Ace Combat インデペンデンス・デイ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第一話 エルトロ基地の隊長

 

 

…… June 30

 

カルフォルニア州タスティン。

アメリカ合衆国海兵隊エルトロ航空基地。

 

南西、140キロ上空……。

 

 

マクドネル・ダグラス社が開発したF/A-18「ホーネット」はアメリカ合衆国の防空を担う戦闘機としては傑作機だと俺は思う。

 

最高速はマッハ1.7と高いものではないが、高翼面荷重でありながら中低速域での機動性と離着陸能力は高く、既存の防空戦闘機にはないマルチロール機となっているし、コクピットモジュールも従来機から大幅に改善されている。

 

機体設計は1970年としては保守的な面が目立つものの、搭載機器の電子化や自動化も進んでいるし、空母からの発艦は完全に電子制御で行われているほどだ。

 

搭載武装も申し分ない。20mmバルカン砲を固定兵装にし、対空ミサイルにはサイドワインダーをはじめ、AIMシリーズ。

 

空対地ミサイルにはAGM-65マーベリック、AGM-84ハープーン。

 

対レーダーミサイル、さらには爆弾まで装備できる汎用性の高い武装選択が可能だ。

 

ニューイヤーシーズンにパイロットへの転換訓練が実施され,2月ごろに機体が配備。指定空域での空戦訓練などをこなして、エルトロ基地の海兵隊パイロットたちは手足のようにホーネットを操れるようになっていた。

 

 

「スターズ3!ジミー!後ろだ!!」

 

 

ホーネットのコクピットの中。酸素マスク越しに怒声のような声を上げたのはエルトロ基地に設置される防空戦闘機部隊「スターズ小隊」所属のパイロット、スティーブン・ヒラー大尉だ。TACネームは「スターズ2」

 

彼の相棒である「スターズ3」、ジミー・ワイルダー大尉は尻に火がつきそうな勢いで〝仮想敵機〟に追い回されていた。

 

 

「くっそ!全く離れねぇ!!」

 

「口が悪いぞ、スターズ3」

 

「こんな時にまで説教はやめてくださいよ、隊長!!」

 

 

ジミーの駆るホーネットを追うのは、尾翼の一部を白く塗装された同じホーネット。だが動きが全く違うと旋回しながらジミーの援護に入ろうとするスティーブンは思った。

 

必死にハイGターンを繰り返して振り切ろうとするジミーの機体に、その白い塗装を施された隊長機は難なく追従しているのだ。

 

ジミーの腕は悪くない。それは共に訓練や戦闘を乗り越えてきたスティーブンが一番よくわかっていた。

 

だが、そのジミーの腕を持ってしても振り切れない。しかもスティーブンが援護に入ろうとしても絶妙なタイミングで〝ズラされる〟のだ。スティーブンはまたしてもタイミングをズラされ、不満げな声をマスクの中で上げる。

 

その後、数秒も持たずに規定時間内のレーザー照射を受けたジミーは悔しげな声を出しながら訓練飛行エリアから離脱していった。

 

 

「さて、お次は俺の番かな?隊長殿!」

 

「少しは楽しめるかな?」

 

「今日こそアンタを落としますよ!」

 

「ハッハー!返り討ちぃ!!」

 

 

目まぐるしく空戦機動を描くスティーブンの機体と白いホーネット。レーダー照射による遠距離からのミサイル迎撃が主流になる戦闘機の戦いの中で、巴戦〝ドッグファイト〟の訓練など意味をなさないという者もいるが、それはあくまで「遠距離から確実に撃破できる力で相手を撃ち落とせる」という前提があるからだ。

 

その前提が崩されてしまえば何十、何百時間と訓練したパイロットのスキルなど役に立たないし、それだけ時間とコストをかけた育成してきたパイロットを失うことになりかねない。

 

故に、スターズ小隊を率いる隊長はミサイル訓練を4、巴戦を6という割り合いで訓練を行なってきた。お陰で合衆国内でのドッグファイトでエルトロ基地のパイロットの右に出る者はいないと言うほどになっているが。

 

 

「オラオラオラ!!今日こそアンタのそのケツにレーザーをぶち込んでやる!!」

 

「ほんと!!スティーブン!!お前、戦闘機乗ると口悪くなるよな!!」

 

 

制限時間が5分を過ぎたところで攻守が入れ替わり、スティーブンが隊長機を追いかけ始めた。またとないチャンスだ。すでに撃墜された隊のメンバーがレーダー越しに二人の空戦を観戦しており、歓声を上げていた。

 

締め付けられるような高負荷のハイG機動に耐えながらスティーブンはついに念願の隊長機の背中を掴んだ。

 

 

「これで王手だ!!」

 

「ああ、〝俺〟のな」

 

 

次の瞬間、スティーブンは目を見開く。上昇の最中、目の前にいた隊長機がふわりと浮かび上がったように見えた。そして、その光景は現実だと知ると同時に、自分は罠に嵌められたのだと自覚する。

 

低速域の旋回戦に持ち込んだと思っていたのはスティーブンだけ。その旋回戦を隊長機が狙っていたのだ。

 

ふわりと機首を上げた隊長機は一時的なストール状態(コブラ機動)となり、失速。

 

速度が乗ったスティーブンはそのまま隊長機の下を通り抜けた。そしてストールから一気にエンジンを吹かして揚力を取り戻した隊長機は滑るようにスティーブンの背後へと張り付く。

 

ストール・マニューバだ。機体の出力を意図的に切った状態で生じる失速状態からの復帰。そのコンビネーションを活かした空戦機動はもはや絶技の領域だ。

 

呆けているうちにスティーブンは思い出していた。当時、〝大統領の弟というだけで少佐になったボンボン〟と隊の誰もが新たに赴任した隊長、ラリー・L・ホイットモア少佐を馬鹿にしていた頃。

 

彼がなぜ少佐になったのかを面白半分で調べた際に出てきた単語。

 

〝ホワイト・スター(白き流星)〟

 

その異名は隊にいる誰もがあらゆる形で体感した。現にスティーブン自身も。

 

レーダー照射を受け撃墜判定となり、独立記念日の休暇前、最後の飛行訓練はいつも通り隊長の一人勝ちで幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホイットモア隊長!!」

 

 

基地に帰投後、ブリーフィングという反省会を行った後、久々の休暇のために帰宅の準備を進めるメンバーを尻目に、スティーブンは俺に声をかけてきた。

 

 

「スティーブン。帰らないのか?久しぶりの休暇だぞ」

 

「先ほどの機動は見事でした。それだけは伝えたくて」

 

 

差し出された握手に応じながら、スティーブンの真っ直ぐな畏敬の目を受け止める。参ったな、あそこでストール・マニューバをしたのは不味かったかもしれない。

 

俺こと、ラリー・L・ホイットモアはこのエルトロ基地で空軍少佐なんてものをやっている。これでも前世では空自に入ろうとしていたのだが、視力の問題で試験をパスできなかったのだ。だが、この世界での視力は問題なし。兄のパイロット実績もあり、俺は米空軍のパイロットとして過ごしている。

 

兄は湾岸戦争後に退役。その経歴をもとに両親と同じく政治家という道を歩み出し、数年前に最年少の大統領となった。その年に俺もこのエルトロ基地に配属となったのだが……海兵隊のパイロットたちには手を焼いた。

 

特にスティーブン・ヒラー大尉には。

 

良くも悪くも実力主義がモットーな海兵隊から見れば、赴任してきたばかりの俺は大統領の弟という立場を利用したボンボンにしか見えなかったようだ。

 

言うことは聞かない。ブリーフィング中に紙屑を背中に投げつけられるなどなど、アメリカらしい洗礼を笑って受け流していたが、一ヶ月もしないうちに堪忍袋の緒が切れて宇宙の果てに飛んでいってしまった。

 

俺が兄の名だけで少佐という立場に立っているというのは大きな間違いだ。この体は兄の素質と同じなのか……ハイGターンの負荷も物ともしない頑丈な作りをしていて、俺はガンガンハイG機動を展開できる操縦技術を磨きに磨いた。

 

結果、30にもなっていないが空軍少佐という立場になっている。さすがにイラク戦争で敵機5機全てのミサイルを躱してドッグファイトで全機撃墜したのが不味かったのか、勲章授与の際に鉢合わせた兄に「少しは大人しくしていろ」と釘を刺される形でエルトロ基地の小隊長の任を受けたのだった。

 

はっはっはっ!大人しくしろだって?

 

だが断る。

 

シミュレーターではない実機での空戦訓練で俺を馬鹿にしていた隊のメンバー全員を一瞬も触れさせずにボコボコにしたのだが、それで全員の闘争本能に火がついた。

 

翌日、ステゴロの喧嘩から始まってシミュレーターと実機での空戦訓練。中でもスティーブンとジミーがめちゃくちゃ絡んできたが、数日間完膚なきまでにボコったら大人しくなった。

 

そこからまじめに言うことを聞くようになったので、俺流の空戦の秘訣や心得を教えたり、操縦時の機体の癖だったりを教えていたらスティーブン大尉にめちゃくちゃ懐かれてしまったのだった。

 

ちなみに現状は45戦中45勝0敗である。

 

 

「ホーネットの翼面荷重というデメリットをメリットとして活かしたのですね。あの空戦機動は見事の一言でした」

 

 

あの時は俺も内心「なにぃいい!?」ってなってたからね。まさかスティーブンが捻り込みをしてくるとは思ってなかった。彼の操縦センスはピカイチだが、それに輪をかけて最近は頭角を表しているように見える。

 

 

「スティーブンの操縦も見事だった。ジミーとの連携もかなり精度が上がっているしな」

 

「隊長の教導の賜物です」

 

「……ここにきた頃の自分に、お前とジミーがそう言ってくれるぞ、って言ったらすごい顔するだろうな」

 

 

そう言って笑うとスティーブンも笑った。さて、軍としての業務は終わりだ。俺はスティーブンの肩を叩いてさっさと帰るように促す。

 

 

「ジャスミンも待っているんだろう?早く帰って独立記念日のバケーションを楽しんでこい」

 

「はい……隊長は、その……」

 

「なんだ?」

 

「ジャスミンのことは何とも思わないのですか?その……彼女の仕事のこととか」

 

 

申し訳なさそうに言うスティーブン。彼の彼女であるジャスミンの仕事はストリッパーだ。それはエルトロ基地の小隊員のほぼ全員が知っている。そしてスティーブンの夢も。

 

 

「隊長が俺をNASAのスペースシャトルのパイロットに推薦状を書いてくれたのは知っています。ですが……」

 

 

そう、スティーブンの夢はスペースシャトルのパイロットとなって宇宙に飛び立つことだ。俺がエルトロ基地に赴任する前にも、何度もNASAへ志願状を送っていたらしいが、彼の身辺……特に彼女であるジャスミンの職種柄からか、その志願状は跳ね除けられていたらしい。

 

 

「スティーブン。俺はお前のパイロットとしての腕を認めて推薦状を書いた。お前の彼女の仕事なんて気にしていない」

 

「本気ですか?」

 

「宇宙というフロンティアを旅する船のパイロットに求められるのは家柄か?ん?そんなもので宇宙船の操縦桿を握れるなら、宇宙の旅はさぞ退屈なんだろうな」

 

 

そうおどけていうと、スティーブンはおかしそうに笑ってから改まって敬礼を打った。

 

 

「推薦状、感謝いたします。隊長」

 

「あぁ、合格すること願っているよ」

 

「あ、ホイットモア隊長!」

 

 

俺もブリーフィングルームを後にしようとすると、スティーブンが呼び止めてきた。

 

 

「バケーション中にバーベキューをするのですが、隊長もどうですか?」

 

 

そう誘ってきてくれたスティーブンに俺はにこやかに頷く。だが、予定が開くかは未定だ。いつにやるのかは電話で知らせてくれと伝える。

 

 

「隊長もバカンスに行くのですか?」

 

「いや?ファースト・レディ専用のタクシードライバーになるのさ」

 

 

俺の言葉にポカンとした顔をしたスティーブン。後追いの言葉を待たずに俺は端早に帰宅の途に着く。

 

この休暇中は兄であるトーマス・J・ホイットモア大統領から頼まれた仕事がある。

 

妻であるマリリン・ホイットモアの行うロサンゼルスでの講演会。そこへ向かうヘリパイロットの仕事だ。

 

俺は軍服を脱いで自家用車に乗り込む。カーラジオはある電波設備と繋がっている。まだ音は無い。

 

だが、運命の独立記念日は………すぐそこに迫っていた。

 

 

 

 

 

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