蝕まれたガールズバンド、立ち向かう霊能少年   作:夜車大佐

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第8話 必死に伸ばす右手 必死に掴む右手

※つぐみが眠りにつく数十分前

 

一弥「羽沢、眠ったら最初にやるべき事がある」

 

つぐみ「やるべき事?」

 

一弥「あぁ、夢の中で『覚めろ』って言うんだ。それも何度もだ」

 

一弥はつぐみに夢の中ですべき行動を2人で話し合っていた。

 

つぐみ「…何度かやってみたよ、確かにそれで今まで目が覚めたけど、でも今度は」

 

一弥「十中八九覚めないだろうな」

 

つぐみ「え?」

 

不安がるつぐみに対し、一弥はなんの躊躇いもなく事実を告げる。

 

一弥「夢の中で逃げられないと言われた以上、次はもう真っ当な方法じゃほぼ不可能だよ」

 

つぐみ「じゃあ……一体なんのためにするの?」

 

一弥「"明晰夢"を見るためにだ」

 

つぐみ「明晰夢?」

 

一弥「経験ないか?夢の中で自分の思った通りのことが出来る、なんてこと。或いは夢の中でこれが夢だって自覚すること」

 

つぐみ「それが明晰夢?」

 

一弥「そうだ、それを利用して夢の中でも自由に動けるようにするんだ」

 

つぐみ「でも、今までも自由に動けてたよ?」

 

一弥「本当にそうか?」

 

つぐみ「え?」

 

一弥「自分の番が来た時、羽沢は本当に自由に動けてたのか?」

 

つぐみ「……そういえば」

 

つぐみは思い返してみた。

チェーンソーが迫ってくる中確かに動くことが出来なかった。まるで金縛りにでもあったような、或いは死を受け入れるように、身体は言うことを聞いてくれなかったのだ。

 

一弥「だからこそ何度も覚めろと唱えることで無理やりにでも夢だと自覚させるんだ。そして動けるようになったらひたすら逃げて欲しい」

 

つぐみ「そこは力技なんだね……」

 

一弥「あぁ、それ以上のことは合流しないと話にならないからな。だから僕と合流できるまでひたすら逃げて欲しい。羽沢にこんなことを言うのも酷だけど、どんな手を使っても」

 

─────────────────────────

 

死を覚悟し、固く瞑っていた目を開く。

認識が正しければつぐみの頭上にチェーンソーの刃が迫っていたのだ。それなのに………

 

つぐみ「………なんとも……ない?……!?」

 

つぐみの横には、つい先程頭上にあったはずのチェーンソーの刃が、電車の床に突き刺さっていた。

恐怖を煽るためにわざと外したのか?

 

つぐみ(……違う)

 

つぐみは直感で"自分が避けた"と気づいた。

当然そこに証拠などは無い。……いや

 

つぐみ(動ける、今なら!)

 

つぐみ自身が自由に動けていることが何よりの証拠だった。それに気づいたつぐみは起き上がり、ピエロたちから逃げていく。

当然ピエロたちも見逃すはずはなく、つぐみを追う。

 

 

一弥『僕と合流できるまでひたすら逃げて欲しい。』

 

 

つぐみ「お願い、早く来て………一弥君」

 

─電車内に、アナウンスが響く─

 

 

─────────────────────────

一弥side

 

ほんの一瞬、瞬き程度の時間、たったそれだけで景色が一変した。

女の子らしい部屋から、薄暗く不気味な電車内に変わった。

その空間には僕だけでなく、僕に触れていた4人もそのまま変わらずにいた。

 

蘭「これが……つぐみの見てる悪夢?」

 

一弥「そうだな、この薄気味悪い感覚は間違いなく怪異が関係してるね」

 

巴「わかるのか?」

 

一弥「うん、そういう体質だから」

 

だからこそ、この夢のどこかに羽沢は絶対にいる。

 

一弥「行くよ……モタモタしてる時間は無い」

 

僕が隣の車両に移ろうとした時……

 

♪♪~

 

アナウンスが車内に鳴り響く

 

─お客様の中に、無賃乗車する不届き者が紛れ込んでおります。見つけ次第、始末の方、御協力お願い致します─

 

ひまり「無賃乗車って……もしかして」

 

上原の顔が段々と青くなってるのが一目見ただけでわかる。

 

一弥「間違いなく僕らだな、無理矢理乗り込んだし」

 

ひまり「どうしよう!!私たち犯罪者になっちゃったよー!!」

 

モカ「ひーちゃん落ち着いて、これは夢だから」

 

焦る上原に青葉が諭すように落ち着かせる。青葉のマイペースさはこの場において最も心強い。

 

一弥「さて、どうやらバレてるようだし、コソコソする手間が省けた。早いとこ羽沢を探すぞ」

 

 

モカ「あいあいさー……ところでかずくん」

 

一弥「……どうした?」

 

モカ「呼び方戻ってるよ」

 

……ちょっとマイペース過ぎやしないかい?青b……モカ、もう少し緊張感もってもいいと思うんだけどな

 

─────────────────────────

蘭side

 

一弥を先頭にして各車両を調べて進んでる。けどつぐみは愚か、人の気配すらしない。

電車の外は真っ暗で、慣性でやっと進行方向がわかる。その程度の情報しかない。

 

蘭「つぐみは、ずっとこんな夢を見続けてたんだ。」

 

一弥「こんなのまだ序ノ口だ」

 

蘭「え?」

 

この閉ざされた空間がまだ序ノ口?

アタシはこの段階でも怖くてまともに体が動かないほどなのに、それでも無理して身体を動かしてる、そんな状態なのに。

アタシだけじゃない、ひまりも巴もパッと見ただけで怖がってるのがわかるくらい。

モカだけは普段と変わらない様子でつぐみのことを探してるけど。

 

一弥「羽ざ……つぐみはずっと命を狙われてたんだ。この閉鎖空間に加えてね、だとしたら……!!?」

 

次の車両に移ろうとした一弥が急に足を止めた。

一体なんなの……?

 

一弥「バカ、見るな!!」

 

一弥が馬鹿でかい声で静止を促した。

……けど、遅いよ

 

 

蘭「え……あ……」

 

モカ「……」

 

ひまり「ひぃ!!?」

 

巴「…っ…!?」

 

どうやらあたしだけじゃなくて、みんなも見てたみたい。

だけどそんなことはどうでもよかった

アタシは目の前の光景に理解が追いつかなかった。

 

床にも壁にも真っ赤なペンキをぶちまけたような光景。

所々にある塊。これがなんなのかは一瞬でわかった。

……わかったけど、理解が出来ない。理解したくない。

頭が、心が理解することを拒んでる。

だって……今理解しちゃったら……受け入れちゃったら……

 

蘭「あ……あぁ……うッ!?」

 

 

 

嫌な……液体が流れ落ちるような音がした。

 

 

 

モカ・ひまり・巴「蘭!?」

 

嫌……あんな場所、これ以上進みたくない……

 

巴「蘭!大丈夫か!!」

 

蘭「なに……なんなのあれ……?」

 

─────────────────────────

 

巴side

 

脚が震えた、声が出なくなった、どこに力を入れて立てばいいか一瞬分からなくなった。

 

蘭「うっ!?」

 

皮肉なことに蘭が取り乱してくれたおかげでアタシは正気に戻れた気がする。

 

巴「蘭!大丈夫か!!」

 

蘭「なに……なんなのあれ……?」

 

全くだ、あんなの正気の沙汰じゃない。

ひまりも声も出せないほど脅えているのが一目でわかる。 あのモカですら余裕がどこにも無く、アタシにもわかるほどに恐怖心を抱いている。

 

 

一弥「何立ち止まってるんだ、早く行くよ」

 

それなのに、なんでお前はそんなに冷静なんだよ!

 

─────────────────────────

 

一弥「何立ち止まってるんだ、早く行くよ」

 

その冷たい一言が、4人を動揺させた。

 

巴「なんでだよ……お前なんでそんな冷静なんだよ!」

 

巴が怒るのも無理は無い。長年の幼なじみが今この場でグロッキーな状態にも関わらず、彼は一切心配する素振りも見せず、淡々と告げるからだ。

 

巴「蘭がこんな状態だってのに、お前は心配じゃないのかよ!」

 

巴の怒りに、一弥は

 

 

 

 

一弥「ならどんな状態かも分からない羽沢は心配じゃないのか?」

 

巴「!?」

 

冷静に言い放った。

 

一弥「僕は何度もあの時確認したはずだ、『来ない方がいい』と、『ここは地獄』だと。それでも着いてくる決断をしたのは皆だろ。」

 

その言葉にみんなは何も言い返せなかった。

 

一弥「……羽沢と約束したんだ。『なるべく早く合流する』って。今あいつは生と死の狭間で必死に戦ってんだ。今の僕らに出来るのは1秒でも早く合流することなんだ。だから頼む、今ここで立ち止まらないでくれ」

 

彼も決して今この場にいる4人のことや蘭の精神状態のことに対して無関心な訳では無い、だからこそ彼は立ち止まって彼女らが動くまで待っているのだ。

すると、蘭が立ち上がり…

 

 

蘭「ごめん皆、もう大丈夫」

 

ひまり「蘭……大丈夫?」

 

蘭「大丈夫じゃない……けど、一弥に無理を通してここに連れてきてもらったなら、アタシたちも少しは無理しないと」

 

巴「蘭……うっし!アタシも蘭を見習って気合い入れ直すぞ!」

ひまり「う~、2人ともすごいよ……私はまだ怖いもん」

 

モカ「ひーちゃんが怖がってるとアタシたちが冷静になれるから助かるよ~」

 

ひまり「ちょっとモカ!それどういうこと!」

 

地獄のような空間の中、今だけは彼女たちはいつも通りになれた。それを見た一弥は

 

一弥「青葉……これを渡しておきたい」

モカ「およ?これは?」

 

一弥がモカに渡したのは赤い御守りだった。

 

一弥「僕から離れるなって言ったけど、場合によってはみんなから離れて戦わなくちゃいけないかもしれない。だからこれを持って青葉がみんなを守ってくれ。」

 

モカ「これなに?なんでアタシに?」

 

モカの疑問に一弥はたんたんと答える

 

一弥「急いでるから手短に話すと、その御守りは所持者とその付近に居る人を害あるものから守るお守りだよ。4人の中で1番冷静に物事が見れる青葉が適任だと思ったから渡した。効力は半径2mってとこかな。だから絶対に離れちゃいけない」

 

そういうと一弥は車両の奥へと歩いていった。

 

 

 

 

 

青葉「……かずくん………また呼び方戻ってるよ」ボソッ

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

つぐみside

 

つぐみ「……ハァ……ハァ…!!」

 

私はずっと逃げ続けてる。

どこかでみんなと会えることを信じてずっと。

 

外が暗い……というより真っ黒で代わり映えがしないからどっちが前なのか、どっちに向かって走っているのか分からない。

そう思って何度も車両を移って走り続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……けど。

 

 

 

つぐみ(うそ!行き止まり!?)

 

とうとう誰とも会えることなく最前、もしくは最後尾の車両まで来てしまった。

 

後ろにはあの悪魔が迫ってる。

 

 

つぐみ「いや………来ないで……」

 

その言葉に耳を貸すことはなくピエロはまるで私の恐怖を楽しむように近づいて持ってるチェーンソーを振り上げた。

 

 

つぐみ(もう……無理………)

 

 

 

 

 

……助けて……一弥くん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー僕の幼馴染に近寄るな!!!ー

 

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