Return to race   作:はるりん

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トウカイテイオー⑥

「エアグルーヴの提案で臨時トレーナーをやろうかと思ってな」

「で、でも、そんなの聞いたことないよ?」

「確かに前例にない事だ。何故こうなったか聞かせてもらおうか」

「会長の言葉をヒントにして思いついたんだ。私はスズカ復帰への手がかりも掴めるし、コーチはトレーナー復帰の足がかりにもなる。どうだ、いい提案だろう」

「イタズラにしては規模が大きすぎるようにも思えるが……スズカがチームを移籍した例もある。今から理事長室に行こうか」

 

 小さくガッツポーズしたのを見たぞエアグルーヴ。

 

「その代わり今日の公務は3割増だ」

「そんなっ」

 

 かわいそう。

 

 ◼️

 

「承認! ……とは即答できない!」

「まあそうだよな」

 

 一度前例を作ってしまえば、今後どう影響するかは分からない。しかし勝負の世界では、少なからず妬みや僻みが生じる。悪い方向に転がることは間違いないだろう。

 こうなるとエアグルーヴも強くは出れない。テイオーの為、というよりもスズカの為に提案してきたからな……。

 どこか諦めすら感じる雰囲気の中、ポツリと呟き声が聞こえた。

 

「どうしても、マックイーンに勝ちたいんだ」

 

 殺意にも似た、燃え上がるような闘志。

 テイオーから放たれたそれは、俺を奮い立たせるのには十分すぎた。

 

「トレーナーと話してきてもいいかな」

「おう、焦るなよ」

 

 テイオーが理事長室を出た後、改めて理事長と向かい合う。

 

「どうしても、とは言わないが俺もテイオーの臨時トレーナーをしてみたいと思っている。コーチとして過ごしてきた中で、あれだけ走りに貪欲なウマ娘は見たことがなかった。薄々は感じてたけどさ、トラウマに向き合うには今しかないんだ」

「しかし、だな。聡明な君なら分かるはず。そう簡単には通らないぞ?」

「ガキみてえなワガママだってのは百も承知だ。もっと簡単に言えばテイオーと一緒にレースで勝ちたい。それだけだ」

 

 遠回しにガキと言われたと思っているのか、エアグルーヴに睨まれた。ごめんて。

 

「まずはスピカのトレーナーの反応を待つ! 私にも考えがあるっ!」

「アンケートは私も考えていましたが……本当にそれでいいのですか、理事長」

「うむ、学園の総意を確かめるには一番有効だろう?」

「その案は私も賛成だ。一度選ぶ権利を与えたからには、批判はそう来ないだろう」

「……この状況で、とても聞きづらいことがある。コーチが抱えているトラウマの内容を知りたい」

「構わないさ。この際エアグルーヴも知っておくといい」

 

 自ら進んで言いたくはないが、聞かれれば答えられるだけの余裕はある。今いるメンバーのうち、エアグルーヴを除いて全員が知っている事だしな。

 独り言よりは幾分か気持ちが楽だった。ただ、彼女だけは話が進むにつれて顔色が悪くなっていた。

 

「もしかして、物凄く失礼だったか……?」

「何も知らないのによくあんなにズケズケ言ってこれたなって」

「うっ」

「まあ、お前なりに思うところがあったんだろ? むしろ助かったよ」

 

 彼女は口調こそキツいが何だかんだで優しい。事情を知ってしまえば遠慮して何も言ってこなかったかもしれない。

 

「それにしても遅いですね。どうされたのでしょうか」

「確かにな。結構話し込んだ気がしたんだが……いや、流石に遅すぎる」

 

 呼んでこようか、と椅子を立ったその時。

 やや乱暴に扉が開かれた。

 

「よお、コーチさん。やっとやる気になったようだな」

「んな事だと思ったぜ、沖野」

 

 キャンディを咥えた沖野と、覚悟を決めたテイオーがそこにいた。

 

 ◼️

 

 理事長室を出てすぐ、私はトレーナーの元に向かった。

 

 やっと見つけたんだ。勝つべき相手を。

 やっと分かったんだ。走る理由が。

 

 この気持ちを確かにするために、今すぐしなきゃいけない事がある。

 

「ん、どうしたテイオー。理事長室にいるんじゃなかったか?」

「トレーナー、少し話したいことがあるんだ」

「……場所を変えるか。ゴルシー! しばらくの間練習メニューの指示を頼む!」

「おーう! このゴルシ様に任しとけ!」

 

 移動している間、何も聞かれることは無かった。これは誰にも聞かれてはいけないことだと分かっていたのかも。

 トレーナー室に入ってすぐ、話したいことは何かと聞かれた。

 

「コーチの独り言を聞いたんだ。コーチがトレーナーだった頃、何があったか詳しく聞きたいんだ」

「独り言、か。まずはどこまで知ったのか教えてくれ。そこに付け足すだけで十分だろう」

 

 椅子に座り込んだトレーナーは、どこか遠い目をしていた。トレーナーがコーチと同期だということも忘れて、ボクは独り言の内容を話した。

 

「ふっ、アイツらしいな。どこまでも自分一人の責任だと思ってやがる。昔の出来事は大体それで合ってる。その上で、俺も言いたいことがあるんだよ」

 

「脚部不安があることを何故伏せてたかを問いたくなる。ウマ娘側を責めるつもりは無いぜ。コーチとウマ娘の間に何があったのかはその2人にしか分からねえしな。でもよ、客観的に見ればそう聞きたくならないか?」

 

 言われてみれば。トレーナーの言葉だから説得力が余計にある。

 

「ま、真相を聞く気は無いけどな。そこから学べることもあったからだ」

「それって?」

「何か不安があるなら直ぐに言ってくれって俺がよく言うだろ。コーチがトレーナーを辞めてから、ずっとそれを言い続けてきたんだ。自分の不安を共有することが、どれだけ自分自身の助けになるか。何もウマ娘だけに限った事じゃない。みんなそうなんだよ」

 

 不安。

 それは単にレースの勝ち負けについての事だとボクは思っていた。

 大事に育ててくれていたんだ、と改めて感じた。そして、トレーナーの凄さをより一層感じた。

 

「そういう意味ではコーチもテイオーに助けを求めたのかもな。あのウマ娘の面影とテイオーを重ねたんだろ。その溢れんばかりの闘志はそっくりだ」

「……そうは言っても何を助けて欲しいのかな」

「すぐに分かるさ。お前は復活するためにコーチを利用していけ。マックイーンに勝つためには、それくらい図太くないとダメだぜ」

「スピカから暫く離れちゃうよ?」

「寂しくなるけど、気にするな。俺は俺のやることをやるさ」

 

「テイオー。お前はコーチと共に、マックイーンに勝ちに来い」

 

 

 

 

「ボクは、コーチと一緒にマックイーンに勝ちたいんだ」

「奇遇だな。俺もテイオーと一緒に、コイツに勝ちたいんだよ」

「お前ら2人に、現実は甘くないことを教えてやるさ」

 

 既にやる気十分の3人に対して、ポツリとたづなさんが呟いた。

 

「まだ臨時トレーナーが認められた訳じゃないのに……」

 

 ごもっともだ。

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