コックピットは嫌いだ。
いつも一人で、暗くて、狭くて、冷たくて、息苦しい。
だけど、そんなコックピットにいる時にだけ、私は世界を
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『調子はどうだ、三尉?』
「はい、よく
『今日の相手は実物のモビルスーツだ。コンピュータのシミュレーション通りになるとは思うなよ』
「はい、解っています」
私―コルロ・キャンベル三尉は阿頼耶識に対応した試験用のグレイズに乗っていた。
当然ながらギャラルホルンではヒゲ付き―阿頼耶識持ちは表向きには存在しない事になっている。
私はあくまで研究施設に所属する1人のテストパイロットだ。
「ロディ・フレームが2機。ゲイレールが1機。他には見当たりません」
『それで全機だ。1発でもいいから弾を当てて、速やかに
「撃破といってもペイント弾でしょう? エイハブ・リアクターを使い捨てにするつもりは無いでしょうし」
『冗談も言えるようになったな。とにかく、早く撃て!』
「はい」
演習が、今日も行われる。
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私はヒューマンデブリだった。
小さい時に宇宙海賊に誘拐され、そのままデブリにされて、阿頼耶識の手術を受けさせられた。
それも、海賊の戦力としてではなく、憂さ晴らしのサンドバッグ代わりにして私たちが怯える様子を見て愉しむ「遊び道具」として浪費されていた。
戦闘が起きた時はロクに整備もされていないモビルワーカーに乗せられ無理やり出撃、というよりは
モビルワーカーが流れ弾に当たる度に仲間は怯え、悲鳴を上げ、死んでいく。
通信がオープン状態という事もあり、私たちの叫びは仲間にも、相手にも筒抜けで、「飼い主」たちはその隙を突いて略奪を繰り返す。
奴らは私たちを見るたびに汚く笑った顔で常に愉しんでいた。
そして私はたまらなくなり―
「死にたくない…死にたくない…! あ、あ、ああああああああああ!!」
私は、逃げた。
逃げて逃げて逃げて、燃料が切れて動かなくなるまで、モビルワーカーをとにかく動かして。
そうして逃げた先は、何もない場所だった。
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それから何日が経っただろうか。
私は偶然パトロールをしていたギャラルホルンの
飲まず食わずのまま何日も過ごしていたおかげで見つけて貰った時は酷く衰弱していたらしい。
生命は助かった。だけど―
「目は見えるのか?」
「真っ暗です。何も見えません」
その日から私は阿頼耶識を介さなければ周囲を見渡す事が出来なくなった。
医師が言うにはモビルワーカーを動かした―死への恐怖から逃げ出した際に阿頼耶識の過負荷がかかって体に障害が起きたのだと言う。
デブリの上に阿頼耶識が無ければ何も見えない今の私は産業廃棄物も同然。拾ってくれたギャラルホルンからも厄介者扱いは免れない。どうせすぐに放り出される事だろう。
そのはずだった。
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「座るんですか、ここに……」
私はスーツに着替えさせられ、ヘルメットを被らされ、椅子に座るように命令された。
直後、背中に小さな痛みが走る。
そして、徐々に光が指してきた。
「これは……明るい……? 私、目が見えてる……?」
言われるがままに案内を受けた私を待っていたのは、どうやらコックピットのようだ。
極秘裏に阿頼耶識をMSに搭載する研究を行っていて、ちょうど阿頼耶識を持ったパイロットが欲しかったのだと言う。
今、私が見ている光景は乗っている機体のカメラをヘルメットに繋げられた阿頼耶識用のゴーグルを通してみたものだった。
私を迎え入れた事で研究は捗っていった。
産業廃棄物と思っていた私は今、ギャラルホルンの、人の役に立っている。
ただ、その事が嬉しかった。
海賊達の玩具のヒューマンデブリから一転して。
私は名前と待遇を与えられ、人間になった。
そう、思い込んでいた。
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それから数年が経ったある日。
「新型、ですか?」
研究により新たに開発されたMSのテストパイロットへと任命された。
私は疑う事もなく了解し、阿頼耶識のコネクタを繋げ、MSを起動する。
そして―
「……!?」
頭が急に重くなった。
目が、鼻が、口が圧迫されていく。
「うお……えぇ……」
気が付けば、顔から噴き出ていた大量の涙とヨダレ、吐瀉物に鼻血でノーマルスーツを汚していた。
『終わりだ! システムを閉じろ!!』
コックピットから降ろされた私は、あの新型機に耐えられなかった事を告げられ、その日から周りもどこか冷たくなっていった。
その後もMSの模擬戦などでただひたすらに演習によるデータ収集を続けていったけど……そのうち、その新型機に適合者が現れたらしかった。
私はますます立場を無くしき、程なくして―
「えっ」
それを聞いた時、私は呆気に取られてしまった。
「中止ですか。どうして……」
その理由を聞いたところ、エドモントンでの戦いであの実験機―いや、
これによりギャラルホルンの腐敗が続々と暴かれていき、阿頼耶識の研究も公にされていった。
その後も世間からバッシングを受けた事で、研究も縮小される事となったのだという。
上司は私に淡々と告げる。
「君が取る道は二つある。ここを出て一兵卒としてやり直すか、ギャラルホルンそのものから出ていくかだ」
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『いくら演習でもモビルワーカーとMSじゃあ勝負にならないぜ。阿頼耶識だかなんだかしらんが、本気かよ?』
「……お言葉ですが、通常の操縦と阿頼耶識では勝手が違います。どこかの島国では『窮鼠猫を噛む』……『油断するな』という言葉もあるそうです」
『大口叩くなら、1発当ててみるんだな。通信切るぞ』
私はギャラルホルンに残る道を選んだ。
このまま出て行ったとしてもロクな日々を過ごせる自信も無かった。
所属や待遇が変わっても―
「ネズミはネズミでしかない、か…」
私は小さく呟いた。
それに、本当に何もなくなった訳ではない。
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『模擬戦とはいえ、まさか本当に撃破するとはな…』
『……アイツの動きがすばしっこかっただけだ。なんであんなちっこいモビルワーカーに後れを…』
私にはまだ、これがある。これだけがある。
首筋から生えたピアスを撫でつつ、私に残されたものは、ただひたすら戦うことだけだと悟った。
阿頼耶識が積まれたモビルワーカーを駆り、私は戦場へ往く―