その誰かが誰ってことだろうな。
ホップが言うには、雪之丞に関係があって
なおかつ近しい人物しか入れないだろうってさ」
雪之丞さんと関係があって近しい人物。
考えられるのは、彼女の親族か、
取り巻きからの誰かか、
いじめの被害者かってことになる。
「……でも、こうは考えられない?
仮にその人を連れて
行き止まりを乗り越えたとしても、
結局はその人をパレスに
連れて行かないといけないってことだよね?」
「……あっ! そういうことか!」
僕の考えに宗馬は悔しそうに頭を掻いた。
「そっか! 私達が怪盗団ってことが
その人に知られることになるんだ!
ああっ、しかもそうなると
認知のこととかパレスのこととか
色々諸々ばれちゃうし、
これって結構リスクあるよ!」
「一瞬手当たり次第の策も考えたが無理だな……
連れて行く奴は慎重に選ばねえと」
「ホップが言ってたもんね……
秘密がバレたら終わりだって……」
確かに僕達の秘密はそう安易に
バラしていいほど柔なものじゃない。
下手したら警察沙汰だ。
バラすにしても慎重にならないといけない。
「とりあえず、雪之丞さんの
家族や取り巻きは止めといた方がいいね。
沙城の一件は
学校関係者のほとんどに知られてるし、
バラすには危険かも」
「なるほどな……」
「じゃあ、それだと連れて行くのは
いじめの被害者って選択になるけど、
誰を連れて行こうか?」
「うーん、とは言っても難しいかもな。
あいつの被害者の大半は心身共に傷ついている。
中には外出恐怖症になった奴もいるらしい。
それに、被害者っつっても人数がわかりづらい。
下手に探すのも時間がかかるぞ?」
「なら、雪之丞さんに恨みがある人に絞ったら?
ほら、敵の敵は味方ってあるし」
「まあ確かにそうかもだが、
俺達の秘密を守ってくれるのかわからないしな……」
「そっか……」
雪之丞さんの被害者で、彼女を良く思わず、
なおかつ僕達の正体を秘密にしてくれる人。
もっと欲を言えば、怪盗団として
僕らに協力してくれればありがたい。
でも、そんな人がいるのだろうか。
「……いるかも」
茜が呟いた。
「いるかもしれない……!」
「えっ、マジ!?」
「古城君か一ノ瀬さん……
二人ならなんとかなるかも!」
「古城と一ノ瀬かっ?」
「古城君は態度からして
雪之丞さんを良く思ってないだろうし、
一ノ瀬さんも現在進行形でいじめられているし、
条件としては合ってるはず!
それに二人共、他人の秘密を
ベラベラ話すようなとこ見たことないし!
うん、あの二人なら大丈夫だと思う!」
茜の閃きに僕はつい感心してしまった。
確かに花子さんは僕から見れば
大人しそうで良い人だし、
古城さんもちょっと怖く見えるけど
悪い人ではなさそうだ。
賭けてみる価値はあると思う。
「とりあえず最初は古城君に話しかけて、
協力できるか聞いてみよう!
ダメだったら一ノ瀬さんに!」
「そうだね……まあ、やってみようか」
「じゃあとりあえず、明日古城に聞いてみるか。
勇気、お前頼めるか?」
「えっ? 僕がっ?」
「俺達は一回会ったせいで
警戒されるかもなんだよ!
話を聞く分じゃお前はそうでもなさそうだったし、
な? お前怪盗団のリーダーなんだし」
最近リーダーというワードを聞くだけで
僕にずっしりとプレッシャーがかかる。
やっぱり僕はこういう立場は向いてない。
けど、宗馬から頼まれたら否定できない。
沙城の時から強く信頼されてるからだ。
裏切るなんて言語道断だ。
「う、うん……わかった。
じゃあとりあえずは、明日話しかけて
合流って形でいいかな?」
「オーケーオーケー! 頼むぜリーダー!」
こうして僕は流されながらも、
改心のために必要な重要な任務を任された。
自白覚悟のプレッシャーを抱き、
明日僕は彼、古城霧矢と向き合う。