多分グラブルで1番ヤバい奴なら最高のヴィランになると思った話   作:にやけ野郎A

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才華と災禍

「……ここもハズレ、ですか」

 

 

 人気のない静かな路地裏。

 全身の所々に黒い靄がかかった男…………黒霧が小さく呟いた。

 

 

 ”先生”からの司令を受けて早3ヶ月が経ったが、未だに達成できそうにない。

 

「少々疲れましたね。全く……先生も中々難しい事を命じられる……」

 

 滅多に愚痴など零すことは無いが、今回ばかりは仕方がないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「……人探しですか?」

「ああ。……この男を知っているかな?」

 

 ピラリと1枚の写真が私に手渡された。

 

「……これは確か」

 

 写っていたのは無精髭に眼鏡の男。

 ……知っている。先生と以前取引をしていた裏の商人だ。

 

「この男を探せばよろしいのでしょうか?」

「いいや、そうじゃないんだよ」

「……?」

 

 困惑する私をよそに先生は続けて数枚の写真を取り出した。

 取引相手や裏の殺し屋に、ブローカーどの男も見たことがあるものばかりだ。

 

「この男達も知っているかな?」

「はい」

「全員行方不明なんだ。ここ1年程でね」

「……」

 

 真っ先に思いついたのはNo.1ヒーロー、オールマイト。

 彼ならば巧妙に隠れる闇の住人だとしても僅かな期間で捕らえることは可能だろう。

 

 

「オールマイトの仕業じゃない。そもそも捕まってればニュースになっているはずだし、報道されなくてもボクはオールマイトやそれなりに有名なヒーローについては良く調べている。だから彼らが原因ではないよ」

 

 そう思ったが、すぐに先生の言葉で否定された。確かに妙だ。オールマイトや他のヒーローの仕業ならば報道されないわけが無い。

 

「かと言って……裏の連中同士のやりあいでもない。それなら僕の耳に入らないわけがないからね」

「では一体何者が……」

 

「そうなんだよ。関東ではあるんだけれど……詳しい場所はバラバラ。時刻も目的も不明。死体すら上がらない」

「……厄介ですね」

 

「だが面白いだろう? 僕が知らないそんなアサシンがいるんだぜ? 

 引き入れられるのならオールマイトとの決戦前に色々と動いて貰うのも悪くない。……それに、もし敵対するようでも……」

 

「……たしかに人を探すというのなら私が適任……ですか」

「ああ。よろしく頼むよ。何、時間をかけてゆっくりやってくれて構わないさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩がてら少しだけ立ち止まって、司令を受けた時の事を思い返した。

 

 あれから関東一帯を駆け回ってはいるが、足取りすらも掴めない。

 先生が怪しい場所や、次の予測地点を幾つか教えてくれはするが……それすら正しいかどうかも怪しく思えてきた。

 

「……全く。いつになる事やら。……まぁ、簡単に引き受けた私も私ですか」

 

 所詮人探し程度、すぐに終わるだろうと安易に受け入れたことを少し後悔はしたが……仕方がない。次の予想地点へとワープしようとした所で……

 

(……ん?)

 

 いつの間にか足元に空き缶が転がっていた。

 

 ……ほんの少し違和感を感じた。先程までは確実になかった。何処からか転がってきたのか? 

 拾って確認してみたが、やはりなんの変哲もないただの空き缶だった。

 

 これが転がってきたというのならば小さくない音が確実に鳴るのではないか? 

 

 幾ら少し気を抜いていたとはいえ、この静かな路地裏。缶が落ちる音に気が付かないということはない筈だが。

 

 

「……少し探ってみましょうか」

 

 何の手掛かりもない以上、この様な気の所為で済ませられることも調べていくしかないだろう。

 そう決めて手に持っている空き缶を投げ捨てて──

 

「……これは!」

 

 違和感が確信へと変わった。

 

 音がしなかった。

 缶をアスファルトへと投げたのに音がしなかったのだ。

 

「先生。おそらくですが当たりを見つけました。場所は──」

『分かった。場所も遠くないしすぐにボクも行こう』

「畏まりました」

 

 すぐさま先生へと連絡をすませる。

 先生が到着すれば、まずとり逃がすということは無い。

 つまり私がこれからすべき事は標的の位置を明確に確認する事だ。

 

 

 

 

 

「ああァァ! 許して! 痛い!! イダィの!! ァァ! ィダイ! イダィィイ!!」

 

 ほんの数メートル進んだところで、悲痛に叫ぶ女の声が急に聞こえだした。

 やはり音に何か細工があったようで、

 発生元は非常に近く感じる。数十メートル程度だろうか。

 

「……さて何が出るでしょうかね」

 

 期待半分、不安半分といった感情で歩みを続ける。

 途中から女の叫びは聞こえなくなった。

 それから2度3度と角を曲がって、遂に目標を見つけた私は、驚愕した。

 

「な……子供? ……それも少女?」

「おや? キミは誰かな?」

 

 標的と思われる殺人鬼は齢10から12くらいに見える少女だった。癖のある肩口で揃えられた茶髪に、少し垂れた目と翡翠のような瞳。

 ……容姿が優れている事以外は至って普通の少女と言って良いだろう。

 様々な部位が欠損した女を右手で握っていなければ、だが。

 

「……ふぅん、おかしいな。さっきまでこの周辺1キロ以内には人の音はボクとこのレディの2人しか……いや()()はもう人間ではないかな? アッハ!」

「……貴女がこれをやったのですね?」

「ウィ! その通りだとも!」

 

 右手に持っていた死体を、ポイとおもむろに投げてパチンと左手で指を鳴らした。

 すると”パン”というような、風船がわれるような音と共に跡形もなくソレが消し飛んだ。

 

「ンン……まぁ、今のは悪くない、かな? 幸福とは程遠いけれどね」

 

「……まさかこのような少女が……驚きましたが……まぁ私の感想は良いでしょう。

 

 ……初めまして。私は黒霧と申します。

 少々貴女とお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 ひとまず安堵といったところ。

 これで何とか任務は果たせたし、先生に無駄足を欠かせずに済んだ。

 

「……うーん。しかしこれはいけないなぁ。1年も経ってボクも気が緩んでしまったのかな?」

 

「…………あの、聞いていますか?」

「でも膜は張ってあるし……人の気配もなかったハズなのに。まぁ……気をつけようか。捕まってしまっては幸福からは程遠くなるからね」

「……」

 

 出来る限り丁寧に対応してみるが、少女は私の挨拶には全く反応せず、ただ訳の分からない独り言を呟くのみ。

 

 少々腹立たしいが、殺人鬼相手にマナーを問うのも馬鹿らしい。落ち着くのを待つ事にしよう。

 

「今日はもうイイかなって思っていたんだけれど……キミ、随分と不思議な体しているね?」

 

 と、そんな事を考えていたのだが。

 

「…………どんな音がするのかな?」

「……!? 不味い!」

 

 唐突に殺気を向けられた。

 避けなければと思った瞬間、パチリという音と共に顔の部分の霧が消し飛ばされた。

 

 ……危なかった。もしも本体部分を狙われていたら。死にはしなかっただろうが満足に動くことは出来なくなっていただろう。

 

「……見境なし、ですか」

「……? 少し強めに打ったのだけれど霧の部分は効果なしかな? もしくは物理的な干渉は全て効かなかったりするのかい!? 益々不思議だ!」

 

「お待ち下さい! 私は貴女を捕まえに来たのではありません! まずは話を……!」

「アッハ! 聞き飽きたセリフだね! 

 では保護でもしに来たのかというのかな!? 残念だけどボクには不要なことさ!」

「……加えて聞く耳持たず……チィ。やはりガキはガキですか……!」

 

「さぁ続けよう! アレ!」

「……チッ!」

「バロテ! ベルセ!!」

 

 一撃、二撃、三撃。

 掛け声と共に次々と衝撃が放たれる。

 最初はがむしゃらに移動し続けるしか無かったが……

 

(……成程)

 

 次第に攻撃について何となくだが理解出来てきた。左手の指を鳴らすとほんの少し間を置いてその直線上の私がいる地点に不可視の衝撃が飛んでくる。

 

 つまり彼女が指を鳴らす瞬間の手先の角度に注意し、的を絞られないように動き続けるれば良い。

 靄を広げ、狙いを妨げるのも有効とみた。たとえ攻撃が見えずとも安定して避けることは十分に出来る。

 

 

 だが……こちらとしても決定打は無い。

 自分の個性はワープゲート。移動に便利な個性ではあるが攻撃的な個性ではないのだ。

 確かに相手をゲートの中に引き摺りこみ、途中で閉じてしまえば殺すことは可能であるがそもそもゲートに逃げ込む暇がない。入ろうとする際の隙に衝撃を打ち込まれてしまっては本体に当たる可能性がある。

 

 つまりこれでは……

 

「双方ジリ貧というやつですね……! 

 ……どうです!? このままでは埒が明きません! ここは互いに引いた方が私にも貴女にもメリットがあるのではないでしょうか!?」

「アッハ! 確かにそうだ! このままだとキミに当たる気がしない! 朝になってしまいそうだ! ……じゃあこれでどうだろう?」

 

 私の声に反応して1度少女は攻撃を止めたが……今度は左手のみでなく右手でも指を鳴らすような姿勢をとった。

 

「それは少し困りますね……!」

 

 片手のみならば対象は容易だったが、両手ともなれば話が変わってくる。

 単純に攻撃のスピードも確認しなければいけない手先も倍になる。それに指を鳴らすタイミングだって先程とは比べ物にならないほどのパターンが考えられる。

 

(これは……気合いを入れなくては)

 

 少女の両手へと意識を集中させる。

 左手が先か、はたまた右からか。

 

 答えは──

 

(同時!)

 

 狙われた場所はそれぞれ左と頭上か。

 なるほど、飛んで避ければアウトということ。

 

(ですが……やはり対処は可能!)

 

 素早く身体を捻り右へと避けて次の衝撃に備えようとした所で……違和感を感じた。

 

(衝撃が……発生していない!?)

 

 先程、指が鳴らされたというのに予想の位置には何も起こってはいなかった。

 

「アハッ♪ 引っかかったね?」

「なっ!? いつの間……」

 

 そして気がつけば一瞬前まで数メートル先にいたハズの少女が眼前にいた。

 

「……ガッ!!」

 

 本体の部分へと肘打ちを喰らう。

 あの細腕から繰り出されたとは思えない威力で吹き飛ばされ、激しく地を転がった。

 

「……ゥグ、否……まだ……!」

「ノン。チェックさ」

「グゥ!」

 

 ようやく止まり、どうにか立ち上がろうとした瞬間地面へと押さえつけられてしまう。

 

 何とか抜け出そうと足掻いてみるが……これまた見た目からは想像できない程の剛力で抜け出せる気がしない。

 

「……スマートに振る舞いなよ? 今すぐに消しズミになりたくはないだろう?」

「……詰み、ですね。私の負けです」

「ウィ! それでいい」

 

 抵抗をやめると少女は優しく微笑んで幾らか力を緩めた。

 これなら抜け出せるかもしれないが、流石にリスクが高すぎる。

 

「それにしても……アハ! 思った通りだ。やっぱり霧ではないこの部分への攻撃は有効だったね」

「……フェイクでしたか。しかし……どういう個性でしょうか? 音を消したり衝撃波を飛ばしたり……果ては身体能力も並のものでは無い。余りにも……多芸がすぎませんか?」

「ボクの個性にかかれば造作もないことさ! まぁボク自身が天才だからこそ、ここまで使いこなせているのかもしれないけれどね!」

 

 こうなってしまっては私に出来ることは時間稼ぎのみだ。

 幸い中々話すのが随分と好きなように見えた。先程からこちらの質問には機嫌良く答えるし、口数も無駄に多い。

 

「……貴女の個性とは?」

「知りたいかい!? 勿論良いとも! ボクの個性はね……”魔術”さ!」

 

「……魔術。それはまた随分と大雑把ですね」

「アッハ! そう言わないでくれ! 説明が難しいんだ! 便宜上そう呼ぶのが最も相応しいのさ!」

 

「……魔術ということは……なんでも出来るということでしょうか?」

「ノン。ボクの個性は魔術であって魔法じゃない。……確かにボクの個性はおそらく万能に近い。だけれど、何でもとはいかないのさ」

 

「……先程私は空き缶を地面に投げたのですが、その際に音がしませんでした。これも貴女の力ですか?」

「ウィ、その通りさ。ボクは幸福な音を取る時に音が漏れないように膜を作るのさ。……ああ! 成程! つまり君は膜の外から内へと缶を投げ込んだことでボクの存在に気がついた訳だ!! 運が良いね! ……うん? いや、この状況を見るとやっぱり運が悪かったのかな? アッハ!」

 

「膜? ……つまり貴女の近くでは音は発生しないと? では何故我々は今話せているのです? 貴女のいう膜というものを解除しているのでしょうか?」

「ノンノン、違うよ。聞こえないのは膜の外だけさ。膜の内側で音が聞こえなかったら幸福な音が取れないじゃないか」

 

 ……成程、理解出来た。

 つまりこの少女の言う膜というのは透明な完全防音の部屋のようなものということか。

 確かにそれならば気付かれる理由は視覚のみに絞られる。

 

 そしてその視覚についても彼女は先程”1キロ以内に人の音はしなかった”と言っていたことから近くに人がいるか認識出来るのだろう。後は防犯カメラ等に気をつけるだけで完璧に殺害を実行出来る。

 証拠の死体は先程私に使ってきた消し飛ばす魔術を使って無くしてしまえば良い。僅かに血液等は残るかも知れないがこのような路地裏、誰も注意深く見ることなどしないだろう。

 

「……なんと」

「……さて、確かにこのままキミにボクの天才性を語り続けるのも悪くは無いけれど……そろそろ終わらせておこうか?」

 

 異形型の個性ではないという事は彼女は容姿相応の歳と見て良いだろう。

 つまり……この幼さでこの狡猾さとこの戦闘能力という訳だ。

 

 そして、何よりも特筆すべき事は──

 

 

「これまで異形型も何人か試して見たけれど……アッハ! キミのような姿は初めてだよ! どんな幸福な音を奏でてくれるのかな!? アッハハハ!! いいアルモニーを奏でてくれよ!?」

 

 このイカれ具合だろう。

 

 黒霧もまだ期間こそ短いが裏で生きる人間として狂った人間は何人も見てきた。

 先生が連れてきた死柄木弔という子供も相当に狂っていたが……この少女は別方向で振り切れて狂っている。

 

 この年で人を殺すことに全く躊躇いがない。いや、先程の殺害していた際の恍惚とした表情を見ると、躊躇いどころか楽しんでいるようにすら見える。

 10歳程にしか見えないこの子供が、だ。

 

 だと言うのに己の個性の事を意気揚々と話す姿は正に年相応の姿だった。

 あれを見て誰が彼女を殺人鬼だと思うだろう? 

 

 

 興味が湧く、と言わざるを得ない。

 何処で生まれてどんな経験をしたらこうなれるというのだろうか? 

 否、そもそも経験程度でどうにかなるものなのだろうか? 

 

「……さて。言い残すことでもあるかな? 本当はこんな事はしないのだけれど。君とのゲームはとても楽しかったからね! 褒美と言うやつさ!」

「フフ……素晴らしい。貴女は本当に素晴らしい」

「……ン? よく分からないな。確かにボクが素晴らしいことは確かだけれど……なんというか、最後の言葉はそれで良いのかな?」

「良いのですよ」

 

 命を握られながらもそんなことを考えられる程度には私には余裕があった。

 

 理由は簡単だ。何故ならばもう

 

「最後には、なりませんからね」

「……?」

「手を離してくれるかな、お嬢さん。

 彼は僕の大切な部下でね。居なくなられると困るんだよ」

 

 悪の帝王(ヒーロー)が既にやってきていたからだ。

 

「……アンシャンテ、ムッシュ。……いつの間にボクの後ろにいたのかな?」

「さっき着いたばかりだよ。君と是非お話がしたくてね。つい急いで来てしまったよ」

 

「……アッハ、降参だよ。どう足掻いても今のボクじゃあキミに勝てる気がしない。

 運が悪いのはやっぱりボクの方だったかな?」

 

 先生を見て何か感じ取るものがあったのだろう。少女はすぐに私を解放して両手を上げて無抵抗の意を示した。

 

「大丈夫かい? 黒霧。遅れてすまないね」

「いえ、助かりました。ありがとうございます。先生」

 

「アッハ! 本当に参ってしまうよ! ムッシュ、一体キミは何者なのかな!?」

「そうだね……強いて言うなら悪の帝王、かな?」

「アハッ! アッハハハ! 冗談に聞こえないよ! 思わず信じてしまいそうだ!」

 

 まるで憧れのヒーローと出会った時のように興奮した様子で先生と話す少女の姿は、やはり無邪気なただの子供にしか見えないだろう。

 

 

 しかし私はこの身を持って経験した。

 彼女の万人が羨む偉大な美しい才華を。

 

「……フフ」

 

 そしてその才華はヒーロー社会を破壊しうる最悪にして最大の災禍になるのだと、私は確信の笑みを零さずにはいられなかった。

 

 

 

 




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