Return to race   作:はるりん

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トウカイテイオー⑪

「おうコーチ。人目もはばからず敵情視察かい」

「お前の実力を買ってるからこうして来てるんだ。どんな練習を重ねたらこんな化け物が生まれるんだよ」

「俺の愛バに何てこと言うんだ。よしマックイーン、休憩だ! お得意さんがスイーツ奢ってくれるとよ!」

「本当ですか!? では、是非メロンパフェを!!」

 

 こいつ……。

 この行動は余裕の表れと取るべきなのだろう。事実、レースを終えたマックイーンの目には退屈が現れ始めていた。

 レース直前のパドック、ゲートイン、レース、どれを見てもやるべき事しかやっていない。京都大賞典のレース展開は全て把握しているかのような走りだった。手のひらで転がすことすらしない。逆転の芽を一つ一つ潰していくように、他のウマ娘を圧倒した。

 

 果たして、テイオーは勝てるのだろうか。

 俺の力だけでは絶対に勝てない。何か1つ……いや、2つでも3つでも、勝てる見込みのある要素を、テイオー自身が気づかなければならない。

 その要素を用意できるかどうか。全く、とんでもない仕事を引き受けてしまったな。

 

「とりあえず道案内は頼んだ。テイオーに勧められてから俺も甘いものに目が無くなりつつある」

「ええ! お任せくださいな!」

 

 楽しそうに話すマックイーンに、思わず笑みがこぼれる。

 レースに関しては化け物の一言に限るが、今の彼女は年相応の表情を見せている。

 遠目からでも分かる長蛇の列に少しげんなりしたが、マックイーンは目を輝かせている。

 いや待て、平日だぞ? どんだけ人気だってんだ、ここは。

 

「カレンさんがウマスタに投稿したのがきっかけでここまで繁盛したそうで。店主は『ひっそりと営むつもりだったのに』と言っていますが、どうみてもニヤけていましたわ。ここは1つ、私がその実力を確かめてあげましょう」

 

 ……これはどこからどう見ても。

 

「はわわたまりませんわなんですのこの舌触り」

 

 フラグだな。それも特大。

 マックイーンが段々と溶け始めた。この世代はみんな溶けるのが得意なのか? いや、もしかしたら俺も……? 

 疑心暗鬼のまま、メロンパフェを一口ほおばる。

 

「美味い、なんだこれ」

 

 溶ける……ことは無かったが、気持ちは分かる。

 メロンとクリームが合う訳がない。そう思っていた自分が馬鹿だった。

 一口、また一口。ダメだ止まらない。

 

「はっ!? いけませんわ、冷えているうちに食べなくては!」

「食事量はキツく言われてるからな。ゆっくり味わえよ」

「もちろんですわ! 1ヶ月ぶりのデザートですもの!」

 

 とは言いつつもあっという間に食べてしまった。

 

「ここまで来た甲斐があったな」

「ええ。また落ち着いた頃に行かなくては」

 

 落ち着いた頃……来年か。

 今月末には天皇賞・秋。来月末はジャパンカップ。さらに年末は有馬記念を予定していると聞いたが、沖野曰くマックイーンが提案したローテーションらしい。

 

「沖野から今年のローテを聞いたが、かなり自分を追い込んだな」

「そう捉えられてもおかしくはありませんが、違いますわ。メジロの名を背負うものとして、自分の限界を超えなければなりません。そして……」

 

「テイオーさんとは、文句の付けようがない勝負をしたいですから」

「お前、それを俺の前で言うか?」

「あくまで自分を追い込むためですわ。どう捉えようとも構いません」

 

 絶対的な自信。揺らぐことの無い頂点。

 マックイーンの背負う覚悟は、ウマ娘でない俺ですら圧倒されるものだった。

 だが、言われっぱなしでは終われない。

 

「テイオーはお前の想像を軽く超える存在になるさ。俺が導いてやる」

「楽しみにしていますわ。コーチ」

「ああ、それと」

 

 塩を送る行為と思われてもいい。マックイーンには今後に関わるアドバイスをしておかなくては。

 

「常に周囲に目を配っておけ。目に見えるもの全てを自分と比較しておけ。この先、戦う相手は容赦なくお前に襲いかかってくるぞ」

「……貴方が言うほどなら、何か思うところはあるのでしょう。反省もこめて、自分を振り返る時間を作りますわ」

「これでテイオーがお前に負けたらアイツに蹴り倒されるだろうな」

「その時はスピカのメンバー総動員で撮影致しますわ」

「その余裕もいずれ叩き壊してやるよ」

 

 剣呑な雰囲気のままトレセン学園に着き、マックイーンを沖野の元に送り届けた。

 

「おかえり、マックイーン。いいリフレッシュになったようで何よりだ」

「トレーナーもコーチも、感謝致しますわ。年明けにまた、スピカの皆さんと一緒にお出かけしたいものです」

「有馬記念が終わったら、どこでも連れてってやるよ。さあ、今日は坂路2本で終わろうか。クールダウンを長めにとって明日に備えておけよ」

「承知致しましたわ。では、参りましょう」

 

 長いウォーミングアップの後、坂路へと駆け出していった。

 頭がブレることはあるが、安定した走り方だ。スピードも自らのスタミナを考慮しつつ最善の速度に近づけている。自己分析が長けている証拠だ。

 

「テイオーはどうしてるか知らないが、まだ見ていくか?」

「身体のメンテナンスも兼ねてタキオンに預けてる。もう少しだけ見ていく」

 

 レース展開とスタミナに長けているのは間違いなくマックイーンの方だ。同じ時間を費やしても伸びしろが違う。負けん気はお互いに譲らないだろう。

 そうなれば必然的にスピードとパワーを伸ばすしかないが……本当にそれだけで勝てるのか? タキオンの計算通り、2年後にはマックイーンに並び、追い抜く存在になれているのか? 

 ……不確定要素を考え込んでいても仕方がないか。やれることから考えていこう。

 

「考えているとこ悪いが、テイオーの脚の状態だけでも教えてくれるか? お前の事だからケアはしているだろうが……」

「分かった。直ぐに知らせようか?」

「いや、夜でいい。それまでは作戦会議でもしてな」

「2人揃って余裕だな」

「負ける気がしないもんでね。さて、マックイーンもそろそろ走り終わる頃か」

 

 タイムはスカーレットが測っていた。彼女もマックイーンに似たような脚質を持っている。見学と休憩を同時にさせているといったところか。

 

「よし、お疲れ様! あとはゴルシと一緒にクールダウンして、早めに休んでてくれ! スカーレットはそのまま坂路2本! ウオッカはタイムを測ってくれ!」

「ん? 見ていかないのか?」

「今から野暮用だ」

「そうか、ならお前が帰ってくるまでは見ておこう。早く済ませてこいよ」

 

 どんな用か聞くだけ無駄だろう。テイオーに少し遅れると連絡を入れておき、引き続き練習を眺めることにした。

 

 

 

 

 

「少し待たせたかな、たづなさん。ああいや……トキノミノルさんよぉ」

「何年ぶりかのリベンジのようですね、沖野さん?」

 

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