コックピットは好きだ。
いつもガタゴトと音を立てて揺れて、時々すっごく大きく揺れて、近くで大きな音もする。
それがたまらなく心地良い。
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地球の四大経済圏のうち、二つの勢力であるアーブラウとSAUとの武力紛争が終わってから1か月が経った。
和平調停が結ばれたとはいえ、両勢力は未だ互いに緊張が走っている。
SAUの防衛軍は低下した戦力を埋めるべく、傭兵や軍事会社を積極的に受け入れていた。
これは日々を気ままに生きる傭兵とギャラルホルンに所属していた兵士の話である。
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「こりゃいったいどういう事だよ!?」
若い女の甲高い怒鳴り声がSAU軍事基地格納庫の中に響く。
「このモビルスーツ、目の部分が三つあるのに真ん中のヤツだけ付かないんだけど!?」
「レストアされた中古品だから文句言うな。これでも値切った方なんだぞ」
男―ワコー・ベアーが椅子に座り新聞を読みながら愚痴に答える。
「別に中古なのは構わないよ、前に壊しちゃったのも中古のだったし。問題はカメラが不調だって事だよ。見えてないと命取りになんの、言ってる事解る?」
「替えのパーツを買う金ならもうないぞ。なんならコックピットでも開けっ広げておくか?」
「あたしが死ぬわ」
女は大きくため息を付きつつも、考えを改める。
「……まぁ、阿頼耶識付きなのはシャレてて良かったけどさ。お金貯まるまでこれで我慢しとくよ」
ベアーと彼女―タキ・コーニッシュは二人組の傭兵であり、タキの首筋からはマン・マシンインターフェースのコネクタである阿頼耶識のピアスが生えていた。
「それより、防衛軍との交渉どうなったの? あたしら雇ってくれる?」
「……それなんだが、ついさっき断られた」
「ウッソ、なんで!?」
「なんでも、もう兵士を揃えきっちまったらしい。ま、これ以上は自分たちの食い扶持が減るってこったろう……諦めてどこか別の所にでも行くべきじゃないか?」
「やだよ、こっちだってもうお金が無いんだし、そろそろまともなご飯が食べたいんだよ。
ひと月くらいは合成食品や保存食で過ごしてんだよ」
「確かに燃料や弾薬もジリ貧だが、別にここにこだわる必要もないだろう。アーブラウならここから近いし、もう一回かけあってみるか?」
「それもやだ。あっちからも雇ってもらえなかったし、それにもっかい泣きついてくるのもなんかカッコ悪いでしょ」
「そんなんでメシが食えるかよ……それともアレか? 傭兵団にでも売り込むつもりか?」
「あー、それもありっちゃありか……確かちょっと前に何かの騒ぎに参加してた部隊があったなぁ。なんてったっけ確か鉄―」
突如、爆発音と大きな揺れが周囲へ響き渡り、タキの身体が大きくよろめいた。
「な、何今の!?」
慌てるタキに対してベアーは冷静かつ淡々と答えた。
「攻撃してきたんだろ」
「それはわかる! 誰が撃ってきたの!?」
「どっかの盗賊だろ」
「それもわかる! 敵は!?」
「モビルスーツとモビルワーカー」
「適当言ってないだろうね?」
「大体それしか無いだろが」
格納庫内に続々と防衛軍の士官が集まり、うちの誰かが怒鳴り声を出した。
「おい、ここのモビルスーツは3機だけかよ!?」
「ほとんどの部隊が演習で離れてますし、今ここにはこれだけですよ! どうするんです!?」
「どうって言われてもやるしかないだろ!」
それを聞いたタキはにやついた顔で。
「戦力が無いんだって…?」
と言い、士官たちに向けて。
「ねー、兵隊の皆さん……今ここであたしの一稼ぎ分、じゃなくてこの戦いだけでも雇ってくれたら、助けてあ・げ・る☆」
と、とてもにこやかな笑顔で言い放った。
「一稼ぎ……とは、どのくらいだ?」
「それくらいは自分で考えてちょーだい」
と、間を入れて一人が口を開けた。
「…メシをおごる」
「……」
「…高いメシをおごる」
「もう一声」
「とびッッきり美味くて高い極上のメシをおごる!!」
「のったァァ!!」
それを聞いたタキは嬉々とモビルスーツーランドマン・ロディのコックピットに乗り込み、起動させる。
「さぁどいたどいたァ!」
嬉しそうにマン・ロディで出撃して行ったタキの姿を見た整備兵がベアーへ声をかける。
「……あんた、あの女の連れだろ。いつもあんなんなのか?」
「すまん、あいつのあの性格だけはどうやっても直せん」
ベアーは頭を抱えて一言だけ呟いた。
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ランドマン・ロディ。
かつてアーブラウにて軍事顧問として招かれていた傭兵団が使用していたモビルスーツである。
これは紛争の際に投入され、戦いの末に堕とされた機体が闇市場へと横流しされたものを買い取ったものだ。
ずんぐりむっくりとした丸い身体には阿頼耶識システム―身体にコネクタとナノマシンを埋め込み、機動兵器側のコネクタと繋げる事で操縦を容易にさせ、かつ動作を俊敏にさせるインターフェース―が搭載されており、同じく阿頼耶識が埋め込まれたタキの身体とは相性が良かった。
ランドマンに続いて基地からフレック・グレイズー治安維持組織ギャラルホルンが外部勢力に対して販売を行なっているモビルスーツ・グレイズの廉価モデルーが3機出撃し、瞬く間に合流した。
やがてセンサー類が敵の戦力を捉えてカメラスクリーンにシルエットを映し出す。
相手はスピナ・ロディが3機。モビルワーカーが6機。編隊を組んで進軍している。
モビルワーカーはモビルスーツに比べれば華奢な身体に貧弱な火力と、敵ではないものの機動性に関してはモビルスーツに引けを取らない。
「おいタキ。聴こえるか?」
「あ、うん。めっさクリアに聴こえるよ」
「戦力としてはこっちの方が少し有利だが、油断はするな。モビルワーカーでも数が多いと厄介になるぞ」
「んなこた解ってるよ。密集させなきゃいいんでしょ?」
そう言ったタキはランドマンの腕を動かし、ハンドグレネードを相手側目掛けて投擲した。
相手の部隊は
だが、それが着火したとき相手は大きな隙を生んでしまうこととなった。
何故ならそれは炸裂弾ではなく、閃光弾―単なる目眩ましだからだ。
直ぐにランドマンのブースターを吹かせ、一番近くにいた敵MS目がけてショルダータックルをぶつける。
大質量の突撃にバランスを崩したスピナ・ロディの胸へ浴びせるように、ハンマーチョッパーを横へ薙いだ。
「このモビルスーツ、丸っこい見た目の割に結構きびきびしてるな……動かしやすいし、案外良い買い物だったのかな?」
その直後、コックピットのスクリーンに強いノイズがかかった。
「前言撤回。カメラがポンコツ」
直後、敵の砲撃を背後から受けた。大きくよろけ前へと倒れ込んでしまい、操縦機器に頭をぶつけてしまう。
「うわっ……とと! っつ~~……油断は大敵……」
傍で砲撃をしていたモビルワーカーを手早く掴み、別のスピナ・ロディへ強く叩きつけた直後、ハンドガンを撃ち込み爆発させた。
MSのナノラミネートアーマーの頑強さの前ではモビルワーカーの爆発程度では大きなダメージは与えられない。せいぜいコックピット内に振動が伝わる程度だ。
だが、それだけで十分だった。
その攻撃で敵パイロットが怯み動きが一瞬止まった隙を逃さず、脚に回し蹴りを浴びせ相手のバランスをさらに崩す。
直ぐにハンマーチョッパーを大きく振りかぶり、
「これはお返しだッッ!!」
二機目のスピナ・ロディの頭を叩き割った。
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討伐は瞬く間に終わった。
戦力の喪失を省みたのか、スピナ・ロディが2機撃破されると共に残りの戦力は早々と撤退していった。
戦いが終わり夕日が一帯を照らす中、コックピットから降りたタキは上機嫌な様子でベアーに話しかける。
「いやぁ…中古って事に文句言ったけど、中古もいいもんじゃん。前のヤツに相当大事にされてたみたいだね…すっごく慣らされてて扱いやすいわ」
「そりゃお前の気のせいだろ」
「いんだよ、あたしがそう思ったから」
タキはランドマンを見上げると、その頭を見て目を丸くし、口に手を当てた。
なぜなら、破片が大きな角のように頭を貫通していたからだ。
「うぅわ、でっかいモノが刺さってる……んん?」
それを見たタキは一考する。
「いやなんかさ…これって、『ガンダム』みたいじゃない?」
「はぁ?」
「ほら、ちょっと前にドンパチやってたてつ…テッカ…テッカマン? まぁ、とにかくそこのモビルスーツにガンダムっていたじゃん。で、ガンダム・フレームのモビルスーツが結構あるでしょ」
「ああ、ニュースの報道で何度か見たからな」
「角があって、目が二つあるのがガンダム・フレーム…だって、父ちゃんが言ってた」
「そうとも言うな」
タキはにんまりと笑い、
「だから、これは……ガンダム、だよね?」
と、言った。
ベアーは一考して。
「…いや、無いだろ」
「そうなの?」
「そうだろ」
そうしている間も日はずんずんと沈んでいった。